説明

不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸合成用触媒

【課題】 反応原料を分子状酸素で気相接触酸化して目的物を高収率で製造でき、また機械的強度の高い触媒、その触媒の製造方法、並びに不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】 プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコールまたはメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素で気相接触酸化して不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を合成するための触媒であって、モリブデンおよびビスマスを含む触媒成分と、平均粒径が10μm〜2mmかつ平均厚さが平均粒径の0.005〜0.3倍の鱗片状無機物とを含有する触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール(以下、略して「TBA」ともいう。)またはメチル第三級ブチルエーテル(以下、略して「MTBE」ともいう。)を分子状酸素で気相接触酸化して不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を合成する際に使用する触媒(以下、単に「触媒」ともいう。)、その触媒の製造方法、並びに不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、TBAまたはMTBE(以下、これらをまとめて「反応原料」ともいう。)を分子状酸素で気相接触酸化して不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸(以下、両者をまとめて「目的物」ともいう。)を製造するための触媒として、モリブデンおよびビスマスを含む複合酸化物触媒が知られている。例えば、特許文献1には、リング状に成形したモリブデンおよびビスマスを含む触媒に無機質繊維を含有させたものが開示されている。また無機質繊維としては、50μm〜1.5mmの平均繊維長、2μm〜20μmの平均直径を有する、ガラス繊維、アルミナ繊維およびシリカ繊維から選ばれる少なくとも1種が使用できることも開示されている。
【特許文献1】特開2002−273229号公報
【0003】
しかしながら、この方法で得られる触媒は目的物の収率が必ずしも十分ではなく、また機械的強度が必ずしも十分ではないので、工業的見地からさらなる改良が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、反応原料を分子状酸素で気相接触酸化して目的物を高収率で製造でき、また機械的強度の高い触媒、その触媒の製造方法、並びに不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、プロピレン、イソブチレン、TBAまたはMTBEを分子状酸素で気相接触酸化して不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を合成するための触媒であって、モリブデンおよびビスマスを含む触媒成分と、平均粒径が10μm〜2mmかつ平均厚さが平均粒径の0.005〜0.3倍の鱗片状無機物とを含有する触媒である。
【0006】
また本発明は、触媒原料を含む溶液またはスラリーを乾燥し、次いで焼成して得られた焼成物と、平均粒径が10μm〜2mmかつ平均厚さが平均粒径の0.005〜0.3倍の鱗片状無機物を混合し、成形する工程を含む前記の触媒の製造方法である。
【0007】
さらに本発明は、前記の触媒の存在下で、プロピレン、イソブチレン、TBAまたはMTBEを分子状酸素を用いて気相接触酸化する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、反応原料を分子状酸素で気相接触酸化して目的物を高収率で製造でき、また機械的強度の高い触媒、その触媒の製造方法、並びに不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の触媒は、プロピレン、イソブチレン、TBAまたはMTBEを分子状酸素で気相接触酸化して目的物を合成するための触媒であって、モリブデンおよびビスマスを含む触媒成分と、特定の鱗片状無機物とを含有するものである。触媒成分には、モリブデンおよびビスマスの他に、例えば、鉄、ケイ素、コバルト、ニッケル、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、亜鉛、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン、チタン、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム等を含んでいてもよい。
【0010】
モリブデンおよびビスマスを含む触媒成分としては、次の式(1)の組成のものが好ましい。
MoBiFeSi (1)
