説明

不飽和カルボン酸誘導体のヒドロシアン化方法

本発明は、ニトリル基を含む特定のカルボン酸、脂肪酸、または油誘導体の組成物、並びに、それらの調製方法に関する。本調製はヒドロシアン化反応を含む。上記ヒドロシアン化によって得られるニトリル含有カルボン酸を水素化して、アミン含有カルボン酸を製造する方法も本発明で開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンのヒドロシアン化、より詳しくは不飽和カルボン酸、脂肪酸、およびこれらの酸を含んでなる油のヒドロシアン化の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和カルボン酸を含んでなる不飽和脂肪酸および油は、様々な用途向けに、例えば高分子材料用のモノマーとして、複合材料中の成分として、潤滑油として、または精密化学薬品として魅力がある基質である。これらの材料は、天然産を主成分としているので特に魅力があり、したがって、環境保護上および生態学上信頼性がある有用化学物質への経路を提供する。これらの長鎖不飽和脂肪酸をさらに変換して新規の機能性材料が生まれるように、かなりの努力がつぎ込まれてきた。
【0003】
このような目的で、本発明は、不飽和および/または不飽和結合の多いカルボン酸、特に脂肪酸および/またはこれらの脂肪酸を含んでなる油をヒドロシアン化して、対応する脂肪酸/油ニトリル生成物を形成する方法を提供する。油の場合、代表的な例は、天然産油、例えば大豆油である。生成物は、モノニトリル、ジニトリル、および/またはポリニトリルとすることができる。さらに、これらのニトリルは、水素化反応によって対応するメチレンアミンに転化することができる。
【0004】
ニトリル基を含む不飽和カルボン酸、特に脂肪酸およびそれらの誘導体は、潤滑油、界面活性剤、または様々な有用分子の前駆体として重要である。天然産の不飽和脂肪酸の代表的な例としては、オレイン酸、ラウロレイン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、およびアラキドン酸などのモノまたは不飽和結合の多いカルボン酸が挙げられる。天然産油、例えば大豆油は、これらの不飽和脂肪酸のグリセリンエステルを含んでなる。その他の代表的な有用な不飽和カルボン酸は、例えば3−ペンテン酸または4−ペンテン酸である。
【0005】
(非特許文献1)には、ニッケルホスフィン触媒を使用するω−不飽和脂肪酸エステル(すなわち末端オレフィンを含む)のヒドロシアン化反応が開示されている。報告された収率は、商用の用途向けには魅力がない。加えて、多くの天然産脂肪酸およびエステルなどの内部オレフィンは、ω−不飽和脂肪酸エステルにおいて見出されるものなどの末端オレフィンに比べて、ヒドロシアン化方法において反応するのが難しいことが当技術分野で知られている。
【0006】
(特許文献1)には、モノエチレン性不飽和エステル化合物のヒドロシアン化により、線状の末端ニトリル分子を付与することが開示されているが、カルボン酸のヒドロシアン化は開示されてない。酸性の化合物は、触媒を失活させ、典型的なヒドロシアン化配位子を劣化させることが知られている。
【0007】
本発明以前は、オレフィン性不飽和基を有する不飽和脂肪酸または天然産油が、ヒドロシアン化方法において、対応するニトリル基を有する脂肪酸誘導体に高収率で選択的に転化され得ることが知られていなかった。このようにして形成されたニトリル基を含む脂肪酸の誘導体が、水素化方法において、対応するアミン基を有する脂肪酸誘導体に選択的に転化され得ることも知られていなかった。ニトリル、アミン、アルコール、またはカルボン酸などの1つまたは複数の追加の官能基を有する脂肪酸誘導体を入手したいとの要望がある。特に、1つまたは複数の追加の官能基を含む大豆油のような植物性油の誘導体が重要である。
【0008】
【特許文献1】国際公開第99 06358 A1号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,512,695号明細書
【特許文献3】米国特許第5,512,696号明細書
【特許文献4】米国特許第5,663,369号明細書
【特許文献5】米国特許第5,688,986号明細書
【特許文献6】米国特許第5,723,641号明細書
【特許文献7】米国特許第5,959,135号明細書
【特許文献8】米国特許第6,120,700号明細書
【特許文献9】米国特許第6,171,996号明細書
【特許文献10】米国特許第6,171,997号明細書
【特許文献11】米国特許第6,399,534号明細書
【特許文献12】米国特許第5,523,453号明細書
【特許文献13】米国特許第5,693,843号明細書
【非特許文献1】ゴエルツ(Goertz)らのケミカル・コミュニケーションズ(Chem.Commun.)、1521(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、一般に、不飽和カルボン酸、特に不飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸の油の特定のニトリル誘導体、並びにこれらの化合物の製造方法に対する要望が依然としてある。また、アミン基を含む不飽和脂肪酸の誘導体、および、アミン基を含むかかる誘導体の製造方法に対する要望もある。これらの要望は、本発明によって満たされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ニトリル基を含む特定のカルボン酸、脂肪酸、または油の誘導体の組成物、および、それらの調製方法に関する。本調製はヒドロシアン化反応を含む。上記ヒドロシアン化によって得られるニトリル含有カルボン酸を水素化して、アミン含有カルボン酸を製造する方法も本発明で開示される。
【0011】
したがって、本発明は、構造式IIIの組成物、
【0012】
【化1】

