説明

下痢型過敏性腸症候群におけるアミノサリチル酸の使用法

【課題】非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患を治療または予防方法の提供。
【解決手段】バルサラジド、あるいは4-ABA側鎖を含むように修飾された4-ASAもしくは5-ASA化合物またはその塩もしくは誘導体、あるいはバルサラジド、修飾されたその化合物またはその塩もしくは誘導体を適切な担体とともに含む組成物をそのような治療または予防を必要とする患者に投与する段階を含む方法。非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患の治療用または予防用の薬剤を製造するための、バルサラジド、あるいは4-ABA側鎖を含むように修飾された4-ASAもしくは5-ASA化合物またはその塩もしくは誘導体の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非炎症性腸疾患、例えば、憩室症/憩室炎、下痢型(diarrhoea-predominant)過敏性腸症候群(IBS)、または時折便秘と交替する過敏性腸症候群(IBS)などのその他の非特異的な腸疾患を治療するためのバルサラジドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
下痢型IBSは、明らかではない原因から生じることが知られている病態である。特に、非炎症性腸疾患として定義されている過敏性腸症候群は、1種または複数種の病原生物による任意の検出可能な感染によって引き起こされるのではないことが知られている。
【0003】
したがって、過敏性腸症候群は、炎症性腸疾患の一形態ではない。炎症性腸疾患は、組織学上の炎症および結腸鏡検査における炎症を特徴とするが、過敏性腸症候群は、結腸鏡検査において炎症の徴候は示さず、かつ、組織像は炎症細胞の増加を示さない。したがって、過敏性腸症候群を診断することができる組織学または血液検査など特異的な診断基準がないため、過敏性腸症候群は「非特異的な」腸疾患と呼ばれる。過敏性腸症候群は、サルモネラ(Salmonella)、胃腸炎、カンピロバクター(Campylobacter)胃腸炎、クロストリジウム・ジフィシル(Clostridium difficile)感染、ジアルジア症、クローン病、または潰瘍性大腸炎など他の「特異的な」疾患または障害の存在が除外された場合にのみ、診断される。過敏性腸症候群は、培養物または組織学的根拠および内視鏡検査での特徴に基づいて、大腸炎またはクローン病など感染性および炎症性の腸疾患と区別することができる。
【0004】
したがって、過敏性腸症候群は、鼓脹、下痢、筋痙攣、鼓腸、または便秘などの症状の集合体であり、特異的な腸疾患にそれを変える特異的な診断検査は無い。したがって、過敏性腸症候群は、他の特異的な腸疾患を除外することによって診断され得る。非特異的な胃腸管疾患の別の例は、非潰瘍性消化不良である。
【0005】
ヒトの大腸、および程度は落ちるものの小腸は、高濃度の様々な腸内細菌を含有している。一般に、腸にコロニーを形成し、その場所で長期間生存し得る病原性株にそれらの細菌含有物が感染されない場合は、患者は疼痛、筋痙攣、下痢、または便秘を有さないと考えられる。しかし、腸内細菌叢の急性感染および一部の慢性感染は、内壁に炎症性の変化を引き起こすことができる。炎症が目に見える場合、この病態は、炎症性腸疾患(IBD)と呼ばれ、一過性、または長期に渡る、例えば「潰瘍性大腸炎」になり得る。IBDのいくつかの形態では、目に見える炎症は存在せず、生検を取り、炎症による組織学的変化を発見することによってのみ検出され得る。この場合、病理学者は、このIBDを「顕微鏡的大腸炎」と呼ぶ。
【0006】
結腸において目に見える結腸鏡検査での異常または組織学的異常が無い場合、および、便検査が任意の公知の感染症に関して陰性であり、しかも、患者が、便意切迫(urgency)、下痢、鼓腸、筋痙攣など結腸に帰することができる症状を訴える場合、過敏性腸症候群という診断を下すことができる。様々な年齢群の欧米人人口の5%〜25%が、痙攣性結腸、不安定型結腸神経症、痙攣性結腸炎、または粘液性結腸炎とも呼ばれているこの疾患に罹患している可能性がある。典型的な事例では、排便によって軽減される下腹部痛、交替性の便秘/下痢、および内径の小さな便の排泄を含む三主徴がある。一部の患者では、疼痛を伴うまたは伴わない付随的な水様便がある場合がある。膨満、鼓腸、腸内ガス、ならびに場合によっては悪心および頭痛もまた、付随的な全身症状となり得る。時折、下痢は便秘と交替する。
【0007】
