説明

不燃メラミン化粧板

【課題】マグネシアセメント板に塗布された酸成分の経時安定性に優れ、マグネシアセメント板に対するメラミン樹脂含浸紙の密着性が安定し、優れた不燃性能を発揮することができる不燃メラミン化粧板を提供する。
【解決手段】不燃メラミン化粧板は、マグネシアセメント板の表裏両面に、加熱により酸を生成する潜伏性酸成分を塗布して被覆マグネシアセメント板を調製し、該被覆マグネシアセメント板の表裏両面に少なくともメラミン樹脂含浸紙を積層し、熱圧成形してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不燃メラミン化粧板に関し、特には室内の壁、天井などに使用され、メラミン樹脂やフェノール樹脂の硬化を阻害せず、基材との密着性に優れた不燃メラミン化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
不燃化粧板の基材となる、珪酸カルシウム板、マグネシアセメント板等のセメント系無機板材は不燃性能に優れているが、そのセメント系無機板材の性質がアルカリ性であることからその上に積層されるメラミン樹脂、フェノール樹脂などの硬化を阻害し、マグネシアセメント板との密着性が悪いという問題があった。このような問題を解決するために、例えば特許文献1に示される無機化粧板の製造法が提案されている。
【0003】
すなわち、この特許文献1に開示されている無機化粧板の製造法では、セメント系無機板材の表面を無機酸あるいは有機酸にて中性化処理し、さらにシーラー処理を行うかあるいは行わないでメラミン樹脂が含浸された含浸紙を用い、熱圧直貼りするものである。この特許文献1に開示されている製造法によれば、セメント系無機板材の表面を無機酸又は有機酸で中性又は弱酸性化することにより、セメント系無機板材中に浸透したメラミン樹脂を十分に硬化させ、強固な接着力を発揮させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−13417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来構成では、セメント系無機板材の表面に無機酸又は有機酸で中性化処理した後、熱圧処理するまでの間にセメント系無機板材からアルカリ成分が表面にブリードアウトし、一旦中性化された表面が経時的にアルカリ性に戻る傾向が強い。その場合には、メラミン樹脂含浸紙中のメラミン樹脂の硬化が阻害され、セメント系無機板材に対するメラミン樹脂含浸紙の密着性が低下するという問題や、均一な接着強度が得られないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、マグネシアセメント板に塗布された酸成分の経時安定性に優れ、メラミン樹脂の硬化が阻害されることなく、マグネシアセメント板に対するメラミン樹脂含浸紙の密着性が安定し、優れた不燃性能を発揮することができる不燃メラミン化粧板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の不燃メラミン化粧板は、マグネシアセメント板の表裏両面に、加熱により酸を生成する潜伏性酸成分を塗布して被覆マグネシアセメント板を調製し、該被覆マグネシアセメント板の表裏両面に少なくともメラミン樹脂含浸紙を積層し、熱圧成形してなることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明の不燃メラミン化粧板は、請求項1に係る発明において、前記被覆マグネシアセメント板の表裏両面にフェノール樹脂含浸紙を介してメラミン樹脂含浸紙を積層し、熱圧成形してなることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明の不燃メラミン化粧板は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記潜伏性酸成分は、熱解離によって酸を生成する熱解離型又は熱分解によって酸を生成する熱分解型のものであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明の不燃メラミン化粧板は、請求項3に係る発明において、前記熱解離型の潜伏性酸成分は、強酸と弱塩基との塩類であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明の不燃メラミン化粧板は、請求項3に係る発明において、前記熱分解型の潜伏性酸成分は、イミドジスルホン酸塩であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の不燃メラミン化粧板は、マグネシアセメント板の表裏両面に、加熱により酸を生成する潜伏性酸成分を塗布して被覆マグネシアセメント板を調製し、該被覆マグネシアセメント板の表裏両面に少なくともメラミン樹脂含浸紙を積層し、熱圧成形してなるものである。