説明

不飽和イミドアルコキシシランの調製方法

【課題】化学乾燥剤の代わりに共沸蒸留を使用して、反応により生成される水の除去にとり好ましい条件下で、α,β−不飽和環状イミドアルコキシシランを調製するための方法の提供。α,β−不飽和環状イミドアルコキシシランの調製に用いることができる安定なディールズアルダー中間体の提供。更に、溶媒中で、芳香族第一級アミン及び無水物前駆体を使用した、ディールズアルダーの不飽和N−置換型芳香族イミドの調製方法の提供。
【解決手段】高コストの化学乾燥剤を用いない、α,β不飽和環状イミドアルコキシシラン化合物の調製方法。特に、α,β不飽和環状イミドアルコキシシランの調製方法であって、実質的に水フリーのディールズアルダー保護された不飽和のN置換された芳香族イミドを、少なくとも1つのアミノアルコキシシランを用いてイミド転位させ、少なくとも1つのディールズアルダー保護された不飽和環状イミドアルコキシシランを得る方法。ディールズアルダー保護された不飽和環状イミドアルコキシシラン生成物は更に脱保護され、不飽和のイミドアルコキシシランが調製され、更にディールズアルダー保護されたジエンがプロセス中に生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副生成物として生成する水を除去する際に化学乾燥剤を用いないことを特徴とする、無水物前駆体からのα,β−不飽和環状イミドアルコキシシランの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において公知であるα,β−不飽和環状イミドアルコキシシランを調製する様々な方法が存在する。これらのプロセスは第一級のアミノアルコキシシランと無水物前駆体との凝結に基づくものであり、反応副産物として水が生成する。通常、生成する水は、1つ以上の化学乾燥剤(例えばヘキサメチルジシラザン、HMDZ又はトリメチルシリル塩化物(TMSCI))を使用して反応系から除去される。これらの化学乾燥剤は最小限の化学量論量で使用される必要があるが、それにより、産業的規模でα,β−不飽和環状イミドアルコキシシランを調製する際、経済的な理由によりその工程の実施が困難となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の1つの課題は、化学乾燥剤の代わりに共沸蒸留を使用して、反応により生成される水の除去にとり好ましい条件下で、α,β−不飽和環状イミドアルコキシシランを調製するための方法の提供に関する。本発明の課題は特に、化学乾燥剤を使用せずに、ディールズアルダー(Diels−Alder)保護ストラテジーを使用した、α,β−不飽和環状イミドアルコキシシランの調製方法の提供に関する。
【0004】
本発明の別の課題は、本発明に係るα,β−不飽和環状イミドアルコキシシランの調製し用いることができる安定なディールズアルダー中間体の提供に関する。
【0005】
本発明の更に別の課題は、溶媒中で、芳香族第一級アミン及び無水物前駆体を使用した、ディールズアルダーの不飽和N−置換型芳香族イミドの調製方法の提供に関する。それにより、化学乾燥剤の代わりに共沸蒸留を使用した水の除去が可能となる。
【0006】
本発明の課題は公知の方法に存在する欠点を克服することであり、以下に詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、高コストの化学乾燥剤を用いない、α,β不飽和環状イミドアルコキシシラン化合物の調製に関して記載する。特に本発明は、α,β不飽和環状イミドアルコキシシランの調製方法であって、実質的に水フリーのディールズアルダー保護された不飽和のN置換された芳香族イミドを、少なくとも1つのアミノアルコキシシランを用いてイミド転位させ、少なくとも1つのディールズアルダー保護された不飽和環状イミドアルコキシシランを得ることを特徴とする方法の提供に関する。ディールズアルダー保護された不飽和環状イミドアルコキシシラン生成物は、更に脱保護されて不飽和のイミドアルコキシシランが調製され、更にディールズアルダー保護されたジエンがプロセス中に生成する。
【0008】
本発明はまた、以下の一般式で表されるディールズアルダー中間体の提供に関する。
【0009】
【化1】

式中、Rは第一級芳香族アミン、第一級アリールアミン又は第一級ヘテロアリールアミンである。
【0010】
