説明

不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】気相接触酸化反応による不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造において、ホットスポット部の温度を十分に抑制できる方法を提供する。
【解決手段】固定床管型反応器に備えられている固体触媒を含む触媒層に、原料としてのプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインと、分子状酸素とを含む原料ガスを供給し該原料を気相接触酸化して、該原料に対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する方法であって、前記原料ガス中に1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有させる工程を含む不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定床管型反応器を用いてプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインを固体触媒の存在下に分子状酸素で気相接触酸化して不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインを気相接触酸化して不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に使用される触媒に関しては数多くの提案がなされている。これら提案は主として触媒を構成する元素及びその比率に関するものである。
【0003】
前記気相接触酸化は発熱反応であるため、触媒層で蓄熱が起こる。蓄熱の結果生じる局所的な高温帯域はホットスポットと呼ばれ、この部分の温度が高すぎると過度の酸化反応が生じるため、目的生成物の収率が低下する。また、ホットスポット部の温度が高くなりすぎると、その蓄熱により触媒がさらに反応を促進し、それによりさらに発熱するため、最終的に触媒自身が燃焼して完全に失活してしまう場合がある。
【0004】
ホットスポット部の温度上昇を抑制する方法としては、原料濃度を低くする方法、原料ガスの線速度を下げる方法又は反応温度を下げる方法等の反応負荷を低減する方法が一般的である。しかしながら、これらの方法は目的生成物の生産を制限することになるため、目的生成物の生産量が大幅に低下する。
【0005】
このため、前記気相接触酸化の工業的実施において、ホットスポット部の温度抑制は重大な問題である。特に生産性を上げるために原料ガス中のプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインの濃度を高めた場合、ホットスポット部の温度が高くなる傾向がある。この場合、現状では反応条件に関して大きな制約を強いられている。したがって、ホットスポット部の温度を抑制することは工業的に高収率で不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を生産する上で重要である。また、特にモリブデン含有固体触媒を用いる場合、モリブデン成分が昇華しやすいことから、ホットスポット部の温度抑制は重要である。
【0006】
ホットスポット部の温度を抑制する方法としては、これまでにいくつかの提案がなされている。例えば特許文献1には、触媒を充填した固定床管型反応器を用いてイソブチレン又はイソブチレン含有ガスを分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化して不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法において、触媒の焼成条件を変更することにより得た活性の異なる触媒を、反応器内の管軸方向に複数の反応帯を設け該反応帯毎に該複数の触媒を原料ガスの入口から出口に向かって活性が大きくなるように充填する方法が記載されている。
【0007】
特許文献2には、固定床管型反応器の触媒充填層に触媒を充填するに際し、触媒の孔径を制御して充填することで、反応の負荷が触媒層の一部で局部的に高くなる状況が緩和され、触媒層全体で該負荷がほぼ均一化される方法が記載されている。
【0008】
特許文献3には、固定床管型反応器における各反応管の内部を管軸方向に分割することにより複数個の反応帯を設け、この各反応帯に触媒の真密度に対する触媒の見掛け密度の比R(触媒の見掛け密度/触媒の真密度)が異なる触媒をそれぞれ充填する方法が記載されている。
【0009】
特許文献4には、触媒として内径D2の開口部を備えた孔部を有する外径D1の粒状触媒を用い、固定床管型反応器における各反応管の内部を管軸方向に分割することにより複数個の反応帯を設け、この各反応帯の少なくとも2つに、D2の異なる前記触媒をそれぞれ充填する方法が記載されている。
【0010】
特許文献5には、固定床管型反応器に触媒を充填する際、触媒成形体と、嵩体積が触媒成形体に対し0.3〜3.5倍であり、かつ充填密度が0.5〜1.5kg/lである金属製ラシヒリングとを共に充填する方法が記載されている。
【0011】
特許文献6には、固体触媒が充填されている固定床管型反応器の触媒層に、メタクロレインを3〜9容量%、酸素を5〜15容量%及び水蒸気を5〜50容量%含む原料ガスを流通させるメタクリル酸の製造方法において、前記原料ガスを流通させる前に、前記触媒層に、酸素、窒素及び水蒸気を含み、かつメタクロレインが0〜0.5容量%であるガスを流通させながら250〜350℃の範囲まで昇温し、次いでメタクロレインを1〜2.8容量%、酸素を5〜15容量%及び水蒸気を5〜50容量%含むガスを250〜350℃で1時間以上流通させる方法が記載されている。
