説明

不可逆的電気穿孔による組織アブレーション

【課題】癌性の細胞または非癌性腫瘍のような望ましくない組織のアブレーションのための新規方法を開示する。
【解決手段】これは、望ましくない組織の近傍へのまたはその近くへの電極の配置から、望ましくない組織の全域にわたる細胞の不可逆的電気穿孔を引き起こす電気パルスの印加までを伴う。電気パルスは、細胞膜を不可逆的に透過性とし、これにより細胞死を惹起する。不可逆的に透過性とされた細胞は本来の位置に残存し、生体の免疫系により除去される。熱的損傷を誘導することのない不可逆的電気穿孔の使用を通じて実現可能な組織アブレーションの量は多量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2003年12月24日に出願された米国特許仮出願第60/532,588号の恩典を主張するものであり、この出願は本明細書に参照として組み入れられる。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、組織の電気穿孔の分野および組織が不可逆的電気穿孔により破壊される治療の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
良性または悪性腫瘍の治療のような、多くの医療処置において、周囲の望ましい組織に影響を及ぼすことなく、制御されかつ焦点化された方法で望ましくない組織をアブレーションすることができることは重要である。長年にわたり、切除手術の代替として望ましくない組織の特定区域を選択的に破壊するために、非常に多くの最小侵襲法(minimally invasive method)が開発されてきている。特定の利点および欠点を伴う様々な技術が存在し、これらは様々な適用について適応および禁忌である。例えば凍結外科は、望ましくない組織に挿入した、凍結剤で冷却したプローブとの接触時に組織が凍結される、低温最小侵襲技術である(Rubinsky, B., ed. Cryosurgery, Annu. Rev. Biomed. Eng., Vol.2. 157-187.)。凍結外科のような低温療法の影響を受けた領域は、画像化により容易に制御することができる。しかしこれらのプローブは大きく、使用が困難である。非選択的化学アブレーションとは、エタノールなどの化学物質が、望ましくない組織へ注射され、アブレーションを引き起こす技術である(Shiina, S., et al., Percutaneous ethanol injection therapy for hepatocellular carcinoma : results in 146 patients, AJR, 1993. 160:p.1023-8)。非選択的化学療法は、適用が容易である。しかし影響を受ける区域は、局所的血流および化学種の輸送のために、制御することができない。温度上昇も、組織アブレーションに使用することができる。集束超音波は、望ましくない組織上に集束した高強度の超音波ビームを使用して組織を加熱して凝固させる、高温非侵襲性技術である(Lynn, J.G., et al., A new method for the generation of use of focused ultrasound in experimental biology, J. Gen Physiol., 1942.26:p.179-93;Foster, R.S., et al., High-intensity focused ultrasound in the treatment of prostatic disease. Eur. Urol., 1993.23:p.44-7)。電流も、組織の加熱に通常使用される。高周波アブレーション(RF)とは、活性電極を望ましくない組織へ導入し、最大500kHzの高周波交流を使用して組織を加熱し凝固させる、高温最小侵襲技術である(Organ, L.W., Electrophysiological principles of radiofrequency lesion making, Appl. Neurophysiol., 1976.39:p.69-76)。RF加熱に加え、組織へ挿入した電極およびDCまたはAC電流による従来のジュール加熱法も一般的である(Erez, A., Shitzer, A.(Controlled destruction and temperature distribution in biological tissue subjected to monoactive electrocoagulation) J. Biomech. Eng., 1980:102(1):42-9)。組織内(interstitial)レーザー凝固とは、光ファイバーにより腫瘍へ送達された低出力レーザーを使用し、タンパク質変性の閾値を超える温度にまで腫瘍を徐々に加熱する、高温温熱技術である(Bown, S.G., Phototherapy of tumors. World. J. Surgery, 1983. 7:p.700-9)。高温温熱療法は、適用の容易さという利点を有する。その欠点は、血液循環は組織内に生じる温度野(temperature field)に対し強力な局所的作用を有するので、治療される区域の範囲が制御困難であることである。手術の器具(armamentarium)は、各々がそれら自体の利点および欠点ならびに特定の適用を有する、現存する多数の最小侵襲手術技術の利用可能性により増強されている。本明細書は、組織アブレーションのための別の最小侵襲外科技術である不可逆的電気穿孔を開示する。本発明者らは、この技術を説明し、数学的モデリングによりその実行可能性を評価し、インビボでの実験的研究による実行可能性を証明する。
【0004】
電気穿孔は、細胞膜のある電気パルスへの曝露により、細胞膜を透過性にする現象として定義される(Weaver, J.C. and Y.A. Chizmadzhev, Theory of electroporation : a review. Bioelectrochem. Bioenerg., 1996.41:p.135-60)。電気穿孔パルスは、振幅、形状、時間の長さ、および反復の回数の特定の組合せを通じ、細胞膜の透過化以外に、生物細胞に対する他の実質的作用を生じないような電気パルスとして定義される。電気穿孔を生じる一連の電気的パラメータは、以下とは区別される:a)細胞および細胞膜に対し実質的作用を有さないパラメータ、b)実質的温熱作用(ジュール加熱)を引き起こすパラメータ、ならびにc)細胞膜に影響することなく、細胞の内部、例えば核に影響するパラメータ。電流が生物学的物質に印加された場合に生じる温熱作用であるジュール加熱は、数百年間知られている。前段落において、細胞を損傷する値へ温度を上昇する電気的温熱作用は、望ましくない組織のアブレーションに通常使用されることを注記した。温熱作用を生じるパルスパラメータは、その実質的作用が細胞膜を透過性とするのみである電気穿孔パルスよりも、より長くおよび/またはより高い振幅を有する。
【0005】
組織をアブレーションする温熱作用を電気的に生じる様々な方法が存在する。これらは、RF、電極加熱、および誘導加熱を含む。温熱作用を生じる電気パルスは、電気穿孔を生じるパルスとは著しく異なる。この識別は、細胞に対するそれらの作用およびそれらの有用性を通じ認識することができる。温熱電気パルスの作用は、主に生物学的物質の温度に対するものであり、およびそれらの有用性は、温熱作用により組織アブレーションを誘導するように温度を上昇させることにある。
【0006】
電気穿孔パラメータの作用は、主に細胞膜に対してであり、およびそれらの有用性は、様々な適用に関して細胞膜を透過性とする。細胞膜に影響を及ぼさない、細胞の内部にのみ作用する電気的パラメータも、最近同定された。これらは、通常「ナノ秒パルス」と称される。高い振幅、および短い(実質的に電気穿孔パルスよりも短い−ナノ秒、対、ミリ秒)のパルス長が、膜に影響を及ぼすことなく、細胞の内部に、特に核に影響することができることが示されている。ナノ秒パルスに関する研究は、それらが「電気穿孔パルスと明確に異なる」ことを示している(Beebe SJ. Fox PM. Rec LJ. Somers K. Stark RH. Schoenbach KH., Nanosecond pulsed electric field (nsPEF) effects on cells and tissues : apoptosis induction and tumor growth inhibition. PPPS-2001 Pulsed Power Plasma Science 2001.28th IEEE International Conference on Plasma Science and 13th IEEE International Pulesd Power Conference. Digest of Technical Papers (Cat. No. 01CH37251). IEEE. Part vol.1, 2000, pp.211-15 vol.1 Piscataway, NJ, USA)。ナノ秒パルスに関していくつかの適用が確定されている。それらのひとつは、核に対する作用を介した、組織アブレーションである(Schoenbach, K. H., Beebe, S.J., Buescher, K.S. Method and apparatus for intracellular electro-manipulation、米国特許出願公開第2002/0010491 A1号、2002年1月24日)。別のものは、細胞内部の遺伝子を調節する(Gunderson, M.A. et al. Method for intracellular modification within living cells using pulsed electrical fields - regulate gene transcription and entering intracellular、米国特許出願第2003/0170898 A1号、2003年9月11日)。細胞内作用を生じる電気パルスは、電気穿孔を生じるパルスとは明確に異なる。この識別は、細胞に対するそれらの作用およびそれらの有用性を介して認めることができる。この細胞内電気パルスの作用は、主にその細胞の細胞内内容物に対するものであり、およびアブレーションを含む様々な用途のための細胞内内容物を操作する点で有用である。電気穿孔パラメータの作用は主に細胞膜に対するものであり、それらの有用性は、様々な適用のための細胞膜の透過化であり、これは以下により詳細に説明されている。
