説明

不溶化材及び不溶化方法

【課題】6価クロム等の有害物質の溶出量が極めて多い土壌(例えば、6価クロム溶出量が0.7mg/L以上)であっても当該有害物質を効果的に不溶化することができるとともに、原位置にて不溶化処理を行うことのできる不溶化材及び不溶化方法を提供する。
【解決手段】有害物質を不溶化し得る不溶化材に、酸化マグネシウムと、高炉スラグ粉末とを含有せしめる。かかる不溶化材中の高炉スラグ粉末の含有割合は、酸化マグネシウム100質量部に対して5〜900質量部であり、不溶化材中に含まれる全酸化マグネシウムの質量に対するく溶性苦土(C−MgO)の割合は、85質量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌等に含まれる有害物質を不溶化し得る不溶化材に関し、特に6価クロム溶出量の多い土壌等に含まれる6価クロムを不溶化し得る不溶化材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場、事業所、産業廃棄物処理場等の跡地の土壌が、6価クロム等の有害物質で汚染されていることが報告されている。このように、土壌が6価クロム等の有害物質で汚染されると、当該有害物質が溶出し、地下水も汚染されることとなり、人体に影響を及ぼすおそれがあるという安全衛生上の問題のみならず、有害物質による汚染濃度が環境基準値を超えると、跡地をそのまま利用できなくなり、土地の有効利用の妨げとなる。したがって、土壌等に6価クロム等の有害物質が含まれている跡地を有効活用するためにも、土壌等から6価クロム等の有害物質が溶出するのを抑制し、防止するのが望ましいと考えられる。
【0003】
従来、6価クロムに汚染された土壌の処理方法として、当該土壌に酸化マグネシウムを添加して、6価クロムの溶出を抑制する方法が提案されている(特許文献1,2参照)。また、6価クロムに汚染された土壌に、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及びそれらの前駆物質からなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ性物質を添加した後に、これを酸素含有率2.5%以下の雰囲気ガスと接触させながら500〜1000℃の範囲内の処理温度で処理し、6価クロムを無害化する方法も提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−117532号公報
【特許文献2】特開2003−225640号公報
【特許文献3】特開2003−117538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載されている方法は、6価クロムによって汚染された土壌に適用して6価クロムの溶出を抑制することは可能であるものの、6価クロム溶出量が多い土壌(例えば、6価クロム溶出量が0.2mg/L以上の土壌)に適用して6価クロムの溶出を効果的に抑制するためには、酸化マグネシウムの添加量を増加させる必要がある。そのため、不溶化処理にかかるコストが高くなってしまうとともに、酸化マグネシウムを混合した後のボリュームが増加するため、副次的な対策が必要であるという問題がある。また、酸化マグネシウムのみを土壌に添加すると、土壌によっては固化強度が実用上十分でないという問題もある。
【0005】
さらに、上記特許文献3に記載されている方法は、6価クロムの溶出量が多い土壌(例えば、6価クロム溶出量が0.2mg/L以上の土壌)に適用して6価クロムを不溶化することは可能であるものの、酸素含有率2.5%以下の雰囲気ガスと接触させながら500〜1000℃の範囲で加熱処理する必要があるため、土壌を原位置で処理することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、6価クロム等の有害物質の溶出量が極めて多い土壌(例えば、6価クロム溶出量が0.7mg/L以上の土壌)等の不溶化処理対象物であっても、当該有害物質を効果的に不溶化することができるとともに、原位置にて不溶化処理を行うことのできる不溶化材及び不溶化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の酸化マグネシウム及び高炉スラグ粉末を組み合わせることによって、有害物質の溶出を効果的に抑制し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、酸化マグネシウムと高炉スラグ粉末とを含有し、有害物質を不溶化し得る不溶化材であって、前記高炉スラグ粉末の配合割合が、前記酸化マグネシウム100質量部に対して5〜900質量部であり、前記不溶化材中の全酸化マグネシウムの質量に対するく溶性苦土(C−MgO)の割合が、85質量%以上であることを特徴とする不溶化材を提供する(請求項1)。
