説明

不織布および自動車用内装材

【課題】石油資源の使用量を減少させ、大気中の二酸化炭素の増大を抑制しうる、バイオマス資源由来のエチレングリコールをグリコール成分として用いたポリエチレンテレフタレートからなる繊維を含む不織布、およびそれを用いた自動車用内装材を提供する。
【解決手段】バイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維を用いた不織布であって、そのポリエチレンテレフタレート繊維に含まれる1950年代の循環炭素中の放射性炭素(14C)濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の炭素の割合(実測バイオ化率)が、ポリマー中の全炭素原子に対して10%以上であることを特徴とする不織布であり、その引張強力は600N/50mm以上のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス資源由来の原料からなるポリエチレンテレフタレート繊維を用いた不織布および自動車用内装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載することがある。)は、機械的強度、化学的安定性および透明性等に優れていることから、繊維、シート状繊維構造物およびフィルムや容器等の成型品等として、最も多く使用されているポリマーである。
【0003】
PETは従来、石油から得られたテレフタル酸(以下、TPAと記載することがある。)と、エチレングリコール(以下、EGと記載することがある。)を、エステル化反応後、重縮合反応させて製造されている。
【0004】
従来のPETは、このように石油原料を用いていることから、焼却廃棄され大気中に化石資源からの二酸化炭素を排出する。
【0005】
一方で、サトウキビ、トウモロコシおよびサツマイモ等から得られる澱粉等を微生物で発酵させて得られたバイオエタノールから、EGを合成し、これをTPAと重縮合させて得られたポリエチレンテレフタレートが知られている(特許文献1参照。)。このようにバイオマス由来物質を原料としてなるPETは、石油原料を用いたPETと化学構造的に変わらないため、優れた物性を有する。また、バイオマス由来物質を原料としてなるPETは、焼却廃棄されても、バイオマス由来物質を使用している部分は、石油資源の使用量を抑制することに役立ち、仮に焼却処理して発生する二酸化炭素は、再び光合成によって植物に取り込まれることになり、大気中の二酸化炭素を増加させにくい材料である。
【0006】
このように、特許文献1では、バイオマス由来物質を原料としてなる繊維が開示されているが、強度や耐久性に優れ、自動車内装向けに好適に使用できる不織布の開示はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−91694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、石油資源の使用量を減少させ、大気中の二酸化炭素の増大を抑制し得る、バイオマス資源由来のエチレングリコールをグリコール成分として用いたポリエチレンテレフタレートからなる繊維を用いた不織布、およびそれを用いた自動車用内装材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決せんとするものであって、本発明の不織布は、バイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維を用いた不織布であって、該ポリエチレンテレフタレート繊維を構成するポリエチレンテレフタレートに含まれる1950年代の循環炭素中の放射性炭素(14C)濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の炭素の割合(実測バイオ化率)が、ポリマー中の全炭素原子に対して10%以上であることを特徴とする不織布である。
【0010】
本発明の不織布の好ましい態様によれば、前記のバイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維を用いた不織布は、ニードルパンチ不織布であって、そのニードルパンチ不織布の引張強力は600N/50mm以上である。
【0011】
本発明においては、前記の不織布を熱成型するなどして、自動車用内装材とすることができる。
【0012】
