説明

不織布用エチレン系重合体および不織布

【課題】本発明は、上記のような従来技術を鑑みてなされたものであり、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が少なく、かつ濾過性能に優れた不織布の製造に適したエチレン系重合体と該エチレン系重合体を使用することにより製造された不織布とを提供することを課題としている。
【解決手段】メルトフローレートが10g/10分以上、1000g/10分以下であり、密度が940kg/m以上、980kg/m以下であり、重量平均分子量を数平均分子量で除すことにより得られる値が2以上、5以下であり、分子量が1000以下である低分子量成分の重量分率が1.0重量%以下であり、分子量が100万以上である高分子量成分の重量分率が0.5重量%以下であるエチレン系樹脂であり、該樹脂に含まれるチタン原子が3重量ppm以下であり、塩素原子が5重量ppm以下であることを特徴とする、不織布用エチレン系重合体および該重合体を用いて製造されることを特徴とする不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布用エチレン系重合体および不織布に関する。さらに詳しくは、従来公知の方法と比較して、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が少なく、かつ濾過性能に優れた不織布の製造に適したエチレン系重合体と該エチレン系重合体を使用することにより製造された不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長繊維不織布はスパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等により製造され、製造方法により種々の繊維径の長繊維不織布を製造することが可能である。ところで、この長繊維不織布を製造する際に、より極細の繊維を得るため、あるいは生産性を向上させるために、繊維の原料であるポリマーの溶融粘度を小さくする検討がなされている。
例えば、特許文献1には重量分子量分布曲線における分子量が2000以下である低分子量物と分子量が100万以上の高分子量物の重量分率および重量平均分子量について検討した結果が開示されている。特許文献1ではポリプロピレンについての検討結果を開示しているが、熱安定剤を添加しない場合にはポリプロピレンは熱安定性が悪く加工時に酸化反応による分子鎖切断が起こるため、多量の低分子量成分が発生して溶剤に対する溶出物が増大し、臭気も増大する。一方、この酸化反応を抑制するため、熱安定剤が添加されたポリプロピレンを使用した場合には、添加された熱安定剤が溶出するために溶剤に対する溶出物が顕著に増大する課題が残されていた。
【0003】
また、特許文献2には、柔軟性、紡糸性を有し、適度の耐熱性を有し、べたつきが無い複合繊維、その製造方法およびこれを用いた不織布として、エチレン(共)重合体を用いた複合繊維、その製造方法およびこれを用いた不織布が開示されているが、具体的に開示されたエチレン(共)重合体は密度が0.923g/cm以上0.929g/cm以下である線状低密度ポリエチレンのみであった。また、このエチレン系(共)重合体には末端ビニルが存在しているため、熱安定剤を添加しない場合にはエチレン系(共)重合体の架橋が促進され、紡糸性が悪化する恐れがあった。
【0004】
また、特許文献3には、紡糸工程において糸切れが少なく、不織布に好適に用いられるポリエチレン系重合体として、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより測定した分子量分布曲線を3分割して得た高分子量領域の面積と中間領域の面積を規定したポリエチレン系重合体が開示されている。しかし、特許文献3において開示されているのはいわゆるチーグラー触媒により製造されたポリエチレン系重合体であるため、低分子量成分にコモノマーが多量に入っているため、この低分子量成分が溶剤に対する溶出物となるため、溶出物を低減させる課題が残されていた。
【0005】
また、特許文献4には、紡糸特性および熱融着特性に優れた繊維であり、柔軟性および風合いのみならず生産性に優れた主成分として、2種類のエチレンと、α−オレフィン及び/または非共役ジエン共重合体が開示されている。しかし、特許文献4に開示されたエチレンと、α−オレフィン及び/または非共役ジエン共重合体の少なくとも一方はコモノマー含量が2モル%を越えるものであり、この共重合体が溶剤に対する溶出物となるため、溶出物を低減させる課題が残されていた。
また、特許文献5には融点の異なる2種類のポリエチレン樹脂成分からなる複合繊維が開示されている。しかし、しかし、特許文献5に開示された低融点ポリエチレン樹脂成分が、密度が0.850〜0.930g/cmであるため、この成分が溶剤に対する溶出物となるため、溶出物を低減させる課題が残されていた。
【0006】
【特許文献1】特許第3677865号公報
【特許文献2】特開2005−60896号公報
【特許文献3】特開平11−228628号公報
【特許文献4】特許第3384635号公報
【特許文献5】特許第3389927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術を鑑みてなされたものであり、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が少なく、成型加工時に成形機を腐食することなく、かつ濾過性能に優れた不織布に適したエチレン系重合体と該エチレン系重合体を使用することにより製造された不織布とを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術の欠点を改良するため鋭意研究を重ねた結果、特定のメルトフローレート、密度、分子量分布、低分子量成分および高分子量成分の含有量、チタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子、クロム原子、ニッケル原子、およびパラジウム原子からなる群に属する金属原子の含有量および塩素原子の含有量を有するエチレン系重合体が不織布に非常に適しており、また該エチレン系重合体を用いて製造された不織布の性能が非常に優れることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
1)メルトフローレートが10g/10分以上、1000g/10分以下であり、密度が940kg/m以上、980kg/m以下であり、重量平均分子量を数平均分子量で除すことにより得られる値が2以上、5以下であり、分子量が1000以下である低分子量成分の重量分率が0以上1.0重量%以下であり、分子量が100万以上である高分子量成分の重量分率が0以上0.5重量%以下であるエチレン系重合体であり、該重合体に含まれるチタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子、クロム原子、ニッケル原子、およびパラジウム原子の重量の和の、該重合体に対する重量分率が0以上3重量ppm以下であり、塩素原子の該重合体に対する重量分率が0以上5重量ppm以下であることを特徴とする、不織布用エチレン系重合体。
2)末端ビニル基含量が0以上0.020個/100C以下であることを特徴とする、上記1)に記載の不織布用エチレン系重合体。
【0010】
3)少なくとも[A]実質的に水酸基を有しない固体成分、[B]下記の式(1)で表される可溶性遷移金属化合物、[C]該遷移金属化合物[B]と反応して触媒活性を有する金属錯体を形成活性化剤化合物、とから形成されているオレフィン重合用固体触媒により製造されることを特徴とする、上記1)または2)のいずれかに記載の不織布用エチレン系重合体。
MXX’ (1)
(式中、Lは、各々独立して、シクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基、及びオクタヒドロフルオレニル基からなる群より選ばれるη結合性環状アニオン配位子を表し、該配位子は場合によっては1〜8個の置換基を有し、該置換基は各々独立して炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のハロゲン置換炭化水素基、炭素数1〜12のアミノヒドロカルビル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜12のジヒドロカルビルアミノ基、炭素数1〜12のヒドロカルビルフォスフィノ基、シリル基、アミノシリル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシシリル基及びハロシリル基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基であり、
Mは、形式酸化数が+2、+3または+4の周期表第4族に属する遷移金属群から選ば
れる遷移金属であって、少なくとも1つの配位子Lにη結合している遷移金属を表し、
Wは、50個までの非水素原子を有する2価の置換基であって、LとMとに各々1価ずつの価数で結合し、これによりL及びMと共働してメタロサイクルを形成する2価の置換基を表し、
Xは、各々独立して、1価のアニオン性σ結合型配位子、Mと2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子、及びLとMとに各々1価ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子からなる群より選ばれる、60個までの非水素原子を有するアニオン性σ結合型配位子を表し、
X′は、各々独立して、40個までの非水素原子を有する中性ルイス塩基配位性化合物を表し、
jは1または2であり、但し、jが2である時、場合によっては2つの配位子Lが、20個までの非水素原子を有する2価の基を介して互いに結合し、該2価の基は炭素数1〜20のヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のハロヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンオキシ基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンアミノ基、シランジイル基、ハロシランジイル基及びシリレンアミノ基からなる群より選ばれる基であり、
kは0または1であり、
pは0、1または2であり、但し、Xが1価のアニオン性σ結合型配位子、またはLとMとに結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはMの形式酸化数より1以上小さい整数であり、またXがMにのみ結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはMの形式酸化数より(j+1)以上小さい整数であり、
qは0、1または2である)。
4)上記1)〜3)のいずれかに記載の不織布用エチレン系重合体を用いて製造されることを特徴とする不織布。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が少なく、成型加工時に成形機を腐食することなく、かつ濾過性能に優れた不織布に適したエチレン系重合体と該エチレン系重合体を使用することにより製造された不織布とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明におけるエチレン系重合体について説明する。本発明においては、エチレン系重合体とはエチレン単独重合体、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィン、炭素数3〜20の環状オレフィン、式CH=CHR(但し、Rは炭素数6〜20のアリール基である。)で表される化合物、および炭素数4〜20の直鎖状、分岐状または環状のジエンよりなる群に属する少なくとも1種の化合物との共重合体のことである。なお、これらの炭素数3〜20のα−オレフィン、炭素数3〜20の環状オレフィン、式CH=CHR(但し、Rは炭素数6〜20のアリール基である。)で表される化合物、および炭素数4〜20の直鎖状、分岐状または環状のジエンよりなる群に属する少なくとも1種の化合物にことを総称してコモノマーと称する場合がある。
【0013】
