説明

不定形耐火物

【課題】 乾燥時に亀裂や爆裂が生じにくい不定形耐火物を提供する。
【解決手段】 本発明の不定形耐火物は、有機繊維を含み、水を添加して施工される不定形耐火物において、有機繊維として水分含有量が3質量%未満であり、かつ表面に油分を付着させたポリエチレン繊維を用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維を含み、水を添加して施工される不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、取鍋、タンディッシュ、高炉出銑樋、又は真空脱ガス炉等の各種溶融金属容器の内張りに不定形耐火物が用いられている。以下、取鍋の内張りの流し込み施工を例に挙げて不定形耐火物の一施工形態を説明する。
【0003】
まず、不定形耐火物に水を添加して混練し、泥しょうとなす。次に、その泥しょうを取鍋に挿入した中子と取鍋内面との間に流し込み、保形性が発現するまで養生させる。流し込まれた泥しょうを保形性が発現するまで養生させたものを施工体と呼ぶ。養生後に中子を除去し、残された施工体を乾燥させたものが内張りとなる。
【0004】
施工体の乾燥は、これをバーナやマイクロ波で加熱することにより行う。加熱の際、施工体の内部から水蒸気が発生し、水蒸気圧によって施工体に亀裂や爆裂が生じることがある。施工体を緩やかな昇温レートで長時間乾燥させれば、爆裂の発生を抑制できるが、取鍋の稼働率を向上させる見地から乾燥時間の短縮が望まれている。
【0005】
そこで、従来から、不定形耐火物に有機繊維を含ませる対策が採られている。有機繊維は、乾燥中の加熱により施工体内で溶融することで体積減少し、施工体に水蒸気の通気孔を形成する。有機繊維によって形成される無数の微細な通気孔群を通じて、施工体の内部から外部に水蒸気が逸散する。これにより、施工体の内部水蒸気圧の上昇を緩和し、爆裂を抑制することができる。
【0006】
特許文献1によると、施工体内部の水蒸気圧は200℃付近から急上昇するため、有機繊維としては、水蒸気圧が急上昇する前の180℃以下で溶融するものが好ましいとされる。特許文献1は、低溶融点の素材として、ビニロン、ポリエチレン、及びポリプロピレン等を挙げており、ビニロン繊維が最も好ましいと示唆している。
【0007】
特許文献2及び3は、爆裂防止用の有機繊維としてポリエチレン繊維を選択した不定形耐火物の具体例を開示している(特許文献2の本発明実施例2及び3、並びに特許文献3の比較例3参照)。なお、特許文献3には、ポリエチレン繊維の含水率がゼロ質量%であることが記載されている(特許文献3の第2頁右上欄及び第2表参照)。
【0008】
特許文献4は、爆裂防止用の有機繊維の素材として、密度0.93g/cm以下の低密度ポリエチレンに言及している。ポリエチレンの中でも低密度ポリエチレンは、溶融点が100〜135℃と低いことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−10079号公報
【特許文献2】特開平3−83869号公報
【特許文献3】特開平3−265572号公報
【特許文献4】特開2008−120669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、有機繊維としては、単純に溶融点が低いものほど好ましいと考えられていた。しかし、たとえ低溶融点の有機繊維を用いても爆裂が生じることがある。本願発明者らは、鋭意研究の結果、この主な原因の1つが、有機繊維の含有水分にあることをつきとめた。この点について、以下に説明する。
【0011】
有機繊維は、製造後、直ちに不定形耐火物に配合される訳ではなく、不定形耐火物の製造工場への運搬、及び保管を経て、不定形耐火物の一部として配合されるまでの間、大気に晒された状態のホッパー内で待機状態とされる。上記運搬及び保管の間は有機繊維がフレコンバッグに収容されるが、フレコンバッグが湿気を通過させる場合は、有機繊維に大気中の湿気等の水分が付着しうる。また、上記待機状態の間も有機繊維に大気中の湿気等の水分が付着しうる。なお、上記運搬〜待機は、通常、延べ数日以上に及ぶ。
【0012】
