説明

不織布製造用繊維処理剤およびその応用

【課題】 本発明の目的は、不織布製造用繊維に対して、良好な制電性、低起泡性、耐久親水性を付与できる上に、さらに優れた耐久洗濯性を付与できる不織布製造用繊維処理剤、該処理剤を処理して得られるポリエステル短繊維、該短繊維を含有する不織布、該短繊維を用いた不織布の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の不織布製造用繊維処理剤は、平均重合度が500〜3000のポリビニルアルコールおよび/またはその誘導体からなるA成分と、炭素数6〜22のアルキル基を有するジアルキルスルホサクシネート塩であるB成分とを必須成分として含み、処理剤の不揮発分に占める前記A成分の重量割合が10〜90重量%であり、前記B成分の重量割合が10〜90重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布製造用繊維処理剤、ポリエステル短繊維、不織布および不織布の製造方法に関する。詳細には、不織布の製造に用いるポリエステル短繊維に処理する不織布製造用繊維処理剤、該繊維処理剤を処理して得られるポリエステル短繊維、該短繊維を含有する不織布、該短繊維を用いた不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、おしぼりや手拭等の不織布の製造方法として、高圧水流絡合法が用いられており、ポリエステル短繊維(以下、単に短繊維ということがある。)に対してこの方法を適用しようという試みがなされている。そのためには、ポリエステル繊維は一般に疎水性繊維であるため繊維処理剤処理などの方法で親水性を付与する必要がある。
【0003】
親水性を付与する方法としては、短繊維製造工程時において、繊維処理剤により親水性を付与する方法がある。この方法は、短繊維製造時にのみ繊維処理剤を付与すればよく、低コストで生産効率が良いというメリットがある。しかしながら、繊維処理剤が高圧水流絡合処理によって洗い流されてしまい、おしぼりや手拭として使用するために必要な親水性が不足するという問題がある。従って、高圧水流による処理後でも親水性が保持される特性(耐久親水性)を有した処理剤が開発されることが強く望まれている。
【0004】
一方で、ポリエステル短繊維を高圧水流絡合処理する前工程として、ウェブ作製工程が
ある。ウェブ作製工程で、カード通過時に静電気発生量が多いと、ウェブが均一でなくなり、不織布の厚さに斑が生じる。このため、繊維処理剤には、静電気発生の抑制(制電性)および良好なカード通過性が要求され、一般的に界面活性剤を主体にした繊維処理剤が使用される。しかしながら、界面活性剤は起泡する性質が通常あり、高圧水流絡合時において脱落した繊維処理剤による起泡によって、ウェブが乱れ、不織布の厚さに斑が生じ、不織布の品質が低下するという問題がある。
【0005】
ポリエステル繊維に耐久親水性を付与する例として、特許文献1には、ポリエステル共重合体と、アルキルリン酸エステル塩からなる混合物をポリエステル短繊維に付与する例が開示されている。また、起泡性の問題を解決する例として、特許文献2には、二塩基酸とジオールからなるエステル化合物およびアルキルリン酸エステルを含む繊維処理剤をポリエステル繊維に使用する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/098124号
【特許文献2】特開2003−328272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近になって、再利用の考え方から、何度洗濯等しても親水性が保持され(耐久洗濯性)、繰り返し使用できるおしぼりや手拭等の不織布が脚光を浴び始めている。これまで、高圧水流絡合処理後でも一定の親水性が保持される、つまり耐久親水性を有する繊維処理剤は開発されてきているが、そのような処理剤であっても洗濯等で容易に脱落してしまい、耐久洗濯性を満足できるものはなかった。例えば、特許文献1の例では、高圧水流絡合処理後でも一定の親水性は保持されているが、洗濯等で繊維処理剤が容易に脱落してしまい、耐久洗濯性を満足できるものではない。特許文献2の例では、耐久親水性は不十分であり、耐久洗濯性に至ってはほとんど有しない。
【0008】
このように、制電性、低起泡性、高圧水流絡合処理後における耐久親水性を満足した上で、さらに耐久洗濯性を満足する繊維処理剤が見出されていないのが現状であり、これらの物性を満足する繊維処理剤の開発が望まれている。
本発明の目的は、不織布製造用繊維に対して、良好な制電性、低起泡性、耐久親水性を付与できる上に、さらに優れた耐久洗濯性を付与できる不織布製造用繊維処理剤、該処理剤を処理して得られるポリエステル短繊維、該短繊維を含有する不織布、該短繊維を用いた不織布の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、特定のA成分とB成分とを特定量含む不織布製造用繊維処理剤であれば、制電性、低起泡性、耐久親水性を満足する上で、さらに耐久洗濯性が飛躍的に向上することを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の不織布製造用繊維処理剤は、平均重合度が500〜3000のポリビニルアルコールおよび/またはその誘導体からなるA成分と、炭素数6〜22のアルキル基を有するジアルキルスルホサクシネート塩であるB成分とを必須成分として含み、処理剤の不揮発分に占める前記A成分の重量割合が10〜90重量%であり、前記B成分の重量割合が10〜90重量%である。
【0011】
前記ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜98モル%であることが好ましい。
【0012】
本発明の繊維処理剤は、キレート型の配位子を有し、周期表3〜12族に属する金属を含有する有機化合物であるC成分をさらに含むことが好ましい。その際の処理剤の不揮発分に占める前記A成分の重量割合は10〜89重量%であり、前記B成分の重量割合は10〜89重量%であり、前記C成分の重量割合は1〜30重量%であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の繊維処理剤は、炭素数6〜18のアルキル基を有するアルキルホスフェート塩および/または炭素数6〜18のアルキル基を有するポリオキシアルキレンアルキルホスフェート塩からなるD成分をさらに含むことが好ましい。その際の処理剤の不揮発分に占める前記A成分の重量割合は10〜85重量%であり、前記B成分の重量割合は10〜85重量%であり、D成分の重量割合は3〜50重量%であることが好ましい。
