説明

不完全縮合オリゴシルセスキオキサン及びその製造方法

【課題】完全縮合型POSSの骨格の再配列により、不完全縮合POSS誘導体を得る新規な製造方法、それによって得られた新規な不完全縮合POSS誘導体を提供する。
【解決手段】一般式(1)


で示される完全縮合オクタフェニルオクタシルセスキオキサンと、一般式(2)


で示される完全縮合ポリヘドラルオリゴシルセスキオキサン(POSS)を、水-アルコール溶媒中、アルカリの共存下、共加水分解反応させ、必要により、次いで保護基で保護することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不完全縮合オリゴシルセスキオキサン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不完全縮合のオリゴシルセスキオキサン骨格は、シルセスキオキサンを含むポリマー、シリカ担持触媒、ネットワークポリマー等の合成ブロックとして重要な役割を果たしている(例えば、非特許文献1)。不完全縮合ポリヘドラルオリゴシルセスキオキサン(以下、POSSということがある)の合成について、Feherらは完全縮合型POSS骨格の「controlled cleavage」を試みている(例えば、非特許文献2)。
【非特許文献1】マクロモレキュールス(Macromolecules)2007年,40号,16号,5698−5705頁
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・ディ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)1997年,119巻,46号,11323−11324頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、完全縮合型POSSの骨格の再配列により、不完全縮合POSS誘導体を得る新規な製造方法の提供と、それによって得られた新規な不完全縮合POSS誘導体の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一般式(1)
【化1】

【0005】
[式中、Phはフェニル基を表す。]
で示される完全縮合オクタフェニルオクタシルセスキオキサン(以下、Ph−Tということがある。)と、一般式(2)
【0006】
【化2】

【0007】
[式中、Rは独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、任意の水素原子が重水素、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリール基、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリールアルキル基である。]
【0008】
で示される完全縮合ポリヘドラルオリゴシルセスキオキサン(POSS)を、水-アルコール溶媒中、アルカリの共存下、共加水分解反応させ、必要により、次いで保護基で保護することを特徴とする一般式(3)
【0009】
【化3】

【0010】
[式中、R’はフェニル基と前記一般式(2)で示した置換基Rとのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
【0011】
で示される環状テトラシロキサン及び/又は一般式(4)
【0012】
【化4】

【0013】
[式中、R’はフェニル基と前記一般式(2)で示した置換基Rとのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
【0014】
で示される環状ヘプタシルセスキオキサン及び/又は一般式(5)
【0015】
【化5】

【0016】
[式中、R’はフェニル基と前記一般式(2)で示した置換基Rとのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
【0017】
で示される環状オクタシルセスキオキサンの製造方法である(請求項1)。
【0018】
また、本発明は、アルコールが、炭素数1から4の分枝されていてもよい脂肪族アルコールから選択される請求項1に記載の製造方法である(請求項2)。
【0019】
更に、本発明は、アルカリが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、炭素数1から4のアルキル置換基をもつ四級アンモニウム塩の水酸化物及び炭素数1から4のアルキル置換基をもつ四級アンモニウム塩のフッ素物から選択される請求項1乃至請求項2の何れかに記載の製造方法である(請求項3)。
【0020】
更にまた、本発明は、反応温度が、室温から溶媒の還流温度の範囲から選択される請求項1乃至請求項3の何れかに記載の製造方法である(請求項4)。
次に、本発明は、一般式(3)
【0021】
【化6】

【0022】
[式中、R’はフェニル基と水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、任意の水素原子が重水素、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリール基、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリールアルキル基とのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
【0023】
で示される環状テトラシロキサンである(請求項5)。
また、本発明は、一般式(4)
【0024】
【化7】

【0025】
[式中、R’はフェニル基と水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、任意の水素原子が重水素、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリール基、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリールアルキル基とのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
【0026】
で示される環状ヘプタシルセスキオキサンである(請求項6)。
更に、本発明は、一般式(5)
【0027】
【化8】