一方、不定形耐火物における有機繊維以外の残部には、耐火性粉体及び結合剤が含まれる。水を添加して施工される不定形耐火物では、通常、結合剤にアルミナセメント等の水硬性結合剤が用いられる。耐火性粉体には、マグネシア質原料、カルシア質原料、若しくはドロマイト質原料等の消化する性質をもつ原料(以下、消化性原料という。)、又はシリカフラワー等の超微粉が含まれる。ここで、消化とは、原料が水と反応して水酸化物を生成する現象をいう。
【0013】
このため、製造された不定形耐火物においては、これに施工に必要な水を添加する前においても、水分が付着した有機繊維が、水硬性結合剤、消化性原料、及び超微粉の少なくともいずれか一つと接触状態にあり、それらに対して水分供給源となりうる。
【0014】
しかも、製造された不定形耐火物は、直ちに施工に供される訳ではない。通常は、不定形耐火物の製造工場に見込み発注がなされ、製造工場から不定形耐火物を出荷後、施工現場でこれに水を添加して施工に供するまでに、フレコンバッグで梱包された状態で、例えば5日〜数ヶ月程度のストック期間を経る。
【0015】
このストック期間に、有機繊維の含有水分によって、上述した水硬性結合剤、消化性原料、又は超微粉の劣化が進行する。即ち、水硬性結合剤が水分と接触し施工前に水和反応が一部完了すると、施工後の反応性が低下し、水硬性結合剤の強度付与機能が低下する。また、消化性原料が水分と接触し消化すると体積膨張によりボソボソな性状となって施工後の強度を低下させる原因となる。また、超微粉も水分と接触状態にある場合、表面が水酸化するためか、経時変化を生じ、施工後の強度を低下させる原因となることが判った。
【0016】
施工体の爆裂は、施工体の内部水蒸気圧が施工体の強度を上回ることで生じる。有機繊維の溶融点が低い程、早期に水蒸気の通気孔が形成されるため、内部水蒸気圧がたちにくいが、有機繊維の含有水分に起因して施工体の強度が不充分となると、施工体が内部水蒸気圧に耐えられず、爆裂が生じることになる。
【0017】
特許文献1〜4は、それぞれが推奨する有機繊維の爆裂防止効果を示すテスト結果を開示しているが、何れのテストも実験室で行われたものであり、不定形耐火物のサンプルを作製後、直ちにこれを水と混練して評価に供するため、現実のプロセスにおける上記ストック期間等の影響が反映されていない。これまで、有機繊維の含有水分が爆裂防止効果を妨げる因子となることは知られていなかった。
【0018】
特許文献1で使用されるビニロン繊維は、水分を多く含む。ビニロン繊維の公定水分率は5質量%である。このため、ビニロン繊維は、特に上記ストック期間が長い場合等は、爆裂防止効果をいかんなく発揮することができない。
【0019】
一般に、有機繊維の公定水分率とは、有機繊維の組織内部の水分含有量をいう。
【0020】
特許文献2〜4で使用されるポリエチレン繊維は、公定水分率がゼロ質量%であるが、上述したように、保管中に繊維表面に水分が付着することがある。このため、ポリエチレン繊維の水分含有量は必ずしもゼロ質量%とはならない。繊維表面に付着した水分に起因して爆裂を引き起こすことがある。
【0021】
本明細書において、有機繊維の水分含有量とは、有機繊維の組織内部の水分量と、有機繊維の表面に付着した水分量との合計をいうものとする。
【0022】
本発明の目的は、乾燥時に亀裂や爆裂が生じにくい不定形耐火物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一観点によれば、有機繊維を含み、水を添加して施工される不定形耐火物において、有機繊維として水分含有量が3質量%未満であり、かつ表面に油分を付着させたポリエチレン繊維を用いたことを特徴とする不定形耐火物が提供される。
【発明の効果】
【0024】
爆裂を防止するには、施工体の強度と、施工体の内部水蒸気圧とのバランスを考慮し、内部水蒸気圧が、施工体の強度を上回らないようにすることが必要である。
【0025】
本発明で使用する上記有機繊維は、水分含有量が3質量%未満と少なく、しかも油分を付着させたことで、繊維表面に水分が付着しにくい。このため、本発明で使用する上記有機繊維は、ストック期間中も、不定形耐火物における有機繊維以外の残部の劣化を生じさせにくい。従って、乾燥工程における施工体の強度の低下を防止することができる。