【0007】
電気穿孔は半世紀にわたり公知である。電気的パラメータに応じて、電気穿孔パルスは、細胞膜の透過性に対しふたつの異なる作用を有し得ることがわかった。膜の透過化は、使用される電気的パラメータに応じて、可逆的または不可逆的であることができる。可逆的電気穿孔において、細胞膜は、パルスが停止した後、ある時間で再封し(reseal)、細胞は生存する。不可逆的電気穿孔において、細胞膜は再封せず、細胞は溶解する。電気的パラメータの細胞膜透過性に対する作用(電気穿孔)、ならびに作用なし、可逆的電気穿孔および不可逆的電気穿孔の間での区別を示す概略図を、図1に示している(Dev, S.B. , Rabussay, D.P., Widera, G., Hofmann, G.A., Medical applications of electroporation, IEEE Transactions of Plasma Science, Vol128, No1, 2000年2月, pp206-223)。誘導された電界に起因した細胞膜の絶縁破壊である不可逆的電気穿孔は、1970年代初期に最初に認められた(Neumann, E. and K. Rosenheck, Permeability changes induced by electric impulses in vesicular membranes. J. Membrane Biol., 1972. 10:p.279-290;Crowley, J.M., Electrical breakdown of biomolecular lipid membranes as an electromechanical instability. Biophysical Journal, 1973, 13:p.711-724;Zimmermann, U., J. Vienken, and G. Pilwat, Dielectric breakdown of cell membranes,. Biophysical Journal, 1974, 14(11):p.881-899)。膜が再封する能力、すなわち可逆的電気穿孔は、1970年代後半に個別に発見された(Kinosita Jr K., and T.Y. Tsong, Hemolysis of human erythrocytes by a transient Electric field, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1977, 74(5):p.1923-1927;Baker, P.F. and D.E. Knight, Calcium-dependent exocytosis in bovine adenal medullary cells with leaky plasma membranes, Nature, 1978, 276:p.620-622;Gauger, B. and F. W. Bentrup, A Study of Dielectric Membrane Breakdown in the Fucus Egg, J. Membrane Biol., 1979, 48(3):p.249-264)。
【0008】
電気穿孔の機構は、まだ完全には理解されていない。電界は、細胞膜周囲の電気化学ポテンシャルを変化し、および分極された細胞膜脂質二重層において不安定性を誘導することが考えられる。その後不安定な膜は、その形状を変更し、おそらくその膜を貫通するナノスケール細孔である水路を形成し、そのため「電気穿孔」と称される(Chang, D. C., et al., Guide to Electroporation and Electrofusion, 1992, San Diego, CA:Academic Press, Inc.)。ここで電気化学的制御下でこれらのチャネルを通る物質移動が生じる。細胞膜が透過性となる機構が何であろうとも、電気穿孔は、細胞膜を介する物質移動の増強のための重要な方法となった。
【0009】
電気穿孔の細胞膜を透過性とする特性の第一の重要な適用は、Neumannによるものである(Neumann, E., et al., Gene transfer into mouse lyoma cells by electroporation in high electric fields, J. EMBO, 1982, 1:p.841-5)。彼は可逆的電気穿孔を細胞へ適用することにより、細胞膜を十分に透過性とすることが可能であり、その結果通常細胞に侵入するには余りにも大きい巨大分子である遺伝子を電気穿孔後細胞へ侵入することができることを示した。この手法の目標は、その遺伝子を組み入れた生存細胞を得ることであるから、可逆的電気穿孔の電気的パラメータを使用することは、この手法が成功する上で重要である。
【0010】
この発見の後、電気穿孔は、蛍光色素、薬物および放射性トレーサーなどの小型分子から、抗体、酵素、核酸、HMWデキストランおよびDNAなどの高分子量分子までの、細胞膜を通常は通過しないか、もしくはその通過が困難である化学種を細胞へ導入または細胞から抽出するための、医療およびバイオテクノロジーにおける様々な適用のために細胞膜を可逆的に透過性とするために使用され始めた。物質移動の結果は、細胞が電気穿孔後に生存することを必要とするので、これら全ての適用において電気穿孔は可逆的である必要があることを強調することは重要である。
【0011】
体外での細胞に関する研究に続いて、可逆的電気穿孔は、組織中の細胞を透過性にするために使用され始めた。Heller, R., R. Gilbert and M. J. Jaroszeski、Clinical applications of electrochemotherapy. Advanced drug delivery reviews, 1999, 35:p.119-129。組織の電気穿孔は、体の特定区域の細胞への小型薬物および巨大分子の導入のための、最小侵襲手術技術として次第に一般的になり始めている。この技術は、薬物または巨大分子を罹患部位に注入し、および電極を標的化された組織の中へもしくはその周囲に配置し、組織中に可逆的に透過性とする電界を生じ、これにより薬物または巨大分子を罹患部位の細胞へ導入することにより実現される(Mir, L. M., Therapeutic perspectives of in vivo cell electropermeabilization. Bioelectrochemistry, 2001, 53:p.1-10)。
【0012】
望ましくない組織をアブレーションするための電気穿孔の使用は、1987年にOkinoおよびMohriにより、ならびに1991年にMirらにより導入された。彼らは、ブレオマイシンおよびシスプラチンなどの癌治療のための薬物があり、これらは癌細胞のアブレーションにおいては非常に有効であるが、細胞膜を貫通することは困難であることを認めた。さらにブレオマイシンなどのこれらの薬物の一部は、再生しない正常細胞に影響を及ぼすことなく、再生する癌性細胞へ選択的に影響を及ぼす能力を有する。OkinoおよびMoriならびにMirらは、電気パルスと不透過性の抗癌剤との組合せは、その薬物による治療の効果を大きく増強したことを、個別に発見した(Okino, M. and H. Mohri, Effects of a high-voltage electrical impulse and an anticancer drug on in vivo growing tumors. Japanese Journal of Cancer Research, 1987, 78(12):p.1319-21;Mir, L. M., et al., Electrochemotherapy potentiation of antitumour effect of bleomycin by local electric pulses. European Journal of Cancer, 1991.27:p.68-72)。Mirらはまもなく、有望な結果を示した臨床試験を辿り、治療用の電気化学療法を作り出した(Mir, L.M., et al., Electrochemotherapy, a novel antitumor treatment: first clinical trial. C. R. Acad. Sci., 1991. Ser.III 313(613-8))。
【0013】
現在、電気穿孔の主要な治療的インビボ適用は、これは細胞毒性非透過性薬物を透過化電気パルスと組み合わせる抗腫瘍電気化学療法(ECT)、および非ウイルス遺伝子療法の形としての電気遺伝子療法(EGT)、および経皮的薬物送達である(Mir, L.M., Therapeutic perspectives of in vivo cell electropermeabilization. Bioelectrochemistry, 2001, 53:p.1-10)。電気化学療法および電気遺伝子療法に関する研究は、最近いくつかの刊行物においてまとめられている(Jaroszeski, M.J., et al., In vivo gene delivery by electroporation. Advanced applications of electrochemistry, 1999, 35:p.131-137;Heller, R., R. Gilbert, and M.J. Jaroszeski, Clinical applications of electrochemotherapy. Advanced drug delivery reviews, 1999, 35:p.119-129;Mir, L.M., Therapeutic perspectives of in vivo cell electropermeabilization. Bioelectrochemistry, 2001, 53:p.1-10;Davalos, R.V., Real Time Imaging for Molecular Medicine through electrical Impedance Tomography of Electroporation, in Mechanical Engineering. 2002, University of California at Berkeley: Berkeley, p.237)。最新の記事は、5つの癌研究センターにおいて実施された臨床試験の結果をまとめている。基底細胞癌(32)、悪性メラノーマ(142)、腺癌(30)、ならびに頭部および頸部の扁平細胞癌(87)の、総数291種の腫瘍で試験された(Mir, L.M., et al., Effective treatment of cutaneous and subcutaneous malignant tumours by electrochemotherapy. British Journal of Cancer, 1998, 77(12): p.2336-2342)。
