説明

下地調整材及びセメント系基材の塗装仕上げ方法

【課題】有機溶剤を用いない下地調整材において、基材の上に施された後における研磨作業性が良好な、水性の下地調整材を提供する。
【解決手段】下地調整材は、基材の上に施されるものである。下地調整材は、(A)高分子エマルジョンと、(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、(C)タルクとを含む。上記(A)高分子エマルジョンは、(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、(A3)水とを混合することで生成される。下地調整材は、上記(A)〜(C)を、常温で混合することで生成される。このようにして生成された下地調整材の粘度は、3Pa・s以上600Pa・s以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地調整材及びセメント系基材の塗装仕上げ方法に関し、特に、セメント系基材などの基材を下地としてその下地表面を調整する下地調整材、並びに、セメント系基材に塗膜を形成することで当該セメント系基材の塗装仕上げを行うセメント系基材の塗装仕上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物において、外壁などを構成する基材を下地にしてその上に塗膜を形成することで、塗装仕上げを行うことがある。塗装仕上げの際、基材の表面を塗膜形成に適した面にするために、下地調整材が基材の上に施されることが多い。
【0003】
下地調整材としては、ポリプロピレンなどの有機ポリマーと、ポリビニルアルコールなどの分散剤と、水とを混合することで得られる高分子系の水性エマルジョン(emulsion;乳濁液)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記高分子系のエマルジョンは、有機溶剤を用いることなく製造することができるため、製造時や、塗装仕上げの際に、周囲の人物に危険が及ぶことがなく安全である。また、この高分子系のエマルジョンは、セメント系基材などの基材への付着力が高いので、下地調整材として好適である。
【特許文献1】特公昭53−002652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した高分子系のエマルジョンは、水性であるため、耐水性が低い。このため、高分子系のエマルジョンの付着力を十分に確保するためには、高分子系のエマルジョンを施す前の基材を十分な時間をかけて乾燥させて(前養生)、基材の含水率を低下させる必要がある。このため、下地調整材を基材の上に施すまでの期間(前養生期間)が長くなる。
【0006】
また、基材(例えばセメント系基材)の美観を高めるために、基材の上に下地調整材を施した後、その下地調整材の表面研磨を行って平滑にすることが求められている。しかし、下地調整材が硬すぎると、研磨紙を用いて研磨しても下地調整材表面がなかなか平滑にならず、研磨作業性が悪い。一方、下地調整材が柔らかすぎると、研磨しても研磨紙に絡みが発生して、研磨作業性が悪い。このように、下地調整材は、セメント系基材の上に施された後における研磨作業性が良好ではなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。
本発明の第1の目的は、有機溶剤が用いられていない下地調整材において、基材の上に施された後における研磨作業性が良好な、水性の下地調整材を提供することにある。
【0008】
また、本発明の第2の目的は、有機溶剤が用いられていない下地調整材を用いても、セメント系基材の美観を高めることができるセメント系基材の塗装仕上げ方法を提供することにある。
【0009】
さらに、本発明の第3の目的は、有機溶剤が用いられておらず且つ水性の下地調整材を用いても、下地調整材を基材の上に施すまでの期間を短くすることができる、セメント系基材の塗装仕上げ方法、及びその下地調整材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1〜第3の目的の少なくとも1つを達成するために、本発明の下地調整材は、(A)(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、(A3)水とを混合して生成される高分子エマルジョンと、(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、(C)タルクとを、常温で混合して生成され、粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)であることを特徴とする。
【0011】
本発明の下地調整材によれば、有機溶剤を用いることなく製造することができる。また、上記(A)高分子エマルジョンにおいて、上記(A1)ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体の平均分子量が3000以上100000以下であり、且つ(A2)分散剤の平均分子量が500以上3000以下であり、また、下地調整材が上記(A)高分子エマルジョン、上記(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョン、及び上記(C)タルクを含むことによって、下地調整材の粘度を上記範囲内にすることができる。下地調整材がこのような粘度の範囲内にあることで、下地調整材を基材の上に施した後の硬化後における下地調整材の表面研磨の作業性(研磨作業性)が高まる。また、基材がセメント系基材である場合には、通常、セメント系基材の表面に不陸やピンホールなどがあるが、本発明の下地調整材をセメント系基材の上に施すことにより、セメント系基材の不陸などを改善してその美観を高めることができる。また、この下地調整材は、耐水性及び付着力が高いため、セメント系基材の含水率が10%を超える状態にて、当該セメント系基材の上に下地調整材を施すことが可能である。このため、セメント系基材を十分に乾燥させる必要がないので、下地調整材をセメント系基材の上に施すまでの期間を短くすることができる。
【0012】
