説明

不要な分子イオンの形成または再形成を減少させる方法および原子質量分析装置

【課題】衝突セル(24)内の不要人工イオンの形成あるいは再形成を最小にする。
【解決手段】本発明は誘導結合高周波プラズマ質量分析(ICPMS)に関し、衝突セルを用いてイオン・ビームから不要な人工イオンを反応気体と選択的に反応させることにより除去する。本発明は、膨張チャンバ(3)と、衝突セル(24)を内蔵した第二真空チャンバ(20)の間に設けた高真空の第一真空チャンバ(6)を提供する。第一真空チャンバ(6)は第一イオン光学装置(17)を有する。衝突セル(24)は第二イオン光学装置(25)を内蔵する。第一真空チャンバ(6)の設置は、プラズマ源(1)からの気体負荷に原因があると思われる衝突セル(24)内の残留圧を最小にすることにより衝突セル(24)への気体負荷を減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘導結合高周波プラズマ質量分光分析(以下ICPMSと称する)に関する。しかし、本発明の考えは、分析上重要なイオンに加え、不要な人工イオンを発生するどのようなタイプの質量分析計にも適用可能である。こうした人工イオンは、イオン・ビーム内で分析上重要なイオンは実質的に維持される一方、反応気体と反応させることによりイオン・ビームから選択的に除去可能な特性を有する。
【背景技術】
【0002】
ICPMSの一般的な原理は知られており、試料の元素組成についての情報を提供する元素分析方法であり、分子構造に関する情報は無し、又はほとんど無い。通常、試料は液体であり、それを霧状にし電気的に制御されたプラズマ内を通過させる。試料の置かれる所の温度は試料の霧化とイオン化が起きる程度に充分高いレベルにある。通常、5000Kより高温域を用いる。発生させたイオンは一工程以上の減圧処理を経て質量分析装置に導入する。質量分析装置は最も一般的には4重極であり、磁気セクター分析装置も使用されるが、近年は飛行時間装置が多い。
【0003】
多くのトラブルは4重極のような低分解能装置でだが、こうした装置全てに共通の問題は、ある種の元素類の検出を妨げる不要な人工イオンの質量スペクトルにある。この種の人工イオンの正体と割合はプラズマ支持気体と試料の両方の化学組成に依存する。こうした人工イオンは数多くある。代表的には、アルゴンをベースとしたICPMS内で発生するアルゴン含有分子イオンである。ICPMSは前述のように最も広く普及している技術である。酸化アルゴン(ArO+)およびアルゴン2量体(Ar2+)が顕著であり、鉄(56Fe)およびセレン(80Se)の検出をそれぞれ妨害する。厄介な原子イオンの一例はAr+であり、これは40Caの検出を妨げる。
【0004】
元素質量スペクトルから不要な人工イオンを除去するために衝突セルを用いることが可能である。衝突セルの利用はヨーロッパ公開特許公報第0813228Al号、国際公開公報第WO97/25737号および米国特許公報第5,049,739号に記載されている。
【0005】
衝突セルはイオンを貫通透過させる実質的に気密性の囲みであり、イオン源と主分析計の間に設ける。ターゲット気体をイオンと中性気体分子又は原子との衝突を推進させる目的で衝突セル内に入れる。衝突セルは米国特許公報第5,049,739号に記載のように、パッシブセル、つまり容易に化合しないセルであり、あるいはイオンはヨーロッパ公開特許公報第0813228A1号のように、交流電圧と直流電圧の組み合わせで駆動するイオン光学装置、例えば多重極によってセル内に閉じ込めることができる。この手段により、イオンと気体分子間の衝突を多く起こすためにかなり高い圧力で衝突セルを操作する時でも、衝突セルは最少の損失でイオンを透過させるように構成することが可能になる。
【0006】
衝突セル内の条件を慎重に制御することにより、必要なイオンを効率良く透過させることができる。これは、一般的に必要なイオンは分析すべき質量スペクトルの一部を形成しており、単原子であり一価の陽電荷を持っている、すなわち、1電子を失っているので可能となる。こうしたイオンが中性気体原子又は分子と衝突すると、気体の初めのイオン化ポテンシャルが1個の電子をそのイオンに運び中性化するほど低くないなら、イオンはその陽電荷を維持することになる。従って、高イオン化ポテンシャルを有する気体が理想的なターゲット気体である。
【0007】
