説明

不織布の製造方法

【課題】嵩高で風合いの良好な不織布を製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】熱融着性繊維を含むウエブ40を一対のエンボスロール21,22によって挟圧し、エンボス部41が形成されたエンボスシート42を形成し、次いでエンボスシート42を加熱する不織布43の製造方法である。エンボスロール21,22はその周面が凹凸形状となっており、一方のエンボスロール21の凸部に対応して他方のエンボスロール22の凸部が形成されている。ウエブ40の挟圧時に一方のエンボスロール21の凸部と他方のエンボスロール22の凸部とが常に対向するように両エンボスロール21,22の回転が制御されている。エンボスシート42の中央域を支持部材で支持することなく該エンボスシート42を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布の製造方法に関する。本発明の方法に従い製造された不織布は、例えば衛生物品の構成材料として特に有用である。
【背景技術】
【0002】
周面に複数の凸部が形成された一対のエンボスロールを、それらの凸部が常に対向するように位置合わせをして回転させ、該ロール間に複数のシートを通して挟圧し接合凹部を形成する技術が知られている。この技術は、いわゆるチップ・トゥ・チップのエンボス加工として知られている。そのような技術の一例として、特許文献1に記載のエンボスロールが挙げられる。このエンボスロールにおいては、一方のロールの凸部の頂面と、この凸部に対応する他方のロールの凸部の頂面とが、回転軸に沿う方向又はロールの周方向に関して大きさが異なっている。具体的には、一方のロールの凸部の頂面が、回転軸に沿う方向の両方の側において、他方の凸部の頂面よりも外側にはみ出しているか、又は他方のロールの凸部の頂面が、ロールの周方向の両方の側において、一方の凸部の頂面よりも外側にはみ出している。同文献の記載によれば、前記の構成のロールを用いることで、接合凹部の強度低下を防ぐことができるとされている。しかし、同文献に記載の技術は、複数枚のシートを接合するときの強度向上を目的とするものであり、風合いの良好な不織布を得る観点からの検討は何らなされていない。
【0003】
エンボス加工に関する技術とは別に、本出願人は先に、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維を含む不織布及びその製造方法を提案した(特許文献2及び3参照)。この繊維を用いウエブを形成し、そのウエブに部分的に多数の結合点で結合した後に、熱を付与することで、結合点間の繊維が伸長して凹凸構造体が形成される。しかし、これらの文献に記載されている結合点の形成方法は、平滑ロールとエンボスロールとの組み合わせによるエンボス加工なので、平滑ロールから受ける熱によって得られる不織布の風合いが低下する場合がある。
【0004】
【特許文献1】特開2008−132631号公報
【特許文献2】特開2005−350836号公報
【特許文献3】特開2007−130800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前述した従来技術よりも各種の性能が更に向上した不織布を製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱融着性繊維を含むウエブを一対のエンボスロールによって挟圧し、複数のエンボス部が形成されたエンボスシートを形成し、次いで該エンボスシートを加熱する不織布の製造方法であって、
前記の各エンボスロールはその周面が凹凸形状となっており、一方のエンボスロールの凸部に対応して他方のエンボスロールの凸部が形成されており、
前記ウエブの挟圧時に一方のエンボスロールの凸部と他方のエンボスロールの凸部とが常に対向するように両エンボスロールの回転が制御されており、
前記エンボスシートの中央域を支持部材で支持することなく該エンボスシートを加熱する不織布の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、嵩高で風合いの良好な不織布を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の製造方法に好適に用いられる装置が模式的に示されている。図1に示す製造装置10は、大別してエンボス加工部20と、熱風吹き付け部30とを備える。以下、各部の詳細について説明する。
