説明

不織布およびその製造方法

【課題】耐突き刺し抵抗値や嵩高特性および耐通気度に優れた特徴を有しているので、ガラス工場等の防護不織布などに提供することを目的とする。
【解決手段】高機能性繊維を主成分とする目付が100〜3000g/mの短繊維不織布であって、突き刺し抵抗値が100〜1000g、圧縮率が15〜50%、通気性が0.1〜30cm/cm/secであることを特徴とする不織布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐突き刺し性、嵩高性および耐通気度に優れた不織布およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造工場においては危険を伴う作業も多い。例えば、ガラスや液晶などの製造工場では、ガラスの破片やエッジ部での突き刺しや切創などで手、首などに傷を負いやすい。そのため、より安全で安心して作業できる手袋や頭巾などの保護具が使用されているが、その目的から分厚い布帛や硬い布帛が用いられており、作業性や着用感には劣る。そのため、細かな作業に対応できたり着用感に優れたさらなる保護具の開発が望まれている。
【0003】
例えば、特開2007−107139号公報には、防護用布帛およびその製造方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、当該技術はマイクロフィラメント化することによりごわごわ感の低減を図ったものであって、布帛の積層枚数を増やすことにより厚地となるので作業性が低下しやすい。
【0004】
また、特開2007−321262号公報には、耐突き刺し抵抗性に優れソフト感および作業性に優れた防護用布帛およびその製造方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、当該技術は織編物の構成糸をマイクロフィラメント化してそのマイクロフィラメント同士を絡み合わせたものであって、多数の布帛を積層する必要があった。
【0005】
また、特開2006−22454号公報には、耐切創性に優れた防護シートが提案されている(特許文献3参照)。当該技術は高弾性繊維を単に嵩高の不織布としただけであって、耐突き刺し性は低い問題がある。
【0006】
また、特開2005−144886号公報には、防刺素材としてアラミド系繊維で編まれた編地が提案されている(特許文献4参照)。しかし、当該技術は編地を複数枚重ねる必要があり、その結果、生地が厚くなり作業性は低下しやすい。
【0007】
さらに、特開平6−342609号公報には、特定の熱収縮率を有するアラミド不織布が提案されている(特許文献5参照)。しかし、当該技術はプレス加工された薄葉紙であり、防護性能は有していない。
【0008】
従って、従来技術では細かな作業に対応できたり、着用感に優れた防護用素材は提案されていない。
【特許文献1】特開2007−107139号公報
【特許文献2】特開2007−321262号公報
【特許文献3】特開2006−22454号公報
【特許文献4】特開2005−144886号公報
【特許文献5】特開平6−342609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたものであり、耐突き刺し性と耐切創性に優れ、さらに嵩高性、耐通気性及び難燃性などを兼ね備えた不織布およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消するため、次の(1)〜(5)のいずれかの構成を特徴とするものである。
【0011】
(1)高機能性繊維を主成分とする目付が100〜3000g/mの短繊維不織布であって、突き刺し抵抗値が100〜1000g、圧縮率が15〜50%、通気性が0.1〜30cm/cm/secであることを特徴とする不織布。
【0012】
(2)前記高機能性繊維がパラ系アラミド繊維からなることを特徴とする前記(1)に記載の不織布。
【0013】
(3)前記短繊維不織布の表(おもて)面に位置する短繊維の一部または全部が扁平化されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の不織布。
【0014】
(4)前記短繊維不織布の表(おもて)面に位置する短繊維の繊維径が内層あるいは裏面に位置する短繊維の繊維径の1.3〜3.0倍であることを特徴とする前記(3)に記載の不織布。
【0015】