また、本発明の自動車用内装材は、鞘部が熱融着成分で芯部が骨格成分であるバイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート芯鞘型複合繊維と、バイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布であって、前記熱融着成分の溶融固化によって結合されてなる不織布が熱成型されてなる自動車用内装材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、PET素材としての石油資源の消費を削減することができるバイオマス由来のPET不織布が得られる。また、本発明の不織布は、ポリマー物性としては従来の化石資源由来のPETと化学構造が変わらないことから、繊維の強度や耐久性に優れ、耐熱性が高く、成型する際の伸び特性に優れた自動車用内装材用途において好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の不織布は、バイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維を用いた不織布であって、そのポリエチレンテレフタレート繊維を構成するポリエチレンテレフタレートに含まれる1950年代の循環炭素中の放射性炭素(14C)濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の炭素の割合(実測バイオ化率)が、ポリマー中の全炭素原子に対して10%以上であることを特徴とする不織布である。
【0015】
本発明の不織布に用いられるポリエチレンテレフタレート繊維を構成するPETは、エチレングリコールとテレフタル酸を主たる構成成分としてなるものであり、得られたPETの物性が損なわれない範囲において、他のモノマー成分を共重合させることができる。その場合、エチレンテレフタレートの繰り返し単位が80モル%以上であることが好ましい。
【0016】
上記の共重合可能な酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。具体的に、芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などが挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸などが挙げられ、脂環族ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられ、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸およびヒドロキシオクタン酸などが挙げられる。
【0017】
また、共重合可能なアルコール成分としては、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびビスフェノールAのエチレンオキシド付加体などの二価アルコールや、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールが挙げられる。
【0018】
本発明で用いられるポリエチレンテレフタレート繊維を構成するPETは、放射性炭素(14C)測定によるところのバイオマス由来炭素を、ポリマー中の全炭素に対して10.0%以上含有していることが必要である。
【0019】
本発明において、上記のPET中のバイオマス由来の炭素の含有割合が10.0%未満である場合、得られるPETとしては、石油資源の使用量削減や温室効果ガスの排出抑制の面では効果が乏しいものとなる。
【0020】
バイオマス由来の炭素の含有割合の上限値としては、理論上全てのエチレングリコールがバイオマス由来となった場合、ポリマー中の全炭素に対して20%となることから、20%以下であることが好ましい。
【0021】
次に、ポリマー中の全炭素原子に対して、1950年代の循環炭素中の放射性炭素(14C)の濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の炭素の割合(実測バイオ化率)」について説明する。
【0022】
放射性炭素14Cの濃度は、次の放射性炭素濃度測定法により測定することができる。
【0023】
放射性炭素濃度測定法とは、加速器質量分析法(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)により、分析する試料に含まれる炭素の同位体(12C,13C,14C)を、加速器により原子の重量差を利用して物理的に分離し、同位体原子それぞれの存在量を計測する方法である。炭素原子は、通常12Cであり、同位体である13Cは約1.1%存在している。14Cは、放射性同位体と呼ばれ、その半減期は約5370年で規則的に減少している。これらが全て崩壊するには、22.6万年を要する。地球の高層大気中では宇宙線が継続的に照射されつづけており、微量ではあるが、絶えず14Cが生成され放射壊変とバランスし、大気中では14Cの濃度はほぼ一定値(炭素原子の約一兆分の一)となっている。この14Cは、直ちに二酸化炭素の12Cと交換反応をおこし、14Cを含んだ二酸化炭素が生成する。植物は、大気中の二酸化炭素を取り込み光合成により成長するため、14Cが常に一定濃度で含まれることになる。