【0014】
電気化学療法は、組織を局所的にアブレーションし、ならびに腫瘍の組織学的型に関わりなく腫瘍を最小の有害な副作用および高い反応率で治療するための、有望な最小侵襲外科技術である(Dev, S.B., et al., Medical Applications of Electroporation, IEEE Transactions on Plasma Science, 2000. 28(1): p.206-223;Heller, R., R. Gilbert, and M.J. Jaroszeski, Clinical applications of electrochemotherapy, Advanced drug delivery reviews, 1999. 35:p.119-129)。電極の望ましくない組織への挿入、組織への細胞毒性薬物の注入および可逆的電気穿孔パラメータの適用により実行される電気化学療法は、高温処置療法および非選択的化学療法の両方の適用の容易さから恩恵を受け、ならびに高温処置療法および非選択的化学療法の両方に匹敵する転帰を生じる。
【0015】
さらに、細胞膜透過化電界は、局所的血流により影響を受けないので、この様式のアブレーションにより影響を受ける組織の範囲の制御は、温熱療法および非選択的化学療法のようには血流により左右されない。細胞に組込まれおよび生存細胞において機能する薬物による組織のアブレーションに関する電気穿孔プロトコールをデザインする上で、可逆的電気穿孔を利用することは重要であり;その理由は、これらの薬物は生存細胞においてのみ機能するからである。従って電気化学療法に関するプロトコールのデザインにおいては、不可逆的電気穿孔を避けることが強調された。組織アブレーションに関する電気穿孔の全分野の焦点となっていたのは、不可逆的電気穿孔パルスを避けつつ、望ましくない組織における選択的薬物の取込みを引き起こし、悪性細胞を選択的に破壊することができる、可逆的電気穿孔パルスを使用することであった。薬物と組合わせて可逆的電気穿孔を利用する電気化学療法は、その選択性のために恩恵があるが、欠点は、その性質上、化学的物質の電界との組合わせが必要なこと、およびそれが細胞内への化学的物質の取込みの成功を左右することである。
【0016】
本発明者らは、生体外の様々な種類の細胞を溶解するそれらの能力が、少なくとも50年間知られている不可逆的電気穿孔は、体内の組織アブレーションには決して使用されず、および実際これは従来の電気化学療法の不利益であると考えられたことを認識している。組織の不可逆的電気穿孔は、薬物取込みを伴う可逆的電気穿孔のように選択的ではないが、本発明者らは、これは、凍結外科、温熱法またはアルコール注射などのその他の非識別型バルクアブレーション法に匹敵する様式で、大量の望ましくない組織のアブレーションに有効であることを認めた。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、望ましくない組織の近傍内またはその近くに電極を配置し、望ましくない領域全体に細胞の不可逆的電気穿孔を引き起こす電気パルスを印加することを伴う、望ましくない組織のアブレーション法を含む。電気パルスは、不可逆的に膜を透過し、これにより細胞死を引き起こす。電気パルスの時間の長さ、印加された電圧および得られる膜透過性は全て、規定された範囲内で制御される。不可逆的に透過された細胞は、その場に残され、および体自身の免疫系などの自然のプロセスにより除去される。本明細書において明示および説明されているように、熱的損傷の誘導を伴わない不可逆的電気穿孔の使用により実現可能な組織アブレーションの量は多量である。
【0018】
望ましくない組織を破壊するための組織における不可逆的電気穿孔のこの概念は、電気的療法および治療の他の形とは異なる。不可逆的電気穿孔は、実質的に細胞の内部にのみ作用し不可逆的細胞膜損傷を引き起こさない細胞内電気操作とは異なる。不可逆的電気穿孔は、温熱作用により細胞損傷を引き起こす電気的に誘導された熱による凝固ではなく、むしろ標的化された組織中の細胞の細胞膜のみを破壊するための、より害のない方法である。細胞膜を不可逆的に破壊する不可逆的電気穿孔は、生存細胞へ薬物を導入するために可逆的電気穿孔パルスが使用され、およびそこで薬物が実質的に生存細胞に影響を及ぼす電気化学療法とも異なる。
【0019】
電気パルスは、細胞膜に対する作用を持たないか、細胞内成分に作用するか、細胞膜を可逆的に開口しその後もその細胞が生存することができるか、または細胞膜を不可逆的に開口しその後細胞は死滅するかのいずれかである。これらの作用のうち、組織の不可逆的電気穿孔(本発明に先行する)は一般に、その罹患状態または健康状態とは関わりなく、電界により影響を受けた組織全体の即時壊死の可能性があるために、望ましくないとみなされた。電気パルスの唯一の目的が、薬物または遺伝子を組織の細胞へその細胞を死滅させることなく導入することを促進することである、遺伝子療法または電気化学療法などのある種の適用において、不可逆的電気穿孔は欠点である(Mir., L.M. and S. Orlowski, The basis of electrochemotherapy, in Electrochemotherapy, electrogenetherapy, and transdermal drug delivery : Electrically mediated delivery of molecules to cells, M. J. Jaroszeski, R. Heller, R. Gilbert, Editors, 2000, Humana Press, p.99-118)。
【0020】
対照的に、本明細書に説明された種類の不可逆的電気穿孔は、単に電気パルスを使用するだけで、特定の手段による、すなわち細胞膜の致命的破壊による、組織破壊のための能動的手段として役立つ。電気化学療法は、選択的であり得るが、これは化学物質の電界との組合せを必要とする。不可逆的電気穿孔は非選択的であるが、これはアジュバント薬の使用を伴わない最小侵襲手術手法として、望ましくない組織(腫瘍など)のアブレーションのために使用することができる。その組織アブレーションの非選択的様式は、最小侵襲手術の分野において許容され、場合によっては凍結外科、非選択的化学アブレーションおよび高温温熱アブレーションと同等の結果を提供する。
【0021】
本発明の局面は、それにより組織の細胞が、非常に正確に決定された長さのパルスおよび電圧の印加により、不可逆的に電気穿孔される方法である。これは、電気的インピーダンスの変化をリアルタイムで測定および/または観察し、ならびに電気穿孔の開始時の減少に注目しおよび熱的損傷を伴わずに不可逆的細胞損傷を得るようにリアルタイムで電流を調節ながら、実行することができる。電圧が印加される態様において、インピーダンスのモニタリングは、使用者へ細孔の存在または非存在の知識を与える。この測定値は、細孔形成の進行を示し、および細胞死へつながる不可逆的細孔形成が発生したかどうかの指標となる。
【0022】
本発明の一つの局面は、組織内の細胞の電気穿孔の開始および程度は、組織の電気的インピーダンス(本明細書において使用されるこの用語は電圧/電流を意味する)の変化に相関させることができることである。所定の点で、電気穿孔は不可逆的となり始める。生物細胞群の抵抗の減少は、細孔形成のために細胞膜が透過性となり始める時点で生じる。組織中の生物細胞のインピーダンスをモニタリングすることにより、細胞の細孔形成が生じる時点の平均に加え、細孔形成による細胞膜透過性の相対程度を検出することができる。電圧を漸増しおよび所定の組織中の細胞を試験することにより、不可逆的電気穿孔が生じる点を決定することができる。その後この情報を用い、平均して組織の細胞が事実上不可逆的電気穿孔を受けたことを確立することができる。この情報は、電圧の大きさの選択を支配することにより、電気穿孔プロセスを制御するためにも使用することができる。
【0023】
本発明は、多数の細胞の同時に起こる不可逆的電気穿孔を提供し、これは電気穿孔の実際の発生の直接の指標およびその多数について平均された電気穿孔の程度の指標を提供する。この発見は、同じ理由で生物学的組織(連続膜を伴う生物細胞の塊)の不可逆的電気穿孔においても、同様に有用である。このプロセスの恩恵は、不可逆的電気穿孔の開始点に対する高レベルの制御を含む。
【0024】
本発明の特徴は、組織の電気穿孔時の電流の大きさが、電気穿孔の程度に依存するようになり、その結果電流およびパルス長が、周辺の細胞および組織への細胞損傷を最小化しながら標的組織細胞の不可逆的電気穿孔を得る、所定の範囲内に調節されることである。
【0025】
本発明の一つの局面は、パルス長および電流が、細胞死を生じる単なる細胞内電気操作を越えるが、かつ周囲の組織への熱的損傷を引き起こす電気操作よりも小さい範囲内で、正確に調節されることである。
【0026】
別の本発明の局面は、電気穿孔は、細胞へもたらされるあらゆる種類の薬物、DNA、または他の物質の添加を伴わずに実行されることである。
【0027】
別の本発明の特徴は、回路を通る電流の測定(リアルタイム)は、得られた電気穿孔の全般的程度の平均の測定値をもたらすことである。
【0028】
別の本発明の局面は、組織の正確な電気抵抗を、プローブ電極による交差-時間(cross-time)電圧測定値および電気穿孔電極に接続された回路による交差-電流(cross-current)測定値から算出することである。
【0029】
本発明の別の局面は、組織の正確な電気抵抗を、プローブ電極による交差-時間電圧測定値および電気穿孔電極に接続された回路による交差-電流測定値から算出することである。
【0030】
本発明の別の局面は、組織の電気的測定値を用い、組織の電気穿孔分布をマッピングすることである。
【0031】
可逆的電気穿孔の一過性の性質のため、可逆的電気穿孔パルスを印加する時間中またはその近くに行う必要がある可逆的電気穿孔を検出するための電気的インピーダンス断層撮影とは異なり;不可逆的電気穿孔では、それが実際に不可逆的であることを確認するために、電気穿孔のかなりの時間(数分またはそれ以上)後に、電流またはEITの測定を行うことが可能であり、かつおそらく好ましくさえある。
