説明

不溶性ろう付け残渣を形成するフラックス

部品をろう付けするために使用されるフラックスに特定の量でLi化合物を添加することによって、静止した水または水性組成物、例えば冷却水との接触によりひき起こされる腐食に対する改善された耐性を有する、例えば熱交換器などのアルミニウム部品を得ることができる。LiF、特にLiフルオロアルミン酸塩が非常に好適である。フラックスおよびLi塩は、水または水性組成物中に別個に分散させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中での溶解度が非常に低いろう付け残渣を形成するアルミニウムのろう付け用フラックス、ろう付け方法および、フラックスを使用した場合に得られるろう付けされたアルミニウム部品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属フルオロアルミン酸塩に基づくフラックスを使用してアルミニウム部品のろう付けが実施可能であることは、当該技術分野において周知である。このタイプのフラックスは一般に、非腐食性であるとみなされている。例えばKAlFおよびKAlFに基づくフラックスを出願する(特許文献1)、またはフルオロアルミン酸カリウムおよびフルオロアルミン酸セシウムに基づくフラックスを出願する(特許文献2)を参照のこと。(特許文献3)は、腐食保護剤、ろう付け充填剤および/または非腐食性フラックスを含むろう付け組成物の金属基材上への動力学的噴霧を開示している。
【0003】
(特許文献4)は、2重量%〜7重量%の量でLiFを含むフラックスを開示している。フラックスは、低い融点を有し、マグネシウムを含有するアルミニウム合金のろう付けに好適であると言われている。2つの例において、部材はKAlF、KAlFおよびLiAlFを含むフラックスでろう付けされた。ろう付けされた部材は塩水試験に付され、1000時間の処理後も腐食を一切示さなかった。
【0004】
(特許文献5)では、アルミニウム工作物の処理方法が記述されている。例えばろう付け中の炭素酸化物を用いた工作物の処理が提供されている。これにより、工作物は黒化する。黒色コーティングの形成は、LiFがフラックス内に存在するときに改善される。
【0005】
(特許文献6)は、マグネシウムを含むアルミニウム合金のろう付けに好適な560℃以下の融点を有するフラックスを開示している。2つの例において、それぞれ3および10%のLiFを伴うフラックスが適用された。
【0006】
(特許文献7)は、開放火炎式ろう付け(トーチろう付け)の方法を開示している。フルオロアルミン酸カリウムフラックスと1〜30重量%、最も好ましくは6〜11重量%のフッ化セシウム、フッ化リチウムまたはその両方を含むフラックスが適用される。このフラックスは、マグネシウムを含むアルミニウム合金をろう付けするのに好適である。
【0007】
(特許文献8)は、アルミニウム工作物を酸化雰囲気中で加熱することによって処理してその耐食性を改善するための方法を開示している。一部の例において、他の無機添加物の中でも、LiCl、LiAlFまたはLiFが4.8重量%の量で添加される。フラックスに対してアルカリおよびアルカリ土類金属塩などの添加物が添加された場合に、効果が増強される。
【0008】
(特許文献9)は、KF−AlFおよび、0.75〜16.5重量%の量でLiFを含むフラックスを開示している。フラックスは、るつぼ内で適正な量のKF、LiFおよびAlFを溶融することにより得られる。ろう付けされた部品は、水中に浸漬された場合に、水に対する比較的低い伝導度を提供する。
【0009】
長期間にわたり水または水性液体と接触させられた場合、フルオロアルミン酸カリウム系フラックスでろう付けされたアルミニウム部品は、腐食の兆候を示す。これは、Bo Yangらにより、(非特許文献1)中で開示されている。腐食は、水または液体中に濁りが出現することによって認識でき、例えば水酸化アルミニウムの形成を誘発すると思われる。
【0010】
この腐食は、ろう付けされた部品が、例えば少なくとも一日以上という長期間にわたり水と接触させられた場合に、ろう付け残渣から浸出するフッ化物イオンによってひき起こされると思われる。
【0011】
アルミニウムが、良好なろう付け継手を妨害する酸化アルミニウムによりつねに被覆されるということは公知である。フラックスを添加することの目的は、ろう付けすべきアルミニウム部品の表面を清浄すること、とりわけ酸化物層を除去することにある。多くの場合、フルオロアルミン酸カリウム系フラックスが適用される。多くの場合、これらのフラックスはKAlFまたはKAlFとKAlFの混合物で構成されている。フラックス中のKAlFの含有量は低くなければならない。ろう付けプロセス中、KAlFが形成されることが多く、これらのフラックスをKAlFの前駆物質とみなすことができる。KAlFは、以下の等式にしたがって、不均化により、KAlFおよびKAlFを発生させるものと仮定されている:
2KAlF→KAlFおよびKAlF (1)
【0012】
他のフラックス、例えばフルオロ亜鉛酸カリウムは、原位置でフルオロアルミン酸カリウムを形成する:
2Al+3KZnF→3Zn+KAlF+KAlF (2)
【0013】
形成されたKAlFは、等式(1)にしたがって不均化してKAlFおよびKAlFを形成する。したがって、このようなフラックスはKAlFおよびKAlFの前駆物質であり、全体的等式は以下の通りである;
4Al+6KZnF→6Zn+3KAlF+KAlF (2a)
【0014】
SiFはKAlF、そしてその後に(3b参照)KAlFも形成する;
4Al+3KSiF→3Si+2KAlF+2KAlF (3)
4Al+3KSiF→3Si+3KAlF+KAlF (3b)
形成されたKAlFは上述の通り不均化してKAlFとKAlFを形成する。同様にフルオロ錫酸カリウムも、KAlFおよびKAlFの前駆物質である。
【0015】
水と長期間接触した場合に、KAlFは、ろう付けされたアルミニウム部品の表面で腐食をひき起こすKFを放出することがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第3,971,501号明細書
【特許文献2】米国特許第4,689,092号明細書
【特許文献3】米国特許第6,949,300号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0091231号明細書
【特許文献5】英国特許出願公開第2224751号明細書
【特許文献6】特開平07−009123号明細書
【特許文献7】米国特許第5,802,752号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第0347106号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第0541259号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Journal of ASTM International,vol.3,Issue 10(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、特に水と接触した後、改善された防食性を有するろう付けされたアルミニウム部品を提供する改良型フラックスを提供することにある。さらなる目的は、新規のフラックスが適用されるろう付け方法を提供することにある。さらに別の目的は、特に水と接触させられた場合の腐食保護が改善されたろう付けアルミニウム部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
リチウム塩が特定の量でアルミニウムろう付け用フラックスに添加された場合、ろう付け残渣内にはKAlFの代りにKLiAlFが形成されることがわかっている。KLiAlFは、静止した水と接触させられた場合、溶解度がKAlFよりはるかに低い。このような静止した水との接触は、例えばろう付けされた部品を野外に貯蔵する場合に発生する。
【0020】
本発明に関連して、「〜を含む(comprising)」という用語は、「〜から成る(〜で構成される)」という意味を含むように意図されている。
【0021】
一態様によると、本発明は、水中溶解度の低いろう付け残渣を提供するアルミニウムろう付け用変性フラックスに関する。本発明の変性フラックスは、アルミニウムろう付けに好適であり、KAlFまたはその前駆物質を含むベースフラックスと、ろう付け中にKAlFの全てをKLiAlFに転換するために化学量論的に必要とされる量の80%〜120%に相当する量のLi塩とを含む。
【0022】
「ベース(basic)」という用語は「7超のpH」という意味ではなく「主な(principal)」を意味する。Li塩とフラックス中に存在するか、または前駆物質から形成されるKAlFとのモル比は、LiAタイプのLi塩については0.8:1〜1.2:1、LiBタイプのLi塩については0.4:1〜0.6:1、そしてLiCタイプのLi塩については0.25:1〜0.4:1であることが好ましい。好ましい範囲は、LiAタイプのLi塩については0.9:1〜1.1:1、LiBタイプのLi塩については0.5:1〜0.55:1、そしてLiCタイプのLi塩については0.3:1〜0.36:1である。「LiAタイプのLi塩」という用語は、一価のアニオンAを伴うLi塩類、例えばLiF、LiClまたは酢酸Liを意味する。「LiBタイプのLi塩」という用語は、二価のアニオンB2−を伴うLi塩類、例えばLiSO、LiCOまたはシュウ酸リチウムを意味する。「LiCタイプのLi塩」という用語は三価のアニオンC3−を伴うLi塩類を意味する。しかしながら、化合物LiAlFについては、比は異なる。これは、LiAlFが以下の等式(4)にしたがってKLiAlFをも形成するからである;