【0024】
これに対して、化石資源である石油、石炭および天然ガスにおいては、当初は含まれていた14Cが長い年月をかけて既に崩壊しており、ほとんど含まれていない。そこで14Cの濃度を測定することにより、バイオマス資源由来炭素をどの程度含んでいるのか、化石資源由来炭素をどの程度含んでいるのかを判別することができる。中でも、特に、1950年代の自然界における循環炭素中の14C濃度を100%とする基準を用いることが通常おこなわれ、標準物質としてシュウ酸(米国基準・科学技術協会NIST供給)が用いられ、下式のように表される値が求められる。この割合の単位としては、pMC(percent Modern Carbon)が用いられる。
pMC=(14sa1450)×100
1450:標準物質の14C濃度(1950年代の自然界における循環炭素中の14C濃度)
14sa:測定サンプルの14C濃度。
【0025】
現在、このようにして測定される大気中の14C濃度は、約110pMC(percent Modern Carbon)であることが測定されており、仮に100%バイオマス資源由来の物質であれば、ほぼ同じ110pMC程度の値を示すことが知られている。この値を100%の基準として求まる対象物質のpMCの割合(%)を、本発明でいう「ポリマー中の全炭素原子に対して、1950年代の循環炭素中の放射性炭素(14C)の濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の炭素の割合(実測バイオ化率)」と言う。
【0026】
一方、化石資源由来の物質を測定して求められる14C濃度(pMC)は、ほぼ0pMCであることが知られており、この場合、実測バイオ化率は0%となる。
【0027】
本発明でいう実測バイオ化率は、化石資源の減少および二酸化炭素の増大をより抑制するためには10%以上であることが必要である。
【0028】
実質バイオ化率は、好ましくは13%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。
【0029】
実質バイオ化率は、PETの原料である、テレフタル酸とエチレングリコールの内、エチレングリコールのバイオ化率によって決定される。理論上全てのエチレングリコールがバイオマス由来となった場合、ポリマー中の全炭素に対して20%となる。
【0030】
すなわち、実質バイオ化率10%以上とは、少なくとも50%以上のエチレングリコールがバイオマス由来であった場合に達成される。実質バイオ化率13%以上とは、65%以上のバイオマス由来エチレングリコールを使用すること、実質バイオ化率15%とは、75%以上のバイオマス由来エチレングリコールを使用することを意味する。
【0031】
本発明で用いられるPETとしては、固有粘度が0.50以上であることが好ましく、より好ましくは0.60以上である。本発明のPETにおける固有粘度が0.5未満である場合、繊維として使用する際、強度が不足する傾向がある。固有粘度の上限としては、特に規定しないが、工業的に実施する際には設備能力および経済性等を考慮して、1.2程度を上限とすることが好ましい。
【0032】
次に、バイオマス由来からなるEGについて述べる。
【0033】
バイオマス由来のEGは、サトウキビやトウモロコシ等の糖質を発酵させて得られるバイオエタノールを出発物質として用いることが好ましい。バイオエタノールを脱水し、エチレン合成し、エチレンを酸化して得られるエチレンオキサイドを加水分解することにより、バイオマス由来のエチレングリコールを得ることができる。
【0034】
一方TPAは、石油由来のTPAを用いる。一般的には、パラキシレンを酸化し、得られた粗テレフタル酸を精製することにより、高純度テレフタル酸(TPA)を得ることができる。
【0035】
本発明で用いられるPETは、次のような方法で製造することができる。例えば、バイオマス由来のEGなどのグリコール成分とTPAなどの酸成分を用いて通常の手法で重縮合する方法、石油由来のPETをバイオマス由来のモノマー成分で解重合した後、再度重縮合を行いバイオマス由来成分を導入する方法、およびバイオマス由来PETと石油由来のPETとをブレンド又はエステル交換させる方法などで、PETを製造することができる。
【0036】