本発明で、炭素数3〜20のα−オレフィンとは、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、及び1−エイコセンよりなる群から選ばれ、炭素数3〜20の環状オレフィンとは、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、及び2−メチル−1.4,5.8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレンよりなる群から選ばれ、一般式CH=CHR(式中Rは炭素数6〜20のアリール基である。)で表わされる化合物とは、例えば、スチレン、ビニルシクロヘキサン等であり、炭素数4〜20の直鎖状、分岐状また
は環状のジエンとは、例えば、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、およびシクロヘキサジエンよりなる群から選ばれる。これらの化合物は二種類以上を併用することも可能である。本発明においては炭素数3〜20のα−オレフィンを使用することが好ましく、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンの使用が特に好ましい
【0014】
次に、本発明におけるエチレン系重合体のメルトフローレートについて説明する。本発明においては、メルトフローレートはJIS K7210−1999、コードDに準拠して測定を行うことにより得られる値である。このメルトフローレートは重合体の分子量の尺度であり、重合体は分子量が低いほどメルトフローレートが高くなる。本発明においては、エチレン系重合体のメルトフローレートは重合条件により制御することが可能であり、例えば重合器内の水素濃度および重合温度により制御することが可能である。具体的には、水素濃度を高めることにより分子量を低下させることが可能であり、重合温度を高めることにより分子量を低下させることが可能である。本発明のエチレン系重合体のメルトフローレートは10g/10分以上、1000g/10分以下であり、好ましくは20g/10分以上700g/10分以下であり、さらに好ましくは50g/10分以上500g/10分以下である。メルトフローレートが10g/10分以上であれば、不織布製造時の溶融張力が十分に低いため、不織布の安定生産が可能である。また、メルトフローレートが1000g/10分以下であれば、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が抑制される。
【0015】
次に、本発明におけるエチレン系重合体の密度について説明する。本発明においては、密度はJIS K7112−1999に準拠し、密度勾配管法(23℃)で測定された値である。この密度はエチレン系重合体のコモノマー含有量の尺度であり、コモノマー含有量が多ければ多いほど、エチレン系重合体の密度が低くなる。本発明においては、エチレン系重合体の密度は重合条件により制御することが可能であり、例えば重合器内のコモノマー濃度により制御することが可能である。具体的には、重合器内のコモノマー濃度を高めることにより密度を低下させることが可能である。なお、本発明においては、重合器内のコモノマー濃度とは、下記の式で表される、気相での濃度のことである。
コモノマーの気相濃度(モル%)=
コモノマーの気相濃度(モル/リットル)×100
/{コモノマーの気相濃度(モル/リットル)+エチレンの気相濃度(モル/リットル)}
【0016】
本発明のエチレン系重合体の密度は940kg/m以上、980kg/m以下であり、好ましくは945kg/m以上、975kg/m以下であり、さらに好ましくは950kg/m以上、970kg/m以下である。本発明においては、エチレン系重合体の密度が940kg/m以上であれば溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が抑制される。また、本発明においては、本発明のエチレン系重合体の密度が980kg/mを超えることは技術的に困難である。
【0017】
次に、本発明におけるエチレン系重合体の分子量分布について説明する。本発明においては、エチレン系重合体の分子量分布は、該エチレン系重合体の重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除すことにより得られた値(Mw/Mn)で表される。すなわち、分子量分布が広い場合にはMw/Mnが大きくなり、分子量分布が狭い場合にはMw/Mnが小さくなる。本発明のエチレン系重合体のMw/Mnは2.0以上、5.0以下であり、好ましくは2.5以上、4.5以下である。Mw/Mnが2.0以上であれば、不織布製造時の溶融張力が適当であるため、不織布の安定生産が可能である。Mw/Mnが5.0以下であれば、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が抑制される。なお、本発明においては、Mw、MnおよびMw/Mnはゲルパーミエーションクロマトグ
ラフィー(GPC)により測定された。本発明においては、エチレン系重合体のMw/Mnは重合条件により制御することが可能であり、例えば重合器内の温度を高めることにより、Mw/Mnを小さくすることが可能である。また、本発明においては、エチレン系重合体を製造する際に使用する触媒により制御することが可能であり、たとえばいわゆるメタロセン触媒を使用することによりMw/Mnを小さくすることが可能である。
【0018】
次に、本発明におけるエチレン系重合体に含まれる低分子量成分と高分子量成分とについて説明する。本発明においては、エチレン系重合体に対する該エチレン系重合体に含まれる分子量が1000以下である低分子量成分の重量分率が0以上1.0重量%以下であり、分子量が100万以上の高分子量成分の重量分率が0以上0.5重量%以下である。好ましくは、該低分子量成分の重量分率が0以上0.9重量%以下であり、該高分子量成分の重量分率が0以上0.4重量%以下である。さらに好ましくは、該低分子量成分の重量分率が0以上0.8重量%以下であり、該高分子量成分の重量分率が0以上0.3重量%以下である。本発明においては、分子量が1000以下の低分子量成分および分子量が100万以上の高分子量成分の重量分率は、上記のMw/Mnの測定により得られた分子量分布曲線における分子量が1000以下および分子量が100万以上の部分を積分することにより得られた面積を、分子量分布曲線全体の積分により得られた面積で除することにより算出される。本発明においては、エチレン系重合体に対する該エチレン系重合体に含まれる分子量が1000以下である低分子量成分の重量分率が少なければ少ないほど良いが、0以上1.0重量%以下であれば、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が抑制される。また、本発明においては、エチレン系重合体に対する該エチレン系重合体に含まれる分子量が100万以上である高分子量成分の重量分率が少なければ少ないほど良いが、0以上0.5重量%以下であれば、不織布製造時の溶融張力が十分に低いため、不織布の安定生産が可能である。本発明においては、エチレン系重合体に対する該エチレン系重合体に含まれる分子量が1000以下である低分子量成分の重量分率と、分子量が100万以上の高分子量成分の重量分率とは重合条件により制御することが可能であり、例えば重合器内の温度を高めることにより、エチレン系重合体に対する該エチレン系重合体に含まれる分子量が1000以下である低分子量成分の重量分率と、分子量が100万以上の高分子量成分の重量分率とを同時に下げることができる。また、エチレン系重合体に対する該エチレン系重合体に含まれる分子量が1000以下である低分子量成分の重量分率は、重合器内のコモノマー濃度を下げることにより、下げることができる。また、エチレン系重合体の平均分子量を上げることにより、エチレン系重合体に対する該エチレン系重合体に含まれる分子量が1000以下である低分子量成分の重量分率を下げ、分子量が100万以上の高分子量成分の重量分率を上げることができる。
【0019】
次に、本発明におけるエチレン系重合体に含まれる金属原子と塩素原子の、該重合体に対する重量分率について説明する。本発明においては、エチレン系重合体に含まれるチタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子、クロム原子、ニッケル原子、およびパラジウム原子の重量の和の、該重合体に対する重量分率が0以上3重量ppm以下であり、塩素原子の該重合体に対する重量分率が0以上5重量ppm以下である。好ましくは、該金属原子の重量分率が0以上2.5重量ppm以下であり、塩素原子の重量分率が0以上4ppm以下である。さらに好ましくは、該金属原子の重量分率が0以上2重量ppm以下であり、塩素原子の重量分率が0以上3ppm以下である。本発明においては、重合体に含まれる金属原子の重量分率は、エチレン系重合体に含まれるそれぞれの原子の重量分率をイオンカップリングプラズマ(ICP)分析により定量し、これらの重量分率を総和することにより算出される。本発明においては、重合体に含まれる塩素原子の重量分率はイオンクロマト法により定量される。本発明においては、エチレン系重合体に含まれる該金属原子の重量分率が少なければ少ないほど良いが、0以上3重量ppm以下であり、塩素原子の重量分率が少なければ少ないほど良いが、0以上3ppm以下であれば、該エチレン系重合体の熱安定性が向上することにより、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の
発生が抑制される。エチレン系重合体に含まれる該金属原子と塩素原子の重量分率は重合条件によって制御することができる。例えば、重合温度を上げ、および/または重合圧力を上げることにより、重合活性を高めることにより、エチレン系重合体に含まれる該金属原子と塩素原子の重量分率を低下させることができる。また、本発明においては、該金属原子あたりの重合活性が高く、塩素の含有率の低い触媒を使用することにより、低下させることも可能である。また、本発明においては、エチレン系重合体を水やアルコール等で洗浄することにより、該エチレン系重合体に含まれる該金属原子と塩素原子の重量分率を低下させることも可能である。
【0020】
次に、本発明における、エチレン系重合体に含まれる末端ビニル基について説明する。
本発明におけるエチレン系重合体に含まれる末端ビニル基含量については特に制限は無いが、エチレン系重合体に含まれる末端ビニル基含量が0以上0.020個/100Cであることが好ましく、0以上0.015個/100Cであることがさらに好ましく、0以上0.010個/100Cであることがさらに好ましい。本発明においては、重合体に含まれる末端ビニル基含量は赤外吸収スペクトルにより定量された値である。具体的には、重合体をプレスすることにより作成されたフィルムの910cm−1のピークの吸光度を測定し、下記の式にしたがって算出される値である。
末端ビニル基含量(個/100C)=0.114×ΔA/(t×d/1000)
{ただし、dは重合体の密度(kg/m)、ΔAはピークの吸光度、tはフィルムの厚み(mm)}
【0021】
本発明においては、エチレン系重合体に含まれる末端ビニル基含量が少なければ少ないほど良いが、0以上0.02個/100Cであれば、成型加工時の末端ビニル基の分解が原因となる溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が抑制される。本発明においては、エチレン系重合体の末端ビニル基含有量は重合条件により制御することが可能である。例えば、重合温度を低下させ、および/または重合器内の水素濃度を高めることにより、エチレン系重合体の末端ビニル基含有量を低下させることが可能である。また、本発明においては、末端ビニル基の発生頻度の少ない触媒を選択して使用することにより、エチレン系重合体の末端ビニル基含有量を低下させることが可能である。例えば、通常のメタロセン触媒は末端ビニル基の発生頻度が高く、エチレン系重合体の末端ビニル基濃度が高いため、末端ビニル基の発生頻度が低い触媒を使用することにより低下させることが可能である。
【0022】
次に、本発明のエチレン系重合体を製造するための触媒について説明する。本発明においては、エチレン系重合体を製造するための触媒については特に制限は無く、通常のメタロセン触媒およびチーグラー触媒を使用することが可能であるが、少なくとも[A]実質的に水酸基を有しない固体成分、[B]下記の式(1)で表される可溶性遷移金属化合物、[C]該遷移金属化合物[B]と反応して触媒活性を有する金属錯体を形成することが可能である活性化剤化合物とから形成されているオレフィン重合用固体触媒を使用することが好ましい。
MXX’ (1)
