説明

不織布組成物およびスパンボンド不織布

【課題】柔軟性および追従性を備え、風合いおよび外観が良好なスパンボンド不織布を与える不織布組成物、および、この不織布組成物から形成されたスパンボンド不織布を提供する。
【解決手段】密度が0.90g/cm以上0.92g/cm未満の直鎖状低密度ポリエチレン(A)と、密度が0.92g/cm以上0.95g/cm未満の直鎖状低密度ポリエチレン(B)と、を含み、直鎖状低密度ポリエチレン(A)および直鎖状低密度ポリエチレン(B)のメルトインデックスは、10g/10分以上100g/10分以下であることを特徴とする不織布組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布組成物、スパンボンド不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布を製造する方法として、例えば、不織布組成物を紡糸して得た繊維を多数重ね合わせてウェブを形成し、このウェブを熱ロールで熱溶着(ボンディング)するというスパンボンド法が知られている。
スパンボンド法は、1ラインにて一貫生産することが可能であり、生産性が高いことから、一般に広く行われている方法である。
ここで、紡糸される不織布組成物としては、ポリプロピレン樹脂など種々のものが挙げられる。
【0003】
このような不織布は、例えば、マスクの素材などとして利用されている。
マスクの素材として用いる不織布には、例えば、柔軟性、肌への追従性、良好な風合いおよび外観が求められる。
例えば、柔軟性としては、伸張時の応力が小さいこと、肌への追従性としては、伸張時の残留歪が小さいことが求められる。また、例えば、目付けが一定の範囲内であると風合いが良く、繊維の分布が均一であると外観が良好になる。
【0004】
しかし、ポリプロピレン樹脂などからスパンボンド法により形成した一般的なスパンボンド不織布は、高い強度ゆえに残留歪が大きい。このため、特にマスクの素材として使用するには、柔軟性、肌への追従性が不足するおそれがある。
【0005】
これに対し、目付けを少なくすることにより、柔軟性を向上することが可能であるが、残留歪の大きさを解消することはできない。また、目付けを少なくすると不織布が薄くなるので、外観および風合いが損なわれるおそれがある。
スパンボンド不織布とメルトブロー不織布の積層不織布は、目付けが少なく、かつ、外観および風合いの良好な不織布であるが、残留歪が大きい点は一般的なスパンボンド不織布と同様であり、肌への追従性が良くない。
【0006】
そこで、柔軟性と風合いに優れた不織布を与える不織布用組成物として、エチレン−α−オレフィン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE:Linear Low Density PolyEthylene)が提案されている。
例えば、特許文献1には、特定の密度およびメルトインデックスを備えたLLDPEを含む不織布用組成物、および、この不織布組成物から形成され、残留歪が小さく、高い柔軟性および良好な風合いを備えたスパンボンド不織布が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−055872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の不織布用組成物にスパンボンド法を適用した場合、繊維の分散性が不足するため、外観の良好なスパンボンド不織布を得られないおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、上述のような問題などを解決し、柔軟性および追従性を備え、風合いおよび外観が良好な不織布を与える不織布組成物、および、この不織布組成物から形成されたスパンボンド不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の不織布組成物は、密度が0.90g/cm以上0.92g/cm未満の直鎖状低密度ポリエチレン(A)と、密度が0.92g/cm以上0.95g/cm未満の直鎖状低密度ポリエチレン(B)と、を含み、前記直鎖状低密度ポリエチレン(A)および前記直鎖状低密度ポリエチレン(B)のメルトインデックスは、10g/10分以上100g/10分以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、不織布組成物は、所定の密度を有する直鎖状低密度ポリエチレン(A)と、これより高い所定の密度を有する直鎖状低密度ポリエチレン(B)と、を含む。(以下、直鎖状低密度ポリエチレン(A)をLLDPE(A)とし、直鎖状低密度ポリエチレン(B)をLLDPE(B)とする。)
