説明

不織布シートおよびその製造方法

【課題】液体透過速度が速い不織布シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の不織布シートは、第1層と第2層の2層からなり、第1層に長さ方向へ平行して延びる複数条の隆起部と谷部とが形成されており、第1層は熱融着性繊維を含み、第2層は捲縮繊維を含み、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度が70度以下であることを特徴とする。この不織布シートは、潜在捲縮性繊維を含むウェブと熱融着性繊維を含むウェブを重ね合わせ、搬送しながら幅方向に並ぶ複数のノズルから流体を噴射して隆起部と谷部を形成し、潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用いて熱処理して潜在捲縮性繊維を捲縮させ、次いで熱融着性繊維を融着させることにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体透過速度が速い不織布シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、透液性の不織布において、幅方向に平行な断面における平均繊維角度を75度以下にすることで透過抵抗を低減し、透液性が改善されることを開示しており、その実施例には平均繊維角度が67.4〜74.7度の不織布が記載されている。特許文献1に開示された方法は、機械方向MDへ回転するサクションドラム上にウェブを固定し、所要寸法の間隔をあけて配置されたエア噴出用のノズル集合体にて隆起部、谷部を形成することで、隆起部における「平均繊維角度」を小さくするというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−30218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の不織布製造ラインの高速化によるラインテンションの増大により、不織布には常に受け渡し工程の安定化のために、機械方向(長さ方向)へのテンションがかかっている状態となり、機械方向へ回転するサクションドラム上にウェブを固定し、所要寸法の間隔をあけて配置されたエア噴出用のノズル集合体にて隆起部、谷部を形成するという手法において、エア噴出用のノズルからの加熱加圧空気の吹き付け風量を上げて、繊維を幅方向に幅寄せし、幅方向に平行な断面における平均繊維角度をさらに下げれたとしても、熱融着工程後に、ラインテンションによる引っ張り負荷により機械方向に負荷がかかり、シートが延伸された場合、従来例は芯鞘型複合繊維(熱可塑性樹脂)を主体として繊維交点の溶融固定にて形成されているため、繊維ネットワークにコイル状の三次元捲縮やエラストマーが存在していないので、一旦伸ばされた状態から回復する力を持っておらず、形成した隆起部が機械方向へ変形されることより、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度が大きくなり、透液性が低下してしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、熱融着性繊維を含むウェブに潜在捲縮性繊維を含むウェブを積層し、潜在捲縮性繊維が捲縮により長さ方向に収縮しようとする力に対する抗力が小さい状態で熱処理して潜在捲縮性繊維を捲縮させることにより、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度が小さい不織布シートが得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本件第1発明は、互いに直交する長さ方向と幅方向と厚さ方向とを有し、厚さ方向には上面と下面とを有し、上面には長さ方向へ平行して延びる複数条の隆起部と、隣り合う隆起部と隆起部の間において長さ方向へ延びる複数条の谷部とが形成されている不織布シートであって、
前記不織布シートは上面側の第1層と下面側の第2層の2層からなり、第1層は熱融着性繊維を含み、第2層は捲縮繊維を含み、
前記不織布シートを水平面に置いたときの隆起部の頂部を通る長さ方向に平行な断面に現れる第1層を構成する繊維が前記水平面に対する垂線と交差して作る90度を含む鋭角の交差角度と90度よりも大きい鈍角の交差角度とのうちの鋭角の交差角度の平均値である、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度が70度以下であることを特徴とする不織布シートである。
好ましくは、前記不織布シートを水平面に置いたときの幅方向に平行な断面に現れる第1層を構成する繊維が隆起部の頂部を通る前記水平面に対する垂線と交差して作る90度を含む鋭角の交差角度と90度よりも大きい鈍角の交差角度とのうちの鋭角の交差角度の平均値である、幅方向に平行な断面における平均繊維角度が65度以下である。
好ましくは、前記捲縮繊維がコイル状の三次元捲縮繊維である。
好ましくは、隆起部の厚みが0.3〜5mmであり、隆起部の頂部と谷部の底部との高低差が0.1〜3mmであり、隆起部の幅が1〜10mmであり、谷部の幅が0.5〜7mmである。
好ましくは、第1層の坪量が10〜100g/mであり、第2層5の坪量が5〜70g/mである。
好ましくは、捲縮繊維は、谷部と比較して隆起部に多く含まれている。
【0007】
本件第2発明は、
a)潜在捲縮性繊維を含む繊維の集合体をカード機に通して開繊し、潜在捲縮性繊維を含むウェブを形成する工程、
b)熱融着性繊維を含む繊維の集合体をカード機に通して開繊し、熱融着性繊維を含むウェブを形成する工程、
c)潜在捲縮性繊維を含むウェブと熱融着性繊維を含むウェブを重ね合わせ、積層ウェブを形成する工程、
d)積層ウェブを搬送しながら、積層ウェブの熱融着性繊維を含むウェブ側の面に、幅方向に並ぶ複数のノズルから流体を噴射し、前記積層ウェブに、長さ方向へ平行して延びる複数条の隆起部と、隣り合う隆起部と隆起部の間において長さ方向へ延びる複数条の谷部とを形成する工程、
f)潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用い、熱融着性繊維の融着温度よりは低いが潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する温度に、隆起部と谷部が形成されたウェブを加熱する工程、および
g)潜在捲縮性繊維が捲縮したウェブを、熱融着性繊維の融着温度以上の温度に加熱し、熱融着性繊維どうしを互いに交差している部位において融着させる工程
