説明

不織布及びその製造方法

【課題】 芯鞘型複合繊維が融着した耐熱性に優れる不織布、及び収縮させることなく、芯鞘型複合繊維が融着した耐熱性に優れる不織布を製造できる方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の不織布は、誘電正接(10Hz)が1×10−2よりも大きい鞘成分と、誘電正接(10Hz)が1×10−2以下の芯成分とを含み、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも高い芯鞘型複合繊維を含み、この芯鞘型複合繊維の鞘成分のみが融着したものである。この不織布は、誘電正接(10Hz)が1×10−2よりも大きい鞘成分と、誘電正接(10Hz)が1×10−2以下の芯成分とを含み、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも高い芯鞘型複合繊維を含む繊維ウエブを形成した後、高周波誘電加熱により前記芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させることにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は繊維の組成、繊維の組み合わせ、繊維ウエブの形成方法、繊維ウエブの結合方法など、様々な要因を適宜組み合わせることによって、各種用途に適したものを製造できるため、幅広い用途で使用されている。このような不織布の1つの製造方法として、高融点樹脂を低融点樹脂で被覆したいわゆる芯鞘型複合繊維を混合した繊維ウエブを形成した後、この芯鞘型複合繊維の低融点樹脂のみを融着させる方法が一般的に知られている。この芯鞘型複合繊維を使用すれば、溶融しない芯成分の存在によって、融着させる際に不織布が収縮しないという効果を奏する。このように、芯鞘型複合繊維は低融点樹脂によって融着できるように、低融点樹脂は芯鞘型複合繊維の表面、つまり鞘成分として存在している。そのため、このような芯鞘型複合繊維で融着した不織布を、耐熱性を必要とする用途に使用する場合には、芯鞘型複合繊維の低融点樹脂として、できるだけ融点の高いものを使用する必要があった(例えば、特許文献1)。しかしながら、低融点樹脂として融点の高いものを使用すればする程、芯鞘型複合繊維の芯成分として、更に融点の高い樹脂が必要となるが、そのような樹脂の組み合わせの芯鞘型複合繊維を製造するためには、紡糸温度を高くする必要があり、芯鞘型複合繊維の製造が産業上、実用的ではなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2000−282330号公報(請求項1、段落番号0018など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述のような問題点を解決するためになされたもので、芯鞘型複合繊維が融着した耐熱性に優れる不織布、及び収縮させることなく、芯鞘型複合繊維が融着した耐熱性に優れる不織布を製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1にかかる発明は、「誘電正接(10Hz)が1×10−2よりも大きい鞘成分と、誘電正接(10Hz)が1×10−2以下の芯成分とを含み、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも高い芯鞘型複合繊維を含み、この芯鞘型複合繊維の鞘成分のみが融着した不織布。」である。
【0006】
本発明の請求項2にかかる発明は、「芯鞘型複合繊維の鞘成分の融点が240℃以上であることを特徴とする、請求項1記載の不織布。」である。
【0007】
本発明の請求項3にかかる発明は、「芯鞘型複合繊維の鞘成分がナイロン66樹脂からなることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の不織布。」である。
【0008】
本発明の請求項4にかかる発明は、「芯鞘型複合繊維の芯成分がポリプロピレン樹脂からなることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の不織布。」である。
【0009】
本発明の請求項5にかかる発明は、「誘電正接(10Hz)が1×10−2よりも大きい鞘成分と、誘電正接(10Hz)が1×10−2以下の芯成分とを含み、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも高い芯鞘型複合繊維を含む繊維ウエブを形成した後、高周波誘電加熱により前記芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させることを特徴とする、不織布の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1にかかる発明は、鞘成分が芯成分よりも融点が高い芯鞘型複合繊維の鞘成分が融着したものであるため、耐熱性の優れるものである。なお、芯鞘型複合繊維の芯成分は鞘成分よりも融点が低いため、産業上、実用的かつ容易に製造できる。また、芯鞘型複合繊維の鞘成分と芯成分における誘電正接の違いにより、鞘成分のみを融着させることができるため、収縮させることなく製造できる不織布である。