【0012】
特許文献7には、接触管を取り巻くその空間にただ1つの熱交換媒体循環路が通されている多接触管固定層反応器中で、高められた温度で、触媒活性複合金属酸化物に接して、アクロレインをアクリル酸へ接触気相酸化する方法において、熱媒体槽内に設置したじゃま板で熱媒体の流速を制御し、熱媒体に温度分布を設けてホットスポット部の温度を抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−187460号公報
【特許文献2】特開2004−002323号公報
【特許文献3】特開2004−002209号公報
【特許文献4】特開2004−002208号公報
【特許文献5】特開平11−033393号公報
【特許文献6】特開2002−371029号公報
【特許文献7】特開平8−092154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1から4、6に記載されたいずれの方法も、ホットスポット部の温度抑制効果はあるものの、反応開始直後の触媒が活性化している不安定な時期に発生するホットスポット部の急激な温度上昇に対しては、必ずしも十分な温度抑制効果が得られない問題があった。
【0015】
特許文献5に記載の方法では、希釈材を多く必要とするため、触媒の寿命を満足する充填量が得られない等の制約上の問題があった。
【0016】
特許文献7に記載の方法では、ホットスポット部の温度を抑制する効果はあるものの、反応器に大掛かりな加工が必要となる。このため一度使用する触媒に合わせて反応器を加工してしまうと、それ以降に活性の挙動が異なる触媒を使用する際に必ずしも該反応器を適用することができない問題があった。
【0017】
本発明は気相接触酸化反応による不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造において、ホットスポット部の温度を十分に抑制できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法は、固定床管型反応器に備えられている固体触媒を含む触媒層に、原料としてのプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインと、分子状酸素とを含む原料ガスを供給し該原料を気相接触酸化して、該原料に対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する方法であって、前記原料ガス中に1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有させる工程を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係るホットスポット部の温度を低下させる方法は、固定床管型反応器に備えられている固体触媒を含む触媒層に、原料としてのプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインと、分子状酸素とを含む原料ガスを供給し該原料を気相接触酸化して、該原料に対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に、該触媒層に発生するホットスポット部の温度を低下させる方法であって、前記原料ガス中に1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、気相接触酸化反応による不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造において、ホットスポット部の温度を十分に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を合成する反応は固体触媒を含む触媒層を備える固定床管型反応器を用いて実施される。固定床管型反応器は特に限定されないが、工業的には内径10〜40mmの反応管を数千〜数万本備えた多管式反応器が好ましい。また、固定床管型反応器は熱媒浴を備えたものが好ましい。熱媒は特に限定されないが、例えば、硝酸カリウム及び亜硝酸ナトリウムを含む塩溶融物が挙げられる。
【0022】
本発明において用いられる固体触媒は、原料としてのプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化して、該原料に対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造できる固体触媒であれば特に限定されない。例えば、従来から知られているモリブデンを含む複合酸化物等を用いることができる。
【0023】
プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルを原料とし、該原料を分子状酸素により気相接触酸化して不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造するための触媒としては、下記式(1)で表される組成を有する触媒が好ましい。
【0024】
MoaBibFecd1e1fgSihi (1)
前記式(1)中、Mo、Bi、Fe、Si及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。X1はクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Y1はリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは各元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.01〜3、c=0.01〜5、d=1〜12、e=0〜8、f=0〜5、g=0.001〜2、h=0〜20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比である。
