説明

不妊症を治療するための製薬学的製剤

【課題】不妊症を治療し、卵胞の成長を誘発する製剤を提供する。
【解決手段】前記製剤は、LH−RH拮抗物質の投与により不妊症を治療し、外因性ゴナドトロピンの投与により卵胞の成長を誘発することにより不妊症を治療するための製薬学的製剤であり、内因性LHのみを抑制し、FSH分泌作用を自然のレベルに維持し、個々のエストロゲンの発達に影響しないほど低い量のLH−RH拮抗物質を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LH−RH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)拮抗物質の投与により不妊症を治療し、外因性ゴナドトロピンの投与により卵胞の成長を誘発することにより不妊症を治療するための製薬学的製剤に関し、該製剤は内因性LH(黄体形成ホルモン)のみを抑制し、FSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌を自然のレベルに維持し、個々のエストロゲンの発達に影響しないほど低い量のLH−RH拮抗物質を含有する。更に本発明は、LH−RH拮抗物質を含有する、卵巣の刺激を調整する製薬学的製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
妊娠が成功する試みがうまく行かない理由は等しく男女の不妊症に起因する。今日多くの異なる補助的な生殖技術が利用可能であり、これらは受精可能な卵母細胞を得るために、多くのおよび同時の卵胞の成長を誘発することにしばしば使用される。
【0003】
多くの卵胞の発達を誘発する現在の標準的な治療は高い用量のHMG(human menopausal gonadotropin、閉経婦人尿性腺刺激ホルモン)の投与にもとづき、これは卵巣の過度の刺激を生じる。適当な成熟程度に達した後で、十分な数の卵母細胞を得るために、HCG(human chorion gonadotropin、絨毛性性腺刺激ホルモン)の投与により排卵を誘発し、同時に引き続く作用のために臨床的下部構造(clinic-infrastructure)を調製する。これらは、腹腔または経膣の穿刺による卵母細胞の回収、種々の技術による身体内部または身体外部の卵母細胞の受精および子宮内の胎児の転位である。形式的に妊娠の開始は付加的なHCGまたはプロゲステロンの投与により支持される。
【0004】
今日この治療は男女の不妊という臨床的状況に適用される。過度の刺激法の間にしばしば認められる問題は
A:患者の約25%に生じる引き続く治療の取消しを誘発する卵胞の破裂を伴う早過ぎる成熟段階での黄体形成ホルモン(LH)の早発性サージ(premature surge)、および
B:危険な場合は入院を必要とし、生命の脅威である、外因性ゴナドトロピンにより誘発される卵巣の過度の刺激症候群
である。
【0005】
早発性LHサージを回避するために、今日LH−RH作動薬が同時投薬として使用される。この薬剤の連続的投与により、下垂体細胞の減感およびこの受容体の調整力の減少により、内因性ゴナドトロピンの完全な抑制が達成される。引き続きゴナドトロピン濃度を外部から注入により調整し、エストラジオールの濃度を高めることにより下垂体がLH放出の刺激に耐えられる。抑制および調整力の減少が生じるまでの長い処理時間と、エストロゲンの不足症状および通常の月経周期の撹乱の発生と、抑制の開始時間を評価するための頻度の多いホルモンの決定が欠点である。引き続き卵巣の刺激のために高い用量のHMG処理を開始する。
【0006】
前記の過度の刺激症候群の発病原理は完全には解明されていないが、今日では排卵の誘発および黄体期の支持のためのHCGの使用と関係していると考えられている。
【0007】
不妊症の治療の範囲の1つの最近の探求法は、LH−RH拮抗物質、セテロレリックス(Cetrorelix(INN))の使用である。最初の臨床的試みにおいて、セテロレリックスを用いた短時間の処理により、刺激された周期中に早発性LHサージを完全に回避し、HMGの需要が著しく低下した。この拮抗物質によりゴナドトロピンがすぐに抑制されることにより、好ましくない興奮期および作動薬により生じるエストロゲンの不足を回避することができ、治療時間が著しく短縮される。更に中間の卵胞期に投与された拮抗物質の単独の注入が適当に早発性LHサージを抑制できることが最近になって判明した。
【0008】
上記の改良にもかかわらず、治療の形式はすべて多くの卵胞の発達を過度に刺激するために外因性ゴナドトロピンの用量をできるだけ多くして患者を治療することに向けられており、従ってこれらの治療方法は、過酷な、不利な事件を減少し、患者の服従を改良し、費用を減少することに関してなお改良を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は上記の欠点を排除した製薬学的製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、本発明により、内因性LHのみを抑制し、FSHの分泌を自然のレベルに維持し、個々のエストロゲンの発達に影響しないほど低い量のLH−RH拮抗物質を含有する製薬学的製剤により解決される。LH−RH拮抗物質は有利にはセテロレリックスである。