このような不織布組成物によれば、高い柔軟性を持ち、肌への追従性があり、風合いが良好で、かつ外観が良好な不織布を得ることができる。このような不織布は、例えば、マスクの素材として好適に用いることができ、特に耳に当たる部分に使用することが好適である。
また、LLDPE(A)およびLLDPE(B)のメルトインデックスが、10g/10分以上100g/10分以下であるので、不織布組成物の紡糸性を確保することができる。
【0012】
ここで、LLDPE(A)の密度が0.90g/cm未満だと、不織布製造時の繊維の分散性が低く分布が不均一となるので、得られる不織布の外観が損なわれるおそれがある。LLDPE(A)の密度が0.92g/cm以上だと、得られる不織布の柔軟性が低下するおそれがある。
LLDPE(B)の密度が0.92g/cm未満だと、LLDPE(A)と混合した際に、繊維の分散性を向上する効果が得られず、不織布の外観を向上することができない。LLDPE(B)の密度が0.95g/cm以上だと、得られる不織布の柔軟性が極端に低下するおそれがある。
【0013】
本発明において、前記直鎖状低密度ポリエチレン(A)および前記直鎖状低密度ポリエチレン(B)の合計に対する前記直鎖状低密度ポリエチレン(A)の含有量は、30質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、不織布組成物から、高い柔軟性を持ち、肌への追従性があり、風合いが良好で、かつ外観が良好な不織布を得ることができる。このような不織布は、例えば、マスクの素材として好適に用いることができ、特に耳に当たる部分に使用することが好適である。
ここで、LLDPE(A)の含有量が30質量%未満だと、得られる不織布の柔軟性が低下するおそれがある。LLDPE(A)の含有量が95質量%を超えると、繊維の分散性を向上する効果が得られず、不織布の外観を向上することができない。
【0015】
本発明において、不織布組成物は、ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。
このような構成によれば、不織布組成物にポリプロピレン(PP:PolyPropylene)系樹脂を配合することで、得られる不織布に様々な機能を付与することができる。
例えば、不織布組成物にメルトインデックスの大きいPP系樹脂を配合することで、不織布製造時に、不織布がエンボスロールに巻き付くことを防止することができる。
【0016】
本発明のスパンボンド不織布は、上述の不織布組成物を紡糸し、熱接着してなることを特徴とする。
本発明によれば、スパンボンド不織布は、上述の不織布組成物によって構成されるので、柔軟性および肌への追従性が高く、風合いおよび外観が良好である。
また、本発明のスパンボンド不織布は、スパンボンド法により形成されるので、紡糸、延伸、開繊、捕集、熱接着の各工程を一貫して行うことができ、メルトブロー法、カード法などの他の製造方法と比べ、長繊維の不織布を効率的に得ることができる。
【0017】
本発明において、スパンボンド不織布は、20%伸張時の引張応力が1N/5cm以上6N/5cm以下であり、かつ、100%伸張後の残留歪が70%以下であることが好ましい。
【0018】
このような構成によれば、スパンボンド不織布が、十分な柔軟性と肌への追従性を備えたものとなる。
すなわち、スパンボンド不織布の20%伸張時の引張応力が1N/5cm以上6N/5cm以下であれば、適度な柔軟性が確保され、100%伸張後の残留歪が70%以下であれば、肌への追従性が確保される。
ここで、20%伸張時の引張応力が1N/5cm未満であると、強度が低いため、スパンボンド不織布が破断しやすい。20%伸張時の引張応力が6N/5cmを超えると、柔軟性が不足するので好ましくない。
【0019】
本発明において、スパンボンド不織布は、目付け標準偏差σおよび目付け平均μに基づいて下記式(1)により算出した目付け変動係数CVが、10%以下であることが好ましい。
CV=(σ/μ)×100 …(1)
【0020】
このような構成によれば、スパンボンド不織布における繊維の分布が均一で、スパンボンド不織布の外観が良好である。
【0021】
本発明において、スパンボンド不織布は、マスクの素材として用いられることが好ましい。
上述のように、高い柔軟性を持ち、肌への追従性があり、風合いが良好で、かつ外観が良好な不織布は、マスクの素材として好適に用いることができ、特に耳に当たる部分に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