不飽和のイミドアルコキシシランを調製する本発明の方法の1つの効果としては、反応系にアルカリ性の、高コストの化学乾燥剤を添加せずに反応を実施させることができるということである。その代わり、反応において精製する水(シランのアルコキシ基が加水分解されないために除去される必要がある)を、共沸蒸留を使用して除去する。ゆえに、当該工程は、生成する水を除去するために化学乾燥剤を使用する方法よりも経済的に、産業的規模で実施することができる。本発明の工程による更なる利点としては、反応において使用する芳香族第一級アミン、並びに、開始材料の無水物中に存在する二重結合の保護に用いるディールズアルダージエンが反応において再利用され、それにより、公知の反応メカニズムよりも更に経済的な反応メカニズムの構築が可能となることが挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、高コストの化学乾燥剤を用いないことを特徴とする、α,β不飽和環状イミドアルコキシシラン化合物の調製方法の提供に関する。本発明は具体的には、イミド化工程、ディールズアルダー保護工程、イミド転位工程及び脱保護工程を使用することを特徴とする、環状無水物前駆体からのα,β不飽和環状イミドアルコキシシランの調製方法の提供に関する。本発明の1つの機構を、以下で示される反応メカニズムにおいて記載する。
【0012】
【化2】

【0013】
イミド化工程は有機溶媒中で進行し、それが水と共に共沸混合物を形成し、当該共沸蒸留を介して生成物混合物からの脱水が可能となる。この処理では、いかなるタイプの化学乾燥剤も必要ない。ディールズアルダー反応(また4+2付加環化反応と呼ばれる)は、6員環を合成するための公知の技術である。この反応では、共役ジエンに対する、求ジエン体の二重結合の1,4−付加による、6員環の形成が行われる。本発明では、ディールズアルダー保護ストラテジーを使用することにより、芳香族イミド生成物の不飽和結合が求核的な還元反応から保護され、それにより、このα,β不飽和二重結合が最終生産物において無傷のまま確実に維持される。得られるディールズアルダーで保護された不飽和N置換芳香族環状イミドは更に、求核試薬(例えばアミノアルコキシシラン(アミノプロピルトリエトキシシランなど))と反応し、所望の生成物の被保護誘導体を得、更に熱的に脱保護されうる。
【0014】
ジエンが「擬似芳香族」である場合には、本願明細書に記載されている本発明のプロセスにおいて使用するジエンには、環状、複素環式及び高度に置換された材料が包含される。これらの「擬似芳香族」ジエンに関する詳細は後述する。
【0015】
本発明の一態様は、少なくとも1つのアミノアルコキシシランと、実質的に水フリーのディールズアルダー保護されている不飽和の芳香族N置換環状イミドとをイミド転位させ、少なくとも1つのディールズアルダー保護された不飽和環状イミドアルコキシシランを得るためのプロセスの提供に関する。ディールズアルダー保護されたN置換不飽和芳香族環状イミドは、α,β不飽和カルボン酸無水物を、少なくとも1つの第一級芳香族アミンとイミド化反応させ、少なくとも1つの不飽和の芳香族N置換環状イミドを提供することによって得ることができる。不飽和の芳香族N置換イミドの共役二重結合は更に、ディールズアルダー反応条件下で擬似芳香族ジエンと反応し、二重結合を反応から保護する。例えば、不飽和の芳香族N置換環状イミドの共役二重結合を保護することにより、求核試薬による二重結合に対するいかなるマイケル反応又は「エン型」反応のおそれがなくなり、ゆえにデブロッキング工程の完了時においても生成物中の二重結合が保持される。
【0016】
本発明の別の態様では、ディールズアルダー保護されたα,β不飽和芳香族N置換環状イミドは、α,β不飽和環状無水物の二重結合を、ディールズアルダー反応条件下で「擬似芳香族」ジエンで保護して、ディールズアルダー保護された不飽和環状無水物を調製し、更にディールズアルダー保護された当該不飽和環状無水物を、少なくとも1つの第一級芳香族アミンとイミド化し、少なくとも1つのディールズアルダー付加反応物、すなわちディールズアルダー保護された不飽和芳香族N置換環状イミドを調製することにより得られる。
【0017】