4KAlF+LiAlF→2KAlFおよび3KLiAlF (4)
【0023】
したがって、フラックス内に存在するか、またはろう付け中に形成されるLiAlFとKAlFの間のモル比は、0.2:1〜0.3:1、そして好ましくは0.22:1〜0.28:1である。
【0024】
存在するまたは形成されるLi塩とKAlFの間の特に好ましいモル比は、LiAタイプのLi塩、特にLiFについては1:1〜1.1:1、LiBタイプのLi塩については0.5:1〜0.55:1であり、LiAlF以外のLiCタイプのLi塩については0.33:1〜0.36:1そしてLiAlFについては0.25:1〜0.275:1である。好ましくは、ベースフラックス中のKAlFの含有量は、好ましくは2重量%以下、より好ましくは0重量%を含め1重量%以下である。この含有量は、乾燥重量ベースでフラックスについて計算される。そのため、変性フラックス中のKAlFの含有量は、同程度のものである。実際には、それは、変性フラックス中にLi塩が含まれることを理由としてわずかに低いものである。多くの場合、変性フラックス中のKAlFの含有量は、好ましくは、添加されるLi塩の量に応じて1.99重量%以下、さらには1.82重量%以下でさえある。
【0025】
一実施形態に係る変性フラックスは、1つまたは複数のカリウム塩(1つまたは複数のフルオロアルミン酸塩、フルオロ亜鉛酸塩類またはフルオロケイ酸塩類)と1つまたは複数のリチウム塩の混合物とを含む。このようなフラックスは、それぞれの塩を混合することによる乾式法によって調製可能である。別の実施形態において、リチウム含有量はカリウム塩内で均質に分布している。このようなフラックスは、共沈による湿式法で調製可能である。これについては以下で説明する。
【0026】
一実施形態によると、ベースフラックスはKAlFを含む。この実施形態が好まれる。別の実施形態によると、ベースフラックスはKAlFの前駆物質を含む。
【0027】
以下では、KAlFを含むベースフラックスについて詳述する。
【0028】
この実施形態の好ましいベースフラックスは、以下のものからなる群から選択される:
・ KAlFを含むか、またはこれで構成されるベースフラックス。
・ KAlFおよびKAlFを含むか、またはそれで構成されているベースフラックス。
・ KAlF、フルオロアルミン酸セシウムそして任意選択によりKAlFを含むか、またはそれで構成されているベースフラックス。
【0029】
フルオロアルミン酸カリウムは、部分的にまたは全面的に、その水和物の形で存在し得る;例えばKAlFは、部分的または全面的にKAlF・HOの形で存在し得る。
【0030】
AlFが再水和されるかもしれない形態で存在することそして不可逆的に脱水された形で存在することがわかっている。各々の形態または任意の所望の比率でのそれらの混合物が、フラックス中に存在し得る。それらの製造および使用に関する詳細は、米国特許第5,980,650号明細書中に記されている。例えば沈殿したKAlF粗生成物が乾燥器内において570℃、滞留時間0.5秒で乾燥させられる。得られた生成物は、不可逆的に脱水されたKAlFを含む。
【0031】
「〜から成る(〜で構成される)」という用語は、ベースフラックスが他の構成成分、例えば他のフラックスを本質的な量で含まないことを意味する。好ましくは、フラックスが他の構成成分、例えば他のフラックスを2重量%超含むことはない。この実施形態の全てのフラックス中のKAlFの含有量は、好ましくは2重量%以下、より好ましくは0重量%を含め1重量%以下である。この含有量は、乾燥重量ベースで変性フラックスについて計算される。
【0032】
AlFを含むか、またはそれで構成されているベースフラックスは、KAlFおよび/またはその水和物KAlF・HOを含んでいてもよい。KAlFの総含有量は好ましくは95重量%以上である。KAlFが存在する場合、その好ましい含有量は、以上で記されている通り、好ましくは2重量%以下である。
【0033】
ここで、KAlFおよびKAlFを含むか、またはそれで構成されているベースフラックスについて詳述する。
【0034】
これらのベースフラックス中では、KAlFおよびKAlFそして存在する場合にはそれらの水和物が、主構成成分である。多くの場合、フルオロアルミン酸カリウムは本質的にKAlFおよびKAlFまたはその水和物の混合物で構成されている。「本質的に」とは、好ましくは、それらの合計がベースフラックスの95重量%以上、より好ましくは98重量%以上を構成していること;とりわけ多くとも2重量%、好ましくは2重量%以下、そして最も好ましくは0重量%を含め1重量%以下がKAlFで構成されていることを意味する。KAlF(存在する場合には水和物を含む)とKAlF(存在する場合には水和物を含む)の間の重量比は、非常に融通性あるものである。それは1:99〜99:1であり得る。多くの場合、それは1:10〜10:1の範囲内にある。10〜40重量%のKAlF、KAlF・HOまたはそれらの任意の混合物を含み、100重量%までの残分が本質的にKAlFであるベースフラックスが非常に好適である。
【0035】
以下では、KAlFフルオロアルミン酸セシウムそして任意選択によりKAlFを含むか、またはそれで構成されているベースフラックスについて記述する。米国特許第4670067号明細書および米国特許第4689062号明細書中に記載されている通りの、フルオロアルミン酸カリウムと、例えばフルオロアルミン酸セシウムの形をしたセシウムカチオンを含むベースフラックスも同様に非常に好適である。これらのセシウム含有ベースフラックスは、アルミニウム−マグネシウム合金をろう付けするのに特に好適である。KAlFとKAlFの重量比は、好ましくは上述の通りである。Cs含有量は、CsFの含有量として計算されて、2〜74モル%である。セシウムは好ましくは、CsAlF、CsAlF、CsAlF、それらの水和物そしてそれらの2つ、3つまたはそれ以上の任意の混合物の形で存在する。任意の水和物を含めたKAlF、KAlFおよび1つまたは複数のフルオロアルミン酸セシウム化合物の合計は、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上である。KAlFの含有量は好ましくは2重量%以下、そして最も好ましくは0重量%を含め1重量%以下である。
【0036】
本発明のフラックスは、上述のベースフラックスの1つおよび適量のリチウム塩を含む。ベースフラックスとリチウム塩の混合物は「変性フラックス」と表示される。上述の通り、この変性フラックス中のリチウム含有量は、存在する場合にはその水和物を含めたKAlFの含有量に左右される。KAlF1モルあたり、一塩基性アニオンを伴うリチウム塩が変性フラックス中に0.8〜1.2モル当量存在する。このことについて、リチウム塩としてLiFを考慮してさらに説明する。一例として、80重量%のKAlFおよび20重量%のKAlFで構成されたベースフラックスについて計算を行なう。このようなフラックスは、Solvay Fluor GmbH、Hannover、GermanyからNocolok(登録商標)という商標名で入手可能である。このフラックス100gには、20gのKAlFが含まれ、これは、KAlFが200gのモル重量を有することから、0.1モルに対応する。こうして、本発明に係る変性フラックスは、0.08〜0.12モルのLiFを含む。これは、添加すべきLiF約2.08g〜3.12gに対応する。したがって、変性フラックスは2.08g:(100+2.08g)=2.04重量%〜3.12g:(100+3.12g)=3.0重量%のLiFを含む。
【0037】
以下の表1では、KAlF(一例においてはKAlF・HO)の含有量が変動する変性フラックス中のLiFの最小量と最大量が示されている。KAlF、KAlF・HOおよびLiFを含む変性フラックスは、100重量%として設定されている。
【0038】
【表1】

【0039】
好ましい実施形態において、変性フラックス中のLiA、好ましくはLiFタイプの化合物とKAlFとの比は0.9:1〜1.1:1である。
【0040】
表2は、この好ましい実施形態の複数の変性フラックスをまとめたものである。
【0041】
【表2】

【0042】
変性フラックス中のLiAタイプの化合物、好ましくはLiFとKAlFとのモル比が1:1〜1.1:1であることが特に好ましい。
【0043】
下表3は、ベースフラックスにLiAlFが添加されている変性フラックスを表わしている。量は等式(4)にしたがって計算された。
【0044】
【表3】

【0045】
別の実施形態によると、ベースフラックスひいては変性フラックスはKAlFの前駆物質を含む。好ましい前駆物質は、フルオロ亜鉛酸カリウムおよびKSiFである。KZnFは、それぞれKAlFの前駆物質ひいてはKAlFであるベースフラックスである。それは、上述の通り、等式(2)にしたがってKAlFを形成する。Li塩の添加により、LiFの添加について実証された通り、この化合物からのKAlFの形成が妨げられる:
2Al+3KZnF+LiF→3Zn+KAlF+KLiAlF (5)
【0046】
KZnFのモル重量は161.4であり、形成されたKAlF1モルあたり0.8〜1.2モルの一塩基性Li塩が適用されることから、ベースフラックスに対しKZnF100gあたり約4.3g〜6.5gのLiF(または一塩基性アニオンを伴うそれぞれの量の他のLi塩)が添加される。したがって、変性フラックスは、約4重量%〜6.1重量%のLiFまたは一塩基性アニオンを伴う任意の他のLi塩を含む。
【0047】
LiAlFの量は、等式(6)から計算可能である:
8Al+12KZnF+LiAlF→12Zn+6KAlF+3KLiAlF (6)
【0048】
