説明

不定形組成物

【課題】耐火性、生体溶解性に優れる生体溶解性繊維を含む、実用特性を有する不定形組成物を提供する。
【解決手段】以下の組成の被覆層で被覆されていない無機繊維、無機バインダー及び溶媒を含み、さらに針状結晶構造を含まない無機粉体を含むことができ、前記無機繊維と無機粉体との割合が、無機繊維:無機粉体=100:0〜10:90であり、pH調整剤と有機繊維は含まない、ペースト状不定形組成物。[無機繊維の組成]SiO66〜82重量%、CaO10〜34重量%、MgO3重量%以下、Al5重量%以下、SiO、CaO、MgO、Alの合計98重量%以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、熱処理装置、工業窯炉内又は焼却炉内の目地材、特に、耐火タイル、断熱レンガ、鉄皮、モルタル耐火物等の隙間を埋める目地材として使用される不定形組成物に関し、より具体的には、特定の生体溶解性無機繊維を含む不定形組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不定形組成物は、ガラス繊維、グラスウール、セラミックウール、ロックウール、アルミナ質繊維、ジルコニア質繊維、シリカ・アルミナ質繊維等の無機繊維を、強化繊維として含有していた。不定形組成物は、例えば、鏝塗り、スプレー塗り又は注入施工等により、タイル等の隙間に挿入され、目地を形成する。その際、不定形組成物に含有されている無機繊維は粉塵となって空気中に飛散し、作業者が該粉塵を吸入することとなる。無機繊維は、人に吸入されて肺に侵入すると健康被害が懸念されるため、現在、無機繊維として生体溶解性繊維を用いる不定形組成物が開発されている(例えば、特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−306713号公報
【特許文献2】特開2006−282404号公報
【特許文献3】特開2005−281079号公報
【特許文献4】特表2002−524384号公報
【特許文献5】国際公開第2011/083696号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不定形組成物は、通常、製造後保管される。上述したように炉の補修や目地の形成等に塗布や埋め込まれた後、乾燥する。その後、炉において高温に晒される。従って、保管、使用時のペーストの状態のとき、設備等に施工して乾燥した後、さらに設備等の加熱時に、それぞれ以下の実用特性が求められる。
ペースト時には、ちょう度(粘性)が適切であって施工性に優れること、長期安定性を有する(保管性に優れる)ことである。乾燥後は、乾燥収縮が少なく形状の変化が少ないこと、乾燥強度が高いことである。加熱時は、加熱収縮率が小さく耐熱性、熱伝導率に優れることである。例えば、1100℃加熱後の加熱収縮率が50%未満、もしくは外観上で明らかなガラス化、変形等がないことが実用上好ましい。
【0005】
本発明者らは、耐火性、生体溶解性に優れる新規な生体溶解性繊維を開発した(特願2011−59354)。本発明は、このような耐火性、生体溶解性に優れる生体溶解性繊維を含む、実用特性を有する不定形組成物を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の不定形組成物が提供される。
1.以下の組成の被覆層で被覆されていない無機繊維、無機バインダー及び溶媒を含み、
さらに針状結晶構造を含まない無機粉体を含むことができ、
前記無機繊維と無機粉体との割合が、無機繊維:無機粉体=100:0〜10:90であり、
pH調整剤と有機繊維は含まない、ペースト状不定形組成物。
[無機繊維の組成]
SiO 66〜82重量%
CaO 10〜34重量%
MgO 3重量%以下
Al 5重量%以下
SiO、CaO、MgO、Alの合計 98重量%以上
2.前記無機粉体を含む1記載の不定形組成物。
3.前記無機粉体が、大気雰囲気中で1500℃以上の融点を有する2記載の不定形組成物。
4.前記無機粉体が、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコン、ジルコニア、チタニア、粘土鉱物、カルシア及びマグネシアから選択される1種又は2種以上からなる2記載の不定形組成物。
5.前記無機バインダーがコロイドを含む1〜4のいずれか記載の不定形組成物。
6.前記コロイドがコロイダルシリカである5記載の不定形組成物。
7.前記コロイダルシリカのpHが9〜11である6記載の不定形組成物。
8.前記無機バインダーが、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル及びリン酸アルミニウム水溶液から選択される1種又は2種以上からなる1〜4のいずれか記載の不定形組成物。