IBSの病因は明らかではない。情緒障害、繊維不足、下剤乱用、および食物不耐性は、関係があるとされている病因因子のうちの一部であるが、いずれも、十分証明はされておらず、十分に実証されてもいない。したがって、感染原因または自己免疫についての証拠は不足している。IBSに対する従来の治療は、時折推奨または試行されてきた多数の治療法によって例証されているように、満足できるものではない。これらには、心理療法、食事療法、鎮痙薬、抗コリン作用薬、抗うつ薬、膨張性薬剤、様々な受容体拮抗薬、駆風薬、アヘン剤、および精神安定剤が含まれるが、いずれも実質的にはうまくいかなかった。実際、治癒が可能であるという証拠はない。さらに、IBSは、全ての胃腸管疾患のうちで最も一般的なものの1つであり、生命を脅かすことはないものの、特に重症の罹患者には、大きな苦痛の原因となり、かつ挫折感および無力感をもたらすことがあり、通常、一生続く。特に、下痢型IBSは、一部の患者においで失禁を引き起こすことがあり、例えば、自分の勤め先に到着できるという確信できないために、一部の患者は、仕事に行く途中でトイレからトイレへと移動することになる。一部の患者では、便意切迫が非常に激しいため、彼らは、数秒しか排便を抑えることができない。
【0008】
IBSの治療および他の腸疾患に対して提案されている1つの治療は、ある種のクラスのアミノサリチル酸の使用である。例えば、米国特許第5,519,014号(特許文献1)において、Borodyは、IBSを治療するための5-アミノサリチル酸(5-ASA化合物)の使用を記載している。同様に、Linら(米国特許第6,326,364号(特許文献2))は、5-ASA化合物がクロストリジウム(clostridia)(病原菌)を抑制できることを教示している。
【0009】
先行技術の方法は、IBSの治療にいくらか役に立つが、他の治療計画、特に、先行技術の方法によっては効果的に治療できない下痢型IBSなど非特異的な腸疾患に対する治療計画が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,519,014号
【特許文献2】米国特許第6,326,364号
【発明の概要】
【0011】
発明の目的
上記の不都合な点のうちの少なくとも1つを克服または実質的に改善すること、あるいは、適切な代替法を少なくとも提供することが、少なくとも好ましい態様における、本発明の目的である。
【0012】
発明の概要
第1の局面によれば、非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患を治療または予防するための方法であって、有効量の、バルサラジドまたはその塩もしくは誘導体、あるいはバルサラジドまたはその塩もしくは誘導体を適切な担体とともに含む組成物を、そのような治療または予防を必要とする患者に投与する段階を含む方法が提供される。
【0013】
一態様では、患者のサブグループにおいて、本方法は、下痢便秘交替型(altering diarrhoea and constipation type)過敏性腸症候群または便秘型(constipation-predominant)過敏性腸症候群の症状を軽減する。
【0014】
第2の局面によれば、非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患を治療または予防するための方法であって、有効量の、4-ABA側鎖を含むように修飾された4-ASAもしくは5-ASA化合物またはその塩もしくは誘導体、あるいは修飾されたその化合物またはその塩もしくは誘導体を適切な担体とともに含む組成物を、そのような治療または予防を必要とする患者に投与する段階を含む方法が提供される。
【0015】
第3の局面によれば、非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患の治療用または予防用の薬剤を製造するための、バルサラジドまたはその塩もしくは誘導体の使用が提供される。
【0016】
第4の局面によれば、非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患の治療用または予防用の薬剤を製造するための、4-ABA側鎖を含むように修飾された4-ASAもしくは5-ASA化合物またはその塩もしくは誘導体の使用が提供される。
【0017】
第5の局面によれば、非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患の治療用または予防用に使用される場合の、バルサラジドまたはその塩もしくは誘導体、あるいはバルサラジドまたはその塩もしくは誘導体を適切な担体とともに含む組成物が提供される。
【0018】
第6の局面によれば、非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患の治療用または予防用に使用される場合の、4-ABA側鎖を含むように修飾された4-ASAもしくは5-ASA化合物またはその塩もしくは誘導体、あるいはバルサラジドまたはその塩もしくは誘導体を適切な担体とともに含む組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
