説明

不織布の着色方法

【課題】デザインの自由度が高く、且つ、摩擦堅牢度に優れた着色不織布を提供する
【解決手段】樹脂粉31に着色剤32を含有させた着色パウダー30を、バインダー樹脂20を介して不織布の表面に固着させる。これにより、複数色の着色や部分的な着色を容易に行うことができるため、デザインの自由度が大幅に広がる。また、着色剤32は樹脂粉31の内部に含まれているため、着色剤32がバインダー樹脂20の表面に存在する界面活性剤と接触することはほとんどない。従って、着色剤32が着色パウダー30から遊離することが防止され、摩擦堅牢度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布を着色するための方法であって、特に、繊維を交絡させてなる不織布の着色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は、自動車用内装材や産業資材、衛材等、幅広い用途に使用される。不織布の表面(意匠面)は、通常は不織布を構成する繊維そのものの色となっているが、デザインの観点から表面に着色を施すことがある。しかし、一般に、不織布の表面をきれいに着色することは困難であり、特にニードルパンチ不織布のように繊維を交絡させてなる不織布は、繊維が無作為に交絡しているため、表面が粗く、着色が施しにくい。
【0003】
例えば特許文献1には、繊維自体に着色を施すことで、不織布を着色する方法が示されている。
【0004】
また、特許文献2には、着色剤及びバインダー樹脂粉を水に分散させた分散液を、パッディング法、スプレー法、あるいはローラタッチ法等の手段により不織布表面に付与することで着色する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−260314号公報
【特許文献2】特開平9−13276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のように繊維自体に着色すれば、不織布自体の色を変えることができるため、不織布表面の粗さに関わらず着色することができる。しかし、このように繊維自体に着色を施す方法では、着色が必要ではない内部の繊維にまで着色が施されるため、着色剤の使用量が増えて不経済である。また、繊維自体に着色を施す方法では、表面の風合いに変化をつけにくいため、単調なデザインに限られてしまう。例えば、自動車のフロアマット等では、高級感のある着色が求められることがあるが、上記の着色方法では対応しにくい。
【0007】
また、上記特許文献2に示されている方法のうち、パッディング法は、分散液内に不織布を通過させるものであるため、繊維自体を着色する特許文献1の着色方法と得られる風合いが類似しており、新たな風合いを提供するものではない。スプレー法は、不織布表面に均一に散布することが難しいため、着色が不均一になる恐れがある。ローラタッチ法は、高価なローラが必要となり、特に複数色で着色する場合は一色ごとに異なるローラが必要となるため、コスト高を招くこととなる。
【0008】
さらに、上記特許文献2ような方法、すなわち、着色剤及びバインダー樹脂粉を含む分散液を表面に付与する方法で着色された不織布は、摩擦堅牢度が低く、不織布表面に物体(例えば人の手)が接触したときに、その物体に不織布の色が写るという問題がある。この理由は明らかに解明されていないが、およそ以下のように推定される。すなわち、上記の分散液を不織布表面に付与すると、繊維110上にバインダー樹脂粉121が付着し(図6参照)、このバインダー樹脂粉121同士が融着して造膜することにより、繊維110同士が固着される(図7参照)。バインダー樹脂粉121同士が融着する際、バインダー樹脂粉121間に付着した着色剤130(図6参照)が、バインダー樹脂粉121同士の固着面Pに取り込まれ(図7参照)、着色剤130を内部に含んだバインダー樹脂120が不織布100に定着して不織布100が着色される。このとき、バインダー樹脂粉121を分散液中で均一に分散させるために、通常、分散液には界面活性剤が混入される。この界面活性剤がバインダー樹脂粉121の表面に付着することにより、バインダー樹脂粉121間の境界部Pには界面活性剤が存在することとなる。従って、境界部Pに取り込まれた着色剤130は界面活性剤と接触するため、着色剤130がバインダー樹脂120から遊離しやすくなり、不織布100と接触する物体(被接触体)に色が写りやすくなる。特に、被接触体が濡れている場合は、より色が写りやすくなる。