また、係る下地調整材において、前記(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、前記(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤との混合比率(A1:A2)が1:0.1以上1:0.5以下であることが好ましい。これにより、下地調整材の安定性及び耐水性を高めることができる。
【0013】
また、係る下地調整材において、前記高分子エマルジョンは、前記(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、前記(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、前記(A3)水と、(A4)平均分子量が500以上5000以下の石油樹脂とを混合して生成された高分子エマルジョンであることが好ましい。つまり、上記(A)高分子エマルジョンは、石油樹脂をさらに含むことになる。石油樹脂を用いることにより、下地調整材の保存性を高めることができる。
【0014】
また、係る下地調整材において、前記高分子エマルジョンと、前記(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンとの混合比率(A:B)が2:1以上5:1以下であることが好ましい。これにより、下地調整材の耐水性を高めることができる。
【0015】
また、上記第2の目的を達成するために、本発明の第1形態に係る、セメント系基材の塗装仕上げ方法は、セメント系基材の上に、上述した下地調整材を施し、前記下地調整材の上に塗膜を形成することを特徴とする。
【0016】
本発明の第1形態に係るセメント系基材の塗装仕上げ方法によれば、セメント系基材の上に上述した下地調整材が施されるので、セメント系基材の表面に通常ある不陸やピンホールなどを改善してその美観を高めることができる。また、基材のピンホールを下地調整材でうめることができるため、下地調整材などの膨れ発生を防止することができる。
【0017】
また、上記第3の目的を達成するために、本発明の第2形態に係る、セメント系基材の塗装仕上げ方法は、型枠を設置し、前記型枠内に、セメント系基材を流入し、前記型枠を撤去した後、前記セメント系基材の含水率が10%を超える状態にて、当該セメント系基材の上に、上述した下地調整材を施し、前記下地調整材の上に塗膜を形成することを特徴とする。
【0018】
本発明の第2形態に係るセメント系基材の塗装仕上げ方法によれば、セメント系基材の含水率が10%を超える状態において、当該セメント系基材の上に下地調整材を施すことで、セメント系基材を十分に乾燥させる必要がない。このため、下地調整材をセメント系基材の上に施すまでの期間を短くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の下地調整材及びセメント系基材の塗装仕上げ方法によれば、下地調整材の粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下であるので、基材の上に施された後における下地調整材の表面研磨の作業性が高まる。また、基材がセメント系基材である場合には、セメント系基材の不陸やピンホールなどを改善してその美観を高めることができる。また、この下地調整材は、耐水性及び付着力が高いため、セメント系基材を十分に乾燥させる必要がないので、下地調整材をセメント系基材の上に施すまでの期間を短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、有機溶剤が用いられておらず且つ水性の下地調整材の研究を鋭意行った結果、(A)(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、(A3)水とを混合して生成される高分子エマルジョンと、(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、(C)タルクとを、常温で混合して生成され、粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)であると、基材の上に施された後における下地調整材の表面研磨の作業性(以下、「研磨作業性」ともいう)が高まることを見い出した。
【0021】
また、本発明者らは、上記下地調整材を、セメント系基材の上に施すと、セメント系基材の美観を高めることができることを見い出した。さらに、本発明者らは、塗装仕上げの際、上記下地調整材を、セメント系基材の含水率が10%を超える状態にて、当該セメント系基材の上に施すと、下地調整材をセメント系基材の上に施すまでの期間を短くすることができることを見い出した。
【0022】
本発明は、上記研究の結果に基づいてなされたものである。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0023】
まず、本発明の実施の形態に係る下地調整材について説明する。
本実施の形態に係る下地調整材は、建物の外壁などを構成する基材に対して塗装仕上げを行う際、基材の表面を塗膜形成に適した面にするために、基材の上に施されるものである。そして、塗装仕上げは、基材の上に施した下地調整材を下地にしてその上に塗膜を形成することで完了する。なお、塗装仕上げの詳細については後述する。
【0024】
下地調整材は、2段階の工程を経て調製される。2段階の工程は、下地調整材の材料の1つである高分子エマルジョン(以下、分散液Aともいう)を調製する分散液A調製工程と、調製した分散液Aを用いて下地調整材を調製する工程とからなる。
【0025】
まず、分散液A調製工程について説明する。
分散液Aの材料(構成成分)として、有機ポリマーと、水と、有機ポリマーを水に分散させるための分散剤とを用意する。
【0026】
有機ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸ビニル重合体、スチレン重合体、塩化ビニル重合体、ブチラール樹脂、及びエチレン酢酸ビニル重合体からなる群から選択された1種又は2種以上の有機ポリマーが用いられる。なお、本実施の形態では、有機ポリマーの材料として、エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂が用いられることはない。有機ポリマーの数平均分子量は、3000以上100000以下の範囲内にあり、常温で固体である。有機ポリマーの数平均分子量が3000を下回ると、下地調整材の基材への付着性が低下すると共に、下地調整材の耐水性や強度が低下する。一方、数平均分子量が100000を超えると、下地調整材の粘度が高くなりすぎて下地調整材を基材の上に施しにくくなる。