以下の定義は、一般的な定義として意図され、本発明の範囲をそれらの用語のみに決して限定すべきではないが、以下の説明をより良く理解するために示される。
【0020】
文脈において特に指示がない限り、または、反対の記載が特に無い限り、本明細書において単数形の整数、段階、または要素として列挙される本発明の整数、段階、または要素は、列挙されたそれらの整数、段階、または要素の単数形と複数形の双方を明らかに包含する。
【0021】
本明細書全体を通じて、文脈において特に指示がない限り、「含む(comprise)」という単語、または「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などの変形は、記載された1つのステップ、要素、もしくは整数、または複数のステップ、要素、もしくは整数の群を含むことを意味するが、他の任意の段階、要素、もしくは整数、または複数の要素もしくは整数の群の除外を意味しないことが理解されると思われる。したがって、本明細書の文脈においては、「含む(comprising)」という用語は、「主として含むが、必ずしもそれだけではない」ことを意味する。
【0022】
本明細書で記述する本発明には、具体的に記述したもの以外の変更および修正の余地があることが、当業者には理解されると思われる。本発明は、すべてのこのような変更および修正を含むことを理解されたい。本発明はまた、個別にまたはまとめて、本明細書において言及または記述される段階、特徴、組成物、および化合物のすべてを含み、かつ、前記の段階または特徴の任意のおよびすべての組合せまたは任意の2つまたはそれ以上を含む。
【0023】
本出願に引用されるすべての参考文献は、参照として具体的に組み入れられ、その全体が本明細書に組み入れられる。しかし、本明細書において個々の参考文献を含めることは、その参考文献がオーストラリアまたは別の場所で一般的に公知であることを示唆するためのものではない。
【0024】
好ましい態様の詳細な説明
憩室症/憩室炎、下痢型過敏性腸症候群、または便秘、鼓脹、下痢便秘交替型IBS、もしくは便秘型IBSを含む他の非特異的な腸疾患を含む非炎症性腸疾患を治療または予防するための方法が提供される。この方法は、有効量の、バルサラジドまたはその塩もしくは誘導体、あるいはバルサラジドまたはその塩もしくは誘導体を適切な担体とともに含む組成物を、そのような治療または予防を必要とする患者に投与する段階を含む。患者は、ヒトを含む哺乳動物であってもよい。
【0025】
バルサラジドは、式

に相当し、
5[(1E)-[4-[[(2-カルボキシエチル)アミノカルボニル]フェニル]アゾ]-2-ヒドロキシ安息香酸である。
【0026】
本発明は、メサラジンおよびオルサラジンなどの5ASA化合物または4-アミノサリチル酸などの4ASA化合物を用いた非感染性腸疾患患者の治療は、単独であろうと5ASA化合物と組み合わせてであろうと、下痢型IBS症状を有する大半の患者において症状を抑えることができるが、バルサラジドが単独でまたは組み合わせて投与される場合にいっそう効果的になり得るという本発明者らの発見から生まれた。臨床経験から、バルサラジドは、従来の4ASAおよび5ASA化合物と比べて、下痢型過敏性腸症候群の症状を抑える際にはるかに強力であることが本発明者により発見された。バルサラジドは、下痢型IBSおよび以下に挙げる関連した病態の症状を抑制する上でメサラジン(5-ASA)より優れ、かつ、それらをいっそう強力に抑制することができる。これは予想外である。バルサラジドは、従来の4ASAおよび5ASA化合物とは大きく異なる分子であるため、下痢型IBSを治療できるとは予想されていなかった。バルサラジド(5[(1E)-[4-[[(2-カルボキシエチル)アミノカルボニル]フェニル]アゾ]-2-ヒドロキシ安息香酸およびそのナトリウム塩、分子量437.32(化学式C17H13N3O6Na2.2H2O)は、非常に長い鎖である4-アミノベンゾイル-β-アラニン(4-ABA)に結合した5-アミノサリチル酸から構成される。したがって、これは、はるかに大きな分子であり、メサラジンまたはオルサラジンと同じ分子形状には属さない。本発明者らは、バルサラジドが、下痢型IBS患者において下痢症状を実質的に抑制できることに注目した。これは、独特の「不活性な担体」側鎖(4-ABA)の諸特性によるところが大きいと考えられる。その側鎖が5-ASAとともに、ガス産生、筋痙攣、液体分泌、および粘液産生の抑制を増強することが注目される。サリチル酸部分から離れた大型側鎖が、下痢を治療する際に有効であると思われる。さらに、患者のサブグループでは、IBSの便秘症状が同じ治療に反応することがある。
【0027】
