説明

不純物濃度分布の測定方法

【課題】高精度に試料の不純物濃度分布を測定する方法を提供する。
【解決手段】本発明の試料の不純物濃度分布を測定する方法は、走査工程、フィルタ工程、二次電子の強度を測定する強度測定工程、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecを段階的にN−1回上昇させる工程、及び、二次電子の強度のエネルギー分布曲線RL、RHを評価する工程とを備える。カットオフエネルギー値Ecの各段階において、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程が行われる。mを1以上N以下の任意の整数、pを1以上N−1以下の任意の整数、m段階目のカットオフエネルギー値EcをE、カットオフエネルギー値EcがEである際に測定された二次電子の強度をIとしたとき、Ip+1−Iの値を、E以上Ep+1以下のエネルギーを有する二次電子の強度とみなす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の不純物濃度分布の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、不純物濃度分布の測定方法が記載されている。この方法においては、不純物濃度に対応した選択性を有する方法によって試料をエッチングすることにより、不純物濃度分布に対応した段差を試料に形成する。そして、段差形成後の試料の厚さを透過型電子顕微鏡で測定することにより、試料の不純物濃度分布を測定する。このような方法により、半導体基板中の微量領域の微量な不純物濃度分布の測定が可能なことが記載されている。
【0003】
下記非特許文献1には、高エネルギーの二次電子をフィルタリングするローパスフィルタを備えた走査型電子顕微鏡を用いた不純物濃度分布の測定方法が記載されている。この方法においては、ローパスフィルタのカットオフエネルギー値を段階的に変化させる。そして、変化させたカットオフエネルギー値の各段階において、走査型電子顕微鏡によって試料の表面を電子線で走査し、各走査点から発生したエネルギー分布を有する二次電子をローパスフィルタでフィルタリングし、フィルタリング後の当該二次電子の強度を測定している。
【0004】
このような測定を行うと、カットオフエネルギー値がAである場合の二次電子の測定強度と、カットオフエネルギー値がAから一段階変化させたBである場合の二次電子の測定強度との差は、AからBの範囲のエネルギーを有する二次電子の強度となる。そのため、カットオフエネルギー値を一段階変化させた前後の二次電子の強度の差を、カットオフエネルギー値の各段階について計算することにより、各走査点から発生した二次電子のエネルギー分布を評価することができる。
【0005】
そして、各走査点から発生した二次電子のエネルギー分布のピーク位置は、試料の不純物濃度に応じてシフトする。そのため、各走査点について二次電子のエネルギー分布のピーク位置のシフト量を評価することにより、試料の表面の二次元的な不純物濃度分布を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−118159号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】P. Kazemian, et. al., "High resolution quantitativetwo-dimensional dopant mapping using energy-filtered secondary electron imaging",Journal of Applied Physics, Vol. 100, pp.054901-1-054901-7 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載の不純物濃度分布の測定方法においては、透過型電子顕微鏡で測定可能なように予め試料を薄片状に加工する必要がある上、測定時に測定対象の試料をエッチングし、膜厚の測定を行う必要がある。そのため、測定に時間がかかってしまう。
【0009】
この点、上記非特許文献1に記載の不純物濃度分布の測定方法のように、試料に電子線を照射した際に発生する二次電子のエネルギー分布が試料中の不純物濃度に依存することを利用した測定方法によれば、予め試料を薄片状等の特定の形状に加工する必要は無い上に、試料のエッチングや膜厚測定の必要はない。そのため、短時間で測定を行うことができる。
【0010】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の不純物濃度分布の測定方法のような、試料に電子線を照射した際に発生する二次電子を利用した不純物濃度分布の測定方法においては、以下のような理由により、測定精度が悪いという問題点がある。
【0011】
即ち、試料に電子線の照射を続けると、試料への気体分子の吸着等による試料の汚染に起因して、試料の各走査点から発生する二次電子の強度が変化してしまう場合がある。そして、エネルギー分布を有する二次電子のうち、より低エネルギー側の二次電子の方が、上述のような試料の汚染に起因する二次電子の強度の変化が大きくなる。
【0012】
そして、上記非特許文献1に記載の不純物濃度分布の測定方法においては、各走査点から発生した二次電子をローパスフィルタでフィルタリングしているため、測定工程全体において、カットオフエネルギーよりも低エネルギー側の二次電子は常に測定されることになる。そのため、上記非特許文献1に記載の不純物濃度分布の測定方法においては、上述のような試料の汚染に起因する二次電子の強度の変化が測定誤差の原因となってしまうため、測定精度が悪くなるという問題点がある。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、試料に電子線を照射した際に発生する二次電子を利用して高精度に試料の不純物濃度分布を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するため、本発明に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法は、試料の表面を電子線で走査することにより、各走査点から二次電子を発生させる走査工程と、各走査点から発生した二次電子をハイパスフィルタに通過させるフィルタ工程と、ハイパスフィルタを通過した各走査点から発生した二次電子の強度を測定する強度測定工程と、Nを2以上の整数としたとき、ハイパスフィルタのカットオフエネルギー値を段階的にN−1回上昇させることにより、当該カットオフエネルギー値をEからEまでN段階に変化させるカットオフエネルギー変更工程と、各走査点について、二次電子の強度のエネルギー分布を評価するエネルギー分布評価工程と、各走査点について、二次電子の強度のエネルギー分布のピーク位置の所定の基準値からのシフト量を評価することにより、試料の表面の各走査点における不純物濃度分布を評価する不純物濃度評価工程と、を備え、N段階に変化したカットオフエネルギー値の各段階において、上記走査工程、上記フィルタ工程、及び、上記強度測定工程が行われ、mを1以上N以下の任意の整数、pを1以上N−1以下の任意の整数、低エネルギー側からm段階目のカットオフエネルギー値をE、カットオフエネルギー値がEである際に上記強度測定工程において測定された二次電子の強度をIとしたとき、上記エネルギー分布評価工程において、Ip+1−Iの値を、E以上Ep+1以下のエネルギーを有する二次電子の強度とみなすことによって、二次電子の強度のエネルギー分布を評価することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法においては、フィルタ工程において、各走査点から発生した二次電子をハイパスフィルタに通過させている。そのため、ハイパスフィルタのカットオフエネルギー値よりも低いエネルギーを有する二次電子が測定工程において測定されることは、抑制される。