潜伏性酸成分は加熱により酸を生成するものであることから、マグネシアセメント板の表裏両面に塗布されてから加熱されるまでの間は安定に存在することができる。
【0012】
そして、マグネシアセメント板の表裏両面に塗布された潜伏性酸成分は、被覆マグネシアセメント板の表裏両面にメラミン樹脂含浸紙が積層されて加熱されたときに酸を生成する。生成した酸はマグネシアセメント板中のアルカリ成分と中和反応を行い、その状態で加熱されてメラミン樹脂含浸紙中のメラミン樹脂が硬化し、マグネシアセメント板に強固に熱圧接合される。
【0013】
従って、本発明の不燃化粧板によれば、マグネシアセメント板に塗布された酸成分の経時安定性に優れ、メラミン樹脂の硬化が阻害されることなく、マグネシアセメント板に対するメラミン樹脂含浸紙の密着性が安定し、優れた不燃性能を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の不燃メラミン化粧板は、マグネシアセメント板の表裏両面に、加熱により酸を生成する潜伏性酸成分を塗布して被覆マグネシアセメント板を調製し、該被覆マグネシアセメント板の表裏両面に少なくともメラミン樹脂含浸紙を積層し、熱圧成形してなるものである。この不燃メラミン化粧板においては、熱圧成形時に潜伏性酸成分から酸成分が生成し、その酸成分がマグネシアセメント板から発生するアルカリ成分と中和反応を行う。その状態で、メラミン樹脂含浸紙のメラミン樹脂がマグネシアセメント板に浸透し、そこで硬化反応が進行して、マグネシアセメント板に対するメラミン樹脂含浸紙の接着力が発現される。従って、不燃メラミン化粧板は、マグネシアセメント板に基づく不燃性能を発揮しつつ、該マグネシアセメント板に対してメラミン樹脂含浸紙の密着性が良く、表面の化粧性を維持することができる。
【0015】
被覆マグネシアセメント板の表裏両面には、フェノール樹脂含浸紙を介してメラミン樹脂含浸紙を積層することが好ましい。この場合には、不燃メラミン化粧板の耐熱性、耐クラック性、耐衝撃性等を高めることができると同時に、マグネシアセメント板に対するメラミン樹脂含浸紙の密着性を向上させることができる。
【0016】
次に、基材となる前記マグネシアセメント板について説明する。
このマグネシアセメント板は、酸化マグネシウム(MgO)と塩化マグネシウム(MgCl)を混合し、さらに骨材と水を加えて混練し、板状に成形されたものである。骨材としては、ロックウール、グラスウール等の無機質繊維、ウッドチップ、パルプ等の有機質繊維が用いられる。また、マグネシアセメント板の強度を高めるため、中間層として網目状等に形成されたガラス繊維層を設けることが好ましい。ガラス繊維層の坪量は、50〜90g/mが好ましい。ガラス繊維層の坪量が50g/mを下回る場合には、マグネシアセメント板の強度が低下する傾向を示して好ましくない。その一方、ガラス繊維層の坪量が90g/mを上回る場合には、マグネシアセメント板の作製が難しくなり、好ましくない。
【0017】
このマグネシアセメント板は気硬性セメント板であり、下記に示すような酸化マグネシウムと塩化マグネシウムの硬化反応(水和反応)が進行する。
3MgO+MgCl+15HO → 3MgO・MgCl・15H
5MgO+MgCl+15HO → 5MgO・MgCl・15H
次いで、マグネシアセメント板に塗布される潜伏性酸成分について説明する。
【0018】
この潜伏性酸成分は加熱により酸を生成する成分であり、加熱により熱解離して酸を生成する熱解離型のもの、加熱により熱分解して酸を生成する熱分解型のものなどがある。熱解離型の潜伏性酸成分は強酸と弱塩基との塩類が好ましく、強酸としてはスルファミン酸、塩酸等が挙げられ、弱塩基としてはアンモニア、アミン等が挙げられる。具体的にはスルファミン酸アンモニウム(NHSONH)、2−アミノ−2−メチルプロパノール塩酸塩〔HO(CH)(CHNH・HCl〕、2−アミノ−2−メチルプロパノールスルファミン酸塩〔HO(CH)(CHNH・HSONH〕、塩化アンモニウム(NHCl)等が挙げられる。例えば、スルファミン酸アンモニウムの場合には、加熱により次式に示すように解離してスルファミン酸(NHSOH)を生成する。