(式(1)において、Mo、Bi、Fe、SiおよびOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素および酸素を、A元素はコバルトおよびニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を、X元素はクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタルおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を、Y元素はリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモンおよびチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を、Z元素はリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素をそれぞれ示す。a、b、c、d、e、f、g、hおよびiは各元素の原子比率を表し、a=12のときb=0.01〜3、c=0.01〜5、d=1〜12、e=0〜8、f=0〜5、g=0.001〜2、h=0〜20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【0011】
式(1)の組成では、モリブデン、ビスマス、鉄、A元素、Z元素および酸素は必須元素であり、X元素、Y元素およびケイ素は任意元素である。bは0.05〜2が好ましい。cは0.05〜4が好ましい。dは2〜10が好ましい。gは0.01〜1.5が好ましい。後述する触媒成分の原料(以下、「触媒原料」ともいう。)の配合比を調整することで、目的とする触媒における各元素の原子比率(aおよびb〜h)を上記範囲で任意に設定することができる。触媒成分(触媒から鱗片状無機物等の添加物を除いたもの)の酸素以外の組成は、例えば触媒をアンモニア水に溶解したものをICP発光分析法と原子吸光分析法で分析することができる。
【0012】
本発明において鱗片状無機物(以下、「鱗片物」ともいう。)とは、フレーク形状または薄片形状等とも呼ばれるいわゆる鱗片形状の無機物を意味する。鱗片物は、平均粒径が10μm〜2mmの範囲にあり、かつ平均厚さが平均粒径の0.005〜0.3倍の範囲にあるものである。鱗片物の平均粒径は30μm〜1mmの範囲が好ましく、70μm〜500μmの範囲がより好ましい。また鱗片物の平均厚さは平均粒径の0.007〜0.2倍の範囲が好ましく、平均粒径の0.01〜0.1倍の範囲がより好ましい。平均粒径はレーザー回折法によって体積基準で測定したものであり、平均厚さは無作為に抽出した鱗片物50枚を電子顕微鏡で観察して測定したものである。
【0013】
鱗片物の平均粒径は製造した触媒中のものであり、平均粒径が10μm〜2mmの鱗片物を用いて触媒を製造することが好ましいが、触媒の製造過程で鱗片物が平均粒径10μm〜2mmに細粒化する場合は平均粒径が2mmを超える鱗片物を用いて触媒を製造することもできる。後者の方法としては、例えば、触媒成分、触媒成分の前駆体、触媒原料等と鱗片物とを混合した後、強く攪拌して、鱗片物を切断する方法が挙げられる。しかし、後者の場合、触媒中に鱗片物が均一に分散しないことがあるので、前者の方法が好ましい。
【0014】
鱗片物の成分は無機質であれば特に限定されないが、例えば、ガラス、アルミナ、シリカ、セラミック、カーボン等が挙げられ、なかでも目的物の収率の面でガラス、アルミナ、シリカが好ましく、特にガラスが好ましい。
【0015】
鱗片物の種類は、1種類でも2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。2種類以上の鱗片物の組み合わせとしては、例えば、異なる種類の鱗片物の組み合わせ、同じ種類で平均粒径や厚さの異なる鱗片物の組み合わせ、同じ種類でガラス組成等の組成の異なる鱗片物の組み合わせ、異なる成分の鱗片物の組み合わせ等が挙げられる。
【0016】
触媒に含まれる鱗片物の量は、触媒成分100質量部に対して0.1〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは3〜8質量部である。鱗片物の量は多いほど機械的強度が向上する傾向があり、少ないほど反応器に充填できる触媒成分の量を増やすことができる。
【0017】
本発明の触媒は鱗片物を添加する点を除けば、公知の不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用触媒の調製に一般に用いられている方法に準じて製造することができる。
【0018】
例えば、触媒原料の溶液またはスラリー(以下、「触媒原料液」ともいう。)を乾燥および/または焼成して得られた触媒成分またはその前駆体に鱗片物を混合して得られた混合物を成形する方法、触媒原料液に鱗片物を添加したものを乾燥して得られた触媒成分の前駆体を成形した後に焼成する方法、触媒原料液に鱗片物を添加したものを乾燥し、焼成して得られた触媒成分を成形する方法等が挙げられる。ここで触媒成分とは焼成物であり、触媒成分の前駆体とはモリブデンおよびビスマスを含む触媒原料液の乾燥物等である。
【0019】