【0016】
その上、カットオフエネルギー変更工程においては、ハイパスフィルタのカットオフエネルギー値を段階的に上昇させているため、測定の進行と共に、ハイパスフィルタのカットオフエネルギー値は大きくなる。そのため、測定が進むにつれて、より高エネルギー側の二次電子が測定工程において主に測定されることになる。
【0017】
その結果、測定が進むにつれて低エネルギー側の二次電子の強度が次第に変化していっても、ハイパスフィルタのカットオフエネルギー値も測定が進むにつれて上昇するため、低エネルギー側の二次電子の強度変化に起因する測定誤差を抑制することができる。そのため、本発明に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法によれば、試料に電子線を照射した際に発生する二次電子を利用して、高精度に試料の不純物濃度分布を測定することができる。
【0018】
さらに、本発明に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法においては、電子線を発生する電子源と、上記ハイパスフィルタと、上記ハイパスフィルタを通過した各走査点から発生した二次電子の強度を測定する二次電子検出器と、を備える走査型電子顕微鏡を用いて、上記走査工程、上記フィルタ工程、及び、上記強度測定工程を行うことが好ましい。
【0019】
これにより、走査型電子顕微鏡を用いて、容易に試料の不純物濃度分布を測定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、試料に電子線を照射した際に発生する二次電子を利用して高精度に試料の不純物濃度分布を測定する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法で使用されるSEMの断面の模式図である。
【図2】図1に示すSEMのハイパスフィルタ近傍の拡大図である。
【図3】実施形態の方法で測定される試料の平面図である。
【図4】不純物の濃度が異なる2つの走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布の例を示す図である。
【図5】同一の走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布の経時変化の例を示す図である。
【図6】カットオフエネルギー値Ecが第1段階目のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。
【図7】カットオフエネルギー値Ecが第1段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。
【図8】カットオフエネルギー値Ecが第2段階目のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。
【図9】カットオフエネルギー値Ecが第2段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。
【図10】カットオフエネルギー値Ecが第3段階目のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。
【図11】カットオフエネルギー値Ecが第3段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。
【図12】カットオフエネルギー値Ecが第4段階目のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。
【図13】カットオフエネルギー値Ecが第4段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。
【図14】カットオフエネルギー値Ecが第16段階目のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。
【図15】カットオフエネルギー値Ecが第16段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。
【図16】強度測定工程において測定された二次電子の強度のカットオフエネルギー値依存を示す図である。
【図17】試料の走査点についての二次電子の強度のエネルギー分布曲線の一部を示す図である。
【図18】試料の走査点についての二次電子の強度のエネルギー分布曲線を示す図である。
【図19】試料21の走査点S1についての二次電子の強度のエネルギー分布曲線RLと、試料21の走査点S2についての二次電子の強度のエネルギー分布曲線RHを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施の形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、可能な場合には同一要素には同一符号を用いる。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0023】
まず、本実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法で使用される走査型電子顕微鏡について説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法で使用される走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以下、「SEM」という)の断面の模式図である。なお、図1には、直交座標系2を示しており、図2以降の各図においても、必要に応じて直交座標系2を示している。
【0025】
図1に示すように、本実施形態のSEM1は、主として、電子源3と、第一の集束レンズ5と、対物レンズ絞り7と、第二の集束レンズ9と、走査偏向器11と、直交偏向器13と、二次電子検出器15と、ハイパスフィルタ17と、対物レンズ19と、制御装置25と、像表示装置27と、画像メモリ29と、を備える。なお、図1においては、SEM1の電子光学系の光軸と平行な方向に直交座標系2のZ軸を設定している。
【0026】
電子源3は、陰極3aと、第一陽極3bと、第二陽極3cとを有している。陰極3aと第一陽極3bとの間には、電源3Eによって引き出し電圧が印加される。これにより、陰極3aから一次電子線23が放出される。また、第二陽極3cは、グラウンド電位となっているため、陰極3aから放出された一次電子線23は、電源3Eによって陰極3aと第二陽極3c間に印加される電圧によってZ軸に沿った方向に加速される。
【0027】
電源3Eは、中央演算処理装置(CPU)等からなる制御装置25に接続されている。制御装置25は、電源3Eが陰極3aと第一陽極3bとの間に印加する引き出し電圧の大きさを制御することにより、一次電子線23の強度を制御する。このようにして、電子源3は、後段のレンズ系に向かって、一次電子線23を放出する。
【0028】
電子源3から放出された一次電子線23は、第一の集束レンズ5によって、集束される。第一の集束レンズ5は、例えば、磁界型電子レンズであり、例えば、光軸に対して略対称な形状を有する。電源5Eは、第一の集束レンズ5に電圧を印加する。制御装置25は、電源5Eによって第一の集束レンズ5に印加される電圧の大きさを制御することにより、第一の集束レンズ5によって集束される一次電子線23のクロスオーバー位置を制御する。
【0029】
第一の集束レンズ5によって集束された一次電子線23は、対物レンズ絞り7によって、不要な領域が除去される。
【0030】
対物レンズ絞り7を通過した一次電子線23は、第二の集束レンズ9によって、集束される。第二の集束レンズ9は、例えば、磁界型電子レンズであり、例えば、光軸に対して略対称な形状を有する。電源9Eは、第二の集束レンズ9に電圧を印加する。制御装置25は、電源9Eによって第二の集束レンズ9に印加される電圧の大きさを制御することにより、第二の集束レンズ9によって集束される一次電子線23のクロスオーバー位置を制御する。