(5)前記(1)〜(4)のずれかに記載の表面硬質不織布の製造方法であって、高機能性繊維を主成分とする短繊維不織布に、ロール温度が室温〜300℃、ロール線圧力が10〜100kg/cmにて片面または両面に加熱プレス加工することを特徴とする不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の不織布は、表面層が扁平断面の短繊維が隙間なく緻密に絡合していることから、細い鋭利な刃物、ミシン針、ガラス破片、釘などによる耐突き刺し抵抗値は高くなるので、防護性能は高くなる。
【0017】
また、短繊維で緻密に覆われているので耐通気度が高く、例えば有害な気体や液体あるいは粉体、粉塵などの通気を抑制することができる。
【0018】
さらに、内層は短繊維が粗く絡合しているために空隙が広く嵩高いので、断面方向の圧縮率、圧縮弾性率に優れ、柔らかいクッション性を有し、布帛表面は硬いが、裏面や内層部は柔らかく、作業性が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の不織布は、高機能性繊維を主成分とする目付が100〜3000g/mの短繊維からなる不織布であって、突き刺し抵抗値が100〜1000g、嵩高特性の圧縮率が15〜50%、空気の通気性が0.1〜30cm/cm/secであることを特徴とする。
【0020】
本発明の不織布は目付が100〜3000g/mであることが必要である。短繊維不織布の目付が100g/m未満であると不織布が薄くなるので、耐突き刺し抵抗値や嵩高性が低く、防護用には不向きである。目付が100〜1000g/mでは、一般の防護用あるいは資材用として扱いやすく実用的である。目付が3000g/mを超える場合では土木・建築資材や海洋資材には適しているが、分厚くなりすぎたり重量がありすぎて防護用には不向きである。
【0021】
本発明の不織布は突き刺し抵抗値は100〜1000gである。防護用としては突き刺し抵抗値が高い方が好ましいが、1000gより高くなると表面はより硬質化され嵩高特性が低下するので、布帛の柔軟性が損なわれるので、500g〜900gが最も好ましい範囲である。逆に、100g未満では防護用としては不充分である。
【0022】
なお、本発明における突き刺し抵抗値は、次の方法で測定した値をいう。すなわち、試験装置を用いて、針が試料を突き刺さる時の抵抗値(g)を測定する。中央部に幅10mm長さ18mmのスリットを有する板状の試料支持板2枚の間に、しわ及びたるみが生じないように試料を挟んで固定し、また、針を試料に90度(垂直)の角度で突き刺さるように固定し、針先を試料に100mm/分の速度で押し付け、針が試料を突き刺ささるときの最大応力を測定し、n=5の平均値で示す。針は工業用ミシン針を使用する。
【0023】
本発明の不織布は圧縮率が15〜50%である。嵩高特性を表す圧縮率が15%未満であると、嵩高性は薄くペーパーライクとなりクッション性はなくなり、50%を超えると、今度はふか付きやすくなるので扱いにくい。よって、15〜50%が好ましく、さらには15%〜40%が実用的により好ましい範囲である。
【0024】
また、嵩高特性を表す指標として圧縮弾性率があるが、圧縮弾性率については高いほうが回復が良いので、40%以上必要である。40%未満では回復性能がしだいに損なわれるので好ましくない。一方、上限としては90%である。
【0025】
本発明の不織布は、表(おもて)面が扁平化された短繊維により緻密化されているので耐通気性が高く、通気性が30cm/cm/sec以下である。一方、通気性を0.1cm/cm/sec未満とするには、不織布がフィルムのようになるので、0.1〜30cm/cm/secの範囲が実用上好ましいが、さらには0.5〜10cm/cm/secの範囲が好ましい。
なお、本発明における通気性は、JIS L1913 6.8 通気性(フラジール法)に記載の方法における通気性をいう。
【0026】
本発明の不織布は、高機能性繊維を主成分としてなる。前記高機能性繊維としては、例えば、アラミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維)、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、「ベクトラン(登録商標)」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキザゾール繊維(例えば東洋紡株式会社製、「ザイロン(登録商標)」)、超高分子量ポリエチレン繊維(例えば東洋紡株式会社製、「ダイニーマ(登録商標)」)などが挙げられる。
【0027】
