説明

不織布積層用織編物、それを用いた複合不織布および皮革様シート状物、および不織布積層用織編物の製造方法

【課題】ストレッチ性を有し、かつ柔軟で、表面品位に優れ、つっぱり感の生じない複合不織布を製造するための不織布積層用織編物、およびそれを用いた複合不織布と皮革様シート状物を提供する。
【解決手段】不織布積層用織編物のタテ方向又はヨコ方向の少なくとも一方の15%伸長時応力を0.1〜5.0N/cmとする。織編物を構成する繊維が、主としてポリエステルサイドバイサイド型複合繊維あるいは偏心芯鞘型複合繊維であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ性や反発性に優れ、かつ、つっぱり感のない、表面品位に優れ、着用感や成形性に優れた複合不織布を得るための不織布積層用の織編物と、それを用いた複合不織布および皮革様シート状物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不織布は人工皮革や貼布材、カーペット、フィルター、内装材、クッション材、ワイパー等幅広い用途で使用されている。これらの用途は、着用感の向上や、成形性、使用性の観点からストレッチ性が求められており、これまでにも種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、固有粘度差のある2種類のポリトリメチレンテレフタレートを互いにサイドバイサイド型に複合した潜在捲縮性ポリエステル繊維からなる不織布が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、当該不織布を構成する潜在捲縮性ポリエステル繊維を極細化することは、生産安定性に欠けることからほとんどなされていないのが実情である。従って、当該技術を用いて風合いの柔軟化や高品位な表面外観の高品位化は困難である等の問題があった。
【0004】
また、不織布を構成する繊維自体にストレッチ性を付与するのではなく、ポリトリメチレンテレフタレートを用いた潜在捲縮発現性ポリエステル繊維からなる織編物を不織布と積層した、ストレッチ性に優れる人工皮革が提案されている(例えば特許文献2、3)。当該方法であれば、上述した問題は回避でき、比較的容易にその製造が可能となる。しかしながら、これらの方法によってストレッチ性は改善しているにもかかわらず、柔軟性に欠け、つっぱり感を感じる等の問題が指摘されていた。
【特許文献1】特開2003−293255号公報
【特許文献2】特開平11−269751号公報
【特許文献3】特開2002−69789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ストレッチ性を有し、かつ柔軟で、表面品位に優れつっぱり感の生じない複合不織布を製造するための不織布積層用織編物を提供するものである。
【0006】
また、本発明の別の態様は、本発明の不織布積層用織編物が積層されてなる、ストレッチ性や柔軟性、表面品位に優れ、つっぱり感の生じない複合不織布および皮革様シート状物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、以下の構成を有する。
【0008】
すなわち、本発明の不織布積層用織編物は、タテ方向又はヨコ方向の少なくとも一方の15%伸長時応力が0.1〜5.0N/cmであることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の複合不織布および皮革様シート状物は、本発明の不織布積層用織編物が積層されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
上述した本発明の不織布積層用織編物を用いた複合不織布や皮革様シート状物はストレッチ性を有し、かつ柔軟性及び表面品位に優れ、つっぱり感を生じないことから、例えば、着用感が優れる衣料や、成形性、特に立体成形性に優れる資材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の不織布積層用織編物は、不織布と積層することを目的とした織編物である。なお、本発明において織編物とは、織物と編物を総称していうものである。織物としては、平織、綾織、朱子織等特に組織を限定するものではないが、コストおよび積層後の不織布の表面平滑性に優れる点では平織が好ましい。また、編物としては、丸編、トリコット、ラッセル等がよいが、特に限定されるものではない。
【0012】
本発明においては織物の方が編物よりも、伸長回復率や耐久性に優れ、また積層が容易な点で好ましい。一方、15%伸長時応力をより低減させる場合や、衣料用に用いる場合であって、ドレープ性を向上させる必要がある場合には、織物より編物の方が好ましい。
【0013】
織物の場合の織密度は、経、緯のいずれも50〜200本/2.54cmであることが、不織布と剥離しにくくなるため好ましい。70本/2.54cm以上がより好ましく、80本/2.54cm以上がさらに好ましい。また180本/2.54cm以下がより好ましく、160本/2.54cm以下がさらに好ましい。50本/2.54cm未満であれば、織物組織が変形しにくくなり、取扱いが容易になると共に、強力等の物性も強くなるので好ましい。ただし、200本/2.54cm以下であると、不織布との積層性が低下するため好ましくない。
【0014】
織編物の目付は、50〜100g/mであることが、不織布を積層した複合不織布が例えば250g/m以下の低目付であることが好ましい用途、例えば衣料用途、において、不織布の割合を相対的に高め、品位や風合いを優れたものとすることができる点で好ましい。目付は55g/m以上であることがより好ましく、60g/m以上であることがさらに好ましい。また、85g/m以下であることがより好ましく、80g/m以下であるこがさらに好ましい。50g/m以上であると、不織布を積層した後でも織編物の特徴を十分に発揮することが可能である。一方、100g/mを超える場合、それに応じて不織布量を増加させれば、例えば表面への織編物の露出等を抑制することが可能であるが、上述したように不織布積層後に250g/m以下の低目付品とする場合は、織編物の露出等による品位の低下や、織編物様の風合いになる等の点で好ましくない。
【0015】