【0031】
第二の集束レンズ9によって集束された一次電子線23は、走査偏向器11、直交偏向器13、及び、ハイパスフィルタ17を通過した後、対物レンズ19によって集束され、試料21に照射される。対物レンズ19は、例えば、磁界型電子レンズであり、例えば、光軸に対して略対称な形状を有する。電源19Eは、対物レンズ19に電圧を印加する。制御装置25は、一次電子線23が試料21の表面に焦点を結ぶように、電源19Eによって対物レンズ19に印加される電圧の大きさを制御する。図1において、試料21の表面は、XY平面と略平行である。
【0032】
走査偏向器11は、2つの偏向コイル11a、11bを有する。2つの偏向コイル11a、11bは、例えば、それぞれ光軸に対して略対称な形状を有する。2つの偏向コイル11a、11bは、一次電子線23をX軸及びY軸に沿った方向に偏向する。電源11Eは、2つの偏向コイル11a、11bのそれぞれに電圧を印加する。制御装置25は、一次電子線23が試料21の表面を走査するように、電源11Eによって2つの偏向コイル11a、11bに印加される電圧の大きさを連続的に変化させることが可能である。
【0033】
一次電子線23によって試料21の表面が走査されると、試料21の表面の各走査点から二次電子が発生する。各走査点から発生した二次電子は、ハイパスフィルタ17によってフィルタリングされた後、直交偏向器13を経由して、二次電子検出器15に到達する。
【0034】
二次電子検出器15は、ハイパスフィルタ17によってフィルタリングされた各走査点から発生した二次電子の強度を測定する。二次電子検出器15は、測定した各走査点の二次電子の強度に応じた信号を、制御装置25に出力する。二次電子検出器15は、例えば、シンチレータと光電子倍増管を有する。電源15Eは、二次電子検出器15を駆動させるための電源であり、例えば、シンチレータに印加する電圧を供給する。制御装置25は、電源15Eを制御する。
【0035】
また、直交偏向器13は、SEM1の光軸と直交する方向(本実施形態においては、Y軸に沿った方向)に電子を偏向する機能を有する。直交偏向器13は、例えば、Y軸に沿った方向に電磁界を発生することにより、上記機能を実現する。直交偏向器13によって、ハイパスフィルタ17を通過した二次電子が二次電子検出器15に入射する確率が上昇する。そのため、直交偏向器13により、後述のようにハイパスフィルタ17を通過した二次電子35L、35Hの検出効率が向上する。また、直交偏向器13は、一次電子線23の制御を行うこともできる。なお、SEM1は、直交偏向器13を備えていなくてもよい。
【0036】
制御装置25は、二次電子検出器15から出力された信号を読み込み、画像メモリ29に保存する。また、制御装置25は、画像メモリ29に保存された信号に基づき、二次電子像(SEM像)を、像表示装置27に表示する。
【0037】
次に、本実施形態のSEM1による二次電子強度の測定方法について、詳細に説明する。
【0038】
図2(A)及び(B)は、図1に示すSEMのハイパスフィルタ近傍の拡大図である。上述のように、一次電子線23は、直交偏向器13及びハイパスフィルタ17を通過した後、試料21の表面21Sに到達する。
【0039】
ハイパスフィルタ17は、入射した電子のうちカットオフエネルギー値Ec以下のエネルギーを有する二次電子をフィルタリングする。また、ハイパスフィルタ17は、入射した電子のうちカットオフエネルギー値Ec以上のエネルギーを有する二次電子を通過させる機能を有する。
【0040】
ここで、「カットオフエネルギー値Ec以上のエネルギーを有する二次電子を通過させる機能」とは、ハイパスフィルタ17に入射した二次電子のうち、カットオフエネルギー値Ec以上のエネルギーを有する二次電子を、カットオフエネルギー値Ec未満のエネルギーを有する二次電子よりも優先的に通過させる機能を意味する。
【0041】
カットオフエネルギー値Ecは、ハイパスフィルタ17の通過率が50%となる二次電子のエネルギー値と定義することができる。この場合、カットオフエネルギー値Ecよりも大きい二次電子のハイパスフィルタ17の通過率は50%以上であり、カットオフエネルギー値Ecよりも小さい二次電子のハイパスフィルタ17の通過率は50%以下となる。また、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecは、可変となっている。
【0042】
本実施形態のハイパスフィルタ17は、電極部17Dと、電源17Eとを有する。電極部17Dは、例えば、金属からなる。また、電極部17Dは、例えば、試料21側から電子源3側に向かって径が漸増する筒状の部材であり、SEM1(図1参照)の光軸に対して略対称な形状を有する。なお、電極部17Dは、試料21側から電子源3側に向かって径が略一定の筒状の部材であってもよい。
【0043】
電源17Eは、電極部17Dに電圧を印加する。後述のように、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecは、電極部17Dによって電源17Eに印加される電圧値に依存する。制御装置25(図1参照)は、電源17Eによって電極部17Dに印加される電圧値を制御することにより、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecを制御する。
【0044】
本実施形態のハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecは、以下のような原理に基づき、可変となる。
【0045】
図2(A)は、電極部に電圧が印加されていない場合に二次電子検出器が二次電子を検出する様子を示しており、図2(B)は、電極部に負電圧が印加されている場合に二次電子検出器が二次電子を検出する様子を示している。
【0046】
図2(A)及び(B)に示すように、一次電子線23が試料21の表面21Sを走査すると、各走査点から二次電子35L、35H、及び、反射電子36が発生する。ここで、二次電子35Lは、エネルギーの低い二次電子を示しており、二次電子35Hはエネルギーが高い二次電子を示している。
【0047】
まず、図2(A)に示すように、電源17Eによって電極部17Dに電圧が印加されていない場合、電極部17Dに周囲には電源17Eによる電圧印加に起因する静電場は形成されない。そのため、エネルギーの低い二次電子35L及びエネルギーの高い二次電子35Hはいずれも、電極部17Dに入射後に上述のような静電場に影響されることは無いため、二次電子35L、35Hのうちの一部は、電極部17Dを通過する。電極部17Dを通過した二次電子35L、35Hは、直交偏向器13によって形成された電磁場によって偏向され、二次電子検出器15に入射する。
【0048】
なお、図2(A)に示すように、試料21から発生した反射電子36のうち少なくとも一部は、電極部17Dに衝突する。すると、電極部17Dから三次電子37が発生する場合があり、この三次電子37は、ハイパスフィルタ17の外部に出力される。ハイパスフィルタ17から出力された三次電子37は、直交偏向器13によって形成された電磁場によって偏向され、二次電子検出器15に入射する。
【0049】
このように、電源17Eによって電極部17Dに電圧が印加されていない場合、試料21から発生した二次電子は、そのエネルギーに関わらず、ハイパスフィルタ17を通過し、二次電子検出器15に入射する。そのため、電源17Eによって電極部17Dに電圧が印加されていない場合、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecは、0(eV)となる。
【0050】