次に、上記の通常の手法で重縮合する方法の場合について例示説明すると、まず、TPAとバイオマス由来のEGとを常法によってエステル化してポリエステル低重合体を得る。次いで、得られたこのポリエステル低重合体に、必要に応じて共重合モノマーを添加し、重縮合触媒の存在下で溶融重合を行うものである。
【0037】
また、本発明のPETの製造法としては、チップ状に成型された後、さらに重合度を上げたり、オリゴマーや不純物を減少させるため、必要に応じ、固相重合を行ってもよい。固相重合の方法としては、例えば、PETチップを150〜180℃の温度で1〜10時間加熱して予備乾燥させた後、190〜235℃、好ましくは200〜230℃の温度で、不活性ガス雰囲気下または減圧下で、好ましくは1〜30時間、より好ましくは5〜20時間加熱することにより行われる。
【0038】
また、本発明で用いられるPETは、発明の効果を損なわない範囲で、酸化チタン粉末のようなダル化剤、染料、顔料、蛍光増白剤、難燃化剤、吸湿剤、熱安定化剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、防カビ剤および消臭剤などを含んでいてもよい。
【0039】
次に、本発明で用いられるPET繊維の製造方法について説明する。
【0040】
本発明で用いられるPETを用いてPET繊維を製造する場合、好適には270〜300℃の高温で溶融したPETを紡糸口金から押し出し、押し出された糸条を冷却し延伸し、切断しあるいはそのまま巻き取り、PET繊維を得ることができる。
【0041】
本発明の不織布を構成するバイオマス由来成分からなるPET繊維は、横断面が丸断面でも異形断面でもよく、中空繊維や中実繊維であっても良い。繊維の単繊維繊度は、好ましくは2.2〜10dtexである。また、繊維長は、好ましくは5〜100mmであり、より好ましくは20〜80mmである。PET繊維には、捲縮が施され、機械捲縮や立体的なスパイラル形態であっても良い。
【0042】
次に、本発明の不織布の製造方法について、説明する。
【0043】
上記のようにして製造されたバイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維を、カード機で開繊させた後、積層して繊維ウェブを得る。得られた繊維ウェブを、ニードルパンチ機を用いて絡合させた後、熱処理装置に通して熱処理する。使用する熱処理装置としては、熱風循環ドライヤー、熱風貫流ドライヤー、サクションドラムドライヤーおよびヤンキードラムドライヤーなどを用いることができる。熱処理温度は、110〜170℃程度が好ましい。
【0044】
上記不織布の目付としては、50〜1000g/mが好ましい。目付が50g/m以下であると、ニードルパンチ法で製造することが困難となり、1000g/m以上であると、生産性が悪くなるばかりか、ニードルパンチの針折れなどの問題が発生しやすくなる。
【0045】
また、不織布厚みは、0.5〜10mmが好ましく、さらに自動車内装材としては、0.5mm〜5.0mmが好ましい範囲である。
【0046】
また、本発明では、鞘部が熱融着成分で芯部が骨格成分となるバイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート芯鞘型複合繊維と、バイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布とすることが好ましい態様である。熱により、鞘部の熱融着成分が溶融または軟化し、繊維相互間を結合するための接着成分として機能する。上記のポリエチレンテレフタレート芯鞘型複合繊維の単繊維繊度は、好ましくは2.2〜6.6dtexであり、繊維長は、好ましくは5〜100mmであり、より好ましくは20〜80mmである。
【0047】
上記の不織布中におけるポリエチレンテレフタレート繊維とポリエチレンテレフタレート芯鞘型複合繊維の混率(質量比)は、好ましくは20〜100:80〜0である。ポリエチレンテレフタレート芯鞘型複合繊維中の鞘部を形成している熱融着成分の溶融固化によって、ポリエチレンテレフタレート繊維およびポリエチレンテレフタレート芯鞘型複合繊維相互間は、結合されている。
【0048】
本発明の不織布の引張強力は、600N/50mm以上であることが好ましい。600N/50mm以下になると、自動車向けの成型時の破れやスケの原因となることがある。
【0049】
引張強力の上限値としては、好ましくは1200N/50mm以下である。1200N/50mm以上となると、不織布が伸びにくくなり、成型時に基材との接着性が悪化したり、成型後、成型品ゆがみの原因となることがある。
【0050】
