説明

不陸調整機能と美観を伴った表面仕上げ機能を有したモルタル組成物及びその工法

【課題】 型枠を用いて打設されたコンクリート構造物型枠面の2mm〜25mmの不陸調整と白華、中性化、収縮ひび割れに強く、かつ美観性能を有した表面仕上げをコテやヘラを用いて塗りつける工程により作業性良く一度に効率的に出来るモルタル組成物とその工法を提供する。
【解決手段】 組成物の主成分として、セメント、樹脂、酸化チタン、膨張材、高級脂肪酸、細骨材、無機顔料、水からなり、セメント100重量部に対し、アクリル系再乳化粉末樹脂2〜8重量部、酸化チタン3〜20重量部、膨張材2〜10重量部、高級脂肪酸0.1〜3重量部の範囲で添加されたものに、細骨材、無機顔料、水で調整してなるモルタル組成物材料を用い、コテや、ヘラで塗りつける工法で行う事を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠を用いて打設されたコンクリート構造物表面の不陸調整と美観を伴った表面仕上げを一度に出来る材料及びその工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物築造工事では、鋼製又は木製又は樹脂製の型枠を用いて枠組みし、その中へコンクリートを打設する方法が多い。
【0003】
コンクリート打設後所定の養生が終了し自立強度が確保されると、型枠を取り外す脱型という作業が行われる。
【0004】
脱型されたコンクリート構造物の表面は、コンクリートの種類、打設方法、季節条件により、用いられた型枠の模様、凹凸、つなぎ目、気泡、ジャンカ、トロ漏れが発生する事が一般的である。
【0005】
そのため、脱型されたコンクリート構造物の表面をそのままにすれば、構造不良、寸法不良となり、加えてコンクリートの性質上経時劣化により表面から白華、中性化、収縮ひび割れが進行し外観不良となる。
【0006】
そのような不具合を対処する方法として、構造不良、寸法不良を修正するために不陸調整用モルタルが開発されている。(例えば特許文献1参照)
【0007】
さらに、樹脂性能を利用し、コンクリートの表面の白華、中性化、収縮ひび割れからの保護を目的とした5mm以下の不陸調整機能を有したモルタルが開発されている。(例えば特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)
【0008】
【特許文献1】特開2001−39755号公報
【特許文献2】特開2002−80254号公報
【特許文献3】特開2008−37717号公報
【特許文献4】特開2004−225375号公報
【0009】
しかしながら、5mm以上の寸法不良を修正するための不陸調整用モルタルは、美観を伴った表面仕上げ機能を有したものが無く、最終的に耐候性能の大きいアクリル、ウレタン、シリコン、フッ素系塗料の材料で塗装する方法となり、モルタル材料のコテ又はヘラ塗りと、塗料系材料の刷毛又はローラー塗りの、2工程を踏むこととなり、使用する道具も増えるため、作業効率が悪い。
【0010】
また、不陸調整を兼ね下地のコンクリートを保護し美観を伴った表面仕上げ機能を有したモルタル材料は、樹脂性能を利用したものしかなく、樹脂の添加量に左右され、経時劣化による表面からの白華、中性化、収縮ひび割れに対する性能を上げるためには、樹脂の含有量を増やすしかなく、そのため材料粘性が大きくなりべとつくため、コテやヘラに付着してしまい作業性が悪くなり、薄く延ばす方法しかとれず、5mm以上の段差を一度に修正することが出来ないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、型枠を用いて打設されたコンクリート構造物型枠面の2mm〜25mmの不陸調整と表面仕上げを白華、中性化、収縮ひび割れに強く、美観性能を有した作業性の良いモルタル組成物材料を用い、コテやヘラを用いた塗りつけ工法で一度に塗りつけ仕上げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意開発を行った結果、モルタル材料をコテやヘラを用いて塗りつける工法で作業性が良好かつ一度に5mm以上の厚塗りが可能であり、施工後のモルタルの白華、中性化、収縮ひび割れ性能に優れたモルタル材料にするためには、アクリル系再乳粉末樹脂量の範囲を限定し、酸化チタン、膨張材、高級脂肪酸を適正量添加し、細骨材、無機顔料、水で調整したモルタル組成物材料を用いて施工すれば良好な結果が出ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
前記モルタル組成物材料は、セメント100重量部に対し、アクリル系再乳化粉末樹脂2〜8重量部、酸化チタン3〜20重量部、膨張材2〜10重量部、高級脂肪酸0.1〜3重量部の範囲で添加された材料を、細骨材、無機顔料、水で調整してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のモルタル組成物材料を用いることにより、型枠を用いて打設されたコンクリート構造物型枠面の2mm〜25mmの不陸調整と白華、中性化、収縮ひび割れに強く、かつ美観性能を有した表面仕上げが、コテやヘラを用いて塗りつける工法により1回で行えることとなり、従来工法による、比較的不陸の大きい部分を一般の美観や白華、中性化、収縮ひび割れ性能を考慮していない不陸調整用モルタルを用いて塗りつけ、その後耐候性能の大きいアクリル、ウレタン、シリコン、フッ素系塗料の材料で刷毛やローラーを用いて仕上げるような2工程の施工手順をとる工法や、樹脂性能を利用した粘性の大きい弾性系モルタル材料を使用し、5mm以下の薄塗り工程を何度も繰り返し厚さを確保する工法に比べて本発明のモルタル組成物材料を用いた工法は、作業工程が減る、材料の塗りつけ道具が減るということから、効率的かつ合理的に作業が行えることとなり、降雨等の気象条件で左右されやすい外壁等の施工を行う際には、工数が減ることは特に効果が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の不陸調整機能と美観を伴った表面仕上げ機能を有したモルタル組成物は、セメント100重量部に対し、アクリル系再乳化粉末樹脂2〜8重量部、酸化チタン3〜20重量部、膨張材2〜10重量部、高級脂肪酸0.1〜3重量部の範囲で添加された材料を、細骨材、無機顔料、水で調整してなることを特徴とするものである。
【0016】
本発明に使用されるセメントは、従来から土木建築に用いられている一般的なセメントであれば、特に限定されず、例えば、ポルトランドセメント、白色セメント、高炉セメント、急硬性セメント、フライアッシュセメント等が挙げられ、これらを混合して用いても良いが、ポルトランドセメント、白色セメントを使用するのがコスト的に好ましい。
【0017】
本発明に使用されるアクリル系再乳化粉末樹脂は、従来より樹脂モルタルとしてセメントに添加されプレミックスセメント材料で使用されているものであれば、特に限定されないが、JIS A 6203にて規定されている品質を有するセメント混和用再乳化粉末樹脂を用いることが、信頼性がある。
【0018】
本発明に使用する酸化チタンは、従来よりモルタルやコンクリートに白色を付けるための顔料として用いられているものであれば特に限定されない。
【0019】
本発明に使用する膨張材は従来よりモルタルやコンクリートに添加され使用されている石灰系、カルシウムサルフォアルミネート系のいずれか1種類以上からなるものであれば特に限定されない。
【0020】
本発明に使用する高級脂肪酸は、ステアリン酸類であれば特に限定されないが、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムの何れか1種類以上を用いることが好ましい。
【0021】
本発明で調整用として使用される骨材及び無機顔料としては従来からモルタルやコンクリートで使用されているものであれば特に限定されないが、骨材に関しては、汎用性、入手容易性において川砂、珪砂、炭酸カルシウム、パーライト等の軽量骨材の混合品を用いることが好ましい。また、無機顔料としては、酸化鉄等が挙げられる。
【0022】
また、本発明の不陸調整機能と美観を伴った表面仕上げ機能を有したモルタル組成物は、上記成分以外にも本発明の作用を阻害しない範囲で例えば、消泡剤、増粘剤、保水材、減水剤、硬化促進材、硬化遅延材、無機質繊維、有機質繊維、有機顔料、防腐剤、抗菌剤、撥水剤、EVA系再乳化粉末樹脂等を混和させてもよい。
【0023】
また、本発本発明の不陸調整機能と美観を伴った表面仕上げ機能を有したモルタル組成物を有効に実施出来る施工方法は、コテやヘラを用いた工法であるが、その過程において、本発明の作用を阻害しない範囲で、コンクリート下地へのプライマー処理、水打ち処理を施すことが好ましい。また、準備の工程としては、コンクリート構造物表面に付いた離型剤分、ほこり、レイタンスの除去を行うことが好ましい。
【0024】
本発本発明の不陸調整機能と美観を伴った表面仕上げ機能を有したモルタル組成物は、粘り気が少なく、コテやヘラを用いて塗りつける工法を行うにあたり、作業性に優れ、モルタルがフレッシュな状態の時にだれにくく25mmまでの厚塗りが可能なため、コテやヘラにより様々な形や模様を成型することが可能である。