を含む、不織布シートを製造する方法である。
前記潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段は、好ましくは、直前の工程に比べて遅い搬送速度で搬送する方法である。
前記潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段は、好ましくは、フローティングドライヤーである。
好ましくは、工程dと工程fの間に、e)隆起部と谷部が形成されたウェブを工程fに搬送する工程を含む。
好ましくは、工程gの後に、h)熱融着性繊維どうしが融着したウェブを冷却する工程を含む。
【0008】
本件第3発明は、本件第1発明の不織布シートを表面シートとして含む吸収性物品である。
【発明の効果】
【0009】
本件第1発明の不織布シートは、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度が70度以下であるので、液体の透過が速い。
本件第2発明の不織布シートを製造する方法は、潜在捲縮性繊維を含むウェブと熱融着性繊維を含むウェブを重ね合わせ、潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用いて熱処理して潜在捲縮型繊維を捲縮させるので、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度が小さい不織布シートを得ることができる。
本件第3発明の吸収性物品は、液体の透過が速い表面シートを用いているので、表面シートの上に液がたまりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の不織布シートの拡大斜視図である。
【図2】図2は、本発明の不織布シートの幅方向における断面の拡大図である。
【図3】図3は、本発明の不織布シートの製造工程の一例を示す。
【図4】図4は、工程dで使用する幅方向に並ぶ複数のノズルを示す。
【図5】図5は、図3とは異なる工程dの一例を示す。
【図6】図6は、工程fで使用することができるフローティングドライヤーの一例を示す。
【図7】図7は、実施例1で製造した不織布シートの平面図写真を示す。
【図8】図8は、実施例1で製造した不織布シートの断面の顕微鏡写真を示す。
【図9】図9は、従来例の不織布シートの断面の顕微鏡写真を示す。
【図10】図10は、平均繊維角度θを測定する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の不織布シートの拡大斜視図である。本発明の不織布シート1は、長さ方向MDと、長さ方向MDに直交する幅方向CDと、これら両方向MDおよびCDに直交する厚さ方向TDとを有し、厚さ方向TDにおける上面と下面とがAとBとで示されている。ここで、長さ方向MDとは、不織布シートを製造する工程における不織布シートの進行方向である機械方向をいう。上面Aには長さ方向へ平行して延びる複数条の隆起部2と、隣り合う隆起部2と隆起部2の間において長さ方向へ延びる複数条の谷部3とが形成されている。
【0012】
図2は、不織布シート1の幅方向CDにおける断面の拡大図である。図1および図2に示すように、不織布シート1は、A側に位置する第1層4と、かつB側に位置する第2層5とを有する2層構造になっている。第1層4と第2層5とは、両者が対向する面において繊維の交絡や熱融着等の方法により一体化されている。
【0013】
第2層5は、捲縮繊維を含む。ここで、捲縮繊維とは、不織布シートの原料として使用される潜在捲縮性繊維が、不織布シートの製造過程における加熱によって捲縮が発現したものをいう。ここで、潜在捲縮性繊維とは、熱を加えることで捲縮が発現するものである。融点の異なる2つ以上の樹脂からなり、熱を加えると融点差により熱収縮率が変化しているため、3次元捲縮する繊維のことである。繊維断面の樹脂構成は、芯鞘構造の偏芯タイプ、左右成分の融点が異なるサイドバイサイドタイプが挙げられる。不織布シートの製造過程において、潜在捲縮性繊維が第2層に含まれていることで、かつ潜在捲縮性繊維が捲縮により長さ方向に収縮しようとする力に対する抗力が小さい状態で(たとえば、ウェブの搬送速度を落として)加熱することで、第2層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現によりウェブ全体が長さ方向MDに収縮し、第1層の繊維配向を厚み方向TDへ方向付けることができる。捲縮繊維は、好ましくは、コイル状の三次元捲縮繊維である。ここで、三次元捲縮繊維とは、コイル状形状のような立体的な捲縮形状を有する繊維をいう。コイル状の捲縮繊維とは、コイル状に捲縮した繊維をいう。コイル状の捲縮繊維は、捲縮が発現した後においても、伸ばされまたは縮められたときに元に戻ろうとする性質を有する。コイル状の捲縮繊維が第2層に含まれていることで、不織布シートに長さ方向MDの負荷がかかり、不織布シートが延伸された場合でも、コイル状の捲縮が元に戻る力により伸張回復性を有するため、第1層の形状を変形させにくくし、第1層の平均繊維角度も変化しにくくなる。三次元捲縮繊維を用いることにより、製造過程における加熱によって、ウェブ全体が長さ方向MDだけでなく幅方向CDにも収縮し、第1層の繊維配向をさらに厚み方向TDへ方向付けることができる。本発明の不織布シートは、従来例の不織布シートに比べ、幅方向に加えて長さ方向でも平均繊維角度を低くすることで、液体が透過する際に受ける抵抗をより小さくすることができる。
【0014】
本発明の不織布シートは、液の透過が速い、すなわち透液性に優れている。その透液性は、本発明の不織布シートの第1層を構成する繊維が上面Aや下面Bと平行に延びるのではなくて、厚さ方向TDに向かって延びる傾向が強いことによって得られる。本発明において、透液性は後記する人工尿透過速度として評価され、第1層4が厚さ方向TDに向かって延びる傾向は平均繊維角度θとして評価される。
【0015】
長さ方向に平行な断面における平均繊維角度θは、不織布シートを水平面に置いたときの隆起部の頂部を通る長さ方向に平行な断面に現れる第1層を構成する繊維が前記水平面に対する垂線と交差して作る90度を含む鋭角の交差角度と90度よりも大きい鈍角の交差角度とのうちの鋭角の交差角度の平均値である。
幅方向に平行な断面における平均繊維角度θは、不織布シートを水平面に置いたときの幅方向に平行な断面に現れる第1層を構成する繊維が隆起部の頂部を通る前記水平面に対する垂線と交差して作る90度を含む鋭角の交差角度と90度よりも大きい鈍角の交差角度とのうちの鋭角の交差角度の平均値である。
【0016】
