説明

不燃性発熱定着ベルトとそれを用いた画像形成装置

【課題】ポリイミド樹脂を用いた発熱定着ベルトの機械的強度を損なうことなく、長期間使用した場合に起こる局部的な酸化速度の増進と、それによる発熱速度の急激な上昇で部分的に高温となり、発火に至る現象を防止した発熱定着ベルトと、それを用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】少なくともポリイミド樹脂層と、導電性物質を分散させた発熱層を有する発熱定着ベルトであって、該ポリイミド樹脂層に、難燃剤としてハロゲンを含まない有機リン系難燃剤、赤リン、無機リン酸塩あるいはホスファゼンの少なくともいずれかを含有することを特徴とする発熱定着ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真等の静電潜像現像方式によって形成された乾式トナー像を、画像支持体上に熱定着するための不燃性発熱定着ベルトと、それを用いた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やレーザービームプリンター等の画像形成装置では、トナー現像後、普通紙等の画像支持体上に転写された未定着トナー像を、熱ローラ方式で接触加熱定着する方法が多く用いられてきた。
【0003】
しかし、熱ローラ方式は定着可能な温度まで熱するのに時間がかかり、かつ多量の熱エネルギーを要する。電源投入からコピースタートまでの時間(ウォーミングアップタイム)短縮と、省エネルギーの観点から、近年は熱フィルム定着方式が主流になってきている。
【0004】
この熱フィルム定着方式の定着装置(定着器)では、ポリイミド樹脂等の耐熱性フィルムの外面にフッ素樹脂等の離型性層が積層されたシームレスの定着ベルトが用いられている。
【0005】
しかしながら、このような熱フィルム定着方式の定着装置では、例えばセラミックヒーターを介してフィルムが加熱され、そのフィルム表面でトナー像が定着されるため、フィルムの熱伝導性が重要なポイントとなる。しかし、定着ベルトフィルムを薄膜化して熱伝導性を改善しようとすると機械的強度が低下し、高速で回動させることが難しくなり高速で高画質画像を形成するには問題が生じ、かつ、セラミックヒーター等が破損しやすいという問題も出てくる。
【0006】
このような問題を解決するために、近年、定着ベルトそのものに発熱体を設け、この発熱体に給電することにより定着ベルトを直接加熱し、トナー像を定着させる方式が提案されている。この方式の画像形成装置は、ウォーミングアップタイムが短く、消費電力も熱フィルム定着方式より小さく、熱定着装置として、省エネルギー化と高速化などの面から優れている。
【0007】
これらの技術としては、例えば発熱体は、導電性セラミック、導電性カーボン、金属粉体等の導電性材料と、絶縁性セラミックや耐熱性樹脂等の絶縁性材料から構成されるもの(特許文献1)、ポリイミド樹脂にカーボンナノ材料とフィラメント状金属微粒子を分散した発熱層と絶縁層と離型層を有した発熱定着ベルト(特許文献2)、また発熱層は導電性酸化物を樹脂と混合した技術(特許文献3)等がある。
【0008】
しかしながら、上記の如く優れた耐熱特性を有し、盛んに開発研究が成されている定着方式であるにもかかわらず、実用化のために長期間にわたる使用劣化テストを行ってみると、過電流が流れ異常加熱した時に発火するという問題が残っていることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−281123号公報
【特許文献2】特開2007−272223号公報
【特許文献3】特開2006−350241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、本来空気中では不燃性であり防火性能の高い耐熱性高分子であるポリイミド樹脂が、なぜ発火するのか鋭意検討した結果、異常発熱した時にある温度に達すると耐熱性高分子でも酸化速度が速くなり、発熱が加速され部分的に温度が400℃以上に達し発火に至ることを発見した。
【0011】
本発明の目的は、ポリイミド樹脂を用いた発熱定着ベルトの機械的強度を損なうことなく、長期間使用した場合に起こる局部的な酸化速度の増進と、それによる発熱速度の急激な上昇で部分的に高温となり、発火に至る現象を防止した発熱定着ベルトと、それを用いた画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題の解決策を検討するなかで成された。すなわち、耐熱性高分子であるポリイミド樹脂でも高温度では燃焼する可能性があり、面状発熱体として用いるときには安全対策として難燃化が必要であり、そのためには特定な難燃剤を添加しなければならないことを突き止めた。
【0013】
即ち、本発明の目的は、下記構成を採ることにより達成されることがわかった。
【0014】
1.
少なくともポリイミド樹脂層と、導電性物質を分散させた発熱層を有する発熱定着ベルトであって、難燃剤としてハロゲンを含まない有機リン系難燃剤、赤リン、無機リン酸塩あるいはホスファゼンの少なくともいずれかを含有することを特徴とする発熱定着ベルト。ただし、発熱層がポリイミド樹脂層と同一でもよい。
【0015】
2.
前記難燃剤が発熱層に添加されていることを特徴とする1に記載の発熱定着ベルト。
【0016】
3.
前記難燃剤が弾性層に添加されていることを特徴とする1又は2に記載の発熱ベルト。
【0017】
4.
前記難燃剤の含有量が5質量%以上15質量%以下であることを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の発熱定着ベルト。
【0018】
5.