触媒原料液を調製する方法は特に限定されず、成分の著しい偏在を伴わない限り、従来からよく知られている沈殿法、酸化物混合法等の種々の方法を用いることができる。触媒原料液の調製に用いる触媒原料としては、各元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ハロゲン化物、有機酸塩、アルカリ金属塩等を使用することができる。例えば、モリブデン原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン等が挙げられる。触媒成分の原料は各元素に対して1種を用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。触媒原料液を調製する際に触媒原料と混合する液体としては、水、アルコール、ケトン、炭化水素等の有機溶媒が挙げられるが、取り扱い性の点で水が好ましい。すなわち、触媒原料液としては、水溶液または水性スラリーが好ましい。
【0020】
触媒原料液を乾燥する方法は特に限定されず、例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法、スラリードライヤーを用いて乾燥する方法、ドラムドライヤーを用いて乾燥する方法、蒸発乾固する方法等が適用できる。これらの中では、乾燥と同時に粒子が得られること、得られる粒子の形状が整った球形であることから、スプレー乾燥機を用いて乾燥球状粒子を得ることが好ましい。乾燥条件は乾燥方法により異なるが、スプレー乾燥機を用いる場合、入口温度は100〜500℃が好ましく、出口温度は100℃以上が好ましく、より好ましくは105〜200℃である。
【0021】
このようにして得られた乾燥物は、触媒原料等に由来する硝酸等の塩を含んでいることがあり、乾燥物を成形した後に焼成すると塩の分解により成形品の強度が低下する恐れがある。このため、成形前に焼成して焼成しておくことが好ましい。焼成条件は特に限定されず、公知の焼成条件を適用することができる。焼成は、酸素、空気、窒素、窒素酸化物等の存在下、200〜600℃の温度範囲で行うことが好ましく、焼成時間は目的とする触媒によって適宜選択される。
【0022】
触媒成分またはその前駆体と鱗片物とを混合する方法は特に限定されないが、例えば、双腕式ニーダー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー等を使用する方法が挙げられ、中でも双腕式ニーダー、リボンミキサーを使用することが好ましい。
【0023】
鱗片物の添加方法は特に限定されず、完成触媒中に鱗片物が分散されて含有されるようにし得るものであれば、いずれの方法も用いることができる。また鱗片物は一括して添加してもよいが、例えば、一部を触媒原料液に添加し、残りを焼成して得られた触媒成分に添加する方法のように分割して添加してもよい。
【0024】
成形方法は特に限定されず、例えば、公知の押出成形、打錠成型、担持成形、転動造粒等の方法が挙げられる。中でも触媒の生産性が高いという理由で打錠成型方法、押出成形方法が好ましい。成形品の形状は特に限定されず、例えば、球状、円柱状、リング状(円筒状)、星型状等の形状が挙げられ、中でも機械的強度の高い球状、円柱状、リング状が好ましい。リング形状の場合は、外径が3〜10mm、長さが外径の0.5〜2倍、内径が外径の0.1〜0.7倍である縦軸方向の貫通孔を有するものが好ましい。成形の際には、成形助剤として一般的に用いられているポリビニルアルコール、ステアリン酸、硝酸アンモニウム、グラファイト、水、アルコール等を必要に応じて使用することができる。
【0025】
得られた成形品は焼成することが好ましいが、成形前に焼成している場合は省略してもよい。省略した場合はこの成形品が触媒であり、焼成した場合はその焼成品が触媒である。焼成方法は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の条件は、用いる原料化合物、触媒成分の組成、調製法等によって異なるが、空気等の酸素含有ガス流通下または不活性ガス流通下で、200〜600℃、0.5時間以上が好ましい。ここで、不活性ガスとは、触媒の反応活性を低下させない気体のことをいい、具体的には、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。焼成処理は加熱装置を用いて行ってもよいが、成形品を反応器に充填してその中で行ってもよい。
【0026】
次に、本発明の不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法について説明する。本発明の目的物の製造方法は、本発明の触媒の存在下で、反応原料を分子状酸素で気相接触酸化して目的物を製造するものである。ここで、不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸とは、具体的には、反応原料がプロピレンの場合にはアクロレインおよびアクリル酸を指し、それ以外の反応原料の場合にはメタクロレインおよびメタクリル酸を指す。
【0027】
気相接触酸化反応は、固定床で行うことが好ましい。その場合の触媒層は、特に限定されず、触媒のみの無希釈層でも、不活性担体を含んだ希釈層でもよく、単一層でも異なる2種類以上の層を含む複数層であってもよい。反応には、反応原料と分子状酸素とを含む原料ガスを用いる。
【0028】
原料ガス中の反応原料の濃度は特に限定されないが、1〜20容量%が好ましい。反応原料は一種を用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化し
た空気等も用いることができる。原料ガス中の反応原料と酸素のモル比(容量比)は1:0.5〜1:3の範囲が好ましい。
【0030】