【0014】
前記処理剤が水をさらに含む水性液となっており、処理剤全体に占める不揮発分の割合が0.05〜50重量%であることが好ましい。
【0015】
本発明のポリエステル短繊維は、短繊維本体を上記の繊維処理剤で処理して得られるものである。
【0016】
本発明の不織布は、上記のポリエステル短繊維を含有するものである。本発明の不織布の製造方法は、上記のポリエステル短繊維を集積させて繊維ウェブを作製し、該繊維ウェブを高圧水流絡合法で処理する工程を含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の不織布製造用繊維処理剤は、不織布製造用繊維に対して、良好な制電性、低起泡性、耐久親水性を付与できる上に、さらに優れた耐久洗濯性を付与できる。
本発明のポリエステル短繊維は、ポリエステル短繊維本体を本発明の不織布製造用繊維処理剤で処理して得られるので、良好な制電性、低起泡性、耐久親水性を有する上に、さらに優れた耐久洗濯性を有する。
本発明の不織布は、このポリエステル短繊維を含有するので、良好な耐久親水性を有する上に、さらに優れた耐久洗濯性を有する。本発明の不織布の製造方法は、このような不織布を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の不織布製造用繊維処理剤(以下、繊維処理剤ということがある)は、特定のA成分とB成分とを特定量含むものである。以下、詳細に説明する。
【0019】
[A成分]
A成分は、平均重合度が500〜3000であるポリビニルアルコール(以下ポリビニルアルコールをPVAと略すことがある)および/またはその誘導体である。A成分は、後述のB成分と併用されることによって、耐久洗濯性を飛躍的に向上させることができる。また、不織布製造用繊維に対して、良好な制電性、低起泡性、耐久親水性を付与できる。A成分単独では、これらの効果、特に耐久洗濯性の効果は発揮されない。
【0020】
PVAは、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、下記一般式(1)で表される。また、本発明のPVAは、完全鹸化PVA(鹸化度100モル%)、準完全鹸化PVA(鹸化度90モル%以上100モル%未満)および部分鹸化PVA(鹸化度90モル%未満)を含む。PVAの誘導体としては、PVAの水酸基をハロゲン化アルキル、アルキレンオキシド等によってエーテル化したものや、酢酸ビニルと、塩化ビニル、スチレン等の他の単量体を重合したものを鹸化したもの等が挙げられる。成分Aとしては、1種または2種以上を併用してもよい。
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、Rは炭化水素基であり、通常はR=CHである。また、a、bは負でない数であり、a+bは重合度を、(a/(a+b))×100は鹸化度(モル%)を表わす。また、OH基(aの部分)とOCOR基(bの部分)の結合順序は特に問わず、ブロック体、ランダム体いずれでもよい。)
【0023】
PVAの平均重合度は500〜3000であり、500〜2600が好ましく、1000〜2000がさらに好ましい。重合度が500未満の場合、高圧水流絡合処理後の不織布に一定の耐久親水性を保持させることはできるが、洗濯等により繊維処理剤が容易に脱落し、耐久洗濯性を満足できない。また、高圧水流絡合工程時の発泡の程度が高くなり、得られた不織布の地合が乱れる。一方、重合度が3000超の場合、制電性が悪くなり、ウェブ作製工程で、カード通過時ウェブが不均一になる場合がある。また、繊維処理剤の水性液の粘度が高くなり、取り扱い難くなる。なお、本発明のPVAの平均重合度は、JIS K6726に準拠して測定される値をいう。
【0024】
また、PVAの鹸化度は、70モル%以上が好ましく、70〜98モル%がより好ましく、72〜96モル%がさらに好ましく、74〜92モル%が特に好ましい。鹸化度が70モル%未満の場合、高圧水流絡合処理後の不織布に一定の耐久親水性を保持させることはできるが、洗濯等により繊維処理剤が脱落し、耐久洗濯性が不十分になることがある。また、PVAの水溶性が劣り、取り扱い難くなる。なお、本発明のPVAの鹸化度は、JIS K6726に準拠して測定される値をいう。
【0025】
[B成分]
B成分は、炭素数が6〜22のアルキル基を有するジアルキルスルホサクシネート塩である。B成分は、前述のA成分と併用されることによって、耐久洗濯性を飛躍的に向上させることができる。また、不織布製造用繊維に対して、良好な制電性、低起泡性、耐久親水性を付与できる。B成分単独では、これらの効果、特に耐久洗濯性の効果は発揮されない。耐久洗濯性を飛躍的に向上させることができる作用は明確にはわからないが、次のように推測される。繊維処理剤が乾燥する過程で、B成分により、繊維処理剤の表面親水性をコントロールすることができ、A成分中の親水性基がB成分の親水性基に引き寄せられることで高い親水性が得られ、さらには、A成分の造膜性により高い耐久洗濯性が得られると推測する。
【0026】
B成分は、炭素数6〜22のアルキル基を有するものであるが、炭素数8〜18のアルキル基を有すると好ましく、炭素数10〜18のアルキル基を有するとさらに好ましく、炭素数10〜16のアルキル基を有すると特に好ましい。アルキル基としては、直鎖、分岐のいずれでもよく、2個のアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。アルキル基の炭素数が6未満では、高圧水流絡合処理後の不織布に一定の耐久親水性を保持させることはできるが、洗濯等により繊維処理剤が容易に脱落し、耐久洗濯性を満足できない。一方、アルキル基の炭素数が22を超えると、不織布製造用繊維に対して、親水性を付与することができなくなる。
【0027】