イミド転位反応の一部として水が反応メカニズム中において生成するが、それが取り除かれない場合には、アルコキシシランの不完全な加水分解をもたらしうる。水は混合物の他の反応物と共に不必要な副産物を生成させるため、そのような反応を防止すべく反応混合物から水を除去するため、従来化学乾燥剤が用いられていた。上記したように、これらの乾燥剤は非常に高コストであるため、産業的規模で生産する場合には、かなりの経済的負担となることが指摘されていた。一方本発明の方法では、溶媒中で反応を実施させ、それにより生成される水を共沸蒸留を使用して除去することによって、これらの高コストの乾燥剤の使用を回避することが可能となった。換言すれば、イミド化工程におけるN置換された芳香族環状イミドは、共沸蒸留によって、本発明の反応メカニズムが完了する前に水から隔離される。
【0018】
反応において使用可能である共沸性の溶媒としては、トルエン、キシレン、オルトジクロロベンゼン、又は、反応の開始材料(すなわち不飽和の環状無水物及び第一芳香族アミン)を溶解させ、水と共沸混合物を形成できる他のいかなる比較的高い沸点を有する有機溶媒などが挙げられるが、これらに限定されない。水と共に共沸混合物が形成されることによって、反応器から水を共沸蒸留で除去することが可能となる。
【0019】
上記したように、ディールズアルダー反応において使用するジエンは、「擬似芳香族」でなければならない。すなわちジエンは実際に芳香族でなくとも、芳香族性を有する必要がある。「疑似芳香族」とは、厳密には芳香族でないが、π電子の消失によって安定化し、芳香環と同様の挙動を示す共役系のことを指す。偽芳香族環の例として、限定されないが、フラン、チオフェン、ピロール、アントラセン、フルベンなどが挙げられる。本発明の用語「偽芳香族」ジエンには、環状構造中の原子(炭素及びヘテロ原子)がSp2−ハイブリダイゼーション特性を有しており、それによって、環の全体にわたって、少なくとも部分的な共役電子の消失が可能となる環状ジエンが包含される。ディールズアルダー反応のブロッキング工程において、典型的なジエンの代わりに「擬似芳香族」ジエンを使用する意義は、偽芳香族ジエンが、通常、典型的なジエンより著しく低い温度で逆ディールズアルダー反応を受けうるという点に存在する。本発明においては、ジエン部分の除去のための比較的低い温度とは、約200℃以下のことを意味する。換言すれば、ディールズアルダー反応において保護基として芳香族ジエンを使用する場合には、脱保護処理が200℃以上の温度で実施される必要があるが、擬似芳香族ジエンを保護基として使用することによって、脱保護処理を200℃以下の温度で実施することが可能となる。低温による処理は、エネルギーの節約のみならず、精製を簡便にし、副産物の生成の可能性も減少させる。
【0020】
ディールズアルダー反応において保護基として使用できる「偽芳香族」ジエンとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。フラン、置換されたフラン(例えば限定されないが2,3−ビスヒドロキシメチルフラン、3,4−ビスヒドロキシメチルフラン及び2,5−ビスヒドロキシメチルフラン)、フルベン、置換されたフルベン(限定されないが6,6−ジメチルフルベン)、アントラセン及び置換されたアントラセンなどが挙げられるがこれらに限定されない。ジエンは一置換されてもよく、あるいは複数の官能基によって多数置換されていてもよい。当該官能基としては、アルキル鎖(C2−C20、メチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル基など)、OH、SH、ハロゲン、アリール、カルボキシル、カルボニル、ニトロ、カルボキシアミド、ケト、スルフォキシド、スルホン、スルホン酸、リン酸及びアミノ基からなる群から選択されてもよく、それらは直接結合してもよく、又はアルキル残基を介して結合してもよい。
【0021】
ディールズアルダー中間体は、以下の一般式で表される。
【0022】
【化3】

式中、Rは第一級芳香族アミン、第一級のアリールアミン又は第一級のヘテロアリールアミンである。上記は本発明に包含される。この中間物は、α,β不飽和カルボン酸無水物と、少なくとも1つの第一級芳香族アミンとをイミド化反応させ、少なくとも1つの不飽和芳香族N置換環状イミドを得る工程によって調製することができる。不飽和芳香族N置換イミド中に存在する共役二重結合を更にディールズアルダー反応条件下で擬似芳香族ジエンと反応させ、その二重結合が反応することを防止する。例えば、不飽和芳香族N置換環状イミド中に存在する共役二重結合を保護することにより、求核試薬による、二重結合に対するいかなるマイケル反応又は「エン型」反応のおそれもなくなり、それにより、脱保護を行った後、二重結合が保持された生成物を得ることができる。