一般に複合不織布(織編物を積層した不織布)のストレッチ性を評価する場合、一定荷重域でのストレッチ性(伸長率)が重視されているが(例えば特許文献3)、本発明者らの知見によると同程度のストレッチ性(伸長率)を有する複合不織布であっても、柔軟性やつっぱり感が異なることが判った。これは、織編物と不織布が積層されて始めて生じる現象であり、織編物や不織布単独では想定しえない特徴である。特に、不織布と織編物が接着剤ではなく、絡合によって一体化したものはその傾向が顕著である。そして、この柔軟性やつっぱり感は不織布に積層する織編物の特定の伸長域である15%伸長域での応力が大きく影響することを本発明者らは見出し、本発明に到達した。すなわち、ストレッチ性の他、柔軟性やつっぱり感のなさを両立するには単に一定荷重下での高い伸長率を追求するだけでは不充分であり、不織布に積層する織編物のタテ方向又はヨコ方向の少なくとも一方の15%伸長時の応力を特定の範囲とすることによって、ストレッチ性に優れ、且つ柔軟性及び表面品位に優れ、つっぱり感を生じない複合不織布を得ることができるのである。なお、15%伸長時の応力が低いものと、つっぱり感がなく、着心地が良いものに相関があった理由は定かではないが、例えば人の皮膚は肘や膝等の曲げにより30%以上伸びることが知られているため、厳密に言えば30%伸長時の応力が影響するものとも思われるが、衣服にはずれやゆとり等があるため、15%伸長時の応力が影響したものと考えられる。
【0016】
本発明でいう織編物のタテ方向とは、織物の場合は経方向、編物の場合はウェールを意味し、ヨコ方向とは、織物の場合は緯方向、編物の場合はコースを意味する。
【0017】
本発明における織編物は、タテ方向又はヨコ方向の少なくとも一方の15%伸長時応力が0.1N/cm以上、好ましくは0.3N/cm以上、より好ましくは0.5N/cm以上であり、かつ、5.0N/cm以下、好ましくは3.0N/cm以下、より好ましくは2.0N/cm以下、さらに好ましくは1.0N/cm以下である。0.1N/cm未満であると、安定して積層することが困難になる。また、5.0N/cmを超えると、風合いが堅くなり、つっぱり感が生じる。さらに、タテ方向およびヨコ方向の15%伸長時応力がいずれも、好ましくは0.1〜25.0N/cm、より好ましくは0.2〜20N/cm、さらに好ましくは0.5〜12N/cmであると、より本発明の効果が顕著である。
【0018】
ここで、15%伸長時応力には、JIS L 1096 8.12.1(1999)に従って測定した、幅2.5cm、つかみ間隔10cmで定速伸長型引張試験器にて、引張速度100%/分にて試料伸長させ、15%伸長した時の応力を用いる。得られた値から幅1cm当たりの荷重を15%伸長時応力(単位;N/cm)とした。
【0019】
本発明の織編物を構成する繊維は、通常の延伸糸の他、加工糸等特に限定されるものではないが、主として2種類以上のポリエステル系重合体が繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わされた複合繊維、あるいは、2種類以上のポリエステル系重合体が偏心した芯鞘構造を形成している偏心芯鞘型複合繊維であることが、本発明の効果をより発揮でき、またコストおよび取り扱いの容易さの点で好ましい。かかる複合繊維を含むものであれば、通常の繊維が本発明の効果を損なわない範囲で含まれていてもよい。すなわち、例えば前記複合繊維と他の繊維を合糸して複合糸として使用してもよいし、織物とした場合において、前記複合繊維を緯糸または経糸にのみに使用し、他方には他の繊維を使用しても良い。
【0020】
本発明でいうポリエステル系重合体とは、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリマーである。また、2種以上のポリエステル系重合体とは、物理的および/または化学的性質を異にする2種以上のポリエステル系重合体を用いることを意味する。すなわち、2種以上のポリエステル系重合体がサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合されたとは、物理的および/または化学的性質を異にする2種以上のポリエステル系重合体が、繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合されていることを意味する。これにより、物理的または化学的要因によって、複合繊維に捲縮を発現させることができる。捲縮発現が容易である点で、好ましくは熱収縮性の異なるポリエステル系重合体を2種以上使用することが好ましい。これにより、リラックス処理することによって、容易に捲縮を発現させることができ、ストレッチ性や反発感に優れる織編物を得ることができる。熱収縮性の異なるポリエステル系重合体としては、例えば、ポリマーの固有粘度、重合度が異なるもの、異なるポリマーをブレンドしたもの、等が挙げられる。
【0021】
また、ポリエステル系重合体のうち、少なくとも1種以上がポリトリメチレンテレフタレートであると、ストレッチ性を向上させることができる。特に高収縮成分にポリトリメチレンテレフタレートを用いると、優れたストレッチ性を有するため好ましい。この際、複合繊維の低収縮成分は、高収縮成分であるポリトリメチレンテレフタレートとの界面接着性が良好で、製糸性が安定している繊維形成性ポリエステルであればよい。ただし、力学的特性、化学的特性および原料価格を考慮すると、繊維形成能のあるポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0022】
ここでポリトリメチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、20モル%、より好ましくは10モル%以下の割合で他のエステル結合の形成が可能な共重合成分を含むものであってもよい。共重合可能な化合物として、例えば、イソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
一方、ポリエステル系重合体がポリエチレンテレフタレートまたはその共重合体であると、よりコストが低減できる点で好ましい。
【0024】
また、必要に応じて、ポリエステル系重合体には、艶消し剤となる二酸化チタン等、滑剤としてのシリカやアルミナ等の微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体等、着色顔料などを添加してもよい。
【0025】
なお、本発明では当該複合繊維を形成するポリマーの固有粘度差が0.01〜0.4であることが好ましい。0.01以上であればストレッチ性が向上し、0.4を以下であれば紡糸安定性が良好である。この時、0.35〜0.55の低粘度ポリエステルと固有粘度が0.65〜0.85の高粘度ポリエステルとが複合された複合繊維が好ましい。この場合、一般に高粘度ポリエステルの方が、低粘度ポリエステルよりも、熱収縮性が高くなる。なお、固有粘度IVは、温度25℃においてオルソクロロフェノール溶液として測定した値を用いた。
【0026】
また、2種以上のポリエステル系重合体の複合比率は、製糸性の点で、高収縮成分:低収縮成分=75:25〜35:65(重量%)の範囲が好ましく、65:35〜45:55の範囲がより好ましい。
【0027】
複合繊維の平均単繊維繊度は、特に限定されないが、1〜15デシテックスが好ましい。1デシテックスを超えるとストレッチ性や反発感がより良好になり、15デシテックス未満であると風合いがより柔軟である点で好ましい。