【0009】
上記発明(請求項1)によれば、酸化マグネシウムと、高炉スラグ粉末とを上記範囲内で配合し、く溶性苦土の含有割合を全酸化マグネシウム中85質量%以上とすることで、6価クロム等の有害物質を効果的に不溶化することができ、有害物質溶出量を環境基準値以下に低減することができるとともに、実用上十分な固化強度を発現することができる。また、このような不溶化材は、有害物質を含有する土壌等に添加・混合することで当該有害物質を不溶化することができるため、原位置にて処理することができる。
【0010】
上記発明(請求項1)においては、前記酸化マグネシウムのハンターLab表色系におけるa値が、0.7以上であるのが好ましい(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、酸化マグネシウムのハンターLab表色系におけるa値が0.7以上であることで、有害物質の溶出をより効果的に抑制することができる。
【0011】
上記発明(請求項1,2)においては、前記酸化マグネシウムが、軽焼マグネシウムであるのが好ましい(請求項3)。酸化マグネシウムのうち軽焼マグネシウムは、高炉スラグ粉末と組み合わせることで、優れた有害物質溶出抑制効果を発揮し得るため、かかる発明(請求項3)によれば、土壌等に含まれる有害物質をより効果的に不溶化することができる。
【0012】
なお、本明細書において「軽焼マグネシウム」とは、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムを主要原料として、それを650〜1000℃で焼成してなる酸化マグネシウムを意味し、好ましくは750〜1000℃で焼成してなるものであり、より好ましくは800〜1000℃で焼成してなるものである。
【0013】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記高炉スラグ粉末は、熱質量測定における900〜1000℃での質量増加分が、0.8質量%以下のものであるのが好ましい(請求項4)。かかる発明(請求項4)によれば、有害物質溶出量の極めて多い土壌(例えば、6価クロム溶出量が0.7mg/L以上の土壌)等であっても、不溶化処理を行うことで有害物質溶出量を環境基準値以下にすることができるため、より優れた有害物質溶出抑制効果を発揮し得るとともに、実用上十分な固化強度を発現することもできる。
【0014】
また、本発明は、不溶化処理対象物に含まれる有害物質を不溶化する方法であって、酸化マグネシウムを前記不溶化処理対象物に添加し、混合した後、さらに高炉スラグ粉末を当該不溶化処理対象物に添加し、混合することを特徴とする不溶化方法を提供する(請求項5)。
【0015】
上記発明(請求項5)によれば、有害物質を含む不溶化処理対象物に酸化マグネシウムを添加・混合し、その後高炉スラグ粉末を不溶化処理対象物に添加・混合することで、酸化マグネシウムと高炉スラグ粉末とを同時に不溶化処理対象物に添加・混合するのに比して、より優れた有害物質溶出抑制効果を発揮することができる。
【0016】
本明細書において、「不溶化処理対象物」としては、例えば、6価クロム等の有害物質を含む土壌、焼却灰、飛灰、汚泥、レンガやコンクリート等の廃棄物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
上記発明(請求項5)においては、前記酸化マグネシウムの添加量の0.05〜9倍量(質量比)の前記高炉スラグを添加し、前記酸化マグネシウム及び前記高炉スラグ中の酸化マグネシウムの合計質量に対するく溶性苦土(C−MgO)の割合が85質量%以上となるように、前記酸化マグネシウム及び前記高炉スラグを添加するのが好ましい(請求項6)。
【0018】