【0023】
ディールズアルダー保護された不飽和芳香族N置換環状イミドは更に、適切なルイス酸の存在下で、アミノプロピルトリアルコキシシラン分子などの求核試薬と反応し、ディールズアルダー保護された不飽和環状イミドアルコキシシランが生成する。少なくとも1つのアルコキシ基を有する限りにおいて、他のアミノアルコキシシランを使用してもよい。イミド転位反応に使用できる適当なアミノアルコキシシランの例としては、以下の一般式Iで表されるアミノアルコキシシランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
【化4】

式中、R1は炭素原子数1〜約20のアルキレン基若しくはシクロアルキレン基、又は炭素原子数6〜約20のアリーレン基であり、R2及びR3は各々独立に、炭素原子数1〜約20のアルコキシ、アルキル若しくはシクロアルキル基、又は炭素原子数6〜約20のアリール基であり、nは約1〜約20の整数である。
【0025】
更に、イミド転位反応において使用するアミノアルコキシシランは、アミノメチル−トリエトキシ−シラン、(3−アミノ−プロピル)トリエトキシシラン、(3−アミノ−プロピル−メチル−ジエトキシ−シラン、(3−アミノ−プロピル)−フェニル−ジメトキシ−シラン、(4−アミノ−ブチル)トリエトキシシラン、(3−アミノ−2−メチル−プロピル)−トリエトキシ−シラン、(4−アミノ−ブチル)−メチル−ジエトキシ−シラン、(3−アミノプロポキシプロピル)−トリエトキシ−シラン、(3−アミノ−プロポキシプロピル)−トリメトキシ−シラン、(3−アミノ−プロポキシプロピル)−メチル−ジエトキシシラン、(3−アミノ−プロポキシプロピル)−エチル−ジエトキシ−シラン、(p−アミノフェニル)−トリエトキシ−シラン、(2−アミノ−エチルアミノメチル)−(メトキシエトキシ)−ビス−(1−メチルプロピリデンアモノオキシ)−シラン及び[(ω−アミノ−アルキルアミノ)−アルキル]−トリアルコキシ−シラン、特に、[3−(2−アミノ−エチルアミノ)−プロピル]−トリメトキシシラン、[3−(3−アミノ−プロピルアミノ)−プロピル]−トリエトキシ−シラン、[(2−アミノエチルアミノ)−メチル]−トリエトキシ−シラン及び−[(6−アミノヘキシルアミノ)−メチル]トリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1つのアミノシランであってもよい。
【0026】
上記したように、イミド転位反応はルイス酸の存在下で実施することができる。適切なルイス酸の例としては、ZnCl2が挙げられるが、これに限定されない。他の適切なルイス酸としては、限定されないが、アルカリ金属の塩及び酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン塩及び酸化物、ランタニドのハロゲン塩及び酸化物、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0027】
本発明の別の態様では、ディールズアルダー保護された不飽和のN置換環状イミドの調製方法の提供に関する。当該方法は、少なくとも1つの第一級芳香族アミンと、不飽和環状無水物とをイミド化反応させ、少なくとも1つの不飽和芳香族N置換環状イミドを得ることを含んでなる。使用可能な芳香族第一級アミンとしては、第一級アリールアミン又は第一級ヘテロアリルアミンが挙げられる。当該第一級アミンは芳香族である必要があり、またそれらは置換されてもよく、又は全く置換基を有さなくともよい。例えば、芳香族第一級アミンの芳香族部分は、炭素原子数1〜20のアルキル基、他の芳香族R基、及び/又は少なくとも1つのハロゲンにより置換されてもよい。具体的には、本発明で使用する芳香族第一級アミンとしては、限定されないが、アニリン、環置換されたアニリン、2−アミノピリジン、アミノナフタレン及びアミノアントラセンなどが挙げられる。
【0028】
上記したように、被保護不飽和芳香族N置換環状イミドが調製された後、それを上記の一般式Iの構造を有するアミノアルコキシシランと、任意にルイス酸の存在下で、任意に加熱して反応させ、イミド転位反応を介して不飽和環状イミドアルコキシシランが調製される。このイミド転位反応においては、当該芳香族第一級アミンは再生して再利用することができる。
【0029】
