説明

下肢静止不能症候群を治療及び診断するための方法及び組成物

下肢静止不能症候群(RLS)の治療法は、ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬、特にプラミペキソールから選択される薬剤、並びに生物学的に利用可能な形態の鉄の薬理学的に有効な併用量での併用投与を含む。又、対応する使用;ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬、特にプラミペキソールから選択される薬剤、生物学的に利用可能な形態の鉄、並びに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物;ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤、並びに薬学的に許容される担体を含む経口投与用の医薬組成物、及び生物学的に利用可能な形態の鉄及び薬学的に許容される担体を含む経口投与用の医薬組成物を含むパッケージ;が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠時の周期性四肢運動を含む下肢静止不能症候群を治療及び診断する方法、及びその方法を実施する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
下肢静止不能症候群(RLS)患者は、座位の継続又は静止立位の継続に困難を感じる。交通輸送(自動車、飛行機、汽車等による旅行)又は長時間の会議、講義、映画若しくはその他の催物への出席など、運動静止を維持することが必要な、また限られた認知刺激を含む活動は、困難になり又は不可能でさえある。これらの症状は、通常夕方や夜間の早期に悪化し、RLS患者のサブグループは実際睡眠に大きく支障を来たし、しばしば不眠が顕著な合併症となる。これらの症状は生活の質(quality of life)に著しいマイナスの影響をもたらす。その症状は、一般的に、立ち上がること、動き回ること、又は短時間歩行などの運動によって改善し得る。しかしながら、その症状はそのような活動後まもなく増加した強度で元に戻る。RLS患者が強制的に横たわった状態にされると、その症状は持続し、不随意運動を引き起こす可能性がある。
【0003】
大多数のRLS患者は、睡眠時の周期性四肢運動(PLMS)又は覚醒時の周期性四肢運動(PLMW)を呈する。PLMSは足、足の母指の律動的伸長及び足首の背屈としてよく表現される。時に、この運動は膝と股関節の屈曲を伴う。これらの運動は約0.5から5秒間持続し、約20から40秒毎に1回の周期で顕われる。PLMSは群発性発作として発生し、その各々は数分又は数時間も持続することがある。PLMS/PLMW及びRLSは互いに独立に認められるが、疫学的データは、凡そ90%のRLS患者がかなりの期間PLMSを呈することを示唆している。しかしながら、PLMSは覚醒時にRLS症状のない患者で発症すると考えられる。
【0004】
RLSの臨床診断は、遭遇する4大判定基準に基づく(Sleep Med. 2003 Mar;4(2): 121-32., Walters AS, LeBrocq C, Dhar A, Hening W, Rosen R, Allen RP, Trenkwalder C; International Restless Legs Syndrome Study Group. Validation of the Internation-al Restless Legs Syndrome Study Group rating scale for restless legs syndrome:を参照)。これらには:(1)脚を動かしたい衝動感覚(通常は脚であるが、しかし腕や胴部も関わる);(2)感覚を失わせる運動不隠状態;(3)就寝時に症状はしばしば戻り又は悪化する;そして(4)夕方及び夜間早期の間のRLS症状の出現ピーク又は重症度の顕著な日内変動、が含まれる。
【0005】
RLS及びPLMSは、一般的に患者の病歴及び標準化したアンケート、並びに睡眠ポリグラフ計による評価によって診断される。国際RLS研究会(IRLSSG)によって作成された10項目の質問評価尺度は、臨床評価、研究又は治験の目的のためのRLS重症度の評価に有用なことが認められている。RLS又はPLMの定量化のための推奨運動抑制試験及び強制運動抑制試験などの標準化した試験が提案されている。
【0006】
多くの研究は、RLS/PLMSの基礎的病態生理が、鉄及びドーパミンの輸送とターンオーバーのメカニズムに関わることを示唆する。脳及び身体の他の体液/コンパートメントの鉄の減少、並びに脳におけるドーパミン合成の低下がRLSにおいて提示されている。ドーパミンは脳で合成される神経伝達物質であり、適切な中枢神経(CNS)機能に対する本質的な特徴を有する。鉄は、ドーパミン代謝の律速段階である酵素チロシンヒドロキシラーゼのコファクターである。加えて、実験データは、鉄が、運動及び感覚機能に関与するCNS領域におけるドーパミンの適切な経膜輸送及びドーパミン機能の不可欠な成分であることを示す。鉄の欠乏は、ドーパミン系活性に対するその潜在的影響により、RLSの病態生理の重要な1成分であることが確認されている。