【0011】
本発明の請求項2にかかる発明は、鞘成分の融点が240℃以上であるため、耐熱性の優れる不織布である。
【0012】
本発明の請求項3にかかる発明は、鞘成分がナイロン66樹脂からなり、親水性に優れているため、親水性と耐熱性を必要とする用途に好適に使用できる。例えば、ニッケル−カドミウム二次電池用のセパレータとして好適に使用できる。
【0013】
本発明の請求項4にかかる発明は、芯成分がポリプロピレン樹脂からなるため、耐薬品性を必要とする用途に好適に使用できる。例えば、耐アルカリ性を必要とするニッケル−カドミウム二次電池用のセパレータとして好適に使用できる。
【0014】
本発明の請求項5にかかる発明は、鞘成分の方が融点の高い芯鞘型複合繊維を使用し、芯鞘型複合繊維の鞘成分と芯成分における誘電正接の違いを利用して、高周波誘電加熱により、鞘成分のみを融着させることができるため、収縮させることなく、耐熱性の優れる不織布を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の不織布は製造する際に収縮を生じず、製造しやすいように、芯鞘型複合繊維を含んでおり、耐熱性に優れるように、鞘成分の方が芯成分よりも融点が高い樹脂から構成されている。この鞘成分の融点は特に限定するものではないが、一般的な芯鞘型複合繊維の鞘成分の融点は高くても220℃程度であるため、それよりも融点の高い240℃以上であるのが好ましく、250℃以上であるのがより好ましい。他方、芯成分の融点は鞘成分の融点よりも低ければ、産業上、実用的に紡糸して芯鞘型複合繊維を製造することができるため、特に限定するものではない。しかしながら、ある程度の耐熱性に優れているように、100〜240℃であるのが好ましく、160〜240℃であるのがより好ましい。
【0016】
また、本発明の芯鞘型複合繊維は鞘成分の方が、融点が高いにもかかわらず、鞘成分のみが融着できるように、芯鞘型複合繊維は誘電正接の異なる鞘成分と芯成分とから構成されている。つまり、鞘成分は誘電正接が1×10−2よりも大きく、芯成分は誘電正接が1×10−2以下である。誘電正接の値が大きいということは、例えば高周波を照射した場合に、内部発熱によって融着しやすいことを意味するため、鞘成分のみを選択的に融着できる。これらの誘電正接の値は経験的に見出された値であり、高周波によって融着しやすい鞘成分の好ましい誘電正接は2×10−2以上であり、より好ましくは3×10−2以上である。他方、高周波によって溶融しにくい芯成分の好ましい誘電正接は5×10−3以下であり、好ましくは3×10−3以下であり、より好ましい誘電正接は2×10−3以下である。
【0017】
具体的には、前記誘電正接を満たす鞘成分として、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のナイロン系樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂などを挙げることができ、これらの中でもナイロン系樹脂は分子構造内に比較的大きい極性を持っているため好適であり、特に融点が240℃よりも高く、耐熱性及び親水性の優れるナイロン66樹脂が好ましい。他方、前記誘電正接を満たす芯成分として、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、フッ素系樹脂などを挙げることができ、これらの中でもポリオレフィン系樹脂は耐薬品性に優れているため好適であり、特に融点が比較的高く、耐熱性及び耐薬品性の優れるポリプロピレン樹脂が好ましい。したがって、鞘成分がナイロン系樹脂からなり、芯成分がポリオレフィン系樹脂からなる芯鞘型複合繊維が好ましく、鞘成分がナイロン66樹脂からなり、芯成分がポリプロピレン樹脂からなる芯鞘型複合繊維が特に好ましい。
【0018】
なお、芯鞘型複合繊維は横断面において、芯成分は不織布製造時に収縮しにくいように、中央に位置しているのが好ましい。また、芯鞘型複合繊維の芯成分は1つである必要はなく、2つ以上の多芯であっても良い。このような芯鞘型複合繊維は、従来から公知の樹脂から構成することができるため、従来公知の複合紡糸法によって紡糸することができる。
【0019】
このような芯鞘型複合繊維の繊度、繊維長は特に限定するものではないが、繊度は0.01dtex〜10dtexであることができ、繊維長は0.1mm以上で、場合により連続繊維であることができる。
【0020】
なお、「融点」は、JIS K 7121-1987に規定されている示差熱分析により得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)から得られる融解温度をいい、「誘電正接」は、ASTM D150に規定されている方法により得られる値をいう。