(式中、Lは、各々独立して、シクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基、及びオクタヒドロフルオレニル基からなる群より選ばれるη結合性環状アニオン配位子を表し、該配位子は場合によっては1〜8個の置換基を有し、該置換基は各々独立して炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のハロゲン置換炭化水素基、炭素数1〜12のアミノヒドロカルビル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜12のジヒドロカルビルアミノ基、炭素数1〜12のヒドロカルビルフォスフィノ基、シリル基、アミノシリル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシシリル基及びハロシリル基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基であり、
【0023】
Mは、形式酸化数が+2、+3または+4の周期表第4族に属する遷移金属群から選ばれる遷移金属であって、少なくとも1つの配位子Lにη5結合している遷移金属を表し、
Wは、50個までの非水素原子を有する2価の置換基であって、LとMとに各々1価ずつの価数で結合し、これによりL及びMと共働してメタロサイクルを形成する2価の置換基を表し、
Xは、各々独立して、1価のアニオン性σ結合型配位子、Mと2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子、及びLとMとに各々1価ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子からなる群より選ばれる、60個までの非水素原子を有するアニオン性σ結合型配位子を表し、
X′は、各々独立して、40個までの非水素原子を有する中性ルイス塩基配位性化合物を表し、
【0024】
jは1または2であり、但し、jが2である時、場合によっては2つの配位子Lが、20個までの非水素原子を有する2価の基を介して互いに結合し、該2価の基は炭素数1〜20のヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のハロヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンオキシ基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンアミノ基、シランジイル基、ハロシランジイル基及びシリレンアミノ基からなる群より選ばれる基であり、
kは0または1であり、
pは0、1または2であり、但し、Xが1価のアニオン性σ結合型配位子、またはLとMとに結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはMの形式酸化数より1以上小さい整数であり、またXがMにのみ結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはMの形式酸化数より(j+1)以上小さい整数であり、
qは0、1または2である)
【0025】
本発明において用いられる実質的に水酸基を有しない固体成分[A]は、固体材料[以下、「成分[A]の前駆体」という]を、成分[A]の前駆体の表面から水酸基を除去するための処理に付すことによって、得ることができる。
成分[A]の前駆体の例としては、多孔質高分子材料(但し、マトリックスはたとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体の部分あるいは完全鹸化物等のポリオレフィンやその変性物、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂等を含む)、周期表第2〜4、13または14族に属する元素の無機固体酸化物(たとえば、シリカ、アルミナ、マグネシア、塩化マグネシウム、ジルコニア、チタニア、酸化硼素、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化バリウム、五酸化バナジウム、酸化クロム、酸化トリウム、またはこれらの混合物もしくはこれらの複合酸化物)等が挙げられる。シリカを含有する複合酸化物の例としては、シリカ−マグネシア、シリカ−アルミナ等の、シリカと周期表第2族または第13族に属する元素から選ばれる元素の酸化物との複合酸化物が挙げられる。本発明においては、成分[A]の前駆体は、シリカ,アルミナ、及びシリカと周期表第2族または第13族に属する元素から選ばれる元素の酸化物との複合酸化物から選ばれることが好ましい。これらの無機固体酸化物の中で、シリカが特に好ましい。
【0026】
成分[A]の前駆体として用いられるシリカ生成物の形状に関しては特に制限はなく、シリカは、顆粒状、球状、凝集状、ヒューム状など、いかなる形状であってもよい。市販のシリカ生成物の好ましい例としては、SD3216.30、SP−9−10046、デビソンサイロイドTM(SyloidTM)245、デビソン948またはデビソン952[以上全て、グレースデビソン社(W.R.デビソン社(米国)の支社)製]、アエロジル812[デグザAG社(ドイツ)製造]、ES70X[クロスフィールド社(米国)
製]、P−6及びP−10[富士シリシア社(日本国)製]等が挙げられる。
【0027】
本発明において用いられる成分[A]の、B.E.T.(Brunauer−Emmett−Teller)による窒素ガス吸着法で求められる比表面積は、好ましくは10〜1,000m/gであり、より好ましくは100〜600m/gである。このような高い比表面積を有する成分[A]の代表例の一つは、多くの細孔を有する多孔質材料を含む成分である。
本発明において、窒素ガス吸着法で求められる成分[A]の細孔容積は、通常5cm/g以下が好ましく、より好ましくは0.1〜3cm/gであり、さらに好ましくは0.2〜2cm/gである。
【0028】
本発明において用いられる成分[A]の平均粒径に関しては、特に制限はない。成分[A]の平均粒径は、通常0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmであり、さらに好ましくは10〜100μmである。
本発明において、実質的に水酸基を有しない成分[A]は、成分[A]の前駆体を化学処理して成分[A]の前駆体の表面から水酸基を除去することによって得ることができる。
【0029】
本発明において、「固体成分が実質的に水酸基を有しない」とは、次に述べる方法(i)や方法(ii)による測定では固体成分(成分[A])の表面に水酸基が検出されないことを意味する。
方法(i)においては、成分[A]を溶媒中に分散させることによって得られるスラリーに所定の過剰量のジアルキルマグネシウムを添加して、成分[A]の表面水酸基をジアルキルマグネシウムと反応させ、次いで、成分[A]の表面水酸基と反応したジアルキルマグネシウムの量を求めるために、溶媒中に未反応のままで残っているジアルキルマグネシウムの量を公知の方法で測定してから、反応したジアルキルマグネシウムの量に基づいて成分[A]の表面水酸基の初期量を求める。この方法は、下記の反応式で表される、水酸基とジアルキルマグネシウムとの反応に基づくものである:
S−OH + MgR → S−OMgR + RH
(式中、Sは固体材料(成分[A])を表し、Rはアルキル基を表す)。
【0030】
方法(i)より好ましい方法(ii)においては、ジアルキルマグネシウムの代わりにエトキシジエチルアルミニウムを用いる。具体的に言えば、方法(ii)では、エトキシジエチルアルミニウムを成分[A]の表面水酸基と反応させてエタンガスを発生させ、発生したエタンガスの量をガスビュレットを用いて測定してから、発生したエタンガスの量に基づいて成分[A]の表面水酸基の初期量を求める。
さらに、本発明においては、成分[A]の前駆体を加熱処理して水(結晶水、吸着水等)を除去することが好ましい。成分[A]の前駆体の加熱処理は、たとえば、不活性雰囲気下または還元雰囲気下に、好ましくは150℃〜1,000℃、より好ましくは250℃〜800℃の温度で、1時間〜50時間の処理によって行うことができる。
本発明においては、加熱処理して脱水した後に、成分[A]の前駆体をさらに化学処理して成分[A]の前駆体の表面から全部水酸基を除去し、成分[A]を得ることが、さらに好ましい。
【0031】
成分[A]の前駆体から水酸基の全部を除去するための化学処理に関しては、成分[A]の前駆体を有機金属化合物と接触させるという化学処理を行うことが推奨される。この化学処理に用いられる有機金属化合物の例としては、周期表第2族〜第13族に属する元素の化合物等が挙げられる。これらの化合物の中で特に好ましいのは、有機アルミニウムまたは有機マグネシウムである。
成分[A]の前駆体の化学処理に用いられる好ましい有機アルミニウム化合物の例とし
て、下記の式(3)で表される化合物が挙げられる:
AlR3−n (3)
(式中、Rは、各々独立して、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を表し、
Xは、各々独立して、ハライド、ヒドリドまたは炭素数1〜10のアルコキシド基を表し、
nは1、2または3である)。
上記式(3)で表される化合物は、単独で使用してもよいし組み合わせて使用してもよい。
式(3)中の基Rの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、トリル基等が挙げられる。
式(3)中の基Xとしては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、水素原子、塩素原子等が挙げられる。
【0032】
成分[A]の前駆体の化学処理に用いられる有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム化合物、及びこれらのトリアルキルアルミニウム化合物とアルコール(たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール)との反応生成物が挙げられる。
そのような反応生成物の例としては、メトキシジメチルアルミニウム、エトキシジエチルアルミニウム、ブトキシジブチルアルミニウム等が挙げられる。このような反応生成物を製造する場合、トリアルキルアルミニウムのアルコールに対する比は、Al/OHのモル比で、0.3〜20の範囲にあることが好ましく、0.5〜5の範囲にあることがより好ましく、0.8〜3の範囲にあることがさらに好ましい。
【0033】
またこの他に成分[C]の例として後述する有機アルミニウムオキシ化合物も、成分[A]の前駆体の化学処理に用いることができる。
成分[A]の前駆体の化学処理に用いられる好ましい有機マグネシウム化合物の例として、下記の式(4)で表される化合物が挙げられる。
MgR2−n (4)
(式中、Rは、各々独立して、炭素数1〜12の直鎖状,分岐状もしくは環状のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を表し、
Xは、各々独立して、ハライド、ヒドリドまたは炭素数1〜10のアルコキシド基を表し、
nは1または2である)。
上記式(4)で表される化合物は、単独で使用してもよいし組み合わせて使用してもよい。
式(4)中の基Rの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、トリル基等が挙げられる。
式(4)中の基Xの例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、水素原子、塩素原子等が挙げられる。
【0034】
成分[A]の前駆体の化学処理に用いられる有機マグネシウム化合物の具体例としては、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム等が挙げられる。
成分[A]の前駆体を化学処理する場合、上述の有機アルミニウム化合物または有機マグネシウム化合物は、これらを混合した状態で使用してもよい。
成分[A]の前駆体を化学処理して成分[A]を得る場合は、有機金属化合物は、成分
[A]の前駆体の表面に存在する水酸基のモル量と同じまたはそれより多い量が用いられる。化学処理に用いられる有機金属化合物の上限は、通常は成分[A]の前駆体の表面に存在する水酸基のモル量の10倍量が好ましく、より好ましくは5倍量、さらに好ましくは2倍量、特に好ましくは1.5倍量、最も好ましくは1.3倍量である。
【0035】
また、本発明において、成分[A]は実質的に水酸基を有しないシリカであることが特に好ましい。該シリカは、好ましくは150℃以上、より好ましくは250℃以上の温度でシリカを加熱することにより、表面水酸基の量が好ましくはシリカ1g当たり0.05〜10ミリモルに前処理されたシリカを有機金属化合物で処理するという方法によって得られるものが好ましい。シリカ[成分[A]の前駆体]の処理のための有機金属化合物としては、有機アルミニウム化合物を使用することが好ましく、前記式(3)の有機アルミニウム化合物を使用することが特に好ましい。有機アルミニウム化合物の使用量は、前処理されたシリカの表面水酸基のモル量の1〜10倍が好ましい。