【0028】
[式中、R’はフェニル基と水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、任意の水素原子が重水素、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリール基、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリールアルキル基とのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
で示される環状オクタシルセスキオキサンである(請求項7)。
また、本発明は、一般式(1)
【化9】


[式中、Phはフェニル基を表す。]
で示される完全縮合オクタフェニルオクタシルセスキオキサン(Ph−T)と、一般式(6)
【化10】



[式中、RはPh-d5及び/又はo-MePhを表す。]
で示される完全縮合ポリヘドラルオリゴシルセスキオキサン(POSS)を、水-アルコール溶媒中、アルカリの共存下、共加水分解反応させ、次いで保護基(クロロトリメチルシランなどのシランカップリング剤)で保護することを特徴とする一般式(7)
【化11】


[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状1,3,5,7−テトラキス(トリメチルシリル)テトラフェニルテトラシロキサン(TOTMS)及び/又は一般式(8)
【化12】


[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状3,7,14−トリス(トリメチルシリル)ヘプタフェニルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシルセスキオキサン(TOTMS)及び/又は一般式(9)
【化13】




[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状5,11,14,17−テトラキス(トリメチルシリル)オクタフェニルテトラシクロ[7.3.3.33,7]オクタシルセスキオキサン(DDTOTMS)の製造方法である(請求項8)。
また、本発明は、一般式(7)
【化14】


[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状1,3,5,7−テトラキス(トリメチルシリル)テトラフェニルテトラシロキサン(TOTMS)である(請求項9)。
また、本発明は、一般式(8)
【化15】

[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状3,7,14−トリス(トリメチルシリル)ヘプタフェニルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシルセスキオキサン(TOTMS)である(請求項10)。
また、本発明は、一般式(9)
【化16】

[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状5,11,14,17−テトラキス(トリメチルシリル)オクタフェニルテトラシクロ[7.3.3.33,7]オクタシルセスキオキサン(DDTOTMS)である(請求項11)。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、完全縮合型POSSの骨格の再配列により、不完全縮合POSS誘導体を得る新規な製造方法の提供と、それによって得られた新規な不完全縮合POSS誘導体の提供にある。更に、これらのPOSS誘導体は、各種レジスト及びパターン形成材料、酸素吸収剤及び酸素吸収樹脂組成物、プラズマディスプレイパネルなどの用途の資材として期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、前述のとおり、一般式(1)
【0031】
【化17】

【0032】
[式中、Phはフェニル基を表す。]
で示される完全縮合オクタフェニルオクタシルセスキオキサン(Ph−T)と、一般式(2)
【0033】
【化18】

【0034】
[式中、Rは独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、任意の水素原子が重水素、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリール基、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリールアルキル基である。]
【0035】
で示される完全縮合ポリヘドラルオリゴシルセスキオキサン(POSS)を、水-アルコール溶媒中、アルカリの共存下、共加水分解反応させ、必要により、次いで保護基で保護することを特徴とする一般式(3)
【0036】
【化19】

【0037】
[式中、R’はフェニル基と前記一般式(2)で示した置換基Rとのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
【0038】
で示される環状テトラシロキサン及び/又は一般式(4)
【0039】
【化20】

【0040】
[式中、R’はフェニル基と前記一般式(2)で示した置換基Rとのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
【0041】
で示される環状ヘプタシルセスキオキサン及び/又は一般式(5)
【0042】
【化21】

【0043】
[式中、R’はフェニル基と前記一般式(2)で示した置換基Rとのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
【0044】
で示される環状オクタシルセスキオキサンの製造方法及び当該環状テトラシロキサン、ヘプタシルセスキオキサン及び環状オクタシルセスキオキサンである。
中でも、本発明は、一般式(1)
【化22】