【0013】
および、構造式Vの組成物であり、
【0014】
【化2】

【0015】
式中、
各Aは、独立して、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
各Bは、独立してA’−Hであり、式中、A’は、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
wは、独立して0または正の整数、好ましくは0と20の間の整数である。
【0016】
さらに開示されるのがヒドロシアン化方法であり、前記方法は、出発物のカルボン酸を触媒の存在下で転化して、1種または複数種の式(I)の化合物を含んでなるカルボン酸誘導体を製造するステップを含んでなり、
【0017】
【化3】

【0018】
式中、
Aは、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Bは、A’−Hであり、式中、A’は、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Rは、Hまたはグリセロール誘導体であり、
wは、0または正の整数、好ましくは0と20の間の整数である。
【0019】
さらに開示されるのが、カルボン酸誘導体を水素化して、構造式(II)の酸アミン化合物を製造するステップを含んでなる水素化方法であり、
【0020】
【化4】

【0021】
式中、
Cは、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、または、−(CHCH(CHNH)−もしくは−(CH(CHNH)CH)−を含んでなるアミン含有基、あるいは、1つもしくは複数のかかる基の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Dは、HまたはC’−Hであり、式中、C’は、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、または、−(CHCH(CHNH)−もしくは−(CH(CHNH)CH)−を含んでなるアミン含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Rは、Hまたはグリセロール誘導体であり、
xは、0または正の整数、好ましくは0と20の間の整数であり、xは、それが構造体において利用されるたびに独立して選択される。
【0022】
本発明で注目に値するのは、ニトリル誘導体またはニトリル誘導体の混合物を得るために基質としてオレイン酸を使用することである。本発明では、(I)によって表わされる様々な異性体を得ることができるが、本方法は、末端ニトリル(III)に対し優先傾向を示す。
【0023】
【化5】

【0024】
さらに、注目に値するのは、対応する構造のアミン誘導体(IV)である。
【0025】
【化6】

【0026】
天然産植物油および/または動物油を含んでなるオレフィン性不飽和基を有するグリセロールトリエステルが、本発明の範囲内の重要な原料油である。これらのグリセロールトリエステルは、脂肪酸基から構成されていてもよい。本発明に従ってそれらから誘導される生成物は、式(V)および/または(VI)によって表わすことができる。
【0027】
【化7】

【0028】
式中、A、B、C、およびDは、上記通りに定義され、構造体において利用されるたびに独立して独自性を有するものである。
【0029】
これらの化合物は、有機合成の前駆体として、潤滑油として、または、界面活性剤の用途において有用である。
【0030】
天然のグリセリドの油は異なる不飽和度を含むことも可能であり、それは、オレイン酸誘導体によって示唆される化学量論から逸脱している。本発明用に有用なその他の油としては、桐油などの不飽和植物性油、大豆油、油種菜種、アマニ油、オリーブ油、ヒマシ油、カラシナの種子油、挽いた堅果油、やし油、とうもろこし油、綿実油、パーム油、落花生油、紅花油などのモノ、ジ、およびトリグリセリド油、並びに、カシューナッツ油などのフェノール油が挙げられる。
【0031】
したがって、ニトリル基を含むカルボン酸誘導体、および特に脂肪酸または油誘導体、並びに、それらおよびそれらに対応するアミンの調製方法を提供することが、本発明の1つの目的である。かかる不飽和脂肪酸または油誘導体の調製方法を提供することが本発明の別の目的である。これらおよびその他の目的は、以下の発明を実施するための最良の形態において明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
1種もしくは複数種の式(I)の化合物を含んでなるカルボン酸が、不飽和カルボン酸のヒドロシアン化によって得られ、
【0033】
【化8】

