説明

下着

【課題】乳房を全体的または部分的に切除された女性が着用するブラジャーについて、その切除部分をおぎなうための乳房補完パッドを着用者ごとに個別に作製する手間を省き、製造コストの低廉化を図る。
【解決手段】乳房補完パッド14を下着のカップの乳房を収容する収容凹部全体とほぼ補完形状をなすように作製する。この乳房補完パッド14は、雄面ファスナ15cにより互いに着脱可能な複数の小パッド15に分割されている。着用者は、乳房補完パッド14全体から不要な小パッド15を適宜取り除き、自身の乳房の切除箇所を過不足なく補完する形状へと調整可能である。乳房補完パッド14の全体形状が統一されているため、個別に乳房の切除部分に対応する形状の乳房補完パッドを作製する場合に比べて、手間や製造コストを省ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳房を全体的または部分的に切除された女性が着用するのに好適な下着に関する。
【背景技術】
【0002】
乳がんなどの乳房の疾患にともない、女性の乳房の患部を含めた箇所を切除する手術がおこなわれている。このような女性が着用するのに好適なブラジャー、ボディスーツ、カップ付きインナーなどのカップ部を有する下着として、乳房を収容する左右のカップに、その乳房の切除部分をおぎなう乳房補完パッドを挿入したものが知られている。
こうして乳房補完パッドを用いることにより、下着のフィット感が改善されるとともに、左右の乳房の形状やバランスが整って、見た目にも優れたものとなる。
【0003】
ところでこの種の下着では、特許文献1に記載されているように、従来は患部切除後の乳房の形状をかたどって、着用者ごとに乳房補完パッドを作製していた。
この方法は、たしかに切除部分を正確に再現した乳房補完パッドを得られるという点では有効である。しかし、乳房補完パッドを着用者の乳房の形状に合わせて個別に作製するのは、非常に手間がかかり、これにともない製造コストも嵩む問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3118227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、乳房を全体的または部分的に切除された女性が着用するのに好適なブラジャー等の下着について、その切除部分をおぎなうための乳房補完パッドを着用者ごとに個別に作製する手間を省き、製造コストの低廉化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、発明にかかる下着を、背面側に乳房を収容する収容凹部を有する左右一対のカップと、前記カップの収容凹部全体とほぼ補完形状をなし前記各カップの背面に着脱可能な乳房補完パッドと、前記各カップを前記乳房上に保持するためのベルトなどの保持具と、を備えるものとしたのである。
そして、前記乳房補完パッドは、互いに着脱可能な複数の小パッドに分割されているものとしたのである。
【発明の効果】
【0007】
発明にかかる下着では、乳房補完パッドの全体形状が各カップの収容凹部全体と補完形状をなす形に統一されているため、個別に乳房の切除部分に対応する形状のものを作製する必要はなく、製造の手間やコストが抑えられる。特に今までの一品製作的なものと比べて、量産に適したものとすることができる。
【0008】
そしてその下着の着用者は、乳房補完パッド全体から不要な小パッドを適宜取り除いていくか、または自身の乳房の形状に合うように小パッドを適宜組み合わせていくことで、乳房補完パッドの形状を自ら調整し、乳房の切除箇所を過不足なく補完するものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ブラジャーの正面図
【図2】ブラジャー着用時におけるカップ部分の断面図
【図3】(a)は乳房補完パッドの斜視図、(b)は乳房補完パッドの一部分解斜視図
【図4】(a)は小パッドの斜視図、(b)は(a)の矢印断面図、(c)は小パッドの平面図
【図5】(a)はブラジャー付き肌着の正面図、(b)はブラジャー付き肌着を裏返しにした正面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
図1および図2に示すように、実施の形態にかかるブラジャー10は、各一対をなす、カップ11と、保持ベルト12と、ストラップ13と、乳房補完パッド14と、を備え、乳房を全体または部分的に切除した女性が着用するのに適した構造となっている。
【0011】
図1および図2に示すように、左右一対のカップ11は、その正面が凸曲面形となりその背面が凹曲面形となって、全体形状が背面に向けて開口する略椀型(フルカップ型)をなしている。その背面側に形成される収容凹部に、女性の左右の乳房Bを収容できるようになっている。
また図2のように、両カップの凹んだ背面のほぼ全域には、多数の小さなループ11aが形成されている。
このようなループ11aの形成態様は特に限定されないが、カップの背面に面ファスナの雌ファスナを貼り付けまたは縫い付けたり、カップの内面側の生地をフレンチパイル生地(小さなループパイルが多数起毛する生地)としたりすることが例示できる。
【0012】
図1に示すように、帯状の保持ベルト12は、左右のカップ11を接続するフロントベルト12aと、各カップ11より外方に延びる左右のバックベルト12bとからなる。
両バックベルト12bの先端部(外端部)には、雌雄のホック12cが取り付けられている。カップ11の収容凹部に乳房を収容した状態で、左右のバックベルト12bをそれぞれ体の左右側面から背中へと巻きつけてホック12c同士を係合させると、着用状態となりカップ11が乳房の上に保持される。