次に、図2(B)に示すように、電源17Eによって電極部17Dに負電圧が印加されている場合、電極部17Dに周囲には電源17Eによる電圧印加に起因する静電場が形成される。この静電場は、電子が電極部17Dに近づくのを阻害する。そのため、試料21から発生したエネルギーの低い二次電子35Lは、電極部17Dの周囲の静電場に阻まれ、電極部17Dを通過することができない。
【0051】
一方、図2(B)に示すように、試料21から発生したエネルギーの高い二次電子35Hのうち少なくとも一部は、そのエネルギーの高さに起因して、電極部17Dの周囲に静電場があっても、電極部17Dを通過する。電極部17Dを通過した二次電子35Hは、直交偏向器13によって形成された電磁場によって偏向され、二次電子検出器15に入射する。
【0052】
なお、この場合も図2(A)に示す場合と同様に、試料21から発生した反射電子36のうち少なくとも一部は、電極部17Dに衝突する。すると、電極部17Dから三次電子37が発生する場合があり、この三次電子37は、ハイパスフィルタ17の外部に出力される。ハイパスフィルタ17から出力された三次電子37は、直交偏向器13によって形成された電磁場によって偏向され、二次電子検出器15に入射する。
【0053】
このように、電源17Eによって電極部17Dに負電圧が印加されている場合、エネルギーの高い二次電子のみが、ハイパスフィルタ17を通過する。そのため、ハイパスフィルタ17は、カットオフエネルギー値Ecが0eVよりも大きい値であるハイパスフィルタとして機能する。そして、電源17Eによって電極部17Dに負電圧の絶対値が大きくなる程、ハイパスフィルタ17を通過するために必要な二次電子のエネルギー値は大きくなる。
【0054】
そのため、電極部17Dに印加される電圧値を変更すれば、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecを変更することができる。例えば、電極部17Dに印加される電圧値が−3Vの場合、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecは、約3eVとなり、電極部17Dに印加される電圧値が−15Vの場合、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecは、約15eVとなる。このような原理に基づき、本実施形態のハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecは可変となる。
【0055】
続いて、上述のようなSEM1を用いて実行される本実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法について説明する。
【0056】
図3は、本実施形態の方法で測定される試料の平面図である。試料21は、例えば、半導体材料からなる。本実施形態の試料21は、XY平面と平行な表面21Sを有している。また、試料21は、不純物を含んでいる。この不純物は、例えば、試料21にドープされたp型不純物やn型不純物である。以下の説明においては、試料21がドープされたp型不純物を含んでいる場合について、主に説明する。
【0057】
また、本実施形態の試料21は、表面21Sと垂直な方向から見て、不純物の濃度分布を有している。具体的には、表面21Sは、p型不純物の濃度が低い領域の表面である低濃度面21Lと、p型不純物の濃度が高い領域の表面である高濃度面21Hとを有している。図3においては、低濃度面21Lと高濃度面21Hとの境界を破線で示している。本実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法によって、試料21の二次元的な不純物の濃度分布、より具体的には、低濃度面21Lの不純物濃度と高濃度面21Hの不純物濃度の定量値を測定することができる。
【0058】
本実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法においては、SEM1によって、試料21の表面21Sを一次電子線23で走査し、各走査点から二次電子を発生させる(図1及び図2参照)。そのため、まず、各走査点から発生する二次電子の一般的な事項について説明する。
【0059】
図4は、不純物の濃度が異なる2つの走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布(エネルギー分布曲線)の例を示す図である。図4のエネルギー分布曲線DLは、図3の試料21の低濃度面21Lにおける一つの走査点S1又は走査点S3から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示しており、図4のエネルギー分布曲線DHは、図3の試料21の高濃度面21Hにおける一つの走査点S2から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示している。
【0060】
試料21の表面21Sを一次電子線23で走査し、各走査点から二次電子を発生させた場合(図1及び図2参照)、各走査点から発生する二次電子強度のエネルギー分布のピーク位置は、試料21の当該各走査点に対応する領域における不純物の濃度に依存する場合がある。そして、試料21が半導体材料からなり、試料21が不純物としてドープされたp型不純物を含む場合、試料21の各走査点に対応する領域におけるp型不純物の濃度が高い程、当該各走査点から発生する二次電子強度のエネルギー分布のピーク位置が高エネルギー側となることが知られている。
【0061】
具体的には本実施形態の場合、図4に示すように、エネルギー分布曲線DL(図3の低濃度面21L内の走査点S1又は走査点S3から発生する二次電子の分布曲線に対応する)において、二次電子のエネルギーがピーク位置PDLの場合に、二次電子の強度はピーク強度となる。また、エネルギー分布曲線DH(図3の高濃度面21H内の走査点S2から発生する二次電子の分布曲線に対応する)において、二次電子のエネルギーがピーク位置PDHの場合に、二次電子の強度はピーク強度となる。
【0062】
そのため、エネルギー分布曲線DLのピーク位置PDLを基準として、エネルギー分布曲線DHのピーク位置PDHは、高エネルギー側にシフト量PSだけシフトする。そして、図4におけるシフト量PSの大きさは、図3における試料21の走査点S1又は走査点S3に対応する領域における不純物の濃度と、試料21の走査点S2に対応する領域における不純物の濃度との差に依存する。そのため、試料21の表面21Sにおける各走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を測定し、当該各走査点に対応するエネルギー分布のピーク位置のシフト量を評価することにより、試料21の表面21Sにおける二次元的な不純物濃度分布を測定することができる。
【0063】
また、試料21の表面21Sから発生する二次電子強度のエネルギー分布は、経時変化する場合があることが知られている。図5は、同一の走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布の経時変化の例を示す図である。図4のエネルギー分布曲線DXは、図3の試料21の表面21Sを電子線で走査した初期段階における一つの走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示しており、エネルギー分布曲線DYは、図3の試料21の表面21Sを電子線で一定時間走査を行った後における同一の走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示している。
【0064】
