説明

不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】
プロピレンまたはイソブチレン等を気相接触酸化する際、反応管に充填されたMo−Bi−Ni−Co−Fe系触媒の温度に関し、原料ガス出口側のほうが原料ガス入口側よりも相当高くなることで異常反応が発生する現象を回避し、安全安定的且つ高収率なアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法を提供する。
【解決手段】
A)Mo−Bi−Ni−Co−Fe系触媒を使用し、
B)反応管の原料ガス流れ方向に複数個分割して形成された触媒層を設け、
C)上記複数種の触媒を原料ガス流れ方向の原料入口部から出口部に向かって活性がより高くなるように配置し、
D)触媒の焼成温度により活性を調節し、かつ少なくとも最も原料入口側に触媒と不活性物質との混合物を使用することを特徴とするアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しアクロレインおよびアクリル酸を製造する方法、または、イソブチレン、および/またはターシャリーブタノールを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブタノールを原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法は工業的に広く実施されているが、触媒層における局所的な高温部分(ホットスポット)の発生が大きな問題となっている。ホットスポットの発生は触媒寿命の短縮、過度の酸化反応による収率の低下、最悪の場合は暴走反応につながるため、ホットスポットを抑制する技術はいくつか提案されている。例えば特許文献1には担持量を変えて活性を調節した触媒を使用すること、触媒の焼成温度を変えて活性を調節した触媒を使用することでホットスポット温度を低下させる技術が開示されている。特許文献2には触媒の見かけ密度の比を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献3には触媒成型体の不活性成分の含有量を変えるとともに、触媒成型体の占有容積、アルカリ金属の種類および/または量、触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献4には触媒成型体の占有容積を変えた反応帯を設け、すくなくとも一つの反応帯に不活性物質を混合する技術が開示されている。特許文献5には触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献6には触媒の占有容積と、焼成温度および/またはアルカリ金属の種類、量を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3775872号
【特許文献2】特開20042209
【特許文献3】特開2001328951
【特許文献4】特開2005320315
【特許文献5】特開平8−3093
【特許文献6】特開2001226302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記手段をもってホットスポットの抑制をはかっても、未だ十分ではなかった。さらには工業プラントにおいて期待した触媒性能、寿命が必ずしも得られないことがあるという問題点があり改善が望まれていた。たとえば、
1)触媒の占有容積を変化させることで、活性を調節した触媒を使用する方法は、ホットスポットの抑制方法として有用な方法であるが、工業プラントには数万本の反応管が存在し、反応管内径が20mmから30mmの内径の場合、誤差がプラスマイナス0.2mm程度生じてしまうことがある。占有容積の小さい触媒であれば、これらの影響は無視できる程度であるが、占有容積の大きい触媒、すなわち、触媒粒径が大きい触媒ではその影響は無視できなくなる場合があることが分かった。具体的には充填の際に反応管内でブリッジを形成してしまい、その修正に多大な労力を要すること、充填量、充填密度の変化により圧力損失の差が反応管ごとにばらつきやすくなり、原料ガス流量の偏在を引き起こすこと、その修正にも多大な労力を要することが挙げられる。触媒形状が球状でない場合、この問題がより顕著になることは容易に想像できる。
2)更には、工業プラントでは前述のような反応管径のばらつきのみならず、反応器構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布が生じてしまうことがあり、全ての反応管内で同一の状態で触媒が使用されるということはほぼありえない。本発明者らが、工業プラントで使用された触媒を分析したところ、原料ガス入口部分の触媒が集中して劣化している反応管や、全体にわたって触媒が緩やかに劣化している反応管、さらに驚くべきことに原料ガス出口部分の触媒が入口部分の触媒よりも劣化している反応管が、見受けられた。これは、原料ガス出口側の触媒層のホットスポット温度が異常に高かった可能性を示唆しており、最悪の場合、暴走反応を引き起こす危険がある。これは、前述した工業プラントにおける反応管径のばらつき、反応器の構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布により、原料炭化水素の転化率が異なり、温度分布の形状が異なったことが原因と予想され、工業プラントにおいても安全に安定して長期にわたって高い収率を維持できる技術の開発が課題として挙げられた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、こうした実状のもと鋭意研究した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、
(1)固定床多管型反応器を用いて、(i) プロピレン、または、(ii) イソブチレンおよびターシャリーブタノールから選ばれる少なくとも1種、を分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化して、アクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法において、
A)一般式
MoBiNiCoFe
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表しXはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、c+d=0.5〜20、f=0.5〜8、g=0〜2、h=0.005〜2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)で表される組成の触媒活性成分を含有する粉末を成型した活性の異なる複数種の触媒を使用し、
B)反応管の原料ガス流れ方向に複数個分割して形成された触媒層を設け、
C)上記複数種の触媒を原料ガス流れ方向の原料入口部から出口部に向かって活性がより高くなるように配置するアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法であって、
D)触媒の焼成温度を変えることによりその活性を調整し、