バルサラジドは5-アミノサリチル酸の類似体であることが報告されているものの、理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の方法では、下痢の抑制において機能しているのは5-ASA基ではなく、大型側鎖の4-ABAが有効な構成要素であるようにと思われる。4-ABA側鎖を含むように修飾された他の5-ASAまたは4-ASA化合物もまた、本発明の方法において有効となり得る。これらの化合物もまた、非潰瘍性消化不良など他の非特異的疾患を治療するために使用してよい。
【0028】
したがって、本発明は、非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、ならびに他の非特異的な腸疾患およびそれらに関連した症状を治療または予防する方法であって、それらに罹患している患者にバルサラジドまたはその誘導体もしくは塩を投薬する段階を含む方法を提供する。他の非特異的腸疾患には、非潰瘍性消化不良、下痢便秘交替型過敏性腸症候群、便秘型過敏性腸症候群、便秘、または鼓脹など、他の特異的腸疾患の除外によって診断される任意の疾患が含まれる。非炎症性腸疾患には、憩室症または憩室炎が含まれる。
【0029】
一態様では、本発明は、非炎症性腸疾患、憩室症、憩室炎、下痢型過敏性腸症候群、過敏性腸症候群、鼓脹、下痢、筋痙攣、疼痛、下腹部痛、膨満、腸内ガス、鼓腸、ガス産生、液体分泌、粘液産生、便秘、便意切迫、非潰瘍性消化不良、痙攣性結腸、不安定型結腸神経症、痙攣性結腸炎、粘液性結腸炎、交替性の便秘/下痢、失禁、下痢便秘交替型IBS、または便秘型IBSのうちの1種または複数種を治療または予防するための方法を提供する。
【0030】
非特異的腸疾患、特に下痢型IBSを治療または予防するために使用されるバルサラジドまたはその誘導体もしくは塩も提供される。
【0031】
付随する、補助的または組合せ用の活性および不活性物質を含むまたは含まない、前記バルサラジドまたはその誘導体もしくは塩を基本生成物として含む薬剤の製造におけるバルサラジドまたはその誘導体もしくは塩の使用も提供される。これらの補助的または組合せ用活性および不活性物質は、バルサラジドとともに投与してよい。このような投与は、同時投与でも同時投与でなくてもよい。例えば、これらの活性物質は、単一の結合された組成物として投与してもよく、あるいは、重複した治療プロファイルを有するような方法で、別々の単位として投与してもよい。別々の実体として投与する場合、これらの活性物質は、治療担当医によって決定される任意の順序で投与してよい。
【0032】
補助的または組合せ用物質は、特に、メサラジン(5-アミノサリチル酸)、オルサラジン、スルファサラジン、イプサラジド、ベンザルアジン、パラアミノサリチル酸(4-アミノサリチル酸)、および薬学的に許容されるその塩など別々の5-ASAまたは4-ASA化合物を含んでもよい。例えば、1つのカプセルに一緒に入れる、または別々に投与する、バルサラジドおよびオルサラジンの組合せは、オルサラジンが腸内に水を分泌するため、下痢型および便秘型IBSの双方の治療に使用することができる。バルサラジドとともにメサラジンは、下痢型IBS用に組み合わせてよい。このような組合せは、組み合わされた個々の活性の増幅によって相乗作用的である。これに関しては、バルサラジドの側鎖は、抗微生物活性を有している可能性があると思われる。混合感染を起こしている下痢型IBS患者におけるクロストリジウム・ジフィシルに対して特異的活性を有するメサラジンと組み合わせた場合、バルサラジドおよびメサラジンは、下痢の抑制において相乗作用的な組合せを提供する。
【0033】
他の補助的または組合せ用成分としては、抗コリン作用薬、プロバイオティクス(例えば、乳酸菌(lactobacilli)、ビフィズス菌(bifidobacteria)、酪酸菌(Clostridium butyricum)などのクロストリジウム(clostridia)、バクテロイデス(bacteroides)、大腸菌(E.coli)およびその他のもの)、許容される抗生物質(例えば、リファブチン、リファンピシン、リファラジル、リファキシミン、およびその他のものなどリファマイシン類;ネオマイシン、バンコマイシン、テトラサイクリン)、鎮痙薬(例えばジサイクロミン)、ならびに様々な賦形剤が挙げられる。
【0034】
本発明で使用するための薬剤/組成物は、バルサラジドを、混合、粉砕、均質化、懸濁、溶解、乳化、分散させること、ならびに、必要に応じて、他の1種または複数種のアミノサリチル酸誘導体が存在する場合には、任意で1種または複数種の選択された賦形剤、希釈剤、担体、および補助剤とともに、かつ、任意で1種または複数種の補助的な組合せ成分とともに混合することを含む、薬学的組成物を調製するための当技術分野において公知の手段によって調製することができる。
【0035】