上記の前処理されたシリカの表面水酸基は、前処理されたシリカ1g当たり0.1〜5ミリモルであることがより好ましく、0.5〜2ミリモルであることが最も好ましい。
【0036】
次に、本発明において用いられる可溶性遷移金属化合物[B]について説明する。本発明において用いられる成分[B]は通常のメタロセン触媒であるが、下記の式(1)で表される化合物であることが好ましい。
MXX’ (1)
(式中、Lは、各々独立して、シクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基、及びオクタヒドロフルオレニル基からなる群より選ばれるη結合性環状アニオン配位子を表し、該配位子は場合によっては1〜8個の置換基を有し、該置換基は各々独立して炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のハロゲン置換炭化水素基、炭素数1〜12のアミノヒドロカルビル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜12のジヒドロカルビルアミノ基、炭素数1〜12のヒドロカルビルフォスフィノ基、シリル基、アミノシリル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシシリル基及びハロシリル基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基であり、
Mは、形式酸化数が+2、+3または+4の周期表第4族に属する遷移金属群から選ばれる遷移金属であって、少なくとも1つの配位子Lにη結合している遷移金属を表し、
Wは、50個までの非水素原子を有する2価の置換基であって、LとMとに各々1価ずつの価数で結合し、これによりL及びMと共働してメタロサイクルを形成する2価の置換基を表し、
Xは、各々独立して、1価のアニオン性σ結合型配位子、Mと2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子、及びLとMとに各々1価ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子からなる群より選ばれる、60個までの非水素原子を有するアニオン性σ結合型配位子を表し、
X′は、各々独立して、40個までの非水素原子を有する中性ルイス塩基配位性化合物を表し、
jは1または2であり、但し、jが2である時、場合によっては2つの配位子Lが、20個までの非水素原子を有する2価の基を介して互いに結合し、該2価の基は炭素数1〜20のヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のハロヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンオキシ基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンアミノ基、シランジイル基、ハロシランジイル基及びシリレンアミノ基からなる群より選ばれる基であり、
kは0または1であり、
pは0、1または2であり、但し、Xが1価のアニオン性σ結合型配位子、またはLとMとに結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはMの形式酸化数より1以上小さい整数であり、またXがMにのみ結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはMの形式酸化数より(j+1)以上小さい整数であり、
qは0、1または2である。)
【0037】
上記式(1)の化合物中の配位子Xの例としては、ハライド、炭素数1〜60の炭化水素基、炭素数1〜60のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜60のヒドロカルビルアミド基、炭素数1〜60のヒドロカルビルフォスフィド基、炭素数1〜60のヒドロカルビルスルフィド基、シリル基、これらの複合基等が挙げられる。
上記式(1)の化合物中の中性ルイス塩基配位性化合物X′の例としては、フォスフィン、エーテル、アミン、炭素数2〜40のオレフィン、炭素数1〜40のジエン、これらの化合物から誘導される2価の基等が挙げられる。
【0038】
本発明において用いられる成分[B]の例としては、次に下記の式(5)で表される化合物を挙げることができる。
【化1】

【0039】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又は全炭素数7〜20の環上に炭化水素基を有する芳香族基、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RとRはたがいに結合して環を形成していてもよく、X及びYは、それぞれ独立にハロゲン原子又は炭素数1〜20の炭化水素基、Mは、ニッケル又はパラジウムを示す。)で表される錯体化合物を挙げることができる。
【0040】
上記一般式(5)において、R及びRのうちの炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又は炭素数3〜20のシクロアルキル基など、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。なお、シクロアルキル基の環上には低級アルキル基などの適当な置換差が導入されていてもよい。
【0041】
また、全炭素数7〜20の環上に炭化水素基を有する芳香族基としては、例えばフェニル基やナフチル基などの芳香族環上に、炭素数1〜10の直鎖状,分岐状又は環状のアルキル基が1個以上導入された基などが挙げられる。このR及びRとしては、環上に炭化水素基を有する芳香族基が好ましく、特に2,6−ジイソプロピルフェニル基が好適である。R及びRは、たがいに同一であってもよく、異なっていてもよい。
また、R及びRのうちの炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基,炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基,炭素数7〜20のアラルキル基などが挙げられる。ここで、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基としては、前記R及びRのうちの炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基の説明において例示したものと同じものを挙げることができる。また炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基,トリル基,キシリル基,ナフチル基,メチルナフチル基などが挙げられ、炭
素数7〜20のアラルキル基としては、例えばベンジル基やフェネチル基などが挙げられる。
【0042】
このR及びRは、たがいに同一であってもよく、異なっていてもよい。また、たがいに結合して環を形成していてもよい。一方、X及びYのうちのハロゲン原子としては、塩素,臭素またはヨウ素原子などが挙げられ、また、炭素数1〜20の炭化水素基は、上記R及びRにおける炭素数1〜20の炭化水素基について、説明したとおりである。このX及びYとしては、特に臭素原子またはメチル基が好ましい。また、XとYは、たがいに同一であってもよく異なっていてもよい。
本発明において、成分[B]としては、前記式(1)(ただし、j=1)で表される遷移金属化合物が好ましい。
【0043】
前記式(1)(ただし、j=1)で表される化合物の好ましい例としては、下記の式(6)で表される化合物が挙げられる。
【化2】

【0044】
(式中、Mは、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群より選ばれる遷移金属であって、形式酸化数が+2、+3または+4である遷移金属を表し、
は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、シリル基、ゲルミル基、シアノ基、ハロゲン原子及びこれらの複合基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基を表し、但し、該置換基Rが炭素数1〜8の炭化水素基、シリル基またはゲルミル基である時、場合によっては2つの隣接する置換基Rが互いに結合して2価の基を形成し、これにより該2つの隣接する該置換基Rにそれぞれ結合するシクロペンタジエニル環の2つの炭素原子間の結合と共働して環を形成し、
X″は、各々独立して、ハライド、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜18のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜18のヒドロカルビルアミノ基、シリル基、炭素数1〜18のヒドロカルビルアミド基、炭素数1〜18のヒドロカルビルフォスフィド基、炭素数1〜18のヒドロカルビルスルフィド基及びこれらの複合基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基を表し、但し、場合によっては2つの置換基X″が共働して炭素数4〜30の中性共役ジエンまたは2価の基を形成し、
Y´は、−O−、−S−、−NR−または−PR−を表し、但し、Rは、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜8のヒドロカルビルオキシ基、シリル基、炭素数1〜8のハロゲン化アルキル基、炭素数6〜20のハロゲン化アリール基、またはこれらの複合基を表し、
ZはSiR、CR、SiR−SiR、CR−CR、CR=CR、CR−SiRまたはGeRを表し、但し、Rは上で定義した通りであり、nは1、2または3である)。
【0045】
本発明において用いられる成分[B]の具体例としては、以下に示すような化合物が挙げられる。
ビス(シクロペンタジエニル)メチルジルコニウムハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)エチルジルコニウムハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)フェニルジ
ルコニウムハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)ベンジルジルコニウムハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)ネオペンチルジルコニウムハイドライド、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(n−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(インデニル)ジルコニウムジメチル、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジフェニル、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジベンジル、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジハイドライド、ビス(フルオレニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジエチル、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジハイドライド、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(4−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(5−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(6−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(7−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(5−メトキシ−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(2,3−ジメチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(4,7−ジメチル−1−インデニル)ジメチルジルコニウム、エチレンビス−(4,7−ジメトキシ−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、メチレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジハイドライド、メチレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジハイドライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル−フルオレニル)ジルコニウムジハイドライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル−フルオレニル)ジルコニウムジメチル、シリレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジハイドライド、シリレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジハイドライド、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]チタニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−メチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−フェニルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−ベンジルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]チタニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−メチルアミド)(η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]チタニウムジメチル、[(N−メチルアミド)(η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(η−インデニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−ベンジルアミド)(η−インデニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル等。
【0046】
本発明において用いられる成分[B]の具体例としては、さらに、成分[B]の具体例として上に挙げた各ジルコニウム及びチタン化合物の名称の「ジメチル」の部分(これは、各化合物の名称末尾の部分、すなわち「ジルコニウム」または「チタニウム」という部分の直後に現れているものであり、前記式(6)中のX″の部分に対応する名称である)を、以下に掲げる任意のものに替えてできる名称を持つ化合物も挙げられる。
【0047】
「ジベンジル」、「2−(N,N−ジメチルアミノ)ベンジル」、「2−ブテン−1,4−ジイル」、「s−トランス−η−1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン」、「s−トランス−η−3−メチル−1,3−ペンタジエン」、「s−トランス−η−1
,4−ジベンジル−1,3−ブタジエン」、「s−トランス−η−2,4−ヘキサジエン」、「s−トランス−η−1,3−ペンタジエン」、「s−トランス−η−1,4−ジトリル−1,3−ブタジエン」、「s−トランス−η−1,4−ビス(トリメチルシリル)−1,3−ブタジエン」、「s−シス−η−1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン」、「s−シス−η−3−メチル−1,3−ペンタジエン」、「s−シス−η−1,4−ジベンジル−1,3−ブタジエン」、「s−シス−η−2,4−ヘキサジエン」、「s−シス−η−1,3−ペンタジエン」、「s−シス−η−1,4−ジトリル−1,3−ブタジエン」、「s−シス−η−1,4−ビス(トリメチルシリル)−1,3−ブタジエン」等。
【0048】
本発明において用いられる該遷移金属化合物[B]は、一般に公知の方法で合成できる。本発明において成分[B]として用いられる遷移金属化合物の好ましい合成法の例としては、米国特許第5,491,246号明細書に開示された方法を挙げることができる。
本発明においてこれら遷移金属化合物成分[B]は単独で使用してもよいし組み合わせて使用してもよい。
【0049】
次に本発明において、遷移金属化合物[B]と反応して触媒活性を有する金属錯体を形成することが可能である活性化剤化合物[C]について説明する。
成分[C]として例えば、有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。本発明で用いられる好ましい有機アルミニウムオキシ化合物は、例えば下記のような方法によって製造することができ、通常、炭化水素溶媒の溶液として得られる。
【0050】
(1)吸着水を含有する化合物または結晶水を含有する塩類、たとえば塩化マグネシウム水和物、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物、硫酸ニッケル水和物、塩化第1セリウム水和物などの炭化水素媒体懸濁液に、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物を添加して、吸着水または結晶水と有機アルミニウム化合物とを反応させる方法。
(2)ベンゼン、トルエン、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどの媒体中で、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物に直接水、氷または水蒸気を作用させる方法。
【0051】
(3)デカン、ベンゼン、トルエンなどの媒体中でトリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物に、ジメチルスズオキシド、ジブチルスズオキシドなどの有機スズ酸化物を反応させる方法。
なお該有機アルミニウムオキシ化合物は、少量の有機金属成分を含有してもよい。また回収された上記の有機アルミニウムオキシ化合物の溶液から、溶媒または未反応有機アルミニウム化合物を蒸留して除去した後、溶媒に再溶解または有機アルミニウムオキシ化合物の貧溶媒に懸濁させてもよい。
【0052】
有機アルミニウムオキシ化合物を調製する際に用いられる有機アルミニウム化合物として具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec−ブチルアルミニウム、トリtert−ブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロオクチルアルミニウムなどのトリシクロアルキルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムクロリドなどのジアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのジアルキルアルミニウムハイドライド、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエト
キシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシドなどのジアルキルアルミニウムアリーロキシドなどが挙げられる。
これらのうち、トリアルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウムが好ましく、トリメチルアルミニウムが特に好ましい。
【0053】
このほかに成分[C]として例えば、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物があげられる。この場合、前記した式(3)で表される有機アルミニウム化合物が同時に用いられるのが好ましい。この際、トリアルキルアルミニウムが好ましく用いられる。
本発明で用いられる粘土は、通常粘土鉱物を主成分として構成されるのが好ましく、イオン交換性層状化合物は、イオン結合などによって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる化合物であって含有するイオンが交換可能なものが好ましい。また、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物として、六方細密パッキング型、アンチモン型、CdCl型、CdI型などの層状の結晶構造を有するイオン結晶性化合物などを例示することができる。これらの粘土、粘土鉱物、イオン交換性層状化合物としては、天然産のものに限らず、人工合成物を使用することもできる。
【0054】
このような粘土、粘土鉱物として具体的には、カオリン、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、アロフェン、ヒシンゲル石、パイロフィライト、ウンモ群、モンモリロナイト群、バーミキュライト、リョクデイ石群、パリゴルスカイト、カオリナイト、ナクライト、ディッカイト、ハロイサイトなどが挙げられ、イオン交換性層状化合物としては、α−Zr(HAsO・HO、α−Zr(HPO、α−Zr(KPO・3HO、α−Ti(HPO、α−Ti(HAsO・HO、α−Sn(HPO・HO、γ−Zr(HPO、γ−Ti(HPO、γ−Ti(NHPO・HOなどの多価金属の結晶性酸性塩などが挙げられる。
このような粘土、粘土鉱物、イオン交換性層状化合物は、重合活性の観点から、水銀圧入法で測定した半径2nm以上の細孔容積が0.1cm/g以上のものが好ましく、0.3〜5cm/gのものが特に好ましい。ここで、細孔容積の測定は、水銀ポロシメーターを用いた水銀圧入法により細孔半径として2〜3×10nmの範囲で測定される。
【0055】
本発明で用いられる粘土、粘土鉱物は、化学処理を施すこともできる。化学処理としては、表面に付着している不純物を除去する表面処理と粘土の結晶構造に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。具体的には酸処理、アルカリ処理、塩類処理、有機物処理などが挙げられる。酸処理は、表面の不純物を取り除くほか、結晶構造中のAl、Fe、Mgなどの陽イオンを溶出させることによって表面積を増大させる。アルカリ処理では粘土の結晶構造が破壊され、粘土の構造の変化をもたらす。また、塩類処理、有機物処理では、イオン複合体、分子複合体、有機誘導体などを形成し、表面積や層間距離を変えることができる。
【0056】
本発明で用いられるイオン交換性層状化合物は、イオン交換性を利用し、層間の交換性イオンを別の大きな嵩高いイオンと交換することにより、層間が拡大した状態の層状化合物を得ることもできる。ここで嵩高いイオンは、層状構造を支える支柱的な役割を担っており、ピラーと呼ばれる。また、層状物質の層間に別の物質(ゲスト化合物)を導入することをインターカレーションという。
インターカレーションするゲスト化合物としては、TiCl、ZrClなどの陽イオン性無機化合物;Ti(OR)、Zr(OR)、PO(OR)、B(OR)、(Rは炭化水素基など)などの金属アルコラート;[Al13(OH)247+、[Zr(OH)142+、[FeO(OCOCHなどの金属水酸化物イオンなどが挙げられる。これらの化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0057】
また、これらの化合物をインターカレーションする際に、Si(OR)、Al(OR)、Ge(OR)(Rは炭化水素基など)などの金属アルコラートなどを加水分解して得た重合物、SiOなどのコロイド状無機化合物などを共存させることもできる。また、ピラーの他の例としては上記水酸化物イオンを層間にインターカレーションした後に加熱脱水することにより生成する酸化物などが挙げられる。
本発明で用いられる粘土、粘土鉱物、イオン交換性層状化合物は、そのまま用いてもよいし、ボールミルによる粉砕、ふるい分けなどの処理を行った後に用いてもよい。また、新たに水を添加吸着させ、あるいは加熱脱水処理した後用いてもよい。さらに、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、好ましいものは粘土または粘土鉱物であり、特に好ましいものはモンモリロナイトである。
【0058】
さらに成分[C]として例えば、以下の一般式(7)で定義される化合物が挙げられる。