[不織布組成物]
本実施形態の不織布組成物は、密度が0.90g/cm以上0.92g/cm未満のLLDPE(A)と、密度が0.92g/cm以上0.95g/cm未満のLLDPE(B)と、を含む。
【0024】
LLDPEは、特に制限されないが、エチレンと炭素数4〜18のα−オレフィンとの共重合体が好ましい。
直鎖状低密度ポリエチレンにおいて、共重合体のコモノマーとして通常用いられる炭素数4〜18のα−オレフィンとしては、例えば、ブテン−1;ペンテン−1;ヘキセン−1;オクテン−1;ノネン−1;デセン−1;ドデセン−1などの直鎖状α−オレフィン、3−メチルブテン−1;4−メチルペンテン−1などの分岐状α−オレフィンが挙げられるが、これらの中で、特に炭素数4〜10の直鎖状α−オレフィンが好ましい。
これらのα−オレフィンは単独で用いてもよく、二種以上を組合わせて用いてもよい。また、少量のジエン成分、例えばジシクロペンタジエン;エチルデンノルボルネン;1,4−ヘキサジエン;1,9−デカジエン;ビニルノルボルネンなどを併用してもよい。
【0025】
LLDPE(A)は、シングルサイト触媒から製造された炭素数6のエチレン・1−ヘキセン共重合体であることが好ましく、LLDPE(B)は、マルチサイト触媒から製造された炭素数4のエチレン・1−ブテン共重合体であることが好ましい。この場合、特に柔軟性が高く、肌への追従性、風合いおよび外観に優れた不織布を得ることができる。
なお、エチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィン単位の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0026】
ここで、LLDPE(A)の密度が0.90g/cm以上なので、不織布製造時の繊維の分散性が高く、分布が均一で外観の良好な不織布が得られる。また、LLDPE(A)の密度が0.92g/cm未満なので、柔軟性の高い不織布が得られる。
なお、LLDPE(A)の密度は、好ましくは0.902g/cm以上0.918g/cm未満である。
LLDPE(B)の密度が0.92g/cm以上なので、不織布組成物を紡糸した際の繊維の分散性が高く、分布が均一で外観の良好な不織布が得られる。また、LLDPE(B)の密度が0.95g/cm未満なので、得られる不織布の柔軟性が損なわれない。
なお、LLDPE(B)の密度は、好ましくは0.922g/cm以上0.950g/cm未満である。
【0027】
LLDPE(A)およびLLDPE(B)のメルトインデックスは、10g/10分以上100g/10分以下である。これにより、不織布組成物の紡糸性を確保することができる。
なお、LLDPE(A)およびLLDPE(B)のメルトインデックスは、好ましくは12g/10分以上90g/10分以下である。
【0028】
LLDPE(A)およびLLDPE(B)の合計に対するLLDPE(A)の含有量は、30質量%以上95質量%以下である。
LLDPE(A)の含有量が30質量%以上なので、柔軟性の高い不織布を得ることができる。また、LLDPE(A)の含有量が95質量%以下なので、不織布組成物を紡糸した際の繊維の分散性が高く、分布が均一で外観の良好な不織布が得られる。
なお、LLDPE(A)の含有量は、好ましくは40質量%以上95質量%以下である。
【0029】
また、本実施形態の不織布組成物は、PP系樹脂を含む。
PP系樹脂としては、ランダムPPやホモPPなどを目的に応じて、適宜選択でき、密度やメルトインデックスなども特に制限はないが、メルトインデックスが30g/10分以上90g/10分以下のホモPPが好ましい。メルトインデックスが30g/10分以上であれば、不織布製造時に、不織布がエンボスロールに巻き付くことを防止することができる。メルトインデックスが90g/10分を超えると、糸切れが発生するおそれがあり好ましくない。
また、PP樹脂(ホモPPが一般的)のカラーマスターバッチを使用してもよい。この場合、不織布の着色とポリプロピレン系樹脂添加を同時に実施できる。
【0030】
[スパンボンド不織布]
本実施形態のスパンボンド不織布は、上述の不織布組成物を紡糸し、熱接着して形成される。
【0031】
スパンボンド法による紡糸、延伸、開繊の工程では、エアサッカー方式と密閉導風路方式(ライコフィルモデル)が、一般的である。
しかし、LLDPEは、PP系樹脂に比べ、延伸の際の糸切れ(断糸)が発生しやすいため、圧縮空気を用い、狭いスリット状のエジェクターで糸を飛ばすエアサッカー方式には不向きである。そのため、密閉された導風路の幅を徐々に狭くしていく密閉導風路方式(ライコフィルモデル)を用いることが好ましい。