9.前記無機バインダーが、前記無機繊維と前記無機粉体の合計を100重量部としたときに、固形分として1〜30重量部含まれる1〜8のいずれか記載の不定形組成物。
10.さらに有機バインダーを含む1〜9のいずれか記載の不定形組成物。
11.前記有機バインダーがアクリルエマルジョン、澱粉及び増粘剤から選択される1種又は2種以上からなる10記載の不定形組成物。
12.前記有機バインダーが、前記無機繊維と前記無機粉体の合計を100重量部としたときに、固形分として0.1〜20重量部含まれている10又は11記載の不定形組成物。
13.金属イオンを含まないキレート剤は含まない1〜12のいずれか記載の不定形組成物。
14.1〜13のいずれか記載の不定形組成物が乾燥した成形物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐火性、生体溶解性に優れる生体溶解性繊維を含む、実用特性を有する不定形組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の不定形組成物は、強化繊維として耐火性、生体溶解性に優れる特定の生体溶解性繊維を含む。
【0009】
生体溶解性繊維は、MgOを多く含むMgシリケート繊維と、CaOを多く含むCaシリケート繊維に大別できるが、本発明では、Caシリケート繊維を用いる。生体溶解性繊維は水に溶けやすいため、通常組成物に含まれる水に溶解し、含有成分が溶出する。それが組成物中の他の成分や、塗布される被対象物等と反応し不都合をもたらす恐れがある。従って、水に溶けにくいセラミックス繊維を含む組成物は生体溶解性繊維を含む組成物と異なる挙動を示す場合があり、また、生体溶解性繊維の中でも、Mgシリケート繊維を含む組成物とCaシリケート繊維を含む組成物は溶出する成分の種類や量が異なるため、異なる挙動を示す場合がある。
【0010】
不定形組成物に、Mgシリケート繊維を用いるときは、必要な強度を確保するために、バインダーとして有機繊維を添加するが、Caシリケート繊維は有機繊維の添加は必要ではない。また、Mgシリケート繊維を用いるときは、pH調整剤(リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等の緩衝溶液や、酢酸等の酸)の添加が必要である。pH調整剤を添加しないと、保管中に固化する恐れがあり、乾燥収縮が大きくなる。しかし、Caシリケート繊維はpH調整剤の添加は必要ではない。さらに、Mgシリケート繊維を用いるときは、繊維の表面をリン酸塩等で被覆しないと保管中に溶解するが、Caシリケート繊維は被覆は必要ではない。
【0011】
本発明で用いるCaシリケート繊維は以下の組成を有する。
SiO 66〜82重量%(例えば、66〜75重量%未満、68〜80重量%、70〜80重量%、71〜75重量%未満、71〜80重量%又は71〜76重量%、とできる)
CaO 10〜34重量%(例えば、20〜30重量%又は21〜26重量%とできる)
MgO 3重量%以下(例えば、1重量%以下とできる)
Al 5重量%以下(例えば3.5重量%以下又は3重量%以下とできる。また、1重量%以上又は2重量%以上とできる)
他の酸化物 2重量%未満
【0012】
SiOが上記範囲であると耐熱性に優れる。CaOとMgOが上記範囲であると加熱前後の生体溶解性に優れる。
【0013】
Al含有量は、例えば、3.4重量%以下又は3.0重量%以下とできる。また、1.1重量%以上又は2.0重量%以上とできる。好ましくは0〜3重量%、より好ましくは1〜3重量%である。この範囲でAlを含むと強度が高くなる。
【0014】
上記の無機繊維は、他の酸化物として、アルカリ金属酸化物(KO、NaO等)、Fe、ZrO、P、B、TiO、MnO、R(RはSc,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Y又はこれらの混合物から選択される)等を1以上含んでもよく、含まなくてもよい。他の酸化物は、それぞれ、0.2重量%以下又は0.1重量%以下としてよい。アルカリ金属酸化物は各酸化物を0.2重量%以下としてもよく、アルカリ金属酸化物の合計を0.2重量%以下としてもよい。
【0015】
また、生体溶解性繊維は、SiO、CaO、MgO、Alの合計を98重量%超又は99重量%超としてよい。
【0016】
生体溶解性無機繊維は、例えば、40℃における生理食塩水溶解率が1%以上の無機繊維である。