【0027】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA:poly-vinyl alcohol)が用いられる。PVAは、ビニル基に由来する油性の部分(以下、「親油基O」という)と、アルコールの水酸基に由来する、多数の水性の部分(以下、「親水基W」という)とを有する。このため、PVAは、乳化剤として機能する。PVAの数平均分子量が500を下回ったり、3000を上回ったりすると、1分子中に含まれる親水基Wの数と親油基Oの数のバランスが崩れて、乳化剤としての機能が低下する。
【0028】
PVAとしては、親水基の一部をケン化した部分ケン化PVAを用いることが好ましく、より好ましくは、そのケン化度が70%〜98%、特には80%〜97%の部分ケン化PVAである。PVAのケン化度が70%を下回ると、上記有機ポリマーの水に対する溶けやすさ(可溶性)が高すぎて下地調整材の耐水性が低下する。一方、ケン化度が98%を上回ると、上記可溶性が低くなりすぎて下地調整材が水性にならなくなる。なお、ケン化度が98%を上回るようなPVAを製造することは困難である。
【0029】
続いて、上記3つの材料を所定の混合比率で混合することで、有機ポリマーを主な固形分としたエマルジョン(以下、高分子エマルジョンともいう)を生成する。この混合の際、材料に対してせん断力を付与するために、混練機であるニーダー(kneading machine)を使用することが好ましく、より好ましくは、材料を加圧したり加熱したりする。これらにより、材料を均一に混合することができる。
【0030】
上記混合によって、PVAの親油基Oは上記有機ポリマーと馴染み、親水基Wは水と馴染む。この結果、多数の親水基Wが有機ポリマーの表面に配置された状態の粒子が、水に分散されることになる。こうして、水中に油性部分が分散されたO/W(oil in water)型のエマルジョン、つまり水性の高分子エマルジョンが形成される。このように調製された水性のエマルジョンを、本明細書では、「分散液A」と称している。分散液Aは、スラリー(slurry)状態又はペースト状態にある。
【0031】
ここで、混合比率について説明する。
分散剤は、有機ポリマーの質量を100%(1重量部)とすると、10質量%以上50質量%以下の割合で添加される。つまり、有機ポリマーと分散剤の質量比を示す混合比率(有機ポリマー:分散剤)は、1:0.1以上1:0.5以下である。分散剤の添加量が10質量%を下回ると、高分子エマルジョンの安定性が低下する。一方、添加量が50質量%を上回ると、下地調整材の耐水性が低下する。
【0032】
水は、任意の割合で添加される。ただし、混合の際には、少量ずつ添加することが好ましい。これにより、均一な混合物を得ることが容易となる。最終的な水の添加量は、分散液Aにおける固形分量が約50%、例えば48%となるように調整される。なお、固形分量とは、液状成分及び固形分の総質量に対する固形分の総質量の割合(質量%)を示す。
【0033】
ところで、上記分散液Aの調製にあたり、数平均分子量が500以上5000以下の石油樹脂を用意し、これを上記3つの材料とともに混合することが好ましい。石油樹脂としては、例えば、高級オレフィン系炭化水素を主原料とするものを用いることができる。このような石油樹脂は、下地調整材の保存性を高める機能を有する。これは、石油樹脂が有機ポリマーや分散剤の親油基Wと馴染むためであると考えられる。石油樹脂の数平均分子量が500を下回ったり、5000を上回ったりすると、有機ポリマーや分散剤の親油基Wと馴染みにくくなり、下地調整材の保存性を十分に高めることができなくなる。
【0034】
続いて、調製した分散液Aを用いて下地調整材を調製する工程について説明する。
まず、下地調整材の材料(構成成分)として、上記分散液Aと、下記に説明するアクリルエマルジョンと、タルク(Talc)とを用意する。
【0035】
ここでいうアクリルエマルジョンとは、アクリル酸アルキルとスチレンとの共重合体を固形分とする水性のエマルジョン、又はアクリロニトリルとアクリル酸アルキルエステルの共重合体を固形分とする水性のエマルジョンをいう。アクリルエマルジョンとしては、アクリル酸ブチル(アクリル酸アルキルの一例である)とスチレンとの共重合体を固形分量50質量%となるように調製した水性分散液(市販品)が挙げられる。
【0036】
タルクとは、二酸化ケイ素(SiO2)と酸化マグネシウム(MgO)の混晶である含水ケイ酸マグネシウム[Mg3Si410(OH)2]のことをいう。タルクは、二酸化ケイ素を約60質量%含み、酸化マグネシウムを約30質量%含み、且つ結晶水を約4.8質量%含んでいる。本実施の形態では、タルクは、下地調整材を基材の上に施した後の硬化性を高める硬化剤として機能する。また、基材がセメント系基材である場合、タルクは、下地調整材とセメント系基材との親和結合力を高める機能を有する。
【0037】
続いて、上記3つの材料を常温で混合する。これにより、下地調整材が生成される。このようにして得られた下地調整材は、スラリー状態又はペースト状態にある。
【0038】
ここで、混合比率について説明する。
アクリルエマルジョンは、分散液Aの質量を100%(1重量部)とすると、20質量%以上50質量%以下の割合で添加される。つまり、分散液Aとアクリルエマルジョンの質量比を示す混合比率(分散液A:アクリルエマルジョン)は、2:1以上5:1以下である。本実施の形態では、アクリルエマルジョンは、下地調整材の耐水性を高める機能を有している。アクリルエマルジョンの添加量が20質量%を下回ると、下地調整材の耐水性を十分に高めることができなくなる。一方、添加量が50質量%を上回ると、下地調整材におけるアクリルエマルジョンの割合が多くなりすぎて、本実施の形態による下地調整材の機能や特性が十分に発現しなくなる。
【0039】
なお、予め、分散液Aを調製しておくことにより、下地調整材の調製が容易となる。このため、例えば、下地調整材を基材の上に施す施工現場とは離れた場所で、分散液Aの調整を行い、施工現場の近傍において下地調整材の最終調製を行うことも可能である。
【0040】