本発明の薬剤/組成物は、直腸浣腸剤として調製するのに適した任意の形態を含む、錠剤、ロゼンジ、丸剤、トローチ、カプセル剤、ソフトゲルカプセル剤、サシェット、あるいは、他のビヒクル(vehicle)、エリキシル剤、凍結乾燥された散剤を含む散剤、液剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、シロップ、またはチンキ剤の形態であってもよい。徐放型または放出遅延型もまた、例えば、コーティングされた粒子、多層錠、または微粒剤の形態で調製することができる。組成物は、服薬遵守を促進するブリスター包装で提供されてもよい。
【0036】
経口投与用の固形剤は、薬学的に許容される結合剤、甘味剤、崩壊剤、希釈剤、矯味剤、コーティング剤、保存剤、滑沢剤、および/または遅延化剤(time delay agent)を含有してよい。適切な結合剤としては、アカシアガム、ゼラチン、トウモロコシデンプン、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、またはポリエチレングリコールが挙げられる。適切な甘味剤としては、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテーム、またはサッカリンが挙げられる。適切な崩壊剤としては、トウモロコシデンプン、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ベトナイト、アルギン酸、または寒天が挙げられる。適切な希釈剤としては、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、デキストロース、カオリン、セルロース、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、またはリン酸二カルシウムが挙げられる。適切な矯味剤としては、ペパーミント油、ウィンターグリーン油、サクランボ、オレンジ、またはラズベリー香料が挙げられる。適切なコーティング剤としては、アクリル酸および/もしくはメタクリル酸ならびに/またはそれらのエステルのポリマーまたはコポリマー、ワックス、脂肪アルコール、ゼイン、シェラック、あるいはグルテンが挙げられる。適切な保存剤としては、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、α-トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベン、または重亜硫酸ナトリウムが挙げられる。適切な滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、またはタルクが挙げられる。適切な徐放化剤としては、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルが挙げられる。錠剤またはカプセル剤として投与するために、例えば錠剤に圧縮することによって、またはカプセル剤用の充填物として、粉末状または粒状の形態でバルサラジドを混合してもよい。または、バルサラジドは、マイクロカプセルに封入された形態でバルサラジドを含有する錠剤/カプセル剤の形態で提供されてもよい。
【0037】
経口投与用の液状形態は、上記の作用物質に加えて、液状担体を含有してもよい。適切な液状担体としては、水、オリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油、ヒマワリ油、サフラワー油、ラッカセイ油、ヤシ油などの油、液体パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、脂肪アルコール、トリグリセリド、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0038】
経口投与用の懸濁剤は、分散剤および/または懸濁化剤をさらに含んでもよい。適切な懸濁化剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、またはセチルアルコールが挙げられる。適切な分散剤としては、レシチン、ステアリン酸などの脂肪酸のポリオキシエチレンエステル、モノもしくはジオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、モノもしくはジステアリン酸ポリオキシエチレンソルビトール、またはモノもしくはジラウリン酸ポリオキシエチレンソルビトール、モノもしくはジオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノもしくはジステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、またはモノもしくはジラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどが挙げられる。
【0039】