【0032】
これらおよび更なる本発明の特徴、利点および目的は、以下の説明からより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明は、詳細な説明を添付図面と組合わせて読んだ際に、最もよく理解される。一般的慣行に従い、図面の様々な特徴はスケールどおりではないことが強調される。対照的に様々な特徴の寸法は、明快さのために自在に拡大縮小される。図面に含まれるのは以下の図である。
【図1】図1は、細胞の電気穿孔に適用可能な電界強度とパルス長の間の概略的関係を示すグラフである。
【図2】図2A、2Bおよび2Cは、各々、図2A、BおよびCについて下記のような、10mmの心心の間隔を使用する、2電極構成に関する不可逆的に電気穿孔された区域の画像である:電極直径(2A)0.5mm(857V);(2B)1.0mm(1295V);(2C)1.5mm(1575V)、不可逆的電気穿孔のための閾値680V/cm。
【図3】図3A、3B、および3Cは、直径1mm、ならびに図3Aについて876Vおよび5mm間隔;図3Bについて1116Vおよび7.5mm;ならびに、図3Cについて1295Vおよび10mmの間隔を伴う、2電極確認(confirmation)のための680V/cm閾値を用い、不可逆的に電気穿孔された領域を示す画像である。
【図4】図4A、4Bおよび4Cは、図4Aは直径0.5mmおよび940V;図4Bは直径1.0mmおよび1404V、ならびに図4Cは1.5mmおよび1685Vであり、10mm間隔を伴う、4電極構成に関する電極直径の作用を示す画像である。
【図5】図5A、5Bおよび5Cは、電極が直径1mmであり、ならびに図5Aは5mmおよび910V;図5Bは7.5mmおよび1175V、ならびに図5Cは10mmおよび1404Vの結果を示す、4電極構成に関する電極間隔の作用を示す画像である。
【図6】図6は、事実上同じ電気的パラメータを用い、可逆的領域(1300V、360V/cm閾値)と比較した、不可逆的(1295V、680V/cm閾値)を示す画像である。1300Vは、ECTに関して2個の電極を横断して印加される、最も一般的な電圧である。最も一般的な電圧パラメータは、周波数1Hzで8個の100μ秒パルスである。単独の800μ秒パルスの印加は、手法に伴う加熱についてのより慎重な概算を提供する。通常パルス間の間隔1秒は、組織を通して散逸される熱の範囲量を大きくするであろう。
【図7】図7は、1mm電極、10mm間隔での可逆的電気穿孔を示す画像である。これらの電極間に印加された電圧189Vは、そのドメイン中で680V/cm不可逆的電気穿孔閾値を一切越さないことにより、いかなる不可逆的電気穿孔も伴わない、可逆的電気穿孔を誘導する。影を付けた範囲は、360V/cmよりも大きい。
【図8】図8Aおよび8Bは、不可逆的電気穿孔の量に対する血流および代謝の作用の比較を示す。図8Aは、血流または代謝がない。図8Bは、wb=1kg/m3、cb=3640J/(kgK)、Tb=37℃、およびq'''=33.8kW/m3である。
【図9】図9は、2個の円柱状Ag/AgCl電極の間の肝臓の概略図である。これらの電極間の距離は4mmであり、および電極の半径は10mmである。これらの電極は、特別なリグで互いに平行かつ同心にクランプ締めされている。肝葉は、電極間で圧縮され、良好な接触を実現している。
【図10】図10は、直径10mmの2個の円柱状表面電極を用いる不可逆的電気穿孔により電気穿孔された肝臓所見の写真である。組織像は、暗色範囲が壊死していることを示している。
【図11】図11は、電気穿孔された肝臓を通る断面の写真である。組織像は、暗色範囲が壊死していることを示している。肝臓を保持している2個のA1プレート間の距離は、正確に4mmである。電気穿孔電極は、直径が10mmであり、傷の中央に中心がある。
【図12】図12は、インビボ実験に関する肝臓の、上側パネルは計算された温度分布(C)、下側パネルは電圧勾配(電気穿孔勾配)(V/cm)を示す。図12は、電気穿孔された区域の中心を通る肝臓スラブの断面中の状態も示す。スラブの高さは4mmである。
【図13】図13は、電気穿孔された組織の組織壊死(暗色範囲)の範囲ならびに温度および電圧勾配分布の間の比較を示すために、図11および12を組合せている。図11の写真は、図13の下側に概略的に示されている。これは、暗色区域の大半は、40ミリ秒の電気穿孔パルス後、温度約42℃であることが明らかである。暗色区域の縁は、300V/cm電気穿孔勾配線に対応しているように見える。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
本発明の方法、治療および装置の説明の前に、本発明は、説明された特定の態様に限定されず、よって当然変動し得ることが理解されなければならない。本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書において使用される用語は、特定の態様のみを説明する目的であり、限定を意図しないことも理解されなければならない。
【0035】
値の範囲が提供される場合、文脈により別に明確に示されない限りは、その範囲の上限と下限の間における、下限の単位の1/10までの各介在値も、具体的に明らかにされていると理解される。言及された値または言及された範囲の介在値と、その言及された範囲の任意の他の言及された値または介在値の間のより小さい範囲の各々は、本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立してその範囲に含まれても除外されてもよく、かついずれかの限界もしくは両方の限界がこのより小さい範囲に含まれる場合の各範囲、またはどちらの限界もこのより小さい範囲に含まれない場合の各範囲も、言及された範囲における任意の特に除外する限界に従い、本発明に包含される。言及された範囲がこれらの限界の一方または両方を含む場合、これらの限界のいずれかまたは両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0036】
特に定義されない限りは、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の一般的業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に説明されたものに類似したまたは同等の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料がここで説明される。本明細書において言及された全ての刊行物は、その刊行物が引用されたものに関連した方法および/または材料を明示しかつ説明するために、本明細書に参照として組入れられている。本開示は、組込まれた刊行物と矛盾しない程度に優先する。
【0037】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「ひとつの(a、an)」および「その(the)」は、本文が別に明確に示さない限りは、複数の意味を含むことに注意しなければならない。従って例えば、「ひとつの(a)パルス」への言及は、複数のそのようなパルスを含み、および「その(the)試料」への言及は、1つまたは複数の試料および当業者に公知のそれらの同等物などを含む。
【0038】
本明細書において考察された刊行物は、本出願の出願日以前に明らかになったものについてのみ提供される。本明細書におけるいかなるものも、本発明が先行発明によりそのような公開を先行する権利を有しないことの承認として解釈されるべきでない。さらに提供された公開日は、実際の公開の日付と異なることがあり、これは個別に確認する必要がありうる。
【0039】
定義
用語「可逆的電気穿孔」は、細胞を横切る電気パルスの印加を介した細胞膜の透過化を包含する。「可逆的電気穿孔」において、細胞膜の透過化は、パルスの印加後に途絶え、この細胞膜透過性は正常に戻る。細胞は「可逆的電気穿孔」を生き延びる。これは、化学物質、DNA、または他の材料を細胞へ導入する手段として使用される。
【0040】
用語「不可逆的電気穿孔」も、細胞を横切る電気パルスの印加を介した細胞膜の透過化を包含する。しかし「不可逆的電気穿孔」において、細胞膜の透過化は、パルスの印加後に途絶えず、細胞膜透過性は正常に戻らない。細胞は「不可逆的電気穿孔」を生き延びず、細胞死が、単に細胞成分の内部混乱によってではなく、細胞膜の破壊により引き起こされる。細胞膜の開口が生じかつ/またはサイズが拡大され、細胞膜を介した物質の正常に制御された流れの致命的破壊を生じる。細胞膜は、細胞に残存するものおよび進入するものを制御する能力において高度に特殊化されている。不可逆的電気穿孔は、細胞が補償することができないようにその調節能力を破壊し、よって細胞は死滅する。
【0041】
発明全般
本発明は、望ましくない組織を破壊(アブレーション)する方法およびシステムを提供する。これは、望ましくない組織の近傍への電気穿孔電極の挿入(提示(bringing))、および組織との良好な電気的接触、および望ましくない組織の全領域にわたり細胞の不可逆的電気穿孔を引き起こす電気パルスの印加を伴う。膜が不可逆的に透過性とされた細胞は、本来の位置に残存され(除去されず)、そのため次第に体の免疫系により除去される。細胞死は、望ましくない区域における不可逆的電気穿孔の電気的パラメータの誘導によりもたらされる。
【0042】
電気穿孔プロトコールは、組織内の電界の形成に関連し、および電気パルスのジュール加熱により影響を受ける。組織の電気穿孔プロトコールをデザインする場合、有害な温熱作用を誘導することなく、組織の透過性を最大化するであろう適当な電気的パラメータを決定することは重要である。可逆的電気穿孔により、細胞への温熱作用の損傷を誘導することなく、かなりの容積の組織を電気穿孔することができ、およびそれらの容積を定量したことが示されている(Davalos, R.V., B. Rubinsky, and L.M. Mir, Theoretical analysis of the thermal effects during in vivo tissue electroporation, Bioelectrochemistry, 2003. Vol.61(1-2):p.99-107)。
【0043】
組織における不可逆的電気穿孔を誘導するために必要な電気パルスは、可逆的電気穿孔に必要な電気パルスよりもより大きい大きさおよび期間である。さらに不可逆的電気穿孔に必要なパルスの期間および強度は、細胞内電気操作または温熱アブレーションのためのような電気パルスを使用する他の方法とは異なる。これらの方法は、細胞内(ナノ秒)電気操作を使用して細胞死を引き起こす、例えば腫瘍組織をアブレーションする場合であっても、または温熱作用が細胞に損傷をもたらし、細胞死を引き起こす場合であっても、非常に異なる。