なかでも、本発明の狙いとする扁平可能で緻密化が容易な、アラミド繊維が好ましい。アラミド繊維にはメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維とがある。メタ系アラミド繊維としては例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、「ノーメックス(登録商標)」)などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。また、パラ系アラミド繊維としては例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、「ケブラー(登録商標)」)およびコポリパラフェニレン−3,4−ジフェニールエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、「テクノーラ(登録商標)」)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。
本発明の不織布においては、高機能性繊維はパラ系アラミド繊維であることが好ましく、さらにはポリパラフェニレンテレフタルアミドであることがより好ましい。
【0028】
また、高機能性繊維の1種類を単独で用いたものであってもよいし、素材や品種、繊維構成が異なる2種以上の高機能性繊維を混繊したものであっても構わない。
【0029】
なお、上記高機能性繊維の他に、ポリフェニレンサルファイド繊維やフッ素系繊維などの繊維を高機能性繊維として用いることができる。
【0030】
なお、本発明において「主成分」とは重量にして80%以上をいい、その範囲を超えない限り、高機能性繊維以外の繊維を含んでいてもよい。
【0031】
本発明の不織布を構成する高機能性繊維は短繊維であり、繊維長は2.54〜12.7cm(1〜5インチ)が好ましく適用される。2.54cm未満では不織布を形成する場合、交絡されにくくなるのであまり好ましくない。また、12.7cmを超えると短繊維端が表面に目立つので好ましくない。
【0032】
短繊維の単繊維繊度は0.1〜3.0dtexが好ましく適用される。短繊維は細い方が緻密化されやすいので単繊維繊度は小さい方が好ましく、短繊維はあらかじめフィブリル化されていてもかまわない。5.0dtexを超えると短繊維が太くなって緻密化されにくくなるので、あまり好ましくなくない。なお、本発明においては、均一の単繊維繊度の短繊維により短繊維不織布を構成し、加熱プレス加工(すなわち、表(おもて)面に位置する短繊維を扁平化する)ことが好ましいが、ある程度の繊度分布を有する短繊維不織布を用いてもかまわない。
【0033】
本発明において、短繊維不織布の表(おもて)面に位置する短繊維は、その一部または全部が扁平化されている。一方、内層あるいは裏面に位置する短繊維は扁平化されていないか、扁平化の度合いは表(おもて)面に位置する短繊維よりも小さい。このような構成は、後述するように短繊維不織布をプレス加工することにより達成することができる。さらには、短繊維不織布の表(おもて)面に位置する短繊維径(dl)が、内層あるいは裏面に位置する短繊維径(d2)の1.3〜3.0倍、すなわち、径比(d1/d2)が、1.3〜3.0であることが好ましい。
【0034】
ここで、前記不織布の表(おもて)面に位置する短繊維の繊維径(d1)は、走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて100〜1000倍に拡大して撮影した写真(不織布面に垂直な方向から撮影)を用いて、プレスした面の最表面に位置する短繊維の繊維径(d1)を実測したもの(n=10の平均値)である。また、内層に位置する短繊維の繊維径(d2)とは、表層部の隙間から見える短繊維の繊維径(d2)を(d1)と同様にして実測したもの(n=10の平均値)である。なお、内層に位置する短繊維の繊維径(d2)は、隙間から見える短繊維に焦点を合わせて撮影して、測定する。ただし、表層の短繊維がつぶれて、隙間から短繊維が見えない場合は、断面をスライスした後、スライス面を若干はがし、スライスで傷が付いていないと思われる部分を撮影し、短繊維径を測定する。また、プレス加工が施されていない場合は裏面の表層に位置する短繊維の繊維径(d2)を実測したものである。
【0035】
表(おもて)面に位置する短繊維の繊維径(d1)は大きいほど繊維が扁平化しているので、繊維径(d1)が大きいほど短繊維間の隙間が少なくなる。隙間が少なくなるので、例えばミシン針などの細く鋭利な刃先が突き刺しにくくなり、耐突き刺し抵抗値が大きくなるのである。
内層あるいは裏面に位置する短繊維の繊維径(d2)に対する表(おもて)面に位置する短繊維の繊維径(d1)の比率(d1/d2)において、1.3未満では表(おもて)面に位置する短繊維の扁平化が少なく、隙間が粗く効果が小さく、3.0を超えると短繊維の扁平化が大き過ぎて、隙間は小さくなるものの、前記不織布の厚さが薄くなり嵩高特性が損なわれるので好ましくないのである。より好ましくは1.5〜2.5である。なお、表(おもて)面に位置する短繊維に太い繊維、内層あるいは裏面に位置する短繊維に細い繊維を用いても繊維径比率を1.3〜3.0にすることはできるが、このような構成では、上記のような効果は得られにくい。これは、例えば繊維断面が丸く扁平化されていないと針が突き刺さりにくく、表面を滑り貫通しやすくなるので効果は低くなるのである。よって、表(おもて)面に位置する短繊維が扁平化していることが必要である。