【0032】
本実施形態におけるスパンボンド不織布11は、例えば、図1に示されるような製造装置5により簡便に製造することができる。
この製造装置5は、紡糸工程と、延伸工程と、開繊工程と、捕集工程を実施するが、具体的にはホッパ40と、押出機41と、ダイ42と、紡糸牽引機43と、コンベア44と、巻き取りロール50と、ボンディング装置6と、を備えて構成される。
【0033】
ホッパ40は、前述したスパンボンド不織布11の原料を入れる開口部を有する。ここから、押出機41へ原料を注入する。押出機41は、例えば直径45mmの短軸押し出し機である。ダイ42は、スパンボンド法を行うための公知のダイを用いることができ、その大きさ、形状は、目的に応じて適宜変更できる。
【0034】
ここで、図2は、図1に示した製造装置5における紡糸牽引機43の詳細を示している。この紡糸牽引機43は、紡糸工程と、延伸工程と、開繊工程とを実施するが、紡糸工程を実施する紡糸口金430、冷却塔431と、延伸工程を実施するフィラメント牽引部432と、開繊工程を実施する開繊部433と、を備えている。
【0035】
紡糸口金430は、供給された原料を複数の糸状にするものである。なお、図示しないが、糸状にするために、紡糸口金430には、冷却塔431側に向いた複数のノズルが設けられており、この複数のノズルを原料が通ることにより、糸条が形成される。
【0036】
冷却塔431は、紡糸した原料を冷やす機能を持つものである。フィラメント牽引部432は、紡糸牽引機43の絞り込まれた円筒状の部分のくびれた部分に設けられ、紡糸した原料を高速で牽引して細化、つまり、延伸する機能を持つ。開繊部433は、円筒状のくびれた部分のくびれが広がった部分に設けられ、開繊部433で冷却空気による乱流で糸条を均一に開繊させる。
【0037】
図1に戻って、製造装置5を構成するコンベア44は、ロール441、442と、吸引機443と、ベルト444とを備えて構成される。コンベア44は、捕集工程を実施する。ロール441、442は、金属製、ゴム製等任意の部材より構成される。また、ベルト444も、金属製、ゴム製等任意の部材より構成される。ベルト444は、ロール441、442に巻装されている。
【0038】
また、図示しないが、ロール441、442の少なくともどちらか1つには、モータ等の駆動手段が取り付けられ、回転できるようにもなっている。吸引機443は、開繊工程までを経て、空気を吸引することにより、糸状になった原料をコンベア44に導くために、巻装されたベルト444の内部に設けられている。こうして捕集された糸状の原料は、スパンボンド不織布11となるウェブ11Aを形成する。
【0039】
ボンディング装置6は、エンボスロール60と、フラットロール61とを備えて構成される。糸状になった原料が捕集されてできたウェブ11Aは、エンボスロール60とフラットロール61の間に挿通されている。エンボスロール60は、ウェブ11Aの表面に、フラットロール61は、ウェブ11Aの裏面にくるように配置されている。エンボスロール60は、金属製であり、ロール表面に所定の間隔、深さ、模様でエンボスパターンが形成されている。エンボスロール60の内部には、温度調整可能な電熱ヒータまたはオイル温調機が組み込まれ、温度コントロールされている。
【0040】
フラットロール61は、金属製であり、ロール表面は平滑になっている。フラットロール61の内部には、温度調整可能な電熱ヒータまたはオイル温調機が組み込まれている。また、これらエンボスロール60、フラットロール61の少なくともどちらか1つには、図示しないが、モータ等の駆動手段が取り付けられており、回転自在になっている。
【0041】
巻き取りロール50は、ボンディング装置6によりウェブ11Aが熱接着されてできたスパンボンド不織布11を巻き取る。この巻き取りロール50は、任意の部材よりなり、目的に応じて適宜、大きさ等を変更できる。
【0042】
以下、図1の製造装置5を用いた、スパンボンド法によるスパンボンド不織布11の製造方法の一例を説明する。
1)まず、原料として上述の不織布組成物をホッパ40に入れ、押出機41に原料を注入する。押出機41を動作させ、ダイ42を通して、原料を紡糸牽引機43へ投入する。
2)冷却塔431により、原料が紡糸される(紡糸工程)。
3)フィラメント牽引部432により、紡糸した原料を高速で牽引して細化、つまり、延伸が実施される(延伸工程)。
4)延伸工程後、開繊部433にて開繊させる(開繊工程)。
5)開繊された原料は、コンベア44上に捕集され、スパンボンド不織布11となるウェブ11Aとなる(捕集工程)。