経口投与用の乳剤は、1種または複数種の乳化剤をさらに含んでもよい。適切な乳化剤としては、上記に例示した分散剤、またはアカシアガムまたはトラガカントゴムなどの天然ゴムが挙げられる。
【0040】
典型的には、バルサラジドの二ナトリウム塩が使用される。しかし、他の任意の塩もしくは誘導体またはプロドラッグを使用することができる。したがって、本明細書においてバルサラジドに言及する場合、その塩、プロドラッグ、または誘導体も同様に言及される。
【0041】
有効成分は、限定されるわけではないが、錠剤、ロゼンジ、丸剤、トローチ、カプセル剤、ソフトゲルカプセル剤を含む適切な形態で、またはサシェット中の散剤として、薬学的に許容される1種または複数種の賦形剤とともに混和することができる。これは、サシェット中の体積のより大きい粒状薬剤としても提供されてもよい。カプセル剤、錠剤、またはサシェットは、1日に1回または複数回服用してよく、バルサラジドの用量範囲は1日当たり100mg〜30グラム、例えば、1日当たり100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mg、1000mg、2g、3g、4g、5g、6g、7g、8g、9g、10g、11g、12g、13g、14g、15g、16g、17g、18g、19g、20g、21g、22g、23g、24g、25g、26g、27g、28g、29g、もしくは30g、またはこの範囲内で選択される任意の量である。薬剤は腸溶コーティングされてもよく、腸の上部と下部の双方に到達する徐放型の形態をとってもよい。一態様では、バルサラジドは、遠位の小腸での放出を促進する形態で示される。例えば、本発明の組成物において、バルサラジドは、腸溶コーティングして提供してもよく、または、腸溶コーティングした放出用カプセルで提供してもよく、あるいは、腸溶コーティングしたマイクロカプセルに封入した粒子を、遠位で放出されるアミノサリチル酸、例えばオルサラジンのカプセル剤内部に保持することもできる。腸溶コーティングに適した材料は、当技術分野では公知であり、カルボキシル基を有する様々な合成樹脂、サリチル酸フェニル、およびシェラックが挙げられる。このような腸溶コーティング材料の例は、ポリメタクリル酸、およびメタクリル酸-アクリル酸エステルコポリマーなどのメタクリル酸コポリマー;フタル酸ヒドロキシプロピルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸エチルセルロース、フタル酸メチルセルロース、およびその混合物、酢酸フタル酸セルロース、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コハク酸エチルセルロース、コハク酸メチルセルロース、およびその混合物、酢酸トリメリット酸セルロース、セルロースエーテルフタレート類など修飾されたセルロースエステル;ならびに、ポリビニルアセテートフタレート、スクシネート、またはトリメリテートである。一態様では、腸溶コーティングは、Colorcon(415 Moyer Blvd, West Point, Pa. 19486、アメリカ合衆国)から入手可能なOpadry OY-P22920である。腸溶性被膜形成組成物は、例えば、米国特許第4,556,552号および同第4,704,295号において記載されており、これらの開示内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0042】
一般に、長期の治療の場合、投与量は通常、1日1回など低レベルで始まり、必要に応じて1日に2回または3回など所望の全量に数週間かけて増やす。一態様では、本発明はまた、このような段階的な増量を実現するために順番に服用する、1回分ずつの用量を入れた複数の包装に及ぶ。したがって、バルサラジドは、1日に1回、2回、3回、またはそれ以上の頻度で服用してよい。一態様では、バルサラジドは、1日に2回投与される。無期限に患者の生涯の間を含む、1〜60日またはそれ以上の期間にわたって投与してよい。例えば、バルサラジドは、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月またはそれにわたって投与してよい。症状の軽減が実現された後、例えば、より少量の維持投与量までの減少を含む、バルサラジドの投与を中止、漸減、または無期限に継続してよい。
【0043】
治療担当医によって決定されるように、任意の適切な投与量および投与方法を用いてよい。通常、これは、経口的でも直腸浣腸としてでもよい。一態様では、薬剤/組成物は、通常1日当たりバルサラジド約3グラムの用量で経口投与してもよく、この用量は理想的な用量である。臨床使用のための別の態様では、患者は、1日2回または1日3回のいずれかの投与量として、約1グラム〜4グラムのバルサラジド用量を使用してよい。
【0044】
