説明

下塗り液、下塗り層、及びインクジェット記録方法

【課題】基材に対して密着性が高く、また該基材と着色層の双方に対して密着性の高い下塗り層を形成可能な、活性エネルギー線照射により硬化される下塗り液を提供する。
【解決手段】基材表面上に下塗り層(D)を形成するための、少なくともエチレン性不飽和基を有する化合物(A)と光重合開始剤(B)とが含まれる、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)であって、前記エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)中に少なくともフェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%含まれていることを特徴とする下塗り液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下塗り液、下塗り層、及びインクジェット記録方法に関し、詳しくは、基材表面上に下塗り層を形成するための、活性エネルギー線照射により硬化される下塗り液、該下塗り液により基材表面に形成される下塗り層、及び該下塗り層上に活性エネルギー線硬化型着色液をインクジェット方式により付着して硬化させるインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット印刷は、高速で良好な画像が得られ、用途も広いことから好適な印刷方法として普及しつつある。しかし、普通紙等のインク吸水性記録媒体(以下、吸水性基材ということがある)、又はプラスチック等のインク非吸水性記録媒体(以下、非吸水性基材ということがある)にインクジェットプリンタにより、直接インクを打滴して印字する場合、定着性が基材の種類により異なるため、密着性が不足する場合がある。種々の基材の中でも、非吸収性基材を使用する場合には、画像の滲み等の問題の他に、非吸収性基材に形成された画像の剥離、擦過性等の問題が存在していた。
基材へのインク密着性を向上する手段として、基材にコロナ処理、火炎処理等を施すことは可能であるが、実際のインクジェット印刷操作が行われる現場においてこれらの前処理を行う設備は整っていないのが実情である。このような問題点を解決するために、透明又は半透明基材上に白色顔料を含有する放射線硬化性インクを塗設後、白色顔料塗設部の少なくとも一部の上に白色以外の色材を含む放射線硬化性インクを塗設する技術が提案され、該放射線硬化性インク中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であり、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物として、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態をもつものが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2には、非吸収性基材上に形成可能なラジカル重合性化合物、光重合開始剤、及び特定の増感剤を含有する下塗り液と、ラジカル重合性化合物、光重合開始剤、及び着色剤を含有する着色液とからなるインクジェット記録用インクセットが開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された方法では、使用可能なラジカル重合性化合物が例示されているのみであり、基材との密着性向上が可能な好ましいラジカル重合性化合物の組み合わせ等については記載されていない。特許文献2には、下塗り液に使用する増感剤については詳述されているが、ラジカル重合性化合物については使用可能な種々のモノマーが例示されているのみで、非吸収性基材を使用する場合に定着性向上が可能な下塗り液の組成を教示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−145745号公報
【特許文献2】特開2009−083272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、普通紙等の吸水性基材、又はプラスチック等の非吸水性基材を記録媒体として使用する場合に、該基材に対して密着性が高く、また該基材と着色層の双方に対して密着性の高い下塗り層を形成可能な、活性エネルギー線照射により硬化される下塗り液、該下塗り液により基材表面に形成される下塗り層、及び該下塗り層上に活性エネルギー線硬化型着色液をインクジェット方式により付着して硬化させるインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点を鑑み、下塗り液中のエチレン性不飽和基を有する化合物として、少なくともフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレートからなる3成分を一定割合使用することにより、予め表面処理することなく、基材として非吸収性基材を使用した場合にも基材と下塗り層との密着性(剥離強度)の向上が可能になり、また、着色液としてターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化型着色液を使用することにより、下塗り層上に形成した着色層の密着性(剥離強度)を向上させることが可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、以下の(1)〜(8)に記載する発明を要旨とする。
(1)基材(K)表面上に下塗り層(D)を形成するための、少なくともエチレン性不飽和基を有する化合物(A)と光重合開始剤(B)とが含まれる、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)であって、
前記エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)中に少なくともフェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%含まれていることを特徴とする下塗り液(以下、第1の態様ということがある)。
【0008】
(2)エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)中に少なくとも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%と、光重合開始剤(B)とが含まれる活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)を基材(K)の表面に塗布後、活性エネルギー線を照射して該下塗り液(C)を硬化して形成された下塗り層(以下、第2の態様ということがある)。
(3)前記基材(K)が非吸収性基材であることを特徴とする前記(2)に記載の下塗り層。
(4)前記下塗り層(D)の厚みが1〜30μmであることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の下塗り層。
(5)前記下塗り層(D)のガラス転移温度(Tg)(剛体振り子型物性試験機を用いた対数減衰率の測定に基づくガラス転移温度)が0〜10℃であることを特徴とする前記(2)から(4)のいずれかに記載の下塗り層。
【0009】