【0009】
本発明の課題は、今までに無い新しい風合いを付与することができる不織布の着色方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の課題は、摩擦堅牢度に優れた不織布の着色方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、繊維を交絡させてなる不織布を着色するための方法であって、樹脂粉に着色剤を含有させてなる着色パウダーを、界面活性剤を混合した水中に分散させて分散液を作成する工程と、該分散液を発泡させる工程と、発泡させた分散液を不織布の表面に塗布する工程とを含む不織布の着色方法を提供する。
【0012】
このように、樹脂粉に着色剤を含有させてなる着色パウダーを用いることにより、繊維自体を着色する方法(上記特許文献1)や、着色剤をそのまま処理液中に分散させる方法(上記特許文献2)とは異なる風合いで不織布を着色することができる。例えば、比較的大きな着色パウダーを不織布表面に均一に分散させれば、表面に細かい着色点が散在した不織布を得ることができる。
【0013】
また、着色パウダーを水中に分散させた分散液を発泡させることで、分散液を不織布の表面に均一に塗布しやすくなり、これにより着色パウダーを不織布表面に均一に分散させることが容易にできる。
【0014】
さらに、着色剤は樹脂粉の内部に含まれているため、着色剤が界面活性剤と接触することはほとんどない。従って、着色剤が着色パウダーから遊離することを防止でき、摩擦堅牢度に優れた着色不織布を得ることができる。
【0015】
上記の着色方法は、例えばニードルパンチにより繊維を交絡させた不織布の着色に好適に適用できる。
【0016】
上記の着色方法において、不織布に発泡させた分散液を塗布した後、該不織布にプレス加工を施せば、表面平滑性が向上し、さらに異なる風合いの不織布を得ることができる。また、プレス加工により着色パウダーを繊維に固着することができるため、バインダー樹脂を用いなくても着色を施すことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の着色方法によれば、従来の方法では得られない風合いを奏することができ、且つ、摩擦堅牢度に優れた不織布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】着色不織布の斜視図である。
【図2】着色不織布の拡大断面図である。
【図3】図2をさらに拡大した断面図である。
【図4】(a)は分散液を示す図、(b)は発泡分散液を示す図である。
【図5】不織布表面に発泡分散液を供給する工程を示す斜視図である。
【図6】従来の不織布にバインダー樹脂粉及び着色剤を付着させた様子を示す拡大断面図である。
【図7】図6のバインダー樹脂粉同士が融着した状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明の一実施形態に係る方法で着色される着色不織布1は、図1に示すように、不織布10の表面に、着色パウダー(図中に散点で示す)を固着させたものである。着色パウダー30は、図2に示すように、不織布10を構成する繊維(図示例では短繊維11)に、バインダー樹脂20を介して固着される。
【0021】
不織布10は、無数の繊維同士を互いに交絡させて形成される。本実施形態の不織布10は、短繊維11をシート状にしたウェブを形成し、必要に応じてこのウェブを積層した後、鉤を有する針で何度も突き刺すことで繊維同士を交絡させて成形する、いわゆるニードルパンチ法により形成される。この他、高圧細水流で交絡させるスパンレース法や、編むような操作を加えることで繊維同士を結合するステッチボンド法で、不織布10を形成することもできる。また、上記のような乾式法に限らず、短繊維を水中で攪拌した後、金網等で抄くことでシート状にする湿式法で不織布10を形成することもできる。
【0022】
