説明

不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法

【課題】工業的に有利な方法で、医薬、農薬、高分子材料、機能材料やその中間体等のファインケミカルとして利用可能な不飽和カルボン酸アミド組成物を得る不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法は、不飽和カルボン酸を、塩化チオニルにより塩素化する工程1、及び前記工程1で得られる不飽和カルボン酸の塩素化物とアミンを反応させることにより、不飽和カルボン酸アミドを主成分とする不飽和カルボン酸アミド組成物を得る工程2とを含む不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法において、塩化チオニルの使用量を不飽和カルボン酸の0.5〜3.0モル倍とする、及び/又は工程2終了後に吸着剤を用いて含塩素化合物を分離・除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、高分子材料、機能材料やその中間体等のファインケミカルとして有用な不飽和カルボン酸アミド組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和カルボン酸アミドの製造方法としては、不飽和カルボン酸とアミンとを、脱水縮合反応させる方法が知られている。特許文献1には、カルボジイミドを脱水縮合剤として使用し、2−ヒドロキシ桂皮酸とアミン類とを脱水縮合反応させて2−ヒドロキシ桂皮酸アミドを得る方法が記載されている。また、非特許文献1には、N,N−カルボニルジイミダゾールを脱水縮合剤として使用し、4−メトキシ桂皮酸とアミン類とを脱水縮合反応させて4−メトキシ桂皮酸アミドを得る方法が記載されている。しかし前記方法で使用する脱水縮合剤は、高価で、且つ強いアレルギー反応を引き起こす場合があるため、工業的には必ずしも有利な方法とはいえない。また、不飽和カルボン酸ニトリルの水和により不飽和カルボン酸アミドを得る方法も知られているが、不飽和カルボン酸の種類によっては反応の選択性が低下する等、必ずしも一般的な方法とはいえない。
【0003】
そのため、不飽和カルボン酸アミドの合成方法としては、不飽和カルボン酸クロリドとアミンとを反応させる方法が多用されている。また、不飽和カルボン酸クロリドの製造法としては、不飽和カルボン酸と塩化チオニルとを反応させる方法が、塩化チオニルの沸点が比較的低く、余剰の塩化チオニルの除去が容易である点等から、最も一般的である。非特許文献2には、不飽和カルボン酸と前記不飽和カルボン酸に対して8.6モル倍の塩化チオニルを冷却下混合し、反応が開始してから加熱還流状態にして不飽和カルボン酸クロリドを得る方法が記載されている。
【0004】
すなわち、不飽和カルボン酸アミドの製造方法としては、不飽和カルボン酸と塩化チオニルとを反応させることにより不飽和カルボン酸クロリドを合成し、得られた不飽和カルボン酸クロリドとアミンとを反応させることにより不飽和カルボン酸アミドを合成する方法が一般的である。
【0005】
一方、高機能材料、例えば、電気・電子部品の製造に利用される感光性高機能材料(レジスト材料)、とりわけ高信頼性が要求される半導体封止材料、半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等のパッケージ材料、及び半導体、液晶ディスプレイやMEMS用感光性材料等においては、その構成材料の高純度化が要求されている。なかでも含塩素化合物は、電気・電子部品の性能に大きな影響を与えることが知られている。特許文献2には、副生物に含有するハロゲン原子が露光時にハロゲンアニオンとなって酸発生剤の効果を低下させ、結果的に感度を低下させるという不具合が生じることが開示されている。また、特許文献3には、吸湿により塩素イオンを遊離する加水分解性塩素等多くの有機塩素化合物を不純物として含有している化合物を電気・電子部品の製造に使用すると、配線の腐食や断線、絶縁性の低下が起きやすくなり、電気・電子部品の信頼性が低下するという問題が生じることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/123122
【特許文献2】特開2002−187868号公報
【特許文献3】特開2009−263543号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナル オブ オーガニックケミストリー69巻4216頁(2004年)
【非特許文献2】ジャーナル オブ アメリカンケミカルソサイエティー72巻3885頁(1950年)
【非特許文献3】シンセシス 598頁(1989年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、工業的に有利な方法で、医薬、農薬、高分子材料、機能材料やその中間体等のファインケミカルとして利用可能な不飽和カルボン酸アミド組成物を得る不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、医薬、農薬、高分子材料、機能材料やその中間体等のファインケミカルとして利用可能な不飽和カルボン酸アミド組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、不飽和カルボン酸を塩化チオニルで塩素化し、得られた不飽和カルボン酸クロリドとアミンとを反応させることにより得られる不飽和カルボン酸アミドには、副生物として特定の含塩素化合物を含有することが分かった。そして、不飽和カルボン酸と塩化チオニルの塩素化反応において塩化チオニルの使用量を特定の範囲に調整、若しくは反応後に吸着剤を用いて精製する工程を設けると、含塩素化合物含有量の極めて低い不飽和カルボン酸アミドを得ることができること、及び含塩素化合物含有量の極めて低い不飽和カルボン酸アミドは医薬、農薬、高分子材料やその中間体のみでなく、感光性高機能材料やその中間体として利用可能であることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R1〜R5は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基又はニトロ基を示す。R1〜R5のうち少なくとも2つが互いに結合して環を形成していてもよい。R6は水素原子、アルキル基、又はシクロアルキル基を示す)
で表される不飽和カルボン酸を、塩化チオニルにより塩素化して、下記式(2)
【化2】

