説明

不織布及びその製造方法

【課題】不織布はガラス繊維を熱硬化性の合成樹脂を含浸させ、硬化させることで結合している。従って、柔軟性を失ってしまい、コンクリート構造体に巻き付ける作業が行い難いものになってしまう。更に、そればかりかエポキシ樹脂が繊維間に浸透しないため、コンクリート構造体に対する付着性能及び強度が十分に得られないおそれがある。
【解決手段】少なくとも二層に重ねられ、且つ互いに交叉するように配置された多数の糸3,5を有する。糸5には融着材(糸)11が粗く螺旋状に巻き付けられており、糸どうしは、その交叉部15において融着材11により結合されている。従って、糸5は融着材11が付着していない非付着部13を有する。また、糸3は殆どが非付着部23である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布及びその製造方法に係り、特に糸がもつ柔軟性等の性質を損なわないまま有している不織布及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速道路の支柱脚や橋脚などのコンクリート構造体の耐震補強の方法として、ガラス繊維をシート状にしたものをコンクリート構造体に巻きつけて、その上からエポキシ樹脂を塗布して硬化させる工法が行われている。
このガラス繊維をシートにしたものとしては織布と不織布の二つがある。このうち織布はガラス繊維を織り機により織って製作している。一方、不織布はガラス繊維間に熱硬化性の合成樹脂を含浸させてから、このガラス繊維を交叉するように配置し、加圧しながら加熱することによりガラス繊維どうしの交叉部を結合して製作している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、織布はガラス繊維を織るのに手間がかかるという問題がある。一方、不織布はガラス繊維間に熱硬化性の合成樹脂を含浸させるため、ガラス繊維どうしの交叉部以外の部位にも合成樹脂が満遍なく付着して硬化する。このため、ガラス繊維のシートが柔軟性を失ってしまい、コンクリート構造体に巻き付ける作業が行い難いものになってしまう。なお、熱可塑性樹脂を用いた場合であっても、熱可塑性樹脂がガラス繊維間に含浸するとガラス繊維の動きが規制されることになるため、ガラス繊維のシートが柔軟性を失ってしまうことになる。
また、エポキシ樹脂が繊維間に浸透しないため、コンクリート構造体に対する付着性能及び強度が十分に得られないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、少なくとも二層に重ねられ、且つ互いに交叉するように配置された多数の糸を有し、前記糸どうしは、その交叉部において融着材により結合されており、前記糸は、その交叉部以外の部位に融着材が付着していない非付着部を有することを特徴とする不織布である。
【0005】
請求項2の発明は、請求項1に記載した不織布において、融着材は熱融着性の合成樹脂によって構成されていることを特徴とする不織布である。
【0006】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した不織布において、糸は多数の繊維が束ねられて構成されていることを特徴とする不織布である。
【0007】
請求項4の発明は、請求項3に記載した不織布において、糸を構成する繊維は異なる種類のものが混在していることを特徴とする不織布である。
【0008】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載した不織布を製造する方法において、融着材を互いに交叉させる糸の少なくとも一方に対し糸の周面の一部が露出する状態に備える融着材付与工程と、前記融着材付与工程終了後、糸を少なくとも二層に重ね、且つ交叉するように配置して前記融着材を融着して糸どうしを、その交叉部において結合する糸結合工程とを有することを特徴とする不織布の製造方法である。
【0009】
請求項6の発明は、請求項5に記載した不織布の製造方法において、融着材付与工程では細糸状に形成した融着材を互いに交叉させる糸の少なくとも一方に対し螺旋状に粗く巻き付けることを特徴とする不織布の製造方法である。
【0010】
請求項7の発明は、請求項5に記載した不織布の製造方法において、融着材付与工程では細糸状に形成した融着材を編んで編物状とした融着材により糸を被覆することを特徴とする不織布の製造方法である。
【0011】
請求項8の発明は、請求項5に記載した不織布の製造方法において、融着材付与工程では細糸状に形成した融着材を組んで組み紐状とした融着材により糸を被覆することを特徴とする不織布の製造方法である。
【0012】