図5に示すように、試料21の表面21Sにおける同一の走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布は、エネルギー分布曲線DXで示される状態からエネルギー分布曲線DYで示される状態のように、経時変化する場合がある。このような経時変化の原因としては、試料21の表面21Sの汚染が挙げられる。この汚染の原因としては、例えば、試料21の表面21Sを電子線で走査する際に、試料21の周囲の残留気体が表面21Sに付着し、この残留気体が電子線の照射によって変質して堆積することが考えられる。ただし、試料21の表面21Sの汚染の原因は、このような原因に限られず、また、二次電子の強度の経時変化の原因は、試料21の表面21Sの汚染に限られない。
【0065】
そして、図5に示すように、この二次電子強度のエネルギー分布の経時変化は、低エネルギー側において特に顕著であることが知られている。
【0066】
上述のような二次電子強度のエネルギー分布の経時変化は、二次電子を利用した測定方法において、測定誤差の原因となる場合がある。しかし、後述のように、本実施形態の試料の不純物濃度分布を測定する方法においては、上述のような二次電子強度のエネルギー分布の経時変化に起因する測定誤差を抑制することが可能である。
【0067】
続いて、本実施形態の試料の不純物濃度分布を測定する方法について、具体的に説明する。
【0068】
本実施形態の試料の不純物濃度分布を測定する方法は、走査工程と、フィルタ工程と、強度測定工程と、カットオフエネルギー変更工程と、エネルギー分布評価工程と、不純物濃度評価工程と、を有している。
【0069】
(カットオフエネルギー変更工程)
カットオフエネルギー変更工程においては、図2に示すように、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecの値を段階的にN−1回(Nは2以上の整数)上昇させることにより、カットオフエネルギー値Ecの値をE(eV)からE(eV)までN段階に変化させる。本実施形態においては、カットオフエネルギー値Ecの値の変化は、上述のように電源17Eによって電極部17Dに印加する電圧の大きさを変化させることにより実現することができる。
【0070】
そして、N段階に変化したカットオフエネルギー値Ecの各段階において、上記走査工程、上記フィルタ工程、及び、上記強度測定工程が行われる。
【0071】
一例として、カットオフエネルギー変更工程において、N=20、E=0(eV)とし、カットオフエネルギー値Ecの値を1(eV)ずつ段階的に19回上昇させる場合について説明する。この場合、カットオフエネルギー値Ecは、20段階に変化し、E=0(eV)、E=1(eV)、E=2(eV)、E=3(eV)、E=4(eV)、E=5(eV)、E=6(eV)、E=7(eV)、E=8(eV)、E10=9(eV)、E11=10(eV)、E12=11(eV)、E13=12(eV)、E14=13(eV)、E15=14(eV)、E16=15(eV)、E17=16(eV)、E18=17(eV)、E19=18(eV)、E20=19(eV)となる。
【0072】
(走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程)
走査工程においては、図1〜図3に示すように、試料21の表面21Sを一次電子線23で走査することにより、各走査点から二次電子35L、35Hを発生させる。フィルタ工程においては、図2に示すように、各走査点から発生した二次電子35L、35Hをハイパスフィルタ17に通過させる。強度測定工程においては、ハイパスフィルタ17を通過した各走査点から発生した二次電子35L、35Hの強度を、二次電子検出器15によって測定する。上述のように、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程は、N段階に変化したカットオフエネルギー値Ecの各段階において行われる。
【0073】
(第1段階目)
図6は、カットオフエネルギー値Ecが第1段階目(即ち、カットオフエネルギー値Ec=E=0(eV))のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。図6に示すように、カットオフエネルギー値Ecが第1段階目において得られるSEM像41は、試料21の低濃度面21L(図3参照)に対応する領域41Lと、試料21の高濃度面21H(図3参照)に対応する領域41Hと、を有する。そして、SEM像41の領域41L中の一つの画素T1は、試料21の低濃度面21Lの走査点S1(図3参照)に対応する。また、SEM像41の領域41H中の一つの画素T2は、試料21の低濃度面21Lの走査点S1(図3参照)に対応する。
【0074】
図7(A)(B)は、カットオフエネルギー値Ecが第1段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。具体的には、図7(A)は、試料21の低濃度面21Lにおける走査点S1(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DLを示し、図7(B)は、試料21の高濃度面21Hにおける走査点S2(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DHを示している。
【0075】
カットオフエネルギー値Ecが第1段階目の場合、カットオフエネルギー値Ec=E=0(eV)であるため、フィルタ工程において、ハイパスフィルタ17による二次電子35L、35Hのフィルタリングは行われない(図2参照)。そのため、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図6のSEM像41において、画素T1の明るさは、図7(A)のエネルギー分布曲線DLにおける斜線部分の面積に比例する。同様に、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図6のSEM像41において、画素T2の明るさは、図7(B)のエネルギー分布曲線DHにおける斜線部分の面積に比例する。本実施形態においては、第1段階目における画素T1の明るさと画素T2の明るさは、略等しくなる。
【0076】
(第2段階目)
図8は、カットオフエネルギー値Ecが第2段階目(即ち、カットオフエネルギー値Ec=E=1(eV))のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。
【0077】
図9(A)(B)は、カットオフエネルギー値Ecが第2段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。具体的には、図9(A)は、試料21の低濃度面21Lにおける走査点S1(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DLを示している。また、図9(A)においては、第1段階目における走査点S1から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DLを破線で示している。
【0078】
図9(B)は、試料21の高濃度面21Hにおける走査点S2(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DHを示している。また、図9(B)においては、第1段階目における走査点S2から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DHを破線で示している。
【0079】
第2段階目の走査工程において、試料21の表面21Sは再び一次電子線23で走査されるため(図1及び図2参照)、図9(A)に示すように、試料21の表面21Sの汚染等に起因して、走査点S1から発生する二次電子のエネルギー分布曲線は、エネルギー分布曲線DLからエネルギー分布曲線DLのように変化する。そして、この変化は、主として低エネルギー側の二次電子について生じる。同様に、図9(B)に示すように、試料21の表面21Sの汚染等に起因して、走査点S2から発生する二次電子のエネルギー分布曲線は、エネルギー分布曲線DHからエネルギー分布曲線DHのように変化する。そして、この変化は、主として低エネルギー側の二次電子について生じる。