このようにして得られる下地調整材は、少なくとも、分散液Aの材料(有機ポリマー,分散剤,水)と、アクリルエマルジョンと、タルクとを含有しており、また、必要に応じて石油樹脂をさらに含有していることになる。この下地調整材は、分散剤等を用いることで、有機溶剤を用いることなく製造される。このため、製造時や、後述する塗装仕上げの際に、周囲の人物に危険が及ぶことがなく安全である。
【0041】
次に、下地調整材の性質について説明する。
下地調整材は、O/W型のエマルジョンであるので、水性である。下地調整材における固形分量は、水の量に応じて変わるが、例えば62%である。また、下地調整材は、基材の上に施された後は、水分が徐々に除去されて、硬化し、高強度の皮膜を形成する。
【0042】
また、この下地調整材は、水性であるにも関わらず、皮膜形成後の耐水性が高い。これは、下地調整材調製の際、分散液Aにアクリルエマルジョンを添加することや、下地調整材の粘度の範囲を下記範囲とすることなどによって、達成されるものと考えられる。さらに、この下地調整材は、基材への付着力が高い。これは、下地調整材調製の際、分散液Aにタルクを添加することや、下地調整材の粘度の範囲を下記範囲とすることなどによって、達成されるものと考えられる。これらにより、基材の含水率が高い状態であっても、下地調整材を基材の上に施すことが可能となる。このため、基材を乾燥させる必要がなくなるので、下地調整材を施すまでの期間を短くすることができる。もちろん、基材を乾燥させて、その含水率が低い状態において、基材の上に下地調整材を施してもよい。したがって、基材の含水率に依らずに、下地調整材を基材の上に施すことができる。
【0043】
また、下地調整材の粘度は、3000cps以上600000cps以下(SI単位に換算して、3Pa・s以上600Pa・s以下)である。このような粘度の範囲は、有機ポリマーの数平均分子量などを上述した範囲とし、アクリルエマルジョン及びタルクを添加することなどによって、達成される。下地調整材の粘度が上記範囲内にあると、基材、特にセメント系基材の上に下地調整材を施した後(硬化後)における下地調整材の表面研磨の作業性(研磨作業性)が高まる。なお、下地調整材の粘度が3000cpsを下回ると、基材の上に施した際、垂れやすくなり、厚い皮膜を形成しにくくなる。一方、下地調整材の粘度が600000cpsを上回ると、粘度が高すぎて、基材の上に施しにくくなるだけでなく、研磨作業性が悪化する。
【0044】
そして、下地調整材の表面研磨を行うと、基材がセメント系基材である場合には、セメント系基材の外見(表面の不陸やピンホールなど)が改善されるので、下地調整材だけでも、十分に美観を高めることができる。また、セメント系基材のピンホールを下地調整材でうめることができるため、下地調整材などの膨れ発生を防止することができる。
【0045】
さらには、下地調整材の表面研磨を行うことにより、下地調整材表面の平滑性が高まるので、その上に均一な厚さで塗膜を形成することが容易となり、塗装仕上げが容易となる。また、下地調整材が水性であるので、上塗りで用いる材料(上塗材)が水性であっても良好に馴染む。
【0046】
さらに、下地調整材は、タルクを含む。タルクは、セメント系基材の母材成分である骨材に似た性質を有する。したがって、タルクを用いることで、下地調整材の性質(体質)がセメント系基材の性質(体質)に近づくことになる。その結果、下地調整材とセメント系基材との間で親和結合力が高まる。その結果、下地調整材のセメント系基材への付着力を高めることができる。このため、上塗りの前に基材の上に施すシーラー(sealer)などが不要である。また、タルクは、硬化剤として機能するため、下地調整材の表面に大きな凹凸が発生しにくくなる。このため、下地調整材の表面は、セメント系基材の表面よりも平滑性が高い。また、これにより、下地調整材の表面研磨が容易となる。
【0047】
続いて、上述した下地調整材を用いた、セメント系基材の塗装仕上げについて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る、セメント系基材の塗装仕上げ方法の施工工程(以下、「塗装仕上げ工程」ともいう)を示すフローチャート(工程図)である。本実施の形態では、建物の外壁の下地をセメントコンクリートとする場合について説明する。
【0048】
図1において、まず、設置すべきコンクリートの外周面に沿う内周面を有する型枠を設置する(ステップS10)。続くステップS20では、コンクリートの材料であるセメント系基材、例えば水硬化性セメントの粉末と水の混練物を、流動性が高いうちに、ステップS10で設置した型枠内に流入させる(コンクリート打設)。打設されたコンクリートは、養生(curing)される。この養生の間(前養生期間)、セメント系基材は、水との反応が進行することによって徐々に硬化していく。
【0049】
コンクリート打設後、1〜2週間、例えば1週間が経過して、セメント系基材の硬化が確認され、コンクリートにある程度の硬度が得られたら、型枠を撤去(脱型)する(ステップS30)。脱型直後のセメント系基材の含水率は、通常、14%以上であり、例えば15%である。含水率とは、含水状態にあるセメント系基材の全質量を100%としたときの、水の質量の割合(質量%)をいう。ここで、セメント系基材の表面には、不陸(unevenness)やピンホールなどがあり、表面の平滑性は低い。
【0050】
そして、脱型後において、セメント系基材の含水率が10%を超える状態にて、セメント系基材の上に下塗りを施す(ステップS40)。下塗りの材料(primer)は、上述したように調製した下地調整材である。下塗りの際、下地調整材は、ほぼ均一な厚さとなるように、ローラーやこてなどを用いて、セメント系基材の全表面上に亘って塗布される。ここで、下地調整材の塗布量は、セメント系基材の表面積1m2当たり、固形分の質量で150g〜1200gの範囲内である。
【0051】
続いて、下地調整材の乾燥を行う(ステップS50)。乾燥は、放置による自然乾燥であってもよいし、風乾であってもよい。これにより、下地調整材から水分が徐々に除去されて、下地調整材は、硬化して、セメント系基材の上に皮膜を形成する。この皮膜は、セメント系基材に強固に付着しており、また、強度が高い。乾燥期間は、例えば1日間であり、セメント系基材の含水率が、コンクリート打設後確実に10%以下(例えば8%以下)となる期間、例えば4週間に比較しても十分に短い。つまり、コンクリート打設後4週間が経過する前に、後続の工程(ステップ)を施工することができる。