上記の反応は、適切な化学触媒の存在下で実施してもよく、また当該触媒を用いなくてもよい。更に、反応の各々のステップを熱又は圧力によって制御してもよい。具体的には、イミド転位反応は、約0.1気圧〜約20気圧の圧力、及び25℃〜約200℃の温度で実施してもよい。本発明の脱保護反応は、約0.1気圧〜約20気圧の圧力、及び25℃〜約200℃の温度で実施してもよい。
【実施例】
【0030】
次の工程は、本発明を例示する。
<実施例1>:加熱したトルエン溶液からのN−フェニルマレイミドの調製
100mLの丸底フラスコに、2.3gの無水マレイン酸、50mLのオルトジクロロベンゼン(o−DCB)及びアニリン(1当量)を添加した。フラスコに、ディーン−スターク濃縮器/トラップ装置を連結させ、得られる溶液を還流加熱した。60分間還流した後、水相をトラップから取り除き、得られるo−DCB溶液を回収した。標準的なGC技術を用いた分析を行った結果、市販の標準試料との比較から、無水物のN−フェニルマレイミドへの実質的に定量的な転換が示された。真空下で溶媒を除去し、N−フェニルマレイミドを>90%の収率で得、加熱したトルエン溶液からN−フェニルマレイミドを再結晶させ、溶液から抽出した。
【0031】
<実施例2>:ディールズアルダー保護されたフラン及びN−フェニルマレイミドの付加生成物の調製
250mLの丸底フラスコに、10.1gのN−フェニルマレイミド及び100mLのトルエンを添加した。撹拌しながら、得られる均一な緑色の溶液を90℃に加熱し、4.1gのフランを3分間にわたって滴下して添加し、フラスコを密閉し、更に60分間撹拌した。更に加熱した溶液を、室温に冷却し、それにより、分析的に純粋な生成物の沈殿(約70%の収率)が生じた。更に標準的なHPLC(陽子及び炭素NMR)及び質量分析法で解析し、ディールズアルダー保護されたフラン及びN−フェニルマレイミドの付加物を得た。
【0032】
<実施例3>:フラン及びN−(プロピルトリエトキシシラン)マレイミドのディールズアルダー付加物の調製
50mLの丸底フラスコに、20mLのトルエン、1.6gの3−アミノプロピルトリエトキシシラン、並びに1.6gのフラン及びN−フェニルマレイミドのディールズアルダー保護された付加物を添加した。無色の懸濁液を室温で12時間撹拌し、その間に、溶液が均一な淡い黄色の溶液に変化した。次に真空下で溶媒を除去し、暗い油状の材料が得られ、次に、50mLの無水オルトジクロロベンゼン(o−DCB)を添加した100mLの丸底フラスコへ徐々に移し、約140℃で約5時間加熱した。溶液を更に室温に冷却し、o−DCB溶媒を真空下で除去した。更に標準的なGC、HPLC及び陽子及び炭素NMR技術で分析した結果、フラン及びN−(プロピルトリエトキシシラン)マレイミドのディールズアルダー付加物が、効果的に、定量的収率で、生成物として得られることが示された。
【0033】
<実施例4>:(プロピルトリエトキシシラン)マレイミド
50mLの丸底フラスコに、1gのフラン及びN−(プロピルトリエトキシシラン)マレイミドのディールズアルダー付加物、並びに10mLのオルトジクロロベンゼンを添加した。得られる均一な溶液を150℃で1時間加熱し、更に室温に冷却した。次に全ての揮発性物質(溶媒を含む)を真空下で除去し、得られる暗い油状物を、標準的なGC、HPLC、陽子及び炭素NMR、及び質量分析法により分析した結果、効果的に、定量的な収率で、N−(プロピルトリエトキシシラン)マレイミドが得られたことが示された。
【0034】
本発明の工程を、具体的な実施態様により記載したが、当業者であれば、それらは本発明の範囲内において様々に変形させることができ、その均等物で代用することができることを理解するであろう。更に、多くの修飾を施し、その基本的な範囲から逸脱することなく、具体的な状況又は材料に応じて、本発明の教示に適応させることも可能である。ゆえに本発明は、本発明の処理を実施するために考察される最良の形態として開示されている具体例に限定されるものではなく、むしろ本発明は、添付の特許請求の範囲に包含される全ての実施態様を包含するものとして理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β不飽和環状イミドアルコキシシランの調製方法であって、
i)実質的に水フリーのディールズアルダー保護された不飽和芳香族N置換イミドを、少なくとも1つのアミノアルコキシシランを用いてイミド転位させ、少なくとも1つのディールズアルダー保護された不飽和環状イミドアルコキシシランを得る方法。