【0021】
本発明の不織布は上述のような芯鞘型複合繊維を含むものであるが、この芯鞘型複合繊維が融着して形態を維持するものであるため、この芯鞘型複合繊維は不織布中、10mass%以上含まれているのが好ましく、30mass%以上含まれているのがより好ましく、50mass%以上含まれているのが更に好ましい。なお、芯鞘型複合繊維以外に含むことのできる繊維は特に限定するものではないが、誘電正接が1×10−2よりも大きい樹脂のみからなる繊維を含んでいると、芯鞘型複合繊維を融着させる際に一緒に溶融し、収縮するため、誘電正接が1×10−2よりも大きい樹脂のみからなる繊維以外の繊維を含んでいるのが好ましい。つまり、ナイロン系樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂のみからなる繊維以外の繊維、特には誘電正接が1×10−2以下の樹脂(例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、フッ素系樹脂など)を含む繊維を含んでいるのが好ましい。
【0022】
本発明の不織布は上述のような芯鞘型複合繊維の鞘成分のみが融着したものであるため、芯鞘型複合繊維の芯成分によって繊維形態が維持され、収縮することなく製造できるものである。
【0023】
本発明の不織布の目付、厚さは用途によって異なるため、特に限定するものではないが、目付は5〜200g/mあることができ、厚さは10〜300μmであることができる。
【0024】
このように、本発明の不織布は耐熱性に優れ、収縮させることなく製造できるものであるため、耐熱性を必要とする用途、例えば、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池などのアルカリ電池用セパレータとして使用することができる。
【0025】
このような本発明の不織布は、例えば、誘電正接(10Hz)が1×10−2よりも大きい鞘成分と、誘電正接(10Hz)が1×10−2以下の芯成分とを含み、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも高い芯鞘型複合繊維を含む繊維ウエブを形成した後、高周波誘電加熱により前記芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させて製造することができる。
【0026】
なお、繊維ウエブの形成方法は特に限定するものではなく、例えば、カード法やエアレイ法により、芯鞘型複合繊維のみ、又は芯鞘型複合繊維に加えて他の繊維を混合して繊維ウエブを形成することができるし、湿式法により、芯鞘型複合繊維のみ、又は芯鞘型複合繊維に加えて他の繊維を混合して繊維ウエブを形成することができるし、芯鞘型複合繊維をスパンボンド法又はメルトブローにより紡糸し、直接シート化して形成することができるし、芯鞘型複合繊維をスパンボンド法又はメルトブローにより紡糸し、シート化する際に、芯鞘型複合繊維及び/又は他の繊維を噴きつけ、混合して形成することができるし、或いは芯鞘型複合繊維以外の繊維をスパンボンド法又はメルトブローにより紡糸し、シート化する際に、芯鞘型複合繊維を噴きつけ、混合して形成することができる。
【0027】
次いで、高周波誘電加熱により前記芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させて不織布を製造できる。この高周波誘電加熱による融着は芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを選択的に行なうものであるため、従来のように、熱を作用させる場合と比較して、芯鞘型複合繊維の鞘成分以外の樹脂に対する熱劣化を抑制できるという効果も奏する。この高周波誘電加熱の周波数は一般的に1MHz〜100MHzであり、電力、時間は芯鞘型複合繊維の鞘成分によって異なるため、特に限定するものではないが、電力(高周波出力)は1kW〜40kWであるのが好ましい。また、時間は1秒〜180秒であるのが好ましく、10秒〜60秒であるのがより好ましい。なお、高周波誘電加熱によって、全ての芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させても良いし、一部の芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させても良い。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
複合紡糸法により製造した、芯成分がポリプロピレン(融点:163℃、誘電正接:2×10−4)からなり、鞘成分がナイロン66樹脂(融点:265℃、誘電正接:0.04)からなる芯鞘型複合繊維(繊度:2dtex、繊維長:10mm、芯成分が中央に1つ存在)のみを使用し、傾斜ワイヤー型短網湿式法により湿式繊維ウエブを形成した。
【0030】