【0052】
そして、乾燥させた下地調整材の表面を、例えば研磨紙を用いて、研磨する(ステップS60)。表面研磨を施すことにより、下地調整材の表面の平滑性が高まる。なお、上述した下地調整材を用いているので、表面研磨の際、研磨紙に絡みが発生せず、良好に(スムーズに)研磨作業を実施できる。
【0053】
最後に、下地調整材の上に上塗りを施す(ステップS70)。この上塗りの材料(以下、「上塗材」という)は、所望の性状や機能に応じて適宜選択される。例えば、上塗材として、有機溶剤が用いられておらず且つ水性の塗料、例えばフッ素樹脂系塗料を用いる。上塗りの際、上塗材は、ほぼ均一な厚さとなるように、はけ、ローラー、スプレーなどを用いて、下地調整材の上に施される。
【0054】
続いて、上記塗装仕上げ(下塗り及び上塗り)が施されている、建物の外壁について説明する。
図2は、図1の塗装仕上げが施されたセメント系基材の部分拡大断面図である。
【0055】
上述した塗装仕上げ(ステップS40〜S70)を行うことにより、建物の外壁は、図2に示すように、下地であるセメント系基材10と、その上に、上記ステップS40において施された下地調整材20と、さらにその上に上記ステップS70において形成された塗膜としての上塗材30とから構成されることになる。
【0056】
図2に示すように、セメント系基材10の表面には、不陸やピンホールなどがある。これらの不陸などは、下地調整材20によって改善されている。下地調整材20の表面は、上記ステップS60において表面研磨が施されているために、平滑性が高い。上塗材30は、平滑性が高い下地調整材20の表面に形成されるため、塗膜の厚さが薄く、また均一である。
【0057】
上塗材30として、水性の塗料を用いることにより、下地調整材20及び上塗材30の双方が水性となる。このように建物の外壁の下地表面を水性材料で仕上げることを、「オール水系の外壁塗装仕上げ」ともいう。オール水系の外壁塗装仕上げを採用することにより、施工時に有機溶剤が用いられることがないので、施工後にも有機溶剤が残存することもない。このため、環境に負荷を与えることがない点で注目されている。
【0058】
以上詳細に説明したように、本実施の形態による下地調整材によれば、有機ポリマー及び分散剤等を用いることで、有機溶剤が用いられておらず且つ水性の下地調整材が調製される。そして、有機ポリマーの数平均分子量などを上述した範囲とし、アクリルエマルジョン及びタルクを添加することなどによって、下地調整材の粘度が3000cps以上600000cps以下となる。これにより、下地調整材を、基材、特にセメント系基材の上に施した後(硬化後)における下地調整材の表面研磨の作業性が高まる。
【0059】
また、下地調整材調製の際、分散液Aにアクリルエマルジョンを添加することによって、下地調整材の耐水性が高まり、また、タルクを添加することによって、下地調整材の強度や基材への付着力が高まる。これらにより、基材の含水率が高い状態であっても、下地調整材を基材の上に施すことが可能となる。このため、基材を乾燥させる必要がなくなるので、下地調整材を施すまでの期間を短くすることができる。さらに、下地調整材が水性であるので、上塗材が水性であっても良好に馴染む。
【0060】
また、本実施の形態に係るセメント系基材の塗装仕上げ方法によれば、セメント系基材の含水率が10%を超える状態にあっても、セメント系基材の上に下塗りを施すことができるので、セメント系基材の含水率が低下するのを待つ必要がなく、下地調整材をセメント系基材の上に施すまでの期間を短くすることができる。
【0061】
さらに、上記塗装仕上げ方法によれば、下地調整材の表面研磨を行うので、下地調整材の表面の平滑性を高めることができる。これにより、セメント系基材及び下地調整材の不陸やピンホールなどが確実に改善されるので、セメント系基材の美観を高めることができる。また、上塗材の塗膜を均一な厚さで形成することが容易となるため、塗装仕上げが容易となる。また、下地調整材は、耐水性が高いため、セメント系基材の含水率の高さによって、膨れが生じることがない。そのため、平滑性の高い下地調整材の上に施された上塗材にも膨れが生じることがない。
【0062】
なお、上記実施の形態では、下地調整材の分散液Aを調製する際に、分散剤として、PVAを用いたが、PVAに代えて、数平均分子量が500以上3000以下の、カルボキシメチルスチロール、ポリアクリル酸、又はポリアクリル酸アミドなどを用いてもよい。また、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの場合にも、有機ポリマーと分散剤の混合比率(有機ポリマー:分散剤)は、1:0.1以上1:0.5以下である。
【0063】
また、上記実施の形態では、下地調整材の耐水性を高める材料として、アクリルエマルジョンを用いたが、合成ゴムエマルジョンを用いてもよい。この場合にも、分散液Aと合成ゴムエマルジョンの混合比率(分散液A:合成ゴムエマルジョン)は、2:1以上5:1以下である。ここで、合成ゴムエマルジョンとは、合成ゴムを固形分とする水性のエマルジョンをいう。合成ゴムとしては、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR:styrene butadiene rubber),イソプレンゴム(IR:isoprene rubber),ブタジエンゴム(BR:butadiene rubber),クロロプレンゴム(CP:chloroprene rubber,例えば、商品名「ネオプレン(登録商標)」),エチレンとプロピレンの2成分系の共重合体(EPR:ethylene-propylene rubber),エチレンとプロピレンとジエンモノマーの3成分系の3次元共重合体(EPTゴム:ethylene-propylene-diene terpolymer rubber)などが用いられる。
【0064】
上記実施の形態において、上記ステップS40の下塗り工程は、セメント系基材の含水率が14%以上である状態にて行われるとしたが、セメント系基材の含水率が14%を下回った状態にて行われてもよい。
【0065】