【0019】
NHSONH → NHSOH+NH
また、2−アミノ−2−メチルプロパノール塩酸塩は、加熱により次式のように解離して塩酸を生成する。
【0020】
HO(CH)(CHNH・HCl → HO(CH)(CHNH+HCl
一方、熱分解型の潜伏性酸成分として具体的には、無水フタル酸〔C(CO)O〕、イミドジスルホン酸2−アンモニウム〔HN(SONH〕、2−アミノ−2−メチルプロパノール・イミドジスルホン酸アンモニウム塩〔(HO(CH)(CHNH・HSONH〕、過酢酸、シュウ酸ジメチル等が挙げられる。この熱分解型の潜伏性酸成分としては、熱分解性などの点からイミドジスルホン酸塩が好ましい。
【0021】
例えば、無水フタル酸の場合には、加熱により次式に示すように加水分解してフタル酸〔C(COOH)〕を生成する。
(CO)O+HO → C(COOH)
潜伏性酸成分は例えば水溶液として調製されるが、その水溶液中の潜伏性酸成分の濃度は25〜60質量%であることが望ましく、塗布量は固形分で7〜30g/mであることが望ましい。潜伏性酸成分の塗布量が固形分で7g/mより少ない場合、マグネシアセメント板から生成するアルカリ成分の中和が不十分でアルカリ性が強くなり、メラミン樹脂の硬化反応が阻害されて好ましくない。一方、潜伏性酸成分の塗布量が固形分で30g/mより多い場合、酸性が強くなってメラミン樹脂の硬化反応が進み過ぎ、マグネシアセメント板に対するメラミン樹脂含浸紙の密着性が低下する。この潜伏性酸成分に基づく中和反応で、pH5〜8の中性領域に設定することが好ましい。また、潜伏性酸成分水溶液の塗布方法としては、ロールコータによる方法、スプレー噴霧による方法等が好ましい。
【0022】
続いて、フェノール樹脂含浸紙について説明する。
フェノール樹脂含浸紙は、コア紙にフェノール樹脂を所定の含浸率で含浸させた後、加熱、乾燥させることにより調製される。コア紙としては、例えば水酸化アルミニウム抄造紙が用いられる。コア紙の坪量は、コア紙の厚みや重さを考慮して100〜160g/mであることが好ましい。フェノール樹脂の含浸率は、含浸されるフェノール樹脂の機能を十分に発現するために20〜40質量%であることが好適である。加熱、乾燥の温度は、コア紙にフェノール樹脂を強固に固着させるために100〜140℃に設定することが望ましい。
【0023】
次いで、メラミン樹脂含浸紙について説明する。
メラミン樹脂含浸紙は、パターン紙にメラミン樹脂を所定の含浸率で含浸させた後、加熱、乾燥させることにより調製される。パターン紙としては、例えばチタン紙が用いられる。パターン紙の坪量は、パターン紙の厚みや重さを考慮して80〜150g/mであることが好ましい。メラミン樹脂の含浸率は、含浸されるメラミン樹脂の機能を十分に発現するために70〜120質量%であることが好適である。加熱、乾燥の温度は、パターン紙にメラミン樹脂を強固に固着させるために100〜140℃に設定することが望ましい。
【0024】
なお、フェノール樹脂含浸紙及びメラミン樹脂含浸紙における含浸率は、次式で求められる。
含浸率(%)=〔(含浸後の含浸紙の質量)−(含浸前の原紙の質量)〕×100/(含浸前の原紙の質量)
次に、不燃メラミン化粧板の製造方法について説明する。
【0025】
不燃メラミン化粧板は、マグネシアセメント板の表裏両面に潜伏性酸成分を塗布する塗布工程と、前記潜伏性酸成分が塗布された被覆マグネシアセメント板の表裏両面に少なくともメラミン樹脂含浸紙を積層する積層工程と、前記メラミン樹脂含浸紙が表裏両面に積層されたマグネシアセメント板を熱圧成形する熱圧成形工程とを経て製造される。塗布工程では、潜伏性酸成分を所定濃度で含有する水溶液をマグネシアセメント板の表裏両面に同一条件にて所望の塗布量となるように塗布する。潜伏性酸成分の塗布量は、マグネシアセメント板からブリードアウトするアルカリ成分を中和してpHが中性領域を示すように設定される。積層工程では、例えば下から順に、前記メラミン樹脂含浸紙、フェノール樹脂含浸紙、潜伏性酸成分を塗布した被覆マグネシアセメント板、フェノール樹脂含浸紙及びメラミン樹脂含浸紙を積層する。熱圧成形工程では、この積層物を熱圧プレス装置で加熱、加圧成形する。