100gのKZnFあたり約6.5g〜10gのLiAlFが添加される。したがって、フルオロ亜鉛酸カリウムフラックスでろう付けされた部材に対する冷却水または静止した水の腐食的影響を削減するために必要なLi塩は極くわずかである。変性フラックスは6.1〜9.1重量%のLiAlFを含む。
【0049】
これらの計算において、フラックスはLi塩とKZnFとで構成されているものと仮定される。専門家であれば、ベースフラックスが添加剤を含む場合にベースフラックスに対し添加すべきLi塩の量を容易に計算し直すことができる。例えば、ベースフラックスが70重量%のKZnFと30重量%のケイ素で構成されている場合、添加すべきLiFの量は4・0.7g=2.8g〜6.5・0.7g=4.6gになると考えられる。したがって、変性フラックスは、2.7〜4.4重量%のLiFを含む。LiAlFの量は4.6g〜7gになると考えられ、変性フラックスは4.4〜6.5gのLiAlFを含む。しかしながら、Li塩の防食効果は、以上で記述したフルオロアルミン酸カリウムタイプのベースフラックスについて、より優れたものであることが発見された。
【0050】
したがって、好ましい変性フラックスは、KAlFと、100gのKAlFあたり10.5g〜15.5gのLiFまたは16.2g〜24.3gのLiAlFとを含む。特に好ましい変性フラックスは、100gのKAlFあたり11.7g〜14.3gのLiFまたは18.2g〜22.3gのLiAlFを含む。
【0051】
あるいは、フラックスはKZnFと、100gのKZnFあたり4.3〜6.5gのLiFまたは6.5g〜10gのLiAlFとを含む。フラックスは多くの場合、KZnFと、100gのKZnFあたり4.8g〜6gのLiFまたは7.3g〜9.2gのLiAlFとを含む。
【0052】
Li塩の添加によって変性され得るベースフラックス、ならびにそれらの製造は公知であり、多くの場合市販されている。フルオロアルミン酸カリウム系のベースフラックスは、例えば米国特許第3951328号明細書、米国特許第4579605号明細書、および米国特許第6221129号明細書中に記載されている。ベースフラックス前駆物質、特にヘキサフルオロケイ酸カリウムも使用することができる。
【0053】
例えば米国特許第6,432,221号明細書および6,743,409号明細書中に、アルカリ金属フルオロ亜鉛酸塩ベースフラックスが開示されている。
【0054】
フラックスは任意選択により、ろう付け金属前駆物質、特にSiを含む。Siの粒径は好ましくは30μm以下である。
【0055】
所望される場合、様々なベースフラックス、リチウム塩、そして使用される場合には任意の添加剤の粉末を混合および/または微粉砕して、より均質な変性フラックスまたは粒径のより小さい変性フラックスを得ることができる。
【0056】
好ましいフラックスは本質的に、フルオロアルミン酸カリウム、とりわけKAlFか、もしくはKAlFとKAlFとの混合物、またはフルオロ亜鉛酸カリウム、および上述の通りフラックス中に含まれているかもしくはろう付け中に形成されたKAlFに対する量でのLiFおよびLiAlFの1つを、含むか、またはそれで構成されている。
【0057】
LiAlF、LiFおよび他のLi塩、例えばLiOHまたはLiCOは、市販されている。無機塩基性Li化合物、例えばLiOHまたはLiCOは、米国特許第4,428,920号明細書中に記載されている湿式プロセスにおいて非常に好適であるものの、他のLi化合物、例えばLiFを、任意選択により上述の塩基性Li化合物と共に、使用してもよいと考えられる。それぞれの化学量論量の水酸化アルミニウムおよびHFから、フルオロアルミニウム酸を生成することが可能である。LiAlFは、Solvay Fluor GmbH、Hannover、Germanyから入手可能である。
【0058】
変動する含有量のKAlFとKAlFを伴うフルオロアルミン酸カリウムフラックスの製造は、米国特許第4,579,605号明細書中に記載されている。水酸化アルミニウム、フッ化水素酸およびカリウム化合物、例えば水中に溶解したKOHが、反応させられる。この特許は、特定のモル比および濃度で出発材料を適用し、特定の反応温度を維持することによって、得られるフラックス混合物中のKAlFおよびKAlFの含有量を予め決定できることを開示している。
【0059】
Liカチオンは、2つの主要な方式、すなわち湿式法と乾式法により変性フラックス中に導入可能である。乾式法によると、変性フラックスは、少なくとも1つの沈殿工程を含む方法において調製される。例えば、水酸化アルミニウムをHFと反応させてフルオロアルミニウム酸を形成し、このフルオロアルミニウム酸自体を次に、例えばLiF、LiAlF、LiOH、シュウ酸LiまたはLiCOなどのLi塩(さらにはLi金属−ただしHの形成に起因する危険性が存在すると考えられる)の存在下で、水酸化カリウムと反応させ、こうしてLiカチオンを含むフルオロアルミン酸カリウムを沈殿させることによって、フルオロアルミン酸カリウムリチウムを調製することができる。利点は、形成された沈殿物中のLi含有量の分布がかなり均質であるということにある。
【0060】
あるいは、ベースフラックスとリチウム塩を所望の比で機械的に混合することにより、乾式法により変性フラックスを調製することができる。同様にここでは一般に、有機および無機Li化合物が好適であると思われる。好ましくは、フッ素含有Li化合物が、必要な場合には2つ以上のこのような化合物の混合物の形で、Liカチオンの供給源として使用される。Liカチオンのみを含む化合物を適用することが可能である。例えば、Liカチオンおよび他のアルカリ金属カチオン、好ましくはKおよび/またはCsカチオンを含む化合物または化合物混合物を適用することができる。多くの場合、LiFまたはフルオロアルミン酸リチウムがLiカチオンの供給源として使用される。
【0061】
変性フラックスは、それが湿式法で得られたものであれ乾式法で得られたものであれ、主としてベースフラックスと同じ要領でろう付けのために適用可能である。それはそのままの状態で、例えば乾燥フラックスとして静電的にあるいはプラズマ溶射によって適用可能である。それは、湿式フラックス塗布方法において適用することもできる。詳細については、以下でろう付け方法に関する本発明の態様が詳細に説明される際に示される。
【0062】
上述の通り、変性フラックスは、それを用いてろう付けされた部品の防食特性を改善する。当該技術分野では、特にフルオロアルミン酸塩フラックスが、アルミニウムまたはアルミニウム合金に対して基本的に非腐食性であることが認識されている。それでも、一部の状況(水、特に静止した水または水性液体、例えば冷却液(冷却水)との長期間にわたる接触)下では、腐食が発生すると思われる。このことは、水または水性液体中に認めることのできる白色沈殿物(水酸化アルミニウムであると推測される)によって見分けがつく。
【0063】
したがって、変性フラックスは、ろう付けの後、長期間にわたり水または水性組成物、特に雨水または冷却水などの静止した水との接触という追加の工程に付されるアルミニウム部品の耐性を改善するために適用される。こうして、多くの場合、フッ化物が浸出する結果となる。「長期間」という用語は、少なくとも1日、好ましくは少なくとも2日持続する接触期間を意味する。「長期間」という用語は、具体的上限を一切有していない。それは、1週間以上の間持続してもよい。例えば、水を含む冷却液の場合、液体とアルミニウムの間の接触は、何年も、例えば1年以下、2年以下さらには5年以下の間持続可能である。
【0064】
本発明においては、「フッ化物イオンによりひき起こされる」という用語が使用されている。その理由は、腐食性の最大の影響がフッ化物イオンに割当てられるという点にある。フラックス残渣の溶解に由来する他の種が腐食特性を有するかもしれない可能性もあると考えられている。したがって、「フッ化物イオンによりひき起こされる」という用語は、腐食が、水中または水溶液中に存在する他の種によってまたは他の化学的機序によりひき起こされる可能性を排除しない。
【0065】
「水」という用語は、天然の供給源に由来する水、例えば雨水、露として形成した水および融雪後に形成した水を含む。それには、例えば水道水などの人工水源が含まれる。「水」という用語は同様に、水性組成物を含むようにも意図されている。「水性組成物」という用語は、その最も広い意味合いで、水そして少なくとも1つの追加の構成要素、例えば無機または有機塩そして多くの場合、液体構成要素、例えば有機液体、例えば一塩基性または二塩基性アルコールを含み、ろう付けされたアルミニウム部品と接触するあらゆる組成物を含む。それには、例えば、通常水以外に、凍結防止化合物特にグリコールおよび添加剤、例えば防腐剤または着色剤を追加で含む冷却液、例えば据置型冷凍設備または据置型熱交換器用の冷却剤または車両用冷却水中で使用されるものが含まれる。好ましくは、「水」という用語は、雨水、雪または霧から形成された水を意味し、「水性組成物」という用語は好ましくは、燃焼機関内の冷却水を意味する。
【0066】
本発明のこの態様の一実施形態において、Li変性フラックスを適用することによって耐食性を高めたアルミニウム部分は、ろう付けの後、酸素あるいは、空気中または不活性ガス中、例えば酸素とアルゴンおよび/または窒素を含む混合物中に含まれる酸素を用いた熱処理によって後処理される。水とアルミニウム部品の長期間にわたる接触の後にフラックス残渣から浸出したフッ化物は、空気中または前記酸素含有ガス中での熱処理の無いろう付けされた部品に比べて、ろう付けされた部品に対する腐食的影響が少ないことがわかった。
【0067】
この実施形態では、ろう付けされた部品は、酸素含有雰囲気中で熱処理に付される。好ましくは、熱処理中の温度は、400℃以上である。好ましくは、それは530℃以下である。所望される場合、この温度はより高いものであってもよい。好ましい酸素含有雰囲気は空気である。