本発明の不織布シートは、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度θが70度以下である。従来例は、幅方向に平行な断面における平均繊維角度θのみが小さいのに対し、本発明の不織布シートは、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度θもまた小さくなっているので、従来例に比べ、透液性が向上している。幅方向に平行な断面における平均繊維角度θは、好ましくは、65度以下である。捲縮繊維としてコイル状の三次元捲縮繊維を用いたことにより、幅方向に平行な断面における平均繊維角度θを従来例よりもさらに小さくすることができたものである。長さ方向MDおよび幅方向CDの両方向の繊維が厚み方向TDに配向されていることにより、従来例と比較して、より透液性が向上している。
【0017】
隆起部2の厚みt(図2参照)は、不織布シートにおいて吸収および肌触りを良好にするための観点から、好ましくは0.3〜5mmであり、より好ましくは0.5〜3mmである。この範囲を超えてしまうと、肌への使用感が増大してしまう。また、この範囲を下回ると、不織布シートの平均繊維角度θが低くても、不織布全体の厚みが小さいことの影響の方を強く受け、透液性が低下してしまう。
隆起部2の頂部と谷部3の底部との高低差Dは、不織布シート1において多量の液体が排泄された際にも表面に広くにじみにくくさせるのに適した谷部3を形成する観点から、0.1〜3mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましい。この範囲を超えるような場合には、必然的に隆起部2の高さが高いものとなり、肌への使用感が増大してしまう。またこの範囲を下回る場合、不織布シート1全体の中で隆起部2の割合が低くなる。そのため、不織布シート1全体の中で隆起部2に含まれている繊維角度が小さい繊維の割合が低くなるため透液性が低下してしまう。
谷部3の厚みtは、好ましくは4.9mm以下であり、さらに好ましくは2.7mm以下である。谷部3の厚みtは、多量の液体が排泄された際にも表面に広くにじみにくくさせるのに適した谷部3を形成する観点からできるだけ薄いほうが好ましい。
【0018】
不織布シート1の幅方向CDにおける隆起部2の幅は、肌触りの観点から、1〜10mmが好ましく、2〜5mmがより好ましい。同様の観点から、不織布シート1の幅方向CDにおける谷部3の幅は、0.5〜7mmが好ましく、0.7〜3mmがより好ましい。隆起部2と谷部3は同じ幅で形成されてもよく、あるいは異なる幅で形成されていてもよい。隆起部2および谷部3の幅は、後述する製造方法で用いる流体噴射用のノズルのピッチ(隣り合うノズルとノズルの間隔)と口径に応じ、様々に変更することができる。たとえば、ノズルのピッチP(図4参照)を大きくすることで隆起部2の幅を広くすることができ、ノズルの口径を大きくすることで谷部3の幅を広くすることができる。また、流体噴射用のノズルのピッチを狭くすることで隆起部2の高さを低くすることができ、逆に、流体噴射用のノズルのピッチを広くすることで隆起部2の高さを高くすることができる。さらには、流体噴射用のノズルのピッチを狭い間隔と広い間隔とが交互になるよう形成することで、高さの異なる隆起部2が交互に形成されるようにすることもできる。また、このように、隆起部2の高さが部分的に変化していれば、肌との接触面積が下がるために肌への負担を減らすことができるというメリットも生じる。
【0019】
第1層4は必須繊維として熱融着性繊維が含まれる繊維層からなる。第1層4には熱融着性繊維が好ましくは30〜100質量%含まれている。熱融着性繊維は、繊維どうしの交点を熱融着可能にする繊維である。第1層4において、互いに交差する熱融着性繊維は、それらを形成する熱可塑性樹脂が溶融することによって互いに交差する部位で接合している。第1層4に熱融着性繊維が混入され、互いに交差する部位で接合していることで、隆起部2の凸状の立体形状の保形性が高まり、使用中の擦れや耐圧により平均繊維角度θが大きくなることを防ぐことができる。
【0020】
不織布シートの肌触りと吸収性を良好にする観点から、第1層4に用いる繊維の繊度は好ましくは1〜8dtexであり、さらに好ましくは1.8〜3.3dtexである。この範囲を超えてしまうと繊維の太さから使用者に不快感を与えてしまい、範囲を下回ると繊維間距離が短くなりすぎ、抵抗を受けやすくなるため、液体の透過速度が下がってしまう。また、用いる繊維長はカード適正の観点から、15〜100mm、さらに好ましくは38〜51mmである。
【0021】
第1層4は、熱融着性繊維の1種または2種以上から構成されていてもよく、あるいは熱融着性繊維の他に、熱融着しない繊維を含んで構成されていてもよい。たとえば、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、綿、ウール等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ビニロン等の合成繊維等の中から任意に1種以上を選択して使用することができる。また、その繊維断面形状等も限定されず、分割型複合繊維や異形断面を有する繊維等も任意に使用することができる。熱融着しない繊維を含む場合、熱融着性繊維の量は、好ましくは第1層4の質量の30〜95質量%、より好ましくは70〜90質量%である。
【0022】
第1層4に含まれる熱融着性繊維としては、熱可塑性ポリマー材料からなる繊維が好適に用いられる。熱可塑性ポリマー材料としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。また、これらの熱可塑性ポリマー材料の組み合わせからなる芯鞘型やサイド・バイ・サイド型の複合繊維も用いることができる。
【0023】
第2層5は、製造過程における加熱によって捲縮が発現した捲縮繊維が含まれる繊維層からなる。第2層5には、捲縮繊維が好ましくは30〜100質量%含まれている。第2層5を形成する潜在捲縮性繊維としては、たとえば、収縮率の異なる2種類の熱可塑性ポリマー材料を成分とする偏芯芯鞘型複合繊維またはサイド・バイ・サイド型複合繊維が挙げられる。また、第2層5を収縮させ、第1層4を構成する繊維を厚み方向TDに配向させることによって液体の透過性を向上させるという観点から、ウェブ収縮率が少なくとも40%のものを用いることが好ましい。たとえば、ポリオレフィンポリプロピレン共重合体とポリプロピレンとの組み合わせが挙げられる。また、透液性を良好にする観点から、用いる繊度は好ましくは1〜11dtexであり、さらに好ましくは2.2〜5.6dtexである。また、用いる繊維長はカード適正の観点から、15〜100mm、さらに好ましくは38〜51mmである。