【0044】
不可逆的電気穿孔のパルス長の代表値は、約5マイクロ秒〜約62,000ミリ秒または約75マイクロ秒〜約20,000ミリ秒または約100マイクロ秒±10マイクロ秒の範囲である。これは、細胞内(ナノ秒)電気操作において一般に使用されるパルス長である1マイクロ秒またはそれ未満よりも有意に長い−2002年1月24日に公開された米国特許出願第2002/0010491号を参照。
【0045】
パルスは、不可逆的電気穿孔の場合、電圧が約100V/cm〜7,000V/cm、または200V/cm〜2000V/cm、または300V/cm〜1000V/cm、約600V/cm±10%である。これは、約10,000V/cmである細胞内電気操作において使用されるものよりも実質的に低い。2002年1月24日に公開された米国特許出願第2002/0010491号参照のこと。
【0046】
上記した電圧は、電圧勾配(1cm当たりの電圧)である。電極は、形およびサイズが異なってよく、かつ互いに異なる距離に位置することができる。その形状は、円形、楕円形、正方形、長方形または不規則な形などであってよい。1個の電極の他方までの距離は、0.5〜10cm、1〜5cm、または2〜3cmであることができる。電極は、0.1〜5cm2または1〜2cm2の表面積を有することができる。
【0047】
電極のサイズ、形状および距離は、変動することができ、そのため使用される電圧およびパルス期間が変化することができる。当業者は、望ましい程度の電気穿孔を得、かつ周囲の細胞への熱的損傷を避けるために、本開示に従いこれらのパラメータを調節するであろう。
【0048】
温熱作用は、不可逆的電気穿孔において使用されるものよりも実質的により長い電気パルスが必要である(Davalos, R.V., B. Rubinsky, and L.M. Mir, Theoretical analysis of the thermal effects during in vivo tissue electroporation, Bioelectrochemistry, 2003. Vol.61(1-2):p.99-107)。図1は、不可逆的電気穿孔パルスが、可逆的電気穿孔パルスよりもより長くおよびより高い振幅を有することを示している。組織アブレーションに不可逆的電気穿孔を使用する場合、不可逆的電気穿孔パルスが周囲の組織への熱的損傷作用を引き起こすほど大きくなり、不可逆的電気穿孔によりアブレーションされる組織の範囲が、温熱作用によりアブレーションされる範囲と比べて意味のあるものでなくなるという懸念が存在しうる。このような状況下では、不可逆的電気穿孔は、温熱アブレーションと重複して作用するので、これは有効な組織アブレーション様式と見なされない。
【0049】
本発明は、数学モデルおよび実験を介して、温熱作用の開始前に不可逆的電気穿孔により実現され得る組織アブレーションの最大範囲を評価する。このモデルは、2個および4個の針電極による肝組織の電気穿孔ならびに利用可能な実験データを使用した2個の無限平行プレートによる肝組織の電気穿孔に焦点を当てた。この実験(実施例3)は、肝臓においても2個の円柱状電極の間の不可逆的電気穿孔を評価している。肝臓は、不可逆的電気穿孔アブレーションの候補となる可能性があると考えられることから選択された。これらの結果は、温熱作用の開始前に不可逆的電気穿孔によりアブレーションすることができる区域が、電気化学療法によりアブレーションされ得るものに匹敵することを示し、このことは潜在的な最小侵襲外科的モダリティとしての不可逆的電気穿孔の使用を立証している。
【0050】
初期の研究は、電気穿孔の範囲が、電気的インピーダンス断層撮影(EIT)によりリアルタイムで画像化することができることを示している(Davalos, R.V., B. Rubinsky, and D.M. Otten, A feasibility study for electrical impedance tomography as a means to monitor tissue electroporation for molecular medicine, IEEE Transactions on Biomedical Engineering, 2002. 49(4):p.400-403)。不可逆的電気穿孔において、電気穿孔された区域は電気穿孔パルス後に無期限に持続し、不可逆的電気穿孔がEITによりゆっくり画像化できることを示している。従って不可逆的電気穿孔は、高温アブレーションと同じように印加が容易であり、電気化学療法のようにアジュバント化学物質を必要とせず、影響を受ける区域を電気的インピーダンス断層撮影によってリアルタイムに制御する、組織アブレーション技術の利点を有する。
【実施例】
【0051】
下記実施例は、本発明をいかに実施し使用するかの完全な開示および説明を当業者に提供するように示されており、本発明者らが自身の発明とみなす範囲を限定することを意図するものではなく、本発明者らが下記実験は実施された実験の全てであることもしくは唯一の実験であることを表すことを意図するものでもない。使用した数字(例えば、量、温度など)に関して精度を確実にするよう努力したが、若干の実験誤差および偏差は考慮されなければならない。別に記さない限りは、部は質量部であり、分子量は質量平均分子量であり、温度は摂氏であり、および圧力は大気圧またはその近傍である。
【0052】
実施例1
ここに提供された数学モデルは、不可逆的組織アブレーションが、損傷温熱作用を誘導することなく、組織の実質的容積に影響し得ることを示している。この目的のために、本発明は、ラプラス式を使用し、典型的電気穿孔パルス時の組織内の電位分布を計算し、ならびに改変されたPennes(生体伝熱)方程式(Pennes, H.H., Analysis of tissue and arterial blood flow temperatures in the resting forearm. J of Appl. Physiology., 1948. 1:p.93-122)を用い、生じる温度分布を計算する。検証されている生体伝熱式にはいくつかの形が存在することに注目することは重要である(Carney, C.K., Mathematical models of bioheat transfer, in Bioengineering heat transfer, Y.I. Choi, Editor. 1992, Academic Press, Inc: Boston. p.19-152;Eto, T.K. and B. Rubinsky, Bioheat transfer, in Introduction to bioengineering, S.A. Berger, W. Goldsmith, and E.R. Lewis, Editors. 1996, Oxford Press)。Pennes方程式は議論の余地があるが、それにもかかわらずこれは血流および代謝のような、様々な生物学的熱移動パラメータの概算を提供することができるので、一般に使用されている。本試験において改変されたPennes方程式は、追加の熱源として組織内のジュール加熱項(term)を含む。
【0053】
電気穿孔パルスに関連した電位は、電位分布に関してラプラス式を解くことにより決定される:
∇・(σ∇φ)=0 (1)
【0054】
(式中、φは電位であり、およびσは電気伝導度である)。電気穿孔パルスが印加される最も左側の電極に接触している組織の電気的境界の条件は、以下である:
φ=V0 (2)
【0055】
最も右側の電極のインターフェースの電気的境界の条件は、以下である:
φ=0 (3)
【0056】
分析されたドメインが電極と接触していない境界は電気的に絶縁性として処理され、電気穿孔電極の近傍の電界の上限および電気穿孔から生じる温度分布の上限を提供する:

【0057】
ラプラス式の解法は、関連したジュール加熱、電界からの単位容積あたりの熱発生率(p)を算出することを可能にする:
p=σ│∇φ│2 (5)
【0058】
この項は、当初のPennes方程式(Pennes, H.H., Analysis of tissue and arterial blood flow temperatures in the resting forearm. J of Appl. Physiology., 1948. 1:p.93-122)に追加され、電気穿孔手法から発生した熱を表す:

【0059】
式(4)を解くために、全組織は、最初生理的温度37℃にあると仮定される:
T(x, y, z, 0)=37 (7)
【0060】
分析されたドメインの外面および電極の表面は、断熱曲線とみなされ、これは組織において計算された温度分布の上限を生じるはずである:

【0061】
この分析は、肝臓における組織電気穿孔に典型的な条件をモデルとした。肝臓癌は、罹患した区域の根絶により回復することができる一方で、外科的切除はこの臓器について多くの症例において不可能であることから、肝臓はほとんどの最小侵襲アブレーション技術が治療する臓器であるので、肝臓を選択した(Onik, G., B. Rubinsky, and et al., Ultrasound-Guided Hepatic Cryosurgery in the Treatment of Metastatic Colon Carcinoma, Cancer, 1991, 67(4):p.901-907)。ラット肝データから得られた電気穿孔パラメータ、すなわち可逆的および不可逆的電気穿孔のためのパルスパラメータ(Miklavcic D., et al., A validated model of in vivo electric field distribution in tissues for electrochemotherapy and for DNA electrotransfer for gene therapy, Biochimica et Biophysica Acta, 2000. 1523(1):p.73-83;Suzuki, T., et al., Direct gene transfer into rat liver cells by in vivo electroporation. FEBS Letters, 1998. 425(3):p.436-440)と、ヒト肝に対応する生物学的パラメータを、この分析において使用した。