生理食塩水溶解率は、例えば、次のようにして測定される。すなわち、先ず、無機繊維を200メッシュ以下に粉砕して調製された試料1g及び生理食塩水150mLを三角フラスコ(容積300mL)に入れ、40℃のインキュベーターに設置する。次に、三角フラスコに、毎分120回転の水平振動を50時間継続して加える。その後、ろ過により得られた濾液に含有されている各元素の濃度(mg/L)をICP発光分析装置により測定する。そして、測定された各元素の濃度と、溶解前の無機繊維における各元素の含有量(重量%)と、に基づいて、生理食塩水溶解率(%)を算出する。すなわち、例えば、測定元素が、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及びアルミニウム(Al)である場合には、次の式により、生理食塩水溶解率C(%)を算出する;C(%)=[ろ液量(L)×(a1+a2+a3+a4)×100]/[溶解前の無機繊維の重量(mg)×(b1+b2+b3+b4)/100]。この式において、a1、a2、a3及びa4は、それぞれ測定されたケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの濃度(mg/L)であり、b1、b2、b3及びb4は、それぞれ溶解前の無機繊維におけるケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの含有量(重量%)である。
【0017】
さらに、本発明に用いる繊維は、界面活性剤、分散剤で前処理されていてもよい。前処理すると表面が滑らかになり、他の成分と混ぜて組成物を製造するとき折れ難く、長い状態で組成物に含まれる。その結果、施工性の向上や強度が高まり、収縮が少なくなる。さらに、耐湿性が改善され、保管安定性が良くなる。
【0018】
無機繊維は、強度の観点から、平均繊維径は通常1〜50μm、好ましくは2〜10μm、特に好ましくは2〜5μmであり、平均繊維長は通常1〜200mm、好ましくは2〜50mmである。
【0019】
また、無機繊維に含まれる粒径45μm以上のショットの量を10重量%超えとしてもよい。ショットの量を減らす処理では繊維長が短くなりすぎて加熱収縮、強度等に影響を及ぼす恐れがあるためである。
【0020】
本発明の不定形組成物に含まれる無機繊維の表面は被覆層で被覆される必要はない。無機繊維の表面に被覆層を形成する物質としては、リン酸塩、モリブデン化合物、ポリアミジン化合物、エチレンイミン化合物等が挙げられる。リン酸塩としては、トリポリリン酸アルミニウム、トリポリリン酸ニ水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム等が挙げられる。モリブデン化合物としては、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム等が挙げられる。ポリアミジン化合物としては、アクリルアミド、アクリロニトリル、N−ビニルアクリルアミジン塩酸塩、N−ビニルアクリルアミド、ビニルアミン塩酸塩、N−ビニルホルムアミド共重合体等が挙げられる。エチレンイミン化合物としては、アミノエチレン、ジメチレンイミン等が挙げられる。これら被覆層を形成する物質は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明の不定形組成物は、上記無機繊維を含み、さらに、適宜、Si,Al及び/又はCaを含む無機粉体や無機バインダー等を含む。無機粉体は添加してもしなくてもよいが、添加する場合は、耐火性を高めるために、無機粉体の耐熱性は、無機繊維より高いものが望まれる。
【0022】
無機粉体は、特に限定されないが、好ましくは1100℃以上、より好ましくは1300℃以上、さらに好ましくは1500℃以上の大気雰囲気中での融点を有する。
具体的には、例えば、シリカ、アルミナ、ムライト(シリカ20〜30重量%、アルミナ70〜80重量%)、ジルコン、ジルコニア、カオリン、チタニア等の粘土鉱物、カルシア、マグネシアから選択される1種又は2種以上(混合物)からなる無機粉体を用いる。好ましくはシリカ、アルミナである。
【0023】
本発明で用いる無機粉体は針状結晶構造を含まない。針状結晶構造を有する無機粉末として、ワラストナイト粉末、セピオライト粉末、アタパルジャイド粉末等から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0024】
無機バインダーとしては、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、リン酸アルミニウム水溶液等が挙げられる。