【0034】
式中、
Aは、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Bは、A’−Hであり、式中、A’は、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Rは、Hまたはグリセロール誘導体であり、wは、0または正の整数、好ましくは0と20の間の整数である。
【0035】
ニトリル基を含むかかるカルボン酸誘導体、特にかかる脂肪酸または油誘導体は、単独、これらの混合物、および/またはこれらの異性体のいずれであっても、他の有用な分子用の前駆体として有用である。例えば、1種もしくは複数種の式(I)の化合物を含んでなるカルボン酸は、水素化反応において、1種もしくは複数種の式(II)の化合物を含んでなる対応するアミンに転化することができ、
【0036】
【化9】

【0037】
式中、
Cは、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、または、−(CHCH(CHNH)−もしくは−(CH(CHNH)CH)−を含んでなるアミン含有基、あるいは、1つもしくは複数のかかる基の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Dは、HまたはC’−Hであり、式中、C’は、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、または、−(CHCH(CHNH)−もしくは−(CH(CHNH)CH)−を含んでなるアミン含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Rは、Hまたはグリセロール誘導体であり、
xは、0または正の整数、好ましくは0と20の間の整数であり、xは、それが構造体において利用されるたびに独立して選択される。
【0038】
本発明で注目に値するのは、ニトリル誘導体またはニトリル誘導体の混合物を得るために、基質としてオレイン酸を使用することである。本発明では、(I)によって表わされる様々な異性体を得ることができるが、本方法は、末端ニトリル(III)に対し優先傾向を示す。
【0039】
【化10】

【0040】
さらに注目に値するのは、対応する構造のアミン誘導体(IV)である。
【0041】
【化11】

【0042】
生成物は、(II)によって表わされる単一の化合物または異性体の混合物として提供される。
【0043】
さらに注目に値するのは、ニトリル誘導体を含んでなる生成物(VII)〜(VIII)、および/または対応する構造のアミン誘導体(VII−A)および(VIII−A)を得るために、基質としてリノール酸を使用することである。生成物は、単一の化合物、化合物の混合物、および/または異性体の混合物として提供される。
【0044】
【化12】

【0045】
天然産植物油および/または動物油を含んでなり、オレフィン性不飽和基を有するグリセロールトリエステルは、本発明の範囲内の重要な原料油である。これらのグリセロールトリエステルは、脂肪酸基から構成されていてもよい。本発明に従ってそれらから誘導される生成物は、式(V)および/または(VI)によって表わすことができる。
【0046】
【化13】