【0024】
第2層5は、捲縮繊維の1種または2種以上から構成されていてもよく、あるいは、捲縮繊維の他に、非捲縮繊維や該繊維と熱融着しない他の繊維を含んで構成されていてもよい。たとえば、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、綿、ウール等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ビニロン等の合成繊維等の中から任意に1種以上を選択して使用することができる。また、その繊維断面形状等も限定されず、分割型複合繊維や異形断面を有する繊維等も任意に使用することができる。この場合、十分な熱収縮を発現させる観点から、捲縮繊維が30質量%以上、特に80質量%以上用いられることが好ましい。
【0025】
捲縮繊維は、谷部と比較して隆起部に多く含まれていることが好ましい。すなわち、捲縮繊維の絶対量(第2層の坪量)が谷部よりも隆起部において大きいことが好ましい。本発明の不織布を紙おむつや生理用ナプキンの表面シートとして用いた際に、使用中のヨレなどによる製品の変形が起こった場合、捲縮繊維が谷部と比較して隆起部に多く含まれていることにより、コイル状の捲縮が元に戻る力による伸張回復性を発揮させやすくなるため、隆起部中の第1層の形状を変形させにくくし、隆起部中の第1層の平均繊維角度も変化しにくくなる。
工程dにおいて、積層ウェブに流体をノズルから噴き当てる際、ノズル直下にある繊維が幅方向CDへ平行移動して隣り合うノズルとノズルとの間に集積することで、隆起部の潜在捲縮性繊維の坪量を大きくすることができるため、潜在捲縮性繊維が捲縮を発現し捲縮繊維となった際には、捲縮繊維が谷部と比較して隆起部に多く含まれているものを製造できる。
【0026】
第2層5に用いられる潜在捲縮性繊維が収縮を開始する温度は、第1層4に用いられる繊維どうしの交点を熱融着可能にする温度よりも低いことが必要である。第1層4の繊維が熱融着により形状を固定される前に第2層5を収縮することで、第1層4を構成する繊維を厚み方向TDに配向づけることができる。
【0027】
不織布シートの収縮工程後の坪量は、製品組み込み時の使用感の観点から、好ましくは15〜150g/m、より好ましくは25〜80g/mである。たとえば、収縮工程後の第1層4の坪量は、好ましくは10〜100g/m、より好ましくは15〜60g/mであり、収縮工程後の第2層5の坪量は、好ましくは5〜70g/m、より好ましくは10〜50g/mである。第1層4の坪量が少なすぎると繊維本数が少ないことで着用者の体圧等の圧縮力によりつぶれてしまい繊維が平面方向に向いてしまい透液性が悪化する。逆に多すぎると繊維を厚み方向TDに方向付けられたとしても繊維量が多くなり液体が透過する際に受ける抵抗が大きくなり好ましくない。第2層5の坪量が少なすぎると第1層4の繊維を長さ方向MDと幅方向CDの両方向ともに寄せ集めることができずに厚み方向TDに方向付けることができない。逆に多すぎると収縮作用が過剰に起こり隆起部の表面部分が凸凹状に変形し、着用者に対して違和感を与えて好ましくない。
【0028】
不織布シートは親水化されていることが好ましい。親水化の方法としては、たとえば親水化剤で処理した繊維を原料として用いる方法が挙げられる。また、親水化剤を練り込んだ繊維を原料として用いる方法が挙げられる。さらに、本来的に親水性を有する繊維、たとえば天然系や半天然系の繊維を使用する方法が挙げられる。不織布シートの製造後にこれに界面活性剤を塗工することでも親水化を行うこともできる。
【0029】
次に、本発明の不織布シートを製造する方法について説明する。
本発明の不織布シートを製造する方法の1つの実施態様は、下記の工程を含む。ただし、下記の工程のうち、工程eおよび工程hは、必須ではない。
a)潜在捲縮性繊維を含む繊維の集合体をカード機に通して開繊し、潜在捲縮性繊維を含むウェブを形成する工程、
b)熱融着性繊維を含む繊維の集合体をカード機に通して開繊し、熱融着性繊維を含むウェブを形成する工程、
c)潜在捲縮性繊維を含むウェブと熱融着性繊維を含むウェブを重ね合わせ、積層ウェブを形成する工程、
d)積層ウェブを搬送しながら、積層ウェブの熱融着性繊維を含むウェブ側の面に、幅方向に並ぶ複数のノズルから流体を噴射し、積層ウェブに、長さ方向へ平行して延びる複数条の隆起部と、隣り合う隆起部と隆起部の間において長さ方向へ延びる複数条の谷部とを形成する工程、
e)隆起部と谷部が形成されたウェブを工程fに搬送する工程、
f)潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用い、熱融着性繊維の融着温度よりは低いが潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する温度に、隆起部と谷部が形成されたウェブを加熱する工程、
g)潜在捲縮性繊維が捲縮したウェブを、熱融着性繊維の融着温度以上の温度に加熱し、熱融着性繊維どうしを互いに交差している部位において融着させる工程、および
h)熱融着性繊維どうしが融着したウェブを冷却する工程。
【0030】
図3は、本発明の不織布シートの製造工程の一例を示す。ただし、本発明は、この例に限定されるものではない。
図3において、aは工程aを、bは工程bを、cは工程cを、dは工程dを、eは工程eを、fは工程fを、gは工程gを、そしてhは工程hを示す。
【0031】
工程aにおいて、潜在捲縮性繊維を含む繊維の集合体が、容器11からカード機12に運ばれ、カード機12に通されて開繊され、潜在捲縮性繊維を含むウェブ13が形成される。形成された潜在捲縮性繊維を含むウェブ13は、無端ベルト17に載せられて搬送される。
【0032】
工程bにおいて、熱融着性繊維を含む繊維の集合体が、容器14からカード機15に運ばれ、カード機15に通されて開繊され、熱融着性繊維を含むウェブ16が形成される。工程aと工程bの順序は問わない。
【0033】
工程cにおいて、潜在捲縮性繊維を含むウェブ13と熱融着性繊維を含むウェブ16が重ねられ、積層ウェブ18が形成される。図3には、無端ベルト17の上の潜在捲縮性繊維を含むウェブ13の上に、形成された熱融着性繊維を含むウェブ16を重ねる態様が示されているが、必ずしも潜在捲縮性繊維を含むウェブ13の上に熱融着性繊維を含むウェブ16を重ねる必要はなく、熱融着性繊維を含むウェブ16の上に潜在捲縮性繊維を含むウェブ13を重ねて積層ウェブ18を形成してもよい。すなわち、工程aと工程bはどちらが先にあってもよいし、積層ウェブ搬送時は、熱融着性繊維を含むウェブ16が上にあっても、潜在捲縮性繊維を含むウェブ13が上にあってもよい。