また、上記実施の形態において、塗装仕上げの際に、コンクリートの打設を行った(ステップS10〜S30)が、行わなくてもよい。この場合、既設のコンクリートなどのセメント系基材の表面を清掃した後、その上に、下塗り及び上塗り(ステップS40〜S70)が施される。
【0066】
また、塗装仕上げにおける、表面研磨工程(ステップS60)や上塗り工程(ステップS70)を省略してもよい。下地調整材は、少なくとも、コンクリートの不陸やピンホールなどを改善する点で、美観を高めているためである。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について説明する。
本発明者らは、基材の上に施した下地調整材の表面研磨の作業性(研磨作業性)を良好にするために、下地調整材を施した基材の実験片(実施例1〜9,比較例1〜2)を作製し、下地調整材の研究を行った。具体的には、下地調整材に対して試験を行い、その結果から、下地調整材の強度、付着力、耐久性などについて評価するとともに、研磨作業性が良好であるか否かを評価した。
【0068】
(実施例1)
実施例1の試験片を作製するために、まず、分散液Aを調製した。
分散液Aを調製するために、まず、数平均分子量50000のポリエチレン1000gと、数平均分子量3000の高級オレフィン系炭化水素(軟化点100℃)200gと、数平均分子量2000の部分ケン化PVA(ケン化度88%)200gと、水150gとを、ニーダーに投入し、120℃加圧下で30分間、混練した。ポリエチレンとPVAの混合比率(ポリエチレン:PVA)は、1:0.2であった。なお、ポリエチレンは、上記有機ポリマーに相当し、高級オレフィン系炭化水素は上記石油樹脂に相当し、PVAは上記分散剤に相当する。上記混練によって均一な混練物を得た。その後、ニーダーの圧力(内圧)を大気開放して大気圧にした。
【0069】
続いて、95℃にまで温度を下げて、混練物に水200gを添加して、均一な混練物となるように、再び混練した。その後、混練物への水の添加とその後の混練とを繰り返した。そして、添加した水の総量が1500gとなった後の混練で得られた混練物を分散液A(高分子エマルジョン)とした。したがって、分散液Aに含まれる水の総量は1650g(ニーダー投入時150g+総添加量1500g)であった。分散液Aにおける固形分(ポリエチレン,高級オレフィン系炭化水素,PVA)の固形分量は、48%であった。
【0070】
続いて、上記分散液Aの一部を用いて下地調整材を調製した。具体的は、分散液A1000gと、アクリル酸ブチルとスチレンとの共重合体の水性分散液(固形分量50%)500gと、タルク500gとを、常温で混合した。この共重合体としては、アクリル酸ブチルとスチレンのモル比(アクリル酸ブチル:スチレン)は、7:3のものを用いた。分散液Aと共重合体の混合比率(分散液A:共重合体)は、2:1であった。なお、この共重合体は、上記アクリルエマルジョンに相当する。この混合により、下地調整材を得た。実施例1による下地調整材は、固形分量が62%であり、粘度が80000cps(SI単位に換算して、80Pa・s)であった。また、下地調整材の調製の際に、有機溶剤を用いる必要が無かった。
【0071】
そして、上述したように得られた下地調整材103g(固形分64g)を、40cm角(1600cm2)のセメント系基材の上に施し、その後、乾燥させることで、下地調整材付きコンクリート板を作製した。この下地調整材付きコンクリート板を4cm角に切断することにより、下記試験に必要な数の試験片を作製した。なお、各試験片における、下地調整材の塗布量は、セメント系基材の表面積1m2(10000cm2)当たりに換算すると、固形分の質量で400gである。
【0072】
この試験片の強度などについての試験結果を下記表1に示す。
【表1】

【0073】
ここで、表1に示す各種の試験方法について説明する。
接着力試験とは、上記試験片の表面(下地調整材の表面)に4cm角の鋼製のアタッチメントを接着し、続いて、建研式引張試験機を用いて、試験片の基材を固定した状態で、アタッチメントを一定の引張力で、下地調整材の接着方向とは逆の方向に(180°方向に)引っ張ることにより、下地調整材の接着強度を測定することをいう。
【0074】
ここで、備考欄に「基材乾燥状態」と示した接着力試験では、試験片のセメント系基材の含水率が8%以下であったことを示し、同「基材湿潤状態」と示したものでは、同含水率が14%以上であったことを示している。また、備考欄に「鉄板下地」と示したものは、セメント系基材に代わる基材(下地)として鉄板を用いた試験片を用意し、その試験片に対して上記接着力試験を行うことをいう。
【0075】
また、備考欄に「温水浸漬後」と示した接着力試験は、20℃の水への24時間に亘る試験片の浸漬と、60℃の水への24時間に亘る試験片の浸漬とを、交互に10サイクル繰り返した後に、上記接着力試験を行うことをいう。同「冷熱繰り返し後」と示したものは、−20℃の恒温槽(冷環境)への3時間に亘る試験片の投入と、50℃の恒温槽(熱環境)への3時間に亘る試験片の投入とを、交互に10サイクル繰り返した後に、上記接着力試験を行うことをいう。
【0076】
透水性試験とは、日本工業規格(規格番号JIS A 1404)に準拠したものであり、上記試験片に対して、1cm2当たり3kgf(29.7N)の水圧(透水圧)を1時間に亘ってかけた後、その試験片が吸収した水の量(透水量)を測定することをいう。
【0077】
耐アルカリ性試験とは、試験片を、水酸化カルシウムの飽和水溶液(pH13.8)に60日間に亘って浸漬し、試験片に異常がみとめられるか否かを目視により判別することをいう。
【0078】
耐酸性試験とは、試験片を、硫酸の水溶液(pH1)に30日間に亘って浸漬し、試験片に異常がみとめられるか否かを目視により判別することをいう。
【0079】
表1から分かるように、実施例1による下地調整材は、十分な強度と、基材への十分な付着力と、薬品、水、温度、温度変化等に対する十分な耐久性とを有するものであった。
【0080】
特に、セメント系基材が乾燥状態にあっても湿潤状態にあっても、下地調整材のセメント系基材への付着力(付着力試験結果)に大きな差が認められない。したがって、下地調整材の付着力は、セメント系基材の含水率の高さに依らないことが分かった。このため、下塗りの際、下地調整材を、セメント系基材の含水率が14%以上である状態にて、セメント系基材の上へ施しても、皮膜形成に問題がないことが容易に推察された。このため、実際に、セメント系基材の含水率が14%以上である状態にて、下地調整材をセメント系基材の上へ施したところ、皮膜が問題なく形成されることが確認された。