【0047】
式中、A、B、C、およびDは、上記通りに定義され、構造体において利用されるたびに独立して独自性を有するものである。
【0048】
これらの化合物は、有機合成の前駆体として、潤滑油として、または界面活性剤の用途において有用である。
【0049】
天然のグリセリドの油は、異なる不飽和度を含んでいてもよく、それは、オレイン酸誘導体によって示唆される化学量論から逸脱している。本発明用に有用なその他の油としては、桐油などの不飽和植物性油、大豆油、油種菜種、アマニ油、オリーブ油、ヒマシ油、カラシナの種子油、挽いた堅果油、やし油、とうもろこし油、綿実油、パーム油、落花生油、紅花油などのモノ、ジ、およびトリグリセリド油、並びに、カシューナッツ油などのフェノール油が挙げられる。
【0050】
本発明者は、不飽和カルボン酸、特に不飽和脂肪酸および/または脂肪酸の油を、約0℃〜約120℃の温度の触媒および任意選択的に助触媒の存在下でシアン化水素と接触させると、式(I)のカルボン酸誘導体を得ることが可能であることを知見した。この場合、触媒は、遷移金属、好ましくはニッケル、および有機リン配位子を含んでなる。さらに、(I)(したがって(III)および(V))によって表わされる化合物または混合物が、約50℃〜約180℃の範囲の温度および約50〜約5000psig(340〜34,480kPa)の範囲の圧力で、遷移金属触媒の存在下で、任意選択的に溶剤の存在下で、化合物または混合物(I)を水素と接触させることによって、(II)(したがって(IV)および(VI))によって表わされる化合物または混合物に転化できることが知見された。本方法を単純に拡張すると、出発原料として、脂肪酸の代わりに単純な脂肪酸エステルを使用することが包含されることになろう。かかる脂肪酸エステルは、アルコールと脂肪酸油の反応によって調製可能であり、アルキルおよびアリールエステルを含んでなる。脂肪酸エステルの例としては、オレイン酸メチル、リノール酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸ブチル等が挙げられる。
【0051】
したがって、一実施形態では、本発明は、ニトリル基を含む不飽和カルボン酸、特に脂肪酸および/または油の誘導体を調製するためのヒドロシアン化方法を提供する。一般に、本方法では、異性体の混合物として酸誘導体が得られる。本方法によって得られる混合物は、一般に同じ量で異性体を含まない。その代わりに、本方法では、主な生成物として1種または数種の化合物を得ることができ、一方、その他は様々な分量の副生物として形成される。本方法では、主な生成物として1組の化合物に有利に働くように実施できる。本方法において有利に働く化合物の組は、プロセス条件並びに/あるいは、ヒドロシアン化反応において使用される触媒の種類、および/または使用される配位子の種類、並びに/あるいは、ヒドロシアン化反応において任意選択の助触媒を使用するかによって変わる。しかし、個々の化合物およびまたこれらの混合物は、本発明の範囲内であることが理解されるべきである。
【0052】
本発明の化合物の製造方法は、配位子と第VIII族金属または化合物を用いるヒドロシアン化方法を含む。任意選択的に、この方法では助触媒としてルイス酸が使用可能であり、任意選択的に溶剤が使用可能である。
【0053】
一般に、これらの第VIII族金属または化合物は、少なくとも1種の配位子と化合して触媒を提供する。第VIII族金属または化合物のうちで、ヒドロシアン化触媒を製造するにはニッケル、コバルト、およびパラジウム化合物が好ましい。ニッケル化合物がより好ましい。従来技術の配位子による置き換えが可能な配位子を含むゼロ価のニッケル化合物が、第VIII族金属または第VIII族金属間化合物の最も好ましい供給源である。
【0054】
ゼロ価ニッケル化合物は、当技術分野で周知の方法に従って調製または生成できる。3種の好ましいゼロ価ニッケル化合物は、Ni(COD)(CODは1,5−シクロオクタジエンである)、Ni(P(o−OCCH、およびNi{P(O−o−CCH(C)であり、これらは当技術分野で周知である。
【0055】
別の方法として、2価ニッケル化合物が、還元剤と化合されて、この反応のゼロ価ニッケルの供給源としての役割を果たせる。適切な2価ニッケル化合物としては、式NiXの化合物が挙げられ、式中、Xは、ハロゲン化物、カルボキシレート、またはアセチルアセトネートである。適切な還元剤としては、金属ホウ化水素、金属アルミニウム水素化物、金属アルキル、Li、Na、K、Zn、Al、またはHが挙げられる。ハロゲン化触媒と組み合わせるとき、元素ニッケル、好ましくはニッケル粉末もゼロ価ニッケルの適切な供給源である。
【0056】
本発明用に適切な配位子は3価リン原子を含み、その場合、各3価リン原子は、亜リン酸または亜ホスフィン酸として知られる。本発明に有用な配位子は、分子中の2個の3価リン原子がそれぞれ同じ有機基に結合し、その有機基が3価リン原子の互いのかけ橋となることを意味する二座配位子とすることができる。本発明の配位子は、2を超える複数または高分子性状のリン原子を有する多座配位とすることも可能であり、その場合、配位子/触媒組成物がこのプロセス混合物において均一に溶解されないものである。一座配位子は、本発明の配位子の代わりに使用できるが、しかしそれらは、所望の生成物への小さい転化率をもたらし、不十分な速度および生産性が欠点である。それらの性能は商業的用途には不十分である。本発明において好ましい配位子は、二座配位の亜リン酸配位子である。
【0057】
適切な二座亜リン酸は、米国特許公報(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)、(特許文献7)、(特許文献8)、(特許文献9)、(特許文献10)、(特許文献11)に開示されている種類のものであり、引用により本明細書に組み込まれたものとする。適切な二座亜ホスフィン酸は、米国特許公報(特許文献12)および(特許文献13)に開示されている種類のものであり、引用により本明細書に援用されたものとする。
【0058】
好ましい二座亜リン酸配位子は、以下の構造式からなる。
【0059】
【化14】