原料ガスは反応原料と分子状酸素以外に水を含んでいることが好ましい。原料ガス中の水の濃度は、1〜45容量%が好ましい。また、原料ガスは窒素、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。
【0031】
反応圧力は大気圧から数100kPaまでが好ましい。反応温度は200〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。接触時間は1.5〜15秒が好ましく、2〜10秒がより好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。実施例及び比較例中の「部」は質量部であり、原料ガスおよび反応ガスは、ガスクロマトグラフィーにより分析した。また、触媒組成は触媒原料の仕込み量から求めた。
【0033】
実施例および比較例のプロピレンまたはイソブチレンの反応率(以下、単に「反応率」ともいう。)、生成する不飽和アルデヒドまたは不飽和カルボン酸の選択率、生成する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の合計収率(以下、単に「合計収率」ともいう。)は次式により算出した。
反応率(%)=A/B×100
不飽和アルデヒドの選択率(%)=C/A×100
不飽和カルボン酸の選択率(%)=D/A×100
収率(%)=(C+D)/B×100
ここで、Aは反応したプロピレンまたはイソブチレンのモル数、Bは供給したプロピレンまたはイソブチレンのモル数、Cは生成した不飽和アルデヒドのモル数、Dは生成した不飽和カルボン酸のモル数である。
【0034】
機械的強度の指標である落下粉化率は、長手方向が鉛直になるように設置され、下側開口部がステンレス製の板で閉止された内径2.75cm、長さ6mのステンレス製円筒の上側開口部から触媒100gを落下させて円筒内に充填し、下側開口部を開いて回収した触媒のうち、目開き1mmのふるいを通過しないものの質量がXgであったとすると、落下粉化率は次のように算出される。落下粉化率は小さいほど機械的強度が高く、大きいほど機械的強度が低い。
落下粉化率(%)={(100−X)/100}×100
【0035】
(実施例1)
純水1000部に、パラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム6.2部、硝酸セシウム23.0部、三酸化アンチモン27.4部および三酸化ビスマス33.0部を加え、加熱攪拌した(A液)。別に純水1000部に、硝酸第二鉄209.8部、硝酸ニッケル75.5部、硝酸コバルト460.2部、硝酸鉛31.3部および85%リン酸5.6部を順次加え、溶解した(B液)。A液にB液を加えて水性スラリーとした後、この水性スラリーをスプレー乾燥機によって平均粒径60μmの乾燥球状粒子とした。この乾燥球状粒子を300℃で1時間、510℃で3時間焼成して焼成物とした。
【0036】
得られた焼成物500部に対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロース15部およびカードラン10部を加え、乾式混合した。ここに温度が5℃の純水190部に平均粒径140μm、平均厚さ5μmの鱗片状ガラス25部を均一に混合したスラリーを、1.8L/min.の速度で混合し、混練り機で粘土状になるまで混合(混練り)した後、ピストン式押出し成形機を用いて成形し、外径5mm、内径2mm、平均長さ5mmのリング状の成形体を得た。
【0037】
次いで、得られた成形体を熱風乾燥機によって110℃で乾燥して成形体の乾燥品を得た。この成形体の乾燥品を400℃で3時間再度焼成して触媒を製造した。この触媒の鱗片状ガラスと酸素を除く組成(以下同じ)はMo120.1Bi0.6Fe2.2Sb0.8Ni1.1Co6.7Pb0.40.2Cs0.5であり、落下粉化率は0.3%であった。
【0038】
この触媒をステンレス製反応管に充填し、イソブチレン5容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%および窒素73容量%の原料ガスを用い、大気圧下、接触時間3.6秒、反応温度340℃で反応させた。その結果、イソブチレンの反応率98.0%、メタクロレインの選択率89.9%、メタクリル酸の選択率4.1%、合計収率91.2%であった。
【0039】
(実施例2)
平均粒径140μm、平均厚さ5μmの鱗片状ガラスに代えて、平均粒径50μm、平均厚さ4μmの鱗片状ガラスを使用した以外は、実施例1と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表1に示した。
【0040】
(実施例3)
平均粒径140μm、平均厚さ5μmの鱗片状ガラスに代えて、平均粒径1mm、平均厚さ7μmの鱗片状ガラスを使用した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表1に示した。
【0041】
(実施例4)
鱗片状ガラスの配合量を50部に変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表1に示した。
【0042】
(実施例5)
鱗片状ガラスに代えて、平均粒径140μm、平均厚さ5μmの鱗片状シリカを使用した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表1に示した。
【0043】
(比較例1)