逆に言えば、必要なイオンを効果的に透過させ続けながら不要な人工イオンを除去することが可能である。例えば、人工イオンは原子イオンよりも不安定なArO+やAr2+のような分子イオンであることが多い。中性気体原子や分子との衝突で、分子イオンは解離し、低質量の新たなイオンと数個の中性の断片を形成する。さらに、分子イオンを巻き込む衝突の衝突横断面は原子イオンに対するよりも大きい傾向がある。これはダグラス(Douglas)により示された(カナディアン・ジャーナル・スペクトロスコピィ:Canadian Journal Spectroscopy、1989年発行第34(2)巻、38−49頁参照)。別の可能性は反応性衝突を利用することである。エイデン(Eiden)等は多くの分子イオンやAr+を除去するために水素を使用し、同時に、その分析イオンは影響を受けずにほとんど残ることを示した。ジャーナル・オブ・アナリティカル・アトミック・スペクトロメトリィ:Journal of Analytical Atomic Spectrometry(分析原子分光測定法報告誌)1996年、第11巻、317−322頁参照。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】ヨーロッパ公開特許公報第0813228Al号
【特許文献2】国際公開公報第WO97/25737号
【特許文献3】米国特許公報第5,049,739号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】カナディアン・ジャーナル・スペクトロスコピィ:Canadian Journal Spectroscopy、1989年発行第34(2)巻、38−49頁
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・アナリティカル・アトミック・スペクトロメトリィ:Journal of Analytical Atomic Spectrometry(分析原子分光測定法報告誌)1996年、第11巻、317−322頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、プラズマ内で発生する人工イオンの除去を促進するためにかなり高い圧力で衝突セルを操作すると、他の人工イオンができる。これらイオンの化学的性質は必ずしも確実に分かるわけではなく、例えば、残留気体組成にある炭化水素は電荷交換によりイオン化される。LaO+やLaOH+のような様々な種類の金属酸化物イオンおよび/または金属水酸化物イオンが観察され、衝突セルのイオン−分子反応で明らかに形成された。LaO・H2+のような水付加イオンも観察された。衝突セル内で除去される人工イオンは、例えば、次の式で表される。
++Ar=>ArO+
のような反応により発生させることができ、こうしたイオンをビームから除去できる大きさは2つ以上の反応経路の平衡に左右される。
【0011】
衝突気体をセル内に入れてない時でさえ、セル内の局部圧力はプラズマそのものからの気体負荷により、かなり高くなる。プラズマからの気体負荷は主としてプラズマ支持気体から成り、一般的には中性アルゴンである。プラズマからの気体負荷は、イオン・ビームで運ばれ方向を持った流れと、イオン・ビームが通過する真空排気したチャンバ内の一般的なバックグラウンド圧から成る。プラズマからの気体負荷も他の種類、通常は試料を水に溶解させた時の水素や酸素、また、膨張チャンバからのロータリ・ポンプのオイルからの有機物などを含む。膨張チャンバは減圧の第一段階としてICPMSで一般的に採用されているラフな真空段階である。
【0012】
本発明者は、通常の従来技術の質量分析計における衝突セルへの気体負荷を推定するために、ダグラスとフレンチにより示されたもの(1988年)と類似の計算を使用した。この計算はプラズマからの気体負荷によるセル内の局所的分圧が、特に衝突セルがイオン源に閉じている時0.001mbar以上という値を示す。本発明者は試料ビームの停滞圧を測定するため静電容量圧力計に接続した毛細管を使用し、スキマーから42mmで軸上のプローブを用いて、停滞圧0.2mbarを測定し、スキマーから82mmの距離で0.002mbarに減圧することを見出した。
【0013】
衝突セルがアルゴンの分圧をかなり含むなら、これは次の2つの理由により装置の操作を無効にしてしまう。第一に、イオン・ビーム内のイオンと中性アルゴンとの衝突によりイオン・ビームが減衰する。第二に、高密度の中性アルゴンの存在は、イオン・ビーム内のイオンとの反応でアルゴン含有分子イオンの発生を助長する。同様なことは他の不純物、特に有機物に当てはまり、質量ピークのスペクトルを増大させる潜在力となる。
【0014】