【0007】
鉄の含量及び利用できる度合いの減少は、チロシンヒドロキシラーゼ活性の低下又はドーパミンの合成及び代謝に緊密に関わる他のメカニズムの結果として、ドーパミン利用性の障害をもたらす。動物実験の結果は、鉄などの金属に結合し、それにより上記金属の生理的利用性を低下させる物質は、ドーパミン及びドーパミンターンオーバーを減少させるのに有効であることを示した。鉄欠乏動物では、細胞外ドーパミンは上昇したものの、ドーパミン受容体、ドーパミン輸送体機能及び受容体密度は損なわれた。この考えに沿って、大脳基底核におけるドーパミン受容体の減少を示すRLS患者では、フェリチン及びトランスフェリンの正常な血清レベルにもかかわらず、脳脊髄液(CSF)の65%の低下及びCSFトランスフェリン(血液と体液中の鉄輸送蛋白質)濃度の3倍増加を示すことが認められた。これらの結果は、鉄及びドーパミンの、特に中枢神経系のレベルでの欠乏が、RLSの発症に重要な役割を担うという仮説を強化するものである。広範に検討されたわけではないが、RLSの病態生理の原理はPLMS/PLMWの状態に進展する可能性があり、原則的にRLSの状態に類似しているというコンセンサスがある。頻回覚醒による睡眠障害及び昼間機能と生活の質に対する関連した因果関係は、この状態の重要な特徴である。本出願においては、RLS及びPLMS/PLMWの状態は、合わせてRLSと呼ばれる。
【0008】
数多くの異なる治療様式が、現在RLSにおいて利用可能である。これらには、ドーパミン受容体アゴニスト、他のドーパミン作用性薬剤、ベンゾジアゼピン類、オピエート類及び抗痙攣薬の投与が含まれる。しかしながら、これらのうちいくつかの薬剤の使用は、物質によっては、悪心、嘔吐、不眠、昼間鎮静、認知性副作用、アレルギー反応、アナフィラキシーショックなどを含む望ましくない副作用によって妨げられる。
【0009】
レボドーパの経口摂取は、一般的に治療の最初の週又は月の間は有効にRLSを治療する。しかしながら、連続使用は高頻度に、耐性発現、症状の増悪又はRLSの全身悪化を導く。同様の影響は、しばしばドーパミン受容体アゴニストによる長期治療時に見られる。ベンゾジアゼピン類、オピエート類及び抗痙攣薬のような他の良く使われる治療薬は、ドーパミン薬よりも一様に効果が弱く、そして副作用はそれらの臨床的適用を明らかに制限する程度に好発する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した技術の現状から明らかなように、RLSを治療する改良法が求められている。特に、新しい薬理的治療は、しばしばその多くが不十分な効果に止まり、又あるものは潜在的に重大な副作用や使用制限を伴うが、現在使用されている方法の前に明らかな利点を提供し得る。
【0011】
従って、本発明の1つの目的は、周知の方法の欠点の幾つか又は全てを減らすか及び/又はなくすことができるRLSの治療法を提供することである。本発明の別の目的は、上記方法を実施する手段を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、患者のRLS/PLMW及びPLMSの存在を検出するための診断ツール、及び対応する診断法を提供することである。
【0013】
本発明の更なる目的は、本発明の以下の要約、図面に記載の多くの好ましい実施態様、及び添付の特許請求の範囲から明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、PLMS及びPLMWを含むRLSを治療する方法が提供され、その方法は、ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤、並びに生物学的に利用可能な形態の鉄の、薬理学的に有効な併用量での併用投与を含む。驚くべきことに、これらの併用量の投与は、ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤の対応量、並びに生物学的に利用可能な形態の鉄の対応量を別々に独立に投与するよりも有効である。本発明の併用投与において、生物学的に利用可能な形態の鉄は、ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤のRLS減弱効果を有利に増強する。ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤、又は幾つかのこのような薬剤の併用の薬理学的有効量は、午後、夕方の間、及び夜間又は他の睡眠時間の間などの、10分から10時間までの時間にわたって、RLSの発現を消失させ又は実質的に低減し若しくは減弱させる量である。
【0015】