無機バインダーは、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、またはそれら成分が複合化されたコロイド等のコロイドでよく、好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカは、pHは8以上が好ましく、9〜11がより好ましい。8未満であると適度の粘度を有するペーストにならない恐れがある。コロイダルシリカを含むと加熱後の組成物の強度が高まる。多く含みすぎると不定形組成物が固化する恐れがある。
【0025】
無機バインダーは、無機繊維と無機粉体とを合わせた重量を100重量部としたとき、固形分含量で1〜30重量部(好ましくは1〜25重量部、より好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは1〜15重量部、さらにより好ましくは1〜12重量部、特に好ましくは2〜10重量部)含むことができる。無機繊維と無機粉体は、所望する耐熱性、密度等になるように配合する。無機繊維が多く、無機粉体が少ないと軽量な不定形組成物が得られやすい。
耐熱性の観点から無機繊維:無機粉体の好適な配合比を以下に示す。
【0026】
無機粉体を含む場合であって、無機バインダーとしてコロイダルシリカ、無機粉体としてアルミナを選択した場合は、無機繊維:無機粉体=100:0〜10:90の割合とすることができる。好ましくは、無機繊維:無機粉体=100:0〜95:5および80:20〜10:90、さらに好ましくは、無機繊維:無機粉体=100:0〜95:5および75:25〜10:90、より好ましくは、100:0および70:30〜10:90、さらにより好ましくは、無機繊維:無機粉体=100:0および65:35〜10:90、もっとも好ましくは、無機繊維:無機粉体=100:0および40:60〜10:90である。
【0027】
無機粉体を含む場合であって、無機バインダーとしてコロイダルシリカ、無機粉体としてムライトを選択した場合は、無機繊維:無機粉体=100:0〜10:90の割合とすることができる。好ましくは、100:0〜90:10および70:30〜10:90、さらに好ましくは100:0〜90:10および65:35〜10:90、より好ましくは無機繊維:無機粉体=100:0〜95:5および60:40〜10:90である。
【0028】
無機粉体を含む場合であって、無機バインダーとしてコロイダルシリカ、無機粉体としてカオリンを選択した場合は、無機繊維:無機粉体=100:0〜10:90の割合とすることができる。好ましくは、無機繊維:無機粉体=100:0〜80:20および60:40〜10:90、さらに好ましくは100:0〜80:10および50:50〜10:90、より好ましくは無機繊維:無機粉体=100:0〜85:15および50:50〜10:90、さらにより好ましくは100:0〜90:10および40:60〜10:90である。
【0029】
無機粉体を含む場合であって、無機バインダーとしてコロイダルシリカ、無機粉体としてシリカを選択した場合は、無機繊維:無機粉体=100:0〜10:90である。
【0030】
無機粉体を含む場合であって、無機バインダーとしてコロイダルシリカ、無機粉体としてジルコン、ジルコニア、チタニアの1以上を選択した場合は、無機繊維:無機粉体=100:0〜10:90である。
【0031】
無機粉体を含む場合であって、無機バインダーとしてコロイダルシリカ、無機粉体としてカルシア、マグネシアの1以上を選択した場合は、無機繊維:無機粉体=100:0〜10:90の割合とすることができる。好ましくは70:30〜10:90、より好ましくは60:40〜10:90である。
【0032】
組成物におけるSiO、CaO、Alの重量比が、例えば、所望する使用温度域で溶融しない範囲となるように、無機繊維、無機粉体、無機バインダーの量を調整してもよい。
【0033】
本発明の不定形耐火物は、得られる成形体が、好ましくは1100℃加熱後に溶融しない又は収縮率が50%未満となるよう無機繊維、無機粉体、無機バインダーを適宜組み合わせる。より好ましくは1200℃加熱後に溶融しない又は収縮率が50%未満、さらに好ましくは1300℃加熱後に溶融しない又は収縮率が50%未満となるよう選択する。収縮率は、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下である。
【0034】
本発明の組成物に用いる無機粉体の平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.2〜50μm、特に好ましくは0.2〜10μmである。平均粒子径が0.1μm未満だと、分離し易くなる。また、平均粒子径が、100μmを超えると、均一に分散し難くなる。
【0035】
本発明の不定形組成物は、さらに溶媒を含む。