【0080】
カットオフエネルギー値Ecが第2段階目の場合、カットオフエネルギー値Ec=E=1(eV)であるため、フィルタ工程において、ハイパスフィルタ17によって1(eV)以下のエネルギーを有する二次電子35L、35Hは、フィルタリングされる(図2参照)。そのため、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図8のSEM像41において、画素T1の明るさは、図9(A)のエネルギー分布曲線DLにおける斜線部分の面積に比例する。同様に、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図8のSEM像41において、画素T2の明るさは、図9(B)のエネルギー分布曲線DHにおける斜線部分の面積に比例する。本実施形態においては、第2段階目における画素T2は、画素T1よりも明るくなる。
【0081】
(第3段階目)
図10は、カットオフエネルギー値Ecが第3段階目(即ち、カットオフエネルギー値Ec=E=2(eV))のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。
【0082】
図11(A)(B)は、カットオフエネルギー値Ecが第3段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。具体的には、図11(A)は、試料21の低濃度面21Lにおける走査点S1(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DLを示している。また、図9(A)においては、第1段階目における走査点S1から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DLを破線で示している。
【0083】
図11(B)は、試料21の高濃度面21Hにおける走査点S2(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DHを示している。また、図11(B)においては、第1段階目における走査点S2から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DHを破線で示している。
【0084】
第3段階目の走査工程において、試料21の表面21Sは再び一次電子線23で走査されるため(図1及び図2参照)、図11(A)に示すように、試料21の表面21Sの汚染等に起因して、走査点S1から発生する二次電子のエネルギー分布曲線は、さらに変化してエネルギー分布曲線DLのようになる。そして、この変化は、主として低エネルギー側の二次電子について生じる。同様に、図11(B)に示すように、試料21の表面21Sの汚染等に起因して、走査点S2から発生する二次電子のエネルギー分布曲線は、さらに変化してエネルギー分布曲線DHのようになる。そして、この変化は、主として低エネルギー側の二次電子について生じる。
【0085】
カットオフエネルギー値Ecが第3段階目の場合、カットオフエネルギー値Ec=E=2(eV)であるため、フィルタ工程において、ハイパスフィルタ17によって2(eV)以下のエネルギーを有する二次電子35L、35Hは、フィルタリングされる(図2参照)。そのため、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図10のSEM像41において、画素T1の明るさは、図11(A)のエネルギー分布曲線DLにおける斜線部分の面積に比例する。同様に、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図10のSEM像41において、画素T2の明るさは、図11(B)のエネルギー分布曲線DHにおける斜線部分の面積に比例する。本実施形態においては、第3段階目における画素T2は、画素T1よりも明るくなる。
【0086】
(第4段階目)
図12は、カットオフエネルギー値Ecが第4段階目(即ち、カットオフエネルギー値Ec=E=3(eV))のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。
【0087】
図13(A)(B)は、カットオフエネルギー値Ecが第4段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。具体的には、図13(A)は、試料21の低濃度面21Lにおける走査点S1(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DLを示している。また、13(A)においては、第1段階目における走査点S1から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DLを破線で示している。
【0088】
図13(B)は、試料21の高濃度面21Hにおける走査点S2(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DHを示している。また、図13(B)においては、第1段階目における走査点S2から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DHを破線で示している。
【0089】
第4段階目の走査工程において、試料21の表面21Sは再び一次電子線23で走査されるため(図1及び図2参照)、図13(A)に示すように、試料21の表面21Sの汚染等に起因して、走査点S1から発生する二次電子のエネルギー分布曲線は、さらに変化してエネルギー分布曲線DLのようになる。そして、この変化は、主として低エネルギー側の二次電子について生じる。同様に、図13(B)に示すように、試料21の表面21Sの汚染等に起因して、走査点S2から発生する二次電子のエネルギー分布曲線は、さらに変化してエネルギー分布曲線DHのようになる。そして、この変化は、主として低エネルギー側の二次電子について生じる。
【0090】
カットオフエネルギー値Ecが第4段階目の場合、カットオフエネルギー値Ec=E=3(eV)であるため、フィルタ工程において、ハイパスフィルタ17によって3(eV)以下のエネルギーを有する二次電子35L、35Hは、フィルタリングされる(図2参照)。そのため、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図12のSEM像41において、画素T1の明るさは、図13(A)のエネルギー分布曲線DLにおける斜線部分の面積に比例する。同様に、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図12のSEM像41において、画素T2の明るさは、図13(B)のエネルギー分布曲線DHにおける斜線部分の面積に比例する。本実施形態においては、第4段階目における画素T2は、画素T1よりも明るくなる。
【0091】
この後、第5段階目から第15段階目においても、それぞれ同様に、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程が行われる。
【0092】
(第16段階目)
図14は、カットオフエネルギー値Ecが第16段階目(即ち、カットオフエネルギー値Ec=E16=15(eV))のときに行われる走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られるSEM像を示す図である。
【0093】
図15(A)(B)は、カットオフエネルギー値Ecが第16段階目のときに行われる走査工程において、走査点から発生する二次電子の強度のエネルギー分布を示す図である。具体的には、図15(A)は、試料21の低濃度面21Lにおける走査点S1(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DL16を示している。また、15(A)においては、第1段階目における走査点S1から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DLを破線で示している。