(式中、R1〜R6は前記に同じ)
で表される化合物を得る工程1、及び上記式(2)で表される化合物と下記式(3)
【化3】

(式中、R7、R8は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環式基を示す。R7、R8は、ヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、式中に示される窒素原子と共に環を形成していてもよい。但し、R7、R8が共に水素原子である場合は除く)
で表されるアミンを反応させることにより、下記式(4)
【化4】

(式中、R1〜R8は前記に同じ)
で表される不飽和カルボン酸アミドを主成分とする不飽和カルボン酸アミド組成物を得る工程2とを含む不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法において、塩化チオニルの使用量を上記式(1)で表される不飽和カルボン酸の0.5〜3.0モル倍とする、及び/又は工程2終了後に吸着剤を用いて含塩素化合物を分離・除去することを特徴とする不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法を提供する。
【0011】
不飽和カルボン酸アミド組成物中の塩素原子含有量は、上記式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して1000ppm以下であることが好ましく、不飽和カルボン酸アミド組成物中の、下記式(5)
【化5】

(式中、R1〜R8は前記に同じ)
で表される含塩素化合物の含有量は、上記式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して0.1重量%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明は、また、上記不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法により得られる、下記式(4)
【化6】

(式中、R1〜R5は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基又はニトロ基を示す。R1〜R5のうち少なくとも2つが互いに結合して環を形成していてもよい。R6は水素原子、アルキル基、又はシクロアルキル基を示す。R7、R8は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環式基を示す。R7、R8は、ヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、式中に示される窒素原子と共に環を形成していてもよい。但し、R7、R8が共に水素原子である場合は除く)
で表される不飽和カルボン酸アミドを主成分とし、塩素原子含有量が、上記式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して1000ppm以下、及び/又は下記式(5)
【化7】