本発明の目的は、衝突セル内、あるいは他のイオン移動システム内の不要な人工イオンの形成、あるいは再形成を最小にする手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、質量分析計は、プラズマ内に導入した資料からイオンを発生させる手段と、イオン・ビームを形成するため第一軸に沿った真空排気した膨張チャンバ内に上記イオンの一部を透過させるためのサンプリング開口部と、高真空に維持された真空排気した第一真空チャンバ内に上記イオンの一部を透過させるための第二開口部と、イオン・ビームを閉じ込めるために、第一真空チャンバ内に設けた第一イオン光学装置と、第一真空チャンバより低い圧力に維持された第二真空チャンバ内に上記イオン・ビームを透過させるための第三開口部と、進入開口部と排出開口部を有し、ターゲット気体で加圧され、第二真空チャンバ内に設けた衝突セルと、上記イオン・ビームを閉じ込めるため、衝突セル内に設けた第二イオン光学装置と、上記イオン・ビームの質量スペクトルを作るためイオン・ビームを質量分析する第二軸に沿って設けた質量対電荷比分析手段を内蔵し、第二真空チャンバより低い圧力に維持された第三真空チャンバにイオン・ビームを透過させるための第四開口部とを有する。
【0016】
望ましくは、第一真空チャンバはおおよそ10-2から10-4mbar、より望ましくは1−2×10-3mbarの圧力に維持する。
【0017】
膨張チャンバと衝突セルを内蔵する第二チャンバの間に高真空の第一真空チャンバを設けることは衝突セルへの気体負荷を減少させる。これは、プラズマ源からの気体負荷に原因がある衝突セル内の残留圧力を最小にし、かつ衝突セル内の中性気体組成が本質的に衝突気体そのものの組成であることを確実にすることによる。第一真空チャンバを高真空に維持する真空ポンプが一般的バックグラウンド気体負荷を取り除き、第二チャンバや衝突セルに入るのを防止するので、バックグラウンド気体負荷を減少させる。中性気体流は第一イオン光学装置により閉じ込められず、第一真空チャンバ内のイオン・ビームから分散するので、第二真空チャンバに入る中性気体の方向を持った流れはかなり減少させられる。第一真空チャンバ内に設けたイオン光学装置は第一真空チャンバを介して充分な量のイオンを透過させることが可能である。
【0018】
衝突セルに入る中性の方向を持った流れは、第三開口部と衝突セルの入り口とに間隙を設けることによって、さらに減少させる。方向を持った流れは第三開口部を通過するときにイオン・ビームから分散し、衝突セルへの進入開口部の縁によって排除される。望ましくは、この間隙は少なくとも2cmである。
【0019】
イオン源と衝突セルとの距離は、望ましくは90mm以上である。これはイオン・ビームから方向を持った流れが分散することを可能にする距離として充分であり、衝突セルへの気体負荷を衝突セル内の中性気体組成が実質的に衝突気体だけのものとなるレベルに低減する。プラズマからの特定の気体負荷を考えると、その気体負荷による衝突セルで顕在化する圧力は基本的に単純な幾何学的要因に左右される。自由噴流膨張で衝撃波の効果を無視すると、セルに入る気体負荷は衝突セルへの進入開口部によってイオン源の範囲を定めた立体角に比例する。衝突セル内で現れる圧力はセルに入る気体負荷に比例する。その圧力は低い圧力で操作する領域に出るセルからの気体透過性に反比例する。つまり、セルの内部から低圧領域へとつながる開口部の全面積に反比例する。開口部の面積は、セルが衝突気体で加圧(通常、0.001mbarから0.1mbarの範囲)される時、衝突セルの外部領域が許容できる範囲の低圧に維持されるという実際的な理由によって決まる。例として、衝突セルを内蔵する真空チャンバが250リットル/秒の容量の高真空ポンプによって排気されると、セルは0.02mbarの圧力で操作することになり、衝突セルの外部圧は10-4mbarが必要で、衝突セルの最大許容透過性は250×(1×10-4)/0.02又は1.25リットル/秒である。これは衝突気体が空気である時に進入開口部と排出開口部の両方の径が2.3mmである場合に対応する。
【0020】