【0034】
工程dにおいて、積層ウェブ18は、長さ方向MDへ回転するサクションドラム19の上に載せられ、幅方向に並ぶ複数のノズル20から積層ウェブの熱融着性繊維を含むウェブ側の面に流体が噴射される。ノズル20は、サクションドラム19の周面に向かって流体を噴射することができるもので、サクションドラム19の周面からは所要寸法だけ離間している。幅方向に並ぶ複数のノズル20は、サクションドラム19の軸方向すなわち幅方向CDへ延びる配管(図示せず)に複数のノズル20が所要の間隔Pをあけて取り付けられているものである(図4(a)参照)。
【0035】
流体噴射用のノズル20は1列であってもよいが、繊維のかき分け性の観点から2列以上のノズルを並べて構成されるものが好ましい。たとえば、図4(b)に示すように、ノズル列21、22、23からなり、その取り付け状態の好ましい一例では、ノズル列21、22、23それぞれにおけるノズル20が長さ方向MDにおいて同一線上に位置するように調整されている。また、ノズル列21、22、23は、たとえば、図5に示すように、サクションドラム19の周方向へ30°ずつの間隔をあけて配置することができ、ノズル列21、22、23それぞれにおけるノズル20は、たとえば幅方向CDにおけるピッチPが5mmとなるように配管に取り付けることができる。ノズル列21、22、23からは所要温度の流体を所要の風量で噴射することができる。複数のノズル20から噴射される流体は、その流体自体によって、またはノズル20どうしの流体が相互に干渉することによって第1層4における熱融着性繊維の分布状態を乱すことがないように調整されている。そのためには、たとえば合計坪量35g/mの積層ウェブ18が直径500mmのサクションドラム19の周面を0.5秒で通過するものであって、ノズル列21、22、23それぞれのノズル20が幅方向CDに5mmのピッチPで配置してあってサクションドラム19の周面からの離間寸法が5〜8mmに調整してある場合、積層ウェブはサクションドラム19のサクションによって厚さを2〜5mm程度に整えてから、ノズル20の下を通過させることが好ましい。そのときに使用するノズル20の口径は0.5〜1.5mm程度であり、ノズル20からの流体の噴射速度は50〜700m/secであり、サクションドラム19の吸引力は風速2〜7m/secであることが好ましい。
【0036】
積層ウェブは、サクションドラム19の周面に載せられてノズル列21、22、23の下を通過する。ノズル列21、22、23からは積層ウェブに向かって流体を噴射する一方、サクションドラム19では、その流体を吸引するためのサクションを作用させる。
【0037】
流体を噴射された積層ウェブでは、ノズル列21、22、23それぞれにおける各ノズル20の直下にある繊維が幅方向CDへ平行移動して隣り合うノズル20とノズル20との間に集積し、隆起部2を形成することとなる。一方、各ノズル20の直下には谷部3を形成することとなる。
【0038】
ノズル20から噴射される流体は、たとえば、常温もしくは所定温度に調整された気体、または、該気体に固体もしくは液体の微粒子が含まれるエーロゾルを例示できる。気体として、たとえば、空気、窒素等を例示できる。また、気体は、水蒸気等の液体の蒸気を含むものであってもよい。エーロゾルとは、気体中に液体または固体が分散したものであり、以下にその例を挙げる。たとえば、着色のためのインクや、柔軟性を高めるためのシリコーン等の柔軟剤や、帯電防止およびヌレ性を制御するための親水性もしくは撥水性の活性剤や、流体のエネルギーを高めるための酸化チタン、硫酸バリウム等の無機フィラーや、流体のエネルギーを高めるとともに加熱処理において凹凸成形維持性を高めるためのポリエチレン等のパウダーボンドや、かゆみ防止のための塩酸ジフェンヒドラミン、イソプロピルメチルフェノール等の抗ヒスタミン剤や、保湿剤や、殺菌剤等を分散させたものを例示できる。ここで、固体は、ゲル状のものを含む。
【0039】
ノズル20から噴射される流体は、好ましくは、加圧加熱圧縮空気である。ノズル20から加圧加熱圧縮空気を吹き付けることで直下にある繊維が幅方向CDへ平行移動して隣り合うノズル20とノズル20との間に集積し、仮の隆起部を形成する。第1層の繊維は幅方向CDへ平行移動することで繊維配向が厚み方向に仕向けられる。このときノズル20直下の第1層の熱融着繊維が溶融し、熱融着繊維どうしが固定されるために、仮の谷部が形成される。また、ノズル20の熱風が直接吹き付けられていない第2層の潜在捲縮性繊維は潜在捲縮性を残したままとなる。
【0040】
工程eは、工程dで隆起部と谷部が形成されたウェブ24を、工程fに搬送する工程である。工程eでは、隆起部と谷部が形成されたウェブ24を無端ベルト25に載せて搬送される。工程eの搬送速度は、工程dの搬送速度と同一か、または工程dの搬送速度よりもわずかに速い速度である。工程eは、必ずしも必要ではなく、工程dで隆起部と谷部が形成されたウェブ24を、工程dから直接、工程fに送ってもよい。しかし、ウェブ24を安定して搬送するために、工程eを設けることが好ましい。
【0041】
工程fは、第2層を構成する繊維の捲縮を発現させるための第1熱処理工程である。工程dで隆起部と谷部が形成されたウェブは、搬送工程eを経て、第1熱処理工程fに送られる。第1熱処理工程fには、第1熱処理乾燥機26が設けられ、ウェブ24は無端ベルト27に載せられて、第1熱処理乾燥機26の中を通され、そこで熱処理が施される。第1熱処理工程fにおいては、第2層の潜在捲縮性繊維は捲縮を発現するが、第1層の熱融着繊維同士は融着固定されない範囲の温度条件で熱処理を行い、第2層の潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させる。ここで、第2層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現によりウェブ全体が幅方向CD、長さ方向MDの両方向に収縮する際、第1層の熱融着繊維同士は融着しないため、第2層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現を妨げることなく、第1層を構成する繊維の配向を工程dでの配向よりもより厚み方向TDへ方向付けることができる。
【0042】