【0026】
また、本発明で使用する有機繊維は素材をポリエチレンとする。ポリエチレンは、公定水分率が本発明規定の水分含有量を満たしうる有機繊維の中でも特に溶融点が低い。このため、本発明で使用する有機繊維は、乾燥開始後に早期に溶融して通気孔を形成するため、施工体の内部水蒸気圧を緩和する効果にも優れている。
【0027】
以上の結果、乾燥時に、施工体の内部水蒸気圧が、施工体の強度を上回ることを防止することができ、施工体の亀裂や爆裂を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態において、不定形耐火物は、耐火性粉体、結合剤、及び有機繊維を含む。
【0029】
本発明では、有機繊維の含有水分に起因する不定形耐火物の劣化を防止するため、不定形耐火物における有機繊維以外の残部に、水分によって劣化しやすい原料を含む場合に特に意義が大きい。具体的には、本発明は、不定形耐火物が、耐火性粉体としての消化性原料、耐火性粉体としての超微粉、及び結合剤としての水硬性結合剤の少なくともいずれかを含む場合に特に意義が大きい。
【0030】
消化性原料としては、例えば、電融マグネシア等のマグネシア質原料、オリビン等のマグネシア−シリカ質原料、カルシアクリンカ等のカルシア質原料、及びドロマイトクリンカ等のドロマイト質原料等から選択される一種以上が挙げられる。特に、消化性原料の配合量が、耐火性粉体に占める割合で、5質量%以上の場合に、有機繊維の含有水分に起因する劣化が懸念される。
【0031】
超微粉としては、平均粒径10μm未満のもの、例えば、シリカフラワー等の非晶質シリカ超微粉、仮焼アルミナ等のアルミナ超微粉、粘土、チタニア超微粉等が挙げられる。特にシリカフラワーは湿気による劣化を生じやすい。なお、超微粉の概念からは、上述した消化性原料は除かれるものとする。特に、超微粉の配合量が、耐火性粉体に占める割合で、5質量%以上の場合に、有機繊維の含有水分に起因する劣化が懸念される。
【0032】
本明細書において、平均粒径とは、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される粒度分布の中央値にあたる体積平均粒径をいうものとする。
【0033】
水硬性結合剤としては、例えば、アルミナセメント、水硬性アルミナ(ρ‐アルミナ)、ポルトランドセメント、軽焼マグネシア等が挙げられる。特に、水硬性結合剤の配合量が、耐火性粉体に対する外かけで、1質量%以上の場合に、有機繊維の含有水分に起因する劣化が懸念される。
【0034】
有機繊維には、水分含有量が3質量%未満であり、かつ表面に油分を付着させたポリエチレン繊維を用いる。有機繊維の水分含有量は、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。
【0035】
本明細書においてポリエチレンとは、エチレンの単独重合体のみならず、エチレンとコモノマーとの共重合体を含む概念とする。
【0036】
水分含有量(質量%)=(水分を含めた有機繊維の全質量−水分を除いた有機繊維の質量)/水分を除いた有機繊維の質量×100と定義する。
【0037】
ポリエチレン繊維は、公定水分率がゼロ質量%、即ち繊維の組織内部には水分が含まれないため、その水分含有量が3質量%未満とは、ポリエチレン繊維の表面に付着した水分含有量が3質量%未満であることを意味する。
【0038】
なお、公定水分率が低い有機繊維としては、ポリエチレン繊維以外にも、ポリプロピレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、及びポリエステル繊維があるが、ポリエチレン繊維が、これらの中で最も溶融点が低い。このため、乾燥開始後に早期に溶融して通気孔を形成することができ、施工体の内部水蒸気圧を緩和する効果に優れる。なお、ポリエチレン繊維の溶融点は、例えば、100〜135℃である。
【0039】
油分としては、例えば、鉱物油、ヒマシ油その他の植物性油、イソトリデシルステアレート、POEオレイルエーテル、POEノニルフェニルエーテル、ラウリルスルホネートナトリウム塩、POEラウリルエーテルホスフェートカリウム塩等が挙げられる。これらは、1種単独で付着させてもよいし、2種以上を併用して付着させてもよい。