【0009】
エンボス加工部20は、第1エンボスロール21及び第2エンボスロール22からなる一対のエンボスロールを備えている。各エンボスロール21,22は、互いの回転軸を平行に揃えつつ外周面を対向させて互いに反対方向に回転するようになっている。各エンボスロール21,22は、ヒータ(図示せず)を備えており、該ヒータによって必要に応じ第1エンボスロール21及び/又は第2エンボスロール22を加熱できるようになっている。
【0010】
各エンボスロール21,22の周面は凹凸形状となっている。第1エンボスロール21における凹凸形状の凸部及び凹部は規則的に配置されている。第2エンボスロール22における凹凸形状の凸部及び凹部は、第1エンボスロール21における凸部及び凹部に対応して形成されている。
【0011】
各エンボスロール21,22における凸部は、散点状に配置されたドット状のものでもよく、あるいは、ロールの軸線方向又は周方向に延びる突条でもよい。凸部がドット状のものである場合、平面視における凸部の形状は、例えば円形、楕円形、多角形、星形等の様々な形状とすることができ、またそれらの組み合わせとすることもできる。凸部が突条である場合、該突条は直線状でもよく、あるいは曲線状でもよい。
【0012】
各エンボスロール21,22における凸部の大きさやその個数、配置密度等は、得られる不織布の風合いや強度に関係している。実用に耐え得る強度を確保しつつ、良好な風合いの不織布を得る観点から、凸部の大きさは、該凸部がドット状である場合、平面視において0.2〜20mm2、特に0.8〜3.0mm2であることが好ましい。また、ロールの周面全体の見掛けの面積に対する凸部の平面視での面積の総和の割合(凸部面積率)は8〜25%、特に10〜15%であることが好ましい。本発明の製造方法によれば、風合いの良好な不織布が得られるので、凸部面積率を高くして不織布の強度を高めても、不織布の風合いが損なわれにくいという利点がある。
【0013】
各エンボスロール21,22における凸部の形状及び大きさ等に関しては、先に述べた特許文献1に記載のように、ロール21,22において異ならせることも可能であるが、最終的に得られる不織布の嵩高感や風合いを良好にする観点からは、各エンボスロール21,22における凸部の形状及び大きさ等は同じであることが好ましい。
【0014】
熱風吹き付け部30はフード31を備えている。フード31内には、一対の熱風の吹き出し装置32,33が配置されている。各吹き出し装置32,33は、複数のノズル34,35を備えている。両吹き出し装置32,33は、それらに備えられたノズル34,35が互いに対向するようにフード31内に設置されている。各ノズル34,35は、エンボスシートのほぼ前幅にわたって熱風が吹き付けられるように配置されている。
【0015】
以上の装置を用いた不織布の製造方法について説明すると、先ず原料となる繊維ウエブ40を製造する。繊維ウエブとは、構成繊維が緩やかに交絡しており、それ自体ではシートとしての保形性を有さない繊維集合体のことである。したがって、シートとしての保形性を有する不織布は、本発明に言うウエブに該当しない。繊維ウエブの製造には例えばカード機を用いることができる。また、エアレイド法やスパンボンド法によって繊維ウエブを製造することもできる。
【0016】
繊維ウエブ40には熱融着性繊維が含まれている。熱融着性繊維は、熱の付与によって繊維どうしが融着することが可能な繊維である。繊維ウエブ40は熱融着性繊維のみから構成されていてもよく、あるいは熱融着性繊維に加え、それ以外の種類の繊維が含まれていてもよい。後者の場合、熱融着性繊維以外の繊維の割合は繊維ウエブ40の重量に基づき20〜50重量%程度とすることができる。使用する繊維の種類や割合は、目的とする不織布の具体的な用途に応じて適宜決定することができる。熱融着性繊維以外の繊維としては、例えばレーヨン等の非熱融着性で、かつ親水性繊維等が挙げられる。
【0017】
特に繊維ウエブ40は、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維を含むことが好ましい。熱伸長性繊維が含まれていることによって、表面における凹凸の程度が顕著であり、かつ嵩高感の高い不織布を容易に得ることができるからである。熱伸長性繊維は熱融着性を有していてもよく、あるいは有していなくてもよい。熱伸長性繊維が熱融着性を有していると、該熱伸長性繊維のみを用いて不織布を得ることができるので好ましい。繊維ウエブ40に熱伸長性繊維が含まれている場合、繊維ウエブ40に占める熱伸長性繊維の割合が高いほど、表面における凹凸の程度が顕著であり、かつ嵩高感の高い不織布を一層容易に得ることができるので好ましい。