請求項9の発明は、請求項5から8のいずれかに記載した不織布の製造方法において、糸結合工程では糸の交叉部を加圧しながら融着材を融着させることを特徴とする不織布の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の不織布は、コンクリート構造物の補修や補強等に使用されるものであり、柔軟性をもち、凹凸面に対する高い追従性、賦形性を備えることが可能となる。しかもエポキシ樹脂等の不織布を被固定部材に固定するための接着剤の浸透性が良好である。
更に、本発明の製造方法によれば、上記不織布を容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第1の実施の形態に係る不織布1を、図1から4にしたがって説明する。
図1と図2の不織布1はコンクリート構造物の補修や補強等に使用されるものである。即ち、不織布1を橋脚等のコンクリート構造物に巻き付けて、その上から合成樹脂を塗布して含浸させたり、コンクリートを打設したりして、不織布1をコンクリート構造物と一体化させて補修や補強を行う。
この不織布1は斜交糸3と斜交糸5とが互いに逆行する斜め方向(±60°)に交叉するよう配置されて2軸不織布(±60°)を構成しており、斜交糸3は斜交糸5の上側(片側)に積層配置されている。即ち、斜交糸3と斜交糸5は互いに交叉するように並行に配列されている。
斜交糸3と斜交糸5の長手方向に垂直な断面の形状は、扁平状、中実の丸状、中空状などいずれの形状でもよいが、この実施の形態では、斜交糸3の断面7も、斜交糸5の断面9も横長の扁平状である。
【0015】
斜交糸3と斜交糸5は、無機繊維でも有機繊維でもよい。例えば、無機繊維としてはガラス、耐アルカリガラス等の特殊ガラス、カーボンなどが使用でき、有機繊維のうち人造繊維としてはポリエステル、ポリアミド、アラミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビニロン、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)などが使用でき、天然繊維としては綿などが使用できる。なお、1種類の繊維のみで構成しても、2種類以上の繊維で構成してもよい。上記耐アルカリガラスは、ジルコニア(ZrO2)を多く含む耐アルカリ性のものであり、コンクリートに埋設してアルカリ性の環境に置かれても長期間に渡り強度が低下せず、さらに不燃性であるなど優れた性質を有している。
斜交糸3と斜交糸5は、形態面からは、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンなどいずれの形状でもよい。この実施の形態では、斜交糸3と斜交糸5はいずれも耐アルカリガラスのマルチフィラメントである。
【0016】
符号11は加熱・融解された融着材を示す。この融着材11は公知の熱融着性の合成樹脂であるナイロン製の糸によって構成されている。融着材11は定法により細糸状に形成されている。融着材11は、ポリエチレン、ポリプロピレン等によって構成してもよい。
融着材11は斜交糸5に対して螺旋状に粗く巻き付けられて付着している。従って、斜交糸5上には融着材11の付着していない非付着部13が形成されている。
符号15は斜交糸3と斜交糸5の交叉部を示し、この交叉部15において融着材11により斜交糸3と斜交糸5が結合されている。
【0017】
不織布1の製造方法を説明する。
先ず、多数の斜交糸3,5を準備する。なお、この段階では、斜交糸3,5の断面形状は丸である。
斜交糸5の長さ(L)と半径(r)に対して、融着材11の長さ(D)は
D=((2πr)2+L21/2
となるように巻き付けると、
斜交糸5の太さをa(tex)、融着材11の太さをb(tex)とすると、付着量=bL/(aL+bD)×100(重量%)
となる。
上記の付着量の計算式に基づいて、具体的な使用する融着材11の太さと巻き付け方を決定し、斜交糸5に対して、図3に示すように、融着材11を螺旋状に粗く巻き付ける。これにより、斜交糸5の周面の一部が露出する状態で、予め融着材11が斜交糸5に付与される。
この実施の形態では、斜交糸5(太さ:1100tex)に対して融着材11(太さ:100d)を3mmピッチで巻き付けている。
融着材11の量は、斜交糸5と融着材11との合計重量に対し1〜30重量%の範囲で調整し、好ましくは3〜10重量%である。
【0018】
次に、斜交糸3と斜交糸5とを2軸不織布(±60°)を構成するように、図示しないコンベア上で積層配置して、図4に示すヒートローラー17にかける。このヒートローラー17はローラー19,21が上下2層に配設されており、ローラー19,21の間を通る際に、斜交糸3と斜交糸5が加熱されながらプレスされる。融着材11が融着して付着するので、交叉部15においては斜交糸3と斜交糸5とを結合する。また、斜交糸3と斜交糸5は潰されて断面7、9が横長の扁平状になる。