B成分としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩を挙げることができ、ポリエステル短繊維に液体が速やかに浸透できる点から、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
【0028】
B成分としては、たとえば、ジヘキシルスルホサクシネートナトリウム塩、ジ−2−エチルヘキシルスルホサクシネートナトリウム塩、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩、ジ椰子アルキルスルホサクシネートナトリウム塩、ジトリデシルスルホサクシネートナトリウム塩、ジミリスチルスルホサクシネートナトリウム塩、ジステアリルスルホサクシネートナトリウム塩等が挙げられる。これらのジアルキルスルホサクシネート塩は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0029】
[C成分]
本発明の繊維処理剤は、耐久洗濯性を一層向上できる観点から、上記のA成分およびB成分に加え、キレート型の配位子を有し、周期表3〜12族に属する金属を含有する有機化合物であるC成分をさらに含むことが好ましい。耐久洗濯性を向上できる作用は明確にはわからないが、C成分をさらに含むことでA成分が架橋し、繊維処理剤が繊維にさらに密着して、耐久洗濯性が向上するものと推測される。
ここでキレート型の配位子とは、1つの金属原子に対して共有結合や水素結合などにより二座あるいはそれ以上の多座で配位することが可能な配位子を意味する。従って、該有機化合物は、3〜12族に属する金属にキレート型の配位子が配位した金属キレート化合物である。
【0030】
該有機化合物に含まれる金属は、周期表3〜12属に属する金属であれば特に限定はない。たとえば、スカンジウム、イットリウム、セリウム等の3族金属;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の4族金属;バナジウム、ニオブ、タンタル等の5族金属、クロム、モリブデン、タングステン等の6族金属;マンガン、レニウム等の7族金属;鉄、ルテニウム、オスミウム等の8族金属;コバルト、ロジウム等の9族金属;ニッケル、パラジウム等の10族金属;銅、銀、金等の11族金属;亜鉛、カドミウム等の12金属等を挙げることができる。これらの金属は1種または2種以上を併用してもよい。上記金属の分類は、社団法人日本化学学会発行の「化学と教育」、54巻、4号(2006年)の末尾に綴じこまれた「元素の周期表(2005)」(2006日本化学会原子量小委員会)に基づいている。
【0031】
これらの金属のうちでも、遷移金属(3〜11族に属する金属)が好ましく、4〜5族に属する金属がさらに好ましい。
遷移金属としては、たとえば、スカンジウム、イットリウム、セリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、銀、金等が挙げられる。その中でも、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、銀等の周期表4〜5周期に属する遷移金属が好ましく、チタン、ジルコニウムおよびバナジウム等がさらに好ましい。遷移金属でない場合は、耐久親水性および耐久洗濯性向上が阻害されることがある。
【0032】
上記金属の原子価数については、特に限定はないが、1金属原子当たりの架橋効率という点で、2〜5価が好ましく、3〜5価がさらに好ましく、4〜5価が特に好ましい。原子価数が1価であると、耐久親水性および耐久洗濯性が悪化することがある。また、6価以上であると架橋効率が下がることがある。
金属含有有機化合物を構成する金属種およびその原子価数の組み合わせとしては、耐久親水性および耐久洗濯性向上の観点からは、亜鉛(II)、カドミウム(II)、アルミニウム(III)、バナジウム(III)、イットリウム(III)、チタン(IV)、ジルコニウム(IV)、鉛(IV)、セリウム(IV)、バナジウム(V)、ニオブ(V)、タンタル(V)等が好ましい。
【0033】
キレート型の配位子としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸等のヒドロキシカルボン酸またはそれらの塩;アセチルアセトン等のβ−ジケトン;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、3−メチル−1,3ブタンジオール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等のジオール類などが代表的なものとしてあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
C成分である有機化合物としては、例えば、ジルコニウムラクテート、その部分または完全中和物(たとえば、ジルコニウムラクテート一アンモニウム塩、ジルコニウムラクテート二アンモニウム塩、ジルコニウムラクテート一ナトリウム塩、ジルコニウムラクテート二ナトリウム塩、ジルコニウムラクテート一カリウム塩、ジルコニウムラクテート二カリウム塩)、ジイソプロポキシジルコニウムビス(トリエタノールアミナート)、ジ−n−ブトキシジルコニウムビス(トリエタノールアミナート)、ジイソプロポキシジルコニウムビス(アセチルアセトナート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトナート)、ポリジルコニウムビス(アセチルアセトナート)、チタンラクテート、その部分または完全中和物(たとえば、チタンラクテート一アンモニウム塩、チタンラクテート二アンモニウム塩、チタンラクテート一ナトリウム塩、チタンラクテート二ナトリウム塩、チタンラクテート一カリウム塩、チタンラクテート二カリウム塩)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミナート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(トリエタノールアミナート)、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)、ポリチタンビス(アセチルアセトナート)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの有機化合物の中でも水溶性のものが好ましく、具体的にはジルコニウムラクテート、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシジルコニウムビス(トリエタノールアミナート)、ジ−n−ブトキシジルコニウムビス(トリエタノールアミナート)、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミナート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(トリエタノールアミナート)が挙げられる。これらの有機化合物は必ずしも単独で使用する必要はなく、必要に応じて2種以上混合して用いることもできる。