以上の内容から、このような効果がこれまでは説明されていなかった、バルサラジドの新しい用途が発見されたこと、ならびに、追加の作用物質を添加することによって一層相乗的に、バルサラジドの作用をさらに増強できることが理解されると考えられる。
【実施例】
【0045】
実施例
次に、例を用いて本発明を説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を制限するものとして決して解釈すべきではない。
【0046】
実施例1
ある34歳の女性は、悪化性の下痢(水様性6〜12回/日)、便意切迫、筋痙攣、下腹部痛、および時には便失禁の7年の病歴を有した。明確な先行する疾患も抗生物質の使用もなかった。彼女は、一般開業医が指示する糞便培養、血液検査、超音波検査、およびCTスキャン検査から始めて、多数の検査を受けた。時間の経過とともに、彼女は、一部の食品が症状の悪化を引き起こすことに気づき、ある自然療法医に、「食物アレルギー」に罹患していると告げられた。この患者は食事を制限し、これは、症状を軽減するうえでいくらかためになったが、徐々に体重減少が進んだ。彼女は胃腸科医の診察を受け、組織学的に腹腔疾患を考慮に入れない小腸の内視鏡生検、ならびに生検を伴う結腸鏡検査およびさらなる糞便培養検査を受けた。すべての試験結果が診断に役立たなかったため、彼女は、重度の下痢型IBSであると告げられた。彼女は食事制限を継続し、カウンセリングおよび催眠療法を受けるよう言われた。その後の6〜12ヶ月の間、彼女の体重は次第に減少し、症状は食事療法によってわずかばかり抑制されるだけであった。バルサラジドの用量を一日あたり1.5グラムから3グラムに増量し始めてから2週間以内に、大便が徐々に形を成し、頻度が一日あたり1〜2回の有形便に減少した。疼痛は完全に消失し、便意切迫は無くなり、彼女は食事内容を拡大した。治療の6週間後までに、彼女の体重は7kg戻った。バルサラジドによって、彼女は26週間、ほぼ完全に症状が無い状態を継続する。
【0047】
実施例2
ある67歳の女性は、交替性の便秘を伴う下痢、鼓脹、疼痛、鼓腸、および酸逆流を伴う悪心を20年以上訴えていた。彼女は、糞便検査、血液検査、X線撮像、および結腸鏡検査を含むいくつかの総合的な医療検査を受けたことがあったが、憩室症の存在以外は陰性所見であった。慢性のIBSと診断されたため、彼女は、繊維摂取量を増やし、ストレスを管理し、食事を変更してみたが、すべて役に立たなかった。1.5g/日のバルサラジドを開始し、用量を最大4.5g/日に増加するとすぐ、下痢、疼痛、鼓腸、および悪心が軽減された。より高い用量では、便秘も無くなった。これらの改善効果は、26週間維持されたままである。
【0048】
実施例3
ある28歳の男性は、長期にわたる下痢型過敏性腸症候群を理由に紹介された。その症状は、「粥状」、時には水様性または爆発的であると説明され、背中にまで及ぶ、筋痙攣による腹痛を伴った。鼓脹は無かったが、著しい鼓腸があり、悪心は無く、いくらか酸逆流があった。この男性は、糞便検査および結腸鏡検査などの試験によって大規模な検査を以前にされていたが、症状の原因は発見されなかった。多くの標準治療法を試した後、この男性はさらなる検査を受けた。下痢型IBS患者に対する進行中の臨床試験が実施されていたため、その男性患者は臨床試験中の製品(Salofalk(商標)経口顆粒剤、1グラム、1日2回)から開始した。Salofalk(商標)は、この疾患を有する患者において有用であることが判明している5アミノサリチル酸(メサラジン)のある特定の形態である。しかし、症状は続いた。用量を徐々に増やして2グラムを1日2回、次いで3グラムを1日2回にした後でさえ、重症度は少し軽減されたものの、これらの症状はなお続いた。より高い用量を与えるようにはこの男性患者は用意されなかった(そのような用量は臨床的にも使用されていない)。
【0049】
その男性患者に、本発明によってバルサラジドを用いた治療が提供された。バルサラジドはすぐには有効ではなく、数週間後には、患者の症状は重度レベルに戻った。バルサラジドは、750mgを1日2回の用量で開始し、1.5グラムを1日2回までゆっくりと増量した。症状の改善は劇的であり、より高用量のSalofalk(商標)顆粒剤によるわずかな改善をはるかに上回った。その男性の症状の完全な抑制を試みるために、3グラムのバルサラジドを1日2回(Salofalk(商標)と等価なグラム数)の用量でその患者を処置した。患者の症状は、大部分は消失した。この患者は、便意切迫も鼓腸も全く無く1日に2回の有形便を排便し、以前は摂食しようとしなかった食品を食べることができた。これらの改善は、4ヶ月の追跡期間中、維持されていた。
【0050】
本実施例は、下痢型IBSにおける、標準のメサラジンの使用と本発明によるバルサラジドの使用との差異を臨床的に示す。
【0051】
産業上の利用可能性