【実施例】
【0025】
以下実施例を用いて、不陸調整機能と美観を伴った表面仕上げ機能を有したモルタル組成物を詳細に説明するが、実施例のみに限定されるわけではない。
【0026】
セメントと骨材と水の重量比が1:1:0.5となる水セメント比が50%のモルタルを基本配合とし、基本配合に本発明で有効となるアクリル系再乳化粉末樹脂、酸化チタン、膨張材、高級脂肪酸の割合を変化させて加え、色調を得るために無機顔料を添加し、混和剤、繊維等を用い、左官コテで施工可能な状態の柔らかさとした材料約2.5kgを高速ハンドミキサにて十分に撹拌して作成し、本発明が有効となる配合の割合を試験した。
【0027】
【表1】

(実施例1〜7)
表1に示す実施例1〜7の配合において、本発明におけるモルタルで有効な成分であるアクリル系再乳化粉末樹脂、酸化チタン、膨張材、高級脂肪酸の添加量を変化させ性能評価を行った。
(比較例1〜8)
表1に示す比較例1、2はアクリル系再乳化粉末樹脂の添加量、比較例3、4は酸化チタンの添加量、比較例5、6は膨張材の添加量、比較例7、8は高級脂肪酸の添加量に着目して性能評価を行った。
【0028】
※以下に試験配合に用いた商品名を表す。
セメント:太平洋セメント社製 普通ポルトランドセメント
アクリル系再乳化粉末樹脂:日本合成化学社製 モビニールLDM7000P
酸化チタン:戸田工業社製 チタンホワイト
膨張材:電気化学工業社製 CSA#10
高級脂肪酸:試薬 ステアリン酸カルシウム
細骨材:トーヨーマテラン社製 シリカサンド5号
無機顔料:ランクセス社製 バイフェロックス920G
繊維:日本電気硝子社製 チョップドストランドACS6H−103
増粘剤:信越化学工業社製 Hiメトローズ90SH4000
保水材:ホージュン社製 ベントナイト榛名
減水剤:花王社製 マイティー21P
【0029】
試験方法
(1)塗り厚さ及び作業性評価
環境温度20±2℃の試験場にて、コンクリートブロックを用い、段差を付けて積み付けた壁面に、実施例1〜7、比較例1〜8のモルタル試験材料を約2.5kg練り上げ、左官コテを用いて、厚さ2mm以上を塗りつけ以下の基準にて評価を行った。
○:厚さ25mm以上塗りつけ可能、コテにべとつかず作業性良好
△:厚さ10〜25mm塗りつけ可能、コテに多少べとつくが作業性比較的良好
×:厚さ25mm塗りつけ不可能、コテにべとつき有り、ダレ有り、作業性悪い
【0030】
(2)白華性
モルタル材料の1次白華が発生しやすいように、3±2℃の環境を有する試験場にて、吸水性能の高いコンクリートブロックを設置し、上記(1)の評価試験と同様に練り上げられたモルタル試験材料を厚さ2〜25mmになるように左官コテで塗りつけ、24時間後2次白華を狙い、スプレーにて水を試験材料にまんべんなく噴霧する作業を2時間おきに4回、翌日も同様に4回、この作業を3日間繰り返しその後14日間放置し以下の基準にて評価を行った。
○:白華無し
△:表面に薄い白華現象がみられるが、手でこすると消える程度
×:白華現象多い
【0031】
(3)中性化抑制試験
20±2℃環境の試験室にて、上記(1)の評価試験と同様に練り上げられたモルタル試験材料を40×40×160mmの直方体型枠に打設し、翌日脱型した供試体を屋外に炭酸ガス濃度5%、相対湿度60±10%、温度20±2℃の環境試験下で28日間養生後、割裂し、フェノールフタレイン1%溶液を塗布し、中性化深さを測定し以下の基準にて評価を行った。
○:中性化深さが平均して3mm以下で、中性化抑制効果がある
×:中性化深さが平均して3mm以上で、中性化抑制効果が乏しい
【0032】
(4)ひび割れ評価試験
20±2℃環境の試験室にて、上記(1)の評価試験と同様に練り上げられたモルタル試験材を300×300の面積を有するコンクリート製の平板全面に厚さ5mmにて塗りつけ、翌日以降屋外に28日暴露後目視にてひび割れの有無を確認し以下の基準にて評価を行った。
○:ひび割れ無しで良好
×:ひび割れあり
【0033】
(5)美観性能評価試験(促進耐候性評価試験)
上記(1)の評価試験と同様に練り上げられたモルタル試験材料を用いて90×90×10mmの供試体を作成し、スーパーUV試験装置(機械メーカー:Q Lab Corporation製)を用い、波長QUV−A340nm、温度60℃、照度0.71W/mの設定にて、UV照射及び4時間毎のミスト噴霧を繰返し300時間行ったものと、試験装置を用いず、20±2℃の環境条件に静置しておいたものとの比較を目視にて以下の基準にて評価を行った。
○:違いが見られない
△:部分的に色落ちがみられる程度