【0068】
熱処理の持続時間は、好ましくは10秒以上、特に好ましくは30秒以上である。それは好ましくは1時間以下、特に15分以下である。
【0069】
耐食性を改善するための酸化性熱処理は、すでに欧州特許出願公開第0034706号明細書から公知である。しかしながら、処理されたアルミニウム部品が、どの種類の腐食またはどの腐食性作用物質によってひき起こされる腐食から保護されるものと考えられているかに関しては、前記欧州特許出願の明細書から明らかではない。実施例を参照すると、塩水によってひき起こされる腐食に対する保護が意図されていることがわかる。前記欧州特許出願は、例えば1日以上の長期間にわたる水との接触後のフラックスから浸出したフッ化物イオンによってひき起こされる問題には対応していない。
【0070】
別の実施形態のによると、酸素中または酸素を含む雰囲気中での部品の追加的処理は一切実施されない。好ましくは、本発明の変性フラックスの使用が、ろう付けされた部品の唯一の防食処理である。
【0071】
好ましい実施形態において、本発明の枠内での「水」および「水性組成物」という用語は、塩水、特にAST−GM43 SWAT試験に準じた塩水を含まない。
【0072】
変性フラックスは、ベースフラックスに関して専門家にとって公知のものと同じ要領でろう付けに使用可能である。上述の変性フラックスは、例えば、それ自体粉末として、任意選択により添加剤と共に、例えば静電塗布によって使用可能である。上述の変性フラックスは、例えば湿式法で任意選択により添加剤と共にアルミニウム部品に適用することができる。以下では、適切な添加剤について、より詳細に説明する。
【0073】
添加剤には2つの主要なカテゴリがある。すなわち、ろう付けされた部品間の継手を改善または改変する、例えばAl−Mg合金のろう付けを改善するか継手の表面特性を全般的に改善するろう付け添加剤と、接合すべき部品のフラックス塗布法を改変または改善するフラックス添加剤である。ここで有用な添加剤について幾分か詳しく説明する。
【0074】
以下の段落において、ろう付けを改善または改変するろう付け添加剤について、ベースフラックスの好ましい例である変性フルオロアルミン酸カリウムを考慮して説明する。
【0075】
一実施形態においては、変性フラックスはさらに、フルオロアルミン酸セシウム、フルオロ亜鉛酸セシウムおよびフルオロ亜鉛酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1つのマグネシウム相溶化剤を含む。このようなフラックスは同様に、0.5重量%以上の含有量のマグネシウムを伴うアルミニウム合金をろう付けするためにも適している。マグネシウム相溶化剤の含有量は好ましくは、フラックスの重量、すなわちフルオロアルミン酸カリウム、LiFまたはフルオロアルミン酸リチウム、およびマグネシウム相溶化剤の合計の重量の0.5重量%以上である。
【0076】
フラックスはさらに、米国特許出願公開第2007−0277908号明細書中に記載されているようなハロゲン化物、硝酸塩、炭酸塩、あるいはジルコニウム、ニオブ、ランタン、イットリウム、セリウム、チタン、ストロンチウム、インジウム、錫、アンチモンまたはビスマスの酸化物などの元素周期系の主族または亜属の金属の金属塩によって、変性されてもよい。これらの添加剤は、好ましくは、フラックスの総乾燥重量の3重量%以下の量で含まれ得る。
【0077】
フラックスは、米国特許第51000486号明細書中に記載されているように、ろう付け(充填剤)金属、例えばA−Si合金またはろう付け金属前駆物質、例えばケイ素、銅またはゲルマニウムも含んでいてもよい。ろう付け前駆物質がフラックス中に存在する場合には、全フラックスの2〜30重量%の量で含まれることが好ましい。
【0078】
アルミニウムろう付けに適した別のフラックスには、フルオロ亜鉛酸カリウム、Liカチオンを含む化合物そして任意選択によりSiが含まれる。同様に、ここでは、Siが含まれる場合、それは全フラックスの2〜30重量%の量で存在することが好ましい。
【0079】
所望される場合、特定の適用方法のために、特定の粒径を有するフラックスを選択することができる。例えば、任意のろう付け添加剤を含む粒子は、米国特許出願第6,733,598号明細書に開示されている粒径分布を有していてもよく、例えば静電出力などによる乾式法にしたがった適用に特に好適である。
【0080】
フラックスの粒子は、前記米国特許第6,733,598号明細書中に開示されている比較的細かい粒子より粗い性質のものであってもよい。このような比較的粗いフラックスは、溶媒中に分散したフラックスを含むフラックス組成物の形での適用に極めて好適である。これらは、例えば部品上に塗装、印刷あるいは噴霧することで適用可能である。
【0081】
例えば上述のものなどの変性用金属塩またはマグネシウム相溶化剤を任意に含むフラックスは、そのままの状態で、添加剤を伴ってまたは伴わずに、乾燥粉末として、例えば静電的にまたは国際公開第2006/100054号パンフレットに記載の通りに低温プラズマを適用することによって適用され得る。このプラズマプロセスにおいては、細かく分割したフラックス粉末が、低温プラズマビームによって部分的に溶融され、接合すべきアルミニウム部品の表面上に噴霧される。
【0082】
上述のろう付け添加剤の1つ以上を伴うか、または伴わない変性フラックスは同様に、フラックス組成物の形で湿式法にしたがって適用することもできる。ここで、フラックス組成物は、任意選択により前記ろう付け添加剤および/またはフラックス塗布用添加剤の1つ以上を含む変性フラックスを含んでいる。
【0083】
上述のフラックスを含む湿式利用分野のためのフラックス組成物が、本発明の別の実施形態である。このフラックス組成物について(ひいては、フラックス組成物を適用できる本発明に係るろう付け方法も)以下で詳述する。
【0084】
湿式フラックス塗布方法に適した本発明のフラックス組成物は、任意選択によりろう付け添加剤の1つ以上を含む変性フラックスと、溶媒、結合剤、増粘剤、懸濁安定剤、消泡剤、界面活性剤およびチキソトロープ剤からなる群から選択されるフラックス塗布用添加剤の少なくとも1つとを含む。
【0085】
好ましい一実施形態において、フラックス組成物は、溶媒、特に水、無水有機液体または水性有機液体中に懸濁したフラックスを含む。好ましい液体は、大気圧(絶対圧力1バール)で350℃以下の沸点を有する液体である。「水中に懸濁した」という用語は、フラックス組成物の一部分が液体中に溶解していることを排除するものではない。これは特に、水または水性有機液体が含まれている場合にあてはまるかもしれない。好ましい液体は、脱イオン水、一塩基性、二塩基性または三塩基性脂肪族アルコール、特に1〜4個の炭素原子を有するもの、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールまたはエチレングリコール、またはグリコールアルキルエーテルであり、ここでアルキルとは好ましくは、直鎖または分岐脂肪族C1〜C4アルキルを意味する。非限定的な例は、グリコールモノアルキルエーテル類、例えば2−メトキシエタノールまたはジエチレングリコール、あるいはグリコールジアルキルエーテル類、例えばジメチルグリコール(ジメトキシエタン)である。2つ以上の液体を含む混合物も同様に極めて好適である。イソプロパノールまたはイソプロパノールを含む混合物が特に好適である。
【0086】
液体中に懸濁したフラックスを含む組成物は同様に、さらなるフラックス塗布用添加剤、例えば増粘剤、界面活性剤またはチキソトロープ剤を含んでいてもよい。
【0087】
特に好ましい実施形態において、フラックスは、結合剤も含む液体中にフラックスが懸濁しているフラックス組成物の形で存在する。結合剤は、例えば、ろう付けすべき部品上に塗布された後のフラックス混合物の接着を改善する。したがって、フラックス、結合剤および水、有機液体または水性有機液体を含むフラックス組成物を用いた湿式フラックス法は、本発明のろう付け方法の好ましい一実施形態である。
【0088】
適切な結合剤は、例えば有機ポリマーからなる群から選択され得る。このようなポリマーは、物理的に乾燥している(すなわち液体の除去後固体コーティングを形成する)か、または化学的に乾燥している(例えば分子の架橋をひき起こす光または酸素などの化学物質の影響下で固体コーティングを形成するかもしれない)か、またはその両方である。適切なポリマーとしては、ポリオレフィン類、例えばブチルゴム類、ポリウレタン類、樹脂類、フタレート類、ポリアクリレート類、ポリメタクリレート類、ビニル樹脂類、エポキシ樹脂類、ニトロセルロース、ポリ酢酸ビニル類またはポリビニルアルコール類が含まれる。液体として水を、そして結合剤として水溶性ポリマー、例えばポリウレタンまたはポリビニルアルコールを含むフラックス組成物は、ろう付け方法中に、場合によって可燃性の有機液体ではなく水が蒸発させられるという利点を有することから、特に適切である。
【0089】
組成物は、その特性を改善する他の添加剤、例えば懸濁安定剤、界面活性剤、特に非イオン界面活性剤、例えばAntarox BL225、直鎖C8〜C10エトキシル化およびプロポキシル化アルコール類の混合物、増粘剤、例えばメチルブチルエーテル、チキソトロープ剤、例えばゼラチンまたはペクチン類、または欧州特許出願公開第1808264号明細書中に記載のワックスを含んでいてもよい。
【0090】