【0028】
なお、本発明においては、反発感の優れた複合不織布とする目的では、前記複合繊維を含む繊維がマルチフィラメントを構成し、該マルチフィラメントの集合体が螺旋形状を形成していることが好ましく、その螺旋形状の中心部分に長さ方向の中空構造を形成していることがさらに好ましい。特に、本発明の複合不織布を皮革様シート状物とした場合であって、実質的に繊維で構成され、又は高分子弾性体の含有量が5%以下の場合、反発感が乏しくなるため、これを補うために有効な手段である。中空構造は、全ての繊維が取る必要はなく、一部に形成されるだけでも、反発感を向上させる効果がある。
【0029】
さらに、この好ましい形状が容易に得られる点で、マルチフィラメントの撚数が500〜3000T/mであることが好ましく、800〜2000T/mであることがより好ましい。単フィラメントが分散した状態や、捲縮の位相がずれている場合はこの好ましい形状が得られ難い傾向を示すため、エアー交絡処理等を行い集合させることが好ましい。
【0030】
本発明の織編物の通気量は60cc/cm/sec以上であることが好ましく、110cc/cm/sec以上であることがより好ましく、210cc/cm/sec以上であることがさらに好ましい。60cc/cm/sec以上であれば、特にニードルパンチやウォータージェットパンチによる絡合によって不織布と積層する場合には、積層均一性や剥離強力が向上するため好ましい。また、接着剤等により不織布と積層する場合には、接着剤の乾燥効率または加熱効率等が向上する点で好ましい。通気量の上限は特に限定されず、高い程積層性に優れる傾向を示すが、半面、織編物の強力は低下する傾向を示す。そのため、使用目的に応じた必要強力を上限として通気量を適宜設定するが、例えば通常は1000cc/cm/sec以下となる。
【0031】
ここでいう通気量は、JIS L 1096 8.27.1(1999)A法(フラジール形)によって得られる値を用いる。当該方法で得られる通気量の上限は測定器によって制約され、例えば約400cc/cm/sec程度であるが、本発明の不織布積層用織編物はこの値を上限とするものでなく、測定限界を超えるものであっても良い。上限は、複合不織布としての必要強力によって適宜設定される。
【0032】
また、表面品位の優れた複合不織布を得るためには、織編物のタテ方向の伸長率は5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。また、50%以下が好ましく、45%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましい。5%以上であれば複合不織布としてより良好なストレッチ性を得ることができ、また50%未満であれば通気性が優れる傾向を示し、その結果として積層時の工程通過性や不織布との積層性に優れるため好ましい。
【0033】
さらに、織編物のタテ方向又はヨコ方向の、好ましくはタテ方向およびヨコ方向の伸長回復率が75〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましく、85〜100%であることがさらに好ましい。75%以上であると、使用による変形が生じにくいため好ましい。
【0034】
また、不織布の表面品位が優れる点で、織編物の沸水収縮率がタテ、ヨコ方向共に10%未満とすることが好ましく、8%未満がより好ましく、5%未満がさらに好ましい。10%未満であると、保管時や、不織布と積層した後の染色や経時変化等による熱履歴によっても複合不織布の表面に凹凸が生じ難く、表面品位がより良好となるため、好ましい。なお、下限は上記同様の理由により、0%以上が好ましい。
【0035】
本発明の沸水収縮率は、JIS L 1096(1999) 8.64.4 B法(沸騰水浸せき法)により得られた値を用いる。
【0036】
本発明の織編物は不織布に積層する用途に限定するものであるが、かかる不織布については特に限定されず、短繊維不織布や長繊維不織布、ニードルパンチ不織布や抄造不織布、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布、エレクトロスピニング不織布等種々のカテゴリーで表現される全ての不織布に適用できる。本発明の効果がより発揮できる点で、長繊維不織布より短繊維不織布であることが好ましい。
【0037】
短繊維不織布の場合、繊維長は10mm以上が好ましく、20mm以上がより好ましく、30mm以上がさらに好ましい。また、70mm以下が好ましく、60mm以下がより好ましい。繊維長が10mm以上であると、摩擦による繊維の脱落が生じがたくなり、耐摩耗性や表面品位により優れるため好ましい。また70mm以下であると、絡合性が向上し、ピリング等が発生しがたくなるため好ましい。
【0038】
当該繊維長は、不織布の表面から繊維を無作為に100本サンプリングし、少なくとも50本以上が当該範囲に入っている場合をいう。
【0039】
また、本発明においては、不織布を構成する単繊維繊度は、好ましくは0.001〜0.3デシテックス、より好ましくは0.005〜0.15デシテックスであることが好ましい。0.001デシテックス以上とすると、例えば複合不織布を衣料や家具等強力の必要な用途に使用した場合に実用上十分な強力を有するため好ましい。また、0.5デシテックス以下であると、風合いがより柔軟になり、本発明の効果をより発揮できるため好ましい。なお、本発明の効果が損なわれない範囲で、上記範囲外の繊度の繊維が含まれていてもよい。
【0040】
不織布と本発明の不織布積層用織編物の積層方法は、特に限定されず、接着や絡合等によって行うことができる。これらのうち、柔軟性やストレッチ性に優れる点で、絡合によって積層されてなることが好ましい。その絡合状態は、特に限定されるものではなく、例えば、織編物と極細繊維が三次元的に相互に絡み合った状態のものが挙げられる。極細繊維としては、極細繊維の束状であるものが含まれていてもよいが、織物との剥離強力を向上させる点で極細繊維の束状態のものがほとんど観察されないまでに極細繊維が1本1本に分散している状態のものが最も好ましい。
【0041】
本発明の他の態様は本発明の不織布用織編物が積層されてなる複合不織布である。本発明の不織布積層用織編物と不織布が積層された複合不織布は、ストレッチ性や柔軟性、表面品位に優れ、つっぱり感がない等の利点を有するため、衣料や貼布材、家具、カーシート、内装材等に好適に使用することができる。
【0042】
これらの用途のうち、本発明の効果をより有効に利用できる点で、皮革様シート状物とすることが好ましい。従来から皮革様シート状物は、一般に適宜の量の高分子弾性体を含浸させて製造されているが、本発明においては、特に、つっぱり感をなくし、良好なストレッチ性や柔軟性を発現させるために、ポリウレタン等の高分子弾性体の量は、含浸させる場合であっても、10重量%未満であることが好ましく、5重量%未満であることがより好ましく、3重量%未満であることがさらに好ましい。さらには、実質的には、含まれないものであることが最も好ましい。