本出願において、ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤は、「ドーパミン作動薬」又は「DA薬」とも呼ばれる。更に、本出願において、生物学的に利用可能な形態の鉄は「IR」と呼ばれる。
「生物学的に利用可能な形態」は、鉄が胃腸管粘膜によって取り込まれ得るか、又は注射又は点滴によって欠乏した鉄の貯えを回復するために体内で使用される形態に関する。本出願では、ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤、並びに生物学的に利用可能な形態の鉄の併用は「DA薬/IR」と呼ばれる。「併用投与」は、時間的に定義された方式での投与、同時か若しくはほぼ同時、又は連続的な投与を示す。「併用投与」は、別々ではあるが重複した投与スキームにおけるDA薬/IRの成分の投与を含む。
【0016】
ドーパミンは、RLSを含む多くの状態を治療するために数十年間使用されている。ドーパミンの他の認定され、また文書化された適応としては、Mobus Parkinson(脳のD2及びD3受容体)、心不全及び心原性ショック(血管D1受容体)が挙げられる。ドーパミンの公知の治療上の使用に関する最近の調査については、Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 10th Ed., Pergamon Press, New York etc., 2001を参照されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ドーパミン受容体に対して興奮効果を有する多くの薬剤が業界で周知である。それらの化学構造は非常に多様である。本発明において特に有用なドーパミン及び中枢神経性ドーパミン作用促進薬としては、カルビドーパ及びレボドーパ;ドーパミン;ドブタミン;ロピネロール、カベルゴリン、プラミペキソール、ペルゴリド、ロチゴチン、リスリド及びブロモクリプチンのようなドーパミンアゴニスト;例えば、セレギリン、ラサギリン及びサフィナミド(safinamide)のようなドーパミン促進性MOA‐B阻害剤;並びに例えば、バノキセリン(GBR−12909)、ラダファキシン(radafaxine)及びSEP−226330のようなドーパミン再取り込み阻害剤が挙げられ、更に有機又は無機酸と塩を形成できる上記の化合物中の、それらの薬学的に許容される塩、エナンチオマーも含まれる。上記の化合物は文献に広範囲に記載されている;例えば:Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 10th Ed., Pergamon Press, New York, 2001 and Martindale The Complete Drug Reference 34th Ed., Pharmaceutical Press, New York, 2005 及びその引用文献を参照。これらの刊行物(これらは、参照することにより本明細書に取り入れられている)において、本発明において有用な医薬組成物が、多数のDA薬として記載されている。全ての異なる化学構造及び特異的に水溶液に僅かしか溶解しない塩類も本発明に含まれる。このことは、制御放出性DA薬/IR組成物の製造において、特に格別興味深いと考えられるそれらの化学構造に対して特異的に当てはまる。可能性のあるDA薬/IR混合物は、選択された投与経路に適切な方式で有利に製剤化される。
【0018】
RLSの治療におけるIRの正の効果は、中枢神経系におけるドーパミン作用性活性の増強と、それによる上記ドーパミンの効果の模倣に因ると考えられる。この仮説は、該IRの観察された効果に対する科学的に興味を引く説明を与えると思われるものの、このことが本発明の概念と仕組みに何らかの結びつきがあると考えるべきではないことを強調しなければならない。本発明の生物学的に利用可能な形態のIRは、好ましくは、酸と、より好ましくは有機酸とFe2+との塩、又はFe2+の水酸化物である。好ましい有機酸は、アスコルビン酸、アスパラギン酸、フマル酸、グルコン酸、及びコハク酸を含む。好ましい無機酸は、塩酸及び硫酸を含む。本発明のIRは、デキストラン、ソルビトール、及び蔗糖などとの錯形成によって安定化され得る。本発明で特に有用なIRは、経口投与用として、フマル酸第一鉄、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、グルコン酸第一鉄ナトリウム、鉄デキストラン、鉄ソルビトール、鉄蔗糖などのFe++の炭水化物錯体を、カプセル剤、持続放出カプセル剤、水溶液、トローチ剤、シロップ剤、懸濁液、チュアブル錠を含む錠剤の形態で、そして非経口投与用として、それらの水溶液を含む。筋肉内注射に好ましいものは、水溶性担体中の鉄ソルビトール、鉄蔗糖、及び鉄デキストランである。
【0019】