(式中、R1〜R8は前記に同じ)
で表される含塩素化合物の含有量が、上記式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して0.1重量%以下であることを特徴とする不飽和カルボン酸アミド組成物を提供する。
【0013】
上記式(4)及び式(5)におけるR1、R2、R4、R5としては水素原子が好ましく、R3としてはメトキシ基が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法によれば、効率よく、且つ優れた収率で、純度が高く、且つ、含塩素化合物の含有量が極めて低い不飽和カルボン酸アミド組成物を得ることができる。そのため、本発明に係る不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法によって得られる不飽和カルボン酸アミド組成物は、医薬、農薬、高分子材料やその中間体としてはもちろん、高機能材料、例えば、電気・電子部品の製造に利用される感光性高機能材料(レジスト材料)、とりわけ高信頼性が要求される半導体封止材料、半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等のパッケージ材料、及び半導体、液晶ディスプレイやMEMS用感光性材料等として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法は、上記式(1)で表される不飽和カルボン酸を、塩化チオニルにより塩素化して、上記式(2)で表される化合物を得る工程1、及び上記式(2)で表される化合物と上記式(3)で表されるアミンを反応させることにより、上記式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドを主成分とする不飽和カルボン酸アミド組成物を得る工程2とを含む不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法において、塩化チオニルの使用量を上記式(1)で表される不飽和カルボン酸の0.5〜3.0モル倍とする、及び/又は工程2終了後に吸着剤を用いて含塩素化合物を分離・除去することを特徴とする。
【0016】
式(1)中、R1〜R5は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基又はニトロ基を示す。R1〜R5のうち少なくとも2つが互いに結合して環を形成していてもよい。R1〜R5におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等の炭素数1〜4程度のアルキル基等を挙げることができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ基等の炭素数1〜6程度のアルコキシ基等を挙げることができる。R1〜R5のうち少なくとも2つが互いに結合して形成していてもよい環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン環等の芳香環;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロオクタン、シクロドデカン、アダマンタン、ノルボルナン、ノルボルネン環等の3〜20員(好ましくは、3〜15員、さらに好ましくは5〜12員)程度の炭化水素環(シクロアルカン環、シクロアルケン環、又は橋かけ炭素環)等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、R1、R2、R4、R5が水素原子であり、R3がメトキシ基であることが、吸光感度に優れる化合物を得ることができる点、及び原料の入手が容易な点で好ましい。
【0017】
6は水素原子、アルキル基、又はシクロアルキル基を示す。R6におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル基等の炭素数1〜6程度のアルキル基等を挙げることができる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の3〜6員程度のシクロアルキル基を挙げることができる。本発明のR6としては、水素原子、又は炭素数1〜3程度のアルキル基(特に、メチル基)が好ましい。
【0018】
式(3)中、R7、R8は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環式基を示す。R7、R8におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基等の炭素数1〜20(好ましくは1〜10)程度のアルキル基等を挙げることができる。アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、1−ブテニル基等の炭素数2〜20(好ましくは2〜10)程度のアルケニル基等を挙げることができる。アルキニル基としては、例えば、エチニル、プロピニル基等の炭素数2〜20(好ましくは2〜10)程度のアルキニル基等を挙げることができる。アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜20(好ましくは6〜14)程度のアリール基等を挙げることができる。複素環式基を構成する複素環としては、例えば、ピロール環等の芳香族性複素環;ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、ピペラジン、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、チアジン環等の3〜20員(好ましくは3〜12員、さらに好ましくは3〜8員)程度の非芳香族性複素環やこれらの環が縮合した環、及びこれらの環と芳香環(例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン環等)が縮合して得られる環(例えば、ベンゾイミダゾール、フェノチアジン環等)等を挙げることができる。
【0019】
前記R7、R8は、ヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、式(3)中に示される窒素原子と共に環を形成していてもよい。前記ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子等を挙げることができる。前記R7、R8がヘテロ原子を介することなく互いに結合して、式(3)中に示される窒素原子と共に環としては、例えば、ピロール環等の芳香族性複素環;ピペリジン、ピロリジン環等の3〜20員(好ましくは3〜12員、さらに好ましくは3〜8員)程度の非芳香族性複素環やこれらの環が縮合した環、及びこれらの環と芳香環(例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン環等)が縮合して得られる環等を挙げることができる。前記R7、R8がヘテロ原子を介して互いに結合して、式(3)中に示される窒素原子と共に環としては、例えば、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、チアジン、モルホリン、ピペラジン環等の3〜20員(好ましくは3〜12員、さらに好ましくは3〜8員)程度の非芳香族性複素環やこれらの環が縮合した環、及びこれらの環と芳香環(例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン環等)が縮合して得られる環(例えば、ベンゾイミダゾール、フェノチアジン環等)等を挙げることができる。また、前記環は、置換基として、メチル、エチル、プロピル基等の炭素数1〜3程度のアルキル基や、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜20(好ましくは6〜14)程度のアリール基等を有していてもよい。
【0020】
式(3)で表されるアミンの具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、アリルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ベンジルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、キシリジン、ナフチルアミン、2−アミノチアゾール等の第1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジアリルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジオクチルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、エチレンイミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、N−メチルアニリン、ジフェニルアミン、ベンゾイミダゾール、2−フェニルベンゾイミダゾール、フェノチアジン、ピラゾール等の第2級アミン等を挙げることができる。
【0021】
式(4)中、R1〜R8は前記に同じ。式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドの具体例としては、下記式(4a)〜(4h)で表される化合物等を挙げることができる。
【化8】