【0018】
繊維ウエブ40を構成する繊維の太さは本発明の製造方法において臨界的ではなく、目的とする不織布の具体的な用途に応じて適切な太さが選択される。一般に、繊度が1.0〜10dtex、特に2.0〜5.0dtexの繊維を用いることで、満足すべき特性を有する不織布が得られる。繊維ウエブ40を構成する繊維の長さも本発明において臨界的でない。例えば繊維長が64mm程度までの短繊維を原料として用いる場合には、カード機械を用いて繊維ウエブ40を製造したり、エアレイド法を用いて製造したりすればよい。長繊維を原料とする場合には、スパンボンド法を用いればよい。
【0019】
繊維ウエブ40に含まれる熱融着性繊維としては、高融点樹脂を芯とし、低融点樹脂を鞘とする芯鞘型複合繊維を用いることができる。また高融点樹脂と低融点樹脂からなるサイド・バイ・サイド型複合繊維を用いることもできる。
【0020】
繊維ウエブ40に熱伸長性繊維が含まれる場合、そのような繊維としては、先に説明した特許文献2及び3に記載されているものを特に制限なく用いることができる。これらの文献に記載されている熱伸長性繊維は、多成分系の複合繊維(芯鞘型複合繊維、サイド・バイ・サイド型複合繊維等)であり、熱融着性繊維でもある。熱伸長性繊維は、それを構成する多成分系の樹脂のうち、最も融点の低い樹脂における当該融点から10℃高い温度で測定された熱伸長率が3%以上、特に8%以上であることが、嵩高感の高い不織布を容易に得る点から好ましい。熱伸長率は、特許文献2に記載の方法に従い測定することができる。
【0021】
熱伸長性繊維における第1樹脂成分は該繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。第1樹脂成分はその配向指数が好ましくは30〜70%になっており、更に好ましくは30〜65%であり、より好ましくは30〜60%であり、特に好ましくは35〜55%になっている。一方、第2樹脂成分はその配向指数が好ましくは40%以上になっており、更に好ましくは50%以上になっている。第2樹脂成分の配向指数の上限値に特に制限はなく、高ければ高いほど好ましいが、70%程度であれば、十分に満足すべき効果が得られる。配向指数は、繊維を構成する樹脂の高分子鎖の配向の程度の指標となるものである。そして、第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数がそれぞれ前記の値であることによって、熱伸長性繊維は、加熱によって伸長するようになる。また、低熱量で高強度の融着点を形成することが可能となる。
【0022】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数は、熱伸長性複合繊維における樹脂の複屈折の値をAとし、樹脂の固有複屈折の値をBとしたとき、以下の式(1)で表される。
配向指数(%)=A/B×100 (1)
【0023】
固有複屈折とは、樹脂の高分子鎖が完全に配向した状態での複屈折をいい、その値は例えば「成形加工におけるプラスチック材料」初版、付表 成形加工に用いられる代表的なプラスチック材料(プラスチック成形加工学会編、シグマ出版、1998年2月10日発行)に記載されている。熱伸長性複合繊維における複屈折は、干渉顕微鏡に偏光板を装着し、繊維軸に対して平行方向及び垂直方向の偏光下で測定する。浸漬液としてはCargille社製の標準屈折液を使用する。浸漬液の屈折率はアッベ屈折計によって測定する。干渉顕微鏡により得られる複合繊維の干渉縞像から、以下の文献に記載の算出方法で繊維軸に対し平行及び垂直方向の屈折率を求め、両者の差である複屈折を算出する。
「芯鞘型複合繊維の高速紡糸における繊維構造形成」第408頁(繊維学会誌、Vol.51、No.9、1995年)
【0024】