上記の不織布の製造方法としては、バイオマス由来のPET繊維と同芯鞘複合繊維を混合して、カード機で開繊させた後、積層して繊維ウェブを得る。繊維ウェブをニードルパンチ機用いて絡合させた後、熱処理装置に通して熱処理する。使用する熱処理装置としては、熱風循環ドライヤー、熱風貫流ドライヤー、サクションドラムドライヤーおよびヤンキードラムドライヤーなどを用いることができる。熱処理温度は、110〜170℃程度が好ましい。
【0051】
上記不織布の目付としては、50〜1000g/mが好ましい。目付が50g/m以下であると、ニードルパンチ法で製造することが困難となり、1000g/m以上であると、生産性が悪くなるばかりか、ニードルパンチの針折れなどの問題が発生しやすくなる。
【0052】
また、不織布の厚みは、0.5〜10mmが好ましく、さらに自動車内装材としては、0.5mm〜5.0mmが好ましい範囲である。
【0053】
このようにして得られた不織布を用い熱成型することによって、自動車用内装材とすることができる。また、バイオマス由来のPET繊維と同芯鞘複合繊維からなる不織布を用いた自動車用内装材の製造方法としては、不織布とケナフ繊維と熱可塑性樹脂のフェルト、固綿など繊維基材を重ね合わせ、遠赤ヒーターなどの熱処理装置を用いて表面温度170〜220℃に加熱処理を行いその後、冷間プレスする方法や、PPシートなどの基材を、遠赤ヒーターを用いて170〜220℃に加熱した後、不織布と基材を一体化して冷間プレスする方法、およびウレタン基材と不織布を重ね合わせ、100〜150℃の温度で熱間プレスする方法などが好ましく用いられる。
【0054】
本発明において、熱成型を行うのは、不織布単体でもよいし、不織布に、織物、フィルムおよびスパンボンド不織布などの基材を積層した複合体であってもよい。
【0055】
自動車内装材として、成型後の最終的な不織布の厚みは、0.1mm〜2.0mmが好ましい範囲である。
【0056】
本発明のバイオマス由来成分からなるPET繊維を用いた不織布は、物性に優れ、大気中の二酸化炭素を増やしにくいことから、特に自動車用内装材へ好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
[測定方法]
(1)実測バイオ化率の測定方法
PETサンプルを、サンドペーパーおよび粉砕機を用いて粉砕した後、酸化銅と共に加熱し、完全に二酸化炭素まで酸化し、これを鉄粉でグラファイトまで還元することにより、炭素単一化合物に変換する。得られたグラファイトをAMS装置に導入し、ASTM−D6866法に基づいて測定した。標準物質であるシュウ酸(米国基準・科学技術協会NIST供給)を同時に測定し、標準物質の14C濃度を基準として14C濃度(pMC)を求めた。一方、100%バイオ由来のポリ乳酸の14C濃度(pMC)を同様の方法で求めた。このポリ乳酸の14C濃度(pMC)を100%の基準として、サンプルの実測バイオ化率を求めた。少数第1位以下は四捨五入した。100%を超えた場合は、100%とした。
【0058】
(2)引張強力
インストロン型引張試験機を用い、5cm×30cmかくの不織布をつかみ間隔150mm、引張速度200mm/分の条件で試験片が切断するまで荷重を加え、試験片の最大荷重時の強さgを0.1N単位で測定し、5回の平均値から算出した。
【0059】
(3)固有粘度
オルトクロロフェノールを溶媒として、25℃の温度で測定した。
【0060】
<参考例1>
石油由来のテレフタル酸とバイオマス(サトウキビ)由来のエチレングリコール(インディアグリコール社製)を、モル比1/1.6のスラリーとして重合反応容器中へ供給し、温度250℃、圧力50hPaGの条件で8時間反応させ、その後、酸成分1モルに対し、重合触媒の三酸化アンチモンを1.7×10−4モルを加え、重合反応容器中を減圧にして温度280℃、圧力0.67hPaで2時間重合させ、固有粘度0.62バイオマス由来のPETを得た。
【0061】
得られたバイオマス由来PETは、減圧乾燥後、紡糸温度280℃、吐出量310g/分で、400ホールの口金から紡糸速度1000m/分で溶融紡糸を行い、未延伸糸を採取した。得られた未延伸糸を集合し(トータル繊度27万dtex)、延伸倍率3.3倍、延伸温度80℃で延伸し、スタッフィングボックスで捲縮を付与した後、長さ51mmに切断して、単繊維繊度3.3dtex、強度3.8cN/dtex、伸度58%の短繊維1を得た。
【0062】
<参考例2>