前記難燃剤が一般式(1)で表される縮合リン酸エステル化合物、或いは、一般式(3)で表される環状ホスファゼン化合物であることを特徴とする1〜4のいずれか1項に記載の発熱定着ベルト。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立してアリール基であり、各々の一つ以上の水素が置換されていてもよい。nは自然数、Xは2価のフェノール類より誘導される芳香族基、j、k、l、及びmはそれぞれ独立して0又は1である。)
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、X〜Xは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアミノ基を表す。)
6.
電子写真感光体を一様帯電後、像露光手段、トナー現像手段を用いて形成したトナー画像を、画像支持体上に転写した後、加熱定着手段により定着する画像形成装置において、該加熱定着手段に1〜5のいずれか1項に記載の発熱定着ベルトを用いていることを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、ポリイミド樹脂を用いた発熱定着ベルトの機械的強度を損なうことなく、長期間使用した場合に起こる局部的な酸化速度の増進と、それによる発熱速度の急激な上昇で部分的に高温となり、発火に至る現象を防止した発熱定着ベルトと、それを用いた画像形成装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の代表的な発熱定着ベルトの構成を示す構成断面図。
【図2】本発明の発熱ベルトを組み込んだ定着装置の構成概念図。
【図3】本発明の画像形成装置の一例を示す断面構成図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、ハロゲンを含まない有機リン系難燃剤、赤リン、無機リン酸塩あるいはフォスフォゼンの、少なくともいずれかの難燃剤を含有し、少なくともポリイミド樹脂層と、導電性材料を分散させた発熱層を有する発熱定着ベルトに関するものである。
【0026】
ここにおいて、難燃剤とは有機合成樹脂、ゴム、木材、繊維等を難燃化させるために添加される化合物の総称である。
【0027】
〔難燃剤〕
本発明に用いられる難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤やハロゲンを含むリン酸エステル系難燃剤では、耐熱性が低いために使用できない。面状発熱体として使用時にハロゲン原子が遊離したり、リン酸エステルが熱分解したりして、他の問題を引き起こす可能性がある。少なくとも面状発熱体として使用時に安定な難燃剤を選択する必要がある。
【0028】
また金属酸化物系難燃剤では公知のようにリン酸エステル系難燃剤の数倍から10倍程度添加する必要があり、ベルト物性とりわけ引張強度を低下させる問題がある。
【0029】
このように異常発熱時の発火防止のために難燃剤を添加する必要があるが、発熱定着ベルトとして用いる面状発熱体用の難燃剤には、耐熱性が高く添加量が少なくても効果的にポリイミド樹脂を難燃化できる難燃剤を選択する必要がある。本発明者の検討によれば、ハロゲンを含まない有機リン系難燃剤、赤リン、無機リン酸塩およびホスファゼンであれば、使用可能であり好ましい効果がえられる。
【0030】
有機リン系難燃剤としては、例えばリン酸エステル系化合物や縮合リン酸エステル系化合物、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェートなどのリン酸エステルやこれらを各種置換基で変性させた化合物があり、この中で好ましいのは、リン酸エステル化合物、及び縮合リン酸エステル化合物である。
【0031】
この中で、特に好ましいのは下記一般式(1)で表される縮合リン酸エステル化合物であることがわかった。
【0032】
【化3】

【0033】
(式中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立してアリール基であり、各々の一つ以上の水素が置換されていてもよい。nは自然数、Xは2価のフェノール類より誘導される芳香族基、j、k、l、及びmはそれぞれ独立して0又は1である。)
縮合リン酸エステル化合物としては、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール−Sビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシリルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジキシレニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジトリルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジトリルホスフェート)等を挙げることができる。
【0034】
これらの縮合リン酸エステル化合物の中でも、特に下記一般式(4)、(5)のものが好ましい。
【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
(ここで、Ar〜Arは同一または相異なるフェニル基、あるいはハロゲンを含有しない有機残基で置換されたフェニル基を示す。n1、n2は数平均重合度を表す。)
Ar〜Arとしては、フェニル基、トリル基、キシリル基がより好ましく用いられ、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジキシレニルホスフェート)(いずれもn1、n2が1のときの呼称)等が特に好ましい。縮合リン酸エステルは工業的には異なる重合度の化合物の混合体として得られ、n1及びn2は数平均重合度を表し、0.5〜5が好ましい。
【0038】
この化合物を難燃剤として使用することにより、難燃性、機械的強度、耐熱性に特に優れた組成物を得ることができる。
【0039】
これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