E)少なくとも最も原料入口側の触媒層に触媒と不活性物質との混合物を使用する
ことを特徴とするアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法
(2)各触媒層における触媒の粒径が同一である上記(1)記載のアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法
(3)各触媒層における触媒が不活性物質に活性粉末を担持してなる球状担持触媒である上記(1)または(2)記載のアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法
(4)各触媒層における触媒の担持量(活性粉末の重量/(活性粉末の重量+担体の重量))が同一である(3)記載のアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、通常の工業プラントは特別な事情がない限り収率が最も高くなる原料転化率で運転され、多くの反応管に充填された触媒は所望の原料転化率で反応しており、結果として原料ガス入口部分の触媒層ホットスポット温度が原料ガス出口側の触媒のホットスポット温度よりも高い状態にあるものの、工業プラント特有の事象により、原料転化率が低くなる反応管が存在し、結果としてその反応管に充填された触媒の温度は原料ガス出口側のほうが原料ガス入口側よりも相当高くなることで異常反応が発生するという現象を回避することが可能で、安全安定的にアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸を高い収率で製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明において使用する触媒自体は、公知の方法で調製することが出来、下記一般式で表される
MoBiNiCoFe
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表しXはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、好ましくはb=0.5〜4、c+d=0.5〜20、より好ましくはc+d=1〜12、f=0.5〜8、さらに好ましくはf=0.5〜5、g=0〜2、特に好ましくはg=0〜1、h=0.005〜2、最も好ましくはh=0.01〜0.5であり、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
ここで、触媒活性成分を含有する粉末は共沈法、噴霧乾燥法など公知の方法で調製されるが、その際使用する原料はモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X及びY等各種金属元素の硝酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、酸化物、酢酸塩などを用いることができ特に制限されず、供給する金属塩の種類および/または量を変えることで異なる種類の触媒活性成分を含有する粉末を得ることもできる。
こうして得られた粉末を好ましくは200〜600℃、より好ましくは300〜500℃で、好ましくは空気または窒素気流中にて焼成し触媒活性成分(以下、予備焼成粉末という)を得ることができる。
【0008】
こうして得られた予備焼成粉末は、このままでも触媒として使用できるが、生産効率、作業性を考慮し成型して本発明の触媒とする。成型物の形状は球状、円柱状、リング状など特に限定されず、触媒の製造効率、機械的強度などを考慮して形状を選択すべきであるが、球状であることが好ましい。成型に際しては、単独の予備焼成粉末を使用し、成型するのが一般的であるが、別々に調製した成分組成が異なる顆粒の予備焼成粉末を任意の割合であらかじめ混合し成型してもよいし、不活性担体上に異種の予備焼成粉末の担持する操作を繰り返して、複層に予備焼成粉末が成型されるような手法を採用してもよい。尚、成型する際には結晶性セルロースなどの成型助剤および/またはセラミックウイスカーなどの強度向上剤を混合することが好ましい。成型助剤および/または強度向上剤の使用量は予備焼成粉末に対しそれぞれ30重量%以下であることが好ましい。また、成型助剤および/または強度向上剤は上記予備焼成粉末と成型前にあらかじめ混合してもよいし、成型機に予備焼成粉末を添加するのと同時または前後に添加してもよい。
【0009】
成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いた方法が好ましい。
さらに好ましくは、球状に成型する場合であり、成型機で予備焼成粉末を球形に成型しても良いが、予備焼成粉体(必要により成型助剤、強度向上剤を含む)を不活性なセラミック等の担体に担持させる方法が好ましい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート等予備焼成粉末が担体に均一に担持できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率等を考慮した場合、固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内に仕込まれた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに予備焼成粉体並びに必要により、成型助剤及び強度向上剤を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法が好ましい。
【0010】
尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。
使用できるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が好ましく、グリセリンの濃度5重量%以上の水溶液が好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高活性な高性能な触媒が得られる。
これらバインダーの使用量は、予備焼成粉末100重量部に対して通常2〜60重量部であるが、グリセリン水溶液の場合は10〜30重量部が好ましい。担持に際してバインダーは予備焼成粉末と予め混合してあっても、予備焼成粉末を転動造粒機に供給しながら添加してもよい。
【0011】
不活性担体は、通常2〜15mm程度の径のものを使用し、これに予備焼成粉末を担持させるが、その担持量は触媒使用条件、たとえば空間速度、原料炭化水素濃度を考慮して決定される。
【0012】
なお、球状担持触媒における予備焼成粉末(以下、活性粉末という)の担持量に特に制限はないが、通常20〜80重量%である。本発明においては、下記する複数に分割された触媒層において、触媒層同士の触媒の担持量、すなわち、(活性粉末の重量/(活性粉末の重量+担体の重量)に特に制限はないが、複数の担持触媒を調製する必要がない、全層にわたり同一なのが好ましい。
球状担持触媒の粒径は、担体と担持量によるが、通常3mm〜20mmである。本発明においては、下記する複数に分割された触媒層において、触媒層同士の触媒の粒径に特に制限はないが、3mm〜20mmであるため、全層にわたり同一なのが好ましい。