[式中、Phはフェニル基を表す。]
で示される完全縮合オクタフェニルオクタシルセスキオキサン(Ph−T)と、一般式(6)
【化23】

[式中、RはPh-d5及び/又はo-MePhを表す。]
で示される完全縮合ポリヘドラルオリゴシルセスキオキサン(POSS)を、水-アルコール溶媒中、アルカリの共存下、共加水分解反応させ、次いで保護基(クロロトリメチルシランなどのシランカップリング剤)で保護することを特徴とする一般式(7)
【化24】

[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状1,3,5,7−テトラキス(トリメチルシリル)テトラフェニルテトラシロキサン(TOTMS)及び/又は一般式(8)
【化25】

[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状3,7,14−トリス(トリメチルシリル)ヘプタフェニルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシルセスキオキサン(TOTMS)及び/又は一般式(9)
【化26】

[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状5,11,14,17−テトラキス(トリメチルシリル)オクタフェニルテトラシクロ[7.3.3.33,7]オクタシルセスキオキサン(DDTOTMS)の製造方法及び一般式(7)
【化27】

[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状1,3,5,7−テトラキス(トリメチルシリル)テトラフェニルテトラシロキサン(TOTMS)、一般式(8)
【化28】

[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状3,7,14−トリス(トリメチルシリル)ヘプタフェニルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシルセスキオキサン(TOTMS)及び/又は一般式(9)
【化29】



[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状5,11,14,17−テトラキス(トリメチルシリル)オクタフェニルテトラシクロ[7.3.3.33,7]オクタシルセスキオキサン(DDTOTMS)である。
【0045】
すなわち、本発明の共加水分解反応の反応機構は、Ph−Tとオクタ(フェニル-d)オクタシルセスキオキサン(Ph−d−T)又はオクタ(o-メチルフェニル)オクタシルセスキオキサン(o−MePh−T)などとの共加水分解を行った(スキーム1参照)。
【0046】
スキーム1
【化14】


【0047】
興味深いことに、この反応では置換基の置き換えが行われていることを発見した。以下の表1、No.1に示すように、Ph−TとPh−d−Tの共加水分解を行うと、DDTOTMSだけでなくTOTMSも生成した。
【0048】
【表1】

【0049】
a;(Ph−T+Ph−d−T)/溶媒=1mmol/25mL
b;(Ph−T+o−MePh−T)/溶媒=1mmol/9mL
c:(Ph−T+Ph−d−T)/溶媒=1mmol/22mL
還流温度:オイルバス下約90℃
【0050】
DDTOTMSとTOTMSのモル比は29Si−NMRから、約1.5/1であった。カラムクロマトグラフィー精製後の重量比は、2.33/1となった。同じ条件下で、Ph−Tとオクタ(o-メチルフェニル)オクタシルセスキオキサン(o−MePh−T)の共加水分解では、TOTMSのみが生成した(表1、No.2)。完全縮合型POSSの加水分解では、置換基の立体的大きさが影響していることが考えられる。
【0051】
両TOTMSとDDTOTMSのシルセスキオキサン骨格の29Si−NMRピークは2つの異なる化学シフトとして観察される。この理由として、フェニル基とフェニル-d基が、Tやダブルデッカー(DDT)骨格中にランダムに分布しているためと考えられる。より定量的なデータはマトリックス支援レーザー脱離方式イオン化-飛行時間型質量分析装置(MALDI−TOF−MS)から得ている。重水素化した置換基は、両TOTMSとDDTOTMSにランダムに分布していた(表2)。
【0052】
【表2】