【0036】
次に、本発明の不織布の製造方法について詳述する。
【0037】
本発明の不織布の製造方法は、高機能性繊維を主成分とする短繊維不織布に、ロール温度が室温〜300℃、ロール線圧力10〜100kg/cmで、好ましくは搬送速度1m/分〜30m/分で、片面または両面に加熱プレス加工する不織布の製造方法である。
【0038】
まず、前記の単繊維繊度および繊維長の高機能性繊維を用いて、通常の方法にて短繊維不織布を製造する。例えば、ウエブをニードルパンチあるいはウオータージェットパンチなどにて絡合させたり、接着剤や熱加工にて不織布とすることができる。
【0039】
しかし、接着剤や樹脂あるいは低融点繊維を混合すると布帛は硬化しやすく嵩高特性を損なう恐れがあるので留意する必要がある。軽度のニードルパンチやウオータージェットパンチによる不織布形成が望ましい。
【0040】
次に、得られた短繊維不織布を加熱プレス加工する。
【0041】
短繊維不織布の表(おもて)面に位置する短繊維の扁平化を図るためにプレス加工を施すが、プレス加工は加熱ロールや加熱平板プレスを用いたり、ペアーの硬質ロール加工装置が適している。なかでも、加熱ロールを用いることが好ましい。加熱ロールによる加工では、片側のロールのみを加熱したり、両側のロールを加熱したりして、片面加工や両面加工を行うことができる。表(おもて)面に位置する短繊維のみ扁平化するには片面加工が好ましい。特に片方を金属の加熱ロールとし、もう片方をペーパーロールで加熱プレス加工することが好ましい。ロール温度は高機能性繊維の種類にもよるが、例えばアラミド繊維であれば室温〜300℃が好ましく、室温未満の温度では短繊維の扁平化は困難であり、300℃超えると嵩高特性が損なわれるので好ましくない。ここで、室温とは加熱プレス加工を行う雰囲気の温度をいう。
【0042】
加熱ロールによる加工のロール圧力は、線圧力として10kg/cm〜100kg/cmの範囲が好まししい。10kg/cm未満では短繊維の扁平化が弱く、100kg/cmを超えると嵩高特性が損なわれるので好ましくない。
【0043】
なお、短繊維不織布の表(おもて)面に位置する短繊維の繊維径を扁平化して、内層あるいは裏面に位置する短繊維の繊維径の1.3〜3.0倍とするには、加熱プレスにおいて、プレス圧力あるいは加熱温度を高く、搬送速度を遅くすることによって達成できる。このようにすることによって、プレス面、すなわち、表(おもて)面の短繊維径を扁平化させることができるので、短繊維径の比を大きくすることができる。なお、プレス圧力や加熱温度を高くしすぎると、内層あるいは裏面に位置する短繊維も扁平化されてしまうので注意が必要である。また、用いる短繊維不織布の厚さは、大きい方が片面の短繊維のみを扁平化させやすい。
【0044】
なお、目付の大きな1000〜3000g/mの範囲では用途によっては、線圧力は100〜200kg/cm、温度300〜400℃の特殊な高圧・高温条件で実施することも可能である。
本発明の不織布の製造方法について、用いる高機能性繊維の短繊維は、アラミド繊維が好ましいが、例えば300℃の高温乾熱収縮率において、0%〜0.01%の範囲にある温度による収縮変化が生じないポリパラフェニレンテレフタルアミドが特に優れている。
【実施例】
【0045】
[測定方法]
(1)目付(g/m
JIS L 1913 6.2(単位面積当たりの質量)に基づき、50000mmの試験片を3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0046】
(2)突き刺し抵抗値(N)
オートグラフSD−100装置(島津製作所製)を用いて、針が試料を突き刺さる時の抵抗値(g)を測定した。試料の固定は、次の治具を使用し測定した。中央部に幅10mm長さ18mmのスリットを有する板状の試料支持板2枚の間に、しわ及びたるみが生じないように試料を挟んで固定し、針を試料に90度(垂直)の角度で突き刺さるように固定し、針先を試料に100mm/分の速度で押し付け、針が試料を突き刺ささるときの最大応力を測定し、n=5の平均値で示した。針は工業用ミシン針(#11 オルガン針社製)を使用した。
【0047】
(3)圧縮率(%)、圧縮弾性率(%)
JIS L1018 8.19(圧縮率及び圧縮弾性率)に準じて測定した。