【0035】
[D成分]
本発明の繊維処理剤は、耐久洗濯性を阻害することなく、制電性を一層向上できる観点から、上記のA成分およびB成分に加え、炭素数6〜18のアルキル基を有するアルキルホスフェート塩および/または炭素数6〜18のアルキル基を有するポリオキシアルキレンアルキルホスフェート塩からなるD成分をさらに含むことが好ましい。
【0036】
D成分としては、下記一般式(2)で示される化合物であることが好ましい。
【化2】

【0037】
一般式(2)において、Rは炭素数6〜22のアルキル基である。Rの炭素数は6〜18が好ましく、8〜12がさらに好ましい。アルキル基の炭素数は分布があってもよく、アルキル基は直鎖状であっても分岐を有していてもよい。Rとしては、例えば、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、セチル基、ミリスチル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘニル基等が挙げられる。
AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。オキシアルキレン単位の繰り返し数であるmは0〜15の整数であり、0〜8が好ましく、0〜4がさらに好ましい。(AO)は、オキシアルキレン単位としてオキシエチレン単位を50モル%以上有するポリオキシアルキレン基が好ましい。
nは1〜2の整数である。
【0038】
は、H、Na、Kおよび[NR]からなる群から選択される少なくとも1種のイオン性残基である。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルカノール基またはポリオキシアルキレン基を示す。アルキル基の炭素数は、1〜18が好ましく、4〜18がより好ましく、4〜12がさらに好ましい。アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基等が挙げられる。アルカノール基の炭素数は、通常1〜8が好ましく、2〜4がより好ましく、2〜3がさらに好ましい。アルカノール基としては、たとえば、メタノール基、エタノール基、n−プロパノール基、イソプロパノール基、ノルマルブタノール基、オクタノール基、等が挙げられる。ポリオキシアルキレン基の炭素数は、2〜6が好ましく、2〜4がより好ましく、2〜3がさらに好ましい。ポリオキシアルキレン基としては、たとえば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等が挙げられる。Yとしては、Na、K、NH、[NH(CHCHOH)]、[NH(CHCHOH)]が好ましく、Kがさらに好ましい。
【0039】
D成分としては、たとえば、n−ヘキシルホスフェートカリウム塩、n−ヘプチルホスフェートカリウム塩、n−オクチルホスフェートカリウム塩、n−ラウリルホスフェートカリウム塩、n−ステアリルホスフェートカリウム塩、n−オレイルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレンn−ヘキシルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレンn−オクチルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレンn−ラウリルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレンn−ステアリルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレンn−オレイルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレンn−ラウリルホスフェートナトリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、耐久洗濯性を阻害することなく、制電性を一層向上できる観点から、D成分がn−ヘキシルホスフェートカリウム塩、n−オクチルホスフェートカリウム塩、n−ラウリルホスフェートカリウム塩が好ましい。D成分は、これらのアルキルホスフェートカリウム塩のうちの1種から構成されていてもよく、2種以上から構成されていてもよい。
【0040】
[不織布製造用繊維処理剤]
本発明の繊維処理剤は、不織布の製造に用いる短繊維に処理するものである。繊維については後述する。本発明の繊維処理剤は、上述のA成分、B成分を次の所定の割合で含むものである。
処理剤の不揮発分に占めるA成分の重量割合は、10〜90重量%であり、10〜89重量%が好ましく、15〜85重量%がより好ましく、20〜80重量%がさらに好ましく、25〜75重量%が特に好ましい。A成分の重量割合が10重量%未満の場合、A成分の造膜性が十分でないため、洗濯等により繊維処理剤が容易に脱落する。一方、A成分の重量割合が90重量%超の場合、不織布製造用繊維に対して、十分な親水性を付与することができなくなる。なお、本発明の不織布製造用処理剤の不揮発分とは、水分などを除くための熱乾燥工程後において繊維表面に残存する繊維処理剤中の成分を意味し、繊維処理剤を110℃で熱処理して水分などを除去し、恒量に達したときの揮発せずに残存した成分を意味する。
【0041】