上記発明(請求項6)によれば、有害物質の溶出をより効果的に抑制し得るとともに、実用上十分な固化強度を発現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の不溶化材及び不溶化方法によれば、6価クロム等の有害物質の溶出量が極めて多い土壌(例えば、6価クロム溶出量が0.7mg/L以上の土壌)等の不溶化処理対象物であっても当該有害物質を効果的に不溶化することができるとともに、原位置にて不溶化処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る不溶化材について詳細に説明する。なお、本実施形態に係る不溶化材が不溶化し得る有害物質として、土壌中の6価クロムを例に挙げて説明するが、本発明の不溶化材が不溶化し得る物質はこれに限定されるものではなく、例えば、マンガン、銅、カドミウム、水銀、鉛、亜鉛、砒素、セレン等の重金属、シアン化合物、フッ素、有機リン化合物、又はこれらの混合物等も含むものである。
【0021】
本実施形態に係る不溶化材は、酸化マグネシウムと高炉スラグとを含有する。酸化マグネシウムとしては、天然に産出されるものであってもよいし、工業的に製造されるものであってもよい。工業的に製造される酸化マグネシウムとしては、例えば、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムを主要原料として、それを所定の温度で焼成して得られるもの等が挙げられる。
【0022】
本実施形態における酸化マグネシウムは、上記のようにして焼成して工業的に製造される酸化マグネシウムのうち、軽焼マグネシウムであるのが好ましい。かかる軽焼マグネシウムは、650〜1000℃で焼成して得られるものであるのが好ましく、750〜1000℃で焼成して得られるものであるのがより好ましく、800〜1000℃で焼成して得られるものであるのが特に好ましい。上記温度範囲で焼成して得られる軽焼マグネシウムであれば、土壌中の6価クロムの溶出を効果的に抑制し得るとともに、実用上十分な固化強度を発現することができる。
【0023】
なお、酸化マグネシウムの焼成原料である炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムとしては、6価クロムの溶出抑制効果の観点から、不純物含有量の少ないものを使用するのが好ましい。具体的には、焼成後の酸化マグネシウム量が85質量%以上となるものを使用するのが好ましく、90質量%以上となるものがより好ましい。
【0024】
酸化マグネシウムのブレーン比表面積は、3000〜10000cm/gであるのが好ましく、3500〜9000cm/gであるのがより好ましい。酸化マグネシウムのブレーン比表面積が3000cm/g未満であると、6価クロムの溶出抑制効果が低減するとともに、実用上十分な固化強度を発現することも困難となるおそれがある。また、酸化マグネシウムのブレーン比表面積が10000cm/gを超えるものは、入手が困難である上、サイロ等での保管に至ってはシュート詰まり等のトラブルを引き起こすおそれがあり、またコストも高くなるおそれがある。
【0025】
酸化マグネシウムの密度は、3.0〜3.6g/cmであるのが好ましく、3.3〜3.6g/cmであるのがより好ましい。上記密度の範囲を有する酸化マグネシウムは、風化によって受けた劣化が小さいことから水和活性度が高く、6価クロムの溶出抑制効果に優れる上、固化強度の発現においても優れる。
【0026】
また、本実施形態における酸化マグネシウムは、不溶化材に配合した場合に、不溶化材中の全酸化マグネシウム量に対するく溶性苦土(C−MgO)の割合が、85質量%以上となるものが好ましく、87質量%以上となるものがより好ましく、90質量%以上となるものが特に好ましい。当該く溶性苦土の割合が85質量%未満であると、6価クロム溶出量の多い土壌(6価クロム溶出量が0.2mg/L以上の土壌)の不溶化処理に用いた際に、6価クロム溶出抑制効果が低減するおそれがある。
【0027】
なお、不溶化材中の全酸化マグネシウム量に対するく溶性苦土(C−MgO)の含有割合を測定する方法としては、特に限定されるものではなく常法に従って行うことができる。
【0028】
例えば、試料としての不溶化材の粒度を200メッシュ全通に調整し、試料に2%クエン酸を加え30℃で1時間回転振とうする(30〜40rpm)。振とう後、冷却して緩衝材(塩化アンモニウム、モノエタノールアミン等)を添加し、希塩酸及び希アンモニア水にてpH5程度の弱酸性に調整する。その後、シュウ酸アンモニウムを添加し、80℃の湯浴にて1時間反応させる。
【0029】