【0022】
式(5)中、R1〜R8は前記に同じ。式(5)で表される含塩素化合物における塩素原子の結合する炭素原子としては、カルボニル基に隣接する二重結合を形成する2つの炭素原子の少なくとも1つ、及び/又は、R6がアルキル基又はシクロアルキル基である場合はR6を構成する炭素原子の少なくとも1つであり、主に、カルボニル基に隣接する二重結合を形成する2つの炭素原子の少なくとも1つである。
【0023】
[工程1]
工程1は、上記式(1)で表される不飽和カルボン酸を、塩化チオニルにより塩素化して、上記式(2)で表される化合物を得る工程である。
【0024】
塩化チオニルの使用量としては、例えば、式(1)で表される不飽和カルボン酸の0.5〜3.0モル倍(好ましくは0.8〜2.5モル倍、さらに好ましくは0.9〜1.8モル倍、特に好ましくは1.0〜1.5モル倍、最も好ましくは1.1〜1.5モル倍)程度である。塩化チオニルの使用量が上記範囲を上回ると、副生物である含塩素化合物の生成量が増加して、感光性高機能材料として使用することが困難となる場合がある。一方、塩化チオニルの使用量が上記範囲を下回ると、目的化合物の収率が低下する傾向がある。
【0025】
式(1)で表される不飽和カルボン酸の、塩化チオニルによる塩素化反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。前記溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の飽和または不飽和炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;スルホラン等のスルホラン系溶媒;ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;シリコーンオイル等の高沸点溶媒等を挙げることができる。これらの中で、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒や、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒を特に好ましく使用できる。これらは単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0026】
溶媒の使用量は、反応基質を溶解または分散することが可能であり、且つ、経済性等を損なわない範囲内であれば特に制限されることがなく、例えば、式(1)で表される不飽和カルボン酸1重量部に対して、1〜100000重量部程度、好ましくは1〜10000重量部程度の範囲から選択することができる。
【0027】
上記塩素化反応は、例えば、式(1)で表される不飽和カルボン酸を仕込んだ系内に、塩化チオニルを滴下することにより行うことができる。反応時間は、例えば、0.5〜48時間程度、好ましくは1〜36時間程度、特に好ましくは2〜24時間程度である。塩化チオニルの滴下時温度としては、例えば、40℃以上、反応系内に存在する物質の沸点以下、好ましくは55〜120℃、さらに好ましくは60〜75℃である。また、塩化チオニル滴下終了後の反応温度としては、例えば、55℃以上、反応系内に存在する物質の沸点以下、好ましくは55〜120℃、さらに好ましくは60〜75℃である。滴下時温度と滴下終了後の反応温度は、同一であっても異なっていてもよい。塩化チオニルの滴下時温度、及び滴下終了後の反応温度が上記範囲を下回ると、式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドの収率が低下する傾向がある。一方、塩化チオニルの滴下時温度、及び滴下終了後の反応温度が上記範囲を上回ると、副生物である含塩素化合物の生成量が増加して、感光性高機能材料として使用することが困難となる場合がある。
【0028】
上記塩素化反応は、加圧下、常圧下又は減圧下(例えば0.0001〜0.1MPa程度、好ましくは0.001〜0.1MPa程度)の何れであってもよいが、常圧下又は減圧下で行うことが多い。
【0029】
本発明においては、工程1中若しくは工程1終了後に、過剰の塩化チオニルの除去操作を行うことが、不飽和カルボン酸アミド組成物中の含塩素化合物含有量、及び/又は、塩素原子含有量を一層低減することができる点で好ましい。過剰の塩化チオニル除去手段としては、慣用の方法、例えば、脱気、抽出、蒸留、精留、分子蒸留、吸着を用いた分離等を用いることができる。これらは、連続的に行ってもよく、非連続的(回分式)に行ってもよい。また、操作時圧力は、減圧又は常圧の何れであってもよい。
【0030】
また、工程1では、更に、副生する酸性ガス(例えば、塩化水素、二酸化硫黄等)を、反応系から連続的に分離しつつ、反応を行うことが、不飽和カルボン酸アミド組成物中の含塩素化合物含有量、及び/又は、塩素原子含有量を一層低減することができる点で好ましい。副生する酸性ガスの分離手段としては、慣用の方法、例えば脱気、抽出、蒸留、精留、分子蒸留、吸着を用いた分離等を用いることができる。これらは、連続的に行ってもよく、非連続的(回分式)に行ってもよい。また、操作時圧力としては、減圧又は常圧の何れであってもよい。
【0031】
[工程2]
工程2は、工程1で得られた式(2)で表される化合物と式(3)で表されるアミンと反応させて、式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドを主成分とする不飽和カルボン酸アミド組成物を得る工程である。
【0032】
式(3)で表されるアミンとしては、上記式(3)で表されるアミンの具体例で挙げられる第1級アミン及び第2級アミンを単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