【0013】
成型した触媒は反応に使用する前に再度焼成する。再度焼成する際の焼成温度は通常450〜650℃、焼成時間は通常3〜30時間、好ましくは4〜15時間であり、使用する反応条件に応じて適宜設定される。このとき原料ガス入口側に設置する触媒の焼成温度は、その組成によらず、ガス出口側の触媒よりも高い温度で焼成することで活性を抑制するのが好ましい。後焼成の雰囲気は空気雰囲気、窒素雰囲気などいずれでもかまわないが、工業的には空気雰囲気が好ましい。
【0014】
こうして得られた触媒は、プロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しアクロレインおよびアクリル酸を製造する工程またはイソブチレン、ターシャリーブタノールを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する工程に使用できる。本発明の製造方法において原料ガスの流通方法は、通常の単流通法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば出発原料物質としてのプロピレン、または、イソブチレンおよびターシャリーブタノールの少なくとも1種が、常温で好ましくは1〜10容量%、より好ましくは4〜9容量%、分子状酸素が好ましくは3〜20容量%、より好ましくは4〜18容量%、水蒸気が好ましくは0〜60容量%、より好ましくは4〜50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが好ましくは20〜80容量%、より好ましくは30〜60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に好ましくは250〜450℃で、好ましくは常圧〜10気圧の圧力下で、好ましくは空間速度300〜5000h−1で導入し反応を行う。
【0015】
本発明においては、反応管の原料ガス流れ方向に複数個分割して形成された触媒層を設け、上記複数種の触媒を原料ガス流れ方向の原料入口部から出口部に向かって活性がより高くなるように配置する。分割数に特に制限はないが、通常2〜5、好ましくは2〜3である。
本発明においては、更に少なくとも最も原料入口側の触媒層に触媒と不活性物質を充填する。不活性物質としては、反応に対し実質的に不活性なものであれば特に制限はないが、シリカ、アルミナ、チタニアまたはそれらの複合体等が挙げられる。最も原料入口側における触媒と不活性物質との混合割合は、1:1〜1:19である。本発明により、工業プラントにおける変動値があっても、ほぼ全ての反応管において原料ガス出口側の触媒のホットスポット温度が異常に高くなることを回避でき、安定安全に運転することが可能になる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
なお、本発明における転化率、選択率および収率はそれぞれ次の通り定義される。
プロピレン転化率(モル%)=反応したプロピレンのモル数/供給したプロピレンのモル数×100
アクロレイン収率(モル%)=生成したアクロレインのモル数/供給したプロピレンのモル数×100
アクリル酸収率(モル%)=生成したアクリル酸のモル数/供給したプロピレンのモル数×100
原料がプロピレンのかわりに、イソブチレンおよび/またはターシャリーブタノールの場合はアクロレインをメタクロレインに、アクリル酸をメタクリル酸に置き換えることができる。
本明細書において、部、比、パーセントなどは、特に断りのない場合は重量に基づくものである。
【0017】
実施例1
(触媒の調製)
蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム423.8重量部と硝酸カリウム1.64重量部を溶解して水溶液(A1)を得た。別に、硝酸コバルト302.7重量部、硝酸ニッケル162.9重量部、硝酸第二鉄145.4重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B1)を、また濃硝酸42重量部を加えて酸性にした蒸留水200重量部に硝酸ビスマス164.9重量部を溶解して水溶液(C1)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A1)に(B1)、(C1)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末(D1)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.15であった。
その後予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に成型後の触媒に対して50重量%を占める割合になるよう20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして直径5.2mmの球状に担持成型して担持触媒(E1)を得た。
担持触媒(E1)を、焼成温度530℃で4時間、空気雰囲気下で焼成することで触媒(F1)を得た。
次に、蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム423.8重量部と硝酸カリウム1.08重量部を溶解して水溶液(A2)を得た。別に、硝酸コバルト302.7重量部、硝酸ニッケル162.9重量部、硝酸第二鉄145.4重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B2)を、また濃硝酸42重量部を加えて酸性にした蒸留水200重量部に硝酸ビスマス164.9重量部を溶解して水溶液(C2)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A2)に(B2)、(C2)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末(D2)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.10であった。
その後予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に成型後の触媒に対して50重量%を占める割合になるよう20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして直径5.2mmの球状に担持成型して担持触媒(E2)を得た。
担持触媒(E2)を、530℃で4時間焼成して触媒(F2)を得た。担持触媒(E2)を510℃で4時間焼成して触媒(F3)を得た。
【0018】
(酸化反応試験)