マスキング剤としてのL−アスコルビン酸、(1+3)トリエタノールアミン、KCN等を添加するとともに、緩衝剤としてモノエタノールアミン又は塩化アンモニウム(pH10.6)を添加して溶液のpHを10付近に調整する。
【0030】
そして、指示薬としてエリオクロムブラックT数滴を加え、標準エチレンジアミン四酢酸塩液で滴定することで、く溶性苦土(C−MgO)の含有割合(質量%)を測定する。
【0031】
本実施形態における酸化マグネシウムは、ハンターLab表色系におけるa値が0.7以上であるのが好ましく、0.9以上であるのがより好ましい。当該a値が0.7未満であると、6価クロム溶出量の多い土壌(6価クロム溶出量が0.2mg/L以上の土壌)に対する6価クロムの溶出抑制効果が低減するおそれがある。なお、当該a値は、分光色差計(日本電色社製,商品名:CP6R−2000DP)を用いて測定することができる。
【0032】
本実施形態における高炉スラグ粉末は、そのブレーン比表面積が3000〜10000cm/gであるのが好ましく、4000〜9000cm/gであるのがより好ましい。高炉スラグ粉末のブレーン比表面積が3000cm/g未満であると、6価クロムの溶出抑制効果が低減するとともに、実用上十分な固化強度を発現することも困難となるおそれがある。また、高炉スラグ粉末のブレーン比表面積が10000cm/gを超えるものは、入手が困難である上、サイロ等で保管する場合にシュート詰まり等のトラブルを引き起こすおそれがあり、コストも高くなるおそれがある。
【0033】
また、本実施形態における高炉スラグ粉末は、熱質量測定における900〜1000℃での質量増加分が0.8質量%以下であるのが好ましく、0.75質量%以下であるのがより好ましい。かかる質量増加分が0.8質量%以下であれば、6価クロム溶出量が極めて多い土壌(6価クロム溶出量が0.7mg/L以上の土壌)に対しても優れた6価クロム溶出抑制効果を発揮し得る。
【0034】
なお、高炉スラグ粉末の熱質量測定は、慣用の熱質量測定装置を用いて行うことができ、その測定条件は、サンプル量が30〜80mgであり、昇温速度が20℃/minで1000℃まで昇温し、大気雰囲気下で行うことができる。
【0035】
さらに、本実施形態における高炉スラグ粉末の酸化カリウム(KO)含有量は、0.35質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以下であるのがより好ましい。高炉スラグ粉末の酸化カリウム(KO)含有量が0.35質量%以下であれば、6価クロム溶出量の極めて多い土壌(6価クロム溶出量が0.7mg/L以上の土壌)に対しても優れた6価クロム溶出抑制効果を発揮し得る。
【0036】
本実施形態に係る不溶化材は、酸化マグネシウム及び高炉スラグ粉末のみからなるものであってもよいし、酸化マグネシウム及び高炉スラグ粉末以外の他の成分を含むものであってもよい。上記不溶化材が酸化マグネシウム及び高炉スラグ粉末以外の他の成分を含むものである場合、酸化マグネシウム及び高炉スラグ粉末が主成分として含まれているのが好ましく、具体的には、酸化マグネシウムと高炉スラグ粉末との合計量が、不溶化材全体量に対して90質量%以上であるのが好ましい。
【0037】
不溶化材が、酸化マグネシウム及び高炉スラグ粉末を主成分として含むものである場合、当該不溶化材に含まれる他の成分としては、例えば、酸化マグネシウムの焼成原料である炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムに含まれているSiO、Al、Fe、CaO等が挙げられるが、不溶化材が有する6価クロム溶出抑制効果を妨げるものでない限り、これらに限定されるものではない。
【0038】
本実施形態に係る不溶化材中の酸化マグネシウムと高炉スラグ粉末との配合割合は、酸化マグネシウム100質量部に対して、高炉スラグ5〜900質量部であり、フッ素等の他の汚染物質も含む複合汚染土壌に使用する場合を考慮すると、10〜100質量部であるのが好ましく、15〜70質量部であるのがより好ましい。
【0039】
酸化マグネシウム100質量部に対する高炉スラグ粉末の配合割合が5質量部未満であると、6価クロム溶出量の多い土壌(6価クロム溶出量が0.2mg/L以上の土壌)に適用する場合に、6価クロムの溶出を抑制するために添加量が増大するおそれがあり、不溶化処理にかかるコストが高くなるとともに、不溶化材を土壌に混合した後のボリュームが増加し、副次的な対策が必要となるおそれがある。一方、高炉スラグ粉末の配合割合が900質量部を超えると、実用上十分な固化強度を発現するのに相当な時間がかかってしまうおそれがある。