【0048】
約5cm×5cmの小片を5枚採取し、圧縮弾性試験機を用いて、7g/cm当たりの圧力下における厚さTを測定した。さらに300g/cm当たりの圧力下における厚さToを測定する。1分放置後、再び7g/cm当たりの圧力下における厚さT1を測定した。
圧縮率(%)={(T−To)/T}×100
により、5枚測定を行い平均値を算出した。また、
圧縮弾性率(%)={(T1−To)/(T―To)}×100
により、5枚測定を行い平均値を算出した。
【0049】
(4)通気性(cm3/cm/s)
JIS L1913 6.8(通気性(フラジール形法))に準じて測定した。すなわち、試料から20cm×20cmの試験片を5枚採取し、フラジール形試験機を用いて、円筒の一端(吸気側)に試験片を取り付けた。試験片の取り付けに際し、円筒の内径と同一の内径を有する平面状ゴム製リングパッキン(厚さ1mm)を円筒の試験片取り付け側に設置し、その上に試験片を置き試験片上から吸気部分を塞がないように均等に約98N(10kgf)の荷重を加え試験片の取り付け部におけるエアーの漏れを防止した。試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求め、5枚の試験片についての平均値を算出した。
【0050】
(5)短繊維の繊維径
走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて100〜1000倍に拡大して撮影した写真を用いて、表層に位置する無作為に選出した10箇所のフィブリル化した繊維を除く幹短繊維の直径を実測し、平均値(d1)を算出した。
内層に位置する短繊維径とは、表層部の隙間から見える無作為に選出した10箇所のフィブリル化した繊維を除く幹短繊維径を実測し、平均値(d2)を算出する。あるいは、裏面に位置する無作為に選出した10箇所の短繊維径を実測し、平均値(d2)を算出した。
【0051】
(6)厚さ(mm)
JIS L1913 6.1(厚さ(A法))に基づき、20cm×20cmの試験片を3枚採取し、NAKAYAMA ERECTORIC IND Ltd.製の圧縮弾性率測定機を用いて、0.5kPaの加圧下で10秒後における各試験片の厚さを10箇所測り、その平均値を厚さ(mm)で表した。
【0052】
(7)密度(g/cm
前記(1)の目付と(6)の厚さのデータを用いて、 密度(g/cm)=目付(g/m)/厚さ(mm)×1(m)にて算出する。
【0053】
(8)乾熱収縮率(%)
試料をタテ10cm×ヨコ10cmの正方形に切断し採取した。温度が300℃の乾燥機内に入れ10分間放置し、取り出し室温まで冷却した後、タテ、ヨコの寸法を実測し、ヨコL1、タテL2とした。
(ヨコ)乾熱収縮率={(10−L1)/10}×100
(タテ)乾熱収縮率={(10−L2)/10}×100
にて、N=4の平均値を算出した。
【0054】
(9)切創抵抗値(N)
JIS T8052(ISO13997)に準じて測定した。
【0055】
すなわち、RIG社(カナダ)型式TDM−100の耐切創試験機を用いて、布帛の45度方向に10cm×4cmの小片を採取する。鋭利な刃物を押し当て、1分間20cmの速度で移動させる。押し圧力を変更し布帛が切断された圧力と切断長の関係から、切断長20mmにおける圧力ANを算出した。n数5回の平均値を採用した。
【0056】
[実施例1]
(高機能性繊維)
高機能性繊維として繊度が1.64dtex、繊維長さ5.08cmのポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー(登録商標)」)短繊維ファイバーを用いた。
【0057】
(ウエブ加工)
カード機によりウエブを製造し積層したシートを得た。
【0058】
(ニードルパンチ加工工程)
上記シートに、下記条件でニードルパンチ加工を施し短繊維不織布を得た。
【0059】
(ニードルパンチ加工条件)
ニードルパンチ:上針間欠型装置(有限会社大和機工製)
ニードル種類 :9バーブニードル(オルガン社製 FPD−1)
ニードル間隔 :10mm間隔1列に幅方向80針、長さ方向に40列
パンチング回数 :1分間に100回
シート移動速度 :1分間に1.2m
該短繊維をカード機に通過させてウエブを形成し、このウエブにニードルパンチを施し短繊維を絡合させて、目付109g/mの不織布を製造した。
【0060】
(プレス加工)
プレス加工装置として、油圧式3本カレンダー(由利ロール株式会社製、型式:H3CM、NoM−1738)設備を用いた。
【0061】
直径が約22cmの金属加熱ロールと直径が約30cmのペーパーロール、長さ60cmの一対のロールの間に前記短繊維不織布を表1に示した搬送速度およびロール圧力にて通過させ処理した。