6)ウェブ11Aが、ボンディング装置6内のエンボスロール60とフラットロール61の間を挿通される。
7)エンボスロール60とフラットロール61内部の電熱ヒータを作動させ、加熱、加圧しながら、ウェブ11Aを熱接着する。そして、熱接着が完了したスパンボンド不織布11は、巻き取りロール50に巻かれることになる(ボンディング工程)。
【0043】
なお、スパンボンド不織布を製造する際には、必要に応じて、適宜、繊維や不織布に通常用いられる酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、耐電防止剤、耐候剤などを添加してもよい。
【0044】
また、柔軟性の高いスパンボンド不織布を効率良く得るため、紡糸した繊維の熱接着は、全面接着ではなく、エンボスロールにて部分的に熱接着することが好ましい。
ここで、エンボスの面積の比率は、一般的に3%以上40%以下が好ましく、5%以上30%以下がより好ましい。
エンボスの面積の比率が3%未満であると、接着面積が不足し、不織布の強度が低下するおそれがある。エンボスの面積の比率が40%を超えると、不織布の柔軟性が低下するおそれがある。
【0045】
スパンボンド不織布の繊維径は、10μm以上35μm以下であることが好ましく、15μm以上30μm以下であることがより好ましい。
繊維径が10μm未満では、不織布の十分な強度が得られないおそれがある。繊維径が35μmを超えると、繊維が太くなるので、得られる不織布の外観が損なわれるおそれがある。
【0046】
このようにして得られるスパンボンド不織布は、20%伸張時の引張応力が1N/5cm以上6N/5cm以下、100%伸張後の残留歪が70%以下となる。
スパンボンド不織布は、20%伸張時の引張応力が1N/5cm以上なので、強度が十分でスパンボンド不織布が破断しにくい。20%伸張時の引張応力が6N/5cm以下なので、スパンボンド不織布の柔軟性が高い。また、100%伸張後の残留歪が70%以下なので、肌への追従性が確保される。
【0047】
また、スパンボンド不織布は、目付け標準偏差σおよび目付け平均μに基づいて下記式(1)により算出した目付け変動係数CVが、10%以下である。
CV=(σ/μ)×100 …(1)
したがって、スパンボンド不織布における繊維の分布が均一で、スパンボンド不織布の外観が良好である。
【0048】
このようなスパンボンド不織布は、例えば、図3に示すようなマスク7の素材として好適に用いることができる。
マスク7は、使用者の口および鼻を覆うマスク本体部72と、マスク本体部の両端部に設けられ使用者の耳にかけられる耳掛け部71と、を備える。
本実施形態のスパンボンド不織布は、高い柔軟性および追従性ゆえに、特に、耳掛け部71に好適に用いることができる。
なお、耳掛け部71およびマスク本体部72は、別個に形成されたものを接着等の手段で固定したものであっても、一体的に形成されたものであってもよい。また、耳掛け部71およびマスク本体部72のいずれかのみならず、双方を本実施形態のスパンボンド不織布で形成してもよい。
【0049】
[実施形態の効果]
前記した実施形態によれば、次のような効果を奏することができる。
【0050】
本実施形態の不織布組成物は、所定の密度を有するLLDPE(A)と、これより高い所定の密度を有するLLDPE(B)と、を含むので、高い柔軟性を持ち、肌への追従性があり、風合いが良好で、かつ外観が良好な不織布を得ることができる。このような不織布は、例えば、マスクの素材として好適に用いることができ、特に耳に当たる部分に使用することが好適である。
また、LLDPE(A)およびLLDPE(B)のメルトインデックスが、10g/10分以上100g/10分以下であるので、不織布組成物の紡糸性を確保することができる。
【0051】
LLDPE(A)およびLLDPE(B)の合計に対するLLDPE(A)の含有量が、30質量%以上95質量%以下なので、不織布組成物から、高い柔軟性を持ち、肌への追従性があり、風合いが良好で、かつ外観が良好な不織布を得ることができる。このような不織布は、例えば、マスクの素材として好適に用いることができ、特に耳に当たる部分に使用することが好適である。
【0052】
本実施形態の不織布組成物は、ポリプロピレン系樹脂を含むので、得られる不織布に様々な機能を付与することができる。
【0053】
本実施形態のスパンボンド不織布は、上述の不織布組成物によって構成されるので、柔軟性および肌への追従性が高く、風合いおよび外観が良好である。
また、本実施形態のスパンボンド不織布は、スパンボンド法により形成されるので、紡糸、延伸、開繊、捕集、熱接着の各工程を一貫して行うことができ、メルトブロー法、カード法などの他の製造方法と比べ、長繊維の不織布を効率的に得ることができる。