【0081】
実施例1による下地調整材の付着力が高い理由は、下地調整材にタルクを含ませたことにより、下地調整材の性質(体質)がセメント系基材の成分(骨材など)の性質に近づいたため、下地調整材とセメント系基材との間で親和結合力が高まったからであると考えられる。また、実施例1による下地調整材は、水性であるにも関わらず、耐水性が高い理由としては、下地調整材にアクリルエマルジョンを含ませたことが一因として考えられる。
【0082】
続いて、上記実施例1の試験片の表面(下地調整材の表面)を研磨した。表面研磨の際における研磨作業性は、非常に良好であった。そして、下地調整材の上に上塗材を施した。上塗材としては、水性のフッ素樹脂系塗料を用いた。フッ素樹脂系塗料の下地調整材への付着力は良好であった。これは、下地調整材が上塗材と同じ水性であるためであると考えられる。また、この上塗りが施されている試験片において、セメント系基材の含水率を変更しても、下地調整材や上塗材に膨れが発生することがなかった。この理由は、下地調整材の耐水性(透水性試験の結果)が優れているためであると考えられる。さらに、上塗材の塗布の際に有機溶剤を用いる必要が無かった。したがって、上塗材の塗布までの間に、有機溶剤を用いる必要がなかった。
【0083】
(実施例2)
有機ポリマーとして、実施例1のポリエチレンに代えて、数平均分子量20000のポリプロピレンを用いて分散液Aを調製した他は、実施例1と同様に実施例2の試験片を作製した。実施例2の試験片の試験結果も、実施例1の試験片の試験結果と同等であった。したがって、実施例2による下地調整材も、実施例1の下地調整材と同等の強度、付着力、及び耐久性を有することが分かった。また、この試験片においても研磨作業性は非常に良好であった。
【0084】
(実施例3)
有機ポリマーとして、実施例1のポリエチレンに代えて、数平均分子量3000の酢酸ビニル重合体を用いて分散液Aを調製した他は、実施例1と同様に実施例3の試験片を作製した。実施例3の試験片の試験結果も、実施例1の試験片の試験結果と同等であった。したがって、実施例3による下地調整材も、実施例1の下地調整材と同等の強度、付着力、及び耐久性を有することが分かった。また、この試験片においても研磨作業性は非常に良好であった。
【0085】
(実施例4)
有機ポリマーとして、実施例1のポリエチレンに代えて、数平均分子量4000のスチレン重合体を用いて分散液Aを調製した他は、実施例1と同様に実施例4の試験片を作製した。実施例4の試験片の試験結果も、実施例1の試験片の試験結果と同等であった。したがって、実施例4による下地調整材も、実施例1の下地調整材と同等の強度、付着力、及び耐久性を有することが分かった。また、この試験片においても研磨作業性は非常に良好であった。
【0086】
(実施例5)
有機ポリマーとして、実施例1のポリエチレンに代えて、数平均分子量10000の塩化ビニル重合体を用いて分散液Aを調製した他は、実施例1と同様に実施例5の試験片を作製した。実施例5の試験片の試験結果も、実施例1の試験片の試験結果と同等であった。したがって、実施例5による下地調整材も、実施例1の下地調整材と同等の強度、付着力、及び耐久性を有することが分かった。また、この試験片においても研磨作業性は非常に良好であった。
【0087】
(実施例6)
有機ポリマーとして、実施例1のポリエチレンに代えて、数平均分子量32000のブチラール樹脂を用いて分散液Aを調製した他は、実施例1と同様に実施例6の試験片を作製した。実施例6の試験片の試験結果も、実施例1の試験片の試験結果と同等であった。したがって、実施例6による下地調整材も、実施例1の下地調整材と同等の強度、付着力、及び耐久性を有することが分かった。また、この試験片においても研磨作業性は非常に良好であった。
【0088】
(実施例7)
有機ポリマーとして、実施例1のポリエチレンに代えて、数平均分子量14000のエチレン酢酸ビニル重合体を用いて分散液Aを調製した他は、実施例1と同様に実施例7の試験片を作製した。実施例7の試験片の試験結果も、実施例1の試験片の試験結果と同等であった。したがって、実施例7による下地調整材も、実施例1の下地調整材と同等の強度、付着力、及び耐久性を有することが分かった。また、この試験片においても研磨作業性は非常に良好であった。
【0089】
(実施例8)
実施例1のアクリルエマルジョンに代えて、合成ゴムエマルジョンを用いて下地調整材を調製した他は、実施例1と同様に実施例8の試験片を作製した。合成ゴムエマルジョンの合成ゴムとしては、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)を用いた。実施例8の試験片の試験結果も、実施例1の試験片の試験結果と同等であった。したがって、実施例8による下地調整材も、実施例1の下地調整材と同等の強度、付着力、及び耐久性を有することが分かった。また、この試験片においても研磨作業性は非常に良好であった。
【0090】
(実施例9)
分散液Aを調製する際に石油樹脂を用いないで、下地調整材を調製した他は、実施例1と同様に実施例9の試験片を作製した。実施例9の試験片の試験結果も、実施例1の試験片の試験結果と同等であった。したがって、実施例9による下地調整材も、実施例1の下地調整材と同等の強度、付着力、及び耐久性を有することが分かった。また、この試験片においても研磨作業性は非常に良好であった。
【0091】
ただし、分散液Aを長期間(6か月間)に亘って放置すると、分散液Aにおける有機ポリマーの水への分散状態、つまり高分子エマルジョンの安定性が悪化することが確認された。これは、石油樹脂が有機ポリマーや分散剤の親油基Wと馴染むためであると考えられる。したがって、石油樹脂を用いない場合、分散液Aの保存性が良好ではなくなると云える。実施例1と実施例9とを比較すれば分かるように、石油樹脂を用いることにより、高分子エマルジョンの安定性を高めて、分散液Aの保存性を高めることができる。
【0092】
(比較例1)
実施例1による下地調整材の調製に用いた分散液A(固形分量48%)を下地調整材として、比較例1の実験片を作製した。この下地調整材の粘度は、2000cps(2Pa・s)であった。