また、このとき、長さ方向MDにおいてさらに第1層の配向を厚み方向TDへ方向付けるために、第2層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現により、第2層を積極的に長さ方向MDへ収縮させる必要がある。第1熱処理乾燥機26内においてウェブに長さ方向MDへのテンションがかかった場合、潜在捲縮性繊維の捲縮発現による第2層の収縮は、相対的に自由度が高くなっている幅方向CDにのみおこりやすくなる。そこで、第1熱処理工程fにおいては、潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用いる。換言すれば、潜在捲縮性繊維が捲縮により長さ方向に収縮しようとする力に対する抗力が小さい状態で熱処理を行なう。潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段としては、直前の工程の搬送速度に比べて第1熱処理工程fの搬送速度を小さくする方法、フローティングドライヤーを使用する方法などが挙げられる。
【0043】
直前の工程の搬送速度に比べて、第1熱処理工程fの搬送速度を小さくする方法における直前の工程とは、工程eを設けたときは工程eであり、工程eを設けないときは工程dである。直前の工程に比べて遅い搬送速度で熱処理乾燥機に搬送することにより、第2層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現による十分な長さ方向MDへの収縮を得ることができ、長さ方向に平行な断面および幅方向に平行な断面の両方の断面における平均繊維角度θが小さい不織布シートが得られる。たとえば、幅方向CD、長さ方向MDの両方向に十分な収縮が発現するとともに、ウェブが撓んで折れ重ならない範囲として直前の工程の搬送速度に対して第1熱処理工程fの搬送速度を90〜99%に減速させることが好ましい。
【0044】
潜在捲縮性繊維の捲縮発現による収縮の抵抗の1つは搬送時のラインテンションであるが、もう1つは搬送コンベアとの摩擦である。その摩擦を低減するために、図6に示すようなフローティングドライヤー40を利用することができる。フローティングドライヤー40とは、メッシュコンベア41、42が上下に離間して設置してあり、メッシュコンベア41、42の内側(ウェブ24とは逆側)に熱風吹き出し口43が複数備わっており、他方のメッシュコンベア42、41に向けて熱風を吹きつけウェブ24を他方のメッシュコンベア42、41に移動させながら熱処理を行う。図6に示すように、下側のメッシュコンベア41から熱風を吹きつけた次は上側のメッシュコンベア42から熱風を吹きつけるように交互に上下から熱風を吹きつけることでウェブ24は上下に移動することとなり、メッシュコンベア41、42と接地していない部分ができ、潜在捲縮性繊維の捲縮発現による収縮の抵抗を低減することができ、長さ方向MD、幅方向CDの両方に収縮させるには好ましい方法である。フローティングドライヤーは、直前の工程の搬送速度に比べて第1熱処理工程fの搬送速度を小さくする方法と併用することができ、併用するとより好ましい。
【0045】
工程gは、第1層の熱融着性繊維どうしを互いに交差している部位において融着させるための第2熱処理工程である。第2熱処理工程gには、第2熱処理乾燥機28が設けられ、工程fで潜在捲縮性繊維が捲縮したウェブは、無端ベルト29に載せられて、第2熱処理乾燥機28の中を通され、そこで熱処理が施される。第2熱処理工程gにおいては、第1層の熱融着繊維の融着温度以上の温度で熱処理を行い、熱融着繊維どうしを互いに交差する部位において融着することで、工程d〜fにおいて厚み方向TDに方向付けた第1層を固定する。
【0046】
工程hは、工程gで熱融着性繊維どうしが融着したウェブを冷却する工程である。工程gの第2熱処理乾燥機28を出たウェブは、無端ベルト30に載せられて搬送されながら、室温で放冷される。冷却されることによって、第1層の熱融着繊維どうしの互いに交差する部位における融着が固定され、工程dおよび工程fにおいて厚み方向TDに方向付けた第1層が固定される。冷却されたウェブは、ロール31に巻き取られる。
【0047】
従来例の「長さ方向へ回転するサクションドラム上にウェブを固定し、所要寸法の間隔をあけて配置された流体噴射用のノズルにて隆起部、谷部を形成する工法」において、流体噴射用ノズルの加熱圧縮空気の吹き付け風量のみに頼って平均繊維角度をあげようとすると、サクション吸引処理しきれなかった加熱圧縮空気による、支持体面からの過度な反射流で繊維の乱れが生じ、肌ざわりが悪化してしまう。一方、本発明は、不織布シートを第1層と第2層の2層で構成し、第2層を潜在捲縮性繊維で構成することにより、熱処理工程で潜在捲縮性繊維の捲縮が発現し、長さ方向、幅方向のそれぞれにおいて繊維がよせられ、平均繊維角度θを下げることができるので、必要以上に加熱圧縮空気の吹き付け風量を上げずとも、平均繊維角度を低くすることで、液体が透過する際に受ける抵抗をより小さくでき、かつ表面の繊維が乱れていない肌ざわりの良好な不織布シートを得ることができる。
また、高速生産においても本発明の製造方法を採用することで安定して平均繊維角度θが小さい不織布シートを得ることができる。
【0048】
本件第3発明は、本件第1発明の不織布シートを表面シートとして含む吸収性物品である。吸収性物品の例としては、紙おむつ、生理用ナプキン等が挙げられる。本発明の吸収性物品は、液体の透過が速い表面シートを用いているので、表面シートの上に液がたまりにくい。したがって、使用中に液が出た際に肌と吸収性物品の間に液がたまりにくく、使用者に不快感を与えにくい。また、液体の速い透過性と良好な肌ざわりを両立できる。
【実施例】
【0049】
実施例1
図3に示す製造装置を用いて、不織布シートを製造した。
工程aにおいて、第2層用繊維として、ポリプロピレン/ポリオレフィンポリプロピレン共重合体潜在捲縮性サイドバイサイド型複合繊維(2.6dtex、繊維長51mm、質量比=50/50、面積収縮率80%)を使用した。(なお、面積収縮率の測定方法は後述の評価方法の欄に記載する。)
工程bにおいて、第1層用繊維として、ポリエステル/ポリエチレン芯鞘型複合繊維(熱融着性繊維、2.6dtex、繊維長51mm、芯鞘部重量比=50/50)を使用した。
工程cにおいて、第1層ウェブの坪量を20g/m、第2層ウェブの坪量を15g/mとした。
工程dにおいて、口径1.0mm、ピッチ4mmのノズル1列を使用し、噴射する流体として約125℃の空気を使用し、ノズル1個につき8.7L/minの流量で噴射した。ノズルのサクションドラムからの離間寸法を5.0mmとし、サクションドラムの吸引力は風速5m/secとした。
工程eにおいて、搬送速度を10m/minとした。