本発明のDA薬/IR併用は、幾つかのDAと1つのIRとの併用混合物、幾つかのIRと1つのDAとの併用混合物、又は幾つかのDAと幾つかのIRとの併用混合物を含むことができ、種々の経路で投与することができる。最も好ましい経路は経口投与によるものであるが、その場合は、医薬製剤、この場合、本発明の薬剤は、舌下取り込みなどの口腔粘膜を介する好ましい取り込み用に設計することができる。また本質的に胃腸粘膜吸収を達成するように、本発明のDA/IR薬を放出する製剤も好ましい。DA及びIRの臨床薬物動態についての知識(例えば: Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 10th Ed , Pergamon Press, New York, etc., 2001を参照)は、上述の医薬製剤を設計するのに有用である。本発明の好ましい態様によれば、DA薬及びIRの経口又は非経口投与は別々の医薬製剤によって行われ、それらは、同時に、又は1、5若しくは10分以内のような短時間で、又は30分若しくは2時間までの及び12又は24時間以上の間隔で連続的に投与されてよい。
【0020】
上述の製剤を製造するためには、業界で周知の製剤方法を使用することができる;
これに関連して、以下の文献:Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets. Vol. 1-3, H. A. Lieberman etal., Eds. Marcel Dekker, New York and Basel, 1998、が参照される。この文献は、参照することにより本明細書に取り入れられている。具体的には、第7章(Special Tablets, by J. W. Conine and M. J. Pikal)、第8章(Chewable Tablets, by R. W. Mendes, O. A. Anaebonam and J. B. Daruwala)、及び第9章(Medicated Lozenges; by D. Peters)が参照される。
【0021】
本発明の第2の好ましい態様によれば、ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤、並びに生物学的に利用可能な形態の鉄を、RLSの治療に薬理学的に有効な併用量で含む、医薬組成物が開示される。
【0022】
本発明の第3の好ましい態様によれば、静脈内注射用、特に1若しくは数週間又は1か月以上の期間にわたって投与するように予定された別々の多くの注射用のIR製剤、及び1日1回又は週1回基準などの、IR製剤の注射期間と同じか又は重複する期間にわたる、反復投与のためのDA薬を含む経口製剤の幾つかの投与量を含む、併用パッケージが開示される。このような併用パッケージに適用される投与量は、臨床試験(例えば、3か月間にわたる合計で1gの鉄蔗糖の反復IR注射と、0.35mgのプラミペキソールの1日1回摂取との併用)によってルーチンに決められた有効性データに基づくものである。DA及びIRの経口投与のための本発明の併用パッケージの別の例は、100mgの硫酸第一鉄を含む錠剤と0.35mgのプラミペキソールを含む製剤との併用を含む。
【0023】
短い薬理学的半減期を有するDA薬を使用する場合には、睡眠時に特に困難な頻回投与の必要性を回避するために、本発明のDA薬/IR併用の徐放性の経口、口腔又は舌下用医薬製剤を設計することが望ましい。この問題の好適な解決は、舌下領域内かその近傍に、DA薬/IR併用を含む製剤の1つ又は両成分を、少なくとも一定期間の間固定することであろう。このことは、下顎の1つ又は幾つかの歯に付着した錠剤、トローチ剤又は類似剤を固定又は保持す器具によって、又は、例えば下顎へチタンの保持手段を埋め込むことによって実施することができる。またこれらの保持手段は、本発明のDAの液体又は固体の医薬組成物を封入する小さなプスチック容器を保持するために使用することができ、その容器からは、溶液が微細開口、又は例えば浸透圧によって駆動される微小孔のシステムを介して漏出する。また本発明の化合物を、生分解性か又はそうでないポリマーマトリックスに取り込み、そこから化合物が口腔内にゆっくり漏出するようにすることも可能である。薬理学的に活性な化合物の取り込みと持続放出のためのポリラクチド/ポリグリコリドタイプの生分解性ポリエステルマトリックスを製造するための適切な技術は、例えば、L. A. Sanders et al., J. Pharmaceutical Sci. 75 (1986), 356-360 及び 米国特許第 3,773,919号(Boswell)に記載されている。適切な物性を有する非分解性ポリマーも、またマトリックスとして使用することができきる。
【0024】
RLSの治療のために併用投与されるDA薬及びIRの量は、使用されるDA薬/IR製剤の特殊な化学的性質、投与経路、それが取り込まれる製剤の放出特性、疾患の重症度、個人個人の薬物速度論的及び薬力学的特性、並びに患者の状態などの要因によって変動する。例えば、プラミペキソールの経口投与の用量範囲は、24時間当り0.009mgから1mgまでである。通常、0.18から0.5mgまでの量のプラミペキソールが、成人への経口投与に使用される正常範囲と想定される。鉄蔗糖のようなIR製剤の用量域は、200及び2,000mgの間で変動し得る。特殊なDA薬又はIR若しくはDA薬及びIRの併用の適切な用量範囲は、ルーチン実験における滴定によって決定することができる。