【0025】
メタクロレイン等の不飽和アルデヒドの気相接触酸化によりメタクリル酸等の不飽和カルボン酸を製造するための触媒としては、下記式(2)で表される組成を有する触媒が好ましい。
【0026】
MoabCucd2e2fg (2)
前記式(2)中、Mo、P、Cu、V及びOはそれぞれモリブデン、リン、銅、バナジウム及び酸素を表す。X2は鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Y2はカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f及びgは各元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.1〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜3、e=0〜10、f=0.01〜3であり、gは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比である。
【0027】
本発明で用いられる固体触媒を調製する方法は特に限定されず、成分の著しい偏在を伴わない限り、従来からよく知られている種々の方法を用いることができる。
【0028】
固体触媒の調製に用いられる原料は特に限定されず、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物等を組み合わせて使用することができる。例えばモリブデン原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等が使用できる。
【0029】
本発明に用いられる触媒は無担体でもよいが、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、シリコンカーバイト等の不活性担体に担持させた担持触媒や、あるいはこれらで希釈した触媒を用いることもできる。
【0030】
本発明において触媒層とは、固定床管型反応器の反応管内において少なくとも触媒が含まれている部分を指す。すなわち、触媒だけが充填されている部分だけでなく、触媒が不活性担体等で希釈されている部分も触媒層とする。ただし、反応管両端部の何も充填されていない空間部分や不活性担体等だけが充填されている部分は、触媒が実質的に含まれないので触媒層には含まれない。
【0031】
固定床管型反応器を用いてプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインを固体触媒の存在下に分子状酸素で気相接触酸化して不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する反応は、230〜450℃の範囲で行うことが好ましい。該反応は250〜400℃で行うことがより好ましい。
【0032】
本発明の実施に際して、原料ガス中のプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインの濃度は1〜20容量%が好ましく、3〜9容量%がより好ましい。また、原料ガス中の酸素の濃度は5〜15容量%が好ましい。さらに、原料ガスは水蒸気を5〜50容量%含むことが好ましい。原料ガスには、窒素、水蒸気、炭酸ガス等の不活性ガスが含まれてもよい。
【0033】
本発明では、ホットスポット部の温度を低下させるために、一時的に原料ガス中に1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有させる。具体的には、触媒層温度と、触媒層を加熱する熱媒浴温度との差ΔT(ΔT=触媒層温度−熱媒浴温度)が目標温度を超えた時に、一時的に原料ガス中に1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有させ、ΔTを目標温度以下まで低下させる。本発明によればホットスポット部の温度を十分に抑制することができる。これによりスタートアップを効率的に行うことができ、高い負荷を維持して、生産能力を落とすことなく不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造することができる。
【0034】
原料ガス中に含有させるアンモニアの量は、原料ガスに対して1ppm以上であり、5ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましい。アンモニアの含有量が1ppmより少ない場合には、ホットスポット部の温度抑制効果が十分に得られない。一方、原料ガス中に含有させるアンモニアの量は、原料ガスに対して300ppm以下であり、100ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましい。アンモニアの含有量が300ppmより多い場合、過度にホットスポット部の温度が抑制され、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインの反応率が低下する。
【0035】
アンモニアの導入方法は特に限定されず、例えば酸素及び/又は水蒸気等と混合して反応ガスに添加することができる。
【0036】
一般に、気相接触酸化反応では被酸化原料を、分子状酸素を含むガスに加えて触媒を充填した反応器に供給して目的生成物を生成するが、以下の3つの反応状態がある。すなわち、反応初期のスタートアップ、定常運転状態及び運転終了のシャットダウン段階である。
【0037】
