説明

下水圧送管路の嫌気化抑制方法

【課題】長距離に亘る圧送管路であっても下水の溶存酸素量を確保し、下水圧送管路内の嫌気化の進行を抑制することができる下水圧送管路の嫌気化抑制方法の提供。
【解決手段】圧送ポンプ15により圧送される下水中に気体注入手段16より気体を注入することにより圧送管路10内の嫌気化を抑制する下水圧送管路の嫌気化抑制方法において、圧送管路10の上流部で圧送される下水に気体注入手段16よりオゾンを注入した後、圧送管路10の気体注入手段16より下流側に介在させた一又は複数の攪拌管部17,17にオゾンを注入した下水を通すことにより下水を攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水の溶存酸素量を増加させて圧送管路内の嫌気化の進行を抑制する下水圧送管路の嫌気化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の下水道管路では、圧送用ポンプにより管路内の下水を圧送する圧送方式のものが知られている。
【0003】
このような下水圧送管路では、圧送管路内を通る下水が空気と接触しないので嫌気性が顕著となり、その状況下において下水中に生息する硫酸塩還元細菌が下水中の硫酸イオンを硫化水素に変化させ、この生成された硫化水素が管路終端のマンホールなどに接続した吐出口より空気中に硫化水素ガスとして発散され、この硫化水素ガスが悪臭やコンクリート腐食の原因になっている。
【0004】
このような硫化水素の生成が嫌気性の環境下で生ずることから、従来、圧送管路内の下水に空気を注入することにより下水中の溶存酸素量を増加させ嫌気化の進行を抑制する方法が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0005】
しかし、このような空気注入による嫌気化抑制方法では、下水への酸素の溶解速度(溶解効率)が低く、下水中に必要量の酸素を供給するには、大量の空気を供給しなければならないため、空気を供給するためのエアコンプレッサーの駆動に多大なエネルギーを消費し、運転コストが嵩むという問題があった。
【0006】
また、溶解せずに残存した窒素ガス等が圧送管路内で気溜りを形成して下水の圧送を阻害するため、圧送用ポンプに多大な負荷が掛かりエネルギーの消費が増大するという問題があり、また、圧送用ポンプの損傷を引き起こす原因になるおそれがあった。
【0007】
そこで、近年においては、下水圧送管路の嫌気化抑制方法として圧送管路内の下水に直接酸素を注入する方法が開発されている(例えば、特許文献2)。
【0008】
この酸素注入による嫌気化抑制方法では、図5に示すように、ポンプ井1内に滞留した下水を圧送用ポンプ2により下水圧送管路3に送り出し、この下水圧送管路3の途中にエジェクタ4を介在させ、このエジェクタ4に酸素生成装置5より供給管6を通して酸素を供給し、下水に酸素を直接注入して溶解させることにより下水の溶存酸素量を増加させるようになっている。
【0009】
尚、図中符号7は、下水道管路が河川や窪地、地下鉄道等の地下埋設物を回避するために設けられた伏せ越しである。
【0010】
また、圧送用ポンプ2は、一定時間毎に間欠的に動作させるか、ポンプ井1内の水位をセンサーにより検知し、所定の水位に達した際にのみ動作させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−172756号公報
【特許文献2】特開2005−28240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述の如き従来の酸素注入による嫌気化抑制方法では、下水圧送管路が長距離に亘る場合や伏せ越しがある場合において、上流の酸素注入部分(エジェクタ)付近においてはふんだんに酸素が供給されることから溶存酸素量が多いが、下流に行くほど微生物等による酸素消費が進行するため溶存酸素量が低下し、管路終端において嫌気化が進行し、硫化水素ガスの発生を招くおそれがあった。
【0013】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、長距離に亘る圧送管路であっても下水の溶存酸素量を確保し、下水圧送管路内の嫌気化の進行を抑制することができる下水圧送管路の嫌気化抑制方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、圧送ポンプにより圧送される下水中に気体注入手段より気体を注入することにより圧送管路内の嫌気化を抑制する下水圧送管路の嫌気化抑制方法において、前記圧送管路の上流部で圧送される下水に前記気体注入手段よりオゾンを注入した後、前記圧送管路の前記気体注入手段より下流側に介在させた一又は複数の攪拌管部に前記オゾンを注入した下水を通すことにより前記下水を攪拌することにある。