【0026】
加熱条件は不燃メラミン化粧板の温度が125〜150℃、加圧条件は1.96〜9.80MPa(20〜100kg/cm)であることが好ましい。温度が125℃未満又は圧力が1.98MPa未満の場合には、マグネシアセメント板に対するフェノール樹脂含浸紙及びメラミン樹脂含浸紙の密着性が不足し、剥離が発生し易くなる。一方、温度が150℃を超える場合又は圧力が9.80MPaを超える場合には、マグネシアセメント板に大きな力が作用するため、亀裂が発生するおそれがある。
【0027】
上記のように構成された不燃メラミン化粧板の作用について説明する。
さて、不燃メラミン化粧板を調製する場合には、まずマグネシアセメント板の表裏両面に潜伏性酸成分の水溶液を塗布して被覆マグネシアセメント板を作製する。得られた被覆マグネシアセメント板表面の潜伏性酸成分は、常温では酸を生成することなく安定に存在できるため、その状態で長期間(例えば数ヶ月)放置することができる。
【0028】
その後、不燃メラミン化粧板を調製するときには、被覆マグネシアセメント板の両面にメラミン樹脂含浸紙を積層し、加熱、加圧成形を行う。このとき、被覆マグネシアセメント板表面の潜伏性酸成分は解離ないし分解して酸を生成し、マグネシアセメント板から染み出す(ブリードアウトする)アルカリ成分と中和反応を行う。そのため、メラミン樹脂含浸紙中のメラミン樹脂はその硬化がアルカリ成分に阻害されることなく行われ、被覆マグネシアセメント板に良好に熱圧接合され、不燃メラミン化粧板が得られる。
【0029】
得られた不燃メラミン化粧板は、その表裏両面に対称的にメラミン樹脂含浸紙が積層されていることから、反りの発生が抑制され、平坦性に優れた化粧板となる。
以上の実施形態により発揮される効果を以下にまとめて説明する。
(1)本実施形態における不燃メラミン化粧板では、マグネシアセメント板の表裏両面に塗布された潜伏性酸成分が加熱により酸を生成するものであることから、マグネシアセメント板の表裏両面に塗布されてから加熱されるまでの間は安定に存在することができる。そして、その潜伏性酸成分は、被覆マグネシアセメント板の表裏両面にメラミン樹脂含浸紙が積層されて加熱されたときに酸を生成し、その酸がマグネシアセメント板中のアルカリ成分と中和反応を行い、その状態でメラミン樹脂が硬化し、メラミン樹脂含浸紙がマグネシアセメント板に強固に熱圧接合される。
【0030】
従って、本実施形態の不燃メラミン化粧板によれば、マグネシアセメント板に塗布された酸成分の経時安定性に優れ、メラミン樹脂の硬化が阻害されることなく、マグネシアセメント板に対するメラミン樹脂含浸紙の密着性が安定し、優れた不燃性能を発揮することができる。
(2)前記被覆マグネシアセメント板の表裏両面にフェノール樹脂含浸紙を介してメラミン樹脂含浸紙を積層し、熱圧成形することにより、不燃メラミン化粧板の耐熱性、耐クラック性、耐衝撃性及び密着性等を一層向上させることができる。
(3)前記潜伏性酸成分は、熱解離によって酸を生成する熱解離型又は熱分解によって酸を生成する熱分解型のものである。このため、潜伏性酸成分が塗布された被覆マグネシアセメント板にメラミン樹脂含浸紙を積層して加熱したとき、潜伏性酸成分は容易に熱解離又は熱分解して酸を生成し、マグネシアセメント板中のアルカリ成分との中和反応を速やかに進行させることができる。
(4)前記熱解離型の潜伏性酸成分が強酸と弱塩基との塩類であることにより、加熱により容易に解離して酸を生成させることができる。
(5)前記熱分解型の潜伏性酸成分がイミドジスルホン酸塩であることにより、高温で容易に加水分解して酸を生成させることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
(マグネシアセメント板の調製)
常法に従い、酸化マグネシウム(MgO)と塩化マグネシウム(MgCl)とを混合し、骨材としてウッドチップの有機質繊維と適量の水とを加えて混練し、板状に成形した。マグネシアセメント板の強度を上げるため、中間層として坪量70g/mのガラス繊維層を網目状に介在させた。
(潜伏性酸成分の塗布)
マグネシアセメント板の表裏両面に、濃度50質量%の2−アミノ−2−メチルプロパノール・スルファミン酸塩水溶液をロールコータにて固形分で20g/m塗布した。
(フェノール樹脂含浸紙の調製)