プラズマからの気体負荷による衝突セル内の局部分圧を最小にするか、少なくともその圧力が許容できる低さとすることが望ましい。セルの開口部のサイズは予め決められるので、プラズマからの気体負荷はイオン源から衝突セルの進入開口部までの距離Dcellを増大させることにより低下させなくてはならない。局部圧としての許容可能な値は衝突セルの長さに依存するが、長さ130mmのセルに対して局部分圧は0.001mbar未満が望ましい。気体力学に基づき、またダグラス(Douglas)とフレンチ(French)の処理に大きく従う計算は、Dcellはプラズマからの気体負荷によるセル内の分圧を0.001mbar未満とするためには少なくとも200mmとすべきことを示唆している。本発明者は静電容量圧力計で測定をおこない、約90mmという比較的短い距離が適切であるとの結果を得た。Dcellが増大すると、セル内の局地圧力をさらに低下させる効果がある。しかし、これもイオン光学装置の透過効果を低減する効果があり、装置の設計を一般的に難しくしてしまう。本発明者はDcellが200mm未満で利点があることを見出した。
【0021】
望ましくは、質量対電荷比分析手段は主マスフィルタを有し、それはRF4重極が望ましいが、磁気セクタあるいは飛行時間計測式分析計のいずれか採用可能である。
【0022】
第一イオン光学装置は静電気レンズ群、静電気イオン・ガイド、あるいはRF多極のような電気力学的イオン・ガイドである。イオン光学装置は質量選択装置が望ましい。4重極は特定の質量対電荷比(m/e)、あるいはm/eの範囲のイオンだけを透過するように駆動できるので、4重極を使用するのが有利である。従って、これは副マスフィルタとして機能する。磁気セクタも同様に使用可能である。副マスフィルタは主マスフィルタと同じm/eからのイオンだけを透過するように設定してあるので、質量スペクトルに対する人工イオンの関わりを第一に減らすため使用することで有利となる。従って、衝突セル内で形成される人工イオンは、副マスフィルタと主マスフィルタの両方で選択されたm/eのイオンからの反応生成物である。この人工イオンは選択されたm/eとは異なるm/eを有し、主マスフィルタによって透過されない。従って、この質量スペクトルは本来人工イオンとは無縁である。例えば、副マスフィルタがm/e56のイオンを基本的に透過させるように調節されていると、衝突セルに入るイオンは56Fe+40Ar16+(プラズマ源で形成される不要分子イオン)である。衝突セル内では、40Ar16+が失われ、一方、56Fe+は効率よく透過される。m/e72で56Fe16+、m/e74で56Fe・H2+のような分子イオンあるいは付加生成イオンが形成するが、主マスフィルタを同時にm/e56のイオンだけを通過するように設定してあるので、これら人工イオンは質量スペクトル妨害を起こすことは不可能である。副マスフィルタと主マスフィルタは同期して走査するので、主マスフィルタがm/e72を透過するように設定されていても、56Fe+が衝突セルに入る前にビームから副マスフィルタが56Fe+を除去するので56Fe16+は衝突セル内で形成できない。同様の説明が分子イオンの微細化によって形成した人工イオンに適用できる。
【0023】
4重極のような質量選択装置、すなわちイオン光学装置を作る別の利点は、プラズマ・ビーム内の最も豊富なイオンをこの質量選択装置により拒絶することである。この装置から出るイオン・ビームは強度が弱くなり、空間電荷の影響下でほとんど分散しない、あるいは分散する傾向を示さない。それゆえに、ビームを効率よく透過するためイオン光学装置の後続段階を設計するのが容易になる。
【0024】
第二イオン光学装置は静電レンズ群、静電気イオン・ガイド、あるいは磁気セクタが可能であるが、RF多極が望ましい。第二イオン光学装置も第一イオン光学装置の代わりに、あるいは同様に質量選択性がある。
【0025】
質量対電荷比分析手段の第二軸は第一軸とオフセットされるのが望ましい。これはICPMS装置に一般的にある未解決のベースライン・ノイズ信号を減衰する上で効果がある。
【0026】
第一真空チャンバは膨張チャンバに隣接した第一領域と、衝突セルに隣接した第二領域に大きな径の開口部によって分割するのが望ましい。イオン光学装置は第二領域に設け、第一領域は負電圧で駆動される抽出レンズを含むことが可能である。望ましくは、開口部の径は約20mmで気密構造とする。これはOリングのシール上に平板を置くことにより実現できる。この手段によって膨張チャンバと第一領域が大気に通じていても第二領域は分離され高圧に維持される。これは汚染する傾向の大きい成分に接触容易となり、それらを除去したり、新しく交換したりし易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来技術の質量分析計を示す概略図である。
