説明

不活性ガスを封入したシース熱電対と不活性ガスを封入したシース熱電対の製造方法

【課題】 金属シース内にマグネシア、アルミナ等を材質とする粉末の無機絶縁材を介在させてK熱電対素線又はN熱電対素線を収容し、端部を樹脂等でシールしたシース熱電対において、特にシース外径がφ3.2mm以下のシース熱電対において、1000℃以上の高温で用いた場合に温度測定誤差が時間経過とともに負側に増加するという問題を解決することを目的とする。
【解決手段】 金属シース内にマグネシア、アルミナ等を材質とする粉末の無機絶縁材を介在させてK熱電対素線又はN熱電対素線を収容し、端部を樹脂等でシールしたシース熱電対において、無機絶縁材粉末間に不活性ガスを封入したシース熱電対とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば加熱炉内などの高温部の温度を測定するためのシース熱電対とその製造方法についてのものである。
【背景技術】
【0002】
シース熱電対は、非接地型と接地型の2種類があり、図1、図2に示すように、いずれの型も金属シース1内に、マグネシア、アルミナ等を材質とする粉末の無機絶縁材3を介在させて一対の熱電対素線2を収容し、端部(図1の右端)を、湿分の侵入による無機絶縁材の絶縁低下を防ぐために樹脂等によりシール4を施したものである。なお、図1のシール部は、一例であり、他の構造のものもある。また、多対の熱電対素線を収容したものもある。
【0003】
シース熱電対は、熱電対素線が直接外部金属と接触しないため、外部金属との接触による外部金属電位の影響を考慮することなく、自由に配置することができる特長を持ち、また、過酷な酸化雰囲気、還元雰囲気や腐食性雰囲気などで使用しても、それに耐える金属シース材を使用しておれば長寿命が得られるという利点もあるため、従来から広く使用されている。
【0004】
なお、シース熱電対は大気中で製造されているので、図1、図2のシース熱電対内の無機絶縁材粉末の間隙に存在する気体は、従来のものは空気である。
【特許文献1】特開平06−260687号公報
【非特許文献1】丸善株式会社出版「金属材料の高温酸化と高温腐食」腐食防食協会編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
K熱電対素線やN熱電対素線を用いたシース熱電対を、1000℃を超える高温を測定対象として用いた場合、温度測定誤差が時間経過とともに負側に増加するという傾向がある。この誤差の増加は、シース外径が細く、したがって収容されている熱電対素線の径が細いもの程大きく、シース外径がφ3.2mm以下のシース熱電対では実用上問題となることが多かった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
金属シース内にマグネシア、アルミナ等を材質とする粉末の無機絶縁材を介在させてK熱電対素線又はN熱電対素線を収容し、端部を樹脂等でシールしたシース熱電対において、特にシース外径がφ3.2mm以下のシース熱電対において、1000℃以上の高温で用いた場合に温度測定誤差が時間経過とともに負側に増加するという問題を解決するために、無機絶縁材粉末の間隙に不活性ガスを封入する。また、その不活性ガスとしてアルゴンガスを使用する。
【0007】
次に、その製造方法は、一般にMIケーブルと呼ばれる両端を加工してシース熱電対にする前の無機絶縁材粉末を介在させて熱電対素線を収容した金属シース部に対し、一端をアルゴンガス等の不活性ガスにより加圧して無機絶縁材粉末間に注入し、この不活性ガスの圧力によって初めに無機絶縁材粉末間に存在していた空気を他端から流出させることにより、MIケーブル内の無機絶縁材粉末間に不活性ガスを充填した後、両端を加工してシース熱電対に仕上げることで、不活性ガスが封入されたシース熱電対を作る。
【0008】
MIケーブルは最初に太径のものを作り、これにロータリースエージングや穴ダイスによる冷間引き抜き等による縮径を複数回行うことにより、所定の外径のMIケーブルを得るのが通常である。
【0009】
この縮径の初期又は途中段階で、MIケーブル一端をアルゴンガス等の不活性ガスにより加圧して無機絶縁材粉末間に注入し、この不活性ガスの圧力によって初めに無機絶縁材粉末間に不活性ガスを充填した後、縮径を継続し、所定の径に達してから、両端を加工してシース熱電対に仕上げることによっても、不活性ガスが封入されたシース熱電対を作ることができる。
【発明の効果】
【0010】
K熱電対素線やN熱電対素線を用いたシース熱電対を、1000℃を超える高温で用いた場合、熱電対素線の表面に変質層が生じることをSEMにより観察した。また、1000℃を超える温度で加熱した場合、シース内の圧力が降下していくことを測定した。
【0011】