反応開始直後のスタートアップ時には定常運転状態における被酸化原料濃度を供給するのではなく、被酸化原料の供給量が少ない状態(以下、反応負荷が低い状態)から開始する。その後、被酸化原料の供給量が多い状態(以下、反応負荷が高い状態)へと段階的に原料ガスの組成を変動させながらスタートアップさせる。反応負荷を低い状態から高い状態へと段階的に上げた後、一定の原料ガス組成条件で運転を行う。通常は、この時の定常原料ガス組成条件で定常運転を開始する。
【0038】
定常運転の後、触媒交換や設備のメンテナンスのために定常運転状態から反応を終了する段階、すなわちシャットダウン段階においては、供給している被酸化原料、水蒸気、不活性ガス等の供給を停止する操作を実施する。これにより、反応を終了してシャットダウンする。本発明に係る方法によれば、これら各反応状態のいずれの段階においても、ホットスポット部の温度上昇が発生した際にホットスポット部の温度低下を行うことができる。
【0039】
ホットスポット部の急激な温度上昇は、過度な酸化反応が生じて、その部分の触媒活性が低下する場合がある。そのため、本発明によればホットスポット部の温度をある目標温度以下に保つように運転することができる。すなわちΔTを測定し、ΔTの最高値が目標温度を超えた際に本発明に係るアンモニアの導入を行い、ホットスポット部の温度を目標温度以下にすることができる。この目標温度は、触媒活性等の性質を勘案して決定することができる。
【0040】
反応開始直後のスタートアップ時には、原料ガス組成の変動に伴いホットスポット部も変動し易く、特にホットスポット部の急激な温度上昇が発生し易い。本発明に係る方法はこのようにスタートアップ時のホットスポット部が変動し易い場合に好適に用いることができる。すなわち、スタートアップ時の原料ガス組成変更後、ホットスポット部の温度を監視し、ΔTの最高値が目標温度を超えた時に一時的に反応ガス中に1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有させる。これにより、ホットスポット部の温度を十分に低下させることができ、スタートアップを効率的に行うことができる。このとき、アンモニアの含有量は多ければ多いほどホットスポット部の温度抑制効果を大きくすることができるが、逆に酸化反応が抑制され過ぎて反応率が低下する。したがって、触媒の目標反応率を維持できる観点から、アンモニアの含有量は300ppm以下であり、100ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましい。一方、アンモニアの添加量を1ppm未満とした場合、ホットスポット部の温度抑制効果が充分に発揮されないため、アンモニアの含有量は1ppm以上であり、5ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましい。
【0041】
アンモニアを含有する原料ガスの供給に伴うホットスポット部の局所温度上昇抑制効果によって、ΔTの最高値が目標温度を下回って安定した時には、アンモニアの供給を停止して元の原料ガス組成に戻して運転を行う。このとき、アンモニアの供給を停止せずに運転を続けると、触媒の活性低下を招き、触媒寿命が低下する場合がある。したがって、アンモニアを含有する原料ガスを一時的に供給する期間としては、ΔTの最高値が目標温度を超えた時から、ΔTの最高値が目標温度を下回って安定した時までが好ましい。
【0042】
本発明に係る方法は定常運転時においても好適に用いることができる。すなわち、定常運転時において、定常の原料ガス組成から原料ガス組成を変更した後においても、ΔTの最高値が目標温度を超えた時に、ホットスポット部の局所的な発熱を抑制する手段として1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有する原料ガスを一時的に供給する。これにより、ホットスポット部の温度を十分に低下させ、定常運転を効率的に行うことができる。
【0043】
本発明に係る方法はシャットダウン段階においても好適に用いることができる。すなわち、定常運転からシャットダウンの段階に切り替わるタイミングにおいては、原料ガス組成の変動に伴いホットスポット部も変動し易く、場合によってはホットスポット部の温度が急激に上昇する場合がある。このような場合において、ホットスポット部の温度を監視しΔTの最高値が目標温度を超えた時に、1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有する原料ガスを一時的に供給する。これにより、ホットスポット部の温度を十分に低下させることができ、シャットダウンを効率的に行うことができる。定常運転時、シャットダウン段階においても、1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有する原料ガスを一時的に供給する期間としては、ΔTの最高値が目標温度を超えた時から、ΔTの最高値が目標温度を下回って安定した時までが好ましい。
【0044】
本発明に係る方法においては、1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有する原料ガスの供給に伴い、原料ガス中のプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインの反応率が低下する。そのため、アンモニアを含有する原料ガスを供給する前後において、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインの反応率が一定となるように反応温度を上下させて調節することが好ましい。すなわち、アンモニアを含有する原料ガスを供給する際には、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルの反応率が一定となるように少しずつアンモニアの含有量を増加させ、反応温度を上げて調節することが好ましい。また、アンモニアの供給を停止する際には、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール又はメチル第三級ブチルエーテルの反応率が一定となるように少しずつアンモニアの含有量を低減させ、反応温度を下げて調節することが好ましい。