鱗片状ガラス25部に代えて、平均繊維径10μm、平均繊維長500μmのガラス繊維10部を使用した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表1に示した。実施例1〜5に比べて収率と触媒の強度が低下した。
【0044】
(比較例2)
鱗片状ガラス25部を混合しなかった点以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表1に示した。実施例1〜5に比べて収率と触媒の強度が低下した。
【0045】
【表1】

【0046】
(実施例6)
純水1000部にパラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム6.2部、硝酸カリウム1.4部、三酸化アンチモン30.9部および三酸化ビスマス49.5部を加え加熱攪拌した(A液)。別に純水1000部に硝酸第二鉄114.4部、硝酸コバルト288.5部および硝酸亜鉛42.1部を順次加え溶解した(B液)。A液にB液を加えて水性スラリーとした後、この水性スラリーをスプレー乾燥機によって平均粒径60μmの乾燥球状粒子とした。この乾燥球状粒子を300℃で1時間焼成して焼成物とした。
【0047】
得られた焼成物500部に対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロース15部およびカードラン10部を加え、乾式混合した。ここに温度が5℃の純水190部に平均粒径140μm、平均厚さ5μmの鱗片状ガラス25部を均一に混合したスラリーを、1.8L/min.の速度で混合し、混練り機で粘土状になるまで混合(混練り)した後、ピストン式押出し成形機を用いて成形し、外径5mm、内径2mm、平均長さ5mmのリング状の成形体を得た。
【0048】
次いで、得られた成形体を熱風乾燥機によって110℃で乾燥して成形体の乾燥品を得た。この成形体を510℃で3時間再度焼成して触媒を製造した。この触媒の組成はMo120.1Bi0.9Fe1.2Sb0.9Co4.2Zn0.60.06であり、落下粉化率は0.3%であった。
【0049】
この触媒をステンレス製反応管に充填し、プロピレン5容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%および窒素73容量%の原料ガスを用い、大気圧下、接触時間3.6秒、反応温度310℃で反応させた。その結果、プロピレンの反応率99.0%、アクロレインの選択率91.1%、アクリル酸の選択率6.5%、合計収率96.6%であった。
【0050】
(実施例7)
鱗片状ガラスを純水に混合せず、焼成物500部と乾式混合し、ここに温度が5℃である純水190部を1.8L/min.の速度で混合し、混練り機で粘土状物質になるまで混合した以外は実施例6と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表2に示した。
【0051】
(実施例8)
触媒形状を外径5mm、平均長さ5mmの円柱形状に変えた以外は実施例6と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表2に示した。
【0052】
(比較例3)
鱗片状ガラス25部に代えて、平均繊維径10μm、平均繊維長500μmのガラス繊維10部を使用した以外は、実施例6と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表2に示した。実施例6〜8に比べて収率と触媒の強度が低下した。
【0053】
(比較例4)
鱗片状ガラスを混合しなかった点以外は実施例6と同様にして触媒を製造し、反応を行った。その結果を表2に示した。実施例6〜8に比べて収率と触媒の強度が低下した。
【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコールまたはメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素で気相接触酸化して不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を合成するための触媒であって、モリブデンおよびビスマスを含む触媒成分と、平均粒径が10μm〜2mmかつ平均厚さが平均粒径の0.005〜0.3倍の鱗片状無機物とを含有する触媒。
【請求項2】
触媒原料を含む溶液またはスラリーを乾燥し、次いで焼成して得られた焼成物と、平均粒径が10μm〜2mmかつ平均厚さが平均粒径の0.005〜0.3倍の鱗片状無機物を混合し、成形する工程を含む請求項1記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の触媒の存在下で、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコールまたはメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素で気相接触酸化する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−803(P2007−803A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185294(P2005−185294)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】