これらの結果から、熱電対素線表面の変質層は、無機絶縁材粉末間にある空気に含まれる酸素及び窒素と熱電対素線成分が結合したもので、また、これと同じことが金属シース内面にも起こり、圧力降下はこれらの酸化、窒化により空気が消費されたことによるものであると結論付けすることができる。
【0012】
非特許文献1によれば、K及びN熱電対素線の成分中のアルミニウム、シリコン、クロムは酸化、窒化の生成自由エネルギーが小さいため、酸化物、窒化物に変化し易い。
【0013】
これらの元素のうち特にアルミニウム、クロムは熱電対素線の熱起電力発生源としての役割を持っているもので、酸化、窒化による熱電対素線中のこれらの濃度減少が、1000℃を超える高温で使用した場合に測定誤差が負側に増加することの主原因である。
【0014】
また、シース外径が細く、熱電対素線径の細いものほど熱電対素線の体積に対するその表面積の比が大きいため、太いものに較べて相対的に酸化、窒化による熱電対素線中の濃度減少が速く、したがって測定誤差の負側への増加速度も速い。
【0015】
以上のことから、K熱電対素線やN熱電対素線を用いたシース熱電対内のシース熱電対内の無機絶縁材粉末の間隙に存在する気体を、空気に換えて不活性ガスとすることにより、1000℃を超える高温で使用した場合でも熱電対素線の酸化、窒化は生じず、測定誤差が負側に増加することを抑制することができる。この効果は特に、従来実用上の問題となっていたシース外径がφ3.2mm以下の細いシース熱電対に対して大きい。
【0016】
使用する不活性ガスに対し、アルゴンが最も安価であり、不活性ガスとしてアルゴンを使用することは、経済面において得策である。
【0017】
アルゴンはまた、ヘリウムなどに比べて金属を透過する量が極めて少なく、長期間にわたって無機絶縁材粉末間に留まる効果もある。
【0018】
次に、本発明によるシース熱電対に関し、不活性ガスの封入方法について説明する。
【0019】
不活性ガスの封入は、シース熱電対の材料となるMIケーブルの一端を高圧の不活性ガスにより加圧して不活性ガスを無機絶縁材粉末間に注入し、他端から既存の空気を吐出させることにより行うことができる。空気が不活性ガスに置換したことの判定は、吐出したガスを捕集し、そのガス体積が、MIケーブルの無機絶縁材粉末が充填された部分の体積に無機絶縁材粉末の充填率を乗じて求めた無機絶縁材粉末間のガス体積より十分に多くなったことにより行うことができる。
【0020】
また、一定時間毎に吐出ガスを捕集してガス分析器にかけ、吐出ガスが空気から不活性ガスに変わったことにより判定しても良い。
【0021】
不活性ガスの注入時の構成の一例を図3に示す。MIケーブル5の一端(図3のMIケーブル左端)に、チューブ7の設けられたキャップ6を、コンプレッションフィッティングなどにより無漏洩にMIケーブルに取付け、チューブ7を不活性ガスボンベなどの高圧不活性ガス源に接続する。他端にはやはり、チューブ9の設けられたキャップ8を、コンプレッションフィッティング等により無漏洩にMIケーブルに取付ける。このチューブ9に吐出ガス捕集器10を接続し、吐出ガスを容器11内の水13を通してガス捕集筒12に捕集する。この捕集ガスの体積又はガスの成分変化より空気が不活性ガスに置き換わったことを判定する。
【0022】
シース熱電対の材料となるMIケーブルは、図4に示すように最初太い径のものを作り、これに所定の外径になるまで、ロータリースエージングや穴ダイスによる冷間引き抜き等による縮径を複数回施すことにより製作される。縮径が進むにつれてMIケーブル5は長くなるので、シース熱電対は通常、所定の外径になったMIケーブルを必要な長さに切断し、両端を加工して図1、図2に示すシース熱電対が作られる。
【0023】
不活性ガスの注入は、所定の外径になったMIケーブル5をシース熱電対の製作に必要な長さに切断した後に行ってもよいし、MIケーブル縮径の初期又は途中段階で行ってもよい。不活性ガスを注入されたMIケーブルは図1に示すシース熱電対に加工され、注入された不活性ガスは、無機絶縁材粉末間に封入される。
【0024】
なお、不活性ガス注入からシース熱電対への加工までの期間が長いと、最初MIケーブル内に加圧状態で入っていた不活性ガスがMIケーブル両端の開口から大気中に流出し、続いて両端部の不活性ガスの一部が拡散により外部の空気と置換される。空気の流入は、空気に含まれる湿分による無機絶縁材の絶縁低下をも招く。
【0025】
このような空気流入やそれに伴う絶縁低下は、不活性ガス注入後の長期保管時にMIケーブルの両端開口部を樹脂等で封止しておくことによって防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下の外径φ1.6mmとφ3.2mmのMIケーブルにアルゴンガスを注入した。いずれも、製作するシース熱電対と同じ外径まで縮径済みのMIケーブルである。
【0027】