【0094】
図15(B)は、試料21の高濃度面21Hにおける走査点S2(図3参照)から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DH16を示している。また、図15(B)においては、第1段階目における走査点S2から発生する二次電子のエネルギー分布曲線DHを破線で示している。
【0095】
第16段階目の走査工程において、試料21の表面21Sは再び一次電子線23で走査されるため(図1及び図2参照)、図15(A)に示すように、試料21の表面21Sの汚染等に起因して、走査点S1から発生する二次電子のエネルギー分布曲線は、さらに変化してエネルギー分布曲線DL16のようになる。そして、この変化は、主として低エネルギー側の二次電子について生じる。同様に、図15(B)に示すように、試料21の表面21Sの汚染等に起因して、走査点S2から発生する二次電子のエネルギー分布曲線は、さらに変化してエネルギー分布曲線DH16のようになる。そして、この変化は、主として低エネルギー側の二次電子について生じる。
【0096】
カットオフエネルギー値Ecが第16段階目の場合、カットオフエネルギー値Ec=E16=15(eV)であるため、フィルタ工程において、ハイパスフィルタ17によって3(eV)以下のエネルギーを有する二次電子35L、35Hは、フィルタリングされる(図2参照)。そのため、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図14のSEM像41において、画素T1の明るさは、図15(A)のエネルギー分布曲線DL16における斜線部分の面積に比例する。同様に、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程後に得られる図14のSEM像41において、画素T2の明るさは、図15(B)のエネルギー分布曲線DH16における斜線部分の面積に比例する。本実施形態においては、第16段階目における画素T1の明るさと画素T2の明るさは、略等しくなる。
【0097】
この後、第17段階目から第20段階目においても、それぞれ同様に、走査工程、フィルタ工程、及び、強度測定工程が行われる。
【0098】
以上のように、走査工程、フィルタ工程、強度測定工程、及び、カットオフエネルギー変更工程が行われる。
【0099】
(エネルギー分布評価工程)
エネルギー分布評価工程においては、以下のような方法によって、各走査点について、二次電子35L、35Hのエネルギー分布を評価する。
【0100】
即ち、本工程においては、各走査点について、mを1以上N以下の任意の整数、pを1以上N−1以下の任意の整数、低エネルギー側からm段階目のカットオフエネルギー値EcをE、カットオフエネルギー値EcがEである際に上記強度測定工程において測定された二次電子35L、35Hの強度をIとしたとき、Ip+1−Iの値を、E以上Ep+1以下のエネルギーを有する二次電子の強度とみなす。
【0101】
具体的には、本実施形態においてはN=20であるため、mは1以上20以下の任意の整数となり、Pは1以上19以下の任意の整数となる。そのため、上述のように、各走査点について、低エネルギー側から1段階目〜20段階目のカットオフエネルギー値Ecは、それぞれ順に、E〜E20となる。また、各走査点について、カットオフエネルギー値がE〜E20である際に上記強度測定工程において測定された二次電子の強度は、それぞれ順に、I〜I20となる。
【0102】
図16は、強度測定工程において測定された二次電子の強度のカットオフエネルギー値依存を示す図である。図16は、試料21の走査点S1(図3参照)についての二次電子の測定結果に基づいている。この測定結果は、例えば、8ビットの255階調で数値化することができる。図16は、カットオフエネルギー値Ecの各段階におけるSEM像41の画素T1(図6、図8、図10、図12、及び、図14参照)の明るさを示している。
【0103】
そして、上述の走査工程、フィルタ工程、強度測定工程、及び、カットオフエネルギー変更工程の内容から明らかなように、Ip+1−Iの値を、E以上Ep+1以下のエネルギーを有する二次電子の強度とみなすことが可能である。ここで、「Ip+1−Iの値を、E以上Ep+1以下のエネルギーを有する二次電子の強度とみなす」には、例えば、(Ip+1−I)の値を、(E+Ep+1)/2のエネルギーを有する二次電子の強度とみなせばよい。
【0104】
具体的には、本実施形態においては、例えばp=1の場合、(I−I)の値を、E(0eV)以上E(1eV)以下のエネルギーを有する二次電子の強度とみなすため、(I−I)の値を、(0+1)/2=0.5eVのエネルギーを有する二次電子の強度とみなす。同様に、本実施形態においては、例えばp=2の場合、(I−I)の値を、(1+2)/2=1.5eVのエネルギーを有する二次電子の強度とみなし、例えばp=3の場合、(I−I)の値を、(2+3)/2=2.5eVのエネルギーを有する二次電子の強度とみなす。
【0105】
そして、これらの二次電子の強度及び二次電子エネルギーについて、図17に示すように、二次電子のエネルギーを横軸、二次電子の強度を縦軸として、プロットする。図17は、試料21の走査点S1(図3参照)についての二次電子の強度のエネルギー分布曲線の一部を示す図となる。
【0106】
このようなプロットを、同様にp=4〜19についても行うと、図18に示すように、試料21の走査点S1(図3参照)についての二次電子の強度のエネルギー分布曲線RLが得られる。このようにして試料21の走査点S1(図3参照)についての二次電子の強度のエネルギー分布を評価する。
【0107】
そして、上述のような二次電子の強度のエネルギー分布の評価を、各走査点について行う。
【0108】
(不純物濃度評価工程)
不純物濃度評価工程においては、以下のように、試料21の表面21Sの各走査点における不純物濃度分布を評価する。
【0109】
図19は、上述のようにして求めた、試料21の走査点S1(図3参照)についての二次電子の強度のエネルギー分布曲線RLと、試料21の走査点S2(図3参照)についての二次電子の強度のエネルギー分布曲線RHを示す図である。
【0110】
図19に示すように、エネルギー分布曲線RLにおいて、二次電子のエネルギーがピーク位置PRLの場合に、二次電子の強度はピーク強度となる。また、エネルギー分布曲線RHにおいて、二次電子のエネルギーがピーク位置PRHの場合に、二次電子の強度はピーク強度となる。
【0111】
ここで、試料21の走査点S1に対応する領域の不純物濃度と走査点S2に対応する領域の不純物濃度は異なるため、エネルギー分布曲線RLのピーク位置PRLとエネルギー分布曲線RHのピーク位置PRHは異なる。不純物濃度評価工程においては、各走査点について、二次電子の強度のエネルギー分布のピーク位置の所定の基準値からのシフト量を評価する。例えば、走査点S1と走査点S2については、エネルギー分布曲線RLのピーク位置PRLの所定の基準値からのシフト量と、エネルギー分布曲線RHのピーク位置PRHの所定の基準値からのシフト量と、を評価する。
【0112】
ここで、所定の基準値とは、予め定めた値であってもよいし、ある走査点におけるエネルギー分布曲線のピーク位置としてもよい。
【0113】
例えば、走査点S1におけるエネルギー分布曲線RLのピーク位置PRLを基準値とした場合、エネルギー分布曲線RLのピーク位置PRLのシフト量は0となり、エネルギー分布曲線RHのピーク位置PRHのシフト量は、シフト量Sとなる。そして、このようなある走査点におけるエネルギー分布曲線のピーク位置の所定の基準値からのシフト量は、試料21の当該走査点に対応する領域の不純物濃度に依存する。
【0114】