工程fにおいて、第1熱処理乾燥機26の温度を約120℃、風速を0.7m/s、滞在時間を10秒間とした。このとき、幅方向CD、長さ方向MDの両方向に十分な収縮が発現し、かつウェブが撓んで折れ重ならないように、搬送速度を9.0m/minとした。
工程gにおいて、第2熱処理乾燥機28の温度を約138℃、風速を0.7m/s、滞在時間を10秒間とした。
工程hにおいて、ウェブを室温で放冷した。
以上の工程を経て、厚みが1.80mm、坪量が43g/m、隆起部2と谷部3との高低差が1.4mm、隆起部2の幅が2.5mm、谷部3の幅が1.1mm、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度が66.5°、幅方向に平行な断面における平均繊維角度が55.1°である不織布シートを得た。
【0050】
得られた不織布シートの平面図写真(デジタルカメラ)を図7に示す。図7(a)は平面斜視画像であり、図7(b)は平面画像である。得られた不織布シートの断面の顕微鏡写真を図8に示す。図8(a)は幅方向に平行な断面の顕微鏡写真(倍率:30倍)であり、図8(b)は隆起部の頂点を通る長さ方向に平行な断面の顕微鏡写真(倍率:30倍)である。比較のために、特許文献1に記載の方法により製造した不織布シート(以下「従来例の不織布シート」ともいう。)の断面の顕微鏡写真を図9に示す。図9(a)は従来例の不織布シートの幅方向に平行な断面の顕微鏡写真(倍率:30倍)であり、図9(b)は従来例の不織布シートの隆起部の頂点を通る長さ方向に平行な断面の顕微鏡写真(倍率:30倍)である。
【0051】
実施例2
工程fの搬送速度を9.5m/minに変更して(すなわち工程eの搬送速度に対する工程fの搬送速度の比を0.95に変更して)、その他は実施例1と同様に、不織布シートを製造した。
【0052】
比較例1
工程fの搬送速度を10m/minに変更して(すなわち工程eの搬送速度に対する工程fの搬送速度の比を1.00に変更して)、その他は実施例1と同様に、不織布シートを製造した。
【0053】
比較例2
第2層用繊維として、第1層用繊維と同一のポリエステル/ポリエチレン芯鞘型複合繊維を使用し、その他は実施例1と同様に、不織布シートを製造した。ただし、比較例2は熱融着性繊維のみで構成されているため(すなわち潜在捲縮性繊維を含んでいないため)、工程eの搬送速度に対する工程fの搬送速度の比を低下させても長さ方向MDへのウェブの収縮力が得られないため、工程eの搬送速度に対する工程fの搬送速度の比は100%とした。
【0054】
実施例1および2ならびに比較例1および2の不織布シートについて、坪量、厚み、平均繊維角度θおよびθ、ならびに人工尿透過速度を測定した。結果を表1に示す。なお、各評価項目の評価方法は次のとおりである。
【0055】
[坪量]
不織布シートを100mm×100mmのサイズに切断し、電子天秤にて質量を測定し、1mあたりの質量に換算する。N=10の平均を求める。
【0056】
[厚み]
厚み測定器(PEACOCK、測定面φ44mm、測定圧3g/cm)を用いる。適当な大きさ(測定子より大きいこと)のサンプルを測定台と測定子の間に置き、測定子を一定の高さから落とし、厚みを測定する。N=10の平均値を求める。
【0057】
[平均繊維角度θ]
(1)測定用の試料とする不織布シートを70℃で30分間加熱して不織布シートの取り扱い過程で生じた折り癖を取り除き、試料を平坦なものにする。
(2)コクヨカッターナイフHA−7NB(商品名)用の標準替え刃HA−100Bを使用して、試料を切断して、観測用の切断面を作り、その試料を水平な面に載せる。このとき、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度θを測定するときは、試料を隆起部の頂点を通る長さ方向MDに平行な鉛直面で切断して、長さ方向MDに平行する観測用の切断面を作り、幅方向に平行な断面における平均繊維角度θを測定するときは、試料を幅方向CDに平行な鉛直面で切断して、幅方向CDに平行する観測用の切断面を作る。
(3)切断面を電子顕微鏡(キーエンス社製リアルサーフェスビュー顕微鏡VE−7800)で観察し、切断面の30倍の拡大写真を撮影する。撮影では、試料の上面から下面までを視野に入れる。
(4)図10に示すように、切断面の写真において、水平面に対する垂線Lを引き、その垂線Lとの平行間隔が100μmとなる補助線M、Nを垂線Lの左右両側に引く。このとき、垂線Lは、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度θを測定するときは、任意の位置に引くことができるが、幅方向に平行な断面における平均繊維角度θを測定するときは、隆起部の頂点を通るように引く。
(5)2本の補助線M、Nと交差する1本の繊維について、それぞれの補助線M、Nとの交差位置にマークを付ける。
(6)左右のマークを直線で結び、垂線Lの両側それぞれにおいてその直線と垂線Lとの交角α、βを求め、求めた交角α、βのうちで値の小さい方の角度を繊維角度とする。
(7)切断面の写真において、焦点が合っていて測定の対象となるすべての繊維について繊維角度を求め、求めた繊維角度の算術平均値を「平均繊維角度θ」とする。切断面の写真において焦点の合っているそれらの繊維が、本発明にいう「断面に現れる」繊維である。
【0058】
[人工尿透過速度]
Lenzing Technik社製試験機を使用する。EDANA−ERT §150.3リキッドストライクスルータイム法に準じて、試験溶液として人工尿(72mN/m、20℃)を用いて、測定液量10mLとして不織布シートの吸収速度(sec)を測定する。
人工尿の配合は、イオン交換水10Lに対し、尿素を200g、塩化ナトリウムを80g、硫酸マグネシウムを8g、塩化カルシウムを3g、色素(青色1号)を約1g配合して調製する。
【0059】
[繊維ウェブの面積収縮率]
(1)測定する繊維100%で200g/mのウェブを作成する。
(2)所定の長さおよび幅にカットし、面積を測定する。このとき測定の誤差を少なくするために250mm×250mm程度にカットすることが望ましい。測定された収縮前の面積をaとする。
(3)145℃に調整されたオーブン内に5分放置する。
(4)収縮後の長さおよび幅を測定し面積を算出する。測定された収縮後の面積をbとする。
(5)熱収縮前後の面積から、次式に基づき、面積収縮率を算出する。
面積収縮率(%)=(a−b)/a×100
【0060】
【表1】

【0061】