×:変色又は、色落ちが激しい
【0034】
上記試験(1)〜(5)の結果を表2に示した。
【表2】

【0035】
評価結果
以下、表1及び表2を用いて、セメント100重量部に対してその他の構成材料の重量部の変化により、評価結果を説明することとする。
【0036】
比較例2のように、アクリル系再乳化粉末樹脂10重量部の添加量では多く、モルタルがべとついてしまい作業性が悪い。しかし、実施例3によりアクリル系再乳化粉末樹脂が8重量部の添加量になると、べとつきが無く作業性が良好であった。比較例4のように、酸化チタンの添加量が25重量部になると、モルタルが柔らかくなりダレが発生し、25mm以上の塗り厚さを確保出来なくなり、更に硬化遅延が発生した。比較例8のように高級脂肪酸の添加量が4重量部になると、材料の混ざりが悪くばさつきが出て作業性が悪い結果となった。
【0037】
比較例1のように、アクリル系再乳化粉末樹脂0.5重量部の添加量では少なく、モルタル仕上げ表面に緻密性が無く白華性能が落ちた。また、比較例7のように、高級脂肪酸が添加されていない場合は、モルタル表面の水分の流出入が多くなり白華した。しかし、実施例6のように高級脂肪酸の添加量が0.1重量部であると、白華性能はかなり改善された。
【0038】
比較例3のように、酸化チタン2重量部の添加量では少なく、中性化抑制効果に劣る。比較例5では膨張材の添加量が少なく表面に数本の微細な収縮ひび割れが生じ、また、比較例6では膨張材の添加量が多く表面に亀甲状の膨張ひび割れが発生し、何れもひび割れ部の中性化がひどい状態となった。
【0039】
促進耐候性評価試験での変色による美観損失は、比較例3の酸化チタン2重量部の添加量では少なく色落ちし、比較例5及び6の膨張材の添加量では表面ひび割れが発生しそこから変色が発生し美観が損なわれる結果となった。
【0040】
上記評価結果により、アクリル系再乳化粉末樹脂の添加量が2を下回ると白華、中性化に対する性能が発揮されず、8を上回ると材料にべとつきが出てしまい作業性が劣る。酸化チタンの添加量が3を下回ると中性化、変色に対する性能が発揮されず、20を上回るとダレと硬化遅延を引き起こし不具合が起こる。膨張材の添加量が2を下回ると収縮ひび割れが発生し、10を上回ると膨張ひび割れが発生し、いずれもひび割れから不具合が発生する。高級脂肪酸の添加量が0.1を下回るとモルタル表面の水の吸排出が多くなり白華を引き起こしやすく、3を上回ると材料にばさつきが発生してしまい作業性が悪くなる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発本発明の不陸調整機能と美観を伴った表面仕上げ機能を有したモルタル組成物は、コテ作業性が良く、下地コンクリートの不陸が25mmまでなら、1回のコテ作業により修正出来、かつ白華抑制性能、中性化抑制性能、収縮ひび割れ抑制性能、耐候性に優れ表面美観を保つことが出来る性能を有することから、短時間で不陸調整と仕上げの工程を行いたい場合や、凹凸の大きい模様をつけて仕上げる必要のある構造物の表面仕上げ材としても使用出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント100重量部に対し、アクリル系再乳化粉末樹脂2〜8重量部、酸化チタン3〜20重量部、膨張材2〜10重量部、高級脂肪酸0.1〜3重量部の範囲で添加された材料を、細骨材、無機顔料、水で調整してなるモルタル組成物及びその施工方法。
【請求項2】
請求項1記載のモルタル組成物を、コテやヘラを用いて2mm〜25mmの厚さで一度に塗りつけ仕上げる工法によることを特徴とする施工方法。
【請求項3】
請求項1記載の膨張材は、石灰系、カルシウムサルフォアルミネート系のいずれか1種類以上からなるものであることを特徴とするモルタル組成物。
【請求項4】
請求項1記載の高級脂肪酸は、ステアリン酸類を用いることを特徴とするモルタル組成物。
【請求項5】
請求項4記載のステアリン酸類とは、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムの何れか1種類以上を用いた請求項1記載によるモルタル組成物。

【公開番号】特開2013−23429(P2013−23429A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174359(P2011−174359)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(593084638)トーヨーマテラン株式会社 (3)
【Fターム(参考)】