溶媒としては、特に制限されないが、水及び極性有機溶媒が挙げられ、極性有機溶媒としては、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール類、エチレングリコール等の2価のアルコール類が挙げられる。これらのうち、水が、作業環境の悪化がなく、環境への負荷がない点で好ましい。懸濁液や分散液等として成分を配合するときは、その溶媒も含まれる。尚、固体を懸濁液や分散液等として配合するとき、その配合量は固形分の配合量である。
【0036】
溶媒の含有量は、無機繊維と無機粉体を合わせた含量を100重量部としたとき、通常10〜600重量部(好ましくは20〜400重量部)である。溶媒を含むことにより、流動性を調節でき、目地の機械的強度、特に曲げ強度が高まる。含有量が多すぎると不定形組成物のちょう度が高くなるので施工時に組成物がたれ、また、乾燥による目地の収縮が大きくなる恐れがある。
【0037】
本発明の不定形組成物は、前記無機繊維、無機粉体、無機バインダー、溶媒の他に有機バインダー、添加剤等を含むことができる。金属イオンを含まないキレート剤は含む必要はない。
有機バインダーとしては、有機繊維、アクリルエマルジョン、澱粉、増粘剤等が挙げられる。
有機バインダーは、無機繊維と無機粉体を合わせて100重量部としたとき、例えば固形分含量を0.1〜20重量部(好ましくは0.5〜10重量部、好ましくは0.5〜8重量部、さらに好ましくは1〜5重量部)含むことができる。
【0038】
有機繊維は無機繊維の保護膜として作用するが、本発明の組成物は有機繊維を含む必要はない。有機繊維としては、特に制限されず、天然繊維又は疎水処理された合成繊維のいずれであってもよく、天然繊維としては、パルプ、綿、麻等が挙げられ、合成繊維としては、ビニロン、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。
【0039】
増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース、アクリル酸ナトリウム重合物、ポリエーテルポリオール、アクリル系高分子ポリエステルアミン、エチレンオキサイド、カルボキシルメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0040】
上記無機繊維と無機粉体との合計を100重量部とした場合に、無機バインダーと有機バインダーは合わせた固形分含量は、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部である。
【0041】
無機繊維は、ある程度の疎水性を持たせることが、無機繊維を水中に投入した際、急激に沈むことなく、ある程度の時間浮遊することになり、互いのあるいは他の混合材料との混合性がよくなる点で好ましい。疎水処理とは、繊維の疎水性を向上させる処理のことを指し、疎水処理の方法としては、例えば、繊維の周りを疎水性の薬剤でコーティングする方法が挙げられる。
【0042】
添加剤としては、分散剤、防腐剤、pH調整剤等を挙げることができる。
【0043】
防腐剤としては、特に制限されないが、例えば、窒素原子又は硫黄原子を有する無機化合物又は有機化合物等が挙げられ、防腐剤の含有量は、特に制限されないが、無機繊維と無機粉体を合わせた含量100重量部に対して0.1〜5重量部が好ましい。
【0044】
尚、本発明の組成物は、pH調整剤を含む必要はない。pH調整剤としては、例えば緩衝溶液又は酸が挙げられる。緩衝溶液としては、pH4標準溶液であるフタール酸塩標準溶液(セーレンセン緩衝液)、pH7標準溶液である中性リン酸塩標準溶液が挙げられ、酸としては、酢酸、蟻酸等が挙げられる。pHは4〜8.5程度が好ましい。
【0045】
分散剤としては、特に制限されず、公知のものが使用できる。具体的には、カルボン酸類、多価アルコール、アミン類等が挙げられ、分散剤の含有量は、特に制限されないが、無機繊維と無機粉体を合わせた固形分含量100重量部に対して1〜5重量部が好ましい。
【0046】
増粘剤としては、特に制限されず、公知のものが使用できる。具体的には、ヒドロキシエチルセルロース、アクリル酸ナトリウム重合物、ポリエーテルポリオール、アクリル系重合高分子ポリエステルアミン、エチレンオキサイド、カルボキシルメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。増粘剤の含有量は、特に制限されないが、無機繊維と無機粉体を合わせた固形分含量100重量部に対して固形分含量0.1〜20重量部が好ましい。
【0047】
本発明に係る不定形組成物は、各成分を混合・撹拌して製造できる。本発明に係る成形体は、不定形組成物を成形し乾燥/加熱して得ることができる。本発明の組成物はペースト状(漆喰)であるため、こてで塗ったり、手で固めたり、圧力銃で散布できる。