【0043】
すなわち、実質的に繊維素材からなり、実質的に高分子弾性体を含まないものであることが最も好ましい。高分子弾性体が多量に含まれると、繊維間の接着性が増加して、ストレッチ性が低下するため好ましくない。ここで、「実質的に繊維素材からなる」とは、一般的な皮革様シート状物の構成要素である繊維素材と高分子弾性体のうちの繊維素材のみからなることを意味するが、後加工で用いられるその他の加工剤、例えば、染料、柔軟剤、耐摩耗性向上剤、各種堅牢度向上剤、耐電防止剤あるいは微粒子等が本発明の皮革様シート状物に含まれていてもよい。
【0044】
なお、ここでいう「実質的に繊維素材からなる」とは、SEMやマイクロスコープ等で表面観察を行った際に、実質的に高分子弾性体が観察されないことをいう。
【0045】
本発明の皮革様シート状物において高分子弾性体が含まれる場合、高分子弾性体としては、特に限定されるものではなく、例えば従来から皮革様シート状物に用いられてきたポリウレタン、アクリル、あるいはスチレン−ブタジエン等を用いることができる。この中でも、柔軟性、強度、品位等の点でポリウレタンを用いることが好ましい。ポリウレタンの製造方法としては、特に限定されるものではなく、従来から知られている方法、すなわち、ポリマーポリオール、ジイソシアネート、鎖伸張剤を適宜反応させて製造することができる。また、溶剤系のものであっても水分散系のものであっても良いが、作業環境の点で水分散系のものの方が好ましい。
【0046】
また、本発明の皮革様シート状物は、JIS L 1096(1999)8.14.1 A法で規定されるタテ方向の伸長率が5〜30%であることが好ましく、7〜25%であることがより好ましく、10〜20%であることがさらに好ましい。5%以上であると、ストレッチ性がより良好になり、また衣料とした場合に優れたデザインが可能となるため好ましい。一方、30%を以下であると、特に張力や皺等の生産管理が容易になるため好ましい範囲である。
【0047】
また、ヨコ方向の伸長率は10〜50%であることが好ましく、15〜40%であることがより好ましく、20〜35%であることがさらに好ましい。10%以上であるとより良好なストレッチ性を得ることができ、また50%以下であれば良好な伸長回復率を得ることができ、また皮革様の良好な風合いが得られるため好ましい。
【0048】
なお、タテ方向よりヨコ方向の伸長率が大きいと、特に衣料とした場合に良好なシルエットを表現できるため好ましい。
【0049】
さらに、JIS L 1096(1999)8.14.2 A法で規定される伸長回復率はタテ、ヨコいずれの方向にも75〜100%であることが好ましく、80〜100%がより好ましく、85〜100%がさらに好ましい。伸長回復率が75%以上であると、使用によるひずみによっても、型崩れが起こりくいため好ましい。
【0050】
なお、本発明において、不織布の形成方向をタテ方向とし、不織布の幅方向をヨコ方向とするものである。該不織布の形成方向は、繊維の配向方向、ニードルパンチや高速流体処理等によるスジ跡や処理跡等の複数の要素から、一般に判断可能である。これらの複数の要素による判断が相反している、明確な配向がない、またはスジ跡などがない等の理由で、明確なタテ方向の推定や判断が不可能な場合には、引張強力が最大となる方向をタテ方向として、それと直交する方向をヨコ方向とするものである。
【0051】
次に、本発明の不織布積層用織編物の好ましい製造方法の一例を示す。
【0052】
不織布積層用織編物の15%伸長時応力は、繊維又は織編物組織によって容易に本発明の範囲にすることができる。例えば繊維に伸縮性を付与することは、好ましい方法である。その手段としては特に限定されないが、主として2種類以上のポリエステル系重合体が繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わされた複合繊維、あるいは、2種類以上のポリエステル系重合体が偏心した芯鞘構造を形成している偏心芯鞘型複合繊維とすることが、コストおよび取扱いの容易さの点で好ましい。複合繊維の製造方法は、特に限定されないが、例えば、2種類のポリエステル系重合体を用いてサイドバイサイド複合流を形成させた後、所望の断面形状を得るための吐出孔から吐出することによって得ることができる。吐出された糸条は冷却され、固化した後、一旦巻き取ってから延伸や延伸仮撚加工を行う2工程法によって製造してもよいし、紡糸引取り後、そのまま延伸する直接紡糸延伸法によって製造してもよい。
【0053】
このような複合繊維を安定して製造するためには、各成分の固有粘度および、各成分間の固有粘度差が重要となってくる。複合繊維といえども、片側成分の粘度が低すぎて繊維形成能がなかったり、逆に高すぎて特殊な紡糸装置が必要になったりするようでは実用的ではない。また、各成分間の粘度差により、吐出孔直下での糸条のベンディング(曲がり現象)の度合いが決まり、それが製糸性に大きく影響する。
【0054】
繊維製造後には、次いで織編物とする。ここで、織物を製造する場合、ウォータージェット織機やエアジェット織機のようなシャトルレス織機やフライシャトル織機、タペット織機やドビー織機、ジャカード織機等に織機は特に限定されるものではない。タテ糸本数によって、15%伸長時の応力を制御することができ、同一繊維を使用した場合、タテ糸本数が少ないほど15%伸長時応力は低下する傾向を示す。また、通気量を増加させるためには、織物のカバーファクターを低下させることにより得ることができる。
【0055】
また、編物においては、よこ編、たて編のいずれでもよく、よこ編としては、例えばよこ編機、丸編機等、たて編としてはトリコット機、ミラニーズ機、ラッセル機等により製造することができる。編物は織物より15%伸長時応力を低下させることが可能である。
【0056】
次いで、織編物は必要に応じてリラックス処理して収縮させ、中間セットを行う。リラックス条件や中間セット条件によって、15%伸長時応力や沸水収縮率を本発明の範囲とすることは、本発明の好ましい製造方法である。同一繊維から製造された織編物であっても、リラックス処理や中間セットによって、15%伸長時応力や沸水収縮率が大きく異なるため、本発明において本工程は重要である。通常、同一繊維を用い、同一条件で織り上げられた織編物を使用した場合、目標とする伸長率を指標として公知のリラックス条件および中間セット条件の最適化が行われてきた。よって、不織布積層用織編物においても、不織布と積層された目的物たる複合不織布の伸長率を指標とし、必要な織編物の伸長率が決定されるのが通常である。この際、同一の伸長率が得られるのであれば、一般にコストおよび不織布との積層性の観点から、できるだけ織物の収縮率が小さい条件を設定する。しかしながら、本発明の不織布積層用の織編物の場合、本発明の効果であるつっぱり感の減少や柔軟性を得るために、上述のように伸長率を指標とせず、15%伸長時応力を指標として条件設定を行う。