難燃剤の添加量は、全ポリイミド樹脂に対し、15質量%以下が好ましい。これ以上添加すると機械的物性、特に弾性率が低下するので好ましくない。また2%以上の添加で自己消火性となる場合もあるが、安定な難燃性能を得るためには5質量%以上の添加が好ましい。さらに好ましくは7質量%から12質量%未満である。
【0041】
赤リンとしては、一般の赤リンの他に、その表面をあらかじめ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンから選ばれる金属水酸化物の被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンから選ばれる金属水酸化物及び熱硬化性樹脂からなる被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンから選ばれる金属水酸化物の被膜の上に熱硬化性樹脂の被膜で二重に被覆処理されたものなどが挙げられる。
【0042】
無機系リン酸塩としては、例えばポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0043】
本発明で用いられるホスファゼン化合物は、具体的には、例えば下記一般式(2)で表される化合物である。
【0044】
【化6】

【0045】
(式中、nは3又は4であり、Xは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアミノ基を表す。)
前記一般式(2)において−P=N−構造は環状(a)であっても鎖状(b)であってもよい。
【0046】
前記一般式(2)においてXは、相互に同一であっても、異なっていてもよい。
【0047】
前記アルキル基としては、炭素原子数1〜10、特に1〜6のアルキル基が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基などが挙げられる。
【0048】
前記アリール基としては、炭素原子数6〜11のアリール基が好ましい。また、アリール基は、炭素原子数1〜6のアルキル基で置換されていてもよい。アリール基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0049】
前記アルコキシ基としては、炭素原子数1〜10、特に1〜6のアルコキシ基が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などが挙げられる。
【0050】
前記アリールオキシ基としては、炭素数1〜10のアリールオキシ基が好ましく、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基、アントラセノキシ基などが挙げられる。また、アリールオキシ基は、アリール部分に置換基を有していてもよい。前記置換基としては、炭素原子数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0051】
一般式(2)で表される化合物例としては、James E.Mark,HarryR.Allcock,Robert West著“Inorganic Polimers”(Prentice−Hall International,Inc.,1992)第61〜140頁に記載されているホスファゼン化合物等を挙げることができる。
【0052】
前記一般式(2)において、環状化合物の場合には、nが3以上20以下が好ましい。またnが3以上20以下の環状化合物の混合物でもよい。nが3の環状化合物が50質量%未満でも本発明に好適に用いることが可能であるが、50質量%未満であると融点が低くなり、発熱定着ベルトとして使用時にブリードアウトする恐れがある。このましくはnが3の環状化合物が50質量%含まれている混合物で、n=3の環状化合物100%であるものが特に好ましい。すなわち、下記一般式(3)で表されるホスファゼン化合物である。
【0053】
【化7】

【0054】
(一般式(3)において、X〜Xは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアミノ基を表す。)
一般式(3)において、X〜Xは好ましくはアルコキシ基、又はアリールオキシ基である。特に好ましくはフェノキシ基、エトキシ基、又はメトキシ基である。
【0055】
これら一般式(3)で表される難燃剤は化学合成業者に公知の方法により合成することが出来る。
【0056】
即ち、一般に、非官能基性、アリールオキシシクロホスファゼンは非置換または置換フェノールのヘキサクロロシクロトリホスファゼンおよび水酸化カリウムとのトルエン中での反応により調製された。温度80〜110℃で、水を共沸蒸留により反応混合物から除去した。その反応の進行は、HPLC、GC、31P NMR分光分析法を含む何れかの分析方法により、監視することができる。
【0057】
混合置換アリールオキシシクロホスファゼンも同様の方法で合成することが出来る。しかし、所望の当量数のフェノールを逐次添加して部分的に置換したシクロホスファゼンを生成し、ついでそれを、残存P−Cl結合全てを置換するまで、付加的非置換または置換フェノールと反応させる。その反応の進行を31P NMR分光分析法により監視すればよい。反応混合物の31P NMRスペクトルに変化が検出されなくなった時に、その反応は完了したと考えられる。アリールオキシホスファゼントリマーの典型的化学シフトは、リン酸に関するほぼδ+6.5ppmであった。その反応混合物を濾過し、塩化カリウム(KCl)を除去し、次いで水洗および塩基抽出して残存フェノール類およびKClを除去した。次いで、その溶媒を真空下で除去した。溶媒除去により、単一置換基ホスファゼン類は、混合置換基シクロホスファゼン類が粘性油として残存するか、または非常にゆっくり結晶化した。そのホスファゼンの特定構造は化8〜化13に示した。
【0058】
一般式(3)の具体的化合物については下記のものがある。
【0059】
【化8】

【0060】
【化9】

【0061】
【化10】

【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
【化13】

【0065】
本発明に用いられる化合物や、発熱定着ベルトの構成、画像形成装置等につき更に説明する。
【0066】