処理剤の不揮発分に占めるB成分の重量割合は、10〜90重量%であり、10〜89重量%が好ましく、15〜85重量%がより好ましく、20〜80重量%がさらに好ましく、25〜75重量%が特に好ましい。B成分の重量割合が10重量%未満の場合、不織布製造用繊維に対して、十分な親水性を付与することができなくなる。一方、B成分の重量割合が90重量%超の場合、不織布製造用繊維に対して、十分な耐久親水性を付与することができなくなり、洗濯等により繊維処理剤が容易に脱落する。
【0042】
処理剤の不揮発分に占めるA成分とB成分の合計の重量割合は、20重量%以上が好ましく、25〜90重量%がより好ましく、30〜80重量%がさらに好ましく、35〜70重量%が特に好ましい。該重量割合が20重量%未満では、不織布製造用繊維に対して、十分な耐久親水性を付与することができなくなり、洗濯等により繊維処理剤が容易に脱落するおそれがある。
【0043】
C成分を含む場合、処理剤の不揮発分に占めるC成分の重量割合は、1〜30重量%が好ましく、3〜25重量%がより好ましく、5〜20重量%がさらに好ましい。C成分の割合がこの範囲にあることにより、さらに良好な耐久親水性および耐久洗濯性を付与できる。C成分の重量割合が30重量%超の場合、不織布製造用繊維に対して、十分な親水性を付与することができなくなることがある。
【0044】
D成分を含む場合、処理剤の不揮発分に占めるD成分の重量割合は、3〜50重量%が好ましく、5〜50重量%がより好ましく、10〜40重量%がさらに好ましく、20〜30重量%が特に好ましい。D成分の割合がこの範囲にあることにより、耐久洗濯性を阻害することなく、制電性を一層向上できる。D成分の重量割合が50重量%超の場合、不織布製造用繊維に対して、十分な耐久親水性を付与することができなくなり、洗濯等により繊維処理剤が容易に脱落することがある。
【0045】
本発明の繊維処理剤は、前述の成分以外に、公知の水溶性ポリエステル樹脂を含有してもよい。水溶性ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸、炭素数4〜22の脂肪族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸(誘導体)と、アルキレングリコールと、ポリアルキレングリコールとを重縮合させたポリエステル化合物であることが好ましい。これらは1種または2種以上を併用してもよい。処理剤の不揮発分に占める該水溶性ポリエステル樹脂の重量割合は、1〜50重量%が好ましく、5〜40重量%がより好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。50重量%超であると、耐久親水性や耐久洗濯性が悪くなることがある。
【0046】
前述の水溶性ポリエステル樹脂中の芳香族ジカルボン酸、炭素数4〜22の脂肪族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、5−スルホイソフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、ピメリン酸、セバシン酸、ジメチレンセバシン酸などが挙げられる。なかでも、芳香族ジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0047】
本発明の繊維処理剤は、前述の成分を分散或は乳化した水性液とするため、また付着時の濡れ特性を向上させる等の目的で、次の添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンの共重合物誘導体、ポリオキシエチレン(以下POEと略記する)アルキルエーテル、POEアルキルエステル等の非イオン界面活性剤、アルキルサルフェート(塩)、アルキルスルホネート(塩)、等のアニオン界面活性剤が挙げられる。これらの添加剤を併用する場合も含め、本発明の繊維処理剤の水性液の作製に際しては適宜に有機溶媒を使用することもできる。また、処理剤の不揮発分に占めるこれらの添加剤の重量割合は特に限定はないが、50重量%未満が好ましく、20重量%未満がより好ましく、10重量%未満がさらに好ましい。
【0048】
本発明の繊維処理剤は、カード工程時の静電気を抑制する帯電防止剤を含んでもよい。帯電防止剤としては、たとえば、アルキルスルホネート塩、アルキルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、脂肪酸石鹸、4級アンモニウム塩、アルキルベタイン等が挙げられる。また、4級アンモニウム塩は耐久親水性および耐久洗濯性を向上させる効果もあるので好ましく使用でき、具体的には、ジ椰子アルキルジメチルアンモニウムクロライド、ジ硬化牛脂アルキルジメチルアンモニウムクロライド等が好ましい。また、不織布用合成繊維処理剤の不揮発分に占める帯電防止剤の重量割合は特に限定はないが、50重量%未満が好ましく、20重量%未満がより好ましく、10重量%未満がさらに好ましい。
【0049】
本発明の繊維処理剤は、集束性向上を目的とした集束剤を含んでもよい。集束剤としては、たとえば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコールロジン(アビエチン酸)エステル、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンベンジル化フェニルエーテル等が挙げられる。これらのうちでも、ポリアルキレングリコールロジン(アビエチン酸)エステル、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンベンジル化フェニルエーテル等は、少量で集束性を高める効果があり、耐久親水性および耐久洗濯性を低下させることがなく、集束性を高めることができるので好ましい。また繊維処理剤の不揮発分に占める集束剤の重量割合は特に限定はないが、50重量%未満が好ましく、20重量%未満がより好ましく、10重量%未満がさらに好ましい。
【0050】
また、本発明の繊維処理剤には、必要に応じて、抗菌剤、酸化防止剤、防腐剤、艶消し剤、顔料、抗菌剤、芳香剤、消泡剤等がさらに含まれていてもよい。
【0051】