[L−H]d+[Md− (7)
但し、式中[L−H]d+はプロトン付与性のブレンステッド酸であり、Lは中性ルイス塩基である。
また、式中[Mpd−は相溶性の非配位性アニオンであり、Mは周期律表第5族乃至第15族から選ばれる金属又はメタロイドであり、Qは各々独立にヒドリド、ジアルキルアミド基、ハライド、アルコキサイド基、アリロキサイド基、炭化水素基、炭素数20までの置換炭化水素基であり、またハライドであるQは1個以下である。また、mは1乃至7の整数であり、pは2乃至14の整数であり、dは1乃至7の整数であり、p−m=dである。
【0059】
本発明において、成分[C]の好ましい例としては以下の一般式(8)で表される。
[M(G(T−H)d− (8)
但し、Mは周期律表第5族乃至15族から選ばれる金属またはメタロイドである。Qは、一般式(7)に定義の通りであり、Gは硼素及びTと結合するr+1の価数を持つ多価炭化水素基であり、TはO、S、NR、又はPRであり、ここでRはヒドロカルビル、トリヒドロカルビルシリル基、トリヒドロカルビルゲルマニウム基、または水素である。
また、mは1〜7の整数であり、nは0〜7の整数であり、qは0又は1の整数であり、rは0〜3の整数であり、zは1〜8の整数であり、dは1〜7の整数であり、n+z−m=dである。本発明の成分[C]の更に好ましい例は、以下の一般式(9)で表される。
[L−H][BQQ] (9)
但し、式中[L−H]はプロトン付与性のブレンステッド酸であり、Lは中性ルイス塩基である。また、式中[BQQ’]は相溶性の非配位性アニオンであり、Qはペンタフルオロフェニル基であり、残る1つのQ’は置換基としてOH基を1つ有する炭素数6乃至20の置換アリール基である。
【0060】
本発明の相溶性の非配位性アニオンの具体例としては、例えば、テトラキスフェニルボレート、トリ(p−トリル)(フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(フェニル)ボレート、トリス(2,4−ジメチルフェニル)(ヒドフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジメチルフェニル)(フェニル)ボレート、トリス(3,5−ジ−トリフルオリメチルフェニル)(フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(シクロヘキシル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ナフチル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニル(ヒドロキシフェニル)ボレート、ジフェニル−ジ(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリフェニル(2,4−ジヒドロキシフェニル)ボレート、トリ(p−トリル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、 トリス(2,4−ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジメチルフ
ェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジ−トリフルオリメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(2−ヒドロキシエチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシブチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシ−シクロヘキシル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−(4´−ヒドロキシフェニル)フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)ボレート等が挙げられ、最も好ましくはトリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)ボレートが挙げられる。
【0061】
他の好ましい相溶性の非配位性アニオンの例としては、上記例示のボレートのヒドロキシ基がNHR基で置き換えられたボレートが挙げられる。ここで、Rは好ましくは、メチル基、エチル基またはt−ブチル基である。また、本発明のプロトン付与性のブレンステッド酸の具体例としては、例えば、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリ(n−ブチル)アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム及びトリ(n−オクチル)アンモニウム等のようなトリアルキル基置換型アンモニウムカチオンが挙げられ、また、N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウム、N,N−ジメチルベンジルアニリニウム等のようなN,N−ジアルキルアニリニウムカチオンも好適である。
【0062】
さらに、ジ−(i−プロピル)アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム等のようなジアルキルアンモニウムカチオンも好適であり、トリフェニルフォスフォニウム、トリ(メチルフェニル)フォスフォニウム、トリ(ジメチルフェニル)フォスフォニウム等のようなトリアリールフォスフォニウムカチオン、またはジメチルスルフォニウム、ジエチルフルフォニウム、ジフェニルスルフォニウム等も好適である。
本発明においては、これら活性化剤化合物成分[C]を単独で使用してもよいし組み合わせて使用してもよい。
【0063】
本発明において、各成分の使用量、使用量の比も特に制限されないが、成分[B]が反応するのに十分な量の成分[C]を用いることが好ましい。
本発明において、成分[B]は成分[A]1gに対して好ましくは5×10−6〜10−2モル、より好ましくは10−5〜10−3モルの量で用いられる。
成分[A]、[B]及び[C]を接触させた場合、条件によっては反応溶媒中に一部未反応の成分[B]が存在することがあり、成分[B]が可溶な溶媒を用いて洗浄する方法や、加熱および/または減圧処理する方法等により未反応の成分[B]を除去することが行われる。
なお、本発明のオレフィン重合用触媒は、後述する脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素のスラリーとして重合器に添加する方法が好ましい。
【0064】
次にエチレンの重合を本発明の触媒の存在下で行なう具体的な態様について説明する。本発明のオレフィン重合用触媒を用いて、エチレンを単独重合させるか、あるいはエチレンと好ましくは炭素数3〜20のα−オレフィン、炭素数3〜20の環状オレフィン、式CH=CHR(但し、Rは炭素数6〜20のアリール基である。)で表される化合物、及び炭素数4〜20の直鎖状、分岐状または環状のジエンよりなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとを共重合させることができる。
【0065】
本発明で、炭素数3〜20のα−オレフィンとは、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、及び1−エイコセンよりなる群から選ばれ、炭素数3〜20の環状オレフィンとは、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネ
ン、テトラシクロドデセン、及び2−メチル−1.4,5.8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレンよりなる群から選ばれ、一般式CH=CHR(式中Rは炭素数6〜20のアリール基である。)で表わされる化合物とは、例えば、スチレン、ビニルシクロヘキサン等であり、炭素数4〜20の直鎖状、分岐状または環状のジエンとは、例えば、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、及びシクロヘキサジエンよりなる群から選ばれる。
【0066】
エチレンと上記オレフィン(コモノマー)との共重合により、エチレン重合体の密度や物性を制御可能である。本発明によるオレフィンの重合は、懸濁重合法あるいは気相重合法いずれにおいても実施できる。懸濁重合法においては、懸濁重合の媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、さらにオレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
かかる不活性炭化水素媒体としては、具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素またはこれらの混合物等を挙げることができる。
【0067】
このような、本発明のオレフィン重合用触媒を用いたエチレンの重合における触媒フィード量は、例えば1時間当たりに得られる重合体の重量に対して触媒が1wt%〜0. 001wt%となるように重合系中の触媒濃度を調整することが望ましい。また重合温度は、通常、0℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上であり、且つ150℃以下が好ましく、より好ましくは110℃以下、さらに好ましくは100℃以下の範囲である。重合圧力は、通常、常圧〜10MPaが好ましく、より好ましくは0.2〜5MPa、さらに好ましくは0.5〜3MPaの条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。また、重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行うことも可能である。
さらに、例えば、DE3127133.2に記載されているように、得られるオレフィン重合体の分子量は、重合系に水素を存在させるか、あるいは重合温度を変化させることによって調節することもできる。なお、本発明では、上記のオレフィン重合用触媒は、上記のような各成分以外にもオレフィン重合に有用な他の成分を含むことができる。
【0068】
次に、本発明における不織布について説明する。本発明においては、不織布の製造方法については特に制限は無いが、メルトブロー法、スパンボンド法、およびフラッシュ紡糸法が好適である。本発明の不織布は、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が少なく、かつ濾過性能に優れている。この不織布は、液体や気体からの固体成分の除去に適しており、不織布から発生する成分が少ないことから、さまざまな分野で使用されるフィルターに好適であるが、特に家屋内・自動車内・列車内等の気密性の比較的高い空間で使用されるエアーコンディショナーの粉塵除去用フィルター、高純度薬品の濾過フィルターに特に好適に使用される。また、本発明における不織布は半導体分野、IT分野、医療医薬分野、およびサニタリー分野において、クリーン性が必要とされる用途にも好適に使用され、特に前記分野の部品、部材用包材として、特に好適に使用される。
本発明の不織布用エチレン系重合体は、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が少なく、成型加工時に成形機を腐食することなく、かつ濾過性能に優れた不織布を提供することができる。
【0069】
本発明の溶剤とは一般に使用されている有機溶剤であり、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノールである。
次に、実施例および参考例などに基づき、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
[メルトフローレートの測定]
メルトフローレート(MFR)はJIS K7210−1999、コードDに準拠して測定を行った。
[分子量分布(Mw/Mn)の測定]