従来の定着装置用発熱定着ベルトは、ポリイミド樹脂層にカーボンナノ材料やフィラメント状金属微粒子が分散されたものである。発熱定着ベルトは支持体としてポリイミド等の樹脂層を用いているが、これら耐熱性樹脂は引張り強度等機械的強度は高く、耐熱性も十分であると考えられていた。しかしながら、前記した如く長期間の使用により局部的に急激な温度上昇が起こることがあり、発火の危険性もあることが判明した。当然この様な故障は発熱定着ベルトを交換しない限り、修復は難しく実用上大きな問題を生じる。
【0067】
〔発熱定着ベルトの構成〕
本発明の発熱定着ベルトは、導電性物質として金属に近い電気抵抗を持った導電性材料を用い発熱層を構成し、必要に応じて絶縁性樹脂層、弾性層および離型層を有する。
【0068】
図1は、本発明の代表的な発熱定着ベルトの構成を示す構成断面図である。定着装置用の発熱定着ベルト10は、基体として絶縁性樹脂層1を有するが、その主成分はポリイミド樹脂である。その上に端部に給電用電極3a、3bを設けた発熱層3を塗設し、さらに必要に応じて、プライマー樹脂層4を介して弾性層5を配置し、更に表面層として離型層6が設けられている。しかし、これは代表的な層構成を示したものであり、本発明において、弾性層5を設けるのが好ましく、さらに他の機能層が加えられていてもよい。
【0069】
発熱層3には、導電性材料(導電性物質)を耐熱性樹脂中に含有させる。その製造方法については、公知の方法を用いればよい。
【0070】
導電性材料を耐熱性樹脂に含有させた発熱層の体積抵抗率は、定着発熱ベルトの円周方向全周の両端部に導電テープで電極部を設け、その両端の抵抗値を測定し、下記式にて算出する。
【0071】
体積抵抗率(ρ)=(R・d・W)/L(Ω・m)
(但し、抵抗値(R:Ω)、発熱層厚み(d:m)、円周方向長さ(W:m)、電極間の長さ(L:m)である。)
発熱層の体積抵抗率は8×10−6〜1×10−2Ω・m未満が好ましい。
【0072】
次に、図2に本発明の発熱定着ベルトを組み込んだ一例の定着装置の構成概念図を示す。定着発熱ベルト10を押圧部材35により、対向する押圧ローラ31に押し当てる構成を有する。なお、Nは押圧部材35により押しつけられた定着発熱ベルト10と押圧ローラ31によるニップ部であり、32は発熱定着ベルト10のガイド部材である。
【0073】
尚、図2では図示されていないが、定着発熱ベルト10は必要に応じて内部より支持・搬送のためのローラに支持されているのが普通である。又、いうまでもなく未定着トナー像を乗せた画像支持体Pがこのニップ間を通り搬送されることにより、トナー像は画像支持体P上に定着される。
【0074】
〔絶縁性樹脂層〕
本発明において絶縁性樹脂層を構成する必須の成分は耐熱性絶縁性の樹脂であり、難燃剤を含有させる場合はポリイミド樹脂である。
【0075】
ポリイミド樹脂は、通常、少なくとも1種の芳香族ジアミンと少なくとも1種の芳香族テトラカルボン酸二無水物とを有機極性溶媒中で重合してなるポリイミド前駆体がイミド転化されてポリイミド樹脂を形成する。
【0076】
芳香族ジアミンの代表例としては、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニル、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4′−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4′−ジアミノジフェニルシラン、4,4′−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン及び9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等を挙げることができる。中でも好ましいジアミンは、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、4,4′−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)である。
【0077】
また、芳香族テトラカルボン酸二無水物の代表例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2′,3,3′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二水物、2,3,3′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物及び9,9−ビス[4−(3,4′−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等を挙げることができる。中でも好ましいテトラカルボン酸二無水物は、ピロメリット二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、オキシジフタル酸無水物(ODPA)を挙げることができる。なお、これらをメタノール、エタノール等のアルコール類と反応させてエステル化合物としてもよい。
【0078】
なお、これらの芳香族ジアミン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物は単独で又は混合して用いることができる。また、複数種類のポリイミド前駆体溶液を調製し、それらのポリイミド前駆体溶液を混合して用いることもできる。
【0079】
絶縁性樹脂層を形成する方法は、絶縁性樹脂を溶剤に溶かし溶液状態で、または加熱をして溶融状態で、繊維に塗布、浸漬する方法が挙げられる。
【0080】
絶縁性樹脂としてポリイミドを用いる場合は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液を塗布、乾燥、焼成することにより、絶縁性樹脂層をえることができる。
【0081】
〔発熱層〕
本発明において発熱層を構成する必須の成分は導電性物質と樹脂であるが、該樹脂は所謂耐熱性樹脂が望ましい。難燃剤を含有させる場合はポリイミド樹脂である。
【0082】
(導電性物質)