【0060】
式XI、XII、およびXIIIにおいて、Rは、非置換、あるいは1つもしくは複数のC〜C12アルキルまたはC〜C12アルコキシ基で置換されたフェニル、あるいは、非置換、あるいは1つもしくは複数のC〜C12アルキルまたはC〜C12アルコキシ基で置換されたナフチルであり、ZおよびZは、独立して構造式XIV、XV、XVI、XVII、およびXVIIIよりなる群から選択される。
【0061】
【化15】

【0062】
式中、
、R、R、R、R、R、R、およびRは、独立してH、C〜C12アルキルおよびアルコキシC〜C12から選択され、
Wは、O、S、またはCH(R10)であり、
10は、HまたはC〜C12アルキルである。
【0063】
【化16】

【0064】
式中、
11およびR12は、独立してH、C〜C12アルキル、およびC〜C12アルコキシ、並びにCO13から選択され、
13は、非置換、あるいは、C〜Cアルキルで置換されたC〜C12アルキルまたはC〜C10アリールであり、
Yは、O、S、CH(R14)であり、
14は、HまたはC〜C12アルキルである。
【0065】
【化17】

【0066】
式中、
15は、H、C〜C12アルキル、およびC〜C12アルコキシ、並びにCO16から選択され、
16は、非置換、あるいは、C〜Cアルキルで置換されたC〜C12アルキルまたはC〜C10アリールである。
【0067】
構造式X〜XVIIIにおいて、C〜C12アルキルおよびC〜C12アルコキシ基は、直鎖または分岐していてもよい。
【0068】
配位子対活性ニッケルの比は、約0.5:1の配位子対ニッケル比から約100:1の配位子対ニッケル比まで変化させ得る。配位子対ニッケル比は、約1:1〜約4:1の範囲にあるのが好ましい。
【0069】
本発明の方法では、触媒系の活性および選択性の両方に作用する1種もしくは複数種のルイス酸助触媒の存在下で行われることが好ましい。助触媒は、無機質または有機金属の化合物でもよく、その場合、カチオンは、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデン、カドニウム、レニウム、およびスズから選択される。例としては、これらに限定されないが、ZnBr、ZnI、ZnCl、ZnSO、CuCl、CuCl、Cu(OSCF、CoCl、CoI、FeI、FeCl、FeCl、FeCl(THF)、TiCl(THF)、ClTi(OiPr)、MnCl、ScCl、AlCl、(C17)AlCl、(C17AlCl、(iso−CAlCl、PhAlCl、PhAlCl、ReCl、ZrCl、NbCl、VCl、CrCl、MoCl、YCl、CdCl、LaCl、Er(OSCF、Yb(OCCF、SmCl、B(C、R40Sn(OSCF)が挙げられ、ここで、R40は、アルキルまたはアリール基である。好ましい助触媒としては、FeCl、ZnCl、CoCl、CoI、AlCl、B(C、および(CSn(OSCF)が挙げられる。反応に存在する助触媒対第VIII族遷移金属のモル比は、約1:16〜約50:1の範囲内が可能であり、0.5:1〜約2:1が好ましい。
【0070】
本発明の配位子組成物を使用して触媒を形成することができ、それを、ルイス酸助触媒の有無にかかわらず、不飽和カルボン酸、特に脂肪酸またはエステルのヒドロシアン化に使用することができる。
【0071】
本方法は、1種もしくは複数種の不飽和カルボン酸または油、あるいは混合物を、触媒の存在下で、ニトリルを製造するのに十分な条件下でシアン化水素含有流体と接触させるステップを含んでなる。約1〜100%のHCNを含む任意の流体が使用可能である。純粋なシアン化水素を使用してもよい。
【0072】
このヒドロシアン化方法は、例えば、適切な容器例えば反応器に、1種もしくは複数種の不飽和脂肪酸または油、あるいは混合物、触媒、並びに任意選択的に溶剤を仕込み、反応混合物を形成することによって行うことができる。シアン化水素は、最初に他の構成成分と一緒にして混合物が形成される。しかし、他の構成成分が一緒にされた後、HCNを混合物にゆっくり加えることが好ましい。シアン化水素は、反応に対して液体としてまたは蒸気として供給できる。代替法として、当技術分野で知られているように、HCNの供給源としてシアノヒドリンが使用可能である。