短繊維11としては、例えばポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、アセテート繊維、ポリスチレン繊維、あるいはこれらの材料を混合した繊維を使用することができる。このうち、成形性の観点からは、融点の高いポリエステル繊維が好適に使用され、耐久性の観点からは、ポリエステル繊維やポリアミド繊維が好適に使用され、バインダー樹脂20との固着性の観点からはポリアミド繊維が好適に使用される。特に、ニードルパンチで不織布10を形成する場合は、短繊維11が、針で交絡させるときに損傷しない程度の強度を有する必要があり、また、汎用性の点からも、ポリエステル繊維が好適に使用できる。短繊維11の長さは、短すぎると繊維同士を交絡させにくくなり、長すぎると繊維の攪拌がしにくくなるため、例えば、30〜100mm、好ましくは50〜80mmの範囲内に設定することがのぞましい。また、短繊維11の直径は、小さすぎるとニードルパンチにより損傷する恐れがあり、太すぎると剛性が高すぎて交絡させにくくなるため、例えば2〜35dtex、好ましくは3〜20dtexの範囲内に設定することが望ましい。
【0023】
着色パウダー30は、図3に示すように、樹脂粉31に着色剤32を含有させてなる。樹脂粉31の材料としては、例えばポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。樹脂粉31に含まれる着色剤32は、顔料や染料の何れでも採用でき、例えば無機顔料や有機顔料(アゾ顔料等)を使用することができる。
【0024】
不織布10への着色は、以下のようにして行われる。
【0025】
まず、図4(a)に示すように、界面活性剤を混合した水中に、バインダー樹脂粉21及び着色パウダー30を分散させ、分散液40を作成する。バインダー樹脂粉21の材料には、例えばアクリル樹脂が使用される。
【0026】
次に、図4(b)に示すように分散液40を発泡させる。この発泡分散液41を、図5に示すように不織布10の表面に供給した後、発泡分散液41をヘラ50等で均一に押し広げる。このように着色パウダー30を分散させた発泡分散液41を不織布10に塗布することにより、例えば不織布表面に振り落としやスプレー法で着色パウダーを吹き付ける方法と比べて、不織布10の表面に着色パウダー30を均一に分散させることが容易に行える。
【0027】
その後、発泡分散液41を乾燥させ、発泡分散液41中の水を蒸発させる。これにより、複数のバインダー樹脂粉21が短繊維11の交絡部で造膜してバインダー樹脂20となり、短繊維11同士を固着する。これと同時に、着色パウダー30がバインダー樹脂20を介して短繊維11に固着され、着色不織布1が完成する(図2参照)。
【0028】
このように、着色剤32を含む着色パウダー30を不織布10の表面に固着させることにより、表面が着色剤32で着色された着色不織布1を得ることができる。図1では、着色パウダー30を不織布10の表面にランダムに分散させた例を示しており、例えば金色等の光を反射しやすい色の着色剤を用いれば、表面が所々光って豪華なデザインの着色不織布1を得ることができる。この着色不織布1を自動車用内装材(例えばフロアマットなど)として使用すれば、車内の高級感を増すことができる。また、分散液40に、異なる色の複数種の着色パウダー30を混入させれば、不織布10を任意の色に着色することができる。
【0029】
また、着色不織布1では、着色剤32が樹脂粉31で覆われているため、バインダー樹脂粉21の境界部Pに界面活性剤が存在しても、着色剤32は界面活性剤とほとんど接触せず、着色剤32の着色パウダー30からの遊離を防止できる。このとき、着色パウダー30の表面に露出した着色剤32は、界面活性剤と接触する可能性はあるが、微量であるため問題とはならない。これにより、着色不織布1は優れた摩擦堅牢度を有し、着色不織布1の表面に物体が接触しても、その物体に色が写ることはほとんどない。
【0030】
ところで、着色パウダー30の直径が小さすぎると、短繊維11間の隙間から不織布1の内部に入り込んで不織布1の表面に着色パウダー30が露出せず、不織布1の表面が着色されない恐れがある。従って、着色パウダー30の直径は、短繊維11間に形成される隙間よりも大きく設定することが望ましい。短繊維11間の隙間は、短繊維11の直径や、短繊維11の目付け量、あるいは短繊維11同士の交絡態様等の条件により異なるが、着色パウダー30の直径を短繊維11の直径よりも大きくしておけば、上記のような不具合は回避できる。
【0031】