【0053】
類似現象として、Ph−Tとo−MePh−Tの共加水分解でも見られた。生成したTOTMSの複雑な29Si−NMRは、TOTMSのフェニル基とo-メチルフェニル基がランダムに分布していることを示唆している。MALDI−TOF−MSの測定結果は、それぞれ異なるフェニル/o-メチルフェニル比をもつTOTMSがあることを示している(表2)。TOTMSにおいて、フェニル基とo-メチルフェニル基が統計学的にランダムに分布していることがわかる。
【0054】
表2に示すように、溶媒の還流温度でDDTOTMSとTOTMSの置換基の置き換えがおこっているが、TOTMSでは室温でおこっている。
実験事実に基づき、反応機構を上記、スキーム1のように考えた。
【0055】
が単純に加水分解しているなら、TOTMSとDDTOTMSの骨格に結合している置換基は、一種類と考えられるが(スキーム1上段)、これは正しくない。Ph−TとPh−d−T、もしくはo−MePh−Tの共加水分解では、生成物中にランダムに置換基が分布していることから、「再配列(reshuffling process)」でPOSSが加水分解している大きな証拠である。すなわち、完全縮合型POSSが分解して小さなフラグメントになり、再組み立てによりDDTやT構造になるということである。
【0056】
つまり、選択的な反応条件下では、完全縮合型POSSの加水分解により生じた不完全縮合のオリゴシルセスキオキサン骨格は、制御された構造の環状四量体、T、そしてDDTに再構築される。加水分解反応は、「再配列」である。
【0057】
以下、本発明の加水分解反応の実際について更に具体的に説明する。
本発明の製造方法に用いられる炭素数1から4の分枝されていてもよい脂肪族アルコールとしては、具体的には、エタノール、2−プロパノール、2-メチル−1−プロパノール、n−ブタノールもしくはSec−ブタノールなどが挙げられる。中でも、2−プロパノールもしくは2-メチル−1−プロパノールが好ましくは用いられる。
【0058】
本発明の製造方法に用いられるアルカリとしては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、炭素数1から4のアルキル置換基をもつ四級アンモニウム塩の水酸化物、炭素数1から4のアルキル置換基をもつ四級アンモニウム塩のフッ素物から選択されるが、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。中でも、水酸化ナトリウムが好ましくは用いられる。
【0059】
本発明の製造方法において、加水分解反応の反応温度は、室温から水−アルコール溶媒の還流温度の範囲内で選択される。
【0060】
本発明の製造方法において、原料・反応試剤の仕込みモル比は、Ph−T: Ph―d又はo−MePh−T:HO:NaOHが1:1:4:8を中心とした任意の範囲から適宜、選択される。
【0061】
本発明の製造方法において、目的物の取出し、分離方法は、晶析法又は濃縮乾固法による通常の方法によって行われる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明の方法を更に具体的に説明する。
【0063】
実施例1
Ph−d−T(0.11g,0.10mmol)、Ph−T(0.11g,0.10mmol)、水酸化ナトリウム(0.033g,0.82mmol)、水(0.0073g,0.41mmol)及び2−プロパノール(5mL)を反応器に加え、窒素置換したのち、還流下で24時間攪拌した。反応終了後、ろ過により白色固体を得、2−プロパノールで洗浄して、真空下、70℃で乾燥させ、白色固体(0.15g)を得た。生成物を同定しやすくするために、ONa基を以下の実験手順でトリメチルシリル(TMS)基保護した。30mLの二口フラスコに上記生成物を加えて置換した。氷水浴下、テトラヒドロフラン(THF)、トリエチルアミン(1.8g,17.8mmol)、クロロトリメチルシランを反応器に加え、反応溶液を室温下で3時間攪拌し、氷水浴下で水を反応器にゆっくり加えた。攪拌を止めて有機層を分離し、蒸留水を加えて洗浄して中性にし、ヘキサンを有機層に加えた。TOTMSとDDTOTMSはカラムクロマトグラフィー(45−75μmのシリカゲルで、四塩化炭素を使用)で分離することができる[薄層クロマトグラフィー(TLC):RfDDT8OTMS=0.60; RfT7OTMS=0.44]。DDTOTMS/ TOTMSの重量比は、2.33/1であった。
【0064】
SEC:Mw/Mn=1250/1240.
MALDI−TOF−MS: 図1、図2(TOTMSの部分拡大図)及び図3(DDTOTMSの部分拡大図)
29Si−NMR δ (ppm):11.54 (OSiMe in TOTMS);10.51 (OSiPh in DDTOTMS);−76.02, −78.85 (OSiPh−d in DDTOTMS);−76.12, −78.94 (OSiPh in DDTOTMS);−77.33,−77.91,−78.19 (OSiPh−d in TOTMS);−77.42,−77.99,−78.26 (OSiPh in TOTMS 部分拡大図)(図4).
【0065】
実施例2
o−MePh−T(0.31g,0.27mmol)、Ph−T(0.28g,0.27mmol)、水酸化ナトリウム(0.086g,2.2mmol)、水(0.019g,1.1mmol)、2−プロパノール(5mL)を用い、実験操作は還流下、実施例1の加水分解と同様の方法で行い、白色固体(0.27g)を得た。
【0066】
SEC:Mw/Mn=1160/1155.
MALDI−TOF−MS( 図5).
29Si−NMR δ (ppm): 10.49〜11.37 (m,OSiMe); −78.88〜−76.83 (m,OSiPh) (図6).