本発明に用いられる導電性物質とは、代表的には金、銀、鉄、アルミニウム等の純金属、ステンレス、ニクロム等の合金、或いは炭素、黒鉛などの非金属であり、その形状は、球状粉末、不定形粉末、扁平粉末、繊維等が挙げられる。特に、発熱性の点で黒鉛、ステンレスが好ましい。導電性物資の含有量は発熱層の質量の10〜50質量%が適正である。なお、その形状が繊維とは細長い形状のもという意味で、繊維の長径の長さ(L)が短径長さ(l)の10倍以上(各平均値で比較)のものをいう。
【0083】
これら導電性物質自体の体積固有抵抗は10−1Ω・m以下の繊維であり、耐熱性樹脂に含有させて発熱体を作製し、さらに、この発熱体を用いて発熱定着ベルトを作製する。
【0084】
(耐熱性樹脂)
本発明において、発熱層を形成する樹脂としては、所謂耐熱性樹脂を用いるのが好ましいが、難燃剤を添加する場合はポリイミド樹脂である。
【0085】
ポリイミド(PI)以外の耐熱性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等である。これらは、黒鉛や金属などの導電性物質と混合し発熱定着ベルトの発熱層として用いられるが、前記したそのほかの層の構成成分樹脂としても用いられる。
【0086】
〔弾性層〕
弾性層は、定着ベルトと記録紙上のトナーとの密着性を高め、トナー画像に効率よく熱を供給するために設けられたもので、従って、弾性層はゴム硬度の低い柔らかいものが好ましく、例えば、JIS−A硬度1〜70度、好ましくは、5〜40度のシリコーンゴムなどが好適である。弾性層の厚さは好ましくは50〜500μm、更に好ましくは、100〜300μmの範囲内である。弾性層の厚さが50μmより薄い場合は、定着ベルトに十分な弾性が付与されずトナーを包み込むように定着させることが出来ず、従ってトナーを均一に溶融させることが出来ない。そのため、定着むらや光沢むらの原因になり、高い画像品質を得ることが出来ない。また熱容量が不足する場合があるので、トナー付着量の多いカラー画像の定着処理では十分にトナーを溶融することができず、定着不良の原因となる場合がある。弾性層の厚さが500μmより厚い場合は、定着ベルトの熱応答性が損なわれるので好ましくない。
【0087】
弾性層の体積固有抵抗率は1×10Ω・cm以上、好ましくは1×10Ω・cm以上、更には1×1012Ω・cm以上であるものが好ましい。弾性層の熱伝導率は、表面への熱伝達を良好にするために、0.1W/(m・K)以上、好ましくは、0.2W/(m・K)以上、更に好ましくは、0.3W/(m・K)以上であるものがよい。
【0088】
〔離型層〕
本発明の実施の形態において、発熱定着ベルトの離型層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)より成る群から選択される少なくとも1つの樹脂あることが好ましい。
【0089】
フッ素樹脂からなる離型層4は、5〜30μmの厚みであることが好ましく、10〜20μmの厚みであることがより好ましい。また、必要に応じ、弾性層と離型層との層間には接着性を安定させるためにプライマーを塗布する。その場合、プライマー層の厚みは2〜5μmであることが好ましい。
【0090】
〔画像形成装置〕
本発明の画像形成装置は、定着装置以外については、現在公知の構造のものをそのまま用いることが出来る。
【0091】
下記にその代表的なものを挙げて説明する。
【0092】
図3において、1Y、1M、1C、1Kは感光体、4Y、4M、4C、4Kは現像装置、5Y、5M、5C、5Kは1次転写手段としての1次転写ロール、5Aは2次転写手段としての2次転写ロール、6Y、6M、6C、6Kはクリーニング装置、7は中間転写体ユニット、24は熱ロール式定着装置、70は中間転写体を示す。
【0093】
この画像形成装置は、タンデム型カラー画像形成装置と称せられるもので、複数組の画像形成部10Y、10M、10C、10Kと、転写部としての無端ベルト状中間転写体ユニット7と、画像支持体Pを搬送する無端ベルト状の給紙搬送手段21及び定着手段としての熱ロール式定着装置24とを有する。画像形成装置の本体Aの上部には、原稿画像読み取り装置SCが配置されている。
【0094】
各感光体に形成される異なる色のトナー像の1つとして、イエロー色の画像を形成する画像形成部10Yは、ドラム状の感光体1Y、該感光体1Yの周囲に配置された帯電手段2Y、露光手段3Y、現像手段4Y、1次転写手段としての1次転写ロール5Y、クリーニング手段6Yを有する。また、別の異なる色のトナー像の1つとして、マゼンタ色の画像を形成する画像形成部10Mは、ドラム状の感光体1M、該感光体1Mの周囲に配置された帯電手段2M、露光手段3M、現像手段4M、1次転写手段としての1次転写ロール5M、クリーニング手段6Mを有する。
【0095】
また、更に別の異なる色のトナー像の1つとして、シアン色の画像を形成する画像形成部10Cは、ドラム状の感光体1C、該感光体1Cの周囲に配置された帯電手段2C、露光手段3C、現像手段4C、1次転写手段としての1次転写ロール5C、クリーニング手段6Cを有する。さらに、他の異なる色のトナー像の1つとして、黒色画像を形成する画像形成部10Kは、ドラム状の感光体1K、該感光体1Kの周囲に配置された帯電手段2K、露光手段3K、現像手段4K、1次転写手段としての1次転写ロール5K、クリーニング手段6Kを有する。
【0096】
無端ベルト状中間転写体ユニット7は、複数のロールにより巻回され、回動可能に支持された中間転写エンドレスベルト状の第2の像担持体としての無端ベルト状中間転写体70を有する。
【0097】
画像形成部10Y、10M、10C、10Kより形成された各色の画像は、1次転写ロール5Y、5M、5C、5Kにより、回動する無端ベルト状中間転写体70上に逐次転写されて、合成されたカラー画像が形成される。給紙カセット20内に収容された転写用紙等の画像支持体Pは、給紙搬送手段21により給紙され、複数の中間ロール22A、22B、22C、22D、レジストロール23を経て、2次転写手段としての2次転写ロール5Aに搬送され、画像支持体P上にカラー画像が一括転写される。カラー画像が転写された画像支持体Pは、発熱定着ベルトによる定着装置24により定着処理され、排紙ロール25に挟持されて機外の排紙トレイ26上に載置される。
【0098】
一方、2次転写ロール5Aにより画像支持体Pにカラー画像を転写した後、画像支持体Pを曲率分離した無端ベルト状中間転写体70は、クリーニング手段6Aにより残留トナーが除去される。