本発明の繊維処理剤は、前述の成分を分散あるいは乳化した水を含む水性液であることが好ましい。本発明に使用する水としては、純水、蒸留水、精製水、軟水、イオン交換水、水道水等のいずれであってもよい。水を含有する水性液の場合、処理剤全体に占める不揮発分の割合は、0.05〜50重量%が好ましく、0.5〜40重量%がより好ましく、1〜30重量%がさらに好ましい。
【0052】
本発明の繊維処理剤の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、A成分の水溶液に、B成分の水溶液を配合し常温で攪拌することで製造できる。それぞれの成分の混合順序については特に限定はない。次に必要に応じてC成分やD成分、さらにはその他の成分から選ばれる成分の水溶液を配合して常温で攪拌することで製造できる。
【0053】
本発明の繊維処理剤が処理対象とする繊維としては、疎水性繊維である。例えば、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維およびポリ塩化ビニル繊維等の非複合繊維、芯鞘構造のポリエステル−ポリエチレン系複合繊維、ポリプロピレン−ポリエチレン系複合繊維、コポリプロピレン−ポリプロピレン系複合繊維、コポリエステル−ポリプロピレン系複合繊維、コポリエステル−コポリエステル系複合繊維等の熱融着繊維を挙げることができる。なかでも、対象繊維がポリエステル繊維や芯鞘構造のポリエステル−ポリエチレン系複合繊維などのポリエステルを少なくとも一部含む繊維であると耐久親水性および耐久洗濯性を付与する効果が高い。
【0054】
本発明の繊維処理剤が付与された繊維は、高圧水流絡合法により不織布を作製したときに良好な親水性を示すが、このような親水性不織布を作製するその他の方法としては、公知のニードルパンチ法、サーマルボンド法、スパンボンド法、エアーレイド法等を挙げることができる。
【0055】
[ポリエステル短繊維、不織布およびその製造方法]
本発明のポリエステル短繊維は、ポリエステル短繊維本体を上記の繊維処理剤で処理して得られる繊維である。本発明のポリエステル短繊維の製造方法は、上記の繊維処理剤でポリエステル短繊維本体を処理する工程を含む。
【0056】
ポリエステル短繊維本体は、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルからなることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートであるとさらに好ましい。ポリエステルは、酸成分としてテレフタル酸が50重量%以上で、それ以外にイソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンジカルボン酸等を1種類または2種類以上を共重合したポリエステルが好ましい。また、グリコール成分としてエチレングリコールが70重量%以上で、それ以外にジエチレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等を1種類または2種類以上共重合したポリエステルから構成されるものが好ましい。ポリエステル短繊維本体は、上述したポリエステルを溶融紡糸して製造され、カット長と捲縮は用途により選択される。これらのポリエステル繊維の断面形状は、丸、中空丸、異形、中空異形等いずれの形状であってもよい。
【0057】
本発明のポリエステル短繊維において、本発明の繊維処理剤に含まれる不揮発分の付着割合は、ポリエステル短繊維本体に対して、0.05〜2重量%が好ましく、0.1〜1重量%がさらに好ましい。ポリエステル短繊維本体に対する不揮発分の付着割合が0.05重量%未満では、耐久洗濯性が低下し、制電性や耐久親水性も低下することがある。一方、不揮発分の付着割合が2重量%を超えると、繊維をカード処理する時に巻付き増加や高圧水流絡合処理の発泡が多くなり生産性が大幅に低下することがある。本発明のポリエステル短繊維の製造方法では、繊維処理剤に含まれる不揮発分の付着割合が上記範囲になるように制御されるとよい。
【0058】
本発明の繊維処理剤を、原液のままポリエステル短繊維本体に処理してもよいが、通常は、水に溶解または乳化させた希釈液(エマルション)の状態でポリエステル短繊維本体に処理する。希釈液中の不揮発分の濃度については、特に限定はないが、通常は1重量%〜20重量% 、好ましくは2重量%〜12重量%で用いる。繊維処理剤の原液または希釈液は、上記処理時に均一に分散していることが望ましく、その温度は、通常40℃〜60℃程度である。
【0059】
ポリエステル短繊維の製造方法において、ポリエステル短繊維の紡糸工程、延伸工程前または延伸工程中、クリンパー前またはクリンパー後の時点等で、ポリエステル短繊維本体を本発明の繊維処理剤で処理する工程を行えばよい。紡糸工程や延伸工程で処理する場合は、ローラー・タッチ、スプレー、浸漬等の通常の処理方法(給油方法)で行うことができる。
【0060】
本発明の不織布は、本発明のポリエステル短繊維を含有しており、たとえば、高圧水流絡合法等の公知の方法で、ポリエステル短繊維の繊維間を絡合させることによって得られる。以下、本発明の不織布の製造方法の一例として、ポリエステル短繊維を集積させて繊維ウェブを作製し、該繊維ウェブを高圧水流絡合法で処理(高圧水流絡合処理という)する工程を含む、不織布の製造方法について詳しく説明する。
【0061】
まず、本発明のポリエステル短繊維を集積させて繊維ウェブを作製する。繊維ウェブを作製するには、繊維をカード機に供給し、カード機から排出されるフリースを適宜積層すればよい。カード機としては、フリース中の繊維がほぼ一方向に配列するパラレルカード機、フリース中の繊維が無配向となるランダムカード機、前二者の中間程度の配向となるセミランダムカード機、従来綿繊維の開繊に最も一般的に使用されているフラットカード機等を使用することができる。カード機から排出されたフリースを、そのまま多数枚重ねて、一方向に繊維が配列したウェブまたは繊維が無配向となっている繊維ウェブとしてもよい。また、一方向に繊維が配列したフリースを、各フリースの繊維が交差する状態で多数枚重ねて、縦・横均一な繊維ウェブとしてもよい。本発明においては、縦・横の引張強度が同等である方が好ましいので、繊維ウェブとしても、繊維が無配向となっている繊維ウェブまたは各フリース間の繊維が直交している繊維ウェブを採用することが好ましい。