リラックス処理を行うに際しては、オープンソーパー、連続拡布リラクサー、拡布連続精錬機、ソフサー(株式会社ニツセン製)、コンベアー精錬機等の連続拡布状リラックス処理機や、ビーム、気流、ロータリーワッシャー、ジッガー、ウィンス、液流染色機等のバッチ式処理機等によって、80℃以上、好ましく90℃以上、より好ましくは105℃以上の温度で収縮処理する。また、上限としては140℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下で処理する。80℃未満である場合又は140℃を超える場合、15%伸長時応力が高くなる傾向にあるため好ましくない。本発明においては、織編物の伸長率によって不織布の伸長率が決定されるものではないため、特に織編物の伸長率を重視する必要はない。15%伸長時応力が低い条件を適宜設定することが好ましい。なお、バッチ式で揉み作用を伴いながら収縮させるリラックス処理、特に液流染色機を用いたリラックス処理は、織物の15%伸長時応力を低くすることが容易であるため、本発明においては特に好ましい方法である。バッチ式で揉みながら収縮させるリラックス処理を行う方法としては、その他に、ロータリーワッシャーや気流、ウィンス染色機を用いる方法がある。
【0057】
液流染色機を用いるリラックス処理に先立って、連続拡布状連続リラックス処理機で予備収縮を行う2段リラックス処理を行う、すなわち、連続拡布状に収縮させ、ついでバッチ式で揉みながらさらに収縮させることは、均一な収縮処理ができる点で好ましい。2段リラックス処理を行う場合、1段目の連続拡布状の収縮処理は80〜105℃で行うことが好ましい。90℃以上が好ましく、95℃以上がさらに好ましい。80℃以上で収縮が発現するが、105℃を超えるとヨコ方向の収縮が大きくなり、タテ方向とのバランスがとりにくくなる。また、2段目のバッチ式で揉み作用を伴いながら収縮処理する際には、100〜140℃で行うことが好ましい。105℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましい。また、130℃以下がより好ましく、120℃以下がさらに好ましい。100℃以上の温度で揉み作用を与えることにより、15%伸長時応力を低くすることができる。一方、140℃を越えると、逆に15%伸長時応力が高くなる傾向にあり、好ましくない。
【0058】
なお、収縮率を増大させると、織編物のストレッチ性を増加させることができるが、反面、通気性は低下するため、バランスをとることが好ましい。
【0059】
また、中間セットは、織編物の15%伸長時応力や織編物の沸水収縮率を制御できる点で重要な工程である。一般に、中間セット温度は100〜190℃で乾熱又は湿熱で行うが、本発明においては、沸水収縮率を本発明の好ましい範囲に容易に制御でき、また複合不織布とした場合の表面品位が優れる点で温度が140℃以上であることが好ましく、165℃以上であることがより好ましく、175℃以上であることがさらに好ましい。140℃未満であると、積層した複合不織布が染色等の熱履歴や経時変化等によって収縮し、表面品位が低下するため好ましくない。また、湿熱より乾熱で行う方が、簡便でコスト低減効果があるため好ましい。
【0060】
また、中間セットにおいて、タテ方向にオーバーフィードすることが、本発明の不織布積層用織編物の15%伸長時応力を低下させることができる点で好ましい。オーバーフィード率は1〜15%であることが好ましく、2〜10%がより好ましい。
【0061】
こうして得られる不織布積層用織編物を、不織布と積層することによって、ストレッチ性に富み、柔軟でつっぱり感のない複合不織布とすることができる。
【0062】
次に、本発明の不織布積層用織編物と積層する不織布の製造方法、および不織布積層用不織布と不織布が積層されてなる複合不織布、皮革様シート状物の製造方法の一例を説明する。
【0063】
本発明の不織布用織編物に積層する不織布の単繊維繊度は、上述のように0.0001〜0.5デシテックスであることが好ましいが、単繊維繊度が当該範囲にある、いわゆる極細繊維の製造方法は特に限定されず、通常のフィラメント紡糸法の他、スパンボンド法、メルトブロー法、エレクトロスピニング法、フラッシュ紡糸法等の、不織布として製造する方式であってもよい。また、極細繊維を得る手段として、直接極細繊維を紡糸する方法、通常繊度の繊維であって極細繊維を発生する事ができる繊維(以下、極細繊維発生型繊維という)を紡糸し、次いで、極細繊維を発生させる方法でも良い。
【0064】
ここで、極細繊維発生型繊維を用いて極細繊維を得る方法としては、具体的には、海島型繊維を紡糸してから海成分を除去する方法、あるいは、分割型繊維を紡糸してから分割して極細化する方法等の手段を採用することができる。
【0065】
これら手段の中でも、本発明においては、極細繊維を容易に安定して得ることができる点で、極細繊維発生型繊維によって製造することが好ましく、さらには皮革様シート状物とした場合、同種の染料で染色できる同種ポリマーからなる極細繊維を容易に得ることができる点で、海島型繊維によって製造することがより好ましい。
【0066】
海島型繊維を得る方法としては、特に限定されず、例えば、以下の(1)〜(4)に記載する方法等が挙げられる。
(1)2成分以上のポリマーをチップ状態でブレンドして紡糸する方法。
(2)予め2成分以上のポリマーを混練してチップ化した後、紡糸する方法。
(3)溶融状態の2成分以上のポリマーを紡糸機のパック内で静止混練器等により混合する方法。
(4)特公昭44−18369号公報、特開昭54−116417号公報等の口金を用いて製造する方法。
【0067】
本発明においては、いずれの方法でも良好に製造することができるが、ポリマーの選択が容易である点で上記(4)の方法が最も好ましい。
【0068】
かかる(4)の方法において、海島型繊維および海成分を除去して得られる島繊維の断面形状は特に限定されず、例えば、丸型、多角形型、Y字型、H字型、X字型、W字型、C字型、π字型等が挙げられる。
【0069】
極細繊維不織布と織編物が積層されてなる複合不織布を製造する方法としては、例えば、織編物に極細繊維の抄造用スラリーを抄造する方法、極細繊維発生型繊維と織編物と交絡一体化させた後、極細繊維を発生させる方法、極細繊維不織布を製造し、ついで織編物を交絡一体化させる方法等を採用でき、特に限定されるものではないが、高品位な表面を得ることができる点で、一旦、極細繊維不織布を製造した後、次いで織編物と交絡一体化させる方法が好ましい。この際に、織編物を片面に配しても、不織布の間に配してもよく、特に限定されるものではない。
【0070】
極細繊維不織布を得る方法としては、湿式法であっても乾式法であっても良いが、摩擦時に繊維脱落が少ない点で乾式法が好ましい。