上記した融着材付与工程と糸結合工程を経ると、図1、図2に示す不織布1が製造される。
【0019】
この実施の形態によれば、斜交糸5は融着材11が付着していない非付着部13を有し、斜交糸3は、交叉部15を除く広い領域にわたって非付着部23を有する。従って、不織布1は柔らかな風合いを有し、不織布が目曲がりし難い。しかも、エポキシ樹脂等の不織布を被固定部材に固定するための接着剤が、非付着部13,23において斜交糸3,5に容易に付着する。
この実施の形態では融着材11として融着糸を使用しているため、糸の太さや巻き数を変えることにより、付着量を容易に調整できる。更に、融着材11は交叉部15にのみ存在しているのではなく、細長く連続して延びているので、上下の斜交糸3,5を引き剥がす方向に力が加えられても容易には剥がれない。
【0020】
以下、本発明の更なる実施の形態を説明するが、第1の実施の形態と同じ構成部分は同じ符号を付すことで説明を省略する。
本発明の第2の実施の形態に係る不織布25を、図5にしたがって説明する。
この不織布25は、横糸27と縦糸29とが互いに直角方向(0°、90°)に交叉するよう配置されて2軸不織布(0°、90°)を構成している。横糸27は縦糸29の上側(片側)に配置されている。
横糸27と縦糸29の形状及び材質は、第1の実施の形態に係る不織布1の斜交糸3、5と同じである。
融着材11は縦糸29に螺旋状に粗く巻き付けられている。
その他の構成は、不織布1と同じであり、同じ方法によって製造できる。
この実施の形態のように、軸方向を変えてもよい。
【0021】
本発明の第3の実施の形態に係る不織布31を、図6にしたがって説明する。
この不織布31は、縦糸29を挟んで、斜交糸3と斜交糸5とが互いに逆行する斜め方向(±60°)に交叉するよう積層配置されて3軸組布(0°、±60°)を構成している。
融着材11は縦糸29に螺旋状に粗く巻き付けられている。
その他の構成は、不織布1と同じであり、同じ方法によって製造できる。
この実施の形態のように、積層する軸を多くしてもよい。
【0022】
本発明の第4の実施の形態に係る不織布33を、図7にしたがって説明する。
この不織布33は、第3の実施の形態に係る不織布31と同じように、縦糸29を挟んで、斜交糸3と斜交糸5とが互いに逆行する斜め方向(±60°)に交叉するよう積層配置され、更に、斜交糸5の下に横糸27が配置されて、4軸組布(0°、90°、±60°)を構成している。
融着材11は斜交糸5と縦糸29に螺旋状に粗く巻き付けられている。
その他の構成は、不織布1と同じであり、同じ方法によって製造できる。
この実施の形態のように、積層する軸を多くしてもよい。
【0023】
本発明の第5の実施の形態を、図8にしたがって説明する。
糸5に対する融着材11の被覆方法は、第1の実施の形態の被覆方法に限定されず種々のもがあり、例として以下の4つを示す。
図8(a)は、2本の融着材11が互いに逆行する斜め方向に交叉するように螺旋状に巻き付けられている。
図8(b)は、1本の融着材11が編まれて編み物状になっている。
図8(c)は、融着材11、35が組み紐状に形成された状態を示す。なお、融着材35は融着材11と同じものであるが、組み紐状であることが容易に視認できるように区別して描かれている。融着材11、35を織物状とした場合も、図8(c)に示したものと同様である。即ち、融着材11、35が組み紐状となっているものと、織物状となっているものの違いは、組み紐状が筒状となるのに対し、織物状は平状になることであるが、融着材11、35を織物状としたものを斜交糸5に巻き付けるので、斜交糸5を被覆した状態は、融着材11、35を組み紐状とした場合と織物状とした場合のいずれも図8(c)に示した状態となる。
なお、このように被覆方法を変えれば、当然のことながら、付着量の計算式も変わる。
【0024】
本発明の第6の実施の形態を、図9にしたがって説明する。
符号39は融着材11が被覆される糸を示し、この糸39は2種類のフィラメント41,43が引き揃えられたマルチフィラメントである。
2本の融着材11が互いに逆行する斜め方向に交叉するように螺旋状に巻き付けられているので、融着材11がフィラメント41,43を束ねる役割を果たしている。従って、フィラメント41,43はばらけるのを防止できる。
また、2種類のフィラメント41,43が引き揃えられ複合されているが、融着材11により1本の糸になっているので、モノフィラメントと同じように取り扱える。
この実施の形態によれば、エポキシ樹脂がフィラメント(繊維)間に容易に浸透するので、付着性能及び強度が更に上がる。
また、複数種類の糸を併用できることで、強度や付着性能を用途に応じて調整できる利点がある。
【0025】