【0025】
上記の本発明のDA薬及びIRの投与方法に加えて、非経口、鼻腔内、及び直腸内投与もまた有用である。
【0026】
本発明の方法によれば、DA薬は口又は鼻を介する吸入などの吸入によっても効率的に投与することができる。鼻粘膜は鼻腔内又は鼻腔外器具の使用によって容易にアクセス可能であり、後者のものは、口腔内及び舌下投与用に上記したものと同様に、適切に成形され設計される。本発明のDA薬を含む経皮製剤は、単純さの点でまた患者の快適性の観点から特に有利である。この場合、薬剤は粘性の高い軟膏剤又は類似の形態で皮膚に塗布される。皮膚を介する制御薬剤送達のための経皮システム(液体又は半液体医薬組成物による貼付剤)は、例えば、循環器系の疾患に用いられるニコチンや薬物の投与に使用される製剤として当業者に周知である。
【0027】
本発明のDA薬/IR併用を含む組成物及び/又は器具を投与するタイミングは、個々の化合物、粘膜又は皮膚を介してのその吸収速度、もし使用される場合は、各々の徐放性製剤及び/又は使用する器具の放出特性、及び同様のものに依存する。一般的には、DA薬/IR併用の投与は、大部分のケースにおいて、最適な効果を達成するために、RLS症状期に十分先立って、例えば睡眠開始前10分から6時間に開始しなければならない。
【0028】
本発明のDA薬/IR併用は、また1つのそして同一の医薬製剤中に、RLS/PLMSの治療に有用な他の薬理学的に活性な化合物と共に、併用することができる。
【0029】
本発明のDA薬/IR併用は、またRLSを診断し、そしてそれによってこの状態を他のタイプの睡眠障害から分離するのに使用してもよい。本発明の診断方法は、日中/夜間/睡眠時間前の一連の期間に、量を増加させながらDA薬/IRの組み合わせを患者に投与することを含む;投与は単回投与でも複数回投与でも良い。重症度及び/又はRLS事象若しくは症状出現の低減、又は日中の眠気の低下/意識レベルの増加の所見は、RLSの存在を示唆する。
【0030】
ここで、各患者において国際下肢静止不能症候群尺度(IRLSS)により評価された、RLSの臨床症状に対するDA及びIRの併用効果を示す図面に例証された、好ましいが非限定的な実施態様を参照しながら、本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
実施例1:下肢静止不能症の3名の異なる患者における、DA及び鉄蔗糖を用いた単盲検法による非対照治療研究。
【0032】
中等度から重度のRLS/PMLS(それぞれ、ベースラインでのPLM指標(PLMI)は3及び17、IRLSSスコアは30及び28(図1:A))の2名の患者について検討した。プラミペキソール(二塩酸塩・一水和物の形態で)0.35mgを1日1回夕方投与で21日間与えた結果、それぞれ3から0へ、そして17から2へPLMIの平均減少をもたらし、そしてIRLSSスコアは、ベースラインでの30から21日目での15へ、そしてベースラインでの28から21日目での17へそれぞれ低減した(図1;B)。試験中いずれの患者からも副作用は報告されなかった。RLSの病状の残存に因り、500mg用量の静脈注射2回の鉄蔗糖を1週間導入した(図1;C)。鉄蔗糖の最後の注入から3週後に評価を行ったとき、2名の患者は両者共いずれのRLSの病状も示さなかった。血清フェリチンレベルは、ベースラインでの30/45mg/dlから鉄蔗糖注入後130/145mg/dlまで増加した。患者がプラミペキソール治療を1週間中止したところ、症状が再発した(プラミペキソールの1治療休止後のIRLSS尺度は14及び18。図1;D)。しかしながら、IRLSS尺度におけるベースライン値の30及び28は達成されなかった。既使用量のプラミペキソールを再導入した後、12週後のIRLSSスコアは、2名の患者において0及び4であることが分かった(図1;E)。
【0033】
本症例報告は、鉄の補充及びドーパミン作動薬の併用療法によるPLMI及びRLSの病状の顕著な低減を明瞭に示す。RLS及びPLMの病状の制御に関して2つの治療法の明らかな相加効果が見られ、薬剤、即ち、DA及び鉄、の併用が、どちらか一方の薬剤を単独使用した場合より優れた効果をもたらすことが強調された。
【0034】