(存在する場合には、1つまたは複数の液体、チキソトロープ剤、界面活性剤および結合剤を含めた)全組成物中の(ベースフラックス、Li含有添加剤そして存在する場合には充填剤金属、充填剤前駆物質、ろう付けまたは表面特性を改善する金属塩などの添加剤などの他の添加剤を含む)変性フラックスの含有量は、一般に0.75重量%以上である。好ましくは、それは1重量%以上である。より好ましくは、組成物中のフラックス含有量は、全フラックス組成物の5重量%以上、非常に好ましくは10重量%以上である。
【0091】
一般に、組成物中の変性フラックスの含有量は、70重量%以下である。好ましくは、それは50重量%以下である。
【0092】
結合剤が存在する場合、それは一般に全フラックス組成物の0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上の量で含まれる。結合剤が存在する場合、それは一般に、全組成物の30重量%以下、好ましくは25重量%以下の量で含まれる。
【0093】
チキソトロープ剤が存在する場合、それは一般に全フラックス組成物の1重量%以上の量で含まれる。一般に、それは、存在する場合、20重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で含まれる。
【0094】
増粘剤が存在する場合、それは一般に全フラックス組成物の1重量%以上、好ましくは5重量%以上の量で含まれる。一般に、増粘剤は、存在する場合、全組成物の15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で含まれる。
【0095】
湿式適用のために極めて適したフラックス組成物は、10〜70重量%のフラックス(充填剤金属、充填剤前駆物質、改変剤および防食剤、例えばろう付けまたは表面特性を改善する金属塩を含む)、1〜25重量%の結合剤、0〜15重量%の増粘剤、0〜10重量%のチキソトロープ剤、および0〜5重量%の他の添加剤、例えば界面活性剤または懸濁安定剤を含む。好ましくは、100重量%までの残分は水、有機溶媒または水性有機溶媒である。
【0096】
具体的な一実施形態において、フラックス組成物は、水または無水有機液体または水性有機液体を含まず、上述の通りのフラックス(そして任意選択により、充填剤金属または前駆物質、上述のものなどの他の添加剤またはろう付けされた製品の特性またはろう付け方法を改善する改変剤または防食剤の1つ以上)、ならびにフラックス用の水溶性パッケージの形で存在する結合剤としての水溶性有機ポリマーを含む。例えば、米国特許出願公開第2006/0231162号明細書中に記載の通り、フラックス用の水溶性パッケージとしては、ポリビニルアルコールが極めて適している。このようなパッケージは、塵埃を形成させることなく取扱うことができ、水を添加した後、フラックスおよび結合剤としての水溶性ポリマーを含む水中懸濁液を形成する。
【0097】
存在するまたはろう付け中に形成されるKAlFに対するLi塩の含有量は添加剤による影響を受けないが、ろう付け中にKAlFを形成するKSiFは例外であり、したがってこれは必要なLi塩の量の計算において考慮されなければならない。
【0098】
溶媒が水であるか、または水および有機液体、例えばアルコールを含む場合には、水溶性の低いLi塩、例えば20℃で水中溶解度が0.5g以下である化合物を適用することが好ましい。ここではLiFおよびLiAlFも非常に好適である。
【0099】
本発明の別の態様は、変性フラックスまたはそれを含むフラックス組成物を、ろう付けすべき(ろう付け中に接合されるべき表面の部分を含めた)表面の一部分またはその表面全体に対して適用する工程を含むアルミニウム部品のろう付け方法の提供である。フラックス塗布後、これらの部品は組立てられろう付けされるか,あるいは、ろう付けすべき部品は組立てられ、次にフラックス塗布され、その後ろう付けされる。一変形形態においては、ろう付けされた部品は、ろう付け後の酸化性熱処理に付される。別の変形形態では、これらの部品は酸化性熱処理に付されない。
【0100】
フラックスは、以上で記述した乾式フラックス塗布法にしたがって適用可能である。あるいは、湿式フラックス組成物を、当該技術分野において公知の方法にしたがってアルミニウム部品に適用することができる。例えば、これらを表面上に噴霧して、コーティングされたアルミニウム部品を形成することができる。あるいは、コーティングすべきアルミニウム部品をフラックス組成物中に浸漬することによってか、またはろう付けすべきアルミニウム部品上にフラックス組成物を塗装または印刷してコーティングされた部品を形成することにより、コーティングされた部品を形成することができる。「アルミニウム」という用語にはアルミニウム合金、特にマグネシウム含有合金が含まれるという点に留意しなければならない。フラックス、水溶性結合剤そして任意選択によりさらなる添加剤をパッケージの形で含みかつ液体を含まないフラックス組成物を、使用前に水中に入れ、懸濁したフラックス混合物および溶解した結合剤を含む水性フラックス組成物を形成することができる。
【0101】
一般に、湿式フラックス組成物でコーティングされた部品は乾燥させられる(これは、当然のことながら、フルオロアルミン酸塩水和物を適用し、ろう付けプロセスの開始前に結晶水を除去したいのでないかぎり、乾式法にしたがってコーティングされた部品においては不要である)。乾燥工程はろう付け工程とは独立して実施可能である。乾燥したフラックスコーティング済み部品はその後、ろう付けされるまで保管され得る。あるいは、直接ろう付け装置内でまたは別個の乾燥装置内でろう付け作業の直前に乾燥工程を実施することができる。
【0102】
本発明に係る変性フラックス、または変性フラックスと添加剤とを含むフラックス組成物が、ろう付けされるべき部品の少なくとも1つの上にコーティングされ、部品はそれらをろう付けするのに充分なほど高い温度まで加熱される、アルミニウムまたはアルミニウム合金から作製された部品のろう付け方法。
【0103】
ろう付けのためには、接合されるべきコーティング済み部品は組立てられ(湿式プロセスにしたがってコーティングされる場合は乾燥の前または後)、約560℃〜約610℃まで加熱される。これは不活性ガス雰囲気中、例えば窒素またはアルゴン雰囲気中で行なうことができる。開放空気中でろう付けすることも同様に可能である(トーチろう付け)。
【0104】
フルオロアルミン酸リチウムを含む本発明のフラックスを用いてろう付けされたアルミニウム部品は、一般に耐食性が高いことがわかっている。
【0105】
本発明のさらなる態様は、本発明の変性フラックスでコーティングされたアルミニウム部品またはアルミニウム合金部品に関する。これらの部品は好ましくは、車または大型トラックの空調システムまたは冷却器内の、例えば管およびフィンなどの熱交換器を生産するのに用いられる部品、または「HVAC」装置を生産するために用いられる部品である。HVACとは、暖房、換気、空調、すなわち屋内環境快適性技術を意味する。
【0106】
本発明の別の態様は、本発明に係るフラックスまたはフラックス組成物を用いてろう付けされたアルミニウムまたはアルミニウム合金製の組立てられた部品に関する。これらの部品は、好ましくは、1つの媒体から別の媒体まで熱を伝達する上で使用される部品である。好ましくは、これらの部品は、車および大型トラックの熱交換器または冷却系、およびHVAC装置内で使用される。
【0107】
出願人が以前に出願しまだ公開されていない国際特許出願である国際出願PCT/EP2009/065566号明細書中に、Li変性フラックスの一部の組成物がすでに記載されている。本発明の一実施形態では、前記国際出願PCT/EP2009/065566号明細書中で開示されている通りの変性フラックス、組成物、それぞれのコーティング済み部品、フラックスまたはフラックス組成物を用いたろう付け方法および得られたろう付け部品は、法的に必要である場合、放棄される。例えば、本明細書では以下の混合物が開示されている;すなわち表1において、3重量%の、3.7重量%のおよび4重量%のLiAlF(100重量%までの残部はNocolok(登録商標))からなる変性フラックス;約80重量%のKAlFおよび約20重量%のKAlFからなる変性フラックス;66重量%のKAlF、28重量%のKAlFおよび6重量%のKAlFからなる変性フラックス;76重量%のKAlF、19重量%のKAlFおよび5重量%のLiAlFからなる変性フラックス;66重量%のKAlF、28重量%のKAlFおよび6重量%のLiAlFからなる変性フラックス;67重量%のKAlF、28重量%のKAlFおよび5重量%のLiAlFからなる変性フラックス;77重量%のKAlF、19重量%のKAlFおよび4重量%のLiAlFからなる変性フラックス;フルオロアルミン酸カリウムとフルオロアルミン酸セシウムが98:2のK:Cs比であるSolvay Fluor GmbHから入手可能なNocolok(登録商標)Cs、および5重量%のLiAlFを含む変性フラックス;5重量%のLiAlFを含む(100重量%までの残部はNocolok(登録商標)である)変性フラックス;75部分のKZnF、25部分のケイ素粉末および5部分のLiAlFからなるフラックス;38重量%のKAlF・HO、57重量%のKAlFおよび5重量%のLiAlFを含むフラックス;フラックスは、36.8重量%のKAlF・HO、55.2重量%のKAlFおよび8重量%のLiAlFを含む;およびこれらのフラックスの一部のためのろう付け方法。
【0108】