式(3)で表されるアミンの使用量としては、例えば、式(2)で表される化合物の0.5〜20.0モル倍程度、好ましくは0.8〜8.0モル倍程度、さらに好ましくは1.0〜3.0モル倍程度である。式(3)で表されるアミンの使用量が上記範囲を上回ると、反応の操作性及び経済性を損ねる傾向があり、一方、式(3)で表されるアミンの使用量が上記範囲を下回ると、式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドの収率が低下する傾向がある。
【0034】
工程2の反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。前記溶媒としては、上記工程1で使用することができる溶媒の例と同様の例を挙げることができる。溶媒の使用量は、反応基質を溶解または分散することが可能であり、且つ、経済性等を損なわない範囲内であれば特に制限されることがなく、例えば、式(2)で表される化合物1重量部に対して、1〜100000重量部程度、好ましくは1〜10000重量部程度の範囲から選択することができる。工程2の溶媒は、工程1の溶媒を共通に使用することができ、工程1終了後、そのまま使用してもよく、工程1終了後、濃縮又は希釈することにより濃度を調整して使用してもよい。
【0035】
工程2の反応温度としては、例えば、−50〜150℃、好ましくは−10〜80℃、さらに好ましくは10〜50℃である。また、反応は、加圧下、常圧下又は減圧下(例えば0.0001〜0.1MPa程度、好ましくは0.001〜0.1MPa程度)の何れであってもよいが、常圧下又は減圧下で行うことが多い。更に、反応は、バッチ式、セミバッチ式、及び連続式のいずれの方法で行ってもよい。
【0036】
工程2では、反応の進行により酸性ガス(塩化水素)及び/又はアミン塩酸塩のガスが副生する。本発明においては、これらを除去することが、反応の進行を促進することができ、且つ、含塩素化合物等の副生物生成を抑制することができる点で好ましい。除去方法としては、例えば、反応に不活性又は目的物の取得に影響を与えない塩基を添加してこれらを捕捉する方法や、例えば、脱気、抽出、蒸留、精留、分子蒸留、又は吸着等の分離手段により、これらを反応系から連続的に分離しつつ反応を行う方法等を挙げることができる。
【0037】
前記反応に不活性又は目的物の取得に影響を与えない塩基としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン、ピリジン等の芳香族アミン、及び上記式(3)で表させるアミンの具体例として挙げられる第1級アミン及び第2級アミン等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。反応に不活性又は目的物の取得に影響を与えない塩基の使用量としては、例えば、式(2)で表される化合物の0.5〜10.0モル倍程度、好ましくは0.8〜3.0モル倍程度である。
【0038】
前記脱気、抽出、蒸留、精留、分子蒸留、又は吸着等による分離は、連続的に行ってもよく、非連続的(回分式)に行ってもよい。また、前記分離操作時の圧力としては、減圧又は常圧の何れであってもよい。
【0039】
工程2を経て得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。本発明においては、なかでも、吸着剤を用いて反応生成物中に含有する含塩素化合物を分離・除去することが好ましい。吸着剤としては、例えば、シリカゲル、アルミナ、活性炭、マグネシア、ハイドロタルサイト等を挙げることができる。本発明においては、特に、分離及び/又は除去効率に優れる点で、シリカゲル(特に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー)を使用して含塩素化合物を分離・除去することが好ましい。
【0040】
本発明における含塩素化合物としては、本発明の不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法により副生する全ての塩素原子含有化合物を挙げることができる。主な含塩素化合物としては、例えば、上記式(5)で表される化合物、3−クロロ−3−アリールアクリル酸アミド及びその類縁体、2−クロロ−3−アリールアクリル酸アミド及びその類縁体、3−クロロ−3−アリールプロピオン酸アミド及びその類縁体、2−クロロ−3−アリールプロピオン酸アミド及びその類縁体等を挙げることができる。
【0041】
本発明に係る不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法は反応の制御が容易であり、優れた収率(例えば、90%以上、好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上)で、式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドを主成分とし、塩素原子含有量及び/又は上記式(5)で表される含塩素化合物の含有量が極めて低い高純度の不飽和カルボン酸アミド組成物を得ることができる。
【0042】
不飽和カルボン酸アミド組成物中の、式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドの含有量(重量%)としては、例えば、95重量%以上(好ましくは98重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは99.5重量%以上)である。また、塩素原子含有量は、式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して、例えば1000ppm以下程度(好ましくは、800ppm以下、特に好ましくは500ppm以下)であることが好ましい。塩素原子含有量は、例えば、燃焼イオンクロマトグラフィー等により測定することができる。また、上記式(5)で表される含塩素化合物の含有量は、式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して、0.1重量%以下(好ましくは0.05重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下)であることが好ましい。上記式(5)で表される含塩素化合物の含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィー等により測定することができる。式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対する塩素原子含有量及び/又は上記式(5)で表される含塩素化合物の含有量が上記範囲を上回ると、高機能材料として使用することが困難となる傾向がある。