【図2】本発明の望ましい実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1の従来技術の質量分析計では、誘導結合高周波プラズマ(ICP)イオン源1は従来の構成であり大気圧で操作する。イオンはプラズマ内で発生させ、一部がサンプリング開口部2を通過する一般気体流に浮遊させて運ばれる。サンプリング開口部2の背後に膨張チャンバ3を設け、ロータリ羽根真空ポンプにより4で真空排気される。第一開口部2を通過した気体流は超音速自由噴流として膨張し、その中心部分が第二開口部5を通過して真空排気チャンバ60へ入る。第二開口部5はアメリカ合衆国特許5051584に記載のようなスキマーの形である。真空排気チャンバ60にイオン光学装置17(この例ではレンズ群)と、進入口27と排出口28を有する衝突セルが設けられている。衝突セル24は、ターゲット気体26で加圧されたチャンバ内の単純なパッシブ衝突セルである。衝突セル24を出る際には、イオン・ビームは開口部32を通って質量分析器37を内蔵している真空排気したチャンバ33内へ入る。
【0029】
図2は本発明の一実施例を示しており、図1に示した構成部品に対応する部分は同様の番号で表してある。従来技術でのように、ICPイオン源1はイオンを発生し、そのイオンはサンプリング開口部2を通って膨張チャンバ3に入る。膨張チャンバ3はロータリ羽根真空ポンプにより4で真空排気される。第一開口部2を通過する気体流は超音速自由噴流として膨張し、その中心部分は第二開口部5を通過する。
【0030】
本発明では、従来技術の真空排気チャンバ60は、第一真空チャンバ6と第二真空チャンバ20の2つのチャンバに分割してある。第一真空チャンバ6は7の位置で高真空ポンプ、望ましくはターボ分子ポンプにより高真空に維持される。第一真空チャンバ内の圧力は使用するポンプのサイズによるが、10-2から10-4mbar程度で、通常は1−2×10-3mbarである。
【0031】
サンプル・ビームはほぼ中性状態で開口部2を通過すると信じられている。通常−200ボルトから−1000ボルトの負電圧で駆動される抽出レンズ8の影響下では、電子はビームから急速にそらされ、陽イオンはこの装置の軸に沿って開口部5から加速させられる。加速陽イオンはイオン・レンズ10により集められ、比較的大きな径、通常は役20mmの開口部11を通る。平板12がOリング・シール13上をスライドし、開口部11を完全に遮断し密閉するように移動させることが可能である。開口部11は第一真空チャンバ6を第一領域14と第二領域15に分割する。チャンバ6は効率よく真空排気させなくてはならず、第二領域15は相対的に拘束のない透過性を提供しなくてはならない。望ましくは、高真空ポンプ7の径と同等以上とする。
【0032】
平板12が引き下げられていると、開口部11は大きな真空排気透過性を提供し、第一領域14と第二領域15はほぼ同じ圧力であるが、第一領域14内のスキマーに近い圧力は少しばかり高い。第一真空チャンバ6の全体は高真空ポンプ7により高真空に維持される。
【0033】
平板12が開口部11を遮蔽する位置にあると、第二領域15は高真空に維持される。しかし、第一領域14が開口部5のみから真空排気されるので、第二領域15内の圧力は開口部2と5の間にある膨張チャンバ3の圧力とほぼ同じになる。膨張チャンバ3と第一領域14は第二領域15を高真空に維持したままで大気圧に通気可能である。これは汚染する傾向が最もある成分を捕捉容易になり、それらを簡単に除去したり一新したりできる。
【0034】
開口部11を通過したイオンは、イオン光学装置17に向けてイオン・レンズ16により方向づけられる。装置17はイオン・ビームの閉じ込めを助ける。さもなければ、イオン・ビームは陽イオン空間電荷の影響下で急速に分散する傾向があり、大きい感度損失を生み出す。しかし、プラズマからの方向をもった中性気体流は、このイオン光学装置17によって閉じ込められず、真空ポンプ7により、チャンバ6内の一般背面圧に沿って、除去すべきイオン・ビームから分かれる。イオン光学装置17は高多極である4重極、イオン・ガイド、あるいはイオン・レンズである。上記のように、透過増幅装置が質量選択性を持つように作れるなら有利である。望ましくは、4重極であるが、原理的には磁気セクタのように別な質量選択装置も使用できる。
【0035】