(6)前記下塗り層(D)の粘着性の最大値(表面性試験器(タック性ロールユニット、新東科学(株)製、トライボギア TYPE:HEIDON(登録商標)−14DR)を使用して、温度25℃、相対湿度50%、ロールの移動速度50mm/min、荷重750gfでの測定条件における、1回の測定での転がり抵抗の振れ幅の最大値)が、50〜80gfであることを特徴とする前記(2)から(5)のいずれかに記載の下塗り層。
(7)前記下塗り層(D)と基材(K)間の剥離強度が15kgf/cm以上であることを特徴とする前記(2)から(6)のいずれかに記載の下塗り層。
(8)エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)中に少なくとも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%と、光重合開始剤(B)とが含まる活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)を基材(K)の表面上に塗布する工程(工程1)と、
前記基材(K)表面上に塗布された下塗り液(C)に活性エネルギー線を照射して硬化させて下塗り層(D)を形成する工程(工程2)と、
前記下塗り層(D)上に、少なくともエチレン性不飽和基を有する化合物(E)としてターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(F)が20〜40質量%、着色剤(H)が0.5〜25質量%、及び光重合開始剤(G)が含まれる活性エネルギー線硬化型着色液(I)をインクジェット方式により付着させる工程(工程3)と、
前記下塗り層(D)上に付着された活性エネルギー線硬化型着色液(I)に活性エネルギー線を照射して硬化させることにより着色層(J)を形成する工程(工程4)、
を含むことを特徴とするインクジェット記録方法(以下、第3の態様ということがある)。
尚、本明細書における「(メタ)アクリル」の記載は、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を意味する。
【発明の効果】
【0010】
活性エネルギー線を照射して下塗り液(C)(第1の態様)を硬化して形成された下塗り層(D)(第2の態様)は、塗布する基材(K)の前処理が不要であり、かつ熱硬化性プラスチック、熱可塑性プラスチック、セラミック、ガラス、金属板等の非吸収性基材、特に好ましくはポリカーボネート板、ポリスチレン板等、及び吸収性基材との密着性にも優れるものである。
また、該下塗り層(D)(第2の態様)上に活性エネルギー線硬化型着色液(I)を付着後、該着色液(I)を活性エネルギー線を照射して硬化するインクジェット記録方法(第3の態様)により形成された着色層(J)は、更に下塗り層(D)との密着性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、〔1〕下塗り液(第1の態様)、〔2〕下塗り層(第2の態様)、及び〔3〕インクジェット記録方法(第3の態様)について説明する。
〔1〕下塗り液(第1の態様)
本発明の第1の態様の「下塗り液」は、基材表面上に下塗り層(D)を形成するための、少なくともエチレン性不飽和基を有する化合物(A)と光重合開始剤(B)とが含まれる、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)であって、
前記エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、下塗り液(C)中に少なくともフェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%含まれていることを特徴とする。
【0012】
(1)エチレン性不飽和基を有する化合物(A)
本発明の下塗り液(C)における、活性エネルギー線で硬化するエチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、前記効果を発揮するためには、少なくともフェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が必須成分として一定割合含まれる必要がある。
(イ)フェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)
フェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)は、下塗り液(C)の成分として、硬化後にポリカーボネート等の非吸収性基材との密着性を向上する作用を発揮する。かかる観点からフェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)は、下塗り液(C)中に40〜80質量%、好ましくは50〜70質量%含有されるように配合する。尚、本願のフェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)は、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、置換基を含有するフェノキシエチル(メタ)アクリレートおよび、それぞれ変性されたものでもよい。具体的にはフェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートEO変性、フェノキシエチル(メタ)アクリレートPO変性、メチルフェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−テトラブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェノキシエチル(メタ)アクリレート、メチルフェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ここで、「EO変性」とはエチレンオキシドユニット(−CH−CH−O−)のブロック構造を有することを意味し、「PO変性」とはプロピレンオキシドユニット(−CH−CH(CH)−O−)のブロック構造を有することを意味する。
【0013】
(ロ)ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)
ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)は、単官能モノマーであり、下塗り液(C)の成分として硬化後に着色層(J)との密着性を向上する作用を有する。かかる観点からターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)は、下塗り液(C)中に5〜30質量%、好ましくは10〜20質量%含有されるように配合する。ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)としては、ターシャリーブチルシクロヘキシルアクリレート及びターシャリーブチルシクロヘキシルメタクリレートが例示できる。また、シクロヘキシル基に結合しているターシャリーブチル基は、特に制限されるものではないが製造の容易性から4−ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0014】
(ハ)2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)