【0099】
画像形成処理中、1次転写ロール5Kは常時、感光体1Kに圧接している。他の1次転写ロール5Y、5M、5Cはカラー画像形成時にのみ、それぞれ対応する感光体1Y、1M、1Cに圧接する。
【0100】
2次転写ロール5Aは、ここを画像支持体Pが通過して2次転写が行われるときにのみ、無端ベルト状中間転写体70に圧接するよう構成されている。
【0101】
この様に、感光体1Y、1M、1C、1K上に帯電、露光、現像によりトナー像を形成し、無端ベルト状中間転写体70上で各色のトナー像を重ね合わせ、一括して画像支持体Pに転写し、定着装置24で加圧及び加熱により固定して定着する。トナー像を画像支持体Pに転移させた後の感光体1Y、1M、1C、1Kは、クリーニング装置6Aで転写時に感光体に残されたトナーを清掃した後、上記の帯電、露光、現像のサイクルに入り、次の像形成が行われる。
【0102】
又、感光体については、特に限定はなく無機系の感光体、有機系の感光体共に用いることが出来る。
【0103】
いうまでもなく、図3には、図2の説明にて前述した本発明の発熱定着ベルト10と押圧ローラからなる定着発熱ベルト方式の定着装置24が使用される。
【0104】
〔画像支持体〕
本発明に係るトナーを用いて画像を形成することが可能な画像支持体(記録材、記録紙、記録用紙等ともいう)は、一般に用いられているものでよく、例えば、上述した画像形成装置等による公知の画像形成方法により形成したトナー画像を保持するものであれば特に限定されるものではない。
【0105】
本発明で使用可能な画像支持体として用いられるものには、例えば、薄紙から厚紙までの普通紙、上質紙、アート紙、あるいは、コート紙等の塗工された印刷用紙、市販の和紙やはがき用紙、OHP用のプラスチックフィルム、布等が挙げられる。
【実施例】
【0106】
次に、本発明の代表的構成とその効果を示し、本発明につき更に説明する。しかし、無論、本発明の実施態様はこれらに限定されるわけではない。
【0107】
〔発熱層ドープ液の調製〕
《実施例1の発熱層ドープ液の調製》
ポリアミド酸(宇部興産社製:U−ワニスS301)100gと黒鉛繊維として(日本グラファイトファイバー社製:XN−100)18gと難燃剤(8a)3.6gを遊星方式の混合機で十分に混合して、難燃剤の添加量が10質量%となるように「実施例1の発熱層ドープ液」を調製した。
【0108】
[実施例1に添加した難燃剤(8a)のヘキサフェノキシシクロフォスファゼン調製]
トルエン700ml、フェノール429g(4.56モル)、水酸化カリウム270g(4.82モル)およびテトラブチル臭化アンモニウム(相転移触媒としての)を、付加的な漏斗およびディーン・スターク・トラップ(Deen Starktrap)を備えたフラスコに入れた。その混合物を加熱して還流し、トルエン300ミリリットル中ヘキサクロロシクロトリホスファゼン203g(0.58モル、日本国のニッポン・ソーダ(Nippon Soda)から市販)のトルエン溶液を約15分間以上かけて加えた。その混合物を加熱して、水を共沸蒸留により除去しながら約14時間還流(約110℃)した。
【0109】
その反応混合物を31P NMR分光分析法により分析した。31P NMRスペクトルがδ+6.5ppmに一重線を示した場合、完全なCl原子置換が行われたと判断した。その反応混合物を濾過して塩化カリウムを除去し、続いて水洗および塩基抽出して残存塩化カリウムおよびフェノールを除去した。トルエン溶媒を回転蒸発により除去し、茶色の、粘性油を生成した。更に乾燥することにより、その油を凝固させて、融点97〜102℃を有する褐色固形物としてのヘキサフェノキシシクロホスファゼンの生成物334g(収率80%)を得た。
【0110】
粗生成物を、メタノールおよびテトラヒドロフラン(体積で9:1)の高温溶液からの再結晶化により精製し得、続いてその溶液を4℃で16時間冷却した。精製固形物は融点104〜106℃を有する薄茶色の粉末であった。
【0111】
以下、その他の実施例で使用したシクロホスファゼン類である難燃剤(9a、9b、12bも8a)と同様の調製方法で合成した。
【0112】
《実施例2の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、ポリアミド酸(宇部興産社製:U−ワニスS301)100gと黒鉛繊維として(日本グラファイトファイバー社製XN−100)18gと難燃剤(8a)1.8gを実施例1と同様の混合機にて混合して、難燃剤の添加量が5質量%となるように「実施例2の発熱層ドープ液」を調製した。
【0113】
《実施例3の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、難燃剤(大八化学工業製:レゾルシノールビス−ジフェニルホスフェート「PX−200」(以下、RDXと略称する。))を3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例3の発熱層ドープ液」を調製した。
【0114】
《実施例4の発熱層ドープ液の調製》
「実施例3の発熱層ドープ液」の調製において、難燃剤(大八化学工業製:RDX)を0.72g混合して、難燃剤の添加量が2質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例4の発熱層ドープ液」を調製した。
【0115】
《実施例5の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、赤リン系難燃剤(燐化学工業製:ノーバペレット)を3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例5の発熱層ドープ液」を調製した。
【0116】
《実施例6の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、ポリリン酸アンモニウム系難燃剤(鈴裕化学製:ファイアカットFCP−770)を3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例6の発熱層ドープ液」を調製した。
【0117】