イオン光学装置17により透過させたイオンはイオン・レンズ18により集束させられ、開口部19を通って第二真空チャンバ20内に入る。第二真空チャンバ20は21の位置に設けた高真空ポンプ、望ましくはターボ分子ポンプにより第一真空チャンバ6より低い圧力に維持されている。このチャンバの圧力は10-3から10-5mbar程度、通常1−2×10-4mbarである。開口部19は比較的小さな径、通常は2−3mmであり、第一真空チャンバ6と第二真空チャンバ20間の圧力差を作っている。これはチャンバ6からのバックグラウンド気体がチャンバ20に進入するのを防ぎ、チャンバ20への気体負荷を低減し、プラズマからの中性気体負荷によるチャンバ20内の残留圧力を最小にする。この開口部19が絶縁体の上に設けられているなら、開口部を負にバイアスをかけて比較的高い移行エネルギーでイオンが開口部を通過するという利点がある。これは、ビーム内の電荷密度を低下させることと、ビームの分散を最小にすることの両方によって開口部19を通過するイオンの移動を効率良くおこなう助けとなる。
【0036】
イオンはイオン・レンズ23により第二真空チャンバ20内に設けた衝突セル24内へと集束させられる。衝突セル24は進入口27と排出口28を有する。イオン・ビームが開口部19から出てくる際、中性気体流は分散し、衝突セル24の進入口27により削り取られ、衝突セル24への気体負荷はさらに低減できる。衝突セル24内には、多極イオン光学アセンブリ25が設けられている。これは4重極、6重極、8重極が可能である。衝突セル25はイオン・ビームから不要な分子イオンを吸着や微細化のようなメカニズムを経て、他のイオンへの影響を最小に維持しながら除去するための容量に合わせて選択したターゲット気体26で加圧される。通常、ターゲット気体はヘリウムか水素であるが、他の多くの気体も特定の分析要件について利点を示す。
【0037】
開口部27、28は衝突セルからの気体透過性を制限し、チャンバ20および組み合わせた高真空ポンプ21への気体負荷を最小にしながら、比較的高圧、通常は0.001mbarから0.1mbarの範囲で操作することを可能とする。開口部27、28を通ったイオンの移動効率は開口部に負のバイアスを加えることにより改善される。これらは絶縁性気密支持材29、30により衝突セルに取り付けられる。
【0038】
衝突セル24を出たイオンはイオン・レンズ31により加速され、集束されて開口部32を通過する。この開口部はチャンバ20と第三真空チャンバ33間の圧力差を作り、チャンバ33への気体負荷を低減させ、さらにプラズマからの中性気体負荷によるチャンバ内の残留圧力を最小にする。開口部32を絶縁支持材34上に設けることは長所が多い。開口部32はアースに対して負電圧、通常−100ボルトのバイアスをかけることができ、イオンが比較的高い移動エネルギを持って開口部を通過する。これは、ビーム内の電荷密度を低下させ、かつビームの分散を最小にすることにより開口部32をイオンが移動効率よく通過することを助ける。
【0039】
比較的高い移動エネルギでイオンが開口部32を通過し、望ましくは同じ程度以上のエネルギで二重デフレクタ35を通過する。デフレクタ35はイオン・ビームを初めの装置軸9から4重極マスフィルタ37の軸36に沿って偏向させる。このマスフィルタ37はイオン・ビームの質量分析に使用される。二重デフレクタ35は2個の小さな円筒状静電セクタで形成され、直列で交差結合させたものが有利である。この構成により、ICPMS装置に一般的に存在する未解決のベースライン・ノイズ信号を1CPSより下に減少させる特別な効果が見られた。
【0040】
選択したm/eあるいはm/eレンジのイオンは、普通は電子倍増管である検出器38に透過させる。電子倍増管38の第一ダイノードは4重極マスフィルタの軸36よりオフセットされており、これが未解決のベースライン・ノイズ信号を最小にする助けとなる。マスフィルタ37と検出器38の両方は第三真空チャンバ33内に収納され、チャンバ33は高真空ポンプ39によって第二真空チャンバ20の圧力よりも低く維持される。チャンバ33の圧力は10-4mbar未満であり、通常は約10-6mbarであるが、あるタイプのイオン検出器は2−5×10-5mbarの圧力で操作することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 ICPイオン源、2 第一開口部、3 膨張チャンバ、5 第二開口部、6 第一真空チャンバ、17 イオン光学装置、19 第三開口部、20 第二真空チャンバ、25 多重中イオン光学アセンブリ(第二イオン光学装置)、32 第4開口部、33 チャンバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマに導入したサンプルからイオンを発生させる手段(1)と;
イオン・ビームを形成するために上記イオンの一部を第一軸(9)に沿った真空排気した膨張チャンバ(3)内へと透過させるためのサンプリング開口部(2)と;