2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)は、下塗り液(C)の成分として硬化後に粘着性(タック性)を発揮して密着性を向上する作用を有するオリゴマーである。
本発明に用いられる2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)は、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)は下塗り液(C)中で1〜15質量%、好ましくは3〜10質量%の割合となるように配合される。
市場で入手し得る2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)としては、例えば、日本合成化学(株)製、商品名「紫光UV−3000B」、(以下、冠名を省略する。)「UV−3200B」、「UV−3201B」、「UV−3310B」、「UV−3500B」、「UV−3520TL」、「UV−3700B」、「UV−6100B」、「UV−6640B」、「UV−2000B」、「UV−2250EA」、「UV−2750B」;東亞合成(株)製 商品名「アロニックス M1100」、(以下、冠名を省略する。)「M1200」、「M1600」;ダイセルサイテック(株)製 商品名「EBECRYL230」、(以下、冠名を省略する。)「244」、「245」、「270」、「284」、「285」、「8401」、「9270」;巴工業(株)販売、サートマー社製 商品名「CN961E75」、「CN961H81」、「CN962」、「CN963」、「CN963A80」、「CN963B80」、「CN963E75」、「CN963E80」、「CN963J85」、「CN964」、「CN964E75」、「CN964A85」、「CN965」、「CN965A80」、「CN966A80」、「CN966J75」、「CN968」、「CN980」、「CN981」、「CN982」、「CN983」、「CN996」、「CN9001」、「CN9002」、「CN9788」、「CN9893」等が挙げられる。
【0015】
(ニ)他のエチレン性不飽和基を有する化合物
本発明の下塗り液(C)の目的と効果を損なわない範囲で他のエチレン性不飽和基を有する化合物として、通常使用されているヘテロ環式モノマー、芳香族単官能アクリレートおよび多官能アクリレート等を配合して使用することができる。ヘテロ環式モノマーは、例えば、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン、N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等を使用することができる。ヘテロ環式モノマーは、一般に合成樹脂板等の基材に対して侵食性を有し、基材と下塗り層の密着性を向上させることができる。芳香族単官能(メタ)アクリレートとしては、例えばベンジル(メタ)アクリレート、トリロキシエチル(メタ)アクリレート、トリロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリロキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、(メタ)アクリロイロキシエチルヒドロキシフタレート、(メタ)アクリロイロキシプロピルフタレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールベンゾエート(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、p−クミルフェニル(メタ)アクリレート、o−フェニルフェニル(メタ)アクリレート、m−フェニルフェニル(メタ)アクリレート、p−フェニルフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が例示されるが、特にベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましい。芳香族単官能(メタ)アクリレートは、各種基材への密着性に優れるが、硬化性には劣る。
【0016】
多官能(メタ)アクリレートとしては、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が例示される。多官能(メタ)アクリレートは、優れた硬化性と塗膜強度が得られるが、ヘテロ環式モノマーや芳香族単官能(メタ)アクリレートに比べると、硬化時の収縮が比較的大きいために配合量を多くすると基材への密着性を阻害するおそれがある。
他のエチレン性不飽和基を有する化合物の具体例としては、トリデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート等を配合することができる。このような成分は、硬化後の塗膜が低Tgのため、粘着性(タック性)が向上して、密着性が向上し、低温・高温でも塗膜が柔らかいため割れを抑制する。前記他のエチレン性不飽和基を有する化合物からなる成分は、下塗り液(C)中で20質量%以下の割合となるように配合することが望ましく、20質量%を超えて配合された場合、硬化が不十分となるおそれがある。
【0017】
(2)光重合開始剤(B)
本発明の下塗り液(C)に使用する光重合開始剤(B)は、電子線、紫外線、赤外線等の活性エネルギー線を受けて、ラジカルを発生し、前記エチレン性不飽和基を有する化合物(A)の重合の開始剤となりうるものである。光重合開始剤(B)としては、アシルフォスフィンオキサイド、α−ヒドロキシケトン、α−アミノアルキルフェノン、オキシムエステル等を使用することができる。前記アシルフォスフィンオキサイドとして、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−フォスフィンオキサイド(イルガキュア 819、BASF社製)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(Lucirin TPO:BASF社製)等が例示されるが、これらの中でも2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(Lucirin TPO:BASF社製)が好ましい。
【0018】
α−ヒドロキシケトンとしては、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルーフェニルケトン(イルガキュア 184、BASF社製)、2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル〕−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(イルガキュア 127、BASF社製)、2−ヒドロキシ−4′−ヒドロキシエトキシ−2−メチルプロピオフェノン(イルガキュア2959、BASF社製)、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン](Esacure one、ランベルティ社製)が好ましい。α−アミノアルキルフェノンとしては、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(イルガキュア369、BASF社製)が好ましい。