【0048】
本発明の不定形組成物から得られる成形体は耐熱性に優れ、好ましくは1100℃、より好ましくは1300℃、さらに好ましくは1500℃で溶融しない。具体的には、成形体は、不定形組成物を、JIS R 2553に準じ、長さ160×幅40×高さ40mmに成形し、100℃で24時間加熱乾燥して得る。この成形体を、炉中、所定温度で24時間加熱したとき、溶融しないことが好ましい。「溶融」とは、実施例の方法で測定する加熱収縮率が50%以上、もしくは外観上で明らかなガラス化、変形することである。
【0049】
本発明の不定形組成物の乾燥した後の密度は、通常0.1〜1.5g/cmである。
【0050】
本発明の不定形組成物は、長期安定性、曲げ強度、加熱収縮率の点から、良好な実用特性を有する。
特に、Caシリケート繊維を用いた本発明の不定形組成物は、セラミックス繊維(シリカ40〜60重量%、アルミナ60〜40重量%含有)やMgシリケート繊維を用いた不定形組成物より加熱収縮率が小さい。加熱収縮率は好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下である。
【実施例】
【0051】
実施例1
[不定形組成物の製造]
表1に示す組成の不定形組成物1〜4を製造した。
無機繊維AはSiOを73重量%、CaOを24重量%、MgOを0.3重量%、Alを2重量%含む。
無機バインダーとしてコロイダルシリカ(スノーテックス30、日産化学工業社製、pH9〜10、固形分が30%の懸濁液)を用いた。
有機バインダーとして増粘剤及びアクリルエマルジョンを用いた。
【0052】
表1において、無機繊維Aと無機粉末の量は、無機繊維Aと無機粉末の合計を100重量%としたときの重量%である。
無機バインダー、有機バインダー、水の量は、無機繊維Aと無機粉末の合計を100重量部としたときの重量部である。表中の無機バインダー、有機バインダーの値は固形分量である。
【0053】
100℃24時間乾燥した後の密度は、それぞれ0.26g/cm、0.44g/cm、0.75g/cm、1.07g/cmであり、乾燥収縮はなかった。密度はJIS A 1116に準じ、寸法体積及び重量を測定して算出した。
【0054】
【表1】

【0055】
比較例1
[不定形組成物の製造]
表2に示す組成の不定形組成物1’〜4’を製造した。具体的には、不定形組成物1〜4の無機繊維Aをセラミック繊維(シリカ52重量%、アルミナ48重量%)に変えて、無機粉末シリカを用いずに、不定形組成物1’〜4’を製造した。
参考として、組成物におけるSiO、CaO、Alの重量比を表7に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
評価例1
実施例1と比較例1で得られた不定形組成物1〜4,1’〜4’について以下の評価をした。
(1)長期安定性
製造直後、3カ月保管後、6カ月保管後の不定形組成物について、以下の方法で、ちょう度、曲げ強度、加熱収縮率を測定した。結果を表3に示す。実施例1で得られた不定形組成物1〜4は6カ月保管しても物性に低下は見られなかった。
【0058】
(i)ちょう度
JIS K 2220に準じ、ちょう度計を用いて測定した。金属カップには内径100mm、内高50mmのものを、円錐には円錐Aを使用した。
【0059】
(ii)曲げ強度
不定形組成物を、長さ160×幅40×高さ40mmに成形し、100℃で24時間加熱乾燥して断熱材を得た。
この断熱材を1100℃で24時間加熱し、加熱後の断熱材の曲げ強度を求めた。曲げ強度は、3点曲げ強度試験機(テンシロン)を用いて、破断荷重を測定し、次式により算出した。
曲げ強度(MPa)={3×最大荷重(N)×支持ロールの中心距離(mm)}/{2×断熱材の幅(mm)×(断熱材の厚さ(mm))
【0060】
(iii)加熱収縮率
不定形組成物を、JIS R 2553に準じ、長さ160×幅40×高さ40mmに成形し、100℃で24時間加熱乾燥して断熱材を得た。
この断熱材を、電気炉中1300℃で24時間加熱し、加熱後の断熱材の長さを測定した。加熱収縮率は、加熱前の断熱材の長さをXmm、加熱後の長さをYmmとし、次式により求めた。
加熱収縮率(%)={(X−Y)/X}×100
【0061】
【表3】

【0062】
(2)加熱収縮率
製造直後の不定形組成物について、1100℃,1200℃及び1300℃で、24時間加熱した後の収縮率(%)を、上記(1)(iii)と同様にして測定した。5回測定した平均値を、表4に示す。不定形組成物1〜4は不定形組成物1’〜4’より収縮率が少ないことが分かる。
【0063】
【表4】

【0064】
(3)曲げ強度