【0071】
繊維長は、乾式法の場合10〜70mm、湿式法の場合は0.1〜20mmにカットすることが好ましい。
【0072】
乾式法として好ましい製造方法としては、極細繊維が発生可能な1〜10デシテックスの極細繊維発生型繊維を用いてニードルパンチ法により短繊維不織布を製造し、次いで、極細化して極細繊維不織布を得る方法が挙げられる。なお、極細繊維発生型繊維の短繊維不織布は、乾熱または湿熱、あるいはその両者によって収縮させ、さらに高密度化させると表面品位や形態安定性に優れる点で好ましい。
【0073】
このようにして得られた不織布は次いで、本発明の不織布積層用織編物と積層する。その手段としては、接着や絡合等で行うことができるが、柔軟性の点では絡合による積層が好ましい。絡合により積層する場合、例えば、ニードルパンチ処理や高速流体処理等で行うことができ、特に本発明の織編物を損傷させずに積層できる高速流体処理が好ましい。
【0074】
高速流体処理としては、作業環境の点でウォータージェットパンチ処理が好ましい。このとき、水流は、柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流は、通常、流体噴射孔の直径0.06〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで噴出させることで得られる。かかる処理は、効率的な絡合性と良好な表面品位を得るために、ノズル(流体噴射孔)の直径は0.06〜0.15mm、ノズル間隔は5mm以下であることが好ましく、直径0.06〜0.12mm、ノズル間隔は1mm以下がより好ましい。これらのノズルスペックは、複数回処理する場合、すべて同じ条件にする必要はなく、例えば大孔径と小孔径のノズルを併用することも可能であるが、少なくとも1回は上記構成のノズルを使用することが好ましい。
【0075】
また、厚さ方向に均一な交絡を達成する目的および/または不織布表面の平滑性を向上させる目的で、好ましくは、多数回繰り返して高速流体処理する。また、その水流圧力は、処理する不織布の目付によって適宜に決定し、高い目付のものほど高圧力とすることが好ましい。
【0076】
さらに、極細繊維同士を高度に絡合させる目的で、少なくとも1回は10MPa以上の圧力で処理することが好ましく、少なくとも1回は15MPa以上の圧力で処理することがより好ましい。また、上限は、特に限定されないが、圧力が上昇するほどコストが高くなり、また低目付であると不織布が不均一となったり、繊維の切断により毛羽が発生したりする場合もあるため、好ましくは40MPa以下であり、より好ましくは30MPa以下である。
【0077】
このようにして、本発明の不織布積層用織編物と不織布を積層することにより、本発明の複合不織布を製造することができる。本発明の複合不織布は、ストレッチ性、柔軟性があり、また表面品位が優れ、つっぱり感がないことから、皮革様シート、貼布材、衣料、家具、カーペット、フィルター、内装材、クッション材、ワイパー、研磨布等に使用することができる。特に、皮革様シートは本発明の複合シートの適用用途として好ましいものである。
【0078】
本発明の皮革様シート状物が高分子弾性体を含むものである場合、高分子弾性体を溶液又は分散液の状態で含浸する。作業環境に優れる点では、特に水に分散された水分散液の状態で含浸することが好ましい。水分散型高分子弾性体の分散液には、感熱ゲル化剤、架橋剤、安定剤、浸透剤等を添加しもよい。
【0079】
水分散型高分子弾性体の分散液を含浸した後、当該分散液を含んだ不織布を、乾熱、温水、熱水、常圧または高圧スチーム、マイクロ波等で加熱して、ゲル化(固化)処理する。例えばスチームにより加熱する装置としては、常圧スチーマー、高温スチーマー等が挙げられる。スチームとマイクロ波を併用できる装置を用いると、高いマイグレーション防止効果が得られるので好ましい。
【0080】
また、用途に応じて、銀付き調の表面を得るために、表面にさらに高分子弾性体からなる表層部分をコーティングや積層等によって形成させてもよい。
一法、立毛調の表面に仕上げるためには、サンドペーパー等によるバフィング処理を行うなど、適宜の方法等を採用することができる。
本発明の皮革様シート状物においては、液流染色機によって染色することが好ましい。また、染色後には、柔軟加工の他、撥水加工、抗菌加工、抗ピル加工、あるいは高発色加工等各種機能加工を行うことができる。
【0081】
このようにして得られる本発明の皮革様シート状物は、つっぱり感がなく、柔軟性に富み、ストレッチ性、成型性、表面品位に優れることから、衣料やカーシート、雑貨、あるいは資材等の幅広い用途に使用することができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。なお、実施例中の各物性値の測定方法は、以下の方法を用いた。
【0083】
また、以下に説明する参考例1〜3は、それぞれ実施例で用いた織物、不織布の製造条件などについて説明したものである。
【0084】
A.固有粘度IV
オルソクロロフェノール(以下、OCPと略記する)10ml中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、固有粘度IVを算出した。
【0085】
ηr=η/η0 =(t×d)/(t0 ×d0)
固有粘度IV=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマー溶液の粘度
η0 :OCPの粘度
t :溶液の落下時間(秒)
d :溶液の密度(g/cm
t0 :OCPの落下時間(秒)
d0 :OCPの密度(g/cm)。
【0086】
B.15%伸長時応力
JIS L 1096(1999)8.12.1 標準時 A法(ラベルストリップ法)において、試験片幅2.5cm、つかみ間隔10cm、100%/分の伸長速度で測定し、15%伸長時の応力を求め、幅1cm当たりの応力とした(N/cm)。
【0087】
C.伸長率
JIS L 1096(1999)8.14.1 A法(定速伸長法)において、つかみ間隔20cmとして測定した。
【0088】
D.伸長回復率
JIS L 1096(1999)8.14.2 A法(繰り返し定速伸長法)により、つかみ間隔20cmとして測定した。
【0089】
E.通気量
フラジール形織物通気度試験機(型式AP−360、株式会社大栄科学精器製作所製)にて、JIS L 1096 8.27.1 A法(フラジール法)(1999)により測定した。
【0090】
F.沸水収縮率
JIS L 1096(1999) 8.64.4 B法(沸騰水浸せき法)により測定した。
【0091】
G.柔軟性
B項と同様にして、10%伸長時の応力を測定し(N/cm)その指標とした。値が小さいほど柔軟性に優れる。
【0092】
H.表面品位