【0062】
[実施例2、3、4]
実施例2を主体に詳細に説明するが、実施例3、4はニードルパンチ後の不織布の目付がそれぞれ1110g、2911gになるよう短繊維ファイバー量を変更し実施したものであり、その他は実施例2と同条件にて製造し、物性を測定した。
【0063】
(高機能性繊維)
高機能性繊維として繊度が1.64dtex、繊維長さ5.08cmのポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー(登録商標)」)短繊維ファイバーを用いた。
【0064】
(ウエブ加工)
カード機によりウエブを製造し積層したシートを得た。
【0065】
(ニードルパンチ加工工程)
上記シートに、下記条件でニードルパンチ加工を施し、目付が305g/m、の短繊維不織布を得た。
【0066】
(ニードルパンチ加工条件)
有限会社大和機工製:上針間欠型装置
ニードル種類 :9バーブニードル(オルガン社製 FPD−1)
ニードル間隔 :10mm間隔1列に幅方向80針、長さ方向に40列
パンチング回数 :1分間に200回
シート移動速度 :1分間に1.2m
該短繊維をカード機に通過させてウエブを形成し、このウエブにニードルパンチを施し短繊維を絡合させて、目付312g/mの不織布を製造した。
【0067】
(プレス加工)
プレス加工装置として、油圧式3本カレンダー(由利ロール株式会社製、型式:H3CM、NoM−1738)設備を用いた。
【0068】
直径が約22cmの金属加熱ロールと直径が約30cmのペーパーロール、長さ60cmの一対のロールの間に前記短繊維不織布を表1に示した搬送速度およびロール圧力にて通過させ処理した。
【0069】
[実施例5、6、7、8]
実施例2の条件をを基本とし、プレス加工の加熱温度条件変更(実施例5、6)、または、プレス線圧を変更(実施例7、8)した。
【0070】
(高機能性繊維)
実施例2と同一。
【0071】
(ウエブ加工)
実施例2と同一。
【0072】
(ニードルパンチ加工工程)
実施例2と同一。
【0073】
(プレス加工)
プレス加工装置として、実施例2と同様の油圧式3本カレンダー(由利ロール株式会社製、型式:H3CM、NoM−1738)設備を用いた。
【0074】
直径が約22cmの金属加熱ロールと直径が約30cmのペーパーロール、長さ60cmの一対のロールの間に前記短繊維不織布を表2に示したプレス加工条件にて通過させた。
【0075】
[比較例1]
比較例1として、低目付の場合を示した。
【0076】
(高機能性繊維)
高機能性繊維として繊度が1.64dtex、繊維長さ5.08cmのポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デユポン株式会社製「ケブラー(登録商標)」)短繊維ファイバーを用いた。
【0077】
(ウエブ加工)
カード機によりウエブを製造し積層したシートを得た。
【0078】
(ニードルパンチ加工工程)
上記シートに、下記条件でニードルパンチ加工を施し、目付が67.8g/m、の不織布を得た。
【0079】
(ニードルパンチ加工条件)
有限会社大和機工製:上針間欠型装置
ニードル種類 :9バーブニードル(オルガン社製 FPD−1)
ニードル間隔 :10mm間隔1列に幅方向80針、長さ方向に40列
パンチング回数 :1分間に50回
シート移動速度 :1分間に0.5m
該短繊維をカード機に低速で通過させてウエブを形成し、このウエブに低回転数のニードルパンチを施し短繊維を絡合させて、目付70.0g/mの不織布を製造した。
【0080】
(プレス加工)
プレス加工装置として、油圧式3本カレンダー(由利ロール株式会社製、型式:H3CM、NoM−1738)設備を用いた。
【0081】
直径が約22cmの金属加熱ロールと直径が約30cmのペーパーロール、長さ60cmの一対のロールの間に前記不織布を表1に示した搬送速度およびロール圧力にて通過させ処理した。
【0082】
[比較例2]
比較例2として、プレス加工を施さない場合を示した。
【0083】
(高機能性繊維)
実施例2と同一。
【0084】
(ウエブ加工)
実施例2と同一。
【0085】
(ニードルパンチ加工工程)
実施例2と同一。
【0086】
[比較例3]
比較例3として、高温・高圧プレス加工を施した場合を示した。
【0087】
(高機能性繊維)
実施例2と同一。
【0088】
(ウエブ加工)
実施例2と同一。
【0089】
(ニードルパンチ加工工程)
実施例2と同一。
【0090】
(プレス加工)
プレス加工装置として、油圧式3本カレンダー(由利ロール株式会社製、型式:H3CM、NoM−1738)設備を用いた。
【0091】