以上の記述から、専門家にとっては、記述されている発明がアルミニウムろう付けに使用可能な変性フラックスを提供することは明白である。水または水性組成物と接触した状態でろう付け済み部品の腐食性を減少させるという利点以外に、予め形成された変性フラックスは、その適用が容易であるというさらなる利点を有する。たとえ構成成分を機械的に混合することによって調製される場合でも、これらは、保管される体積全体にわたりかなり均質である。それでも、所望される場合、特に湿式適用プロセスにおいて、ベースフラックスの構成成分、任意選択によりあらゆる添加剤、およびLi塩は、互いに別個に適用され得る。所望される場合、ベースフラックスおよび任意の他の添加剤(存在する場合)は、溶媒中に予め分散した状態で適用される。その後、Li塩は、好ましくはろう付けすべき部品に対する分散の適用の直前に、この組成物に添加される。この実施形態の利点は、乾燥形態のフラックスであるか、あるいは水中、有機溶媒中、または水と有機溶媒との混合物中にすでに予備分散しているかに関わらず、市販のあらゆるフラックス組成物が使用可能であり、それでも水または水性組成物と接触した状態でのろう付け済みアルミニウム部品に耐食性を付与するという点におけるLi塩のメリットは達成される、ということにある。適切な有機溶媒は、すでに上述されている。エタノール、イソプロパノールおよびブタノールが好ましい溶媒である。
【0109】
したがって、本発明は同様に、アルミニウム部品をろう付けする方法において、KAlFを含むか、またはアルミニウムのろう付けのためのろう付け方法中にKAlFを形成するKAlFの前駆物質を含むフラックスと、低い水溶性を有するリチウム塩とが、水または水溶液中に互いに別個に分散させられて、フラックスとリチウム塩とを含む分散を形成し、次に少なくとも1つのアルミニウム部品が少なくとも部分的に分散でコーティングされ、組立てられた少なくとも2つの部品がろう付けされる方法も提供する。フラックスは好ましくは、KZnF、KAlF、KAlF・HO、それらの混合物、およびKAlFと混和されたKAlFおよび/またはKAlF・HOを含むか、またはこれらで構成されたフラックスから選択され、特に好ましくは、KAlF、KAlF・HO、それらの混合物、およびKAlFと混和されたKAlFおよび/またはKAlF・HOを含むか、またはこれらで構成されたフラックスから選択される。
【0110】
フラックスおよびリチウム塩は、水、有機溶媒または水性有機分散中に、乾燥形態で分散可能である。フラックス分散中で一般に使用される添加剤を添加することができる。好ましい添加剤は、結合剤、増粘剤、懸濁安定剤、消泡剤、界面活性剤およびチキソトロープ剤からなる群から選択されるフラックス添加剤から選択される。好ましい溶媒、結合剤、増粘剤およびチキソトロープ剤が以上に示されている。
【0111】
本発明で使用される分散を提供するためには、担体としての水、有機溶媒または水性有機液体を、撹拌器などの混合用手段を伴うコンテナ内に入れることができ、乾燥フラックスおよび乾燥Li塩を任意の順序でそれに添加し、同時にまたは連続的に分散させることができる。あるいは、添加剤を含む組成物として、例えば後で担体に添加される結合剤、増粘剤、懸濁安定剤、消泡剤、界面活性剤およびチキソトロープ剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤とフラックスとを含む組成物として、担体に対してフラックスを添加することができる。所望される場合、フラックス組成物自体が溶媒中で分散を構成してもよい。Li塩は乾燥形態でまたは溶媒中の分散として添加されてもよい。さらに別の変形形態によると、フラックスは分散の形で提供され、Li塩はこの分散に添加される。分散は、所望される任意の方法で、例えば部品にそれを塗装することによって、部品の浸漬によって、または部品に噴霧することによって、部品に適用される。
【0112】
添加されるリチウム塩の量は、分散の乾燥重量に基づく分散中のLiの含有量が0.1重量%以上でかつ4.6重量%以下となるようなものである。
【0113】
同様に本発明においては、特に担体として水および有機溶媒の混合物中に分散されたフラックス組成物または水性フラックス組成物が適用される場合、その水溶性が低いことを理由として、LiFおよびLiAlFが好ましいLi塩である。
【0114】
分散の乾燥重量に基づいて、0.1重量%のLi含有量は、約1重量%(正確には0.77重量%)のLiAlFまたは0.37重量%のLiFの含有量に対応する。好ましくは、変性フラックス中のLiの含有量は、0.13重量%以上である。
【0115】
Liの含有量は非常に高いものであり得る。一般に、変性フラックス中のLiの含有量は、4.6重量%以下である。これは、調製された分散中約36重量%のLiAlFまたは17.5重量%のLiFの含有量に対応する。乾燥べースで64重量%の残分は、ベースフラックスにより構成される。好ましくは、Li含有量は、1.3重量%以下である。これは、フラックス中、乾燥ベースで約10重量%のLiAlFまたは約5重量%のLiFの含有量に対応する。より好ましくは、Liの含有量は、1.3重量%未満である。最も好ましくは、乾燥重量ベースでの分散中のLiの含有量は、1.16重量%以下である。これは、約9重量%のLiAlF含有量または約4.3gのLiFに対応する。
【0116】
好ましくは、分散中のLi塩の含有量は、Li塩とフラックス中に存在するか、または前駆物質から形成されるKAlFのモル比が、LiAタイプのLi塩については0.8:1〜1.2:1、LiBタイプのLi塩については0.4:1〜0.6:1、LiCタイプのLi塩については0.25:1〜0.4:1となるものである。好ましい範囲は、LiAタイプのLi塩については0.9:1〜1.1:1、LiBタイプのLi塩については0.5:1〜0.55:1、LiCタイプのLi塩については0.3:1〜0.36:1である。「LiAタイプのLi塩」という用語は、一価のアニオンAを伴うLi塩、例えばLiF、LiClまたは酢酸Liを意味する。「LiBタイプのLi塩」という用語は、二価のアニオンB2−を伴うLi塩、例えばLiSO、LiCOまたはシュウ酸リチウムを意味する。「LiCタイプのLi塩」という用語は、三価のアニオンC3−を伴うLi塩を意味する。しかしながら化合物LiAlFについては、比率は異なる。その理由は以上で記されており、4KAlF+LiAlF→2KAlFおよび3KLiAlFという反応方程式によって説明することができる。
【0117】
したがって、分散中、LiAlFとフラックス中に存在するか、またはろう付け中に形成されたKAlFの好ましいモル比は0.2:1〜0.3:1、好ましくは0.22:1〜0.28:1である。
【0118】
Li塩と存在するまたは形成されたKAlFの特に好ましいモル比は、LiAタイプのLi塩については1:1〜1.1:1、LiBタイプのLi塩については0.5:1〜0.55:1、LiCタイプのLi塩については0.33:1〜0.36:1、そしてLiAlFについては0.25:1〜0.275:1である。好ましくは、ベースフラックス中のKAlFの含有量は、好ましくは2重量%以下、より好ましくは0重量%を含め1重量%以下である。この含有量は、乾燥重量ベースで分散について計算される。したがって、変性フラックス中のKAlFの含有量は、同程度のものである。実際にはそれは、Li塩が変性フラックス中に含まれていることから、わずかに低いものである。多くの場合、変性フラックス中のKAlFの含有量は、添加されたLi塩の量に応じて、好ましくは1.99重量%以下、さらには1.82重量%以下である。
【0119】
表1、2および3は、専門家が本発明を理解し、添加すべきLi塩の量を示す欄にしたがって自らがどれだけのLi塩を添加すべきかを認識するのを助けるものである。ただし、本発明に関して表1、2および3の範囲は好ましい実施形態を意味しているということを指摘しておかなくてはならない。
【0120】
好ましくは、100gのKAlFにつき10.5g〜15.5gのLiFまたは16.2g〜24.3gのLiAlF、特に好ましくは100gのKAlFにつき11.7g〜14.3gのLiFまたは18.2g〜22.3gのLiAlFが添加される。
【0121】
フラックスがKZnFを含む場合は、100gのKZnFにつき、好ましくは4.3g〜6.5gのLiFまたは6.5g〜10gのLiAlF、特に好ましくは100gのKZnFにつき4.8g〜6gのLiFまたは7.3g〜9.2gのLiAlFが添加される。
【0122】
したがって、専門家は、望む場合、上述の範囲により示されるものよりも多いまたは少ないLiを適用できると考えられる。しかし比率がさらに低い場合、防食効果は所望のものよりも低くなるかもしれない。量が多くなれば、Li塩は浪費され得ると考えられる。
【0123】
例えば、本発明に係るろう付け方法を実施するためには、担体、例えば水、イソプロパノールなどの有機溶媒、または両方の混合物が、撹拌器を含む混合装置内に提供される。フラックス、例えば80重量%のKAlFと20重量%のKAlFで構成されたフラックスが担体に添加される。任意選択により、得られた組成物を撹拌することができる。その後、あるいはフラックスの添加前に、Li塩、例えばフラックス100gあたり2.5gの量のLiFまたはフラックス100gあたり4gの量のLiAlFが添加される。得られた組成物は撹拌され、得られた分散に所望の均質化レベルが達成された後、分散は、例えばろう付けすべき部品上への噴霧によるフラックス塗布のために適用され得る。部品は次に、従来の要領で、例えばCABプロセス(雰囲気制御ろう付けプロセス)においてろう付けされる。アルミニウム部品と合金を形成するのに必要とされるろう付け金属が、部品上のクラッディングとして存在し得る。
【0124】
あるいは、結合剤、例えばポリアクリレート結合剤またはポリウレタン結合剤そして水中に分散した80重量%のKAlFおよび20重量%のKAlFで構成されたフラックスを含むフラックス組成物を適用することができる。組成物中のフラックスの量は、例えば30重量%である。分散は、撹拌機を含む混合装置内に提供される。分散中に含まれるフラックス100gあたり、例えば2.5gのLiFまたは4gのLiAlFの量で、撹拌された分散に対しLiFまたはLiAlFが添加される。