また、オキシムエステルとしては、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(o−アセチルオキシム)が好ましい。
【0019】
前記Lucirin TPOやイルガキュア 127は、酸素による重合阻害を発生し難いために、インクジェットで形成された薄膜の硬化性に特に有効である。また、前記Lucirin TPO、イルガキュア2959、及びイルガキュア 369は内部硬化性に優れているため、厚膜での硬化性に特に有効である。Lucirin TPOは活性エネルギー線に高感度で反応する。また、アシルフォスフィンオキサイド、α−ヒドロキシケトン、及びα−アミノアルキルフェノンを組み合わせて使用することにより、薄膜と厚膜両方の硬化性に優れ、活性エネルギー線に対して高感度かつ短時間で硬化させることができる。
光重合開始剤(B)の添加量は、下塗り液(C)中で好ましくは3〜15質量%であり、この範囲外であると硬化性が低下するおそれがある。
【0020】
(3)添加剤
本発明の下塗り液(C)には、前記成分の他に可塑剤、非感放射性樹脂、溶剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤等の種々の添加剤を配合することができる。また、色材を入れてもよく、有機・無機微粒子、シリカ、酸化チタン、アルミペースト、マイカ、パール顔料なども配合することができる。
(4)下塗り液(C)の調製
本発明の下塗り液(C)は、前記配合成分をサンドミル等の通常の分散機を用いてよく分散することにより調製される。下塗り液(C)は、孔径3μm以下、更には1μm以下のフィルターにて濾過することが好ましい。
【0021】
〔2〕下塗り層(第2の態様)
本発明の「下塗り層(D)(第2の態様)」は、エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)中に少なくとも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%と、光重合開始剤(B)とが含まれる活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)を基材(K)の表面に塗布後、活性エネルギー線を照射して該下塗り液(C)を硬化して形成されることを特徴とする。
基材(K)上に着色層(J)を形成する際に、該着色層(J)との密着性を向上するために、予め基材(K)上にプライマー層としての下塗り層(D)を形成しておき、該下塗り層(D)上に着色層(J)を形成することにより密着性の向上を図るものである。
【0022】
(1)エチレン性不飽和基を有する化合物(A)、光重合開始剤(B)
エチレン性不飽和基を有する化合物(A)と、光重合開始剤(B)については、前記「下塗り液(第1の態様)」における記載内容と同様である。
(2)基材(K)
下塗り層(D)を形成する際に使用する基材(K)は特に制限されるものではなく、吸収性基材又は非吸収性基材のいずれも使用することができる。吸収性基材としては、更紙、中質紙、上質紙、非塗工紙、コート紙、アート紙等が例示でき、非吸収性基材としてはポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、セラミック、ガラス、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系合成紙、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、金属、金属箔コート紙等が例示できるがこれらに限定されるものはない。
【0023】
(3)下塗り液(C)の塗布方法
基材(K)への下塗り液(C)の塗布方法は特に限定されないが、実用上、スプレー法、コーター法、インクジェット法、グラビア法、フレキソ法等から選択された1種または2種以上であることが好ましい。また、抄紙機に付属の塗工装置で下塗り液(C)を塗布することもできる。これらの塗布方法の中でもインクジェット法が下塗り液(C)を必要量のみ塗布できるためより好ましい。下塗り液(C)の基材(K)への塗布方法として上記方法等を採用後、活性エネルギー線の照射で硬化させることにより、基材(K)上の着色液(I)を付着(又は印刷等)する箇所に予め下塗り層(D)を形成することが可能になる。
【0024】
(4)活性エネルギー線照射による下塗り液(C)の硬化
活性エネルギー線の光源としては、紫外線を照射する場合には、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、および太陽光を使用することができる。電子線により硬化させる場合には、通常300eV以下のエネルギーの電子線で硬化させるが、1〜5Mradの照射量で瞬時に硬化させることも可能である。
【0025】
(5)下塗り層(D)
下塗り液(C)を基材(K)の表面に塗布後、活性エネルギー線を照射して該下塗り液(C)を硬化して形成される下塗り層(D)は、下記(i)から(iii)に記載する形状、物性を有することが好ましい。
(i)下塗り層(D)の厚み
下塗り層(D)の厚みは1〜30μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましい。下塗り層(D)の厚みが1μm未満では下塗り層(D)の上に形成される着色層(J)の基材(K)への密着性が不十分になるおそれがある。一方、厚みが30μmを超えると下塗り層(D)にひび割れや傷が入るおそれがある。
該下塗り層(D)の厚みは、基材(K)上への下塗り液(C)の塗布量により制御することができる。
(ii)下塗り層(D)のガラス転移温度(Tg)
下塗り層(D)のガラス転移温度(Tg)(剛体振り子型物性試験機を用いた対数減衰率の測定に基づくガラス転移温度)は、0〜10℃であることが好ましい。
下塗り層(D)のガラス転移温度(Tg)が0℃未満では下塗り層(D)の粘着性(タック性)が強すぎて下塗り層(D)を形成した基材の扱いが困難となり、一方、10℃を超えると低温試験での密着性が不十分となる。下塗り層(D)のガラス転移温度(Tg)は使用するエチレン性不飽和基を有する化合物(A)等の選択により、調整することが可能である。
尚、上記ガラス転移温度(Tg)は、剛体振り子型物性試験機((株)エー・アンド・デイ製、型式:RPT−3000W)により、−30〜+30℃までの対数減衰率を測定し、得られた測定値からガラス転移温度を算出することができる。
【0026】
(iii)下塗り層(D)の粘着性(タック性)
下塗り層(D)の粘着性(タック性)は、表面性試験器(タック性ロールユニット、新東科学(株)製、トライボギア TYPE:HEIDON(登録商標)−14DR、ロールの材質:SUS303製で、ロールサイズ:直径3cm、幅2cm、ロール表面はハードクロムメッキ加工されている。)を使用して転がり抵抗の振れ幅の最大値により評価することができる。
測定条件を、温度25℃、相対湿度50%、ロールの移動速度50mm/min、荷重750gfとした場合の粘着性の最大値(1回の測定での転がり抵抗の振れ幅の最大値)は、50〜80gfであることが好ましい。
粘着性測定値の最大値が50gf未満では下塗り層(D)の上に形成される着色層(J)と基材(K)との密着性が不十分になるという不都合を生じるおそれがあり、一方、80gfを超えると粘着性(タック性)が高くなり下塗り層(D)を形成した基材(K)の扱いが困難となるおそれがある。