コア紙として坪量150g/mの水酸化アルミニウム抄造紙を用い、フェノール樹脂を含浸率が25質量%となるように含浸し、130℃で乾燥させてフェノール樹脂含浸紙を調製した。
(メラミン樹脂含浸紙の調製)
パターン紙として坪量80g/mのチタン紙を用い、メラミン樹脂を含浸率が110質量%となるように含浸し、130℃で乾燥させてメラミン樹脂含浸紙を調製した。
(不燃メラミン化粧板の製造)
下から順に、メラミン樹脂含浸紙、フェノール樹脂含浸紙、潜伏性酸成分を塗布した被覆マグネシアセメント板、フェノール樹脂含浸紙及びメラミン樹脂含浸紙を積層し、熱圧プレス装置で加熱、加圧成形を行い、厚さ3mmの不燃メラミン化粧板を製造した。加熱条件は、不燃メラミン化粧板の温度が135℃となるように設定した。加圧条件は、6.86MPa(70kg/cm)とした。なお、表面にはステンレス鋼板をセットしてプレス成形を実施した。
【0032】
得られた不燃メラミン化粧板について、マグネシアセメント板に対するフェノール樹脂含浸紙及びメラミン樹脂含浸紙の密着性を測定するために、碁盤目剥離試験をJIS K 5600−5−6(1999)に準拠して行った。また、浸漬剥離試験(JAS特殊合板、1類浸漬剥離試験)を農林省告示第1751号(平成20年12月2日)に基づいて行った。碁盤目剥離試験において、判断基準は下記に示す内容である。
【0033】
分類0:どの格子の目にも剥がれがない。分類1:カットの交差点で塗膜の小さな剥がれがあるが、クロスカット部分で影響を受けるのは5%を上回ることはない。分類2:カットの縁に沿って剥がれが見られ、クロスカット部分で影響を受けるのは5%を超えるが15%を上回ることはない。分類3:カットの縁に沿って部分的又は全面的に剥がれており、クロスカット部分で影響を受けるのは15%を超えるが35%を上回ることはない。分類4:カットの縁に沿って部分的又は全面的に大剥がれを生じているが、クロスカット部分で影響を受けるのは35%を上回ることはない。
【0034】
同様に、浸漬剥離試験において、判断基準は下記に示す内容である。
異常なし:目視で異常が確認できない。化粧層軽微剥離:不燃メラミン化粧板の縁端部に小さな剥がれがある。化粧層剥離あり:不燃メラミン化粧板の縁端部又は全体に35%以上の大きな剥がれがある。
【0035】
これらの碁盤目剥離試験と浸漬剥離試験の結果について、以下の基準で総合判定を行った。
○:不燃メラミン化粧板の密着性は良好であった(碁盤目剥離試験において分類0又は分類1、かつ浸漬剥離試験において異常なし)。△:不燃メラミン化粧板の密着性は概ね良好であった(○の条件を満たさず、かつ碁盤目剥離試験において分類0、分類1又は分類2、かつ浸漬剥離試験において異常なし又は化粧層軽微剥離)。×:不燃メラミン化粧板の密着性は不良であった(碁盤目剥離試験において分類3又は分類4、あるいは浸漬剥離試験において化粧層剥離あり)。
【0036】
それらの結果を表1にまとめて示した。
<実施例2>
実施例1において、潜伏性酸成分としての2−アミノ−2−メチルプロパノール・スルファミン酸塩水溶液の塗布量を10g/mに変更した以外は実施例1と同様に実施し、不燃メラミン化粧板を製造した。得られた不燃メラミン化粧板について碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験を実施例1と同様に行い、それらの結果を表1に示した。
<実施例3>
実施例1において、潜伏性酸成分としての2−アミノ−2−メチルプロパノール・スルファミン酸塩水溶液の塗布量を5g/mに変更した以外は実施例1と同様に実施し、不燃メラミン化粧板を製造した。得られた不燃メラミン化粧板について碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験を実施例1と同様に行い、それらの結果を表1に示した。
<実施例4>
実施例1において、潜伏性酸成分としての2−アミノ−2−メチルプロパノール・スルファミン酸塩水溶液の塗布量を30g/mに変更した以外は実施例1と同様に実施し、不燃メラミン化粧板を製造した。得られた不燃メラミン化粧板について碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験を実施例1と同様に行い、それらの結果を表1に示した。
<実施例5>