【0062】
このようにして得られた繊維ウェブは、本発明のポリエステル短繊維のみで構成されていてもよいし、他種繊維とともに構成されていてもよい。繊維ウェブ中に含有される他種繊維としては、従来公知の天然繊維、再生繊維、合成繊維等が用いられる。これらの繊維を1 種または2 種以上併用してもよい。天然繊維としては、たとえば、綿や羊毛や絹等が挙げられる。再生繊維としては、たとえば、レーヨン繊維等が挙げられる。合成繊維としては、たとえば、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維等が挙げられる。合成繊維は、一般に使用されている非複合型繊維であってもよいし、異種重合体の組み合わせよりなる芯−鞘型複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維でもよい。また、このような他種繊維は、ポリエステル短繊維と同様に、短繊維であるのが好ましい。これは、ポリエステル短繊維と他種繊維とが均一に混合しやすくなるからである。
【0063】
繊維ウェブの重量(目付) は、10〜150g/m程度であるのが好ましい。目付が10g/m未満であると、繊維密度が小さくなって、三次元的絡合が不十分になる傾向が生じる。一方、目付が150g/mを超える場合も、単位面積当りの繊維量が多すぎて、全ての繊維に高圧水流絡合処理によるエネルギーを与えにくくなり、三次元的絡合が不十分になる傾向が生じる。
【0064】
高圧水流絡合処理については、二段階またはそれ以上に別けて施すのが好ましい。すなわち、第一段階の高圧水流絡合処理においては、高圧水流の噴射圧力を低くして、繊維に与える運動量を少なくし、繊維ウェブの地合が乱れるのを防止しながら、繊維相互間にある程度の予備的な三次元的絡合を与える。この第一段階における噴射圧力としては、5〜30kg/cm・G程度であるのが好ましい。噴射圧力が5kg/cm・G未満であると、繊維相互間に三次元的絡合が殆ど生じないおそれがある。また、噴射圧力が30kg/cm・Gを超えると、繊維ウェブの地合が乱れるおそれがある。このような第一段階の高圧水流絡合処理によって、繊維に絡合が与えられ、ある程度、繊維が拘束された状態で、第二段階の高圧水流絡合処理を施す。この際の噴射圧力は、第一段階の噴射圧力よりも高くして、繊維に大きな運動量を与え、繊維相互間の三次元的絡合をさらに進行させるのである。第二段階における噴射圧力は、40〜150kg/cm・G程度が好ましい。噴射圧力が40kg/cm・G未満であると、繊維相互間の三次元的絡合の進行が不十分になる傾向が生じる。また、噴射圧力が150kg/cm・Gを超えると、繊維相互間の三次元的絡合が強固になりすぎて、得られる不織布の柔軟性や嵩高性が低下する傾向が生じる。また、第一段階の処理で、ある程度繊維が拘束されているにもかかわらず、得られる不織布の地合が乱れる恐れもある。以上のような方法によると、得られる不織布の地合の乱れが少なくなり、且つ引張強度が高くなるという利点がある。
【0065】
繊維ウェブに高圧水流絡合処理を施す際、繊維ウェブは、通常、支持体に担持されている。すなわち、高圧水流絡合処理が施される側とは、反対面に支持体が置かれている。この支持体は、繊維ウェブに施された高圧水流を良好に通過させるものであれば、どのようなものでも使用でき、例えばメッシュスクリーンや有孔板等が採用される。一般的には、金網等のメッシュスクリーンが採用され、また孔の大きさは、20〜100メッシュ程度であるのが好ましい。
【0066】
繊維ウェブに高圧水流絡合処理を施した後、繊維ウェブには液体流として使用した水や
温水等の液体が含浸された状態になっており、この液体を従来公知の方法で除去して、不
織布が得られるのである。ここで、液体を除去する方法としては、まず、マングルロール
等の絞り装置を用いて、過剰の液体を機械的に除去し、引き続き連続熱風乾燥機等の乾燥
装置を用いて、残余の液体を除去する方法等が用いられる。以上のようにして得られた不
織布は、繊維相互間の三次元的絡合が十分になされており、おしぼりや手拭き等の素材と
して使用するのに十分な引張強度を持つものである。
【実施例】
【0067】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各実施例および比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。以下では、「%」はいずれも「重量%」を表す。
【0068】
(実施例1〜51、および比較例1〜17)
表1〜3に示す各成分および水を混合して、処理剤に占める不揮発分の重量割合が5重量%となる不織布製造用繊維処理剤をそれぞれ調製した。得られた繊維処理剤について下記に示す方法(抑泡性試験)にて評価した。なお、表1〜3の数値は、繊維処理剤の不揮発分に占める各成分の重量割合を示している。
次に、それぞれの繊維処理剤を不揮発分の重量割合が0.6重量%となるよう約60℃の温水で希釈して、希釈液を得た。繊維本体(ポリエステル製で1.45dtex38mmの短繊維)100gに対しそれぞれの繊維処理剤の希釈液50gをスプレー処理した。希釈液で処理した繊維を、80℃の温風乾燥機の中に2時間入れた後、室温で8時間以上放置して乾燥させた。得られたポリエステル短繊維を下記の方法(制電性試験、耐久親水性試験、耐久洗濯性試験)にて評価した。その結果を表4〜6に示す。

【0069】
次に、得られたポリエステル短繊維をそれぞれ大和機工社製開繊機(型式OP−400)により開繊処理を施す。次いで、開繊処理されたポリエステル短繊維を、ランダムカード機に供給し、排出されたフリースを積層して、目付100g/mの繊維ウェブを得ることができる。この繊維ウェブを、金属製ネットよりなる支持体上に配置し、噴射圧力15kg/cm ・Gで第一段階の高圧水流絡合処理を施し、綿繊維相互間を予備的に三次元絡合させる。引き続き、噴射圧力100kg/cm・Gで第二段階の高圧水流絡合処理を施し、乾燥して不織布をそれぞれ得ることができる。
【0070】
[評価方法]
(1)抑泡性試験