尚、下塗り層(D)の粘着性は使用するエチレン性不飽和基を有する化合物(A)等の選択により調整することが可能である。
(iv)下塗り層(D)の剥離強度
基材(K)と下塗り層(D)間の剥離強度は、引張りせん断強度の測定値から、張り合わされた面積で除して得られる剥離強度の測定により、評価することが可能である。
基材(K)と下塗り層(D)の剥離強度は、15kgf/cm以上であることが好ましい。
該剥離強度が15kgf/cmで未満では、着色層(J)と下塗り層(D)の密着性が不十分になるおそれがある。
基材(K)と下塗り層(D)の剥離強度は、15kgf/cm以上が好ましい。該剥離強度が15kgf/cmで未満では、着色層(J)と下塗り層(D)の密着性が不十分になるおそれがある。尚、該剥離強度は一般に70kgf/cm以下が好ましい、該剥離強度が70kgf/cmを超えると下塗り層(D)を形成した基材(K)の扱いが困難となるおそれがある。
下塗り層(D)の剥離強度は使用するエチレン性不飽和基を有する化合物(A)等の選択により、調整することが可能である。
【0027】
〔3〕インクジェット記録方法(第3の態様)
本発明の第3の態様である「インクジェット記録方法」は、エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)中に少なくとも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%と、光重合開始剤(B)とが含まる活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)を基材(K)の表面上に塗布する工程(工程1)と、
前記基材(K)表面上に塗布された下塗り液(C)に活性エネルギー線を照射して硬化させて下塗り層(D)を形成する工程(工程2)と、
前記下塗り層(D)上に、少なくともエチレン性不飽和基を有する化合物(E)としてターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(F)が20〜40質量%、着色剤(H)が0.5〜25質量%、及び光重合開始剤(G)が含まれる活性エネルギー線硬化型着色液(I)をインクジェット方式により付着させる工程(工程3)と、
前記下塗り層(D)上に付着された活性エネルギー線硬化型着色液(I)に活性エネルギー線を照射して硬化させることにより着色層(J)を形成する工程(工程4)、
を含むことを特徴とする。以下に各工程について説明する。
【0028】
(1)工程1
工程1は、下塗り液(C)を基材(K)の表面上に塗布する工程である。
下塗り液(C)は第1の態様に、また基材(K)と塗布は、前記「下塗り層(D)(第2の態様)」における記載内容と同様である。
【0029】
(2)工程2
工程2は、下塗り液(C)を硬化して下塗り層(D)を形成する工程である。
基材(K)上に塗布された下塗り液(C)は、前記「下塗り層(D)(第2の態様)」に記載した活性エネルギー線照射により硬化されて下塗り層(D)が形成される。該下塗り層(D)の形状、物性等は前記「下塗り層(D)(第2の態様)」における記載内容と同様である。
【0030】
(3)工程3、及び工程4
工程3は、着色液(I)を下塗り層(D)上に付着する工程であり、工程4は、該付着させた着色液(I)に活性エネルギー線を照射して硬化する工程である。
上記工程1〜4により、基材(K)上に、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(F)を含む下塗り層(D)と着色層(J)を積層した積層体が得られる。
尚、上記工程1〜4では、下塗り層(D)を硬化させた後に着色液(I)を塗布後、該着色液(I)を硬化させているが、基材(K)の表面上に下塗り液(C)を塗布後、更に着色液(I)を塗布し、その後に下塗り層(D)と下塗り層(D)に活性エネルギー線を照射して両層を硬化して積層体を得ることも可能である。
前記着色層(I)にじみが発生することがあるため、下塗り層(D)を硬化させた後に、着色層(I)を塗布後、該着色液(I)を硬化させる工程が好ましい。
(3−1)着色液(I)
着色液(I)は、少なくともエチレン性不飽和基を有する化合物(E)としてターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(F)20〜40質量%、着色剤(H)0.5〜25質量%、及び光重合開始剤(G)を含有する活性エネルギー線硬化型着色液である。
(イ)エチレン性不飽和基を有する化合物(E)
本発明の工程3において、エチレン性不飽和基を有する化合物(E)として、着色液(I)中に単官能基であるターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(F)を20〜40質量%含有されるように配合する。該ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(F)は、下塗り液(C)で使用するターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)と同様のものを使用することが好ましい。該ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(F)は、下塗り液(C)中に10〜20質量%含まれるターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)の硬化物である下塗り層(D)と親和性を発揮して、着色層(J)の定着性及び密着性を向上する。
エチレン性不飽和基を有する化合物(E)中のターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(F)以外の化合物として、前記下塗り液(C)に示したエチレン性不飽和基を有する化合物を使用することができる。着色液(I)中のエチレン性不飽和基を有する化合物(E)の含有量は、下塗り層(D)上での定着性、密着性等を考慮すると20〜40質量%が好ましい。また、エチレン性不飽和基を含有する化合物(E)には、単官能モノマーが60〜95質量%含まれていることが好ましい。
【0031】
(ロ)着色剤(H)
着色剤(H)としては、従来の油性インク組成物に通常用いられている無機顔料又は有機顔料を用いることができる。顔料としてはカーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、チタンイエロー、酸化チタン、パール系顔料、アルミニウム、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、ジケトピロロピロール、アンスラキノン、ベンズイミダゾロン、アンスラピリミジン、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料等を用いることができる。
尚、下塗り層(D)上に着色層(J)を形成する場合には、必要によりイエロー着色液、シアン着色液、マゼンタ着色液、ブラック着色液等から選択される1〜4種類の着色液(I)を調製する。
【0032】
顔料一次粒子の体積平均粒径は、レーザー散乱による測定値で平均粒径50〜200nmの微細顔料であることが好ましい。顔料の平均粒径が50nm未満の場合は、粒径が小さくなることによる耐光性の低下が生じ、200nmを超える場合は、分散の安定維持が困難になり、顔料の沈澱が生じやすくなる。また、着色剤(H)の含有量は、着色液(I)中に好ましくは0.5〜25質量%、より好ましくは0.5〜15質量%、更に好ましくは1〜10質量%である。