実施例1において、潜伏性酸成分として濃度50質量%のイミドジスルホン酸2−アンモニウム水溶液を用い、その塗布量を20g/mに変更した以外は実施例1と同様に実施し、不燃メラミン化粧板を製造した。得られた不燃メラミン化粧板について碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験を実施例1と同様に行い、それらの結果を表1に示した。
<実施例6>
実施例5において、潜伏性酸成分としてのイミドジスルホン酸2−アンモニウム水溶液の塗布量を10g/mに変更した以外は実施例5と同様に実施し、不燃メラミン化粧板を製造した。得られた不燃メラミン化粧板について碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験を実施例1と同様に行い、それらの結果を表1に示した。
<実施例7>
実施例1において、潜伏性酸成分として2−アミノ−2−メチルプロパノール・イミドジスルホン酸2−アンモニウム塩水溶液(濃度50質量%)を用い、その塗布量を20g/mに変更した以外は実施例1と同様に実施し、不燃メラミン化粧板を製造した。得られた不燃メラミン化粧板について碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験を実施例1と同様に行い、それらの結果を表1に示した。
<実施例8>
実施例7において、潜伏性酸成分としての2−アミノ−2−メチルプロパノール・イミドジスルホン酸2−アンモニウム塩水溶液の塗布量を10g/mに変更した以外は実施例7と同様に実施し、不燃メラミン化粧板を製造した。得られた不燃メラミン化粧板について碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験を実施例1と同様に行い、それらの結果を表1に示した。
<実施例9>
実施例1においてフェノール樹脂含浸紙を使用せず、それ以外は実施例1と同様に実施し、不燃メラミン化粧板を製造した。得られた不燃メラミン化粧板について碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験を実施例1と同様に行い、それらの結果を表1に示した。
<比較例1>
実施例1において、マグネシアセメント板の表裏両面に潜伏性酸成分の塗布を行わなかった以外は実施例1と同様に実施し、不燃化粧板を製造した。得られた不燃化粧板について碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験を実施例1と同様に行い、それらの結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

表1に示したように、実施例3では潜伏性酸成分の塗布量が固形分で5g/mと少なく、実施例9ではフェノール樹脂含浸紙を介在させなかったことから、碁盤目剥離試験及び浸漬剥離試験で性能の低下が見られたが、使用できるレベルである。実施例1、2及び実施例4〜8では碁盤目剥離試験、浸漬剥離試験ともに非常に良好な結果が得られ、剥離に対する耐性に優れることがわかる。
【0038】
実施例1〜4及び9では、潜伏性酸成分としての2−アミノ−2−メチルプロパノール・スルファミン酸塩は加熱により次式のように解離してスルファミン酸を生成したものと考えられる。
【0039】
HO(CH)(CHNH・HSONH → HO(CH)(CHNH+NHSO
また、実施例5及び6では、潜伏性酸成分としてのイミドジスルホン酸2−アンモニウム塩は加熱により次式のように加水分解してスルファミン酸を生成したと考えられる。
【0040】
HN(SONH+HO → NHSONH+HOSONH
NHSONH → NHSOH+NH
さらに、実施例7及び8では、潜伏性酸成分としての2−アミノ−2−メチルプロパノール・イミドジスルホン酸2−アンモニウムは加熱により次式のように加水分解してスルファミン酸を生成したと考えられる。
【0041】
(HO(CH)(CHNH・HSONH+HO → HO(CH)(CHNH・HSONH+HO(CH)(CHNH・HSO
生成した2−アミノ−2−メチルプロパノール・スルファミン酸塩は、前述した式に基づいて熱解離してスルファミン酸を生成する。
【0042】
その一方、比較例1ではマグネシアセメント板の表裏両面に潜伏性酸成分を塗布しなかった(塗布量が固形分で0g/m)ことから、碁盤目剥離試験、浸漬剥離試験ともに多くの剥離が見られ、マグネシアセメント板に対するフェノール樹脂含浸紙及びメラミン樹脂含浸紙の密着性が低下した。