組織温熱特性を、参考文献から入手し(Duck, F.A., Physical Properties of Tissues : A Comprehensive Reference Book. 1990, San Diego: Academic Press)、ならびに電気的特性を文献から入手し(Boone, K., D. Barber, and B. Brown, Review - Imaging with electricity : report of the European Concerted Action on Impedance Tomography. J. Med. Eng. Technol., 1997. 21:p.201-232)、ならびに表1に列記した。この組織は、等方性でありかつ肉眼的に均質であると仮定した。分析の意図は、可逆的または不可逆的電気穿孔が、様々な電気穿孔電圧および期間について肝臓において誘導されると同時に、組織中の最高温度が50℃以下である領域の範囲を決定することであった。熱的損傷は、アレニウス型式により説明される時間依存型プロセスである(Henriques, F.C. and A.R. Moritz, Studies in thermal injuries : the predictability and the significance of thermally induced rate processes leading to irreversible epidermal damage. Arch Pathol., 1947. 43:p.489-502;Diller, K.R., Modeling of bioheat transfer processes at high and low temperatures, in Bioengineering heat transfer, Y.I. Choi, Editor. 1992, Academic Press, Inc: Boston. p.157-357):

【0062】
Ωが熱的損傷の測定値である場合、ξは周波数因子であり、Eaは活性化エネルギーであり、およびRは一般ガス定数である。先の式(9)において説明されたように熱的損傷の様々な程度に関する詳細な説明は、文献に見ることができる(Diller, K.R., Modeling of bioheat transfer processes at high and low temperatures, in Bioengineering heat transfer, Y.I. Choi, Editor. 1992, Academic Press, Inc: Boston. p.157-357)。
【0063】
注意深い試験は、熱的損傷が、時間、温度および前記式(9)の全てのパラメータの複雑な関数であること、ならびに様々な程度の熱的損傷が存在することを示している。様々な適用または様々な考察において、電気穿孔された領域の一部に対して、または電気穿孔された領域全体にわたって低下したレベルで、ある程度の熱的損傷を誘導する不可逆的電気穿孔プロトコールをデザインすることが可能である。しかしこの実施例において、本発明者らは、いくつかの理由のために標的温度として50℃を選択した。熱的損傷は、42℃よりも高い温度で、長期間曝露した場合のみ始まる。50℃〜60℃までは損傷は比較的低いが、そこから損傷率は劇的に増加する(Diller, K.R., Modeling of bioheat transfer processes at high and low temperatures, in Bioengineering heat transfer, Y.I. Choi, Editor. 1992, Academic Press, Inc: Boston. p.157- 357)。従って50℃は、不可逆的電気穿孔の間に温熱作用が生じうる、比較的低温の限界である。温熱作用を伴わない不可逆的電気穿孔のために選択された電気的パラメータは、本実施例において50℃についての評価から得られたものよりも、実質的により長くおよびより高い可能性があることが推察される。さらにラプラス式および生体伝熱式は直線であるので、ここに提供された結果は、外挿することができ、全般的温熱挙動の指標と見なすことができる。
【0064】
分析された構成は、肝臓の正方形モデル内に包埋された2個の針または4個の針電極を有する。針電極は、通常組織電気穿孔において使用され、および肝臓においても最も良く使用されるであろう(Somiari, S., et al., Theory and in vivo application of electroporative gene delivery. Molecular Therapy, 2000. 2(3):p.178-187)。肝臓の正方形モデルは、外側表面境界作用を避け、および肝臓の電気穿孔時に発生する温度の上限を生じるために充分であるように大きく選択された。各構成について、1個の電極の表面は、他方の電極を接地した状態で規定の電圧を有すると推定される。これらの電極間の間隔の作用は、5、7.5mmおよび典型である10mmの距離を比較することにより調べた。これらの電極は、典型的寸法の直径0.5、1および1.5mmを伴うモデルであった。血流灌流速度は、0〜1.0kg/m3sであった(Deng, Z.S. and J. Liu, Blood perfusion-based model for characterizing the temperature fluctuations in living tissue. Phys A STAT Mech Appl, 2001. 300:p.521-530)。代謝熱は、0または33.8kW/m3のいずれかを採用した(Deng, Z.S. and J. Liu, Blood perfusion-based model for characterizing the temperature fluctuations in living tissue. Phys A STAT Mech Appl, 2001. 300:p.521-530)。
【0065】
これらの計算は、800μ秒の1個の電気穿孔パルスについて行った。典型的には可逆的電気穿孔は、8個の個別の100μ秒パルスで行われるので、このパルス期間を選択し(Miklavcic, D., et al., A validated model of in vivo electric field distribution in tissues for electrochemotherapy and for DNA electrotransfer for gene therapy, Biochimica et Biophysica Acta, 2000. 1523(1):p.73-83)、その結果本発明者らが選択したこの値は、可逆的電気穿孔のそれに匹敵するパルス時間フレームにおける温熱作用の上限である。結果的に、ここで得られた結果は、不可逆的電気穿孔時に考えられる傷のサイズの下限である。本発明者らは、不可逆的電気穿孔組織アブレーションは800μ秒よりも短いパルスで実行することができると考えることは強調されるべきである。温熱作用を評価するために、本発明者らは、自分たちの数学モデルにおいて、800μ秒パルス長の印加されたパルス振幅を、電気穿孔プローブ温度が、本発明者らが熱的損傷の限界であると考える50℃に到達すると計算上示されるまで漸増した。その後本発明者らは、肝臓全体の電界分布を評価した。
【0066】
不可逆的電気穿孔を誘導するためには、1Vの程度の膜貫通電位が必要である。この値は、組織型、細胞サイズおよび他の外部条件およびパルスパラメータなどの、様々な条件によって決まる。特定の組織型について膜貫通電位に影響を及ぼす主要な電気的パラメータは、その組織が曝される電界の振幅である。不可逆的に電気穿孔される領域の範囲を概算するために使用される電界閾値は、Miklavcic、Mirとその同僚らがウサギ肝臓組織について行った基礎となる研究から得た(Miklavcic, D., et al., A validated model of in vivo electric field distribution in tissues for electrochemotherapy and for DNA electrotransfer for gene therapy. Biochimica et Biophysica Acta, 2000. 1523(1):p.73-83)。電気穿孔実験を数学モデリングと相関したこの研究において、彼らは、ラット肝組織の可逆的電気穿孔のための電界は362+/-21V/cmであり、不可逆的電気穿孔のための電界は637+/-43V/cmであることを発見した。従って、この分析において、360V/cmの電界は、電気穿孔なしと可逆的電気穿孔の間の描写を示し、680V/cmは、可逆的電気穿孔と不可逆的電気穿孔の間の描写を示すとみなされる。
【0067】
全ての計算は、MATLAB's finite element solver, Femlab v2.2 (The MathWorks, Inc. Natick, MA)を用いて行った。メッシュ品質および解の有効性を確実にするために、メッシュは、微細化したもの(refinements)の間で、解に0.5%未満の差異しかなくなるまで微細化した。2個の1mm電極、10mm間隔を伴うベースラインメッシュは、4035ノード(node)および7856トライアングル(triangle)を有していた。シミュレーションは、Microsoft Windows 2000上で動作する、512MB RAMを有するDell Optiplex GX240上で行った。
【0068】
結果および考察
図2および3では、2個の針型電気穿孔構成における、アブレーションされた区域に対する電極サイズおよび間隔の作用を試験した。これらの図を得る上で、本発明者らは、熱伝達方程式における血流および代謝の作用を無視したが、このことによりアブレーション区域の概算の上限が決まるだろう。図2は、直径0.5、1および1.5mmの電気穿孔電極サイズ、ならびに電極間距離10mmで不可逆的電気穿孔された区域の範囲を比較する。電極サイズの強力な作用は明らかである。より小さい電極に関して、不可逆的に電気穿孔された区域は連続しないのに対し、1.5mm電極に関して、可能性のある組織アブレーションの区域は、約15mm x 10mmの寸法の楕円形であることが認められる。括弧内に、本発明者らは、プローブ温度がこれらの3種の構成で50℃に到達する電気穿孔電圧を示した。その範囲は、0.5mmプローブの857Vから1.5mmプローブの1575Vまでであることが認められる。これは、組織電気穿孔パルスの代表的範囲内である。図3は、電極間の間隔の作用を評価する。試験した範囲において、アブレーションされた傷の連続する楕円形の小さい寸法は、同じであり続けるが、他方でより大きい寸法は、電極間の距離に対応するように見えることが認められる。