シース外径:φ1.6mm及びφ3.2mm
シース長:1.7m
熱電対素線の種類:K熱電対
金属シースの材質:NCF600
注入は図3に示す構成により行い、アルゴンガスの圧力は4.7kg/cm2Gとした。
【0028】
外径φ1.6mmで長さ1.7mのMIケーブルの無機絶縁材粉末間に含まれる空気は、計算では0.6ccである。4日間の加圧で捕集した吐出ガス量は約2.5ccとなり、十分に空気がアルゴンガスに置換したことを確認した。
【0029】
また外径φ3.2mmで長さ1.7mのMIケーブルは無機絶縁材粉末間に含まれる空気は、計算では2.3ccである。これについても外径φ1.6mmのMIケーブルと同様にアルゴンガスを注入し、3日間の加圧で捕集した吐出ガス量は約10ccとなり、十分に空気がアルゴンガスに置換したことを確認した。
【0030】
上述したように外径φ1.6mmのものについては4日間、φ3.2mmのものについては3日間アルゴンガスを注入したMIケーブルの両端部を加工し、図1に示す非接地型熱電対で、アルゴンガスが無機絶縁材粉末間に封入された外径φ1.6mmとφ3.2mmのシース熱電対を製作した。なお、両端部加工の際にMIケーブルを切断しシース熱電対の仕上りシース長はいずれも1000mmとした。
【0031】
上記詳述したように、1000℃以上の高温を測定対象とした場合に、従来、測定誤差の負側への増加が問題となっていたシース外径がφ3.2mm以下の細いシース熱電対について、1000℃以上の高温を測定対象とした場合にも測定誤差の負側への増加が少ないシース熱電対を得た。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、シース熱電対に不活性ガスを封入したものであるが、高温中で使用するシース内の無機絶縁材粉末に不活性ガスを封入して内在する電気導線の劣化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】シース熱電対の長手方向断面図である。
【図2】シース熱電対のII−II断面図である。
【図3】不活性ガス注入時の構成例である。
【図4】MIケーブルの縮径加工を説明するMIケーブルの長手方向断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1:金属シース
2:熱電対素線(K又はN)
3:無機絶縁材粉末
4:樹脂等によるシール部
5:MIケーブル
6,8:コンプレッションフィッティング付キャップ
7,9:チューブ
10:吐出ガス捕集器
11:容器
12:ガス捕集筒
13:水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シース内にマグネシア、アルミナ等を材質とする粉末の無機絶縁材を介在させてK熱電対素線又はN熱電対素線を収容し、端部を樹脂等でシールしたシース熱電対において、無機絶縁材粉末間に不活性ガスを封入したシース熱電対。
【請求項2】
請求項1記載のシース熱電対において、封入する不活性ガスをアルゴンとしたシース熱電対。
【請求項3】
MIケーブルと呼ばれる両端を加工してシース熱電対にする前の無機絶縁材粉末を介在させて熱電対素線を収容収した金属シース部に対し、その一端を、アルゴンガス等の不活性ガスにより加圧して無機絶縁材粉末間に注入し、この不活性ガスの圧力によって初めに無機絶縁材粉末間に存在していた空気を他端から流出させることにより、MIケーブル内の無機絶縁材粉末間に不活性ガスを充填した後、両端を加工してシース熱電対に仕上げる無機絶縁材粉末間に不活性ガスを封入したシース熱電対の製造方法。
【請求項4】
太径のMIケーブルを、ロータリースエージングや穴ダイスによる冷間引き抜き等により縮径を複数回行って、所定の外径のMIケーブルを製作する過程において、前記縮径の初期又は途中段階で、MIケーブル一端をアルゴンガス等の不活性ガスにより加圧して無機絶縁材粉末間に不活性ガスを注入し、前記不活性ガスの圧力によって無機絶縁材粉末間に存在していた空気を他端から流出させ、MIケーブル内の無機絶縁材粉末間に不活性ガスを充填した後、MIケーブルの縮径を継続し、所定の径に達してから、MIケーブルを必要な長さに切断してMIケーブルの両端を加工することによりシース熱電対に仕上げる、無機絶縁材粉末間に不活性ガスを封入したシース熱電対の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−60445(P2010−60445A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226857(P2008−226857)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000140454)株式会社岡崎製作所 (34)
【Fターム(参考)】