【0040】
本実施形態に係る不溶化材を用いて土壌中の6価クロムを不溶化する方法としては、6価クロムを含有する土壌に、粉体状又はスラリー状に調製した不溶化材を添加し、当該土壌を混合する方法が挙げられる。不溶化材の添加の簡便性を重視すれば、粉体状の不溶化材を添加するのが好ましく、不溶化処理における粉塵の発生の抑制や不溶化材と土壌との混合性を考慮すれば、スラリー状の不溶化材を添加するのが好ましい。なお、スラリー状の不溶化材を添加する場合、当該スラリーの水粉体比は、100〜400質量%であるのが好ましい。
【0041】
不溶化材を土壌に添加する場合、酸化マグネシウム及び高炉スラグ粉末をあらかじめ混合してなる不溶化材を添加してもよいし、酸化マグネシウムと高炉スラグとを別々に添加してもよい。
【0042】
酸化マグネシウムと高炉スラグ粉末とを別々に添加する場合には、まず、酸化マグネシウムを土壌に添加・混合し、所定の時間(例えば1〜60分程度)経過後に、高炉スラグ粉末を土壌に添加・混合するのが好ましい。これにより、6価クロムの溶出をより効果的に抑制することができる。
【0043】
本実施形態に係る不溶化材と土壌との混合処理としては、土壌の改良深さによって異なるが、改良深さが2〜3m程度であればスタビライザや特殊バックホウ等の混合機械を用いた原位置混合方式又はプラントで連続的に混合する事前混合方式等を採用することができる。
【0044】
一方、改良深さが3mを超える場合には、機械攪拌翼方式若しくは噴射攪拌方式を用いる深層混合処理工法、又は柱列式若しくは等厚壁式を用いるソイルセメント地中連続壁工法等を採用することができる。
【0045】
本実施形態に係る不溶化材を土壌に添加する場合、土壌への不溶化材の添加量は、不溶化処理対象土壌1mあたり50〜300kgであるのが好ましく、100〜250kgであるのがより好ましい。不溶化材の添加量が50kg未満であると、土壌に含まれる有害物質を効果的に不溶化することができず、有害物質の溶出を効果的に抑制することができないおそれがあり、300kgを超えると、不溶化処理にかかるコストが高くなるおそれがあるとともに、不溶化材を混合した後のボリュームが増加するため、副次的な対策が必要となるおそれがある。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る不溶化材は、上記のような特定の酸化マグネシウムと高炉スラグ粉末とを組み合わせることで、6価クロム溶出量の多い土壌(6価クロム溶出量が0.2mg/L以上の土壌)に適用した場合であっても、土壌に含まれる6価クロムの溶出を効果的に抑制することができるとともに、原位置での不溶化処理を行うことができる。また、かかる不溶化材を用いることで、土壌に含まれる6価クロムの不溶化処理を短時間で行うことができる。
【0047】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0048】
例えば、上記実施形態に係る不溶化材は、土壌に含まれる6価クロムの不溶化処理に用いられるものとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、焼却灰、飛灰、汚泥、レンガやコンクリート等の廃棄物等に含まれる6価クロム等の有害物質の不溶化処理に用いることもできる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び試験例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例及び試験例に何ら限定されるものではない。なお、下記の実施例及び試験例においては、酸化マグネシウム及び高炉スラグとして、下記表1及び2に示す材料を使用した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
〔試験例〕模擬汚染土壌からの6価クロム溶出抑制効果確認試験1〜5
(1)模擬汚染土壌の調製
粘性土(含水比:22%,湿潤密度:1.953)に二クロム酸カリウム(KCr,試薬特級)を添加・混合した後、24時間静置して下記表3に示す模擬汚染土壌1〜4を調製した。
【0053】
【表3】