【0043】
上記不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法により得られた不飽和カルボン酸アミド組成物は、塩素原子含有量及び/又は含塩素化合物含有量が極めて低く、高純度であるため、高機能材料、例えば、電気・電子部品の製造に利用される感光性高機能材料(レジスト材料)、とりわけ高信頼性が要求される半導体封止材料、半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等のパッケージ材料、及び半導体、液晶ディスプレイやMEMS用感光性材料に好適に使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。尚、定量、分析は、ガスクロマトグラフィー、及び燃焼イオンクロマトグラフィーにより行った。また、化合物の構造は、1H−NMR及び/又はGC−MSにより同定した。
【0045】
実施例1(N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミドの合成:塩化チオニルを1.2モル倍使用)
容量5Lの4つ口フラスコに還流冷却管と滴下漏斗、温度計を装着した。ここへ4−メトキシ桂皮酸 450g、トルエン 2.3Lを加え、窒素雰囲気下、反応器内を撹拌して懸濁状態とした。
ここへ、塩化チオニル 360g(4−メトキシ桂皮酸に対して1.2モル倍に相当)を、反応器内温度を60℃に保持しつつ、1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、4時間反応器内温度を60℃に保持して反応させ、その後、反応を終了した。
反応終了後、反応器内を減圧にし、液温60℃で、過剰の塩化チオニル及び約2割のトルエンを留去した。このようにして、4−メトキシ桂皮酸クロリドトルエン溶液を2012g得た。
【0046】
このようにして得られた4−メトキシ桂皮酸クロリドトルエン溶液に、トルエン 975mLを追加し、ジエチルアミン 462g(4−メトキシ桂皮酸クロリドに対して2.5モル倍に相当)を、反応器内温度を40℃に保持しつつ滴下した。
滴下終了後、反応器内を1時間撹拌し、10%塩酸水 2024gを加え、洗浄、分液して有機層を得た。この有機層を引き続き8%炭酸水素ナトリウム水溶液 2025g、水 2025gで洗浄し、トルエンを留去して4−メトキシ桂皮酸−N,N−ジエチルアミド(=N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミド)を主成分とする反応物(1)579g(溶媒含有量:2重量%)を得た。
【0047】
実施例2(N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミドの合成:塩化チオニルを2.0モル倍使用)
4−メトキシ桂皮酸 100g、塩化チオニル 133g(4−メトキシ桂皮酸に対して2.0モル倍に相当)を用い、その他の原料を、実施例1における4−メトキシ桂皮酸に対する割合と同じ割合で使用したこと、塩化チオニルの滴下を反応器内温度を40℃に保持して実施したこと、過剰の塩化チオニルの除去を、反応器内を常圧にして行ったこと、及びジエチルアミンの滴下を、反応器内を室温(25℃)にして行ったこと以外は、実施例1と同様にして、4−メトキシ桂皮酸−N,N−ジエチルアミド(=N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミド)を主成分とする反応物(2) 125g(溶媒含有量:1.4重量%)を得た。
【0048】
実施例3(N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミドの合成:塩化チオニルを1.2モル倍使用)
4−メトキシ桂皮酸 1.5kg、塩化チオニル 1.2kg(4−メトキシ桂皮酸に対して1.2モル倍に相当)を用いたこと、その他の原料を、実施例1における4−メトキシ桂皮酸に対する割合と同じ割合で使用したこと以外は、実施例1と同様にして、4−メトキシ桂皮酸−N,N−ジエチルアミド(=N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミド)を主成分とする反応物(3) 2.0kg(溶媒含有量:3.4重量%)を得た。
【0049】
実施例4(N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミドの合成:塩化チオニルを1.05モル倍使用)
4−メトキシ桂皮酸 40g、塩化チオニル 28g(4−メトキシ桂皮酸に対して1.05モル倍に相当)を用い、その他の原料を、実施例1における4−メトキシ桂皮酸に対する割合と同じ割合で使用したこと、塩化チオニルの滴下及び滴下後の反応を、反応器内温度を70℃に保持して行ったこと、過剰の塩化チオニルの除去を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、4−メトキシ桂皮酸−N,N−ジエチルアミド(=N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミド)を主成分とする反応物(4)50g(溶媒含有量:0.97重量%)を得た。