熱媒体として溶融塩を循環させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径25.4mmのステンレス製反応器の原料ガス入口側から直径5.2mmのシリカ―アルミナ球を20cm、酸化触媒層第一層(原料ガス入口側)として酸化触媒(F1)と直径5.2mmのシリカ−アルミナ混合物不活性担体を重量比4:1で混合した希釈触媒100cm、酸化触媒第二層(ガス出口側)として酸化触媒(F3)を250cmの順で充填し、反応浴温度を330℃にした。ここに原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.7:8.8:1となるようにプロピレン、空気、窒素、水の供給量を設定したガスを空間速度1500h−1で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を70kPaGとして反応開始後200時間経過したとき、反応浴温度2℃刻みで変化させて、原料転化率、アクロレイン、アクリル酸収率、ホットスポット温度を測定する試験(以降反応温度変化試験という)を実施したところ原料転化率97.8%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大91.8%となった。このときの反応浴温度は330℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は434℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は378℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率95.5%のときに逆転した。反応浴温度320℃ではプロピレン転化率93%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は352℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は401℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0019】
実施例2
実施例1の酸化反応条件において原料ガス入口部分に充填する触媒をF2と直径5.2mmのシリカ−アルミナ混合物不活性担体を重量比4:1で混合した希釈触媒120cmとし、原料ガス出口部分に充填する触媒をF3触媒230cmとしたこと以外は実施例1と同様の方法でプロピレンの酸化反応を実施した。
反応温度変化試験を実施したところ原料転化率97.2%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大92.1%となった。このときの反応浴温度は332℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は431℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は372℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率95.1%のときに逆転した。反応浴温度322℃ではプロピレン転化率93%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は353℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は398℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0020】
実施例3
実施例2において、原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.8:10:1.5となるようにプロピレン、空気、窒素、水の供給量を設定したガスを空間速度1500h−1で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を55kPaGとしたこと以外は実施例2と同様に試験したところ原料転化率97.9%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大92.3%となった。このときの反応浴温度は330℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は424℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は370℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率96.2%のときに逆転した。反応浴温度318℃ではプロピレン転化率95%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は348℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は410℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0021】
実施例4
実施例3において、空間速度を1715h−1で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を70kPaGとしたこと以外は実施例3と同様に試験したところ原料転化率97.8%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大91.6%となった。このときの反応浴温度は332℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は429℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は371℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率96.1%のときに逆転した。反応浴温度319℃ではプロピレン転化率95%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は350℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は414℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0022】
実施例5
実施例2において、原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.9:12:1となるようにプロピレン、空気、窒素、水の供給量を設定したガスを空間速度2000h−1で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を65kPaGとし、アクロレインを目的生成物としたこと以外は実施例2と同様に試験したところ原料転化率96.5%、でアクロレイン収率が最大85.2%となった。このときの反応浴温度は334℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は420℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は385℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率95.5%のときに逆転した。反応浴温度326℃ではプロピレン転化率94%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は347℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は415℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0023】
