説明

不織布プレス方法及び不織布プレス装置

【課題】厚みが均一であるとともに表面が平滑であり、しかも多孔性を有する極薄の不織布を形成することができるようにすること。
【解決手段】表面が硬質の第1ローラ14と、表面が軟質の高分子材よりなる第2ローラ15との間に不織布Wを通して、それらの第1,第2ローラ14,15により不織布Wに対して加熱プレスを施すようにする。第2ローラ15の表面には、その下層よりも硬質の高分子材よりなる表面層15cを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばリチウムイオン電池のセパレータ等に用いられる極薄の不織布を加工するようにした不織布プレス方法及び不織布プレス装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の電池セパレータ等に用いられる極薄の不織布は、メルトブロー等によりシート状に成形された不織布の原材を、一対のローラ間に通して加熱プレスすることにより形成されている。この場合、電池セパレータに用いられる不織布には、イオンが適切に通過できるように、均一な厚みで極薄になっていること、表面が平滑になっていること、及び多孔性を有していることが要求される。
【0003】
薄い不織布の加工に関して、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されるような方法が提案されている。すなわち、特許文献1に記載の加工方法では、加熱プレスを施すための一対のローラとして、硬質ローラと軟質ローラとが用いられている。また、特許文献2に記載の加工方法では、一対のローラとして、金属ローラと樹脂ローラとが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−504444号公報
【特許文献2】特開2005−19026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、これらの従来方法においては、次のような問題があった。
すなわち、不織布は繊維のランダムな集合体であるため、繊維の粗密や、表面凹凸による厚さの不均一が全体に存在する。
【0006】
ここで、前記軟質ローラまたは樹脂ローラの硬度を高く設定すると、不織布の厚みの均一性や表面の平滑性を確保することはできる。しかし、不織布の加熱プレス前の原材において、例えば繊維の量が多い箇所では、繊維同士が加熱プレスにより溶融接合してフィルム化し、多孔質性が損なわれる。
【0007】
これに対して、軟質ローラまたは樹脂ローラの硬度を低く設定すると、フィルム化を防止することはできるが、不織布の圧延不足が生じて薄さを確保できなかったり、厚みの均一性や表面の平滑性を確保することができなかったりする。
【0008】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、厚みが均一であるとともに表面が平滑であり、しかも多孔性を有する極薄の不織布を形成することができる不織布プレス方法及び不織布プレス装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、不織布プレス方法の発明においては、不織布を送りながら、その不織布を硬質の第1ローラと、下層よりも軟質の高分子材よりなる表面層を有する第2ローラとの間で加熱プレスを施すことを特徴とする。
【0010】
また、不織布プレス装置の発明においては、表面が硬質の第1ローラと、表面が軟質の高分子材よりなる第2ローラとの間に不織布を通して、それらの第1,第2ローラにより前記不織布に対して加熱プレスを施すようにした不織布プレス装置において、前記第2ローラの表面に、その下層よりも硬質の高分子材よりなる表面層を設けたことを特徴としている。
【0011】
従って、この発明の不織布プレス装置においては、不織布の原材が第1のローラと第2のローラとの間に通して加熱プレスされることにより、極薄の不織布が形成される。この場合、第2ローラの表面に下層よりも硬質の高分子材よりなる表面層が設けられているため、その硬質の表面層と硬質の第1ローラとにより、極薄の不織布が厚みを均一にするとともに表面を平滑にした状態で形成される。また、第2ローラの表面層よりも下層の部分が軟質の高分子材により構成されているため、不織布の原材が無理に圧延されることを防止できる。従って、不織布にフィルム化が生じるおそれを抑制することができ、多孔性を有する極薄の不織布を得ることができる。
【0012】
前記の構成において、第2ローラの表面層を第1ローラの表面より軟質に構成するとよい。
前記の構成において、前記第2ローラの芯部の外周に前記表面層より軟質の弾性材よりなる内層を設けるとよい。
【0013】
前記の構成において、前記第2ローラを、金属製の芯部と、その芯部の外周に形成された前記内層及び表面層とにより構成するとよい。
前記の構成において、前記内層及び表面層を同材質の高分子材により構成するとよい。
【0014】
前記の構成において、前記第1ローラを鉄系金属により構成するとよい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明によれば、厚みが均一であるとともに表面が平滑であり、しかも多孔性を有する極薄の不織布を形成することができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態の不織布プレス装置を示す概略構成図。