【0050】
比較例1(N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミドの合成:塩化チオニルを8.6モル倍使用)
4−メトキシ桂皮酸 30g、塩化チオニル 172g(4−メトキシ桂皮酸に対して8.6モル倍に相当)を用い、その他の原料を、実施例1における4−メトキシ桂皮酸に対する割合と同じ割合で使用したこと、塩化チオニルの滴下を反応器内を室温(25℃)にして行い、滴下後の反応を、反応器内温度を50℃から還流温度に調整して行ったこと、過剰の塩化チオニルの除去を、反応器内を常圧にして行ったこと、及びジエチルアミンの滴下を、反応器内を室温(25℃)にして行ったこと以外は、実施例1と同様にして、4−メトキシ桂皮酸−N,N−ジエチルアミド(=N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミド)を主成分とする反応物(5) 40g(溶媒含有量:5重量%)を得た。
【0051】
実施例5(N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミドの合成:シリカゲルで精製)
比較例1で得られた反応物(5) 6.5gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、精製された反応物(5-1) 5.3gを得た(回収率:83%)。
【0052】
比較例2(N,N−ジエチル−3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸アミド合成:蒸留精製)
比較例1で得られた反応物(5) 20gをクーゲルロールにより、減圧度1.5Torrで蒸留精製し、精製された反応物(5-2) 18gを得た(回収率:90%)。
【0053】
実施例6(4−メトキシ桂皮酸−N−フェニル−アミドの合成)
実施例1と同様の方法で、4−メトキシ桂皮酸 11.5g、トルエン 60.5g、塩化チオニル 7.7g(4−メトキシ桂皮酸に対して1.2モル倍に相当)から4−メトキシ桂皮酸クロリドトルエン溶液を得た。ここへ、アニリン 15g(4−メトキシ桂皮酸クロリドに対して2.5モル倍に相当)を、反応器内温度を40℃に保持しつつ滴下した。
滴下終了後、反応器内を1時間撹拌し、10%塩酸水 115g、酢酸エチル 230gを加え、洗浄、分液して有機層を得た。この有機層を引き続き8%炭酸水素ナトリウム水溶液 115g、水 115gで洗浄し、溶媒を留去して4−メトキシ桂皮酸−N−フェニル−アミドを主成分とする反応物(6) 15.7gを得た。
【0054】
実施例7(N−(3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸)モルホリドの合成)
アニリンに代えてモルホリンを用いた以外は、実施例6と同様に反応をおこなった。
滴下終了後、反応器内を1時間撹拌し、10%塩酸水 58g、酢酸エチル 58gを加え、洗浄、分液して有機層を得た。この有機層を引き続き8%炭酸水素ナトリウム水溶液 58g、水 58gで洗浄し、溶媒を留去してN−(3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸)モルホリドを主成分とする反応物(7) 14.5gを得た。
【0055】
実施例8(N−(3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸)−1H−イミダゾリドの合成)
実施例1と同様の方法で、4−メトキシ桂皮酸 15g、トルエン 83g、塩化チオニル 11g(4−メトキシ桂皮酸に対して1.2モル倍に相当)から4−メトキシ桂皮酸クロリドトルエン溶液を得た。
ここへ、イミダゾール 14g(4−メトキシ桂皮酸クロリドに対して2.5モル倍に相当)をテトラヒドロフラン 72gに溶解させた液を、反応器内温度を40℃に保持しつつ滴下した。
滴下終了後、反応器内を1時間撹拌し、水 75g、0.5%塩酸水 75g、8%炭酸水素ナトリウム水溶液 58g、水 58gの順で洗浄し、溶媒を留去して(N−(3−(4−メトキシフェニル)アクリル酸)−1H−イミダゾリドを主成分とする反応物(8) 7.4gを得た。
【0056】
上記実施例及び比較例で得られた反応物中の溶媒以外の成分について、定量、分析結果を下記表にまとめて示す。尚、各成分の含有量について、ガスクロマトグラフィーの検出限界以下の場合は0.00と示す。
【0057】
また、塩素原子含有量は、下記条件で測定した。
分析手段 燃焼イオンクロマトグラフィー
燃焼条件
使用機器 商品名「AQF−100」、ダイアインスツルメンツ製
サンプル 約20mg
燃焼プログラム MCDEA
吸収液 H22:30ppm
内標 酒石酸:5ppm
吸収液量 5mL
分析条件
使用機器 商品名「DIONEX ICS−2000」(低濃度分析モード)
本カラム AS−12
プレカラム AG−12
溶離液 2.7mM K2CO3+0.3mM 炭酸水素カリウム
サプレッサー ASRS(リサイクルモード)
流速 1.2mL/min
検出器 導電率検出器
カラム温 35℃
注入量 100μL
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1〜R5は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基又はニトロ基を示す。R1〜R5のうち少なくとも2つが互いに結合して環を形成していてもよい。R6は水素原子、アルキル基、又はシクロアルキル基を示す)
で表される不飽和カルボン酸を、塩化チオニルにより塩素化して、下記式(2)
【化2】