【0015】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記攪拌管部は、内周面部に管内を流下する下水に旋回方向の流れを生じさせる複数の攪拌用羽根体を備えたことにある。
【0016】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記気体注入手段は、前記下水圧送管路に介在させた筒状の気体注入管部と、該気体注入管部内に吐出口を配置した気体注入用ノズルと、該気体注入用ノズルにオゾンを供給する気体供給装置とを備え、前記気体注入管部は、内周面部に気体注入管部内を流下する下水に旋回方向の流れを生じさせる複数の旋回流発生用羽根体を備え、該旋回流発生用羽根体の下流側に前記気体注入用ノズルの吐出口を向けたことにある。
【0017】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項3の構成に加え、前記気体注入手段は、前記気体注入用ノズルに酸素を供給する酸素供給手段を備え、前記オゾンと共に酸素を注入することにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る下水圧送管路の嫌気化抑制方法は、上述したように、圧送ポンプにより圧送される下水中に気体注入手段より気体を注入することにより圧送管路内の嫌気化を抑制する下水圧送管路の嫌気化抑制方法において、前記圧送管路の上流部で圧送される下水に前記気体注入手段よりオゾンを注入した後、前記圧送管路の前記気体注入手段より下流側に介在させた一又は複数の攪拌管部に前記オゾンを注入した下水を通すことにより前記下水を攪拌することにより、圧送管路が長距離に亘る場合や伏せ越しがある場合であっても、オゾンを注入することで下水中への溶解効率を向上させ、且つ圧送管路の途中で攪拌管部により下水を攪拌することで圧送管路内に溶解せずに残存していた酸素を下水中に取り込み、それにより圧送管路全域で十分な溶存酸素量を確保し、管路内の嫌気化を抑制することができる。
【0019】
また、本発明において、前記攪拌管部は、内周面部に管内を流下する下水に旋回方向の流れを生じさせる複数の攪拌用羽根体を備えたことにより、圧送中の下水中に溶解せずに残存していた酸素を旋回流内に取り込み、管路の途中で効率よく酸素を下水中に取り込むことができ、管路内の嫌気化を抑制することができる。
【0020】
更に、本発明において、前記気体注入手段は、前記下水圧送管路に介在させた筒状の気体注入管部と、該気体注入管部内に吐出口を配置した気体注入用ノズルと、該気体注入用ノズルにオゾンを供給する気体供給装置とを備え、前記気体注入管部は、内周面部に気体注入管部内を流下する下水に旋回方向の流れを生じさせる複数の旋回流発生用羽根体を備え、該旋回流発生用羽根体の下流側に前記気体注入用ノズルの吐出口を向けたことにより、旋回する下水の流れと管路内の負圧によりオゾンが管軸中心に向けて運ばれ、効率よく酸素を溶解させることができる。
【0021】
更にまた、本発明において、前記気体注入手段は、前記気体注入用ノズルに酸素を供給する酸素供給手段を備え、前記オゾンと共に酸素を注入することにより、オゾンと酸素の溶解率の違いを利用して下水中に酸素を取り込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る下水圧送管路の嫌気化抑制方法に使用する下水処理設備の一例を示す模式図である。
【図2】図1中のポンプ井部の概略を示す縦断面図である。
【図3】(a)は図2中の気体注入手段の気体注入管部分を示す縦断面図、(b)は同気体注入管の正面図である。
【図4】(a)は図1中の攪拌管部の接続状態を示す縦断面図、(b)は同攪拌管部の正面図である。
【図5】従来の下水処理システムの概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明に係る下水圧送管路の嫌気化抑制方法の実施の態様を図1〜図4に基づいて説明する。尚、図中符号10は圧送管路、符号11は自然流下式管路、符号12はポンプ井、符号13はマンホール、符号31は伏せ越しである。
【0024】
この下水道管路系は、上流側の下水管路14より流入した汚水等からなる下水をポンプ井12内に滞留させ、この滞留下水をポンプ井12内に設置された圧送用ポンプ15により汲み上げて圧送管路10内を通して圧送するものであり、伏せ越し31,31を経て下水圧送管路10の終端がマンホール13を介して自然流下式管路11に接続されている。
【0025】
尚、圧送用ポンプ15は、一定時間毎に間欠的に動作させるか、ポンプ井12内の水位をセンサーにより検知し、所定の水位に達した際にのみ動作させるようになっている。