【0069】
図2および3は、不可逆的電気穿孔による組織アブレーションの範囲は、凍結外科などの、組織アブレーションの他の典型的最小侵襲方法(Onik, G.M., B. Rubinsky, and et. al., Ultrasoud-guided hepatic cryosurgery in the treatment of metastatic colon carcinoma, Cancer, 1991. 67(4):p.901-907;Onik, G.M., et al., Transrectal ultrasound-guided percutaneous radial cryosurgical ablation of the prostate, Cancer, 1993. 72(4):p.1291-99)のそれに匹敵することを明らかにしている。電極サイズおよび間隔の変動は、傷のサイズおよび形状を制御することができることも示している。アブレーションされた傷の形状およびサイズは、使用される電極の数の変動によっても制御することができる。これは図4および5において、4電極構成について示されている。これらの図面は、プローブサイズおよび間隔の作用も比較し、ならびにこれらの結果も、エネルギー方程式において血流および代謝の作用を無視することにより得られた。再度、より大きい電極は、アブレーションされた領域の範囲に対し実質的作用を有すること、およびアブレーションの範囲は電極間の間隔に対応することが認められる。
【0070】
可逆的および不可逆的電気穿孔プロトコールの比較は、図6および7で実現することができる。図6において、800μ秒、1295Vのパルスが、10mm離れて配置された2個の直径1.5mm電極間に印加された。これは、50℃よりも低い組織温度を生じる。この図は、不可逆的に電気穿孔された領域のふち、すなわち、680V/cm電圧-対-距離勾配、および可逆的電気穿孔された領域のそれ、すなわち、360V/cm勾配をプロットしている。図7は、10mm離れて配置された2個の1mm電極について得た。この図において、本発明者らは、可逆的にのみ電気穿孔された、すなわち、360V/cmよりも低い電界により、電気穿孔された領域を生じた。図6と7の比較において、電気化学療法単独により可能なアブレーションされた区域の範囲は、不可逆的電気穿孔単独によるそれよりも実質的に小さいことは明らかである。
【0071】
不可逆的電気穿孔の範囲に対する血流および代謝の作用は、図8に図示している。これらの図は、血流または代謝を伴わない状況に対し、代謝と相対的に高い血流速度を伴う状況を比較している。代謝および血液灌流は、不可逆的組織電気穿孔の可能性のある範囲に対し無視できる作用を有することは明らかである。これは、電気穿孔電流により発生したジュール熱は、血流または代謝の作用よりも実質的により大きいことが理由である。
【0072】
熱的損傷に関するさらにより慎重な概算が、損傷が以下のように定義されるように、組織は、電気穿孔パルスの間に瞬時に50℃に達すると仮定することにより得られる:

【0073】
活性化エネルギーおよび周波数因子に関する文献から得たいくつかの値を、式(10)に、先の実験において計算したパルス長と共に適用した。このパルスの印加は非常に短いので、その損傷はほぼゼロであり、活性化エネルギーおよび周波数因子に関し使用される値とは無関係に、第一度の火傷を誘導する値(Ω=0.53)より何倍も低い(Diller, K. R., Modeling of bioheat transfer processes at high and low temperatures, in Bioengineering heat transfer, Y.I. Choi, Editor. 1992, Academic Press, Inc: Boston. p.157-357)。
【0074】
現在、電気穿孔による組織アブレーションは、可逆的電気穿孔と組合せて組織へ注射された細胞毒性薬物の使用を通じ作製され、この手法は電気化学療法として公知である。本発明は、不可逆的電気穿孔それ自身で、体内の望ましくない組織の破壊のための実質的組織アブレーションを生じることを示している。ここでの懸念は、不可逆的電気穿孔に必要なより高い電圧が、ジュール加熱を生じ、不可逆的電気穿孔の組織アブレーションにおける作用を重要でなくしてしまう程度に熱による組織損傷を誘導することであった。電気穿孔時の組織中の電位および温度野を計算するために数学モデルを使用し、本発明は、温熱作用の開始前に不可逆的組織電気穿孔によりアブレーションされた区域は、実質的であり、かつ凍結外科などの他の組織アブレーション技術のそれに匹敵することを示している。本発明者らの初期の研究は、電気穿孔の範囲は、電気的インピーダンス断層撮影によりリアルタイムで画像化することができることを示している(Davalos, R.V., B. Rubinsky, and D.M. Otten, A feasibility study for electrical impedance tomography as a means to monitor tissue electroporation for molecular medicine, IEEE Transactions on Biomedical Engineering, 2002. 49(4):p.400-403;Davalos, R.V., et al., Electrical impedance tomography for imaging tissue electroporation, IEEE Transactions on Biomedical Engineering, 2004)。従って不可逆的電気穿孔は、電気化学アブレーションおよび電気化学療法において必要なアジュバント化学物質を必要とせずに、高温アブレーションと同じように容易に適用される、組織アブレーション技術であるという利点を有する。加えて、不可逆的電気穿孔の独自の局面は、影響を受ける区域を電気的インピーダンス断層撮影によりリアルタイムで制御することができることである。
【0075】
実施例2
本実施例は、電気穿孔パルスと温熱作用の間の相関関係を出すために開発された。分析されるシステムは、電気穿孔電圧勾配V(V/cm)に曝された組織の極微小の対照容積である。全体の電気的エネルギーは、熱として散逸され、このシステムからの熱伝達は存在しない。計算は、パルス印加時の経時的温度上昇を出し、かつその結果は、ある温度に到達するまでにある電気穿孔パルスをどれだけの長さで与えることができるかについての、安全な下限である。その相関関係を説明するために、σの電気伝導度(Ω-cm)を伴う組織を通じ散逸する電位勾配(局所的電界)V(V/cm)熱の散逸から発生したジュール熱と、密度ρ(g/cc)および比熱c(J/gK)を伴う組織でできた対照容積の温度の上昇の間で、対照容積についてエネルギーバランスをとった。この計算は、単位時間(t)当たりの温度の上昇(T)について、電圧勾配ならびに肝臓の温度的および電気的特性の関数として、下記式を生じる。

【0076】
下記表は、以下の特性を有する肝臓について得た:
肝臓の電気抵抗−8.33Ω-m
肝臓の比熱−J/g K
肝臓の密度−1g/cc
【0077】
本発明者らは下記表を得た:

【0078】
表1の第2列は、組織が第1列の電気穿孔パルスを経験する際に、肝臓の温度が1℃上昇するのに要する時間を示している。1500V/cmと比較的高い電気穿孔電圧についてであっても時間は、1℃上昇するのに1.33ミリ秒の程度であり、および温度65℃に達するまでに37.32ミリ秒である。式(2-1)または表1を用い、温熱作用を誘導することなく、あるパルスを印加することができる時間を評価することが可能である。これまで報告された典型的電気穿孔パラメータを考慮し、温熱の考察から電気穿孔の長さには制限がない。表1の第3列は、熱的損傷が始まるであろう65℃に達するために必要な時間を示している。この実施例の計算は、ある温熱作用が電気穿孔パルスにより誘導されるであろう時間の範囲の下限を提供する。より正確な計算のために、実施例1の式(9)または(10)と共に、本実施例において開発された式を使用することは可能である。
【0079】
実施例3
本実験の目的は、不可逆的電気穿孔パルスの非温熱様式において実質的組織アブレーションを生じる能力を証明することであった。この目的のために、本発明者らは、承認された動物の使用および飼育のプロトコールの下で、スプラーグ-ドーリーラットオス(250g〜350g)の肝臓について実験を行った。ネムブタールナトリウム溶液(50mg/mlペントバルビタール)の注射により動物に麻酔をかけた後、肝臓を、正中切開により露出し、直径10mmのAg/AgClの2個の円柱状電極(In Vivo Metric, Healdsburg, CA)の間に一葉をクランプ止めした。これらの電極は、平行な平坦面を有し;これらは同心であり、これらの電極間の肝臓は圧縮され、その結果この葉は、4mm離れた。電極と肝臓の概略は、図9に示している。肝臓は、40ミリ秒の単独の電気穿孔パルスに曝した。1個の電極を、400Vに設定し、他方を接地した。残余の肝臓は、いかなる媒体とも接触せず、その結果電気的に絶縁されていると考えられる。電気穿孔後、このラットを、管理麻酔下で3時間維持した。放血後、肝臓を、圧力をかけ生理食塩水を大量に流し、ホルムアルデヒドの灌流により固定した。この肝臓を、電気穿孔された領域の中心を通り切断し、組織像により分析した。図10および11は、肝臓の外観を示している。組織像は、暗色の区域は、組織壊死の領域に相当することを決定した。電気穿孔された肝臓の電界および温度分布は、40ミリ秒間、電圧400Vを1個の電極に施し、他方は接地した、実施例1の式を用いて計算した。肝臓は、同心の円柱状電極を伴う、厚さ4mmの無限スラブ(slab)としてモデル化された(図9参照)。これらの結果は、図12に示した。図12は、一定の電圧勾配(V/cm)の線および一定温度の線を示している。電気穿孔された組織の大部分において、温度はパルス直後に約42℃であることは明らかである。最高温度は、円柱状電極の端の近傍に生じ、そこでは約50℃である。図13は、図11および12を一緒にすることにより得た。組織学的測定値に計算された結果を重ねることは、暗色(壊死)区域の境界は、約300V/cmの電気穿孔パラメータに対応することを明らかにしている。これらの結果は、不可逆的電気穿孔は、電気化学療法におけるような追加の化学物質を必要とせず、かつ温熱作用を伴わずに、実質的組織壊死を誘導することができることを明示している。