【0040】
油分は、ポリエチレン繊維の表面に大気中の水分が付着することを防止する効果を有する。このため、油分を付着させたポリエチレン繊維は、不定形耐火物への配合前に、大気に晒されるストック期間を経ても、不定形耐火物における有機繊維以外の残部の劣化を生じさせにくい。この結果、乾燥時の施工体の強度低下を防止することができる。
【0041】
ポリエチレン繊維への油分付着量は、特に限定されないが、1〜5質量%が好ましい。油分付着量が1質量%以上であることで、繊維表面への水分の付着を防止する効果を一層確実なものとすることができ、5質量%以下に抑えることで、油分に起因する繊維の取り扱い性や作業性の悪化を防止することができる。
【0042】
油分付着量(質量%)=有機繊維に付着した油分の質量/油分を含めた有機繊維の全質量×100と定義する。
【0043】
本発明で使用する上記ポリエチレン繊維の製造方法は特に限定されない。例えば、ポリエチレンを溶融紡糸し、それを熱延伸した後に、油分付着工程を設けることで、油分が付着したポリエチレン繊維を連続的に得ることができる。また、例えば、常法通りに油分が付着していないポリエチレン繊維を製造後、油分の付着を行うことによっても本発明の上記ポリエチレン繊維を得ることができる。この場合、油分の付着前に、繊維の水分含有量を3質量%未満に低減する乾燥を実施することが好ましい。油分の付着方法としては、例えば、塗布、スプレー、又は浸漬等が挙げられる。
【0044】
ポリエチレンは、密度によって高密度ポリエチレン(HDPE)と、低密度ポリエチレン(LDPE)とに大別され、いずれも公定水分率はゼロ質量%である。本発明においては、このうち低密度ポリエチレンが好ましい。低密度ポリエチレンとは、JISK6922によれば、密度0.910〜0.929g/cmのポリエチレンをいうが、本明細書においては、密度0.929g/cm以下のポリエチレンをいうものとする。なお、高密度ポリエチレンとは、低密度ポリエチレンよりも密度が大きいポリエチレンをいう。
【0045】
低密度ポリエチレンは、密度が小さいため溶融点が低い。このため、乾燥工程における通気孔の形成を早めることができるから、施工体の内部水蒸気圧を緩和する効果に特に優れている。なお、低密度ポリエチレンの溶融点は、90〜135℃である。
【0046】
また、低密度ポリエチレン繊維は、高密度ポリエチレン繊維に比べて、軟らかく、こしが弱いため、不定形耐火物への水の添加量が同じ場合、高密度ポリエチレン繊維を用いる場合よりも、泥しょうの流動性を高めることができる傾向にある。泥しょうの流動性が高いほど、これを型枠で画定された空間に隙間無く隅々まで充填させることができる。
【0047】
低密度ポリエチレンは、高圧法低密度ポリエチレンと、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)とに分類され、本発明においては、このうち直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。直鎖状の低密度ポリエチレンは、低密度ポリエチレンの中でも引張り強度に優れるため、混練時にちぎれにくい。仮に有機繊維が混練時にちぎれると、自ずと乾燥工程で形成される個々の通気孔も短くなるため、施工体の通気性が低下する。これに対し、有機繊維が混練時にちぎれにくいと、施工体の通気性の低下を防止できるため、有機繊維の爆裂防止効果をいかんなく発揮することができる。
【0048】
本ポリエチレン繊維の配合量は、当業者の技術常識により自ずと定められるであろう。例えば、本ポリエチレン繊維の配合量は、従来の有機繊維と同様に、耐火性粉体100質量%に対する外かけで0.01〜1質量%とすることができる。
【0049】
本ポリエチレン繊維の直径は特に限定されない。直径は、例えば、1〜100μmとすることができる。直径が1μm以上であることで、施工体に形成される個々の通気孔の通気抵抗が特に小さくなる。直径が100μm以下であることで、0.01〜1質量%の添加量でも繊維本数を充分に確保でき、施工体の通気性を低下させる効果が特に良好となる。直径は好ましくは、1〜50μmである。