【図2】図1の不織布プレス装置の一部を拡大して示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、この発明を具体化した不織布プレス装置及び不織布プレス方法の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、この実施形態の不織布プレス装置においては、中央の加熱プレス機構11を挟んで、それぞれ供給ローラ,巻き取りローラよりなる不織布繰出部12及び不織布巻取部13が配置されている。
【0018】
前記加熱プレス機構11には、第1ローラ14及び第2ローラ15が設けられている。不織布繰出部12には、メルトブロー等によりシート状に成形された不織布Wの原材W1が巻装されている。この不織布Wは、ポリエチレン・テレフタレートやポリプロピレン等の合成樹脂材によって構成されている。そして、加熱プレス機構11の両ローラ14,15が加熱状態で回転されながら、不織布繰出部12から繰り出される不織布Wの原材W1が両ローラ14,15間に通されることにより、不織布Wに送りが付与されるとともに、その原材W1に対して加熱プレスが施されて、極薄の加工材W2が形成される。また、形成された極薄の加工材W2は不織布巻取部13に巻き取られる。
【0019】
図2に示すように、前記第1ローラ14はステンレススチール等の鉄系金属により構成され、その表面が平滑仕上げされ、例えば摂氏60度〜110度の温度となるように加熱される。
【0020】
第2ローラ15はステンレススチール等の鉄系金属製の芯部15aと、その芯部15aの外周に形成された高分子材よりなる内層15b及び表面層15cとにより構成されている。表面層15cの表面は平滑仕上げされている。この構成により、第2ローラ15の表面が第1ローラ14の表面よりも軟質となるように構成されている。第2ローラ15の内層15b及び表面層15cは、同材質のゴム材により構成され、それらは分子量が異なる。内層15b及び表面層15cは焼き付けにより芯部15aに固定されている。このゴム材としては、例えば、フッ素ゴム,シリコンゴム,ブチルゴム,ニトリルゴム等が用いられる。そして、表面層15cは、その下層の内層15bよりも硬質に形成されている。従って、内層15bが表面層15cよりも軟質の弾性材により形成されている。
【0021】
第1ローラ14及び第2ローラ15はその外径が同寸法に形成されている。これらの寸法において、前記第2ローラ15における内層15bの樹脂材料の硬度がA50〜80度の範囲内で、内層15bの厚さが2〜8mmの範囲内となるように設定するのが望ましい。なお、この実施形態においてゴム硬度は、JIS K6253に規定されたタイプAの硬度を示す。表面層15cの樹脂材料の硬度がA80〜100度の範囲内で、表面層15cの厚さが1〜5mmの範囲内となるように設定するのが望ましい。従って、第2ローラ15の表面層15cは第1ローラ14の表面より軟質である。なお、両ローラ14,15間で不織布Wの原材W1を加熱プレスする際に、第1ローラ14には下方へ向かって11〜2トン程度の押し下げ力が作用する。また、不織布Wの走行域の近傍には、不織布Wの静電気を除去するための除電器(図示しない)が設けられている。
【0022】
次に、前記のように構成された実施形態の作用を説明する。
この実施形態においては、不織布繰出部12から繰り出される不織布Wの原材W1が送られて、加熱プレス機構11の第1ローラ14と第2ローラ15との間に通されることにより、その原材W1に加熱プレスが施されて、極薄の加工材W2が形成される。この場合、第1ローラ14が金属によって形成されるとともに、第2ローラ15の表面には、その下層の内層15bよりも硬質の合成樹脂材よりなる表面層15cが設けられている。このため、第1ローラ14及び第2ローラ15の硬質の表面層15cによって、極薄の加工材W2が厚みを均一にするとともに表面を平滑にした状態で形成される。
【0023】
また、第2ローラ15の表面層15cよりも下層の部分には、軟質の合成樹脂材によりなる内層15bが設けられている。このため、不織布Wの原材W1に繊維密度の疎密や表面凹凸が存在する箇所の加熱プレスに際しては、高密度部分や凸部分が無理に圧延されることなく、軟質の内層15bによって無理な圧延を招く圧力が吸収される。従って、繊維同士の溶融接合によりフィルム化が生じるおそれはなく、多孔性を有した極薄の加工材W2が形成される。
【0024】
ちなみに、前記第2ローラ15として、内層15bの樹脂材料硬度をA70度、その厚さを5mm、表面層15cの樹脂材料硬度をA95度、その厚さを3mmに設定したものを使用し、両ローラ14,15の表面温度を80℃、加圧力を1トンに設定して、平均厚さが80μmの不織布Wの原材W1を加熱プレスし、加工形成された加工材W2の厚さを測定したところ、次のような結果が得られた。
【0025】
この厚さの測定には、JIS-K6783に則った厚さ計を使用して、加工材W2の幅方向の3箇所及び移送方向の3箇所の合計9箇所で測定を行った。その測定の結果、加工材W2の厚さが35±3μm(バラツキ9%)となって、厚みがほとんど均一であるとともに表面が平滑であって、しかもフィルム化が見られない極薄の加工材W2を得ることができた。
【0026】
これに対して、従来方法と比較するため、第2ローラとして硬度A75の単層構造の樹脂ローラを使用して、前記の場合と同一の条件で不織布Wの原材W1を加熱プレスし、加工形成された加工材W2の厚さを測定した。その測定の結果、加工材W2の厚さが40±10μm(バラツキ25%)となって、厚みの均一性や表面の平滑性を得ることができなかった。ただし、フィルム化は見られなかった。
【0027】