【0011】
セテロレリックスで得られた最近のデータにより、男女の不妊症を治療するための驚くべき新しい利点が存在することが示された。
【0012】
セテロレリックスを用いた動物実験および臨床的研究により、多数回または1回の注入により通常の、刺激されない卵胞の成長の抑制が誘発できた。この効果はきわめて低い配量で認められる。これは、卵胞を成長する可能性に影響させないで、通常の、非外因性のゴナドトロピンに刺激された周期中に排卵時間を処理するという新たな可能性を生じる。LH−RH拮抗物質を用いた処理に関連した適当な卵胞の成長の場合は、ゴナドトロピンまたはほかの栄養化合物の少ない配量および短い投与時間がこれらの効果を補償する。引き続きLH−RH拮抗物質処理を中断することにより、通常の排卵を生じるかまたは意図する場合は外因的処理により誘発することが可能である。その場合は排卵の誘発は標準的HCGの投与によりまたはLH−RHの投与によりまたはLH−RH作動薬類似物により実施することができる。
【0013】
前記処理の解決案は完全に新規である、それというのもこれらはLHサージを調節するための前記の処理をLH−RH拮抗物質を用いて実施する場合にのみ存在するからである。セテロレリックスを用いた動物実験および臨床的研究において、LH−RHまたは作動薬類似物に対する下垂体の反応性がこれらの条件下で保持されることが示された。この状況と対照的に、受容体の調整力低下によるLHサージを調整するための作動薬前処理の後では下垂体は反応できない。更にHCGとは別の排卵誘発剤の可能な使用により卵巣の過度の刺激症候群の発生を減少する。
【0014】
前記の結果にもとづき、精子の注入を含む補助的な生殖技術に、決められたセテロレリックスの継続時間および配量により排卵時間を決定することにより、通常の、ゴナドトロピンに刺激されない周期を使用することがはじめて可能である。特にICSI(Intra-Cytoplasmatic-Sperm-Injection)の方法と結び付いて、この拮抗物質に依存した処理形式は不妊症の男性をこの種の受精処理に取り入れることを容易にする。受精可能な男性配偶子の直接注入により、この方法は高い成功率を有し、従って受精のためにただ1つの卵胞の収穫を可能にする。更に前記方法におけるセテロレリックスのようなLH−RH拮抗物質の使用は過酷な卵巣の過度の刺激から患者を解放し、処理周期の費用を著しく減少する。
【実施例】
【0015】
238人の患者をセテロレリックスを用いてセテロレリックス アセテート リポフィリゼートの皮下注射により処理した。
【0016】
134人の患者を多数回の配量で処理し、104人の患者を1回または2回の配量で処理した。多数回の配量は毎日0.25mg以上であった。1回の配量は3mg以上であった。これらの配量で処理した、補助的生殖技術のための制御した卵巣の排卵過度処理(COS/ART、controlled ovarian superovulation for assisted reproduction technology)を受けた患者には早発性LHサージが認められなかった。卵胞の発達に依存して3日から最高10日まで多数回の配量を適用した。
【0017】
結果として71組の妊娠が達成された=30.0%
134人のうち38人が多数回の配量形式を続けた=28.4%
104人のうち33人は1回/2回の配量形式を続けた=31.7%
引き続く処理により41人の子供が生まれ、これは15人が多数回の配量を続け、29人が1回/2回の配量を続けたことを意味する。16組の妊娠がなお継続している。
【0018】
表Iはこれを詳細に示す。
【0019】
表IIIは、早発性LHサージの完全な抑制を示す。更にFSH分泌が自然のレベルに維持され、従って個々のエストロゲンの発達が影響されない。
【0020】
セテロレリックスを用いた制御された卵巣の刺激(COS/ART)における主な利点は
1.COS/ARTに関する新たな治療原理であり、
早発性LHサージの抑制において、
均一な、連続的な卵胞の同調化
均一な、連続的なエストラジオールの発展
最適な卵胞の発達のためのきわめて低いLH値
FSHの発達が影響されない
2.3〜7日、最高14日の短い処理時間
卵胞の発達中の短い時間の表示
卵胞の発達中の低い薬剤の表示
3.突発的でないが即座のホルモンの反応
4.HMGの開始前の14〜21日間の前処理が不要
5.通常の月経周期に適合
生理的な月経周期パターンの変更が不要
刺激前のホルモン不足症候がない
6.排卵誘発後の極端に短い残留効果が見られないかまたはわずかである
7.胎児の転位中および引き続く残留効果がない