【請求項2】
更にii)保護された環状イミドアルコキシシランを脱保護して、α,β−不飽和環状イミドアルコキシシランを得る工程を含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ディールズアルダー保護された不飽和芳香族N置換環状イミドが、少なくとも1つの第一級芳香族アミンと環状不飽和無水物とをイミド化反応させ、少なくとも1つの不飽和芳香族N置換環状イミドを得、更にディールズアルダー反応条件下で少なくとも1つのジエンと、当該不飽和N置換環状イミド中に存在する二重結合を保護し、少なくとも1つのディールズアルダー保護された不飽和芳香族N置換環状イミドを得る工程を含んでなる方法によって得られる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ディールズアルダー保護された不飽和芳香族N置換環状イミドが、ディールズアルダー反応条件下で少なくとも1つのジエンと不飽和環状無水物に存在する二重結合を保護し、少なくとも1つのディールズアルダー保護された不飽和環状無水物を得、少なくとも1つの第一級芳香族アミンとディールズアルダー保護された無水物をイミド化し、ディールズアルダー保護された不飽和芳香族N置換環状イミドを調製することを含んでなる方法によって得られる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
イミド転位工程(i)で得られるディールズアルダー保護された不飽和芳香族N置換環状イミドを、工程(ii)を実施する前に水から隔離する、請求項2記載の方法。
【請求項6】
イミド転位工程(i)で得られるディールズアルダー保護された不飽和芳香族N置換環状イミドを、工程(ii)を実施する前に共沸蒸留によって水から隔離する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
工程(ii)において再生されるジエンが工程で再利用される、請求項2記載の方法。
【請求項8】
前記第一級芳香族アミンが、第一級アリールアミン又は第一級ヘテロアリールアミンである、請求項3記載の方法。
【請求項9】
前記第一芳香族アミンが、アニリン、環置換されたアニリン、2−アミノピリジン、アミノナフタレン及びアミノアントラセンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記ジエンが、フラン、置換されたフラン、フルベン、置換されたフルベン、アントラセン及び置換されたアントラセンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項3記載の方法。
【請求項11】
処理(ii)において再生される前記ジエンが、フラン、置換されたフラン、フルベン、置換されたフルベン、アントラセン及び置換されたアントラセンからなる群から選択される少なくとも1つであり、前記第一級芳香族アミンが、第一級アリールアミン、第一級ヘテロアリールアミン、アニリン、環置換されたアニリン、2−アミノピリジン、アミノナフタレン及びアミノアントラセンからなる群から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項12】
処理(ii)において再生されたジエンが、炭素数約2〜約20のアルキル鎖、メチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、OH、SH、ハロゲン、アリール、カルボキシル、カルボニル、ニトロ、カルボキシアミド、ケト、スルフォキシド、スルホン、スルホン酸、リン酸及びアミノ基からなる群から選択される置換基を有する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
イミド転位反応が、少なくとも1つの工程(i)により実施され、アミノアルコキシシランが以下の一般式で表される、請求項1記載の方法。
【化1】

(式中、R1は炭素原子数1〜約20のアルキレン基若しくはシクロアルキレン基、又は炭素原子数6〜約20のアリーレン基であり、
2及びR3は各々独立に、炭素原子数1〜約20のアルコキシ、アルキル若しくはシクロアルキル基、又は炭素原子数6〜約20のアリール基であり、
nは約1〜約20の整数である。)
【請求項14】