《実施例7および8、15、16の発熱層ドープ液の調製》
ポリアミド酸(宇部興産社製:U−ワニスS301)100gと黒鉛繊維として(日本グラファイトファイバー社製:XN−100)18gを遊星方式の混合機で十分に混合し、実施例7の発熱層ドープ液を調製した。同様にして、8、15、16の発熱層ドープ液をそれぞれ調製した。
【0118】
《実施例9の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、難燃剤(大八化学工業製:RDX)を4.8g混合して、難燃剤の添加量が15質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例9の発熱層ドープ液」を調製した。
【0119】
《実施例10の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、難燃剤(8a)を0.36g混合して、難燃剤の添加量が1質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例10の発熱層ドープ液」を調製した。
【0120】
《実施例11の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、難燃剤(8a)のを6.12g混合して、難燃剤の添加量が17質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例11の発熱層ドープ液」を調製した。
【0121】
《実施例12の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、難燃剤(9a)のを3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例12の発熱層ドープ液」を調製した。
【0122】
ここで、使用する難燃剤は
《実施例13の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、難燃剤(9b)のを3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例13の発熱層ドープ液」を調製した。
【0123】
《実施例14の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、難燃剤(12b)を3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように変更した以外は同様にして、「実施例14の発熱層ドープ液」を調製した。
【0124】
《比較例1の発熱層ドープ液の調製》
「実施例7の発熱層ドープ液」と同様なドープ液を調製した。
【0125】
《比較例2の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、ハロゲン化リン酸エステル系難燃剤(大八化学工業製:トリス(クロロプロピル)ホスフェート(以下、TMCPPと略称する。))を3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように変更した以外は同様にして、「比較例2の発熱層ドープ液」を調製した。
【0126】
《比較例3の発熱層ドープ液の調製》
「実施例1の発熱層ドープ液」の調製において、塩素化パラフィン系難燃剤(味の素ファインテクノ製:エンパラ40)を3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように変更した以外は同様にして、「比較例3の発熱層ドープ液」を調製した。ここで難燃剤として添加させている塩素化パラフィンとは炭化水素系パラフィンを塩素化した化合物であり、樹脂の可塑剤や難燃剤などの樹脂添加剤、繊維の防炎加工剤として、また潤滑油や切削油剤として広く用いられている。
【0127】
〔定着発熱ベルトの作製〕
(絶縁性樹脂層の作製)
《実施例1〜6、8〜14の絶縁性樹脂層の作製》
ノズル方式の塗布装置を使用し、外径30mm、全長345mmのステンレス管を芯金とし、その芯金の位置を固定し回転しながらノズルを芯金の回転軸方向に移動し、以下に示す塗布条件で準備した芯金の周面全面にポリアミド酸(宇部興産社製:U−ワニスS301)をノズルを使用して螺旋状に膜厚500μm絶縁性樹脂層形成用塗膜を形成した後、120℃で20分間乾燥させ、「実施例1〜6と8〜14の絶縁性樹脂層」をそれぞれ作製した。
【0128】
塗布条件
樹脂層形成用塗布液の温度:25℃
ノズルの樹脂層形成用塗布液吐出口の形状:円錐状ノズル
ノズルの樹脂層形成用塗布液吐出口の口径:2mm
ノズルの樹脂層形成用塗布液吐出口と芯金の周面までの距離:5mm
ノズルからの樹脂層形成用塗布液の吐出量:2ml/min
ノズルの芯金の回転軸方向への移動速度:60mm/min
芯金の回転速度(周速度):0.13m/sec
《実施例7の絶縁性樹脂層の作製》
「実施例1〜6、8〜14の絶縁性樹脂層」の作製において、用いたポリアミド酸に難燃剤(大八化学工業製:RDX)を3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように調製した以外は同様にして、「実施例7の絶縁性樹脂層」を作製した。
【0129】
《実施例15の絶縁性樹脂層の作製》
「実施例1〜6、8〜14の絶縁性樹脂層」の作製において、用いたポリアミド酸に難燃剤(大八化学工業製:レゾルシノールビス−ジフェニルホスフェート「CR733S」(以下、RDPと略称する。)を3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように調製した以外は同様にして、「実施例15の絶縁性樹脂層」を作製した。
【0130】
《実施例16の絶縁性樹脂層の作製》
「実施例1〜6、8〜14の絶縁性樹脂層」の作製において、用いたポリアミド酸に難燃剤(大八化学工業製:ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェート「CR741」(以下、BDPと略称する。)を3.6g混合して、難燃剤の添加量が10質量%になるように調製した以外は同様にして、「実施例16の絶縁性樹脂層」を作製した。
【0131】
《比較例1〜3の絶縁性樹脂層の作製》