ホック12cの雌雄いずれかは、バックベルト12bの長さ方向に複列に設けられており、その係合箇所を調節することで、着用時に環状となる保持ベルト12の周長をその着用者の体格に合わせて調節できるようになっている。
【0013】
図1に示すように、左右のカップ11の上部と左右同側のバックベルト12bの上部との間に、平紐状のストラップ13がそれぞれ接続されている。
一対のストラップ13は、着用者の左右の肩にそれぞれかけることで、ブラジャー10全体が着用位置からずれ落ちるのを抑制する。
各ストラップ13には、アジャスタ13aが付属しており、これを操作することで着用者の体格に合わせて長さを調節できるようになっている。
【0014】
図1および図3に示すように、乳房補完パッド14は、その正面側がカップ11の正面とほぼ同形をなす凸曲面形であり、その背面側がほぼフラットであって、全体形状がドーム型をなしている。
すなわち、乳房補完パッド14とカップ11の収容凹部とは、ほぼ補完形状をなしており、乳房補完パッド14はカップ11の収容凹部に過不足なく収まるようになっている。換言すれば、カップ11に乳房補完パッド14を収容した状態で、カップ11の収容凹部の開口縁と乳房補完パッド14のフラットな背面とは、ほぼ同一平面上に位置することになる。
このような乳房補完パッド14は、全体として健常な乳房の形状を模したものとなっている。
【0015】
図3および図4に示すように、各乳房補完パッド14は、平面視がほぼ楕円形の小パッド15を複数組み合わせることで形成されている。
図4(b)に示すように、各小パッド15は、芯体15aとこの芯体15aを包む袋体15bとを有し、表面が凸曲面をなし、裏面が平面となっている。なお、裏面を凸曲面としたり凹曲面としたりしてもよい。
芯体15aはポリウレタンなどの発泡樹脂からなり、袋体15bはフレンチパイル生地で形成されている。
【0016】
図4(a)および(c)に示すように、平面視がほぼ楕円形の小パッド15は、その表面の長軸方向の両端部に、平面視円形の雄面ファスナ15cが貼り付けまたは縫い付けられることで取り付けられている。
各小パッド15の表裏面は、小さなループパイルが多数起毛するフレンチパイル生地からなるため、図3のように、隣接する一方の小パッド15の雄面ファスナ15c(フック)を他方の小パッド15の表裏面(ループ)に着脱可能となっている。
これにより、椀型の乳房補完パッド14の組立および分解が可能となっている。
【0017】
図3のように、乳房補完パッド14の膨らんだ正面には、小パッド15の一部の雄面ファスナ15cが露出している。
この乳房補完パッド14の雄面ファスナ15c(フック)を、カップ11のループ11aに係合させ、また係合を解除させることで、乳房補完パッド14は、カップ11の背面に対して着脱可能となっている。
【0018】
実施形態のブラジャー10の構成は以上のようであり、いまこれを乳房が部分的に切除された女性が着用する場合には、まずその乳房補完パッド14全体と自身の乳房とを比較して、乳房補完パッド14が乳房と補完形状をなすように、全体から小パッド15を適宜取り除いてゆくか、または小パッドを適宜組み合わせてゆく。
図2のように、乳房補完パッド14が乳房Bと補完形状をなすように調整したうえで、これをカップ11の収容凹部内に取り付ける。
【0019】
この状態でカップ11の収容凹部に乳房Bを収容し、保持ベルト12を留めてブラジャー10を着用すると、乳房補完パッド14が自身の乳房Bの形状に対応しているため、フィット感が良好であり、また左右の乳房の大きさ、形のバランスが取れて、きれいにも見える。
カップ11の背面には、乳房Bが部分的に接触することもあるが、その接触箇所には尖ったフックではなく丸みを帯びたループ11aが形成されているため、肌触りがよく、チクチクすることがない。同様に、乳房補完パッド14を構成する各小パッド15の表裏面は雄面ファスナ15cを除いてフレンチパイルからなるため、チクチクすることが抑制されている。
なお、露出している雄面ファスナ15cには、フレンチパイルの布辺を被せるなどして、肌に直接当たらないようにすることもできる。
【0020】
乳房補完パッド14の全体形状が、各カップ11の収容凹部全体と補完形状をなすドーム型に統一されているため、個別に乳房の切除部分に対応する形状の乳房補完パッドを作製する場合に比べて、手間や製造コストを省くことができ、量産に好適なものである。
【0021】
カップ11、保持ベルト12およびストラップ13の材質、形状および構造としては、この実施形態や図示したものに限定されず、従来公知のものを適用可能である。
たとえば、カップ11はワイヤ入りでもワイヤレスでもいずれでもよい。またカップ11はフルカップ型でもハーフカップ型(3/4カップ等も含む)でもいずれでもよい。カップ11は、モールドタイプのものでもよいし、バイリーン等を継ぎ合わせて成型したものでもよい。
保持ベルト12は、フロントホック型でもバックホック型でもいずれでもよい。保持ベルト12は、ホックのかわりに、面ファスナやスナップボタンを使用しても構わないし、これら固定具を有しないリング型で伸縮性に富んだものとしてもよい。
ストラップ13は、カップ11や保持ベルト12から取り外し可能としてもよいし、ストラップレスのものでもよい。また左右のストラップ13は、平行なものだけに限られず、背面側でクロスしているものや、背面側で合流して一つになっているものでもよい。ストラップ13のアジャスタを省略してもよい。