【0033】
(ハ)光重合開始剤(G)
着色液(H)を活性エネルギー線照射で硬化させるために添加される光重合開始剤(G)は、特に限定されるものではなく、下塗り液(C)の成分として例示した光重合開始剤等が使用可能である。
光重合開始剤(G)は、着色液(I)中に3〜15質量%程度含まれることが好ましい。
(ニ)分散剤
着色液(I)に分散剤を配合することが好ましく、該分散剤としては、高分子分散剤の使用が好ましい。高分子分散剤としては、例えば、主鎖がポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプロラクトン系等からなり、側鎖としてアミノ基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基等の極性基を有するもので、好ましくはポリエステル系分散剤であり、例えばルブリゾール社製「SOLSPERSE32000」、「SOLSPERSE20000」、「SOLSPERSE24000」、「SOLSPERSE71000」、味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」、「アジスパーPB822」等が例示される。分散剤の添加量は着色剤(H)1質量部に対して固形分として好ましくは0.03〜5質量部、より好ましくは0.05〜5質量部の割合であり、着色液(I)中に好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜20質量%である。
【0034】
(ホ)その他の成分
着色液(I)に配合されるその他の成分としては、可塑剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤等の種々の添加剤を含有することができる。
(ヘ)着色液(I)の調製
本発明で使用する着色液(I)は、例えば着色剤(H)をエチレン性不飽和基を有する化合物(E)、及び分散剤と共にサンドミル等の通常の分散機を用いてよく分散して分散液を得、該分散液に、エチレン性不飽和基を有する化合物(E)、光重合開始剤(G)を添加し、均一混合することにより調製することができる。あらかじめ着色剤(H)が高濃度の濃縮液を作成しておいてエチレン性不飽和基を有する化合物(E)で希釈することが好ましく、通常の分散機による分散においても充分な分散が可能であり、安定性に優れた着色液(I)が調製される。着色液(I)は、孔径3μm以下、さらには1μm以下のフィルターにて濾過することが好ましい。
着色液(I)の塗布には、吐出性を向上するため、プリンタヘッドに加温機構が組み込まれたインクジェット記録方式のプリンタを使用することができる。その場合、40℃での粘度が5〜20mPa・sとすることが好ましい。粘度が5mPa・s未満の場合は、高周波数のヘッドにおいて、吐出の追随性の低下が認められ、20mPa・sを超える場合は、加熱による粘度の低下機構をヘッドに組み込んだとしても吐出そのものの低下を生じ、吐出の安定性が不良となり、吐出できなくなるおそれがある。
【0035】
(3−2)着色液(I)の下塗り層(D)上への付着、硬化
本発明のイエロー、シアン、マゼンタ、及びブラックの顔料等がそれぞれ配合された着色液(I)は、インクジェット記録方式用プリンタのプリンタヘッドに供給し、このプリンタヘッドから下塗り層(D)上にそれぞれ吐出される。
その具体例としては、先ずイエロー着色液を下塗り層(D)上にインクジェット記録方式により付着させ、次に活性エネルギー線を照射して該付着したイエロー着色液を速やかに硬化させる。次にシアン着色液を同様に下塗り層(D)上に付着させて、次に活性エネルギー線を照射して該付着したシアン着色液を硬化させ、その後、同様にマゼンタ着色液、ブラック着色液の順でそれぞれ下塗り層(D)に付着後、活性エネルギー線を照射してこれらの着色液を硬化させる。
なお、活性エネルギー線の光源としては、紫外線を照射する場合には、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、および太陽光を使用することができる。電子線により硬化させる場合には、通常300eV以下のエネルギーの電子線で硬化させるが、1〜5Mradの照射量で瞬時に硬化させることも可能である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について以下の実施例、比較例により具体的に説明する。
実施例1〜7において、下塗り液を基材上に塗布後硬化させて形成した下塗り層の評価を行った。
実施例8〜10において、上記下塗り層上に更に着色層を形成して、該下塗り層と着色層間の密着性の評価を行った。
以下に、本実施例、比較例で使用した、原材料、及び評価方法について記載する。
(1)原材料
(1−1)基材
非吸収性基材であるポリカーボネート樹脂シート(旭硝子(株)製、商品名:レキサンフィルム8010)を使用した。
【0037】
(1−2)下塗り液の成分
(イ)エチレン性不飽和基を有する成分
(i)フェノキシエチル(メタ)アクリレート成分(A1)
フェノキシエチル(メタ)アクリレート成分として、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレートEO変性を使用した。
(ii)ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート成分(A2)
ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート成分として、4−ターシャリーブチルシクロヘキシルアクリレートを使用した。
(iii)2官能ウレタンアクリレート成分(A3)
2官能ウレタンアクリレート成分として、サートマー・ジャパン(株)製、CN966J75(2官能脂肪族ウレタンアクリレート)を使用した。
(iv)他のエチレン性不飽和基を有する成分
(iv−1)2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート
(iv−2)ラウリルアクリレート
【0038】
(ロ)光重合開始剤
光重合開始剤成分として、以下の光重合開始剤1〜光重合開始剤3を使用した。
(i)重合開始剤1:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド
(ii)重合開始剤2:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(iii)重合開始剤3:オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]
(ハ)重合禁止剤
重合禁止剤として、フェノチアジン(チオジフェニルアミン)を使用した。
【0039】
(1−3)着色液の成分
(イ)エチレン性不飽和基を有する成分
(i)4−ターシャリーブチルシクロヘキシルアクリレート
(ii)その他のエチレン性不飽和基を有する成分
(ii−1)フェノキシエチルアクリレート
(ii−2)サートマー・ジャパン(株)製、CN968(2官能脂肪族ウレタンアクリレート成分)
(ii−3)N−ビニルカプロラクタム