1が炭素原子数1〜4のアルコキシ基であり、nが3である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
工程(i)のイミド転位反応が、アミノメチル−トリエトキシ−シラン、(3−アミノ−プロピル)トリエトキシシラン、(3−アミノ−プロピル−メチル−ジエトキシ−シラン、(3−アミノ−プロピル)−フェニル−ジメトキシ−シラン、(4−アミノ−ブチル)トリエトキシシラン、(3−アミノ−2−メチル−プロピル)−トリエトキシ−シラン、(4−アミノ−ブチル)−メチル−ジエトキシ−シラン、(3−アミノプロポキシプロピル)−トリエトキシ−シラン、(3−アミノ−プロポキシプロピル)−トリメトキシ−シラン、(3−アミノ−プロポキシプロピル)−メチル−ジエトキシシラン、(3−アミノ−プロポキシプロピル)−エチル−ジエトキシ−シラン、(p−アミノフェニル)−トリエトキシ−シラン、(2−アミノ−エチルアミノメチル)−(メトキシエトキシ)−ビス−(1−メチルプロピリデンアモノオキシ)−シラン及び[(ω−アミノ−アルキルアミノ)−アルキル]−トリアルコキシ−シラン、特に、[3−(2−アミノ−エチルアミノ)−プロピル]−トリメトキシシラン、[3−(3−アミノ−プロピルアミノ)−プロピル]−トリエトキシ−シラン、[(2−アミノエチルアミノ)−メチル]−トリエトキシ−シラン及び−[(6−アミノヘキシルアミノ)−メチル]トリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1つのアミノシランを用いて実施される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
工程(i)のイミド転位反応が、溶媒の存在下で実施される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒が水と共沸混合物を形成する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒が、トルエン、キシレン、オルトジクロロベンゼン及びその混合物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
イミド転位工程(i)が触媒の存在下で実施される、請求項13記載の方法。
【請求項20】
前記触媒がルイス酸である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
イミド化工程(a)が約0.1気圧〜約20気圧の圧力、及び25℃〜約200℃の温度で実施される、請求項13記載の方法。
【請求項22】
脱保護工程(ii)が溶媒の存在下で実施される、請求項2記載の方法。
【請求項23】
前記溶媒がルイス酸である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
脱保護工程(ii)が触媒の存在下で実施される、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記触媒がルイス酸である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
脱保護工程(ii)が、約0.1気圧〜約20気圧の圧力、及び25℃〜約200℃の温度で実施される、請求項22記載の方法。
【請求項27】
前記保護工程が、有機溶媒中で、約60℃以上、沸点以下の温度で実施される、請求項4記載の方法。
【請求項28】
以下の一般式で表される、ディールズアルダー中間体。
【化2】

(式中、Rは第一級芳香族アミン、第一級アリールアミン又は第一級ヘテロアリールアミンである。)
【請求項29】
Rがアニリンである、請求項28記載のディールズアルダー中間体。

【公表番号】特表2009−517389(P2009−517389A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542444(P2008−542444)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/045249
【国際公開番号】WO2007/064552
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(506390498)モーメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・インク (85)
【Fターム(参考)】