【0125】
さらに別の変形形態では、混合装置内の担体、例えば水に対し任意選択により撹拌しながら、80重量%のKAlFと20重量%のKAlFおよび結合剤、例えばポリアクリレートまたはポリウレタンで構成されたフラックスを含む組成物が添加される。その後またはその前に、組成物中に含まれたフラックス100gあたり、例えば2.5gのLiFまたは4gのLiAlFの量で、撹拌された分散に対してLiFまたはLiAlFが添加される。形成された分散は、所望の均質度が達成されるまで撹拌される。次にアルミニウム部品のろう付けが以上で記述された通りに実施される。
【0126】
本発明の別の態様は、本発明の変性フラックスを用いてアルミニウム部品をろう付けすることによって生産される、ろう付けアルミニウム部品に関する。ろう付けされた部品は、ろう付け残渣中に有意な含有量のLiカチオンを有し、長期間にわたり水または冷却水と接触させられた場合でも低い腐食性を示す。
【0127】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するように意図されているが、それを限定する意図はない。
【実施例】
【0128】
乾式法の一般的手順:ベースフラックスをLi含有化合物および、所望されるあらゆる他の添加剤と混合する。
【0129】
湿式法の一般的手順:フラックスは、水中へのその沈澱によりカリウム、リチウム、アルミニウムおよびフッ素そして任意選択により他の化合物、例えばセシウム化合物を含む出発材料から調製される。
【0130】
実施例1:ベースフラックスとしてのフルオロ亜鉛酸カリウムとその使用
1.1 フラックスの調製
KZnF(Solvay Fluor GmbH,Hannover,GermanyからNocolok(登録商標)Zn Fluxとして入手可能)をLiAlFと混合する。フラックス100gあたり9gのLiAlFを添加して、8.3gのLi塩を含む変性フラックスを得る。
【0131】
1.2 ろう付けのためのフラックスの使用
実施例1.1の変性フラックスを、溶媒としての水および結合剤としての水溶性ポリウレタンと混合し、分散中の変性フラックスの含有量が約25重量%となるようにし、得られた分散を、ろう付け金属でクラッディングされたアルミニウム管に噴霧する。その後管を乾燥させ、フラックスでコーティングされた管を得る。次に管とアルミニウム製フィンを組立てて、それらを好ましくはオーブン内で不活性ガス下で最高600℃まで加熱することにより、公知の要領でろう付けする。
【0132】
1.3 ベースフラックスとリチウム塩の別個の添加
撹拌器が具備されたタンク内の水に対し、撹拌しながらKZnF(Solvay Fluor GmbH,Hannover,GermanyからNocolok(登録商標)Zn Fluxとして入手可能)を添加する。撹拌しながら、ベースフラックスを含む水にポリウレタン結合剤とLiFを添加する。フラックス100gにつき5.5gのLiFを添加して、5.2gのLi塩を含む組成物を得る。
【0133】
1.4 ろう付けのためのフラックスの使用
実施例1.3の組成を、ろう付け金属でクラッディングされたアルミニウム管に噴霧する。その後管を乾燥させ、フラックスでコーティングされた管を得る。次に管とアルミニウム製フィンを組立て、それを好ましくはオーブン内で不活性ガス下で最高600℃まで加熱することによって、公知の要領でろう付けする。
【0134】
1.5 腐食試験
ろう付け中、Znコーティングを管上に被着させる。このZnコーティングの耐食性は比較的低い。
【0135】
実施例2:ベースフラックスとしてのフルオロアルミン酸カリウム/Siフラックス
2.1 変性フラックスの調製
KAlFとKAlFの重量比が4:1である、ろう付け金属前駆物質としてSi粉末を含むフルオロアルミン酸カリウム(Solvay Fluor GmbH,Hannover,GermanyからSi含有量が33重量%のNocolok(登録商標)として入手可能)を、フルオロアルミン酸カリウムフラックス100gにつき4gのLiAlFと混合して、3.8重量%のLiAlFを含む変性フラックスを得る。
【0136】
2.2 変性フラックスの適用
水中のポリウレタン分散(ポリウレタンの含有量は水とポリウレタンの合計の約2重量%)中に分散させた実施例2.1の組成物を、ろう付け金属でクラッディングされたアルミニウム管上に噴霧する。その後管を乾燥させ、変性フラックスと結合剤でコーティングされた管を得る。次に管とアルミニウム製フィンを組立て、それらを好ましくはオーブン内で不活性ガス下で最高600℃まで加熱することにより、公知の要領でろう付けする。
【0137】
実施例3:ベースフラックスとしてのセシウム含有フラックス
3.1 フラックス組成物の調製
Solvay Fluor GmbH,Hannover,GermanyからNocolok(登録商標)Csフラックスとして入手可能で、K:Csの原子比が98:2であり、KAlFとKAlFの重量比が4:1であり、フルオロアルミン酸セシウムを含むフルオロアルミン酸カリウムフラックスを、4.6gのLiAlFと混合して、4.4gのLi塩を含むフラックスを得る。分散中の変性フラックスの含有量が約25重量%となるように、水とポリウレタン結合剤を添加する。
【0138】
3.2 フラックス組成物を用いたろう付け
実施例3.1の分散中に、0.5重量%のマグネシウムを伴うアルミニウム合金の部品を浸漬し、約600℃の温度でろう付けする。
【0139】
実施例4:乾式フラックス塗布用のフルオロアルミン酸カリウム系フラックス
図11の曲線の範囲内にある粒径分布または米国特許第6,733,598号明細書の表B中に示されている通りの粒径分布を有する乾式フラックス塗布用のフルオロアルミン酸カリウムフラックスを使用する。このフラックスは、Solvay Fluor GmbH,GermanyからNocolok(登録商標)Dryfluxという商標名で入手可能である。
【0140】
4.1 アルミニウムのろう不含のろう付け用フラックス
フルオロアルミン酸カリウム乾式フラックスを、総フラックス中のSiの含有量が約30重量%となるように、Si粉末およびLiAlFと混合する。フルオロアルミン酸カリウム100gにつき、4.4gのLiAlFを添加する。静電スプレーシステムによりアルミニウム管に変性フラックスを適用し、この管を、コーティング後に公知の要領でろう付けする。
【0141】
4.2 より高いMg含有量を有するアルミニウム部品のろう不含のろう付け用フラックス
実施例4.1のフラックスをテトラフルオロアルミン酸セシウムと混合して、得られたフラックス混合物中でK:Csの原子比が約98:2となるようにする。その後、得られたフラックスを、約0.3重量%のマグネシウムを含むアルミニウム合金で作られたクラッディングされていない管に適用する。次に、部品を組立て、それらを約600℃まで加熱することによって、公知の要領で、コーティング済み管のろう付けを実施する。
【0142】
実施例5:KAlF・HOが多いフラックス
5.1 ベースフラックスの調製
米国特許第4,579,605号明細書の実施例19に記載されている通りにフルオロアルミン酸カリウムフラックスを生成する。40重量%のHFを伴うフッ化水素酸、25重量%のKOH、およびAl(OH)含有量を伴うカリウム苛性アルカリ溶液を、Al:F:K=1:4:1.5の原料モル比で反応させた。Al(OH)をフッ化水素酸に添加し、その中で溶解させる。その後、カリウム苛性アルカリ溶液を添加する。反応混合物を60℃に保つ。得られたベースフラックス組成物は、40重量%のKAlF・HOと60重量%のKAlFとを含む。
【0143】
5.2 7重量%のLiAlFを含む変性フラックス
実施例5.1の変性フラックス250gとLiAlF約19gとを完全に混合する。得られたフラックスは、37重量%のKAlF・HO、56重量%のKAlFおよび7重量%のLiAlFを含む。
【0144】
実施例6:脱水KAlFが多いフラックス
6.1 脱水KAlFの調製
20重量%のHFを含むフッ化水素酸中にAl(OH)を溶解させ、得られたフルオロアルミニウム酸と、30℃で25重量%のKOH含有量を有するカリウム苛性アルカリ溶液(Al:F:K=1:4:1のモル比)とを反応させることにより、米国特許第4,579,605号明細書の実施例7に記述されている通りに、98.5重量%のKAlF・HOと1.5重量%のKAlFとを含む組成物を生成する。得られる粗生成物を570℃の乾燥機内で、滞留時間を0.5秒として乾燥させる。得られる生成物は、最少量のKAlFを含む不可逆的に脱水されたKAlFである。
【0145】
6.2 ベースフラックスの調製
約20重量%のKAlFを含み100重量%までの残部がKAlFである100gのNocolok(登録商標)フラックス(Solvay Fluor GmbHから入手可能)を、実施例6.1の脱水KAlF19gと混合する。得られたベースフラックスは、約32.5重量%のKAlFおよび67.5重量%のKAlFを含む。
【0146】
6.3 KAlFを含む変性フラックスの調製
実施例6.2のベースフラックス100gとLiAlF6.4gとを完全に混合する。得られたフラックスは、6重量%のLiAlF、約30.5重量%のKAlFおよび63.5重量%のKAlFを含む。
【0147】
実施例7:KAlFが多いフラックスでのろう付け
7.1 実施例5.2のフラックスを用いたろう付け
典型的に管とフィンで構成されている10cm・10cm前後の寸法を有する熱交換器の区分を組立てる。乾燥粉末状の変性フラックスとイソプロパノール(分散中およそ25重量%の変性フラックス)からなるスラリー中にこれらの区分を浸漬させることで、実施例5.2のフラックスをこれらの区分に適用する。(乾燥の後)フラックス負荷の前後に供試体を秤量し、こうして表面積は公知であることからフラックスの負荷が計算される。フラックス負荷の平均値は、約6g/mとなる。