【0026】
下水圧送管路10には、圧送管路10内の下水にオゾンを注入する気体注入手段16を備えるとともに、この気体注入手段16より下流側の一定の距離を隔てた位置に攪拌管部17,17が介在されている。
【0027】
気体注入手段16は、図2に示すように、圧送管路10の上流側、且つ圧送用ポンプ15より下流側に介在させた気体注入管部18と、気体注入管部18内に吐出口19aを配置させた注入用ノズル19と、この注入用ノズル19にオゾンを含む気体を供給する気体供給装置20とを備えている。
【0028】
気体注入管部18は、図3に示すように、円筒状に形成され、両端開口縁部に外側に向けて張り出したフランジ部21,21を備え、この両フランジ部21,21とそれぞれ圧送管路10を構成する管体端部に形成されたフランジ部10aとをボルト締めすることにより下水圧送管路10に介在されている。尚、図中符号21aはボルト用の挿通孔である。
【0029】
この気体注入管部18には、上流側内周面に複数の旋回流発生用羽根体22,22...が突設され、この気体注入管部18内を下水が通ることにより旋回流発生用羽根体22,22...に誘導されて管路内の下水に旋回方向の流れが生じるようになっている。
【0030】
この旋回流発生用羽根体22は、半径方向に向けた矩形断面が開口部側より下流側に向けて所定のピッチ毎に所定角度周方向にずれた配置に連続した形状に形成され、この旋回流発生用羽根体22,22...に誘導されて下水に旋回方向の流れが付与されるようになっている。
【0031】
注入用ノズル19は、旋回流発生用羽根体22,22...の下流側に突出するように備えられ、先端の吐出口19aが下流側に向けられ、旋回する下水の流れに向けて細かい泡状のオゾンを含む気体を吐出するようになっている。
【0032】
気体供給装置20は、コンプレッサー等の圧送手段23と、酸素を生成或いは酸素を貯留させた酸素供給手段24と、オゾン生成手段25とを備え、それぞれが連通管26により連通されている。
【0033】
酸素生成手段24で生成された酸素は、圧送手段23により連通管26を通してオゾン生成手段25に送り込まれ、オゾン生成手段25で電気的手法により酸素からオゾンを生成し、注入用ノズル19に供給するようになっている。尚、図中符号27aは調節弁であり、オゾンの供給量を調節することができるようになっている。
【0034】
また、この気体供給手段20では、調節弁27bを開くことにより酸素供給手段24より直接気体注入用ノズル19に酸素を供給することができ、それにより気体注入手段16は、オゾンとともに酸素を下水中に注入できるようになっている。
【0035】
尚、図2に示す例においては、酸素供給手段24及びオゾン生成手段25を共通の気体注入用ノズル19に接続させた例が図示されているが、気体注入用ノズル19を複数備え、オゾンと酸素とを別々の気体注入用ノズルより吐出させるようにしてもよい。
【0036】
攪拌管部17は、図4に示すように、両端が開口した円筒状に形成され、開口縁部にフランジ部28,28が外側に向けて張り出した形状に形成され、このフランジ部28,28とそれぞれ圧送管路10を構成する管体端部に形成されたフランジ部10aとをボルト締めすることにより下水圧送管路10に介在されている。尚、図中符号28aはボルト用の挿通孔である。
【0037】
また、攪拌管部17には、内周面部に複数の攪拌用羽根体29,29...が突設され、この攪拌用羽根体29,29...により下流側に向けた旋回方向の流れが生じるようになっている。
【0038】
攪拌用羽根体29は、半径方向に向けた矩形状断面が所定のピッチ毎に所定の角度周方向にずれた配置に連続した形状に形成され、各攪拌用羽根体29,29...間に螺旋状溝30が形成されるようになっている。
【0039】
また、攪拌用羽根体29の上流側端部29aは、下流中央側に向けて傾けて形成され、それにより抵抗が小さく下水に含まれる汚物等が詰らないようになっている。
【0040】
このように構成された下水圧送管路10を流れる下水は、まず、上流側の下水管路14よりポンプ井12内に流入し、ポンプ井12内に貯留される。
【0041】
次に、滞留下水が一定の水位に達した場合、或いは所定の時間間隔毎に圧送用ポンプ15が始動し、ポンプ井12に滞留した下水が圧送管路10に送り込まれ、更に気体注入手段16に圧送される。
【0042】
気体注入管部18内に流入した下水は、旋回流発生用羽根体22,22...に誘導されて旋回方向の流れが生じるとともに、下流側に向けた圧力が生じているので旋回流発生用羽根体22,22...の下流側では、下流側中央方向に向けた流れが生じる。
【0043】