表1の実施例1、比較例2の人工尿透過速度の評価結果より、平均繊維角度を小さくすることで人工尿の透過速度が速くなっていることがわかる。これは平均繊維角度が小さくなることで繊維配向が厚み方向TDに仕向けられ、人工尿に対する抵抗が低くなり、人工尿が作成したサンプルを透過しやすくなっているためである。
表1の実施例1、実施例2、比較例1の人工尿透過速度の評価結果より、工程eの搬送速度に対する工程fの搬送速度の比を低下させることで第2層の潜在捲縮性繊維の捲縮発現による長さ方向MDへのウェブの収縮力が得やすくなるため、平均繊維角度を下げることが可能であることがわかる。平均繊維角度の小さいサンプルの方が、繊維配向が厚み方向TDに仕向けられ、人工尿に対する抵抗を少なくすることができるため、人工尿の透過速度を速くすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の不織布シートは、紙おむつ、生理用ナプキン等の吸収性物品の表面シートとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 不織布シート
2 隆起部
3 谷部
4 第1層
5 第2層
11 容器
12 カード機
13 ウェブ
14 容器
15 カード機
16 ウェブ
17 無端ベルト
18 積層ウェブ
19 サクションドラム
20 ノズル
21、22、23 ノズル列
24 ウェブ
25 無端ベルト
26 第1熱処理乾燥機
27 無端ベルト
28 第2熱処理乾燥機
29 無端ベルト
30 無端ベルト
31 ロール
40 フローティングドライヤー
41 メッシュコンベア
42 メッシュコンベア
43 熱風吹き出し口
A 上面
B 下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する長さ方向と幅方向と厚さ方向とを有し、厚さ方向には上面と下面とを有し、上面には長さ方向へ平行して延びる複数条の隆起部と、隣り合う隆起部と隆起部の間において長さ方向へ延びる複数条の谷部とが形成されている不織布シートであって、
前記不織布シートは上面側の第1層と下面側の第2層の2層からなり、第1層は熱融着性繊維を含み、第2層は捲縮繊維を含み、
前記不織布シートを水平面に置いたときの隆起部の頂部を通る長さ方向に平行な断面に現れる第1層を構成する繊維が前記水平面に対する垂線と交差して作る90度を含む鋭角の交差角度と90度よりも大きい鈍角の交差角度とのうちの鋭角の交差角度の平均値である、長さ方向に平行な断面における平均繊維角度が70度以下であることを特徴とする不織布シート。
【請求項2】
前記不織布シートを水平面に置いたときの幅方向に平行な断面に現れる第1層を構成する繊維が隆起部の頂部を通る前記水平面に対する垂線と交差して作る90度を含む鋭角の交差角度と90度よりも大きい鈍角の交差角度とのうちの鋭角の交差角度の平均値である、幅方向に平行な断面における平均繊維角度が65度以下であることを特徴とする請求項1に記載の不織布シート。
【請求項3】
前記捲縮繊維がコイル状の三次元捲縮繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の不織布シート。
【請求項4】
隆起部の厚みが0.3〜5mmであり、隆起部の頂部と谷部の底部との高低差が0.1〜3mmであり、隆起部の幅が1〜10mmであり、谷部の幅が0.5〜7mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の不織布シート。
【請求項5】
第1層の坪量が10〜100g/mであり、第2層5の坪量が5〜70g/mであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の不織布シート。
【請求項6】
捲縮繊維は、谷部と比較して隆起部に多く含まれていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の不織布シート。
【請求項7】
a)潜在捲縮性繊維を含む繊維の集合体をカード機に通して開繊し、潜在捲縮性繊維を含むウェブを形成する工程、
b)熱融着性繊維を含む繊維の集合体をカード機に通して開繊し、熱融着性繊維を含むウェブを形成する工程、
c)潜在捲縮性繊維を含むウェブと熱融着性繊維を含むウェブを重ね合わせ、積層ウェブを形成する工程、
d)積層ウェブを搬送しながら、積層ウェブの熱融着性繊維を含むウェブ側の面に、幅方向に並ぶ複数のノズルから流体を噴射し、前記積層ウェブに、長さ方向へ平行して延びる複数条の隆起部と、隣り合う隆起部と隆起部の間において長さ方向へ延びる複数条の谷部とを形成する工程、
f)潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段を用い、熱融着性繊維の融着温度よりは低いが潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する温度に、隆起部と谷部が形成されたウェブを加熱する工程、および
g)潜在捲縮性繊維が捲縮したウェブを、熱融着性繊維の融着温度以上の温度に加熱し、熱融着性繊維どうしを互いに交差している部位において融着させる工程
を含む、不織布シートを製造する方法。
【請求項8】
前記潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段が、直前の工程に比べて遅い搬送速度で搬送する方法であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記潜在捲縮性繊維が捲縮を発現する抵抗を低下させる手段が、フローティングドライヤーであることを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
工程dと工程fの間に、
e)隆起部と谷部が形成されたウェブを工程fに搬送する工程
を含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程gの後に、
h)熱融着性繊維どうしが融着したウェブを冷却する工程
を含むことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の不織布シートを表面シートとして含む吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−168927(P2011−168927A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35387(P2010−35387)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】