【0054】
本実施形態のスパンボンド不織布は、20%伸張時の引張応力が1N/5cm以上6N/5cm以下なので、適度な柔軟性を備え、100%伸張後の残留歪が70%以下なので、肌への追従性に優れる。
【0055】
本実施形態のスパンボンド不織布は、式(1)により算出した目付け変動係数CVが10%以下なので、繊維の分布が均一で、外観が良好である。
【0056】
[変形例]
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは、本発明に含まれるものである。
【0057】
本実施形態において、PP系樹脂を含む不織布組成物を例示したが、これに限定されない。PP系樹脂を含まない構成であっても、上述の実施形態と同様に、高い柔軟性を持ち、肌への追従性があり、風合いが良好で、かつ外観が良好な不織布を得ることができる。
【0058】
本実施形態において、スパンボンド法によって不織布を製造する方法を例示したが、他の方法によって不織布を製造することもできる。この場合であっても、上述の実施形態と同様に、高い柔軟性を持ち、肌への追従性があり、風合いが良好で、かつ外観が良好な不織布を得ることができる。
【0059】
その他、本発明の実施における具体的な構造および形状などは、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などとしてもよい。
【実施例】
【0060】
実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
【0061】
[スパンボンド不織布の製造]
スパンボンド不織布の製造には、図1に示す製造装置5と同様の装置であって、直径45mm単軸押出機と、スパンボンド用ダイと、紡糸索引装置と、プレスロール付きコンベアと、エンボスロールと、巻き取りロールと、を備えるスパンボンド不織布の製造装置を用いた。
ここで、紡糸索引装置は、冷却塔と、フィランメント索引部と、開繊部と、を備えて構成されるライコフィルモデルの装置である。
紡糸索引装置は、孔径は、直径0.4mmのノズルを452本有する。
【0062】
(1)このノズルから、ノズル1本当たりの吐出量を0.42g/分として、不織布組成物を吐出し、0.4m幅のウェブを形成した。ウェブの目付は、30g/mとなるように調整した。
(2)プレスロール付きコンベアでウェブを捕集した後、エンボスロールでウェブを加熱圧着した。エンボスロールは、トクデン(株)社製の誘電発熱ローラ(ロール径 300mm、面積圧着率13%の0.6mm角の格子柄)を用い、エンボス線圧は、30kg/cmとした。
【0063】
[実施例1〜3および比較例1〜3]
下記のLLDPE(A)、LLDPE(B)およびLLDPE(C)を、下記の表1および表2の通りに混合して不織布組成物とし、上述の製造方法により、実施例1〜3および比較例1〜3のスパンボンド不織布を製造した。
【0064】
LLDPE(A):エチレン・1ーヘキセン共重合体(宇部丸善ポリエチレン(株)社製 ユメリット613A、密度0.91g/cm、メルトインデックス30g/10分)
LLDPE(B):エチレン・1ーブテン共重合体((株)プライムポリマー社製 2074G、密度0.94g/cm、メルトインデックス20g/10分)
LLDPE(C):エチレン・1ーオクテン共重合体(ダウ(株)社製 アフィニティSM8400、密度0.87g/cm、メルトインデックス30g/10分)
なお、密度は、JIS K7112に準拠した方法で測定し、メルトインデックスは、JIS K7210に準拠した方法で測定した。
【0065】
[スパンボンド不織布の評価]
[20%伸張時の応力]
JIS L1906に準拠して測定した。試験片の幅は50mm、チャック間隔は100mm、引張り速度は300mm/分である。
[100%伸張時の残留歪]
JIS L1906に準拠した測定器を用いて測定した。試験片の幅は50mm、チャック間隔は100mm。引張り速度は300mm/分である。伸張率100%まで伸張させた後、同じ速度で戻し、応力が0になった時の試験片の伸び率を残留歪とした。
[目付けの変動係数]
5cm×5cmに切り取った不織布サンプル100枚の目付けを測定し、その標準偏差σと平均μから上記式(1)により変動係数CVを算出した。
これらの評価の結果を下記の表1および表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