(式中、R1〜R6は前記に同じ)
で表される化合物を得る工程1、及び上記式(2)で表される化合物と下記式(3)
【化3】

(式中、R7、R8は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環式基を示す。R7、R8は、ヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、式中に示される窒素原子と共に環を形成していてもよい。但し、R7、R8が共に水素原子である場合は除く)
で表されるアミンを反応させることにより、下記式(4)
【化4】

(式中、R1〜R8は前記に同じ)
で表される不飽和カルボン酸アミドを主成分とする不飽和カルボン酸アミド組成物を得る工程2とを含む不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法において、塩化チオニルの使用量を上記式(1)で表される不飽和カルボン酸の0.5〜3.0モル倍とする、及び/又は工程2終了後に吸着剤を用いて含塩素化合物を分離・除去することを特徴とする不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法。
【請求項2】
不飽和カルボン酸アミド組成物中の塩素原子含有量が、上記式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して1000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法。
【請求項3】
不飽和カルボン酸アミド組成物中の、下記式(5)
【化5】

(式中、R1〜R8は前記に同じ)
で表される含塩素化合物の含有量が、上記式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して0.1重量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかの項に記載の不飽和カルボン酸アミド組成物の製造方法により得られる、下記式(4)
【化6】

(式中、R1〜R5は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、水酸基、アルコキシ基又はニトロ基を示す。R1〜R5のうち少なくとも2つが互いに結合して環を形成していてもよい。R6は水素原子、アルキル基、又はシクロアルキル基を示す。R7、R8は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環式基を示す。R7、R8は、ヘテロ原子を介して又は介することなく互いに結合して、式中に示される窒素原子と共に環を形成していてもよい。但し、R7、R8が共に水素原子である場合は除く)
で表される不飽和カルボン酸アミドを主成分とし、塩素原子含有量が、上記式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して1000ppm以下、及び/又は下記式(5)
【化7】

(式中、R1〜R8は前記に同じ)
で表される含塩素化合物の含有量が、上記式(4)で表される不飽和カルボン酸アミドに対して0.1重量%以下であることを特徴とする不飽和カルボン酸アミド組成物。
【請求項5】
上記式(4)及び式(5)におけるR1、R2、R4、R5が水素原子であり、R3がメトキシ基である請求項4に記載の不飽和カルボン酸アミド組成物。

【公開番号】特開2013−6795(P2013−6795A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140778(P2011−140778)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】