不織布用合成繊維処理剤に含まれる不揮発分の濃度が0.1重量%のエマルションを用意し、30mlのメスシリンダーに10ml添加した。約10回振とうした後、5分後の高さを測定した。測定の雰囲気は、全て20℃とした。泡の高さが低いほど、高圧水流絡合処理時において、低起泡性であることの指標となる。泡の高さが10cm以下であれば、実用的に問題ないレベルである。
○:泡の高さが10cm以下。
×:泡の高さが10cmより高い。
【0071】
(2)制電性試験
それぞれの不織布用合成繊維処理剤で処理したポリエステル短繊維を温湿度20℃×45%RHの条件下でミニチュアカード機に通して、ウェブを作製した。カード通過時の発生静電気量を測定し、評価した。
◎:発生静電気量が0
○:発生静電気量が0〜−0.05kVの範囲。
△:発生静電気量が−0.05〜−0.5kVの範囲。
×:発生静電気量が−0.5kVより大。
【0072】
(3)耐久親水性試験
上記(2)の制電性試験で作製したウェブ5gを、ポリプロピレン製編み寵に入れ、20℃の水に浮かべてから沈むまでの時間を測定した。その後、この濡れたウェブを遠心脱水機にて脱水した後、80℃で20分間乾燥させ、20分間室温で調湿してから再度、20℃の水に沈むまでの時間(秒数)を測定した。この操作を繰り返し、沈む時間が60秒を超えると親水性が低下したと判断した。繰り返しのウェブ沈降回数が多いほど、不織布の耐久親水性が優れるという指標となる。なお、表4〜6に示した数値は、水に沈むまでの秒数である。
【0073】
(4)耐久洗濯性試験
上記(2)の制電性試験で作製したウェブ5gを、JIS規格L−0217の103法に準拠し、20回洗濯した後、20℃の水に沈むまでの時間(秒数)を測定した。沈降秒数が小さいほど、不織布の耐久洗濯性が優れるという指標となる。
◎:沈降秒数が10秒未満。
○:沈降秒数が10秒〜30秒の範囲。
△:沈降秒数が30秒〜60秒の範囲。
×:沈降秒数が60秒以上。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表1、2に記載した各成分は下記の通りである。
成分A1:重合度500、鹸化度70のPVA
成分A2:重合度500、鹸化度100のPVA
成分A3:重合度1000、鹸化度80のPVA
成分A4:重合度1000、鹸化度88のPVA
成分A5:重合度1800、鹸化度80のPVA
成分A6:重合度1800、鹸化度98のPVA
成分A7:重合度2600、鹸化度88のPVA
成分A8:重合度2600、鹸化度98のPVA
成分B1:ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩
成分B2:ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩
成分B3:ジ2−エチルヘキシルスルホサクシネートナトリウム塩
成分B4:ジステアリルスルホサクシネートナトリウム塩
成分C1:チタンラクテート
成分C2:ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミナート)
成分C3:ジルコニウムラクテート
成分C4:ジルコニウムラクテートアンモニウム塩
成分D1:ヘキシルホスフェートカリウム塩
成分D2:ラウリルホスフェートカリウム塩
成分D3:ポリオキシエチレン(4モル)オクチルホスフェートカリウム塩
成分E:テレフタル酸−イソフタル酸−エチレングリコール−ポリエチレングリコールモノフェニルエーテル共重合体(平均分子量7000)
【0077】
【表3】

【0078】
表3に記載した各成分は下記の通りである。
成分A9:重合度300、鹸化度99のPVA
成分A10:重合度3500、鹸化度80のPVA
成分B5:ジブチルスルホサクシネートナトリウム塩
成分B6:ジテトラコシルスルホサクシネートナトリウム塩
【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が500〜3000のポリビニルアルコールおよび/またはその誘導体からなるA成分と、炭素数6〜22のアルキル基を有するジアルキルスルホサクシネート塩であるB成分とを必須成分として含み、
処理剤の不揮発分に占める前記A成分の重量割合が10〜90重量%であり、前記B成分の重量割合が10〜90重量%である、不織布製造用繊維処理剤。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールの鹸化度が70〜98モル%である、請求項1に記載の繊維処理剤。
【請求項3】
キレート型の配位子を有し、周期表3〜12族に属する金属を含有する有機化合物であるC成分をさらに含み、
処理剤の不揮発分に占める前記A成分の重量割合が10〜89重量%であり、前記B成分の重量割合が10〜89重量%であり、前記C成分の重量割合が1〜30重量%である、請求項1または2に記載の繊維処理剤。
【請求項4】
炭素数6〜18のアルキル基を有するアルキルホスフェート塩および/または炭素数6〜18のアルキル基を有するポリオキシアルキレンアルキルホスフェート塩からなるD成分をさらに含み、
処理剤の不揮発分に占める前記A成分の重量割合が10〜85重量%であり、前記B成分の重量割合が10〜85重量%であり、D成分の重量割合が3〜50重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項5】
前記処理剤が水をさらに含む水性液となっており、処理剤全体に占める不揮発分の割合が0.05〜50重量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項6】
ポリエステル短繊維本体を請求項1〜5のいずれかに記載の繊維処理剤で処理して得られる、ポリエステル短繊維。
【請求項7】
請求項6に記載のポリエステル短繊維を含有する、不織布。
【請求項8】
請求項6に記載のポリエステル短繊維を集積させて繊維ウェブを作製し、該繊維ウェブを高圧水流絡合法で処理する工程を含む、不織布の製造方法。

【公開番号】特開2012−229506(P2012−229506A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98267(P2011−98267)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】