30cm試験片を用意し、10人のパネラーに表面を触らせて凹凸感を相対評価した。評価は4段階(◎:凹凸感なし、○:ほとんど凹凸感なし、△:やや凹凸感あり、×:凹凸感あり)で評価した。
【0093】
I.つっぱり感
ジャケットの肘部に当該サンプルを縫い合わせた物を10人のパネラーに着用させ、4段階(◎:つっぱり感が感じられない、○:つっぱり感がほとんど感じられない、△:つっぱり感がやや感じられる、×:つっぱり感があり着心地が悪い)で評価した。
【0094】
参考例1
IVが0.50のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、IVが0.75のポリエチレンテレフタレートからなる高粘度成分とを重量複合比50:50でサイドバイサイドに貼りあわせて紡糸および延伸し、56デシテックス12フィラメントの複合繊維を得た。これを1500T/mで追撚して、65℃でスチームセットを行った。この糸を用い、経糸密度95本/2.54cm、緯糸密度85本/2.54cmの2/2斜文組織の織物(A)を製造した。
【0095】
参考例2
経糸密度94本/2.54cm、緯糸密度65本/2.54cmの平織物とした以外は参考例1と同様にして、織物(B)を製造した。
【0096】
参考例3
海成分としてポリスチレン45部、島成分としてポリエチレンテレフタレート55部からなる単繊維繊度3デシテックス、36島、繊維長51mmの海島型短繊維を用い、カード、クロスラッパーを通してウェブを作製した。次いで、1バーブ型のニードルパンチマシンにて1500本/cmの打ち込み密度で処理し、繊維見掛け密度0.21g/cm の短繊維不織布を得た。次に、約95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール(PVA)12%の水溶液に固形分換算で不織布重量に対し25%の付着量になるように浸積し、PVAの含浸と同時に2分間収縮処理を行い、100℃にて乾燥して水分を除去した。
【0097】
得られたシートを約30℃のトリクレンでポリスチレンを完全に除去するまで処理し、単繊維繊度約0.046デシテックスの極細繊維を得た。次いで、室田製作所(株)製の標準型漉割機を用いて、厚み方向に対して垂直方向に2枚に分割裁断をするスプリット処理をし、繊維換算目付90g/mの不織布を得た。
【0098】
参考例4
0.1デシテックスのポリエチレンテレフタレート繊維を長さ0.5cmにカットし、抄造法により繊維換算目付31g/mの抄造ウェブを得た。
【0099】
実施例1
参考例1で得られた織物を、連続拡布式リラクサーにて95℃で処理した後、さらに液流染色機にて110℃で処理し、ついで3%のオーバーフィード率で180℃の中間セットを行って、経糸密度136本/2.54cm、緯糸密度105本/2.54cm、目付75.5g/mの不織布積層用織物を得た。得られた織物の断面をSEM観察した結果、織物を構成する繊維がマルチフィラメントの状態で螺旋構造を形成し、その中央部が中空構造を形成していることが確認できた。この不織布積層用織物の評価結果を表1に示した。
【0100】
実施例2
参考例1で得られた織物を、連続拡布式リラクサーにて95℃で処理した後、さらに液流染色機にて130℃で処理し、ついでピンテンターにて3%のオーバーフィード率で180℃の中間セットを行って、経糸密度158本/2.54cm、緯糸密度110本/2.54cm、目付89.1g/mの不織布積層用織物を得た。得られた織物の断面をSEM観察した結果、実施例1と同様に織物を構成する繊維がマルチフィラメントの状態で螺旋構造を形成し、その中央部が中空構造を形成していることが確認できた。この不織布積層用織物の評価結果を表1に示した。
【0101】
実施例3
参考例2で得られた織物を、実施例1と同様に処理して、経糸密度113本/2.54cm、緯糸密度82本/2.54cm、目付53.6g/mの不織布積層用織物を得た。得られた織物の断面をSEM観察した結果、実施例1と同様に織物を構成する繊維がマルチフィラメントの状態で螺旋構造を形成し、その中央部が中空構造を形成していることが確認できた。この不織布積層用織物の評価結果を表1に示した。
【0102】
実施例4
参考例1で得られた編物を、140℃で中間セットを行った以外は実施例1と同様に処理して、経糸密度132本/2.54cm、緯糸密度100本/2.54cm、目付72.8g/mの不織布積層用織物を得た。得られた織物の断面をSEM観察した結果、実施例1と同様に織物を構成する繊維がマルチフィラメントの状態で螺旋構造を形成し、その中央部が中空構造を形成していることが確認できた。この不織布積層用織物の評価結果を表1に示した。
【0103】
比較例1
参考例1で得られた織物を、連続拡布式リラクサーにて95℃で処理し、ついでピンテンターにて3%のオーバーフィード率で130℃の中間セットを行って、経糸密度131本/2.54cm、緯糸密度93本/2.54cm、目付64.7g/mの不織布積層用織物を得た。得られた織物の断面をSEM観察した結果、織物を構成する繊維の一部が実施例1〜4より少ない頻度でマルチフィラメントの状態で螺旋構造を形成していたが、中空部分を観察することはできなかった。この不織布用織物の評価結果を表1に示した。
【0104】
比較例2
連続拡布式リラクサーの温度を70℃とし、液流染色機の温度を85℃とした以外は実施例1と同様にして、経糸密度105本/2.54cm、緯糸密度99本/2.54cm、目付55.6g/mの不織布積層用織物を得た。得られた織物の断面をSEM観察した結果、織物を構成する繊維の一部が実施例1〜4より少なく、比較例1より多い頻度でマルチフィラメントの状態で螺旋構造を形成していたが、中空部分を観察することはできなかった。この不織布用織物の評価結果を表1に示した。
【0105】
【表1】

【0106】
実施例5〜8
実施例1〜4で得た不織布用織物と参考例4で得られた抄造ウェブを重ねて、抄造ウェブ側から0.1mmの孔径で、0.6mm間隔のノズルヘッドを有するウォータージェットパンチ機にて、処理速度6m/分、圧力9MPaにてウォータージェットパンチ処理を行った。ついで、参考例3で得られた不織布を織物側に重ね、当該不織布側から、処理速度1m/分、圧力10MPaおよび20MPaでウォータージェットパンチ処理を行い、さらに裏側から同様の処理を行い、複合不織布を得た。
【0107】
このようにして得られた複合不織布の表面を、サンドペーパーにて起毛処理をした。さらに、該積層シートを液流染色機にて“Sumikaron Blue S−BBL200”(住化ケムテックス(株)製)を用い20%owfの濃度で、120℃、45分、液流染色機にて染色した。得られたシートを、柔軟剤(アミノ変性シリコーンエマルジョン“アルダックAN980SF”一方社株式会社製)と微粒子(コロイダルシリカ “スノーテックス20L”日産化学工業株式会社製)を含む水溶液に浸積し、コロイダルシリカの含有量が0.1%となるように絞った後、ブラッシングしながら100℃で乾燥させた。