直径が約22cmの金属加熱ロールと直径が約30cmのペーパーロール、長さ60cmの一対のロールの間に前記短繊維不織布を表2の比較例3に示した搬送速度およびロール圧力にて通過させ処理した。
【0092】
[比較例4]
比較例4として、高目付の場合を示した。
【0093】
(高機能性繊維)
実施例2と同一。
【0094】
(ウエブ加工)
実施例2と同一。
【0095】
(ニードルパンチ加工工程)。
【0096】
ニードルパンチ後の目付が3150g/mの不織布を得た。
【0097】
(プレス加工)
プレス加工装置として、油圧式3本カレンダー(由利ロール株式会社製、型式:H3CM、NoM−1738)設備を用いた。
【0098】
直径が約22cmの金属加熱ロールと直径が約30cmのペーパーロール、長さ60cmの一対のロールの間に前記短繊維不織布を表2の比較例4に示した搬送速度およびロール圧力にて通過させ処理した。
【0099】
[評価結果]
実施例1、2、3、4で得られた表面硬質不織布と比較例1で得られた薄葉状不織布に対して、前記の方法により諸特性を測定し、表1各物性を示した。
【0100】
実施例は比較例に比べて突き刺し抵抗値、圧縮率、圧縮弾性率は極めて高く、さらに、耐通気度が優れている。これは、不織布の目付が大きく嵩高いので、不織布の表面のみが硬質化され、内層に嵩高性能を保持しているためである。また、比較例は目付が極度に小さく、嵩高性能はなく薄葉状の布帛であった。
【0101】
実施例5、6、7、8は加熱プレス条件を変更したものであるが、加熱温度が低いと突き刺し抵抗値が低く、高いと嵩高特性は下がる。また、プレス圧力が低いと突き刺し抵抗値が低く、高いと嵩高特性は下がり、加熱温度と同様の傾向になる。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】実施例2の表面の表層部を、走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて300倍に拡大して撮影した写真である。本発明の表(おもて)面表層部であって加熱プレス加工した部分であり、その短繊維径は図2の短繊維径に比べてやや太く、さらに、短繊維が交錯した部分の繊維径はさらに太くなっている。また、太くなった短繊維が交絡しているので表面は裏面に比べて短繊維間の隙間が狭く緻密化された構造である。
【図2】実施例2の裏面の表層部を、走査型電子顕微鏡(通称SEM)にて300倍に拡大して撮影した写真である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の不織布は、前記したように耐突き刺し抵抗値や耐通気度特性が高いことや、裏面や内層部は嵩高特性に優れていることから、ガラス工場などの作業手袋、帽子や前掛けなどに用いられる。
【0106】
ガラス工場以外では、溶接の火花や金属加工片の飛散防護、釘・ミシン針工場などのテキスタイル防護布帛や、旅行カバン、荷物運搬ケース、敷物のクッション、スペーサー、濾材、電池セパレータなどの資材用途に最適な材料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高機能性繊維を主成分とする目付が100〜3000g/mの短繊維不織布であって、突き刺し抵抗値が100〜1000g、圧縮率が15〜50%、通気性が0.1〜30cm/cm/secであることを特徴とする不織布。
【請求項2】
前記高機能性繊維がパラ系アラミド繊維からなることを特徴とする請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記短繊維不織布の表(おもて)面に位置する短繊維の一部または全部が扁平化されていることを特徴とする請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
前記短繊維不織布の表(おもて)面に位置する短繊維の繊維径が内層あるいは裏面に位置する短繊維の繊維径の1.3〜3.0倍であることを特徴とする請求項3に記載の不織布。
【請求項5】
請求項1〜4のずれかに記載の不織布の製造方法であって、高機能性繊維を主成分とする短繊維不織布に、ロール温度が室温〜300℃、ロール線圧力が10〜100kg/cmにて片面または両面に加熱プレス加工することを特徴とする不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−47857(P2010−47857A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211447(P2008−211447)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】