【0045】
なお、一時的に供給されるアンモニアを含有する原料ガスを反応器からそのままアンモニアを含有する排ガスとして排出し、燃焼することで除去できる。
【0046】
分子状酸素源としては空気を用いるのが経済的であるが、必要であれば純酸素で富化した空気を用いることもできる。原料ガス中の酸素濃度としては、5〜15容量%が好ましく、7〜12容量%がより好ましい。
【0047】
原料ガスは窒素等の不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。また、原料ガスは水蒸気や二酸化炭素等を含んでもよい。さらに、原料ガスは低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよく、これらの不純物は反応に実質的な影響を与えない。反応圧力としては常圧から数気圧の範囲が好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」は質量部を意味する。
【0049】
触媒組成は触媒成分の原料仕込み量から求めた。反応器の熱媒としては硝酸カリウム50質量%及び亜硝酸ナトリウム50質量%からなる塩溶融物を用いた。ホットスポット部はΔT(触媒層温度−熱媒浴温度)により検出した。
【0050】
[実施例1]
(触媒調製)
純水1000部にパラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム12.4部、硝酸カリウム1.4部、三酸化アンチモン27.5部及び三酸化ビスマス49.5部を加え、加熱攪拌した(A液)。これとは別に、純水1000部に硝酸第二鉄114.4部、硝酸コバルト370.8部及び硝酸亜鉛21.1部を順次加え、溶解した(B液)。A液にB液を加え水性スラリーとした。得られた水性スラリーを、スプレー乾燥機を用いて乾燥した。得られた乾燥粉を300℃で1時間焼成を行った。得られた焼成物500部に純水160部及びメチルセルロース20部を混合し、押出成形して外径5mm、内径2mm、平均長さ5mmのリング状の湿式賦形体を得た。この湿式賦形体をマイクロ波及び熱風を併用する乾燥方法を用いて乾燥し、メチルセルロースを含有する添加剤含有触媒を得た。該触媒の酸素を除いた組成は、Mo120.2Bi0.9Fe1.2Sb0.8Co5.4Zn0.30.06であった。
【0051】
(メタクロレイン及びメタクリル酸の製造)
固定床管型反応器としては、内径25.4mm、長さ4500mmの鋼鉄製の反応管を上部管板と下部管板とで13000本支持した構造を有するシェル−チューブ式反応器を用いた。該シェル−チューブ式反応器における各反応管それぞれの原料ガス入口側に、前記触媒620mLと外径5mmのアルミナ球130mLとを混合したものを充填し、出口側に前記触媒750mLを充填した。このときの触媒層の長さは3005mmであった。
【0052】
シェル−チューブ式反応器の反応管内部における触媒層の温度を満遍なく測定できるように、反応器の断面方向と縦方向とで36箇所に熱電対を分散して配置し、触媒層各部の温度を測定した。触媒層の温度は、反応管の断面において中央に位置するように熱電対を設置して測定した。また、反応時のΔTの目標温度を、触媒の活性から勘案して50℃以下に設定した。
【0053】
前記触媒層に、イソブチレン5容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%及び窒素73容量%からなる原料ガスを反応温度(熱媒浴温度)309℃、接触時間4.5秒で供給した。反応開始60分後に触媒層各部のΔTを測定したところ、ΔTの最高値は51.8℃であった。ΔTの最高値が目標温度である50℃を超えたため、原料ガス中にアンモニアを1ppm含有させ反応した。また、ΔTが目標温度である50℃を下回って安定した時点でアンモニアの供給を停止した。
【0054】
なお、反応はイソブチレンの反応率が95モル%で一定となるように行った。アンモニアを供給する際には、イソブチレンの反応率が一定となるように少しずつアンモニアの供給量を増加させ、反応温度を上げて調節した。また、アンモニアの供給を停止する際は、ΔTが目標温度である50℃を下回って安定した時点で、イソブチレンの反応率が一定となるように少しずつアンモニアの供給量を低減させ、反応温度を下げて調節した。
【0055】
結果を表1に示す。なお、表1において処理前とはアンモニア供給直前のΔTを示し、処理後とはアンモニア供給を完全に停止した後のΔTを示す。
【0056】
[実施例2]
実施例1において、原料ガス中のアンモニア含有量を10ppmに変更した以外は実施例1と同じ条件でメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
実施例1において、原料ガス中のアンモニア含有量を30ppmに変更した以外は実施例1と同じ条件でメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、原料ガス中にアンモニアを含有させず、かつ、反応温度を一定で反応させた以外は実施例1と同じ条件でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。なお、表1において比較例1の処理後とは、反応ガス中にアンモニア含有させずに反応を継続して行い、ΔTの最高値を確認し続け安定している時点を示す。原料ガス中にアンモニアを含有させないと、ΔTはほぼ変わらずホットスポット部の温度を低下させる効果がないことが確認された。