上述の熱伸長率を有する熱伸長性繊維を得るためには、熱伸長性繊維の溶融紡糸後に、該繊維に対して捲縮処理を行い且つ延伸処理を行わないようにすればよい。溶融紡糸後に行われる捲縮処理としては、機械捲縮を行うことが簡便である。機械捲縮には二次元状及び三次元状の態様があり、また、偏芯タイプの芯鞘型複合繊維やサイド・バイ・サイド型複合繊維に見られる三次元の顕在捲縮などがある。本発明においては何れの態様の捲縮を行ってもよい。捲縮処理に際しては繊維が多少引き伸ばされる場合があるが、そのような引き延ばしは本発明にいう延伸処理には含まれない。本発明にいう延伸処理とは、未延伸糸に対して通常行われる延伸倍率2〜6倍程度の延伸操作をいう。
【0025】
熱伸長性繊維としては芯鞘型のものやサイド・バイ・サイド型のものを用いることができる。芯鞘型の熱伸長性繊維としては、同芯タイプや偏芯タイプのものを用いることができる。特に同芯タイプの芯鞘型であることが好ましい。この場合、第1樹脂成分が芯を構成し且つ第2樹脂成分が鞘を構成していることが、熱伸長性複合繊維の熱伸長率を高くし得る点から好ましい。第1樹脂成分及び第2樹脂成分の種類に特に制限はなく、繊維形成能のある樹脂であればよい。特に、両樹脂成分の融点差、又は第1樹脂成分の融点と第2樹脂成分の軟化点との差が10℃以上、特に20℃以上であることが、熱融着による不織布製造を容易に行い得る点から好ましい。熱伸長性繊維が芯鞘型である場合には、鞘成分の融点又は軟化点よりも芯成分の融点の方が高い樹脂を用いる。第1樹脂成分と第2樹脂成分との好ましい組み合わせとしては、第1樹脂成分をポリプロピレン(PP)とした場合の第2樹脂成分としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレンプロピレン共重合体、ポリスチレンなどが挙げられる。また、第1樹脂成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂を用いた場合は、第2成分として、前述した第2樹脂成分の例に加え、ポリプロピレン(PP)、共重合ポリエステルなどが挙げられる。更に、第1樹脂成分としては、ポリアミド系重合体や前述した第1樹脂成分の2種以上の共重合体も挙げられ、また第2樹脂成分としては前述した第2樹脂成分の2種以上の共重合体なども挙げられる。これらは適宜組み合わされる。これらの組み合わせのうち、ポリプロピレン(PP)/高密度ポリエチレン(HDPE)を用いることが好ましい。この理由は、両樹脂成分の融点差が20〜40℃の範囲内であるため、不織布を容易に製造できるからである。また繊維の比重が低いため、軽量で且つコストに優れ、低熱量で焼却廃棄できる不織布が得られるからである。
【0026】
熱伸長性繊維を含むと含まないとにかかわらず、繊維ウエブ40の坪量は本発明において臨界的でなく、目的とする不織布の具体的な用途に応じて適切な値が選択される。一般に20〜60g/m2程度の坪量とすることで満足すべき結果が得られる。
【0027】
繊維ウエブ40は、ワイヤーメッシュ等からなる支持体50上に載置されて搬送され、エンボス加工部20へ導入される。エンボス加工部20においては、所定の間隙を隔てて設置された一対のエンボスロール21,22の間に繊維ウエブ40が通されて、両ロール21,22による挟圧が行われる。一対のエンボスロール21,22においては、一方のエンボスロール21の凸部と他方のエンボスロール22の凸部とが常に対向するように両エンボスロール21,22の回転が制御されている。これによっていわゆるチップ・トゥ・チップのエンボス加工が施される。回転の制御は、当該技術分野において通常用いられている制御機器によって容易に行うことができる。
【0028】
チップ・トゥ・チップのエンボス加工によって繊維ウエブ40にはその各面に複数のエンボス部41が形成される。これによってエンボスシート42が得られる。得られたエンボスシート42は長尺帯状のものとなる。エンボスシート42においては、その一方の面に形成されたエンボス部41と、他方の面に形成されたエンボス部41とが、エンボスシート42の平面視において同位置に存在している。チップ・トゥ・チップのエンボス加工によれば、エンボスシート42はその各面が凹凸形状となるという利点がある。凹凸形状における凹部はエンボス部41に由来するものであり、凸部はエンボス部41以外の部位から構成されている。したがって、エンボスシート42においては、その一方の面に形成された凸部と、他方の面に形成された凸部とは、エンボスシート42の平面視において同位置に存在している。エンボス加工によってエンボスシート42の各面が凹凸形状になることは、最終的に得られる不織布を嵩高感の高いものとする観点から非常に有利である。
【0029】