【0073】
もう一つの適切な手法は、触媒および任意選択的に溶剤を容器に仕込み、不飽和カルボン酸、脂肪酸、または油とHCNの両方を、反応混合物にゆっくり供給することである。
【0074】
不飽和カルボン酸/エステル対触媒のモル比は、約10:1〜約10,000:1と変化させ得る。HCN:触媒のモル比は、約5:1〜約10,000:1と変化させ得る。本方法は、連続式または回分式モードで実行できる。
【0075】
反応混合物は、例えば撹拌または振とうによってかき混ぜることが好ましい。存在する化合物は、クロマトグラフィまたは分別蒸留、あるいは晶出などの周知の従来方法を使用して、反応混合物から個別に単離できる。
【0076】
ヒドロシアン化は、溶剤の有無にかかわらず行うことができる。溶剤は、使用される場合、反応温度および圧力において、不飽和カルボン酸/油および触媒に対して不活性な液体とすることができる。適切な溶剤の例としては、ベンゼン、キシレン、トルエン、またはこれらの組合せなどの炭化水素、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル、アセトニトリル、アジポニトリル、またはこれらの2種以上の組合せなどのニトリルが挙げられる。
【0077】
正確な温度は、使用される具体的な触媒および所望の反応速度にある程度依存する。通常、約0℃〜約200℃の範囲の温度が使用可能であり、約25℃〜約120℃の範囲が好ましい。
【0078】
本方法は、大気圧で実行できる。約50.6〜約1013kPaの圧力が好ましい。必要に応じて、最高10,000kPa以上のより高い圧力が使用可能である。
【0079】
必要とされる時間は、具体的な条件および操作方法に応じて数秒から数時間の範囲(例えば2秒〜72時間)とすることができる。
【0080】
ニトリル基を含む、存在する不飽和カルボン酸誘導体は、さらに官能基化するために、単独でまたは互いに混合して使用可能である。例えば、それらは、水素化によってそれらの対応するアミンに転化できる。したがって、ニトリル生成物を、単独でもまたは異性体の混合物としても、触媒の存在下で、任意選択的に溶剤の存在下で水素と接触させて、アミン化合物を得ることができる。
【0081】
水素化方法の間、原料(すなわち(I)によって表わされる単独または異性体混合物のいずれかの化合物)は、水素と接触される。水素対原料のモル比は、(II)によって表わされる所望の誘導体を製造するのに十分な水素が存在する限り、重要でない。水素が過剰に使用されるのが好ましい。水素圧力は、一般に約340kPa(〜50psig)〜約34,480kPa(〜5000psig)の範囲であり、約1480〜約7000kPaが好ましい。水素化方法は、約50℃〜約180℃、好ましくは約65℃〜約100℃の温度で行うことができる。
【0082】
ニトリルのアミンへの水素化用の好ましい触媒は、遷移金属のシリーズからの1種もしくは複数種の元素を含んでなり、特に有用なのは、鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、およびこれらの組合せである。水素化触媒は、上述の遷移金属に加えて、1種もしくは複数種の元素、例えば、第IA族の元素(リチウム、ナトリウム、およびカリウムを含む)、第IIA族の元素(マグネシウムおよびカルシウムを含む)、チタン、第VI族の元素(クロム、モリブデン、およびタングステンを含む)、第VIII族の元素(パラジウムを含む)および/またはアルミニウム、シリコン、ホウ素、並びに/あるいはリンをさらに含んでもよい。水素化触媒は、2種以上の元素の固溶体を含む合金の形でもよい。
【0083】