製造直後の不定形組成物について、1100℃,1200℃及び1300℃で、24時間加熱した後の曲げ強度(Mpa)を、上記(1)(ii)と同様にして測定した。5回測定した平均値を、表5に示す。不定形組成物1〜4の曲げ強度は不定形組成物1’〜4’とほぼ同じであった。
【0065】
【表5】

【0066】
実施例2
[不定形組成物の製造]
表6の組成である他は実施例1と同様にして、不定形組成物10〜20を得た。参考として、組成物におけるSiO、CaO、Alの重量比を表7に示す。
【0067】
評価例2
[不定形組成物の評価]
実施例2で得られた不定形組成物10〜20について、1100℃,1200℃,1300℃,1400℃,1500℃で24時間加熱したときの、加熱収縮率(%)を評価例1と同様にして測定した。尚、加熱収縮率が50%以上、もしくは外観上で明らかなガラス化、変形したとき「溶融」とした。結果を表6に示す。
【0068】
【表6】

【0069】
【表7】

【0070】
実施例3
[不定形組成物の製造]
表8,9の組成である他は実施例1と同様にして、不定形組成物21〜30を得た。
【0071】
評価例3
[不定形組成物の評価]
実施例3で得られた不定形組成物21〜30について、1300℃で24時間加熱したときの、加熱収縮率(%)を評価例1と同様にして測定した。結果を表8,9に示す。
【0072】
【表8】

【0073】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の不定形組成物は、ペースト状であり、目地材、補修材、断熱材として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成の被覆層で被覆されていない無機繊維、無機バインダー及び溶媒を含み、
さらに針状結晶構造を含まない無機粉体を含むことができ、
前記無機繊維と無機粉体との割合が、無機繊維:無機粉体=100:0〜10:90であり、
pH調整剤と有機繊維は含まない、ペースト状不定形組成物。
[無機繊維の組成]
SiO 66〜82重量%
CaO 10〜34重量%
MgO 3重量%以下
Al 5重量%以下
SiO、CaO、MgO、Alの合計 98重量%以上
【請求項2】
前記無機粉体を含む請求項1記載の不定形組成物。
【請求項3】
前記無機粉体が、大気雰囲気中で1500℃以上の融点を有する請求項2記載の不定形組成物。
【請求項4】
前記無機粉体が、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコン、ジルコニア、チタニア、粘土鉱物、カルシア及びマグネシアから選択される1種又は2種以上からなる請求項2記載の不定形組成物。
【請求項5】
前記無機バインダーがコロイドを含む請求項1〜4のいずれか記載の不定形組成物。
【請求項6】
前記コロイドがコロイダルシリカである請求項5記載の不定形組成物。
【請求項7】
前記コロイダルシリカのpHが9〜11である請求項6記載の不定形組成物。
【請求項8】
前記無機バインダーが、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル及びリン酸アルミニウム水溶液から選択される1種又は2種以上からなる請求項1〜4のいずれか記載の不定形組成物。
【請求項9】
前記無機バインダーが、前記無機繊維と前記無機粉体の合計を100重量部としたときに、固形分として1〜30重量部含まれる請求項1〜8のいずれか記載の不定形組成物。
【請求項10】
さらに有機バインダーを含む請求項1〜9のいずれか記載の不定形組成物。
【請求項11】
前記有機バインダーがアクリルエマルジョン、澱粉及び増粘剤から選択される1種又は2種以上からなる請求項10記載の不定形組成物。
【請求項12】
前記有機バインダーが、前記無機繊維と前記無機粉体の合計を100重量部としたときに、固形分として0.1〜20重量部含まれている請求項10又は11記載の不定形組成物。
【請求項13】
金属イオンを含まないキレート剤は含まない請求項1〜12のいずれか記載の不定形組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか記載の不定形組成物が乾燥した成形物。

【公開番号】特開2013−112600(P2013−112600A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263412(P2011−263412)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【特許番号】特許第5022512号(P5022512)
【特許公報発行日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】