実施例6
熱媒体として溶融塩を循環させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径27.2mmのステンレス製反応器の原料ガス入口側から直径5.2mmのシリカ―アルミナ球を20cm、酸化触媒層第一層(原料ガス入口側)として酸化触媒(F1)と直径5.2mmのシリカ−アルミナ混合物不活性担体を重量比3:1で混合した希釈触媒100cm、酸化触媒第二層(ガス出口側)として酸化触媒(F3)を210cmの順で充填し、反応浴温度を325℃にした。ここに原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.7:8.8:1となるようにプロピレン、空気、窒素、水の供給量を設定したガスを空間速度1250h−1で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を50kPaGとして反応開始後200時間経過したとき、反応浴温度を2℃刻みで変化させて反応温度変化試験を実施したところ原料転化率97.8%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大91.5%となった。このときの反応浴温度は322℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は424℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は373℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率96.6%のときに逆転した。反応浴温度310℃ではプロピレン転化率92%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は330℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は400℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0024】
比較例1
実施例1の酸化反応条件において、原料ガス入口部分に充填する触媒をF3と直径5.2mmのシリカ−アルミナ混合物不活性担体を重量比2:1で混合した希釈触媒100cmとし、原料ガス出口部分に充填する触媒をF3触媒250cmとしたこと以外は実施例1と同様の方法でプロピレンの酸化反応を実施した。反応温度変化試験を実施したところ原料転化率98.5%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大91.9%となった。このときの反応浴温度は335℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は418℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は380℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率98.2%のときに逆転した。反応浴温度326℃ではプロピレン転化率95.5%となり、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は358℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は445℃であった。実施例に比べ、プロピレン転化率が大きく低下した場合においてガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、安全安定的にアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸を高い収率で製造することが可能になる。
【0026】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2011年2月2日付で出願された日本特許出願(特願2011−20782及び特願2011−20783)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床多管型反応器を用いて、(i) プロピレン、または、(ii) イソブチレンおよびターシャリーブタノールから選ばれる少なくとも1種、を分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化して、アクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法において、
A)一般式
MoBiNiCoFe
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表しXはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1〜7、c+d=0.5〜20、f=0.5〜8、g=0〜2、h=0.005〜2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)で表される組成の触媒活性成分を含有する粉末を成型した活性の異なる複数種の触媒を使用し、
B)反応管の原料ガス流れ方向に複数個分割して形成された触媒層を設け、
C)上記複数種の触媒を原料ガス流れ方向の原料入口部から出口部に向かって活性がより高くなるように配置し、
D)触媒の焼成温度により活性を調節し、かつ少なくとも最も原料入口側に触媒と不活性物質との混合物を使用することを特徴とするアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。
【請求項2】
各触媒層における触媒の粒径が同一である請求項1記載のアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。
【請求項3】
各触媒層における触媒が不活性物質に活性粉末を担持してなる球状担持触媒である請求項1または2記載のアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。
【請求項4】
各触媒層における触媒の担持量(活性粉末の重量/(活性粉末の重量+担体の重量))が同一である請求項3記載のアクロレインおよびアクリル酸、またはメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。


【公開番号】特開2012−176938(P2012−176938A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17554(P2012−17554)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】