また、チップ・トゥ・チップのエンボス加工によれば、エンボスシート42に形成される凸部を低繊維密度とすることができるので、最終的に得られる不織布の風合いが良好になるという利点もある。その上、チップ・トゥ・チップのエンボス加工によれば、繊維ウエブ40がロールの周面と接触する面積が小さくなるので、繊維が熱的なダメージを受けづらくなり、それによっても最終的に得られる不織布の風合いが良好になる。更に、製造上の観点からは、チップ・トゥ・チップのエンボス加工では、繊維ウエブ40がロールの周面に貼り付きにくいので、ドロー比を大きく設定する必要がなく、それに起因して寸法安定性が高くなるという利点もある。このような様々な利点を有するチップ・トゥ・チップのエンボス加工に対して、平滑ロールとエンボスロールとの組み合わせからなるエンボス装置を用いた一般的なエンボス加工では、ロール間で挟圧される繊維ウエブの繊維密度が高くなりやすく、それによって得られる不織布が硬くなりやすい傾向にある。また繊維ウエブがその全面において平滑ロールと接触するので、繊維が熱的なダメージを受けやすくなり、それによっても不織布が硬くなりやすい傾向にある。更に、繊維ウエブが平滑ロールに貼り付きやすい傾向にあるので、ドロー比を大きく設定する必要があり、それに起因して寸法安定性が低くなりやすい。
【0030】
エンボス加工部20における処理では、エンボスロール21,22の少なくとも一方を加熱する。加熱温度T1は、繊維ウエブ40に含まれている熱融着性繊維の融点Mp(℃)に対して〔Mp−20〕(℃)〜Mp(℃)とすることが好ましい。なお、熱融着性繊維が2種以上の樹脂からなる複合繊維である場合、融点Mpとは、最も融点の低い樹脂の当該融点を意味する。また、繊維ウエブ40に熱伸長性繊維が含まれている場合も同様に、加熱温度T1は、繊維ウエブ40に含まれている熱伸長性繊維の融点Mp(℃)に対して〔Mp−20〕(℃)〜Mp(℃)とすることが好ましい。この時点では、熱伸長性繊維の伸長はあまり生じていない。この理由は、(イ)エンボスロール21,22の凸部以外の部分から熱伸長性繊維への熱の伝わりが不十分であること、及び(ロ)この時点で熱伸長性繊維の融点Mp程度の温度で処理してもエンボスロール21の凹部に繊維が押さえられて、熱伸長性繊維の伸長が妨げられること等によるものである。したがって、エンボス加工部20における処理だけでは、嵩高い不織布を得るこはができない。
【0031】
前記の融点は、示差走査型熱分析装置DSC−50(島津社製)を用い、細かく裁断した繊維試料(サンプル質量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定し、その融解ピーク温度で定義される。
【0032】
エンボス加工部20における処理では、繊維ウエブ40に熱とともに圧力が加わる。圧力の程度は、目的とする不織布の具体的な用途に応じて適切な値が選択される。圧力の程度は、エンボスユニットのシリンダー圧力を調整することでコントロールできる。
【0033】
エンボス加工部20において形成されたエンボスシート42は、次いで熱風吹き付け部30へ搬送される。この場合、エンボスシート42は、ワイヤーメッシュ等からなる支持体に載置されることなく、非支持状態で搬送される。熱風吹き付け部30内に搬送されたエンボスシート42には、その両面から熱風の吹き付けが行われる。これによってエンボスシート42が加熱される。特に、エンボスシート42に熱伸長性繊維が含まれている場合には、加熱によってエンボス部41間に位置する凸部の熱伸長繊維が伸長する。伸長した繊維は、エンボス部41による規制によって行き場を失いエンボスシート42の厚み方向に向けて隆起する。これによって、熱風吹き付け前に比べて凸部の嵩高さが増加する。特に、エンボスシート42の両面から熱風が吹き付けられているので、該シート42の各面の凹凸の起伏が大きくなり、嵩高感が一層高まる。
【0034】
熱風吹き付け部30においては、エンボスシート42は、少なくともその中央域(幅方向の中央域)を何らの支持部材で支持することなく加熱されることが重要である。これによって、エンボスシート42の各面において熱伸長繊維の伸長が妨げられにくくなり、凹凸の起伏が一層大きくなる。この場合、エンボスシート42の全域を非支持状態としてもよいが、その場合には該シート42の搬送安定性が低下しやすいので、該シート42の長手方向に沿う両側縁部を、テンター等に用いられる把持部材で把持した状態で、該シート42を搬送することが有利である。