【0054】
(2)試験1
模擬汚染土壌1に、下記表4に示す配合の不溶化材(実施例1〜2,比較例1)を100kg/mとなるように添加し、ホバートミキサで3分間混合して、JGS−0821「安定処理土の締固めをしない供試体作製」に準じて直径3.5cm×高さ7cmの供試体を作製した。
【0055】
得られた供試体を20℃にて7日間湿空養生を行った後、6価クロムの溶出量を環境庁告示第46号法に準じて、ジフェニルカルバジド吸光光度法で測定した。結果を表4に示す。なお、表4中「C−MgO/全MgO」は、不溶化材中の全MgOに対するく溶性苦土(C−MgO)の質量比を表すものである。
【0056】
【表4】

【0057】
表4に示すように、実施例1及び2の不溶化材は、6価クロムの溶出量の多い模擬汚染土壌1からの6価クロムの溶出量を土壌に対する環境基準値(0.05mg/L)以下に低減可能であることが確認された。このことから、不溶化材中のく溶性苦土(C−MgO)含有率が85質量%以上であれば、6価クロムの溶出量を効果的に低減することができることが判明した。
【0058】
(3)試験2
模擬汚染土壌2及び模擬汚染土壌3のそれぞれに、表5に示す配合の不溶化材(実施例3〜8)を100kg/mとなるように添加し、ホバートミキサで3分間混合して、JGS−0821「安定処理土の締固めをしない供試体作製」に準じて直径3.5cm×高さ7cmの供試体を作製した。
【0059】
得られた供試体を20℃にて7日間湿空養生を行った後、6価クロムの溶出量を環境庁告示第46号法に準じて、ジフェニルカルバジド吸光光度法で測定した。結果を表5に示す。なお、表5中「C−MgO/全MgO」は、不溶化材中の全MgOに対するく溶性苦土(C−MgO)の質量比を表すものである。
【0060】
【表5】

【0061】
表5に示すように、実施例3〜8の不溶化材は、6価クロム溶出量の多い模擬汚染土壌2からの6価クロム溶出量を土壌に対する環境基準値(0.05mg/L)以下に低減可能であることが確認された。
【0062】
また、熱質量測定における900〜1000℃での質量増加分が0.8質量%以下の高炉スラグ粉末を含有する、実施例3〜6の不溶化材は、6価クロム溶出量の極めて多い模擬汚染土壌3からの6価クロム溶出量を土壌に対する環境基準値(0.05mg/L)以下に低減可能であることが確認された。このことから、熱質量測定における900〜1000℃での質量増加分が0.8質量%以下の高炉スラグ粉末を不溶化材に含有せしめることで、特に優れた6価クロム溶出抑制効果を発揮し得ることが明らかとなった。
【0063】
(4)試験3
模擬汚染土壌4に、表6に示す配合の不溶化材(実施例3,9,10,比較例2)を表6に示す量となるように添加し、ホバートミキサで3分間混合して、JGS−0821「安定処理土の締固めをしない供試体作製」に準じて直径3.5cm×高さ7cmの供試体を作製した。
【0064】
得られた供試体を20℃にて7日間及び28日間湿空養生を行った後、6価クロムの溶出量を環境庁告示第46号法に準じて、ジフェニルカルバジド吸光光度法で測定した。また、当該供試体について、一軸圧縮強さを測定した。結果を表6に示す。なお、表6中「C−MgO/全MgO」は、不溶化材中の全MgOに対するく溶性苦土(C−MgO)の質量比を表すものである。
【0065】
【表6】

【0066】
表6に示すように、実施例3,9及び10の不溶化材は、6価クロムの溶出量の多い模擬汚染土壌4からの6価クロムの溶出量を土壌に対する環境基準値(0.05mg/L)以下に低減可能であることが確認された。また、実施例3,9及び10の不溶化材は、実用上十分な固化強度を発現可能であることも確認された。
【0067】
(5)試験4
模擬汚染土壌1に、軽焼マグネシウム1を71.5kg/m(100質量部)となるように添加してホバートミキサで1.5分間混合した後、さらに高炉スラグ2を28.5kg/m(40質量部)となるように添加してホバートミキサで1.5分間混合した(実施例11)。なお、本試験4における軽焼マグネシウム1と高炉スラグ2との添加割合は、上記表4に示す実施例1の配合割合と同一になるようにした。その後、JGS−0821「安定処理土の締固めをしない供試体作製」に準じて直径3.5cm×高さ7cmの供試体を作製した。
【0068】