【0108】
このようにして得られた皮革様シート状物は、ストレッチ性や柔軟性に優れると共に表面品位に優れ、つっぱり感がなく、適度な反発感と充実感のある風合いであった。実施例2で得られた織物を用いた皮革様シート状物(実施例6)は、実施例1で得られた織物を用いた皮革様シート状物(実施例5)と比較してストレッチ性はほぼ同等であったが、柔軟性やつっぱり感のなさに優れていた。また沸水収縮率に着目すると、沸水収縮率の小さい実施例1の織物から得られた皮革様シート状物(実施例5)は、沸水収縮率の大きい実施例4の織物から得られた皮革様シート状物(実施例8)より表面品位に優れていた。得られた皮革様シートの評価結果を表2に示した。
【0109】
実施例9
実施例5と同様に作成した複合不織布にエマルジョンポリウレタン(日華化学(株)製“エバファノールAPC−55”)とマイグレーション防止剤(日華化学(株)製“ネオステッカーN”)および水で調整した分散液を用いて、ポリウレタンの固形分が2重量%となるように含浸し、140℃、5分で熱処理した。
【0110】
ついで、実施例5と同様に、起毛処理、染色を行って、柔軟剤およびコロイダルシリカ処理を行った。得られた皮革様シート状物は、実施例5と比較して伸長率や柔軟性がやや低下した。得られた結果を表2に示した。
【0111】
比較例3、4
比較例1、2で得られた不織布積層用織物を用いた以外は実施例5と同様にして皮革様シート状物を得た。比較例1で得られた織物を用いた皮革様シート状物(比較例3)は、染色により収縮が起こり、表面に凹凸が形成した結果、表面品位に非常に劣るものであった。また、比較例2で得られた織物を用いた皮革様シート状物(比較例4)は、実施例5と同様に表面品位に優れるものであったが、つっぱり感が許容範囲を超えるとの評価結果が得られ、また風合いも堅かった。この結果を表2に示した。
【0112】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タテ方向又はヨコ方向の少なくとも一方の15%伸長時応力が0.1〜5.0N/cmであることを特徴とする不織布積層用織編物。
【請求項2】
織編物を構成する繊維が、主として、2種類以上のポリエステル系重合体が繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わされた複合繊維、あるいは、2種類以上のポリエステル系重合体が偏心した芯鞘構造を形成している偏心芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項1に記載の不織布積層用織編物。
【請求項3】
ポリエステル系重合体が、ポリエチレンテレフタレートまたはその共重合体であることを特徴とする、請求項2に記載の不織布積層用織編物。
【請求項4】
織編物を構成する繊維がマルチフィラメントであって、該マルチフィラメントが螺旋形状となっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の不織布積層用織編物。
【請求項5】
織編物の通気量が60cc/cm/sec以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の不織布積層用織編物。
【請求項6】
沸水収縮率がタテ方向、ヨコ方向共に10%未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の不織布積層用織編物。
【請求項7】
織密度が経、緯のいずれも50〜200本/2.54cmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の不織布積層用織編物。
【請求項8】
目付が50〜100g/mであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の不織布積層用織編物。
【請求項9】
皮革様シート状物に用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の不織布積層用織編物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の不織布積層用織編物と、繊維長が10〜70mmの繊維からなる不織布が積層されてなることを特徴とする複合不織布。
【請求項11】
不織布が0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維から構成されることを特徴とする請求項10に記載の複合不織布。
【請求項12】
請求項10または11に記載の複合不織布からなる皮革様シート状物。
【請求項13】
実質的に繊維素材からなることを特徴とする請求項12に記載の皮革様シート状物。
【請求項14】
高分子弾性体が10重量%未満含まれてなることを特徴とする請求項12に記載の皮革様シート状物。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の織編物を製造する方法であって、以下の工程をこの順に行うことを特徴とする不織布積層用織編物の製造方法。
A.主として、2種類以上のポリエステル系重合体が繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わされた複合繊維、あるいは、2種類以上のポリエステル系重合体が偏心した芯鞘構造を形成している偏心芯鞘型複合繊維を用いて織編物を製造する工程。
B.織編物を連続拡布状に収縮させ、ついで、バッチ式で揉みながらさらに収縮させることによりリラックス処理する工程。
C.中間セットを行う工程。
【請求項16】
連続拡布状の収縮を80〜105℃で行うことを特徴とする請求項15に記載の不織布積層用織編物の製造方法。
【請求項17】
前記バッチ式の揉みながら行う収縮を液流染色機で行うことを特徴とする請求項15に記載の不織布積層用織編物の製造方法。
【請求項18】
前記バッチ式の揉みながら行う収縮を100〜140℃で行うことを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の不織布積層用織編物の製造方法。
【請求項19】
中間セットを140〜190℃で行うことを特徴とする請求項15〜18のいずれかに記載の不織布積層用織編物の製造方法。
【請求項20】
中間セットのオーバーフィード率を1〜15%とすることを特徴とする請求項15〜19のいずれかに記載の不織布積層用織編物の製造方法。

【公開番号】特開2007−197890(P2007−197890A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339514(P2006−339514)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】