【0043】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 前記メラミン樹脂含浸紙やフェノール樹脂含浸紙に水酸化アルミニウム等の難燃剤などを配合することも可能である。
【0044】
・ メラミン樹脂含浸紙として、コア紙の坪量を大きくしたり、メラミン樹脂の含浸率を高めたりすることも可能である。
・ フェノール樹脂含浸紙として、コア紙にクラフト紙等を使用したり、その坪量を大きくしたり、フェノール樹脂の含浸率を高めたりすることも可能である。
【0045】
・ メラミン樹脂含浸紙を複数枚使用し、或いはフェノール樹脂含浸紙を複数枚使用することもできる。
さらに、実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)マグネシアセメント板の表裏両面に、加熱により酸を生成する潜伏性酸成分を塗布する塗布工程と、前記潜伏性酸成分が塗布された被覆マグネシアセメント板の表裏両面に少なくともメラミン樹脂含浸紙を積層する積層工程と、前記メラミン樹脂含浸紙が表裏両面に積層されたマグネシアセメント板を熱圧成形する熱圧成形工程とを含むことを特徴とする不燃メラミン化粧板の製造方法。この製造方法によれば、マグネシアセメント板に塗布された潜伏性酸成分の経時安定性に優れ、メラミン樹脂の硬化が阻害されることなく、マグネシアセメント板に対するメラミン樹脂含浸紙の密着性が安定し、優れた不燃性能を発揮できる不燃メラミン化粧板を簡易な工程の組合せで速やかに製造することができる。
(ロ)前記積層工程は、前記被覆マグネシアセメント板の表裏両面にフェノール樹脂含浸紙を介してメラミン樹脂含浸紙を積層することを特徴とする技術的思想(イ)に記載の不燃メラミン化粧板の製造方法。この製造方法によれば、不燃メラミン化粧板の耐熱性、耐クラック性、耐衝撃性及び密着性等を一層向上させることができる。
(ハ)前記潜伏性酸成分は、熱解離によって酸を生成する熱解離型又は熱分解によって酸を生成する熱分解型のものであることを特徴とする技術的思想(イ)又は(ロ)に記載の不燃メラミン化粧板の製造方法。この製造方法によれば、潜伏性酸成分は加熱により容易に熱解離又は熱分解して酸を生成し、マグネシアセメント板中のアルカリ成分との中和反応を速やかに進行させることができる。
(ニ)前記熱解離型の潜伏性酸成分は、強酸と弱塩基との塩類であることを特徴とする技術的思想(ハ)に記載の不燃メラミン化粧板の製造方法。この製造方法によれば、潜伏性酸成分は加熱により容易に解離して酸を生成することができる。
(ホ)前記熱分解型の潜伏性酸成分は、イミドジスルホン酸塩であることを特徴とする技術的思想(ハ)に記載の不燃メラミン化粧板の製造方法。この製造方法によれば、潜伏性酸成分は高温で容易に加水分解して酸を生成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシアセメント板の表裏両面に、加熱により酸を生成する潜伏性酸成分を塗布して被覆マグネシアセメント板を調製し、該被覆マグネシアセメント板の表裏両面に少なくともメラミン樹脂含浸紙を積層し、熱圧成形してなることを特徴とする不燃メラミン化粧板。
【請求項2】
前記被覆マグネシアセメント板の表裏両面にフェノール樹脂含浸紙を介してメラミン樹脂含浸紙を積層し、熱圧成形してなることを特徴とする請求項1に記載の不燃メラミン化粧板。
【請求項3】
前記潜伏性酸成分は、熱解離によって酸を生成する熱解離型又は熱分解によって酸を生成する熱分解型のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の不燃メラミン化粧板。
【請求項4】
前記熱解離型の潜伏性酸成分は、強酸と弱塩基との塩類であることを特徴とする請求項3に記載の不燃メラミン化粧板。
【請求項5】
前記熱分解型の潜伏性酸成分は、イミドジスルホン酸塩であることを特徴とする請求項3に記載の不燃メラミン化粧板。

【公開番号】特開2012−183661(P2012−183661A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46674(P2011−46674)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(501307642)イビデン建装 株式会社 (2)
【Fターム(参考)】