【0148】
供試体を、窒素雰囲気下で工業炉内での標準的なCAB(制御雰囲気ろう付け)を用いてろう付けする。得られたろう付け済みアセンブリは、改善された耐食性を有する。
【0149】
実施例8:低融点ベースフラックスを伴うLi含有フラックス
適用されるベースフラックスはNocolok(登録商標)LMである(ここでLMは低融点を意味する)。このフラックスは、Solvay Fluor GmbH、Hannover、Germanyから入手可能である。ベースフラックスは(KAlFOからの結晶水のLOHに基づいて計算された)40重量%前後のKAlFを含んでいた。
【0150】
変性フラックス:11部分のベースフラックスを1部分のLiAlFと機械的に混合する。変性フラックスを用いて8g/mのフラックス負荷で、アングルオンクーポン(Angle−on−coupon)供試体(2.5×2.5cm)をろう付けする。
【0151】
ろう付けした供試体を20mlの脱イオン水中に入れる(浸水試験)。
【0152】
15日間浸漬した(酸素交換のため容器をほぼ毎日開放する)後、変性フラックスでろう付けしたアセンブリの水相が透明度を保つことがわかる。一般的なNocolok(登録商標)LMでろう付けした供試体は、腐食を表わす沈殿した材料の曇りを示す。
【0153】
実施例9:変性フラックス分散の現場内調製
撹拌された水の中に、結合剤とLiFを提供する。撹拌された分散に対し、次に、KAlFとKAlFで構成されたフラックスを添加するが、ここでKAlFとKAlFの重量比は4:1である。このフラックスは、Solvay Fluor GmbH、Hannover、GermanyからNocolok(登録商標)Fluxとして入手可能である。フラックスを、LiF2.5gあたり100gの量で添加する。
【0154】
アルミニウム部品上に得られた分散を噴霧する。その後、部品を組立て、ろう付け用オーブン内に入れ、約610℃まで加熱し、こうしてろう付けする。
【0155】
実施例10:高いLiF含有量を有する変性フラックス分散の現場内調製
実施例9を反復する。今度はLiF2.5gあたり30gのフラックスを添加する。分散中のLiFの濃度は、相応して実施例10の場合よりはるかに高いものである。部品はろう付けされるが、一部の未反応LiFがろう付け残渣中に残留する。
【0156】
実施例11:浸水試験
KAlF(77.6重量%)、KAlF(19.4重量%)およびLiAlF(3重量%)で構成された変性フラックスを用いてろう付けされた部品を、10日間水と接触させる。明らかに、ろう付けフラックス残渣の一部分が浸出し沈殿物を形成する。約80重量%のKAlFと約20重量%のKAlFからなるフラックスであるNocolok(登録商標)およびLi変性フラックスでろう付けされた供試体の液体および沈殿物を分析することによって、浸出したFの量がNocolok(登録商標)でろう付けされた試料について5倍さらにはそれ以上も高く、Kの量は有意に高く(100%さらにはそれ以上の範囲で)、かつAl3+の含有量は約6倍さらにはそれ以上に高いことが明らかになる。フラックスが湿式プロセス(接合すべきアルミニウム部品をイソプロパノール中のフラックスの懸濁液に浸すことによる)で適用される場合、フラックスが乾燥粉末として適用される場合よりもさらに一層効果が明白である。Nocolok(登録商標)の場合には低いppm範囲内のZnカチオンが同定できるのに対し、変性フラックスについてはZn2+が一切発見されないという点は、特に注目に値する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムろう付け用の変性フラックスであって、KAlFまたはろう付け中にKAlFを形成するその前駆物質を含むベースフラックスと、ろう付け中にKAlFの全量をKLiAlFに転換するために化学量論的に必要とされる量の80%〜120%に相当する量のLi塩とを含む変性フラックス。
【請求項2】
前記ベースフラックスがKAlF、KAlFとKAlFとの混合物、セシウムカチオンを含むKAlFとKAlFとを含むフラックス、KSiF、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の変性フラックス。
【請求項3】
前記Li塩がLiFとLiAlFとからなる群から選択される、請求項1に記載の変性フラックス。
【請求項4】
2重量%以下のKAlFを含む、請求項1に記載の変性フラックス。
【請求項5】
前記Li塩と、前記フラックス中に存在するか、またはろう付け中に前記前駆物質から形成されるKAlFとのモル比が、LiAタイプのLi塩については0.8:1〜1.2:1、LiBタイプのLi塩については0.4:1〜0.6:1、そしてLiCタイプのLi塩については0.25:1〜0.4:1であり、ここでAは一塩基性アニオンを表わし、Bは二塩基性アニオンを表わし、CはアニオンAlF−3を除く三塩基性アニオンを表わす、請求項1に記載の変性フラックス。
【請求項6】
LiAlFと、前記フラックス中に存在するか、またはろう付け中に前記前駆物質から形成されるKAlFとのモル比が0.2:1〜0.3:1である、Li塩としてLiAlFを含む、請求項1に記載の変性フラックス。
【請求項7】
AlFを含み、KAlF100gあたり10.5g〜15.5gのLiFまたは16.2g〜24.3gのLiAlFを含む、請求項1に記載の変性フラックス。
【請求項8】
AlF100gあたり11.7g〜14.3gのLiFまたは18.2g〜22.3gのLiAlFを含む、請求項7に記載の変性フラックス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の変性フラックスと、ケイ素、溶媒、結合剤、増粘剤、懸濁安定剤、消泡剤、界面活性剤およびチキソトロープ剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤とを含むフラックス組成物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のフラックスまたは請求項9に記載のフラックス組成物で少なくとも部分的にコーティングされた、ろう付け用アルミニウム部品。
【請求項11】
アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品をろう付けする方法であって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の変性フラックスまたは請求項9に記載のフラックス組成物が、ろう付けすべき部品の少なくとも1つの上にコーティングされ、前記部品はそれらをろう付けするのに充分高い温度まで加熱される、方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のフラックスまたは請求項9に記載のフラックス組成物を用いてろう付けすることによって得られる、ろう付けされたアルミニウム部品。
【請求項13】
アルミニウム部品をろう付けするための方法であって、KAlFを含むか、またはアルミニウムのろう付けのための前記ろう付け方法中にKAlFを形成するKAlFの前駆物質を含むフラックスと、低い水溶性を有するリチウム塩とが、水および水と有機溶媒との混合物から選択される担体中に互いに別個に分散させられて、前記フラックスと前記リチウム塩を含む分散を形成し、少なくとも1つの部品が少なくとも部分的に分散でコーティングされろう付けされる、方法。
【請求項14】
前記リチウム塩が、LiFおよびLiAlFからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記フラックスが、KAlF、KAlF・HO、それらの混合物、およびKAlFと混和されたKAlFおよび/またはKAlF・HOを含むか、またはこれらで構成されたフラックスから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記フラックスが、前記変性フラックスと添加剤とをさらに含むフラックス組成物の形で適用される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記添加剤が、溶媒、結合剤、増粘剤、懸濁安定剤、消泡剤、界面活性剤およびチキソトロープ剤からなる群から選択されるフラックス添加剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
添加するリチウム塩の量は、分散中のLiの含有量が、乾燥重量に基づいて0.1重量%以上かつ4.6重量%以下となるようなものである、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2013−518729(P2013−518729A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552265(P2012−552265)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051626
【国際公開番号】WO2011/098120
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(592165314)ゾルファイ フルーオル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【氏名又は名称原語表記】Solvay Fluor GmbH
【住所又は居所原語表記】Hans−Boeckler−Allee 20,D−30173 Hannover,Germany