本発明のスパンボンド不織布である実施例1〜3は、20%伸張時の応力が低く、柔軟性が高い。また、100%伸張後の残留歪が低く、追従性が高い。さらに、目付けの変動係数が低く、外観が良好である。
これに対し、LLDPE(A)のみにより不織布を形成した比較例1では、20%伸張時の応力が低く100%伸張後の残留歪が低いので、柔軟性と追従性には優れるものの、目付けの変動係数が高く、外観が劣る。
LLDPE(B)のみにより不織布を形成した比較例2では、目付けの変動係数が低く外観は良好であるが、20%伸張時の応力が高く100%伸張後の残留歪が高いので、柔軟性、肌への追従性が劣る。
比較例3では、特許文献1に記載の不織布用組成物により不織布を形成した。比較例3では、20%伸張時の応力が低く100%伸張後の残留歪が低いので、柔軟性と追従性には優れるものの、目付けの変動係数が高く、外観が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、柔軟性および追従性を備え、風合いおよび外観が良好で、例えば、特にマスクの素材に好適な不織布を与える不織布組成物、および、この不織布組成物から形成されたスパンボンド不織布として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態のスパンボンド不織布を製造する製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】図1の製造装置を構成する紡糸牽引機を示す概略図である。
【図3】本発明の不織布を素材として用いたマスクの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
5 製造装置
6 ボンディング装置
7 マスク
11 スパンボンド不織布
11A ウェブ
40 ホッパ
41 押出機
42 ダイ
43 紡糸牽引機
44 コンベア
50 巻き取りロール
60 エンボスロール
61 フラットロール
71 耳掛け部
72 マスク本体部
430 紡糸口金
431 冷却塔
432 フィラメント牽引部
433 開繊部
441,442 ロール
443 吸引機
444 ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.90g/cm以上0.92g/cm未満の直鎖状低密度ポリエチレン(A)と、
密度が0.92g/cm以上0.95g/cm未満の直鎖状低密度ポリエチレン(B)と、
を含み、
前記直鎖状低密度ポリエチレン(A)および前記直鎖状低密度ポリエチレン(B)のメルトインデックスは、10g/10分以上100g/10分以下である
ことを特徴とした不織布組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の不織布組成物であって、
前記直鎖状低密度ポリエチレン(A)および前記直鎖状低密度ポリエチレン(B)の合計に対する前記直鎖状低密度ポリエチレン(A)の含有量は、
30質量%以上95質量%以下である
ことを特徴とした不織布組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の不織布組成物であって、
ポリプロピレン系樹脂を含む
ことを特徴とした不織布組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の不織布用組成物を紡糸し、熱接着してなる
ことを特徴とするスパンボンド不織布。
【請求項5】
請求項4に記載のスパンボンド不織布であって、
20%伸張時の引張応力が1N/5cm以上6N/5cm以下であり、
かつ、
100%伸張後の残留歪が70%以下である
ことを特徴としたスパンボンド不織布。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のスパンボンド不織布であって、
目付け標準偏差σおよび目付け平均μに基づいて下記式(1)により算出した目付け変動係数CVが、10%以下である
CV=(σ/μ)×100 …(1)
ことを特徴としたスパンボンド不織布。
【請求項7】
請求項4ないし請求項6のいずれかに記載のスパンボンド不織布であって、
マスクの素材として用いられる
ことを特徴としたスパンボンド不織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−274445(P2008−274445A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113328(P2007−113328)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】