【0050】
本ポリエチレン繊維の長さも特に限定されない。長さは、例えば、1〜20mmとすることができる。長さが1mm以上であることで、切断コストの高騰を抑制でき、かつ通気孔の連続性が良好となる。長さが20mm以下であることで、不定形耐火物を水で混練してなる泥しょうの流動性の低下が生じにくい。
【0051】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明はこれに限られない。
【0052】
耐火性粉体に、電融アルミナやボーキサイト等のアルミナ質原料、珪石等のシリカ質原料、カイヤナイトやアンダリューサイトやシャモット等のアルミナ‐シリカ質原料、ジルコン質原料、炭化珪素、及び炭素質原料等、消化する性質をもたない原料が含まれてもよいことは勿論である。
【0053】
結合剤に、ピッチ、タール、レジン等の有機結合材、シリカゾル、珪酸塩、又はリン酸塩等、水硬性をもたないものが含まれてもよいことは勿論である。また、結合剤は必須ではない。本発明の不定形耐火物は結合剤を含まなくてもよい。
【0054】
この他、本不定形耐火物は、例えば、分散剤、乳酸アルミニウム、金属粉、増粘剤、酸化防止剤、低融点ガラス、及び硬化時間調整剤等から選択される一種以上の添加剤を含んでもよいことは勿論である。
【0055】
本不定形耐火物の施工法は、水を添加して施工する方法であれば、特に制限されない。典型的には、流し込み施工法、振動こて塗り施工、湿式吹付け施工法、及び乾式吹付け施工法が挙げられる。流し込み施工法、振動こて塗り施工、及び湿式吹付け施工法では、本不定形耐火物を予め水と共に混練して泥しょうと成す。乾式吹付け施工法では、本不定形耐火物をノズルに向けて搬送管内を気流搬送し、搬送管内及びノズルの少なくともいずれか一方で水を添加する。搬送管の複数個所で水を添加する場合もある。いずれの施工法にしても、不定形耐火物に水を添加して施工する以上、加熱によってその水分を低減する乾燥工程が必須である。
【実施例】
【0056】
表1に、不定形耐火物の具体例を示す。表1において、海水マグネシアが消化性原料に該当し、シリカフラワー及び仮焼アルミナが超微粉に該当し、アルミナセメントが水硬性結合剤に該当する。表1の配合をベースとし、有機繊維を種々変更した。
【0057】
【表1】

【0058】
表2は、表1の配合構成において有機繊維として用いたものの別に、その水分含有量、油分含有量、及び不定形耐火物の評価結果を示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2のいずれの有機繊維も、直径が10〜20μm、かつ長さが3〜5mmであるように形状は共通にした。
【0061】
水分含有量は、熱風乾燥法により、次式で求めた。「水分含有量(質量%)=(試料の質量−試料の絶乾質量)/試料の絶乾質量×100」ここで、試料の絶乾質量とは、試料を105℃±2℃の熱風乾燥機中に放置し恒量とした質量をいう。なお、試験回数は2回とし、その平均値を表2に示した。
【0062】
油分含有量は、迅速残脂抽出装置(東海計器製)を用い、油分をプロパノール:ヘキサン=1:2で混合した溶液でトレイ上に抽出後、溶剤を除去する方法で、次式により求めた。「油分含有量(質量%)=(油分抽出後のトレイの質量−油分抽出前のトレイの質量)/試料採取量×100」なお、試験回数は2回とし、その平均値を表2に示した。
【0063】
評価は、次の要領で行った。まず、有機繊維を、表面に水分が付着しうる状況、具体的には、湿度75〜85%の空間に5日間放置する。次に、その有機繊維を表1の残部の組成物と共に混合して不定形耐火物を得る。得られた不定形耐火物をビニル袋に収容して1週間放置する。次に、不定形耐火物100質量%に対して外かけ6質量%の水を添加して混練し泥しょうとなす。得られた泥しょうを型枠に流し込み、養生後、150℃で6時間のオートクレーブ処理を行ったサンプルを測定対象とする。
【0064】
養生強度は、上記サンプルの曲げ強度によって×、△、○、◎の4段階で相対評価した。曲げ強度が大きい程、施工体が大きな内部水蒸気圧に耐えることができるため爆裂が生じにくい。なお、曲げ強度は、上記サンプルを測定対象として、JIS‐R2553の規定に準拠して測定した。