測定に使用した装置はWaters社製GPC−2000であった。使用したカラムは、1本の昭和電工社製Shodex AT−807Sと2本の東ソー社製TSK−GELGMH−H(S)であり、まず1本のShodex AT−807Sを通り、次に2本のTSK−GELGMH−H(S)を通るように直列に接続して使用した。移動相溶媒として、10質量ppmのペンタエリスリチル テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を含む1,2,4−トリクロロベンゼンを使用した。測定温度は140℃であった。移動相溶媒の流速は1.0ミリリットル/分であった。測定試料は、20mgのポリマーに対して1,2,4−トリクロロベンゼン20ミリリットルを添加し、145℃で2時間溶解させた後、0.5μmの焼結フィルターを通すことにより調製した。数平均分子量(Mn)は、標準物質として東ソー社製の単分散のポリスチレンを用いて作成した検量線を用いて、ポリスチレン換算の数平均分子量に0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗ずることにより算出した。重量平均分子量(Mw)は、標準物質として東ソー社製の単分散のポリスチレンを用いて作成した検量線を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量に0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗ずることにより算出した。分子量分布の尺度であるMw/Mnの値は、上記方法により算出されたMwの値をMnの値で除することにより算出した。
【0071】
[低分子量成分および高分子量成分の重量分率の測定]
分子量が1000以下の低分子量成分および分子量が100万以上の高分子量成分の重量分率は、上記のMw/Mnの測定により得られた分子量分布曲線における分子量が1000以下および分子量が100万以上の部分を積分することにより得られた面積を、分子量分布曲線全体の積分により得られた面積で除することにより算出した。
[密度の測定]
重合体の密度はJIS K7112−1999に準拠し、密度勾配管法(23℃)で測定した。
【0072】
[金属原子の重量含率の測定]
重合体に含まれる金属原子の重量含率は、下記のICP分析により測定した。
試料として5gのポリオレフィンパウダーを使用した。試料を白金ルツボに秤量し、表面温度250℃のヒーター上で試料を3時間炭化した。炭化してガスの発生がなくなった後、ヒーターからおろし、電気炉に入れて550℃で試料を6時間灰化した。灰化後、白金ルツボを電気炉から取り出し、時計皿をかぶせて放冷した。放冷後、塩酸(18重量%)10mlを添加し、ヒーター上で120℃で5分間加熱することにより内容物を溶解させた。溶解後、放冷した内容物を50mlメスフラスコに完全に移し、純水を添加して液面を標線にあわせることにより試験溶液を調製した。
この試験溶液をプラズマ炎中に噴霧し、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、ニッケル、およびパラジウムについて発光強度を測定した。検量線法により、発光強度から試験溶液に含まれる各原子の量を定量し、試料中に含まれる各原子の重量含率を算出し、これら全ての原子の重量含率を総和した。検量線作成には空試料溶液、1mg/リットルおよび5mg/リットルの各原子の標準溶液を使用した。空試験溶液は、塩酸(18重量%)10ミリリットルを50ミリリットルのメスフラスコに添加し、純水を添加して液
面を標線にあわせることにより調製した。
【0073】
[塩素原子の重量含率の測定]
重合体に含まれる塩素原子の重量含率は、イオンクロマト法により測定した。
[末端ビニル基含量の測定]
重合体に含まれる末端ビニル基の含量は、下記の方法により測定した。
1gの重合体を0.2mmのアルミ板上に載せた縦×横×厚みが5cm×5cm×0.5mmの金型に入れ、アルミ板を載せて180℃でプレスしてフィルムを作成した。このフィルムの赤外吸収スペクトルを日本分光製FT−IR5300Aを用いて測定した。ビニル基は910cm−1のピークの吸光度、重合体の密度、およびフィルムの厚みから、次式を用いて算出した。
末端ビニル基含量(個/100C)=0.114×ΔA/(t×d/1000)
{ただし、dは重合体の密度(kg/m)、ΔAはピークの吸光度、tはフィルムの厚み(mm)}
【0074】
[不織布の作成]
実施例により得られた重合体を用いて、メルトブロー法により不織布を作成した。メルトブロー成形機(スクリュー径50mm)とダイス(ノズル径0.40mm×ノズル長さ4.0mm×孔数600ヶ×ダイス幅500mm)を使用し,成形温度270℃,エアー温度280℃,エアー流量300Nm/h,総吐出量10.0kg/hの条件にて,不織布の目付22g/cmの不織布を作成した。
【0075】
[揮発成分の測定]
臭気の尺度として、試料からの揮発成分の測定を行った。
試料5gを内容積20ミリリットルのガラス製バイアル瓶に入れ、60分間100℃に加熱し、気相をガスクロマトグラフィー(GC)で分析した。使用した装置は、GASCHROMATOGRAPHGC−2014(島津製作所製)であった。GCのINJECTION温度は180℃であった。無極性カラムとして、CBP1−S25−50(25m)を使用した。カラム温度は70℃で15分間維持し、その後10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間維持した。キャリアガスは窒素、圧力は100kPaであった。RETENTION時間から成分の炭素数を定性分析した。極性カラムとして、CBP20−S50−50(50m)を使用した。カラム温度は45℃で10分間維持し、その後10℃/分で160℃まで昇温し、1分間維持した。その後、5℃/分で220℃まで昇温し、6分間維持した。キャリアガスはヘリウム、圧力は80kPaであった。検出はFIDを用いて行った。検出された揮発成分のピーク面積の総和を算出した。
このGC測定により算出されたピーク面積の値は揮発成分の量を表しているため、ピーク面積の値の計が小さい方が揮発成分量が少ないため、臭気が良好と考えられる。
【0076】
[溶媒への溶出成分の測定]
溶媒への溶出成分の尺度として、試料からのエタノールへの溶出成分を測定した。
試料5gとエタノール5ミリリットル(和光純薬製、特級)とを20ミリリットルガラス製サンプル管に入れ、50℃で5日間静置した。その後、液相2マイクロリットルをGCで分析した。使用した装置は、GASCHROMATOGRAPH GC−14B(島津製作所製)であった。GCのINJECTION温度は250℃であった。カラムとして、Silicon OV−17(1.1m)を使用した。カラム温度は140℃で2分間維持し、その後10℃/分で250℃まで昇温し、250℃で7分間維持した。キャリアガスは窒素で、キャリアガスの流量は50ミリリットル/分であった。検出はFIDを用いて行った。検出された溶出成分のピーク面積の総和を算出した。
このGC測定により算出されたピーク面積の値はエタノールへの溶出成分の量を表しているため、ピーク面積の値の計が小さい方がエタノールへの溶出成分が少ないため、溶媒
への溶出物が少ないと考えられる。
[濾過性]
不織布に含まれる繊維の平均径を測定することにより、不織布の濾過性を評価した。
【0077】
[参考例1]
シリカP−10[富士シリシア社(日本国)製]を、窒素雰囲気下、400℃で5時間焼成し、脱水した。脱水シリカの表面水酸基の量は、1.29ミリモル/g−SiOであった。内容量200リットルのステンレス製オートクレーブにこの脱水シリカ5kgをヘキサン100リットル中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを攪拌下50℃に保ちながらトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1M)を7.5リットル加え、その後2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させ、トリエチルアルミニウム処理されたシリカと上澄み液とを含み、該トリエチルアルミニウム処理されたシリカの全ての表面水酸基が反応している担体(A−1)を得た。その後、得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。その後、ヘキサンを適量加え、トリエチルアルミニウム処理されたシリカのヘキサンスラリー100リットルを得た。
【0078】
ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム−トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と略称する)457gをトルエン5リットルに添加して溶解し、ボレートの100mMトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1Mヘキサン溶液400ミリリットルを25℃で加え、さらにヘキサンを加えてトルエン溶液中のボレート濃度が70mMとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む反応混合物(C−1)を得た。
【0079】
[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム−1,3−ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」という)400ミリモルをアイソパーE[エクソンケミカル社(米国)製の体炭化水素混合物の商品名]4リットルに溶解し、予めトリエチルアルミニウムとブチルエチルマグネシウムより合成した一般式AlMg(C(n−Cの1Mヘキサン溶液を20ミリリットル加え、更にヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1Mに調整し、遷移金属化合物(B−1)を得た。
【0080】
ボレートを含むこの反応混合物(C−1)全量を、上で得られた、担体(A−1)のスラリーに15℃で攪拌しながら加え、ボレートを物理吸着によりシリカに担持した。
こうして、ボレートを担持したシリカのスラリーが得られた。さらに上で得られた遷移金属化合物(B−1)を全量加え、15℃で3時間攪拌し、(C−1)と(B−1)とを反応させた。こうしてシリカと上澄み液とを含み、触媒活性種が該シリカ上に形成されている固体触媒成分(1)を得た。
【0081】
[参考例2]
遷移金属化合物(B−2)として、ビス(ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチルを使用した以外は参考例1と同様の操作により、固体触媒成分(2)を得た。
【0082】
[参考例3]
(1)担体の合成
充分に窒素置換された内容積10リットルのステンレス製オートクレーブに2モル/リットルのヒドロキシトリクロロシランヘキサン溶液1820ミリリットルを仕込み、50℃で攪拌しながら組成式AlMg(C11(OCで表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液4660ミリリットル(マグネシウム334ミリモル相
当)を4hかけて滴下し、さらに50℃で1h攪拌しながら反応させた。反応終了後、上澄み液を除去し、4600ミリリットルのヘキサンで4回洗浄した。この固体を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムが8.43ミリモルであった。
【0083】
(2)固体触媒成分の調製
上記担体200gを含有するヘキサンスラリー3830ミリリットルに50℃で攪拌しながら1モル/リットルの1−プロパノールヘキサン溶液170ミリリットルを20分かけて添加した。添加後、50℃で1時間反応を継続した。反応終了後、上澄み液840ミリリットルを除去し、温度を65℃にして1モル/リットルのジエチルアルミニウムクロリドヘキサン溶液840ミリリットルを1時間30分かけて添加した。添加後、65℃で1時間反応を継続した。反応終了後、上澄み液2000ミリリットルを除去し、ヘキサン2000ミリリットルで4回洗浄した。洗浄後のスラリーの上澄み315ミリリットルを除去し、50℃で攪拌しながら1モル/リットルのジエチルアルミニウムクロリドヘキサン溶液105ミリリットルを5分かけて添加し、引き続き1モル/リットルの四塩化チタンヘキサン溶液210ミリリットルを10分かけて添加した。添加後、50℃で2時間反応を継続した。反応終了後、2000ミリリットルの上澄み液を除去し、2000ミリリットルのヘキサンで4回洗浄することにより、固体触媒成分(3)を調製した。この固体触媒成分1g中に含まれるチタン量は0.90ミリモルであった。
【0084】
[実施例1]
(重合)
固体触媒成分移送パイプ、モノマー混合物フィードパイプ、および、スラリー抜き取りパイプを有する、200リットルの撹拌器付きベッセル型重合反応器を用いた。エチレンおよび1−ブテンのモノマー混合物、ヘキサン(重合反応溶媒)、水素、および上記の固体触媒成分(1)を連続的にベッセル型重合反応器に供給し、所望のポリエチレン(即ち、エチレン/1−ブテンコポリマー)を10kg/hの速度で連続的に製造した。エチレンと1−ブテンとは、モノマー供給パイプを通して供給された。また、1−ブテンの供給量は、ガスクロマトグラフィーを用いた気相の分析により得られた1−ブテン気相濃度を基に調節した。なお、1−ブテンの気相濃度は、下記の式により算出された値であった。