次いで、この湿式繊維ウエブを高周波誘電加熱装置により、周波数40MHz、電力1kWの条件下、30秒間誘電加熱し、全ての芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させて不織布(目付:40g/m、厚さ:100μm)を製造した。この不織布を構成する繊維表面は全てナイロン66であったため、耐熱性の優れるものであった。また、不織布を製造する際に収縮しないため、生産性良く、安定して製造することができた。この不織布は不織布を構成する繊維表面は全てナイロン66で耐熱性及び親水性に優れ、しかも芯鞘型複合繊維の芯成分がポリプロピレンで耐薬品性に優れるものであったため、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池などのアルカリ電池用セパレータとして好適に使用できるものであった。
【0031】
(実施例2)
複合紡糸法により製造した、芯成分がポリプロピレン(融点:163℃、誘電正接:3×10−4)からなり、鞘成分がナイロン66樹脂(融点:265℃、誘電正接:0.04)からなる芯鞘型複合繊維(繊度:2dtex、繊維長:10mm、芯成分が中央に1つ存在)のみを使用し、傾斜ワイヤー型短網湿式法により湿式繊維ウエブを形成した。
【0032】
次いで、この湿式繊維ウエブを実施例1と同様にして、全ての芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させて不織布(目付:40g/m、厚さ:100μm)を製造した。この不織布を構成する繊維表面は全てナイロン66であったため、耐熱性の優れるものであった。また、不織布を製造する際に収縮しないため、生産性良く、安定して製造することができた。この不織布は不織布を構成する繊維表面は全てナイロン66で耐熱性及び親水性に優れ、しかも芯鞘型複合繊維の芯成分がポリプロピレンで耐薬品性に優れるものであったため、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池などのアルカリ電池用セパレータとして好適に使用できるものであった。
【0033】
(実施例3)
複合紡糸法により製造した、芯成分がポリプロピレン(融点:163℃、誘電正接:1×10−3)からなり、鞘成分がナイロン66樹脂(融点:265℃、誘電正接:0.04)からなる芯鞘型複合繊維(繊度:2dtex、繊維長:10mm、芯成分が中央に1つ存在)のみを使用し、傾斜ワイヤー型短網湿式法により湿式繊維ウエブを形成した。
【0034】
次いで、この湿式繊維ウエブを実施例1と同様にして、全ての芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させて不織布(目付:40g/m、厚さ:100μm)を製造した。この不織布を構成する繊維表面は全てナイロン66であったため、耐熱性の優れるものであった。また、不織布を製造する際に収縮しないため、生産性良く、安定して製造することができた。この不織布は不織布を構成する繊維表面は全てナイロン66で耐熱性及び親水性に優れ、しかも芯鞘型複合繊維の芯成分がポリプロピレンで耐薬品性に優れるものであったため、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池などのアルカリ電池用セパレータとして好適に使用できるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電正接(10Hz)が1×10−2よりも大きい鞘成分と、誘電正接(10Hz)が1×10−2以下の芯成分とを含み、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも高い芯鞘型複合繊維を含み、この芯鞘型複合繊維の鞘成分のみが融着した不織布。
【請求項2】
芯鞘型複合繊維の鞘成分の融点が240℃以上であることを特徴とする、請求項1記載の不織布。
【請求項3】
芯鞘型複合繊維の鞘成分がナイロン66樹脂からなることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の不織布。
【請求項4】
芯鞘型複合繊維の芯成分がポリプロピレン樹脂からなることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
誘電正接(10Hz)が1×10−2よりも大きい鞘成分と、誘電正接(10Hz)が1×10−2以下の芯成分とを含み、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも高い芯鞘型複合繊維を含む繊維ウエブを形成した後、高周波誘電加熱により前記芯鞘型複合繊維の鞘成分のみを融着させることを特徴とする、不織布の製造方法。

【公開番号】特開2008−231592(P2008−231592A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69399(P2007−69399)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】