さらに、従来方法と比較するため、第2ローラとして硬度A95の単層構造の樹脂ローラを使用して、前記の場合と同一の条件で不織布Wの原材W1を加熱プレスし、加工形成された加工材W2の厚さを測定した。その測定の結果、加工材W2の厚さが35±3μm(バラツキ9%)となって、厚みの均一性や表面の平滑性を得ることができたが、フィルム化した箇所が見られた。
【0028】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) 実施形態においては、表面が硬質の第1ローラ14と、表面が軟質の高分子材よりなる第2ローラ15との間に不織布Wを通して、それらの第1,第2ローラ14,15により不織布Wに対して加熱プレスが施されるようになっている。そして、第2ローラ15の表面には、その下層よりも硬質の高分子材よりなる表面層15cが設けられている。
【0029】
このため、両ローラ14,15間における不織布Wの加熱プレス時には、第1ローラ14または第2ローラ15上の硬質の表面層15cにより、極薄の加工材W2を均一な厚みで表面が平滑となるように形成することができる。また、第2ローラ15の内層15bが表面層15cより軟質に構成されているため、不織布Wの原材W1が無理に圧延されることはない。よって、不織布W全体としてフィルム化が生じるおそれを抑制することができ、多孔性を有した均一な厚さの極薄の加工材W2を形成することができる。従って、このような不織布Wは電池セパレータとして好適である。これに対し、両ローラが金属製の場合は、表面が平滑で、厚さが一定の不織布Wが得られるが、フィルム化を避けることができない。また、両ローラが軟質の内層と硬質の表面層とを備えている場合は、フィルム化は生じにくいが、厚さが不均一である。
【0030】
(2) 実施形態においては、前記第2ローラ15が、金属製の芯部15aと、その芯部15aの外周に形成された内層15bと、その内層15bの外側の表面層15cとにより構成されている。そして、内層15bが表面層15cより軟質の弾性材により構成されている。このため、第2ローラ15の表面層15cの硬質度及び内層15bの軟質度を、それらの層15b,15cの材料硬度及び層15b,15cの厚さの調整により適正に設定することができる。
【0031】
(3) 実施形態においては、前記内層15b及び表面層15cが同材質の高分子材により構成されている。このため、芯部15aの外周に内層15b及び表面層15cを形成する際に、その内層15bと表面層15cとの密着性を高めることができる。
【0032】
(4) 実施形態においては、前記第1ローラ14が鉄系金属により構成されている。このため、第1ローラ14の表面に十分な硬質度を確保することができるとともに、不織布Wの加熱プレス時に不織布Wの表面に傷が付くおそれを抑制することができる。
【0033】
(変更例)
なお、本発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 第2ローラ15の内層15b及び表面層15cを、前記実施形態とは異なった高分子材,例えばアクリルゴムにより構成すること。
【0034】
・ 第2ローラ15の芯部15a省略し、内層15bと表面層15cとの二層構造にすること。この場合、内層15bが芯部15aの部分の厚みを有することになる。
・ 内層15b及び表面層15cの高分子材ゴムにカーボンを混入させて、静電気逃すように構成すること。
【0035】
・ 第1,第2ローラ14,15の外径を異ならせること。
・ 第1ローラ14を金属以外の材質で構成すること。例えば、エンジニアリングプラスチックやセラミックで構成すること。
【符号の説明】
【0036】
11…加熱プレス機構、14…第1ローラ、15…第2ローラ、15a…芯部、15b…内層、15c…表面層、W…不織布、W1…不織布の原材、W2…形成された極薄の加工材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布を送りながら、その不織布を硬質の第1ローラと、下層よりも軟質の高分子材よりなる表面層を有する第2ローラとの間で加熱プレスを施すことを特徴とする不織布プレス方法。
【請求項2】
表面が硬質の第1ローラと、表面が軟質の高分子材よりなる第2ローラとの間に不織布を通して、それらの第1,第2ローラにより前記不織布に対して加熱プレスを施すようにした不織布プレス装置において、
前記第2ローラの表面に、その下層よりも硬質の高分子材よりなる表面層を設けたことを特徴とする不織布プレス装置。
【請求項3】
第2ローラの表面層を第1ローラの表面より軟質に構成したことを特徴とする請求項2に記載の不織布プレス装置。
【請求項4】
前記第2ローラの芯部の外周に前記表面層より軟質の弾性材よりなる内層を設けたことを特徴とする請求項2または3に記載の不織布プレス装置。
【請求項5】
前記第2ローラを、金属製の芯部と、その芯部の外周に形成された前記内層及び表面層とにより構成したことを特徴とする請求項4に記載の不織布プレス装置。
【請求項6】
前記内層及び表面層を同材質の高分子材により構成したことを特徴とする請求項4または5に記載の不織布プレス装置。
【請求項7】
前記第1ローラを鉄系金属により構成したことを特徴とする請求項3〜6のうちのいずれか一項に記載の不織布プレス装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−241288(P2012−241288A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109707(P2011−109707)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】