実施例2:その後の臨床観察研究は、L‐ドーパ(レボドーパ)及びカルビドーパ(Sinemet(登録商標)、100mgのL‐ドーパ及び25mgのカルビドーパの固定した併用用量)による治療下にある、診断的評価においてRLSの臨床症状及びIRLSSスコア:26を呈した1患者を含んだ(図2:A)。この患者は、受容できる症状緩和を得るために、1晩当たり全体で3錠により治療する必要があった(IRLSSスコア4。図2;B)。しかしながら、この患者は、治療を最適化したとき、悪心と嘔吐を含む著しい胃腸の副作用を訴えた。加えてこの患者は、2か月の治療の後で、昼過ぎにRLSが発症することによって証明された増大を示唆する顕著な症状に苦しみ始めていた。投与量を一晩当たり1錠に低減することによって副作用を消失させたが、増大問題の一部において、RLSの症状は十分には制御されなかった(IRLSSスコア:16。図2;C)。そのため、鉄血中状態(血清フェリチン85mg/dl)の良好なバランスを有するこの患者に、200mgの鉄デキストランを毎日6か月にわたって経口投与した。少なからぬ改善が認められ、この患者はRLSの完全緩和を示し(IRLSSスコア:0、図2;D)、そして更なる増大問題は示さなかった。加えて、患者は1晩当たり1錠の低減用量のドーパミンで継続的に治療することができ、症状の継続的軽減を伴うことが認められた(IRLSS:0)。ドーパミン作動性治療を全く中止する試みは失敗であった。この中止後、大幅な症状のぶり返しが認められた(IRLSSスコア:15、図2;E)。鉄デキストランによる治療は、この患者にいかなる副作用も惹起しなかった。
【0035】
これらの症例報告は、RLSのドーパミン作動性治療と一緒の鉄治療の併用が、RLS症状制御の改善を達成するのに使用可能であること、及びドーパミン作動薬の投与量が、単剤としてDA単独の使用と比べて併用で使用した場合に低減することができることを明瞭に示す。RLSにおけるDA及び鉄の併用治療に基づく治療は、また治療の副作用の頻度と重症度の低下と共に、より良好なRLS症状の制御をもたらした。その上、単剤DA治療の使用で観察された前記の増大を制御する能力の向上が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】鉄蔗糖及びプラミペキソールを投与した場合の、RLSに罹患した2名の患者の臨床評価を説明する図である。
【図2】L‐ドーパ及びカルビドーパ、並びに鉄デキストランの固定した組み合わせ投与した場合の、RLSに罹患した第3の患者の臨床評価を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤、並びに生物学的に利用可能な形態の鉄の、薬理学的に有効な併用量での併用投与を含む、下肢静止不能症候群(RLS)を治療する方法。
【請求項2】
ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬が、レボドーパ;カルビドーパ;ドーパミン;ドブタミン;ロピネロール、カベルゴリン、プラミペキソール、ペルゴリド、ブロモクリプチン、ロチゴチン及びリスリドのようなドーパミンアゴニスト;セレギリン、ラサギリン及びサフィナミド(safinamide)のようなドーパミン促進性MOA‐B阻害剤;並びにバノキセリン(GBR−12909)、ラダファキシン(radafaxine)及びSEP−226330のようなドーパミン再取り込み阻害剤;更に薬学的に許容される塩を形成可能な前記化合物中のそれらの塩から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生物学的に利用可能な形態の鉄が、塩又は水酸化物の形態の第一鉄イオンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鉄が錯体化されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
鉄錯化剤が炭水化物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記炭水化物がデキストラン、ソルビトール、蔗糖から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記塩が無機酸の塩である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記塩が塩化物又は硫酸塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記塩が有機酸の塩である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記塩がフマル酸第一鉄、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、グルコン酸第一鉄ナトリウム、アジピン酸第一鉄のいずれかである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記鉄酸化物が酸化第一鉄である、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