そのため、このシフト量を評価することにより、試料21の走査点S1に対応する領域における不純物の濃度と、試料21の走査点S2に対応する領域における不純物の濃度との差を評価することができる。そのため、各走査点について得られたエネルギー分布曲線のそれぞれについて、上述のようにピーク位置のシフト量を評価することにより、試料21の表面21Sにおける二次元的な不純物濃度分布を測定することができる。このようにして、試料21の表面21Sの各走査点における不純物濃度分布が評価される。
【0115】
上述のような本実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法においては、フィルタ工程において、各走査点から発生した二次電子35L、35Hをハイパスフィルタ17に通過させている(図2参照)。そのため、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecよりも低いエネルギーを有する二次電子が測定工程において測定されることは、抑制される。
【0116】
その上、カットオフエネルギー変更工程においては、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecを段階的に上昇させているため、測定の進行と共に、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecは大きくなる(図7、図9、図11、図13、及び、図15参照)。そのため、測定が進むにつれて、より高エネルギー側の二次電子が測定工程において主に測定されることになる。
【0117】
その結果、図7、図9、図11、図13、及び、図15に示すように、測定が進むにつれて低エネルギー側の二次電子の強度が次第に変化していっても、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecも測定が進むにつれて上昇するため、低エネルギー側の二次電子の強度変化に起因する測定誤差を抑制することができる。そのため、本実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法によれば、試料21に一次電子線23を照射した際に発生する二次電子35L、35Hを利用して、高精度に試料21の不純物濃度分布を測定することができる。
【0118】
さらに、本実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法においては、一次電子線23を発生する電子源3と、ハイパスフィルタ17と、ハイパスフィルタ17を通過した各走査点から発生した二次電子35L、35Hの強度を測定する二次電子検出器15と、を備えるSEM1を用いて、上記走査工程、上記フィルタ工程、及び、上記強度測定工程を行っている。
【0119】
これにより、SEM1を用いて、容易に試料21の不純物濃度分布を測定することができる。
【0120】
また、本実施形態に係る試料の不純物濃度分布を測定する方法によって、事前に濃度が既知の試料を測定し、その測定結果と比較することにより、測定対象の試料について、不純物濃度の絶対値の分布を測定することもできる。例えば、事前に濃度が既知の複数の試料の測定を行い、シフト量Sを不純物濃度の絶対値に換算するための検量線を求めておき、測定対象の試料におけるシフト量Sを当該検量線を用いて不純物濃度の絶対値に換算することができる。
【0121】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形態様が可能である。
【0122】
例えば、上述の実施形態においては、ハイパスフィルタ17のカットオフエネルギー値Ecを20段階に変更していたが、2段階以上であれば段階数は特に制限されない。
【0123】
また、上述の実施形態においては、カットオフエネルギー変更工程において、カットオフエネルギー値Ecを1(eV)ずつ段階的に上昇させていたが(図7、図9、図11、図13、図15参照)、そのような態様に限られない。このカットオフエネルギー値Ecを段階的に上昇させる値(ある段階でのカットオフエネルギー値Ec値と、その次の段階のカットオフエネルギー値Ecとの差)は、0.01eV以上、0.5eV以下であることが好ましい。カットオフエネルギー値Ecを段階的に上昇させる値が0.5eV以下であれば、エネルギー分布曲線RLやエネルギー分布曲線RH(図19参照)を精度よく得ることができる。
【0124】
また、上述の実施形態においては、カットオフエネルギー変更工程において、カットオフエネルギー値Ecを異なるエネルギー幅で段階的に上昇させてもよい(図7、図9、図11、図13、図15参照)。
【0125】
また、上述の実施形態においては、カットオフエネルギー変更工程において、カットオフエネルギー値Ecの最小値(第1段階目におけるカットオフエネルギー値Ec)を0eVとしていたが(図7参照)、カットオフエネルギー値Ecの最小値は、0eVよりも大きい値であってもよい。
【符号の説明】
【0126】
3・・・電子源、15・・・二次電子検出器、17・・・ハイパスフィルタ、21・・・試料、21S・・・試料の表面、23・・・一次電子線、DL、DH、RL、RH・・・エネルギー分布曲線、Ec・・・カットオフエネルギー値、・・・、S1、S2、S3・・・走査点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の不純物濃度分布を測定する方法であって、
前記試料の表面を電子線で走査することにより、各走査点から二次電子を発生させる走査工程と、
前記各走査点から発生した前記二次電子をハイパスフィルタに通過させるフィルタ工程と、
前記ハイパスフィルタを通過した前記各走査点から発生した前記二次電子の強度を測定する強度測定工程と、
Nを2以上の整数としたとき、前記ハイパスフィルタのカットオフエネルギー値を段階的にN−1回上昇させることにより、当該カットオフエネルギー値をEからEまでN段階に変化させるカットオフエネルギー変更工程と、
前記各走査点について、前記二次電子の強度のエネルギー分布を評価するエネルギー分布評価工程と、
前記各走査点について、前記二次電子の強度の前記エネルギー分布のピーク位置の所定の基準値からのシフト量を評価することにより、前記試料の前記表面の前記各走査点における不純物濃度分布を評価する不純物濃度評価工程と、
を備え、
N段階に変化した前記カットオフエネルギー値の各段階において、前記走査工程、前記フィルタ工程、及び、前記強度測定工程が行われ、
mを1以上N以下の任意の整数、pを1以上N−1以下の任意の整数、低エネルギー側からm段階目の前記カットオフエネルギー値をE、前記カットオフエネルギー値がEである際に前記強度測定工程において測定された前記二次電子の強度をIとしたとき、前記エネルギー分布評価工程において、Ip+1−Iの値を、E以上Ep+1以下のエネルギーを有する前記二次電子の強度とみなすことによって、前記二次電子の強度の前記エネルギー分布を評価することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電子線を発生する電子源と、
前記ハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタを通過した前記各走査点から発生した前記二次電子の強度を測定する二次電子検出器と、
を備える走査型電子顕微鏡を用いて、前記走査工程、前記フィルタ工程、及び、前記強度測定工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−103195(P2012−103195A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253746(P2010−253746)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】