【0059】
【表1】

【0060】
[実施例4]
(触媒調製)
パラモリブデン酸アンモニウム100部、メタバナジン酸アンモニウム2.8部及び硝酸セシウム9.2部を純水300部に溶解した。この溶液を攪拌しながら、85質量%リン酸8.2部を純水10部に溶解した溶液及びテルル酸1.1部を純水10部に溶解した溶液を加えた。この溶液を攪拌しながら95℃に昇温した。次いで、この溶液に硝酸銅3.4部、硝酸第二鉄7.6部、硝酸亜鉛1.4部及び硝酸マグネシウム1.8部を純水80部に溶解した溶液を加えた。更にこの混合液を100℃で15分間攪拌し、得られたスラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥した。得られた乾燥物100部に対してグラファイト2部を添加して混合し、打錠成形機により外径5mm、内径2mm、長さ3mmのリング状に成形した。この打錠成形物を空気流通下に380℃で5時間焼成し、触媒を得た。該触媒の酸素を除いた組成は、Mo121.5Cu0.30.5Fe0.4Te0.1Mg0.15Zn0.1Cs1であった。
【0061】
(メタクリル酸の製造)
固定床管型反応器としては、内径27.5mmで長さが5000mmの鋼鉄製の反応器を用いた。該反応器における各反応管それぞれの原料ガス入口側に、前記触媒650mLと外径5mmのアルミナ球130mLとを混合したものを充填し、出口側に前記触媒800mLを充填した。このときの触媒層の長さは3200mmであった。反応器内部の触媒層の温度を満遍なく測定できるように、反応器の断面方向の中央に熱電対を30箇所分散して配置し、温度を測定した。また、反応時のΔTの目標温度を30℃以下に設定した。
【0062】
前記触媒層に、メタクロレイン5.5容量%、酸素10.7容量%、水蒸気9.0容量%及び窒素74.8容量%からなる原料ガスを反応温度(熱媒浴温度)290℃、接触時間4.5秒で供給した。反応開始60分後に触媒層各部のΔTを測定したところ、ΔTの最高値は30.5℃であった。ΔTの最高値が目標温度である30℃を超えたため、原料ガス中にアンモニアを1ppm含有させ反応した。また、ΔTが目標温度である30℃を下回って安定した時点でアンモニアの供給を停止した。
【0063】
なお、反応はメタクロレインの反応率が87モル%で一定となるように行った。アンモニアを供給する際には、メタクロレインの反応率が一定となるように少しずつアンモニアの供給量を増加させ、反応温度を上げて調節した。また、アンモニアの供給を停止する際には、ΔTが目標温度である30℃を下回って安定した時点で、メタクロレインの反応率が一定となるように少しずつアンモニアの供給量を低減させ、反応温度を下げて調節した。
【0064】
結果を表2に示す。なお、表2において処理前とはアンモニア供給直前のΔTを示し、処理後とはアンモニア供給を完全に停止した後のΔTを示す。
【0065】
[実施例5]
実施例4において、原料ガス中のアンモニア含有量を10ppmに変更した以外は実施例4と同じ条件でメタクリル酸の製造を実施した。結果を表2に示す。
【0066】
[実施例6]
実施例4において、原料ガス中のアンモニア含有量を30ppmに変更した以外は実施例4と同じ条件でメタクリル酸の製造を実施した。結果を表2に示す。
【0067】
[比較例2]
実施例4において、原料ガス中にアンモニアを含有させず、かつ、反応温度を一定で反応させた以外は実施例4と同じ条件でメタクリル酸の製造を実施した。結果を表2に示す。なお、表2において比較例2の処理後とは、反応ガス中にアンモニア含有させずに反応を継続して行い、ΔTの最高値を確認し続け安定している時点を示す。原料ガス中にアンモニアを含有させないと、ΔTはほぼ変わらずホットスポット部の温度を低下させる効果がないことが確認された。
【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床管型反応器に備えられている固体触媒を含む触媒層に、原料としてのプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインと、分子状酸素とを含む原料ガスを供給し該原料を気相接触酸化して、該原料に対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する方法であって、
前記原料ガス中に1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有させる工程を含む不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
固定床管型反応器に備えられている固体触媒を含む触媒層に、原料としてのプロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール、メチル第三級ブチルエーテル又はメタクロレインと、分子状酸素とを含む原料ガスを供給し該原料を気相接触酸化して、該原料に対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に、該触媒層に発生するホットスポット部の温度を低下させる方法であって、
前記原料ガス中に1ppm以上、300ppm以下のアンモニアを含有させる方法。

【公開番号】特開2012−158541(P2012−158541A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18314(P2011−18314)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】