【0093】
続いて、上記比較例1の試験片の表面を研磨した。この際、セメント系基材と下地調整材の間で界面破壊が発生したため、表面研磨を中止した。このように、界面破壊が発生した理由としては、アクリルエマルジョンやタルクを用いなかったため、及び/又は、下地調整材の粘度が低すぎたために、下地調整材のセメント系基材への付着力が良好ではなかったからであると考えられる。
【0094】
(比較例2)
下地調整材として、エポキシ系樹脂の下地調整材(市販品)を用いて、比較例2の実験片を作製した。この下地調整材には、有機溶剤が含まれており、さらに、硬化剤としてアミン系化合物が用いられている。このため、試験片作製の際、有機溶剤による溶剤臭やアミン系化合物によるアンモニア臭のために、健康上及び環境上、問題があった。そして、比較例2の試験片について、実施例1と同一の方法で接着力試験を行ったところ、セメント系基材と下地調整材の間での界面破壊や下地調整材の凝集破壊が発生した。このため、比較例2による下地調整材は、実施例1による下地調整材よりも付着力や強度が小さいことが分かった。これは、残留溶剤の影響によって、下地調整材の硬化不良が起こったためと考えらえる。
【0095】
続いて、比較例1の試験片の表面(下地調整材の表面)上に、上塗材を施した。上塗材としては、実施例1で用いた水性のフッ素樹脂系塗料と同じ塗料を用いた。しかし、残留溶剤の影響で、塗膜(上塗材)の膨れや剥離が確認された。したがって、比較例2の試験片では、塗膜や下地調整材の耐久性が、実施例1の試験片よりも低いと云える。
【0096】
また、他の実験片も多数作製した。
これらの結果、セメント系基材の上に施した下地調整材の表面研磨の作業性(研磨作業性)を良好にするためには、分散液Aにおいて、有機ポリマーとして、数平均分子量が3000以上100000以下であるものを用い、且つ、分散剤として、数平均分子量が500以上3000以下であるものを用い、さらに、この分散液Aにアクリルエマルジョン及びタルクを添加して、常温で混合することで下地調整材を生成すると、下地調整材の強度が十分に高く、また、下地調整材のセメント系基材への付着力が十分に高く、さらには、下地調整材の耐久性が十分に高くなることが分かった。そして、このように表面研磨の作業性が良好な下地調整材の粘度が、3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)の範囲内にあることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施の形態に係る、セメント系基材の塗装仕上げ方法の施工工程を示すフローチャートである。
【図2】図1の塗装仕上げ(下塗り及び上塗り)が施されたセメント系基材の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0098】
10 セメント系基材(コンクリート)
20 下地調整材
30 上塗材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、
(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
(A3)水と、
を混合して生成される高分子エマルジョンと、
(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、
(C)タルク
とを、常温で混合して生成され、
粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)であることを特徴とする下地調整材。
【請求項2】
前記(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、
前記(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
の混合比率が1:0.1以上1:0.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の下地調整材。
【請求項3】
前記高分子エマルジョンは、
前記(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、
前記(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
前記(A3)水と、
(A4)平均分子量が500以上5000以下の石油樹脂と、
を混合して生成された高分子エマルジョンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の下地調整材。
【請求項4】
前記高分子エマルジョンと、
前記(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、
の混合比率が2:1以上5:1以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の下地調整材。
【請求項5】
セメント系基材の上に、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の下地調整材を施し、
前記下地調整材の上に塗膜を形成することを特徴とするセメント系基材の塗装仕上げ方法。
【請求項6】
型枠を設置し、
前記型枠内に、セメント系基材を流入し、
前記型枠を撤去した後、前記セメント系基材の含水率が10%を超える状態にて、
当該セメント系基材の上に、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の下地調整材を施し、
前記下地調整材の上に塗膜を形成することを特徴とするセメント系基材の塗装仕上げ方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−149767(P2009−149767A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329054(P2007−329054)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(391051614)成瀬化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】