(ロ)光重合開始剤
光重合開始剤成分として、以下の光重合開始剤1、光重合開始剤2を使用した。
(i)光重合開始剤1:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド
(ii)光重合開始剤2:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(ハ)着色剤
着色剤としてC.I.ピグメントブルー15:6(銅フタロシアニン)を使用した。
(ニ)重合禁止剤
重合禁止剤として、フェノチアジン(チオジフェニルアミン)を使用した。
(ホ)分散剤
アミン基含有高分子化合物(ビックケミー社製、商品名:DisperBYK168)を使用した。
【0040】
(2)評価方法
(2−1)下塗り層の評価
(イ)下塗り層の基材との密着性(剥離強度)
基材上に形成された下塗り層試験片(サイズ:1×5cm)に、張り合わせ面積が1×2cmとなるようシアノアクリレート系瞬間接着剤(東亞合成(株)製、商品名:アロンアルフア(登録商標)ハイスピードEX)で表面加工されていないABS樹脂製原反(サイズ:1×5cm)(アクリロニトリル−ブタジエンースチレン共重合体シート、タキロン(株)製)と張り合わせる。該瞬間接着剤を硬化させた後に、オートグラフAG−X((株)島津製作所製)にて、張り合わせたABS樹脂製原反部分を引っ張った際の引張り強度を測定し、該測定値を張り合わせ面積で割った値を剥離強度とした。
(ロ)ガラス転移温度
基材上に形成された下塗り層を用いて剛体振り子型物性試験機((株)エー・アンド・デイ製、型式:RPT−3000W)により、−30〜+30℃までの対数減衰率を測定し、得られた測定値からガラス転移温度を算出した。
【0041】
(ハ)吸水率
JIS K7209に基づき、50℃のオーブンで24時間乾燥後、デシケーターで冷却したときの重さ(W1)と、23℃で相対湿度50%の条件下で24時間保管後の重さ(W2)の変化を100分率[((W2−W1)/W2)×100(質量%)]で示した。
(ニ)粘着性(最大値)
下塗り層(D)の粘着性(タック性)は、表面性測定機(タック性ロールユニット、新東科学(株)製、トライボギア TYPE:HEIDON(登録商標)−14DR、ロールの材質:SUS303製で、ロール表面はハードクロムメッキ加工されている。)を用い、該タック性ロールユニットのステンレスロール(直径3cm、幅2cm、SUS303製、ロール表面はハードクロムメッキ加工されている)の1回の測定における転がり抵抗の振れ幅の最大値(粘着性の最大値)を表1に示した。
尚、測定条件は、温度25℃、相対湿度50%、ロールの移動速度50mm/min、荷重750gfとした。
(ホ)総合判定
上記評価結果から総合的にみて、実用性の有無を評価した。評価基準は下記の通りである。
○:実用上優れた結果を有する場合
×:実用上の不都合が存在する場合
【0042】
(2−2)下塗り層と着色層の密着性
基材上の下塗り層に形成された着色層(サイズ:試験片1×5cm)に、張り合わせ面積が1×2cmとなるようシアノアクリレート系瞬間接着剤(東亞合成(株)製、商品名:アロンアルフア(登録商標)ハイスピードEX)で、表面加工されていないABS樹脂製原反1×5cm(アクリロニトリル−ブタジエンースチレン共重合体シート、タキロン(株)製)と張り合わせた。オートグラフAG−X((株)島津製作所製)にて、下塗り層と着色層間の引張り強度を測定する方法で、試験片とABS樹脂製原反が剥がれるまで引っ張り、1×2cmの張り合わせ面積中において、下塗り層から着色層が剥がれた面積の割合を評価した。
下塗り層と着色層の密着性は、初期(下記ヒートサイクル前)と、下記ヒートサイクル後の双方について測定した。
ヒートサイクル試験は、実施例8〜10、比較例7、8で作製した評価用試料を−15℃で30分間、その後80℃(湿度:95%下)で30分間保存後の密着性を測定した。
評価基準は下記の通りである。
○:張り合わせ面積中に10%以下の剥がれがあった。
△:張り合わせ面積中に10%超〜30%以下の剥がれがあった。
×:張り合わせ面積中に30%超の剥がれがあった。
【0043】
[実施例1〜7]
実施例1〜7において、以下に示す通り、下塗り液を調製し、得られた下塗り液を基材上に塗布した。その後、塗布した下塗り液に活性エネルギー線を照射して、下塗り層を形成し評価を行った。
(1)下塗り層の形成
エチレン性不飽和基を有する本発明の必須成分として、(A1)成分として、フェノキシエチルアクリレート(A1)−1、フェノキシエチルアクリレートEO変性(A1)−2、(A2)成分として、4−ターシャリーブチルシクロヘキシルアクリレート、及び(A3)成分として2官能ウレタンアクリレート、並びにその他の成分として、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、及びラウリルアクリレートを表1に示す割合になるように配合した。
重合開始剤は、重合開始剤1として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、重合開始剤2として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、重合開始剤3としてオリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]を表1に示す割合になるように配合した。
また、重合禁止剤としてフェノチアジンを表1に示す割合になるように配合した。
前記エチレン性不飽和基を有する成分、重合開始剤、及び重合禁止剤をディゾルバーにより混合して下塗り液を調製した。
【0044】
次に、調製した下塗り液をバーコーター#6を用いて基材上に硬化後の厚みが6μmとなるように塗布した後、UV硬化システム(Fusion UV System. Inc.製、I6P1/LH)にて搬送速度60m/min、ランプと基材との距離1cmの条件(1パスの積算光量97.2mJ/cm、ピーク照度965.52mW/cm)で塗布した下塗り液を硬化させて下塗り層を形成した。
(2)下塗り層の評価
得られた下塗り層について、基材との密着性、ガラス転移温度、吸水率、粘着性(最大値)の評価を行った。
評価結果をまとめて表1に示す。
【0045】
[比較例1〜6]
エチレン性不飽和基を有する本発明の必須成分とその他の成分、重合開始剤、及び重合禁止剤を表1に示す割合で配合した以外は実施例1〜6に記載したのと同様の方法で下塗り液を調製した。
次に、調製した下塗り液を実施例1〜6に記載したのと同様の方法で塗布、硬化させて下塗り層を形成した。得られた下塗り層について、実施例1〜6に記載したのと同様の評価を行った。
評価結果をまとめて表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
[実施例8〜10]
(1)下塗り層の形成
エチレン性不飽和基を有する本発明の必須成分とその他の成分、重合開始剤、及び重合禁止剤を表2に示す割合で配合した以外は実施例1〜7に記載したのと同様の方法で下塗り液を調製した。
次に、調製した下塗り液を基材上に硬化後の厚みが6μmとなるようにインクジェット方式(A1Jetプリンタ、(株)トライテック製、KJ512ヘッド、コニカミノルタ製、吐出温度40℃)により塗布した後、UVランプ(Integration Technology社製、積算光量98.7mJ/cm、ピーク照度643.7mW/cm)を照射して塗布した下塗り液を硬化させて下塗り層を形成した。