カップ11、保持ベルト12、ストラップ13の主たる素材は、綿素材やシルク素材などの天然素材、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維素材のいずれでもよい。いずれの場合も、ポリウレタン糸を挿入したり織り込んだり編み込んだりすることで、伸縮性を持たせるのが好ましい。
同様に、カップ11のワイヤ、保持ベルト12のホック、ストラップ13のアジャスタ等も、金属製でも合成樹脂製でもいずれでもよい。
【0022】
乳房補完パッド14の分割態様は実施形態に限定されない。たとえば、乳房補完パッド14を賽の目切り状態に分割(XYZ座標軸において、X方向、Y方向、Z方向のいずれの方向にも分割)してもよい。
また乳房補完パッド14を上下あるいは左右に輪切り状態に分割したり(XYZ座標軸における、X方向、Y方向、Z方向のいずれか一方向のみに分割)、上下左右に短冊切り状態に分割したり(XYZ座標軸における、X方向、Y方向、Z方向のうちの二方向に分割)してもよい。
細分化の程度も特に限定されず、乳房補完パッド14は、たとえば数パーツ〜数十パーツの小パッド15から構成される。
【0023】
乳房補完パッド14の材質も実施形態に限定されず、たとえば芯体15aとしてビーズや不織布、綿(わた)、シリコン樹脂、ウレタン樹脂を用いてもよい。芯体15aに発泡樹脂を用いる場合にも、連続気泡のものでも独立気泡のものでも、また低反発タイプのものでも高反発タイプのものでも、いずれでもよいし、それらの多層構造に組み合わせたものであってもよい。また、芯体15aが保形性を有する限りにおいて、袋体15bを省略してもよい。袋体15bは、通気性が向上するようにメッシュ状にしてもよい。
乳房補完パッド14の全体形状もカップ11の収容凹部全体と補完形状をなす限りにおいて、変更可能である。たとえばカップ11がハーフカップ型であれば、それと補完形状をなす中実の半ドーム型とすることができる。乳房補完パッド14の背面は、微少に凹凸があってもよい。
【0024】
乳房補完パッド14のフック15cやカップ11のループ11aは、乳房補完パッド14全体がカップ11に着脱可能である限りにおいて、全域に設ける必要はなく部分的に設けてもよい。
また、乳房補完パッド14とカップ11の着脱構造、および小パッド15相互の着脱構造は、実施形態のようにフックとループからなる面ファスナ構造が好ましいが、これに限定されず、スナップボタン、粘着テープ、スライドファスナ等でもよい。
【0025】
また実施形態では、本発明の下着の一例としてブラジャー10を挙げたが、カップ11と、乳房補完パッド14と、カップ11を乳房上に保持するための保持具(実施形態では保持ベルト12およびストラップ13)を備える限り、ブラジャーとガードルなどの他の下着とが一体化されたものにも本発明を適用可能である。このような一体型の下着として、ボディスーツ、図5のようなブラジャー10付きの肌着1(タンクトップタイプ、Tシャツタイプなど)が例示できる。
【0026】
本発明の下着は、乳房が部分的に切除された女性が着用するのに特に好適なものであるが、用途はこれに限定されず、生まれつき左右の乳房の形状が大きく異なっている女性が左右のバランスを整える際や、乳房の大きさが極端に変わる妊婦などにも無論使用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 肌着
10 ブラジャー
11 カップ
11a ループ
12 保持ベルト
12a フロントベルト
12b バックベルト
12c ホック
13 ストラップ
13a アジャスタ
14 乳房補完パッド
15 小パッド
15a 芯体
15b 袋体
15c 雄面ファスナ
B 乳房

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房を全体的または部分的に切除された女性が着用するのに好適な下着であって、
背面側に前記乳房を収容する収容凹部を有する左右一対のカップと、
前記カップの収容凹部全体とほぼ補完形状をなし、前記各カップの背面に着脱可能な乳房補完パッドと、
前記各カップを前記乳房上に保持するための保持具と、を備え、
前記乳房補完パッドは、
互いに着脱可能な複数の小パッドに分割されている下着。
【請求項2】
前記各カップは、前記背面に多数のループを有し、
前記乳房補完パッドは、前記カップの背面との対向面に多数のフックを有し、
前記ループとフックの係合および係合解除により、前記乳房補完パッドは前記カップに着脱可能となっている請求項1に記載の下着。
【請求項3】
前記乳房補完パッドの各小パッドは、互いに対向し合う面に多数のループまたはフックを有し、
前記ループとフックの係合および係合解除により、互いに着脱可能となっている請求項1または2に記載の下着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−246577(P2012−246577A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117843(P2011−117843)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【特許番号】特許第4885324号(P4885324)
【特許公報発行日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(395007705)クロス工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】