以上、本発明の実施例について詳述してきたが、具体的構成は、この実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、糸を短繊維のスパンで構成しても、融着材の非付着部の分布を工夫すれば、毛羽の発生を抑制できる。同様に、糸が無撚りでも問題ない。
また、融着材として糸を使用する場合には、積層配置したときに隣接する少なくとも一方の糸に付与すれば足りるが、両方の糸に付与してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の不織布は、組布として要求される本来の性能を高い満足度で有する上に、組布を構成する糸が未処理状態で露出しているので、種々の二次加工が可能である。従って、用途の広がりを期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る不織布の斜視図である。
【図2】図1の不織布の正面図である。
【図3】図1の不織布を構成する1本の糸の斜視図である。
【図4】図1の不織布の製造方法の説明図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る不織布の正面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る不織布の正面図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る不織布の正面図である。
【図8】本発明の第5の実施の形態に係る融着材の種々の被覆方法の説明図である。
【図9】本発明の第6の実施の形態に係る融着材が付与された糸の斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
1 不織布 3,5 斜交糸 11 融着材
13 非付着部 15 交叉部
25 不織布 27 横糸 29 縦糸
31 不織布 33 不織布 35 融着材
39 糸 41,43 フィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二層に重ねられ、且つ互いに交叉するように配置された多数の糸を有し、前記糸どうしは、その交叉部において融着材により結合されており、前記糸は、その交叉部以外の部位に融着材が付着していない非付着部を有することを特徴とする不織布。
【請求項2】
請求項1に記載した不織布において、融着材は熱融着性の合成樹脂によって構成されていることを特徴とする不織布。
【請求項3】
請求項1または2に記載した不織布において、糸は多数の繊維が束ねられて構成されていることを特徴とする不織布。
【請求項4】
請求項3に記載した不織布において、糸を構成する繊維は異なる種類のものが混在していることを特徴とする不織布。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した不織布を製造する方法において、融着材を互いに交叉させる糸の少なくとも一方に対し糸の周面の一部が露出する状態に備える融着材付与工程と、前記融着材付与工程終了後、糸を少なくとも二層に重ね、且つ交叉するように配置して前記融着材を融着して糸どうしを、その交叉部において結合する糸結合工程とを有することを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載した不織布の製造方法において、融着材付与工程では細糸状に形成した融着材を互いに交叉させる糸の少なくとも一方に対し螺旋状に粗く巻き付けることを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載した不織布の製造方法において、融着材付与工程では細糸状に形成した融着材を編んで編物状とした融着材により糸を被覆することを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載した不織布の製造方法において、融着材付与工程では細糸状に形成した融着材を組んで組み紐状とした融着材により糸を被覆することを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項9】
請求項5から8のいずれかに記載した不織布の製造方法において、糸結合工程では糸の交叉部を加圧しながら融着材を融着させることを特徴とする不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−70396(P2006−70396A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256504(P2004−256504)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(304040289)
【Fターム(参考)】