【0048】
(2)下塗り層上に着色層の形成
エチレン性不飽和基を有する本発明の必須成分とその他の成分、重合開始剤、顔料、及び重合禁止剤を表2に示す割合で配合し、ディゾルバー3000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(0.8mm)を充填したビーズミルで予備分散した。更にジルコニアビーズ(0.3mm)で本分散を行い、着色液を得た。
次に、調製した着色液を硬化後の厚みが6μmとなるようにインクジェット方式(A1Jetプリンタ、(株)トライテック製、KJ512ヘッド、コニカミノルタ製、吐出温度40℃)により、下塗り層上に着色液を付着させた後、UVランプ(Integration Technology社製、積算光量98.7mJ/cm、ピーク照度643.7mW/cm)を照射して塗布した着色液を硬化させて着色層を形成した。結果をまとめて表2に示す。
(3)下塗り層上に形成された着色層の密着性の評価
下塗り層上に形成された着色層の密着性の評価を行った。評価結果をまとめて表2に示す。
【0049】
[比較例7、8]
(1)下塗り層の形成
エチレン性不飽和基を有する本発明の必須成分とその他の成分、重合開始剤、顔料、及び重合禁止剤を表2に示す割合で配合した以外は実施例1〜6に記載したのと同様の方法で下塗り液を調製した。
次に、調製した下塗り液をインクジェット方式(A1Jetプリンタ、(株)トライテック製、KJ512ヘッド、コニカミノルタ製、吐出温度40℃)を用いて基材上に硬化後の厚みが6μmとなるように塗布した後、UVランプ(Integration Technology社製、積算光量98.7mJ/cm、ピーク照度643.7mW/cm)を照射して塗布した下塗り液を硬化させて下塗り層を形成した。
【0050】
(2)下塗り層上に着色層の形成
エチレン性不飽和基を有する成分、重合開始剤、顔料、及び重合禁止剤を表2に示す割合で配合し、ディゾルバー3000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(0.8mm)を充填したビーズミルで予備分散した。更にジルコニアビーズ(0.3mm)で本分散を行い、着色液を得た。
次に、調製した着色液を硬化後の厚みが5〜10μmとなるようにインクジェット方式(A1Jetプリンタ、(株)トライテック製、KJ512ヘッド、コニカミノルタ製、吐出温度40℃)により、下塗り層上に着色液を付着させた後、UVランプ(Integration Technology社製、積算光量98.7mJ/cm、ピーク照度643.7mW/cm)を照射して塗布した着色液を硬化させて着色層を形成した。
(3)下塗り層上に形成された着色層の密着性の評価
下塗り層上に形成された着色層の密着性の評価を行った。評価結果をまとめて表2に示す。
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(K)表面上に下塗り層(D)を形成するための、少なくともエチレン性不飽和基を有する化合物(A)と光重合開始剤(B)とが含まれる、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)であって、
前記エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)中に少なくともフェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%含まれていることを特徴とする下塗り液。
【請求項2】
エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)中に少なくとも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%と、光重合開始剤(B)とが含まれる活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)を基材(K)の表面に塗布後、活性エネルギー線を照射して該下塗り液(C)を硬化して形成された下塗り層。
【請求項3】
前記基材(K)が非吸収性基材であることを特徴とする請求項2に記載の下塗り層。
【請求項4】
前記下塗り層(D)の厚みが1〜30μmであることを特徴とする請求項2又は3に記載の下塗り層。
【請求項5】
前記下塗り層(D)のガラス転移温度(Tg)(剛体振り子型物性試験機を用いた対数減衰率の測定に基づくガラス転移温度)が0〜10℃であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の下塗り層。
【請求項6】
前記下塗り層(D)の粘着性の最大値(表面性試験器(タック性ロールユニット、新東科学(株)製、トライボギア TYPE:HEIDON(登録商標)−14DR)を使用して、温度25℃、相対湿度50%、ロールの移動速度50mm/min、荷重750gfでの測定条件における、1回の測定での転がり抵抗の振れ幅の最大値)が、50〜80gfであることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の下塗り層。
【請求項7】
前記下塗り層(D)と基材(K)間の剥離強度が15kgf/cm以上であることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の下塗り層。
【請求項8】
エチレン性不飽和基を有する化合物(A)として、少なくとも、活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)中でフェノキシエチル(メタ)アクリレート(A1)が40〜80質量%、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(A2)が5〜30質量%、及び2官能ウレタン(メタ)アクリレート(A3)が1〜15質量%と、光重合開始剤(B)とが含まれる活性エネルギー線硬化型下塗り液(C)を基材(K)の表面上に塗布する工程(工程1)と、
前記基材(K)表面上に塗布された下塗り液(C)に活性エネルギー線を照射して硬化させて下塗り層(D)を形成する工程(工程2)と、
前記下塗り層(D)上に、少なくともエチレン性不飽和基を有する化合物(E)としてターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(F)が20〜40質量%、着色剤(H)が0.5〜25質量%、及び光重合開始剤(G)が含まれる活性エネルギー線硬化型着色液(I)をインクジェット方式により付着させる工程(工程3)と、
前記下塗り層(D)上に付着された活性エネルギー線硬化型着色液(I)に活性エネルギー線を照射して硬化させることにより着色層(J)を形成する工程(工程4)、
を含むことを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2013−43894(P2013−43894A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180264(P2011−180264)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】