【0080】
前記は、本発明の原理を単に例証するものである。当業者には、本明細書に明快に説明または示されていないが、本発明の原理を具体化し、かつその精神および範囲に含まれるような、様々な変更を工夫することができることは理解されるであろう。さらに本明細書に引用された全ての実施例および条件の表記は、本発明の原理および当該技術分野を推進するように本発明者らによりもたらされた概念の読者の理解を補助することが原則的に意図されており、かつそのような特に引用された実施例および条件に限定されないものとして構築されている。さらに本発明の原理、局面および態様に加え、それらの具体例に言及する全ての陳述は、それらの構造的および機能的の両方の同等物を包含することが意図されている。加えて、そのような同等物は、現在公知の同等物および今後開発される同等物の両方、すなわち構造に関わりなく同じ機能を実現する開発されたあらゆる要素を含むことが意図されている。従って本発明の範囲は、本明細書に示されかつ説明された具体的態様に限定されることは意図されない。むしろ本発明の範囲および精神は、添付された特許請求の範囲により具体化される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織をアブレーションする方法であって:
(a)アブレーションする組織を同定する工程;
(b)第一の電極および第二の電極を、同定された組織が第一および第二の電極間に位置するように、配置する工程;
(c)第一および第二の電極間に、組織の細胞の不可逆的電気穿孔を誘導するのに充分な量の電気パルスを印加する工程;
(d)不可逆的に電気穿孔された細胞を、その組織で構成された生物の内部システムにより除去させる工程
を含む方法。
【請求項2】
電気パルスが、約5マイクロ秒〜約62秒の範囲の期間印加される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
電気パルスが、約100マイクロ秒±約10マイクロ秒の期間印加される、請求項1記載の方法。(他の時間および電圧に関する本発明者らの実験に注意)
【請求項4】
約1〜約15パルスが印加される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
期間中に各々約100マイクロ秒の約8パルスが印加される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
パルスが、約50V/cm〜約8000V/cmの範囲の電圧勾配を生じる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
第一の電極が、第二の電極から約5mm〜10cmに配置されている、請求項1記載の方法。
【請求項8】
第一の電極および第二の電極が、円形の形状である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
第一の電極および第二の電極が各々、約1cm2の表面積を有する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
同定された組織の温度をモニタリングする工程、および100℃またはそれ未満の温度を維持するように電気パルスを調節する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
温度が、50℃またはそれ未満に維持される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
生物細胞について平均化された不可逆的電気穿孔を得るために印加電圧、パルス長、およびパルス数を調節し、これにより組織内の生物細胞の不可逆的電気穿孔を非標的組織への損傷を最小化するレベルで実現する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
印加電圧の期間の調節が、同定した組織細胞の不可逆的電気穿孔を実現し、これにより細胞死を生じる様式で細胞膜が破壊されるような、電流対電圧比に従う、請求項1記載の方法。
【請求項14】
電流対電圧比が、標的組織温度を100℃またはそれ未満に維持するための温度を基に調節される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
電流対電圧比が、標的組織温度を50℃またはそれ未満に維持するための温度を基に調節される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
組織をアブレーションする方法であって:
(a)生存している哺乳動物の組織内の生物細胞の群を癌細胞であると同定し、かつこの細胞を横切って電圧を印加する工程;
(b)生物細胞の電気穿孔の程度の指標として、細胞を横切る電圧に対する細胞を通る電流の比を連続的に検出する工程;ならびに
(c)癌細胞であると同定した細胞群の不可逆的電気穿孔を実現するために、検出された電流対電圧比の大きさの変化に従って印加電圧の決定された大きさを調節する工程
を含む方法。
【請求項17】
工程(b)が、生物細胞の電気穿孔の開始の指標において電流対電圧比を連続的に検出することを含み、および工程(c)が、癌細胞であると同定した細胞群の不可逆的電気穿孔を実現するために、連続的に検出された電流対電圧比に従って印加電圧の期間を調節することを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
電流対電圧比が、癌細胞と同定した細胞について平均化された電気穿孔の程度の指標であり、癌細胞の不可逆的電気穿孔を実現する、請求項16記載の方法。
【請求項19】
電圧が、間の生物細胞の群と共に配置されたふたつの微小電極間に印加される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
(a)癌性腫瘍由来の組織試料を除去する工程;
(b)導電性媒体中に組織を配置し、かつ媒体を横切って電圧を印加する工程;
(c)生物組織の細胞の電気穿孔の程度の指標として、媒体を横切る電圧に対する媒体を通る電流の比を連続的に検出する工程;ならびに
(d)生物組織の細胞の不可逆的電気穿孔を実現するために、電流対電圧比の大きさの変化に従って、印加電圧の大きさを調節する工程
を含む方法。
【請求項21】
工程(d)の電圧を腫瘍内の癌性組織に印加して、腫瘍内の細胞の不可逆的電気穿孔を得る工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
腫瘍が、哺乳動物内にある、請求項20記載の方法。
【請求項23】
哺乳動物がヒトである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
不可逆的電気穿孔を実行する方法であって:
(a)複数の生物細胞を含む標的組織を横切って電圧を印加する工程;
(b)生物細胞の電気穿孔の程度の指標として、組織を横切る電圧に対する標的組織を通る電流の比を連続的に検出する工程;および
(c)生物細胞について平均化された不可逆的電気穿孔を実現するために、電流対電圧比の変化に従って印加電圧を調節し、これにより非標的組織への損傷を最小化するレベルで組織中の生物細胞の不可逆的電気穿孔を実現する工程
を含む方法。
【請求項25】
工程(b)が、生物細胞の電気穿孔の開始の指標として電流対電圧比を連続的に検出することを含み、および
工程(c)が、標的組織細胞の不可逆的電気穿孔を実現するために、電流対電圧比に従って印加電圧の期間を調節することを含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
電圧が、哺乳動物に挿入されたふたつの電極の間に印加され、かつ電極が、標的組織を横切る電圧を印加するように配置され;
工程(b)が、標的組織の温度と、電流対電圧比をさらに相関させることを含み;ならびに
工程(c)が、生物細胞が電極間にある間に、組織中の生物細胞の平均化された電気穿孔の程度を基にして電圧の大きさを調節することを含む、請求項24記載の方法。
【請求項27】
電流対電圧比が、標的組織温度を60℃またはそれ未満に維持するための温度を基に調節される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
電流対電圧比が、標的組織温度を50℃またはそれ未満に維持するための温度を基に調節される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
組織をアブレーションする方法であって:
治療する組織領域を同定する工程;
第一および第二の電極を、同定した組織領域が第一および第二の電極間に位置するように配置する工程;
同定した組織領域内の実質的に全ての細胞を死滅させる不可逆的電気穿孔を実現するのに十分な時間、所定の電界を同定した組織領域へ印加する工程
を含む方法。
【請求項30】
不可逆的電気穿孔が、細胞の正常に制御された細胞膜を介する物質の流れの致命的破壊を生じる、請求項29記載の方法。
【請求項31】
組織をアブレーションする装置であって:
治療する組織領域を間に配置する、第一および第二の電極;
同定された組織領域内の実質的に全ての細胞を死滅させる不可逆的電気穿孔を実現するのに十分な時間、組織領域の周囲に所定の電界を提供するように、第一および第二の電極間に電圧を印加する、電圧発生手段
を含む装置。
【請求項32】
発生手段が、約50V/cm〜約8000V/cmの範囲の電圧勾配で、100マイクロ秒±約10マイクロ秒のパルスを発生する、請求項31記載の装置。
【請求項33】
組織領域内ではない細胞への損傷を最小化しながら、組織領域内の細胞の不可逆的電気穿孔を得るために、発生手段の電圧およびパルス期間を調節する手段をさらに含む、請求項31記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−46766(P2013−46766A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−211929(P2012−211929)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【分割の表示】特願2006−547425(P2006−547425)の分割
【原出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【Fターム(参考)】