石油由来のテレフタル酸と、バイオマス(サトウキビ)由来のエチレングリコール(インディアグリコール製)と石油由来の1,4−プロパンジオールが等モル%で混合されているジオール成分を、モル比1/1.6のスラリーとして重合反応槽へ供給し、常法のエステル交換および重縮合反応を行い、固有粘度0.60、融点182℃の共重合ポリエステルを得た。このようにして得られた共重合ポリエステルと、上記の参考例1で得られたバイオマス由来のPETとを原料とし、芯鞘型複合口金から、共重合ポリエステルが鞘部となりバイオマス由来のPETが芯部となるように配し、かつ、芯鞘比(質量比)が芯部:鞘部=1:1となるように400ホールの口金から紡糸温度280℃、紡糸速度1000m/分で溶融紡糸して、未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を集合し(トータル繊度27万dtex)、延伸倍率3.1倍、延伸温度80℃で延伸糸、スタッフィングボックスにて捲縮を施した後、長さ51mmにカットして、単繊維繊度2.2dtex、強度2.0cN/dtex、伸度40%、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート芯鞘型複合繊維1を得た。
【0063】
[実施例1]
参考例1で得られた短繊維1をメタルカードマシンに投入し、紡出量20g/mで短繊維が交絡したフリースを紡出し、フリースを8枚重ね、目付が160g/mとなるように調整した。
【0064】
積層したフリースを、針番手#38番、針深度15mm、1回目の針密度42本/cmのニードルパンチ機を用いて8回表裏から交互にパンチし、合計針本数336本/cm、最終目付145g/mのニードルパンチ不織布1を得た。得られたニードルパンチ不織布の物性を、表1に示す。
【0065】
得られたニードルパンチ不織布は、バイオマス由来炭素の比率が20.0%であり、強度に優れ、表面温度200℃に加熱したPPシートと不織布を積層し、冷間プレスにて成型したところ、破れやスケのない成型品を得ることができ、自動車用内装材として好適に使用できるものであった。
【0066】
[実施例2]
参考例1で得られた短繊維1と参考例2で得られたポリエステル系芯鞘型複合繊維1を、(質量比)1:1の割合で混綿し、実施例1と同様にニードルパンチ不織布を製造した後、ピンテンター型熱処理機で150℃の温度で2分間加熱をして、芯鞘型複合繊維を溶融させ、ニードルパンチ不織布2を得た。得られたニードルパンチ不織布は、バイオマス由来炭素の比率が15.0%であり、強度に優れ、表面温度200℃に加熱したPPシートと不織布を積層し、冷間プレスにて成型したところ、破れやスケのない成型品を得ることができ、自動車内装材として好適に使用できるものであった。結果を表1に示す。
【0067】
[比較例1]
公知の方法で得られた単繊維繊度3.3dtex、強度3.8cN/dtex、伸度58%の石油由来PETからなる短繊維を用いて、実施例1と同様にして、ニードルパンチ不織布2を得た。得られた不織布は、バイオマス由来炭素の比率が0%であった。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維を用いた不織布であって、該ポリエチレンテレフタレート繊維を構成するポリエチレンテレフタレートに含まれる1950年代の循環炭素中の放射性炭素(14C)濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の炭素の割合(実測バイオ化率)が、ポリマー中の全炭素原子に対して10%以上であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
バイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維を用いたニードルパンチ不織布であって、該不織布の引張強力が600N/50mm以上であることを特徴とする請求項1記載の不織布。
【請求項3】
請求項1または2記載の不織布が熱成型されてなる自動車用内装材。
【請求項4】
鞘部が熱融着成分で芯部が骨格成分であるバイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート芯鞘型複合繊維と、バイオマス由来成分からなるポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布であって、前記熱融着成分の溶融固化によって結合されてなる不織布が熱成型されてなる自動車用内装材。

【公開番号】特開2013−11028(P2013−11028A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142727(P2011−142727)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】