8.刺激開始前の卵巣の小胞形成がない
9.ゴナドトロピンの配量の減少
表IIはARTのための調整された卵巣の排卵過度を受けた患者のHMGおよびセテロレリックスの典型的な処理開始および継続の例を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
注)X1=hMG注入の1日目(d1)、月経出血、妊娠していないことの確認(朝の確認)後、hCG→neg(≦10IU/l)、P≦1ng/ml(≦3.81nmol/l).FSH 10IU/l、卵巣小胞なし(≧2cmφ、生じるE2≧50pg/ml(≧185pmol/l)).hMGのd1=月経周期の2または3日
2=卵胞成熟に依存したhMG投与の最終日(X3参照)
3=hCG10000IU注入の日、直ちにultrasound(USS)により測定して平均直径20mmを有する少なくとも1つの卵胞またはE≧1200pg/ml(4405pmol/l)が認められる
4=CAVE:15mmφ以上の卵胞が12個より多いかまたは興奮期中のEが4000pg/ml(≧14684pmol/l)より多い場合→hCG注入せず→周期の消失
5=中心規則による黄体期支持、中心規則によるhCG注入またはプロゲステロンの経膣投与(たとえば3×200mg/日)のいずれかを中心規則により適用する
6=早発性研究期間のすべての場合(たとえば出産の場合)に常に記録される必要がある
7=病院または外部で2回(朝およびhCG投与の少し前に)回収されるhCGの日のホルモン決定のための血液サンプル
Ultrasound(USS);XはhCGの日までのhMGの6日の間に中心規則により処理される、USSはHCGの日に行う必要がある
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
LH−RH拮抗物質の投与と、外因性ゴナドトロピンの投与による卵胞の成長の誘発とにより不妊症を治療するための製薬学的製剤において、内因性LHのみを抑制し、FSHの分泌を自然のレベルに維持し、個々のエストロゲンの発達に影響しないほど低い量のLH−RH拮抗物質を含有することを特徴とする、不妊症を治療するための製薬学的製剤。
【請求項2】
拮抗物質がセテロレリックスである、請求項1記載の製薬学的製剤。
【請求項3】
外因性ゴナドトロピン以外の物質により卵胞の成長が刺激される請求項2記載の製薬学的製剤。
【請求項4】
LH−RH拮抗物質により引き起こされる天然のLHの作用を抑制した後で卵胞の発達が外部から刺激されず、内因性ゴナドトロピンにより維持される、請求項2記載の製薬学的製剤。
【請求項5】
皮下投与されるセテロレリックスの量が多数回の配量薬量においてセテロレリックス1日0.1〜5mgの範囲内である請求項2記載の製薬学的製剤。
【請求項6】
セテロレリックスが開始周期1〜10日で投与され、月経周期8〜18日で排卵が誘発され得る、LH−RH拮抗物質を含有する、卵巣の刺激を調整する製薬学的製剤。
【請求項7】
LH−RH拮抗物質が1回または2回の皮下投与として1mg〜10mgの範囲内で投与される請求項1記載の製薬学的製剤。
【請求項8】
LH−RH拮抗物質が開始周期6〜10日で請求項7により投与され、月経周期9〜16日で排卵が誘発され得る、卵巣の刺激を調整する製薬学的製剤。
【請求項9】
排卵がrec.LHにより誘発される請求項6記載の製薬学的製剤。
【請求項10】
排卵が天然のLH−RHにより誘発される請求項6記載の製薬学的製剤。
【請求項11】
排卵がLH−RH作動薬により誘発される請求項6記載の製薬学的製剤。
【請求項12】
排卵がHCGにより誘発される請求項6記載の製薬学的製剤。
【請求項13】
黄体期中にHCGの負の効果を抑制する際に黄体相の補充を回避するために天然のLH−RHまたはLH−RH作動薬が投与される請求項8記載の製薬学的製剤。
【請求項14】
過度の刺激症候群を回避するためにrec.LH、天然のLH−RHまたはLH−RH作動薬が投与される請求項8記載の製薬学的製剤。

【公開番号】特開2013−56949(P2013−56949A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−288298(P2012−288298)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2009−96656(P2009−96656)の分割
【原出願日】平成9年2月5日(1997.2.5)
【出願人】(503300502)エテルナ ツェンタリス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (25)
【氏名又は名称原語表記】AEterna Zentaris GmbH
【住所又は居所原語表記】Weismuellerstrasse 50,D−60314 Frankfurt am Main,Germany
【Fターム(参考)】