「実施例1〜6、8〜14の絶縁性樹脂層」の作製とまったく同様にして「比較例1〜3の絶縁性樹脂層」を作製した。
【0132】
(発熱層の作製)
前記絶縁樹脂層の上に前記の発熱層ドープ液を膜厚500μmでそれぞれ塗布する。その後、150℃で3時間乾燥後、窒素雰囲気下320℃で120分乾燥した。これをステンレス管から取り外し、樹脂管状物としての発熱定着ベルトを作製した。
【0133】
(弾性層の作製)
《実施例8以外の弾性層の作製(比較例1〜3も含む)》
ステンレス管に装着した前記絶縁性樹脂管状物にプライマー(信越化学社製:商品名:X331565)をはけ塗りし、常温で30分乾燥させた。
【0134】
その後、シリコーンゴム“KE1379”(信越化学製;商品名)の液状ゴム及びシリコーンゴム“DY356013”(東レダウコーニングシリコーン社製;商品名)2液を予め2:1の割合で混合した組成物を、ポリイミド樹脂管状物の外面に200μmの厚みで塗布しシリコーンゴム層を形成した。
【0135】
これを150℃の温度で30分一次加硫し、さらに200℃で4時間ポスト加硫を行い、ポリイミド樹脂管状物の外面に200μmの厚みでシリコーンゴム層が成形された管状物を得た。ゴム層の硬度はデュロメータを用いた測定方法でタイプA硬度(JIS K6253)で測定したところ、26度であった。
《実施例8の弾性層の作製》
「前記実施例8以外の弾性層」の作製において、用いるシリコーンゴム2液を混合した組成物に難燃剤(大八化学工業製:RDX)を3.6g混合して難燃剤の添加量が10質量%に調製したこと以外は「実施例8以外の弾性層」の作製と同様である。
【0136】
(離型層の製作)
シリコーンゴム表面を洗浄した後、フッ素樹脂(B)として、PTFE樹脂ディスパージョン(デュポン社製商品名“30J”)を用いて、この中に回転させながら3分間浸漬し、取り出し、常温で20分間乾燥し、次いでシリコーンゴム表面のフッ素樹脂を布で拭き取った。
【0137】
その後、フッ素樹脂(A)として、PTFE樹脂とPFA樹脂を7:3の割合で混合し、固形分濃度45%、粘度:110mPa・sに調整したフッ素樹脂ディスパーション(デュポン社製商品名“855−510”)中にポリイミド樹脂・シリコーンゴム管状物を浸漬し、最終の厚さで15μmとなるようにコーティングし、室温で30分乾燥後、230℃で30分間加熱した。その後、炉内温度が270℃に設定した内径100mmの管状炉内を、約10分で通過させ、シリコーンゴム表面にコーティングされたフッ素樹脂を焼成した。ついで、冷却後、ステンレス管から管状物を分離し、目的とする定着発熱ベルト(実施例1〜16、比較例1〜3)を得た。
【0138】
〔性能評価〕
試料を300℃1週間エージング後の特性を評価した。
【0139】
(引張り強度測定)
JIS K7133に従って、インストロン万能材料試験機(インストロン社:5582型)を用いて、ダンベル型の試験片で測定試料を引張速度5.0mm/分で引っ張り、引張り強度を測定した。引張強度の数値が大きいほど機械的強度が高いことを示す。
【0140】
(350℃のLOI値)
LOIを測定するに当たり350℃の空気を流しながら、JIS K7201限界酸素指数を測定した。
【0141】
即ち、LOI値は、窒素と酸素の混合気体において、試料物質の燃焼を持続させるのに必要な最小酸素量の容積%で表す。それ故、LOI値は高いほど燃え難いといえる。
【0142】
【表1】

【0143】
本発明内の実施例1〜16はいずれの特性も良好な特性を示すことがわかる。
【符号の説明】
【0144】
1 絶縁性樹脂層
3 発熱層
3a、3b 給電用電極
4 プライマー樹脂
5 弾性層
6 離型層
10 定着装置用発熱定着ベルト
31 押圧ローラ
32 ガイド部材
35 押圧部材
P 画像支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリイミド樹脂層と、導電性物質を分散させた発熱層を有する発熱定着ベルトであって、難燃剤としてハロゲンを含まない有機リン系難燃剤、赤リン、無機リン酸塩あるいはホスファゼンの少なくともいずれかを含有することを特徴とする発熱定着ベルト。ただし、発熱層がポリイミド樹脂層と同一でもよい。
【請求項2】
前記難燃剤が発熱層に添加されていることを特徴とする請求項1に記載の発熱定着ベルト。
【請求項3】
前記難燃剤が弾性層に添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発熱ベルト。
【請求項4】
前記難燃剤の含有量が5質量%以上15質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発熱定着ベルト。
【請求項5】
前記難燃剤が一般式(1)で表される縮合リン酸エステル化合物、或いは、一般式(3)で表される環状ホスファゼン化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発熱定着ベルト。
【化1】

(式中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立してアリール基であり、各々の一つ以上の水素が置換されていてもよい。nは自然数、Xは2価のフェノール類より誘導される芳香族基、j、k、l、及びmはそれぞれ独立して0又は1である。)
【化2】

(式中、X〜Xは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はアミノ基を表す。)
【請求項6】
電子写真感光体を一様帯電後、像露光手段、トナー現像手段を用いて形成したトナー画像を、画像支持体上に転写した後、加熱定着手段により定着する画像形成装置において、該加熱定着手段に請求項1〜5のいずれか1項に記載の発熱定着ベルトを用いていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−189939(P2012−189939A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55236(P2011−55236)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】