本発明の着色方法は上記に限られず、例えば、着色パウダー30を固着した後に、プレス加工(例えばカレンダー加工)を施してもよい。これにより、着色不織布1の表面が平滑化され、さらに異なる風合いを奏することができる。また、プレス加工を施すことにより、着色パウダー30を、バインダー樹脂20を介してではなく、直接短繊維11に固着することができる。このため、短繊維11同士の固着力に問題がなければ、バインダー樹脂20を省略することもできる。
【実施例】
【0032】
本発明による効果を確認するため、本発明に係る方法で着色した実施品(製品番号:A−08417)と、従来の方法で不織布表面を着色した比較品(製品番号:3600G−3B−2)とを準備し、乾摩擦堅牢度試験、湿摩擦堅牢度試験、及びテーバ摩耗試験を行った。実施品は、上記実施形態に係る方法で着色したものであり、比較品は、バインダー樹脂に直接顔料を混入させたもの(図7参照)である。尚、実施品は、着色パウダーを含む発泡分散液の塗布量が30g/m2であるもの(実施品1)、及び50g/m2であるもの(実施品2)の2種類を用意した。
【0033】
乾摩擦堅牢度試験は、JIS L 0849に規定されている方法で行った。具体的な手順を以下に示す。
(1)30×250mmの試験片を上記JIS規定の摩擦試験機II型に弛みがないにように取り付ける。
(2)試験機の摩擦子に50×50mmの白綿布をかぶせ、付属の治具で固定する。
(3)摩擦子に1.96Nの荷重をかけて、試験片100mmの間を往復30回/minの早さで100回摩擦する。
(4)試験終了後、摩擦子にかぶせた白綿布を外し、白綿布の汚染状態を検査する。汚染状態の検査は、汚染の度合いを汚染用グレースケールを用い、表1の判定基準により判定する。
【0034】
【表1】

【0035】
湿摩擦堅牢度試験は、白綿布を湿らす以外は上記の乾摩擦堅牢度試験と同様に行った。具体的には、白綿布を人口汗液に10分間浸した後、軽く絞って速やかに摩擦子にかぶせ、その他の方法及び装置は上記の乾摩擦堅牢度試験と同様とした。
【0036】
テーバ摩耗試験は、JIS L 1096に規定されている摩擦強さ試験のD法(テーバ形法)により行った。具体的な手順を以下に示す。
(1)直径120mmの円形試験片の中央部に、直径約6mmの穴を開ける。
(2)試験片を、テーバ形摩耗試験機に取り付ける。
(3)摩耗輪により試験片に4.9Nの荷重を加えながら、300回転摩耗を行う。このとき、摩耗輪の削りかすが残らないように吸引を行う。
(4)試験終了後、試験片の表面の摩耗状態を観察し、表2の判定基準及び標準見本にて判定を行う。
【0037】
【表2】

【0038】
試験結果を表3に示す。この試験結果より、本発明の着色方法によれば、乾摩擦堅牢度および湿摩擦堅牢度に優れた不織布が得られることが確認された。また、本発明の方法で着色された実施品は、比較品と比べて、糸引き性にも優れていることが明らかとなった。
【0039】
【表3】

【符号の説明】
【0040】
1 着色不織布
10 不織布
11 短繊維
20 バインダー樹脂
21 バインダー樹脂粉
30 着色パウダー
31 樹脂粉
32 着色剤
40 分散液
41 発泡分散液
P 境界部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を交絡させてなる不織布を着色するための方法であって、
樹脂粉に着色剤を含有させてなる着色パウダーを、界面活性剤を混合した水中に分散させる工程と、該分散液を発泡させる工程と、発泡させた分散液を不織布の表面に塗布する工程とを含む不織布の着色方法。
【請求項2】
不織布が、ニードルパンチにより繊維を交絡させたものである請求項1記載の不織布の着色方法。
【請求項3】
発泡させた分散液を不織布に塗布した後、該不織布にプレス加工を施す請求項1又は2記載の不織布の着色方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−174404(P2010−174404A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18211(P2009−18211)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(504240326)トーア紡マテリアル株式会社 (9)
【Fターム(参考)】