【0067】
実施例3
Ph−T(0.0963g,0.093mmol)、Ph−d−T(0.1000g,0.093mmol)、水酸化ナトリウム(0.030g,75mmol)の入っている50mL二口フラスコを同様に窒素置換した。2−プロパノール(4mL)と水(0.0067g,0.37mmol)を反応器に加え、室温下で40時間攪拌した。反応終了後、ろ過により白色固体を得、2−プロパノールで洗浄して、真空下、70℃で5時間乾燥させた。収量:0.0583g。生成物をトリメチルシリル基で保護し、同様の手順で還流下、Ph−Tの加水分解生成物を処理した。白色固体と、粘性の無色透明液体を得た。収量:0.0278g。MALDI−TOF−MSによる生成物の同定を図7に示す。

【産業上の利用可能性】
【0068】
これらのPOSSは、各種レジスト及びパターン形成材料、酸素吸収剤及び酸素吸収樹脂組成物、プラズマディスプレイパネルなどの用途の合成素子として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】トリメチルシリル基保護したPh−TとPh−d−Tを還流下、共加水分解して得られた生成物のMALDI−TOF−MSを示す。
【図2】トリメチルシリル基保護したPh−TとPh−d−Tを還流下、共加水分解して得られた生成物のMALDI−TOF−MS(TOTMSの部分拡大図を示す。
【図3】トリメチルシリル基保護したPh−TとPh−d−Tを還流下、共加水分解して得られた生成物のMALDI−TOF−MS(DDTOTMSの部分拡大図)を示す。
【図4】トリメチルシリル基保護したPh−TとPh−d−Tを還流下、共加水分解して得られた生成物の29Si−NMRを示す。
【図5】トリメチルシリル基保護したPh−Tとo−MePh−Tを室温下、共加水分解して得られた生成物のMALDI−TOF−MSを示す。
【図6】トリメチルシリル基保護したPh−Tとo−MePh−Tを還流下、共加水分解して得られた生成物の29Si−NMRを示す。
【図7】トリメチルシリル基保護したPh−TとPh−d−Tを還流下、共加水分解して得られた生成物の29Si−NMRを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


[式中、Phはフェニル基を表す。]
で示される完全縮合オクタフェニルオクタシルセスキオキサン(Ph−T)と、一般式(2)
【化2】


[式中、Rは独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、任意の水素原子が重水素、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリール基、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリールアルキル基である。]
で示される完全縮合ポリヘドラルオリゴシルセスキオキサン(POSS)を、水-アルコール溶媒中、アルカリの共存下、共加水分解反応させ、必要により、次いで保護基で保護することを特徴とする一般式(3)
【化3】


[式中、R’はフェニル基と前記一般式(2)で示した置換基Rとのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
で示される環状テトラシロキサン及び/又は一般式(4)
【化4】