1−ブテンの気相濃度(モル%)=
1−ブテンの気相濃度(モル/リットル)×100
/{1−ブテンの気相濃度(モル/リットル)+エチレンの気相濃度(モル/リットル)}
【0085】
水素は、連鎖移動剤として、プロダクトのMI(メルトインデクッス)で定義される目標の分子量を有するエチレン/1−ブテンコポリマーを得るために必要な量を水素供給パイプを通して供給された。また、水素の気相濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いた気相の分析により得られた値を用いて、下記の式により算出された値である。
水素の気相濃度(モル%)=
水素の気相濃度(モル/リットル)×100
/{水素の気相濃度(モル/リットル)+エチレンの気相濃度(モル/リットル)}
【0086】
共重合中、反応温度は、70℃、反応圧力は0.7MPaに保たれた。水素流量は、重合反応器内の気相中のエチレンおよび水素の和に対する水素のモル比が0.35%の組成に維持されるように調節された。1ーブテン流量は、重合反応器内の気相中のエチレンおよび1−ブテンの和に対する1−ブテンのモル比が0.04%の組成に維持されるように調節された。なお、気相中のエチレンの濃度および1−ブテンの濃度はオンラインガスクロマトグラフにより測定された。重合スラリー(液相)は、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に抜き取られ、抜き取られたスラリーは、乾燥し、ペレット化したのち、ポリマーの物性を評価した。この評価結果を表1に示す。また、GCを用いて、得
られたポリマーの揮発成分の測定を行った。無極性カラムを用いた分析により得られたピーク面積の総和は332000、極性カラムを用いた分析により得られたピーク面積の総和は161000だった。この評価結果を表2に示す。また、GCを用いて、得られたポリマーおよびのメルトブロー法により製造された不織布のエタノールへの溶出性を評価した。ポリマーの分析により得られたピークの総和は7840、不織布の分析により得られたピークの総和は3470だった。この評価結果を表3に示す。
この不織布の濾過性は良好であった。
【0087】
[実施例2]
(1)重合
1−ブテン濃度を0.035mol%、および水素濃度を0.50mol%に調節した以外は実施例1と同様の操作で得られたポリマーの物性および揮発成分を評価した。物性の評価結果を表1に示す。無極性カラムを用いた分析により得られたピーク面積の総和は168000、極性カラムを用いた分析により得られたピーク面積の総和は78000だった。この評価結果を表2に示す。また、GCを用いて、得られたポリマーおよびのメルトブロー法により製造された不織布のエタノールへの溶出性を評価した。ポリマーの分析により得られたピークの総和は8130、不織布の分析により得られたピークの総和は4460だった。この評価結果を表3に示す。
この不織布の濾過性は良好であった。
【0088】
[実施例3]
1−ブテン濃度を0.077mol%、および水素濃度を0.74mol%に調節した以外は実施例1と同様の操作で得られたポリマーの物性および揮発成分を評価した。物性の評価結果を表1に示す。揮発成分の評価結果を表2に示す。また、GCを用いて、得られたポリマーおよびのメルトブロー法により製造された不織布のエタノールへの溶出性を評価した。この評価結果を表3に示す。
この不織布の濾過性は良好であった。
【0089】
[実施例4]
1−ブテン濃度を0.75mol%、および水素濃度を0.77mol%に調節した以外は実施例1と同様の操作で得られたポリマーの物性および揮発成分を評価した。物性の評価結果を表1に示す。揮発成分の評価結果を表2に示す。また、GCを用いて、得られたポリマーおよびのメルトブロー法により製造された不織布のエタノールへの溶出性を評価した。この評価結果を表3に示す。
この不織布の濾過性は良好であった。
【0090】
[実施例5]
1−ブテン濃度を0.02mol%、および水素濃度を0.71mol%に調節した以外は実施例1と同様の操作で得られたポリマーの物性および揮発成分を評価した。物性の評価結果を表1に示す。揮発成分の評価結果を表2に示す。また、GCを用いて、得られたポリマーおよびのメルトブロー法により製造された不織布のエタノールへの溶出性を評価した。この評価結果を表3に示す。
この不織布の濾過性は良好であった。
【0091】
[実施例6]
1−ブテン濃度を0.02mol%、および水素濃度を0.76mol%に調節した以外は実施例1と同様の操作で得られたポリマーの物性および揮発成分を評価した。物性の評価結果を表1に示す。揮発成分の評価結果を表2に示す。また、GCを用いて、得られたポリマーおよびのメルトブロー法により製造された不織布のエタノールへの溶出性を評価した。この評価結果を表3に示す。
この不織布の濾過性は良好であった。
【0092】
[実施例7]
固体触媒成分として、上記の固体触媒成分(2)を用い、1−ブテン濃度を0.13mol%、および水素濃度を0.19mol%に調節した以外は実施例1と同様の操作で得られたポリマーの物性および揮発成分を評価した。物性の評価結果を表1に示す。無極性カラムを用いた分析により得られたピーク面積の総和は284000、極性カラムを用いた分析により得られたピーク面積の総和は150000だった。この評価結果を表2に示す。また、GCを用いて、得られたポリマーおよびのメルトブロー法により製造された不織布のエタノールへの溶出性を評価した。ポリマーの分析により得られたピークの総和は7640、不織布の分析により得られたピークの総和は3520だった。この評価結果を表3に示す。
この不織布の濾過性は良好であった。
【0093】
[比較例1]
固体触媒成分として、上記の固体触媒成分(3)を用い、1−ブテン濃度を7.5mol%、および水素濃度を20mol%に調節したた以外は実施例1と同様の操作で得られたポリマーの物性および揮発成分を評価した。物性の評価結果を表1に示す。無極性カラムを用いた分析により得られたピーク面積の総和は1402000、極性カラムを用いた分析により得られたピーク面積の総和は394000だった。この評価結果を表2に示す。また、GCを用いて、得られたポリマーおよびのメルトブロー法により製造された不織布のエタノールへの溶出性を評価した。ポリマーの分析により得られたピークの総和は34210だった。この評価結果を表3に示す。
この不織布の濾過性は良くなかった。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、溶剤に対する溶出物が少なく、また臭気の発生が少なく、かつ濾過性能に優れた不織布の製造に適したエチレン系重合体と該エチレン系重合体を使用することにより製造された不織布とを提供することができ、特に高純度薬品を濾過する際に使用される不織布に好適である。また、不純物の混入を嫌う電子部品、精密部品、光学部材用包材や合紙にも特に好適に利用できる。また、本発明における不織布は半導体分野、IT分野、医療医薬分野、およびサニタリー分野において、クリーン性が必要とされる用途にも好適に使用され、特に前記分野の部品、部材用包材として、特に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレートが10g/10分以上、1000g/10分以下であり、密度が940kg/m以上、980kg/m以下であり、重量平均分子量を数平均分子量で除すことにより得られる値が2以上、5以下であり、分子量が1000以下である低分子量成分の重量分率が0以上1.0重量%以下であり、分子量が100万以上である高分子量成分の重量分率が0以上0.5重量%以下であるエチレン系重合体であり、該重合体に含まれるチタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子、クロム原子、ニッケル原子、およびパラジウム原子の重量の和の、該重合体に対する重量分率が0以上3重量ppm以下であり、塩素原子の該重合体に対する重量分率が0以上5重量ppm以下であることを特徴とする、不織布用エチレン系重合体。
【請求項2】
末端ビニル基含量が0以上0.020個/100C以下であることを特徴とする、請求項1に記載の不織布用エチレン系重合体。
【請求項3】
少なくとも[A]実質的に水酸基を有しない固体成分、[B]下記の式(1)で表される可溶性遷移金属化合物、[C]該遷移金属化合物[B]と反応して触媒活性を有する金属錯体を形成活性化剤化合物、とから形成されているオレフィン重合用固体触媒により製造されることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の不織布用エチレン系重合体。
MXX’ (1)
(式中、Lは、各々独立して、シクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基、及びオクタヒドロフルオレニル基からなる群より選ばれるη結合性環状アニオン配位子を表し、該配位子は場合によっては1〜8個の置換基を有し、該置換基は各々独立して炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のハロゲン置換炭化水素基、炭素数1〜12のアミノヒドロカルビル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜12のジヒドロカルビルアミノ基、炭素数1〜12のヒドロカルビルフォスフィノ基、シリル基、アミノシリル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシシリル基及びハロシリル基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基であり、
Mは、形式酸化数が+2、+3または+4の周期表第4族に属する遷移金属群から選ばれる遷移金属であって、少なくとも1つの配位子Lにη結合している遷移金属を表し、
Wは、50個までの非水素原子を有する2価の置換基であって、LとMとに各々1価ずつの価数で結合し、これによりL及びMと共働してメタロサイクルを形成する2価の置換基を表し、
Xは、各々独立して、1価のアニオン性σ結合型配位子、Mと2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子、及びLとMとに各々1価ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子からなる群より選ばれる、60個までの非水素原子を有するアニオン性σ結合型配位子を表し、
X′は、各々独立して、40個までの非水素原子を有する中性ルイス塩基配位性化合物を表し、
jは1または2であり、但し、jが2である時、場合によっては2つの配位子Lが、20個までの非水素原子を有する2価の基を介して互いに結合し、該2価の基は炭素数1〜20のヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のハロヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンオキシ基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンアミノ基、シランジイル基、ハロシランジイル基及びシリレンアミノ基からなる群より選ばれる基であり、
kは0または1であり、
pは0、1または2であり、但し、Xが1価のアニオン性σ結合型配位子、またはLとMとに結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはMの形式酸化数より1以上小さい整数であり、またXがMにのみ結合している2価のアニオン性σ結合型配
位子である場合、pはMの形式酸化数より(j+1)以上小さい整数であり、
qは0、1または2である)。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の不織布用エチレン系重合体を用いて製造されることを特徴とする不織布。

【公開番号】特開2009−108177(P2009−108177A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281280(P2007−281280)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】