【0035】
エンボスシート42の各面からの熱風の吹き付けは、該シート42の走行安定性を確保する観点から、吹き付けの風量がほぼ等しくなるように行うことが好ましい。風量がほぼ釣り合っている場合には、熱風はエンボスシート42を実質的に貫通しない。エンボスシート42の中央域を非支持状態にして該シート42を搬送する場合には、下方から上方へ向けて熱風を吹き付ける吹き出し装置33の風量を、上方から下方へ向けて熱風を吹き付ける吹き出し装置32の風量よりも多くすることが、該シート42の安定走行の点から好ましい。
【0036】
エンボスシート42の各面に吹き付けられる熱風の温度もほぼ等しいことが好ましい。該シート42に各面における凹凸の状態が同程度になるからである。逆に、エンボスシート42の各面における凹凸の状態を意図的に変えたい場合には、該シート42の各面に吹き付けられる熱風の温度を違えるようにしてもよい。
【0037】
エンボスシート42に吹き付ける熱風の温度は、該シート42に含まれる熱伸長性繊維の融点との関係で決定される。具体的には、熱風の温度は、熱伸長性繊維の融点Mpに対して、〔Mp−20〕(℃)以上〔Mp+20〕(℃)以下の温度とすればよい。一層嵩高な不織布を得る場合には、熱伸長性繊維の融点Mp以上の温度の熱風を吹き付けることが好ましい。
【0038】
熱風吹き付け部30においては、主として熱伸長性繊維の伸長を行わせ、エンボスシート42に含まれている熱融着性繊維(熱伸長性繊維と同一の場合もある)の熱融着は実質的に生じさせないことが好ましい。尤も、先に行ったエンボス加工部20におけるエンボス部41の形成が不十分である場合には、熱風吹き付け部30において熱融着性繊維を再度熱融着させて、最終的に得られる不織布の強度を確保するようにしてもよい。
【0039】
以上の工程によって、目的とする不織布43が得られる。この不織布43は、その両面に複数のエンボス部41を有し、各面におけるエンボス部41は、不織布43の平面視において同位置に存在している。また不織布43は、その各面において、エンボス部41間に繊維密度の低い嵩高な凸部を有し、各面における凸部は不織布43の平面視において同位置に存在している。不織布43の嵩高さの程度は、その構成繊維にもよるが、荷重50Pa下における比容積が70〜100cm3/gという嵩高なものとなる。比容積は、荷重50Pa下における不織布43の厚みを、該不織布43の坪量で除すことで求められる。
【0040】
このようにして得られた不織布は、その良好な風合いや嵩高さの利点を生かして、例えば生理用ナプキンや使い捨ておむつ等の吸収性物品における着用者の肌に接する部材として好適に用いられる。そのような部材としては、例えば表面シートが挙げられる。また、表面シート以外に、表面シートと吸収体との間に配される部材であるサブレーヤーシートとして用いることもでき、更に吸収体の一部として用いることもできる。更に、吸収性物品以外の用途として、例えば手術衣、対人用清拭シート、スキンケア用シート、対物用ワイパーなどにも用いることができる。
【0041】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、エンボスシート42にその両面から熱風を吹き付けたが、これに代えて該シート42の一方の面のみから熱風を吹き付けてもよい。
【0042】
また前記実施形態においてはエンボスシート42を加熱するために熱風を吹き付けたが、これに代えて加熱源として赤外線等を用いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0044】
〔実施例1〕
下記の表1のAに示す樹脂成分において第1樹脂成分を芯とし、第2樹脂成分を鞘とする芯鞘型複合繊維を製造した。この繊維は、機械捲縮加工を施した後に、延伸加工を施したものであった。この芯鞘型複合繊維を切断し、繊維長51mmの短繊維を得た。得られた短繊維を用いて、カード機により、坪量40g/m2のウェブを作製した。得られたウェブを、図1に示す工程に付した。
【0045】
エンボス加工部20において用いた2つのエンボスロールは同じものである。凸部は菱形格子状の連続線柄となっており、凸部面積率は14%であった。両エンボスロールは、120℃に加熱して用いた。線圧は100kg/cmとした。エンボス加工はチップ・トゥ・チップとした。
【0046】