本発明は、非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患を治療または予防する方法に関する。
【0052】
本発明の他の態様は、本明細書の考察および本明細書において開示される本発明の実施より、当業者には明らかであると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非炎症性腸疾患、下痢型(diarrhoea-predominant)過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患を治療または予防するための方法であって、有効量の、バルサラジドまたはその塩もしくは誘導体、あるいはバルサラジドまたはその塩もしくは誘導体を適切な担体とともに含む組成物を、そのような治療または予防を必要とする患者に投与する段階を含む方法。
【請求項2】
下痢便秘交替型(altering diarrhoea and constipation type)過敏性腸症候群または便秘型(constipation-predominant)過敏性腸症候群の症状を軽減する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
非炎症性腸疾患、憩室症、憩室炎、下痢型過敏性腸症候群、過敏性腸症候群、鼓脹、下痢、筋痙攣、疼痛、下腹部痛、膨満、腸内ガス、鼓腸、ガス産生、液体分泌、粘液産生、便秘、便意切迫(urgency)、非潰瘍性消化不良、痙攣性結腸、不安定型結腸神経症、痙攣性結腸炎、粘液性結腸炎、交替性の便秘/下痢、失禁、下痢便秘交替型IBS、または便秘型IBSのうちの1種または複数種を治療または予防するための、請求項1記載の方法。
【請求項4】
患者が哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
患者がヒトである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
バルサラジドが、4ASAまたは5ASA化合物のうちの1種または複数種とともに投与される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
5-ASAまたは4-ASA化合物が、メサラジン、オルサラジン、スルファサラジン、イプサラジド、ベンザルアジン、パラアミノサリチル酸(4-アミノサリチル酸)、および薬学的に許容されるその塩である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
バルサラジドが、下痢型、便秘型、または下痢便秘交替型過敏性腸症候群の治療または予防のためにオルサラジンとともに投与される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
バルサラジドが、下痢型過敏性腸症候群の治療または予防のためにメサラジンとともに投与される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
バルサラジドが、抗コリン作用薬、プロバイオティクス、抗生物質、または鎮痙薬とともに投与される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患を治療または予防するための方法であって、有効量の、4-ABA側鎖を含むように修飾された4-ASAもしくは5-ASA化合物またはその塩もしくは誘導体、あるいは化合物またはその塩もしくは誘導体を適切な担体とともに含む組成物を、そのような治療または予防を必要とする患者に投与する段階を含む方法。
【請求項12】
非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患の治療用または予防用の薬剤を製造するための、バルサラジドまたはその塩もしくは誘導体の使用。
【請求項13】
非炎症性腸疾患、下痢型過敏性腸症候群、または他の非特異的な腸疾患の治療用または予防用の薬剤を製造するための、4-ABA側鎖を含むように修飾された4-ASAもしくは5-ASA化合物またはその塩もしくは誘導体の使用。

【公開番号】特開2012−102112(P2012−102112A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−279890(P2011−279890)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2006−551683(P2006−551683)の分割
【原出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(508206944)ファーマテル (アールアンドディー) ピーティーワイ リミテッド アズ トラスティー オブ ザ ファーマテル (アールアンドディー) トラスト (1)
【Fターム(参考)】