該併用投与が本質的に同時投与である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該併用投与が連続投与である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤の投与時間、並びに生物学的に利用可能な形態の鉄の投与時間が重複している、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
投与が睡眠時間の10分前から10時間前までに開始される、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
投与が経口及び/又は非経口である、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤の投与が経口であり、そして生物学的に利用可能な形態の鉄の投与が筋肉内又は非経口である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
徐放性組成物中のドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤の投与を含む、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
IRが0.1mgから2,500mgまでの用量で投与される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
下肢静止不能症候群(RLS)を治療するための医薬品を製造するための、ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤、並びに生物学的に利用可能な形態の鉄の組み合わせの使用。
【請求項21】
前記薬剤が、レボドーパ;カルビドーパ;ドーパミン;ドブタミン;ロピネロール、カベルゴリン、プラミペキソール、ペルゴリド、ブロモクリプチン、ロチゴチン及びリスリドのようなドーパミンアゴニスト;セレギリン、ラサギリン及びサフィナミド(safinamide)のようなドーパミン促進性MOA‐B阻害剤;並びにバノキセリン(GBR−12909)、ラダファキシン(radafaxine)及びSEP−226330のようなドーパミン再取り込み阻害剤;更に薬学的に許容される塩を形成可能な前記化合物中のそれらの塩から選択される、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記鉄が第一鉄塩又は水酸化物である、請求項20又は21に記載の使用。
【請求項23】
医薬品が徐放性組成物の形態である、請求項20〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
医薬品が経口投与用である、請求項20〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤、生物学的に利用可能な形態の鉄、並びに薬学的に許容される担体を含む、経口投与用の医薬組成物。
【請求項26】
経口投与用の錠剤、トローチ剤、カプセル剤又は類似の形態をした、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される薬剤、並びに薬学的に許容される担体を含む経口投与用の医薬組成物、並びに生物学的に利用可能な形態の鉄及び薬学的に許容される担体を含む経口投与用の医薬組成物を含むパッケージ。
【請求項28】
ドーパミンターンオーバー増加薬及びドーパミン作動性受容体興奮薬から選択される前記薬剤が、レボドーパ;カルビドーパ;ドーパミン;ドブタミン;ロピネロール、カベルゴリン、プラミペキソール、ペルゴリド、ブロモクリプチン、ロチゴチン及びリスリドのようなドーパミンアゴニスト;セレギリン、ラサギリン及びサフィナミド(safinamide)のようなドーパミン促進性MOA‐B阻害剤;並びにバノキセリン(GBR−12909)、ラダファキシン(radafaxine)及びSEP−226330のようなドーパミン再取り込み阻害剤;更に薬学的に許容される塩を形成可能な前記化合物中のそれらの塩から選択される、請求項27に記載のパッケージ。
【請求項29】
生物学的に利用可能な形態の鉄が無機若しくは有機酸の第一鉄塩の形態、又は場合により炭水化物により錯体化された酸化第一鉄の形態である、請求項27又は28に記載のパッケージ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−520023(P2009−520023A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547181(P2008−547181)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【国際出願番号】PCT/SE2006/050553
【国際公開番号】WO2007/073325
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(508185339)セリュウサイエンス エイビー (1)
【Fターム(参考)】