熱風吹き付け部30に搬送されるエンボスシート42は、その長手方向の両側部をテンターで把持した。エンボスシート42の幅方向中央域は非支持状態とした。エンボスシート42には、その各面に137℃に加熱された熱風を吹き付けた。熱風の風速は、2m/secであり、風量はエンボスシート42の各面で同じに設定した。このようにして、各面に凹凸形状が付与された不織布を得た。
【0047】
〔実施例2及び3〕
使用する繊維として、表1のB(実施例2)及びC(実施例3)に示すものを用いる以外は実施例1と同様にして、各面に凹凸形状が付与された不織布を得た。なお、実施例3で用いた繊維Cにおいては、機械捲縮加工を施した後に、延伸加工を施していないものであった。また、第1樹脂成分の配向指数は46%、第2樹脂成分の配向指数は41%であった。
【0048】
〔比較例1ないし3〕
実施例1〜3において、エンボスロールの片方を平滑ロールに変更した以外は、実施例1〜3と同様にして不織布を得た。
【0049】
【表1】

【0050】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた不織布について、以下の方法で風合いの評価を行った。また、上述の方法で荷重50Pa下における厚み及び同荷重下における比容積を求めた。それらの結果を表2に示す。
【0051】
〔風合いの評価〕
5人のパネラーに官能評価させた。不織布の表面を手の甲で軽くなで、また不織布を手のひらで軽く握り、滑らかさ及び柔らかさの程度を官能評価した。判定基準は以下の通りである。
○:不織布の両面が滑らかで柔らかい。
△:不織布の片面は滑らかで柔らかいが、もう片面はやや硬さがある。
×:不織布の両面が硬く、ざらつきがある。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例1〜3の結果から明らかなように、本発明の方法に従い不織布を製造することで、嵩高で、風合いの良好な不織布が得られることが判る。特に、実施例1及び2と実施例3との対比から明らかなように、熱伸長性繊維を用いて本発明の方法を実施すると、比容積が更に高くなり、嵩高さが増すことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明の方法を実施するために好適な製造装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0055】
10 製造装置
20 エンボス加工部
21,22 エンボスロール
30 熱風吹き付け部
31 フード
32,33 熱風の吹き出し装置
34,35 ノズル
40 繊維ウエブ
41 エンボス部
42 エンボスシート
43 不織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着性繊維を含むウエブを一対のエンボスロールによって挟圧し、複数のエンボス部が形成されたエンボスシートを形成し、次いで該エンボスシートを加熱する不織布の製造方法であって、
前記の各エンボスロールはその周面が凹凸形状となっており、一方のエンボスロールの凸部に対応して他方のエンボスロールの凸部が形成されており、
前記ウエブの挟圧時に一方のエンボスロールの凸部と他方のエンボスロールの凸部とが常に対向するように両エンボスロールの回転が制御されており、
前記エンボスシートの中央域を支持部材で支持することなく該エンボスシートを加熱する不織布の製造方法。
【請求項2】
前記ウエブが、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維を含み、前記エンボスシートの加熱によって該繊維を伸長させて、前記エンボス部間を隆起させる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記エンボスシートにその両面から熱風を吹き付けて加熱し、前記エンボスシートの各面において前記エンボス部間を隆起させる請求項2記載の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−138529(P2010−138529A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318000(P2008−318000)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】