[式中、R’はフェニル基と前記一般式(2)で示した置換基Rとのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
で示される環状ヘプタシルセスキオキサン及び/又は一般式(5)
【化5】


[式中、R’はフェニル基と前記一般式(2)で示した置換基Rとのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
で示される環状オクタシルセスキオキサンの製造方法。
【請求項2】
アルコールが、炭素数1から4の分枝されていてもよい脂肪族アルコールから選択される請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アルカリが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、炭素数1から4のアルキル置換基をもつ四級アンモニウム塩の水酸化物及び炭素数1から4のアルキル置換基をもつ四級アンモニウム塩のフッ素物から選択される請求項1乃至請求項2の何れかに記載の製造方法。
【請求項4】
反応温度が、室温から溶媒の還流温度の範囲から選択される請求項1乃至請求項3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(3)
【化6】


[式中、R’はフェニル基と独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、任意の水素原子が重水素、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリール基、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリールアルキル基とのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
で示される環状テトラシロキサン。
【請求項6】
一般式(4)
【化7】


[式中、R’はフェニル基と独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、任意の水素原子が重水素、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリール基、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリールアルキル基とのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
で示される環状ヘプタシルセスキオキサン。
【請求項7】
一般式(5)
【化8】


[式中、R’はフェニル基と独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、任意の水素原子が重水素、ハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリール基、またはアリールにおける任意の水素がハロゲンまたは炭素数1〜10のアルキル基で置き換えられていてもよいアリールアルキル基とのランダム混合物を表し、R’’はナトリウム(Na)又はSi(R’’’)を表し、R’’’は水素原子、炭素数1から4の脂肪族炭化水素基又は更に置換基を有することもあるフェニル基を表す。]
で示される環状オクタシルセスキオキサン。
【請求項8】
一般式(1)
【化9】


[式中、Phはフェニル基を表す。]
で示される完全縮合オクタフェニルオクタシルセスキオキサン(Ph−T)と、一般式(6)
【化10】

[式中、RはPh-d5及び/又はo-MePhを表す。]
で示される完全縮合ポリヘドラルオリゴシルセスキオキサン(POSS)を、水-アルコール溶媒中、アルカリの共存下、共加水分解反応させ、次いで保護基(クロロトリメチルシランなどのシランカップリング剤)で保護することを特徴とする一般式(7)
【化11】


[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状1,3,5,7−テトラキス(トリメチルシリル)テトラフェニルテトラシロキサン(TOTMS)及び/又は一般式(8)
【化12】


[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状3,7,14−トリス(トリメチルシリル)ヘプタフェニルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシルセスキオキサン(TOTMS)及び/又は一般式(9)
【化13】




[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状5,11,14,17−テトラキス(トリメチルシリル)オクタフェニルテトラシクロ[7.3.3.33,7]オクタシルセスキオキサン(DDTOTMS)の製造方法。
【請求項9】
一般式(7)
【化14】


[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状1,3,5,7−テトラキス(トリメチルシリル)テトラフェニルテトラシロキサン(TOTMS)。
【請求項10】
一般式(8)
【化15】


[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状3,7,14−トリス(トリメチルシリル)ヘプタフェニルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシルセスキオキサン(TOTMS)。
【請求項11】
一般式(9)
【化16】

[式中、R’はフェニル(Ph)、Ph-d5及び/又はo-MePhのランダム混合物を表す。]
で示される環状5,11,14,17−テトラキス(トリメチルシリル)オクタフェニルテトラシクロ[7.3.3.33,7]オクタシルセスキオキサン(DDTOTMS)。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−263596(P2009−263596A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118084(P2008−118084)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼「有機合成化学協会誌」 第66巻 第2号 ▲2▼発行日 平成20年2月1日 ▲3▼発行所 社団法人有機合成化学協会 ▲4▼該当ページ 第148頁〜第157頁
【出願人】(391010895)小西化学工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】