【0065】
通気性は、上記サンプルの通気率によって、×、△、○、◎、◎◎の5段階で相対評価した。通気率が大きい程、施工体内部に水蒸気がこもりにくいため爆裂が生じにくい。なお、通気率μ(cm/(cmHO・sec))は、μ=Q×(L/S)×(1/P−P)と定義する。ここで、Qは、単位時間にサンプルを透過したエアーの体積(cm/sec)であり、エアリークテスタ(株式会社コスモ計器製LS−1821)により測定した。Sはサンプルの断面積(cm)、Lは上記サンプルの厚み(cm)、Pはサンプルへのエアー侵入時の圧力(cmHO)、Pは大気圧(cmHO)である。
【0066】
実施例1は、密度0.94g/cmの高密度ポリエチレン繊維を用いたもので、油分を付着させたことで、水分含有量が少なく、養生強度に優れている。また、通気性は、実施例2〜5の低密度ポリエチレン繊維に比べると劣るが許容できる。このため、爆裂防止効果に優れているといえる。
【0067】
実施例2は、ポリエチレン繊維として低密度ポリエチレンを用いたもので、実施例1よりも通気率に優れる。また、実施例1に比べると、油分が少なく、水分が多いため、養生強度は実施例1に劣るが優れている。
【0068】
実施例3及び4は、実施例2よりも油分を増やしたもので、水分含有量が少なく、養生強度に優れている。実施例2〜4の結果から、水分含有量が油分含有量に依存していることが分かる。
【0069】
実施例5は、ポリエチレン繊維として直鎖状の低密度ポリエチレン繊維を用いたもので、実施例4よりも通気性が向上した。この理由は定かでないが、直鎖状の低密度ポリエチレン繊維は、低密度ポリエチレンの中でも引張り強度に優れるため、混練時にちぎれにくかったからではないかと推定される。即ち、有機繊維が混練時にちぎれにくいため、施工体の通気性の低下を防止でき、有機繊維の爆裂防止効果をいかんなく発揮することができる。
【0070】
比較例1は、油分を含まないポリエチレン繊維を用いたもので、溶融点が低いため通気性は許容できるが、水分含有量が多いため養生強度が不充分となった。このため、実施工では爆裂の懸念がある。比較例1と実施例1との比較により、有機繊維の水分含有量が多いと施工体の養生強度が低下することが分かる。爆裂を防止するには、ポリエチレン繊維の水分含有量は3質量%未満であることが必要であるといえる。
【0071】
比較例2は、油分を含まない低密度ポリエチレン繊維を用いたもので、通気性は良好であるが、水分含有量が多いため養生強度が不充分となり、爆裂の懸念がある。
【0072】
比較例3、4、5は、それぞれポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリ塩化ビニル繊維を用いたもので、水分含有量だけに着目すると少なく本発明規定を満たすが、溶融点が高いため、通気性が悪く、爆裂を生じさせる確率が高い。
【0073】
比較例6は、ビニロン繊維を用いたもので、ビニロン繊維は温水に溶けるが施工体表面に皮張りを形成するため、通気性が悪い。また、ビニロン繊維は、水分含有量が多いため養生強度が小さい。
【0074】
以上、本発明を具体例に沿って説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、種々の組み合わせ及び改良が可能なことは当業者に自明であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維を含み、水を添加して施工される不定形耐火物において、前記有機繊維として水分含有量が3質量%未満であり、かつ表面に油分を付着させたポリエチレン繊維を用いたことを特徴とする不定形耐火物。
【請求項2】
前記ポリエチレンが、低密度ポリエチレンである請求項1に記載の不定形耐火物。

【公開番号】特開2012−126597(P2012−126597A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279045(P2010−279045)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】