得られた供試体を20℃にて7日間湿空養生を行った後、6価クロムの溶出量を環境庁告示第46号法に準じて、ジフェニルカルバジド吸光光度法で測定した。かかる測定の結果、実施例11の方法により6価クロムの不溶化処理をした場合の6価クロムの溶出量は0.019mg/Lであった。このことから、最初に酸化マグネシウムを汚染土壌に添加・混合し、その後高炉スラグを汚染土壌に添加・混合することで、酸化マグネシウムと高炉スラグとを同時に汚染土壌に添加した場合(表4に示す実施例1)に比して、6価クロムの溶出量をより低減可能であることが確認された。
【0069】
(6)試験5
模擬汚染土壌1に、軽焼マグネシウム1を71.5kg/m(100質量部)となるように添加してホバートミキサで1.5分間混合した後、15分間静置し、さらに高炉スラグ2を28.5kg/m(40質量部)となるように添加してホバートミキサで1.5分間混合した(実施例12)。なお、本試験5における軽焼マグネシウム1と高炉スラグ2との添加割合は、上記表4に示す実施例1の配合割合と同一になるようにした。その後、JGS−0821「安定処理土の締固めをしない供試体作製」に準じて直径3.5cm×高さ7cmの供試体を作製した。
【0070】
得られた供試体を20℃にて7日間湿空養生を行った後、6価クロムの溶出量を環境庁告示第46号法に準じて、ジフェニルカルバジド吸光光度法で測定した。かかる測定の結果、実施例12の方法により6価クロムの不溶化処理をした場合の6価クロムの溶出量は0.018mg/Lであった。このことから、最初に酸化マグネシウムを汚染土壌に添加・混合し、しばらく静置した後に高炉スラグを汚染土壌に添加・混合することで、酸化マグネシウムと高炉スラグとを同時に土壌に添加した場合(表4に示す実施例1)に比して、6価クロムの溶出量をより低減可能であることが確認された。
【0071】
また、上記試験4及び試験5の結果から、酸化マグネシウムを汚染土壌に添加・混合した後、すぐに高炉スラグを汚染土壌に添加・混合しても、6価クロムの溶出抑制効果にほとんど有意差が見られず、両試験結果ともに優れた6価クロム溶出抑制効果を発揮し得ることが確認された。このことから、本発明の不溶化材及び不溶化方法によれば、6価クロム等の有害物質の不溶化処理を短時間で行うことができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の不溶化材は、6価クロム等の有害物質により汚染された土壌の不溶化処理に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムと高炉スラグ粉末とを含有し、有害物質を不溶化し得る不溶化材であって、
前記高炉スラグ粉末の配合割合が、前記酸化マグネシウム100質量部に対して5〜900質量部であり、
前記不溶化材中の全酸化マグネシウムの質量に対するく溶性苦土(C−MgO)の割合が、85質量%以上であることを特徴とする不溶化材。
【請求項2】
前記酸化マグネシウムのハンターLab表色系におけるa値が、0.7以上であることを特徴とする請求項1に記載の不溶化材。
【請求項3】
前記酸化マグネシウムが、軽焼マグネシウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の不溶化材。
【請求項4】
前記高炉スラグ粉末は、熱質量測定における900〜1000℃での質量増加分が、0.8質量%以下のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の不溶化材。
【請求項5】
不溶化処理対象物に含まれる有害物質を不溶化する方法であって、
酸化マグネシウムを前記不溶化処理対象物に添加し、混合した後、さらに高炉スラグ粉末を当該不溶化処理対象物に添加し、混合することを特徴とする不溶化方法。
【請求項6】
前記酸化マグネシウムの添加量の0.05〜9倍量(質量比)の前記高炉スラグを添加し、
前記酸化マグネシウム及び前記高炉スラグ中の酸化マグネシウムの合計質量に対するく溶性苦土(C−MgO)の割合が85質量%以上となるように、前記酸化マグネシウム及び前記高炉スラグを添加することを特徴とする請求項5に記載の不溶化方法。

【公開番号】特開2009−155414(P2009−155414A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333702(P2007−333702)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】