第一真空チャンバ(6)内に上記イオン・ビームの一部を透過させる第二開口部(5)と;
上記第一真空チャンバ(6)を高真空に維持するための第一ポンプ(7)と;
イオン・ビームを閉じ込めるため上記第一真空チャンバ(6)内に設けた第一イオン光学装置(17)と;
上記イオン・ビームを第二真空チャンバ(20)内に透過させるための第三開口部(19)と;
上記第二真空チャンバ(20)を上記第一真空チャンバ(6)より低い圧力に維持するための第二ポンプ(21)と;
上記第二真空チャンバ(20)内に設けられ、進入開口部(27)と排出開口部(26)を有し、ターゲット気体で加圧された衝突セル(24)と;
上記イオン・ビームを閉じ込めるため上記衝突セル(24)内に設けた第二イオン光学装置(25)と;
上記イオン・ビームの質量スペクトルを作るために、第二軸(36)に沿って設けた該イオン・ビームを質量分析するための質量対電荷比分析手段(37)を内蔵し、第三真空チャンバ(33)内へ上記イオン・ビームを透過させるための第四開口部(32)と;
上記第二真空チャンバ(20)より低い圧力に上記第三真空チャンバ(33)を維持するための第三ポンプ(39)とを有することを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
上記第一真空チャンバ(6)は、約10-2から10-4mbarの圧力に維持されることを特徴とする、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
上記第一真空チャンバ(6)は、約1−2×10-3mbarの圧力に維持されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の質量分析計。
【請求項4】
上記第三開口部(19)と上記衝突セル(24)の進入開口部(27)間は少なくとも2cmの間隙を有することを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項5】
上記イオン源(1)と上記衝突セル(24)の進入開口部(27)との距離は90から200mmであることを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項6】
上記質量対電荷比分析手段(37)は主マスフィルタ、望ましくはRF4重極を有することを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項7】
上記第一イオン光学装置(17)は質量選択装置であることを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項8】
上記第一イオン光学装置(17)はRF4重極であることを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項9】
上記第二イオン光学装置(25)はRF4重極であることを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項10】
上記第二イオン光学装置(25)は質量選択装置であることを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項11】
上記質量対電荷比分析手段(37)の第二軸(36)は上記第一軸(9)からオフセットされることを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項12】
上記第一真空チャンバ(6)は、負電位で駆動される抽出レンズ(8)を内蔵し、膨張チャンバに隣接した第一領域(14)と、衝突セル(24)に隣接しイオン光学装置(17)を内部に設けた第二領域(15)とを、Oリング・シール部材(13)上の平板(12)により開口部を密閉可能とした大きな径の開口部(11)によって分割されることを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−27619(P2010−27619A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244113(P2009−244113)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2000−570816(P2000−570816)の分割
【原出願日】平成11年9月16日(1999.9.16)
【出願人】(501104823)サーモ エレクトロン マニュファクチュアリング リミテッド (2)
【Fターム(参考)】