この旋回流発生用羽根体22,22の下流側に気体注入用ノズル19よりオゾンを含む気体を吐出し、下水中にオゾンを注入する。
【0044】
このように旋回流発生用羽根体22,22...により生じた旋回流に向けてオゾンを注入することにより、管路10内の負圧によりオゾンが管軸中心に向けて運ばれるとともに、オゾンが不安定であることから分解して酸素となり効率よく下水中に溶解され、気体注入手段16より下流側の圧送管路10内を流れる下水に酸素が溶解して飽和状態となる。
【0045】
一方、圧送管路10内を圧送される下水では、下流に行くに従って、下水中の微生物等による酸素消費が進行するため溶存酸素量が低下していく。
【0046】
そこで、圧送管路10の気体注入手段16より下流側に介在させた攪拌管部17にオゾンを注入した下水を通すことにより、攪拌用羽根体29,29...に誘導されて下水に旋回方向の流れが付与され、それによりオゾン注入をした下水が攪拌され、圧送管路10内に溶解せずに残存していた酸素が下水中に取り込まれる。
【0047】
そして、微生物等により酸素が消費されて溶存酸素量が低下した下水に、上記攪拌により下水中に取り込まれた酸素が溶解することにより下水中の溶存酸素量が増大(回復)し、再び飽和状態となる。
【0048】
これにより長距離に及ぶ圧送管路10内、或いは途中伏せ越し31のある管路10においても全域で下水中の溶存酸素量を確保することができ、圧送管路10内の嫌気化を抑制することができる。
【0049】
尚、上述の実施例では、攪拌管部17を2か所に設けた例について説明したが、圧送管路10の距離に応じて1か所としてもよく、2か所以上の複数箇所に設けるようにしてもよい。
【0050】
また、図1には、攪拌管部17を伏せ越し31,31の下流側に設けた例が図示されているが、攪拌管部17を伏せ越し31,31の上流側に設けてもよく、また、伏せ越し31,31間に設けてもよい。
【0051】
また、上述の実施例では、気体注入管部18及び攪拌管部17を円筒直管状とした例について説明したが、内径部を下流側に向けて縮径するテーパ状に形成し、このテーパ状内径部に旋回流発生用羽根体22又は攪拌用羽根体29を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 圧送管路
11 自然流下式管路
12 ポンプ井
13 マンホール
14 上流側下水管路
15 圧送用ポンプ
16 気体注入手段
17 攪拌管部
18 気体注入管部
19 注入用ノズル
20 気体供給装置
21 フランジ部
22 旋回流発生用羽根体
23 圧送手段
24 酸素生成手段
25 オゾン生成手段
26 連通管
27 調節弁
28 フランジ
29 攪拌用羽根体
30 螺旋状溝
31 伏せ越し

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧送ポンプにより圧送される下水中に気体注入手段より気体を注入することにより圧送管路内の嫌気化を抑制する下水圧送管路の嫌気化抑制方法において、
前記圧送管路の上流部で圧送される下水に前記気体注入手段よりオゾンを注入した後、前記圧送管路の前記気体注入手段より下流側に介在させた一又は複数の攪拌管部に前記オゾンを注入した下水を通すことにより前記下水を攪拌することを特徴としてなる下水圧送管路の嫌気化抑制方法。
【請求項2】
前記攪拌管部は、内周面部に管内を流下する下水に旋回方向の流れを生じさせる複数の攪拌用羽根体を備えた請求項1に記載の下水圧送管路の嫌気化抑制方法。
【請求項3】
前記気体注入手段は、前記下水圧送管路に介在させた筒状の気体注入管部と、該気体注入管部内に吐出口を配置した気体注入用ノズルと、該気体注入用ノズルにオゾンを供給する気体供給装置とを備え、前記気体注入管部は、内周面部に気体注入管部内を流下する下水に旋回方向の流れを生じさせる複数の旋回流発生用羽根体を備え、該旋回流発生用羽根体の下流側に前記気体注入用ノズルの吐出口を向けた請求項1又は2に記載の下水圧送管路の嫌気化抑制方法。
【請求項4】
前記気体注入手段は、前記気体注入用ノズルに酸素を供給する酸素供給手段を備え、オゾンと共に酸素を注入する請求項3に記載の下水圧側管路の嫌気化抑制方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−68025(P2013−68025A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208371(P2011−208371)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000229667)日本ヒューム株式会社 (70)
【出願人】(500187535)株式会社環境改善計画 (1)
【Fターム(参考)】