水素化用の遷移金属は、アルミナ、酸化マグネシウム、およびこれらの組合せなどの無機担体に担持できる。金属は、例えば含浸、共沈澱、イオン交換、またはこれらの2つ以上の組合せなどの、当業者に周知の任意の手段によって無機担体に担持できる。金属は、水素化反応の前、例えば水素、ホルムアルデヒド、またはヒドラジンを用いた前処理などの、当業者に周知の任意の手段によって還元することができる。
【0084】
水素化触媒は、任意の適切な物理的形状または形態で存在できる。それは、流動化可能な形態、すなわち粉末、押出し品、錠剤、球体、またはこれらの2つ以上の組合せにすることができる。水素化触媒は、スポンジ金属の形態、例えばラネー(Raney)(登録商標)ニッケル、およびラネー(登録商標)コバルトでもよい。水素化触媒対原料のモル比は、この比が水素化を触媒できる限り、任意の比とすることができる。水素化触媒対原料の重量比は、一般に約0.0001:1〜約1:1、好ましくは約0.001:1〜約0.5:1の範囲である。触媒元素が無機担体に担持されている場合、または、合金もしくは固体溶液の一部である場合、触媒元素は、一般に水素化触媒の全体重量を基準にして約0.1〜約60、好ましくは約1〜約50、最も好ましくは約2〜約50重量パーセントの範囲で存在する。
【0085】
当業者は、反応速度、反応の選択性、および触媒溶出のレベルを最適化するように触媒を選択することが理解されよう。好ましいニトリル水素化触媒は、スポンジ型金属タイプの触媒である。金属性の構成成分は、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、またはこれらの組合せである。このタイプの商業的に入手可能な触媒は、助触もしくは非助触のラネー(登録商標)Niまたはラネー(登録商標)Co触媒であり、それらは、W.R.グレイス商会(Grace and Co.)(テネシー州チャタヌーガ(Chattanooga))から入手可能であり、または、代替のスポンジ型金属触媒は、例えばアクチベイテット・メタル社(Activated Metals Corporation)(テネシー州セヴィアビル(Sevierville))、または、デグッサ(Degussa)(ニュージャージー州パーシッパニー(Parsippany))から入手できる。担持されたルテニウム触媒も使用可能である。
【0086】
水素化は、任意選択的に溶剤の存在下で行うことができる。適切な溶剤としては、水素化反応用に有用として当技術分野で周知のものが挙げられる。これらの例は、アミン、脂肪族アルコール、芳香族化合物、エーテル、エステル(ラクトンを含む)、およびアミド(ラクタムを含む)である。溶剤の具体的な例としては、アンモニア、トルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、任意の異性体のプロパノール、任意の異性体のブタノール、および水が挙げられる。好ましい溶剤としては、アンモニアおよびトルエンが挙げられる。溶剤は、原料および生成物から反応熱を取り除く役目を果たすだけでなく、反応容器中の触媒の流動性を改善するため、システムの粘度を低減する役目も果たすことが理解されよう。溶剤は、触媒を除く反応混合物全体の約1%〜約75重量%、好ましくは約10%〜約50%の範囲で存在できる。
【0087】
任意選択的に、水素化方法において反応速度を変える、および/または反応の選択性を変えるために助触媒を使用してもよい。適切な助触媒としては、水、アルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物、第4級水酸化アンモニウム、第4級アンモニウムシアン化物、第4級フッ化アンモニウム、およびこれらの組合せが挙げられる。助触媒は、触媒を除く反応混合物全体の約10ppm〜約3重量%、好ましくは約50ppm〜約1.5%で存在できる。
【0088】
本発明を全般的に記載してきたが、特定の具体的な実施例を参照することにより、さらなる理解が得られ、実施例は、本明細書において例示の目的で提供されるだけであり、限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0089】
(実施例1〜4.オレイン酸のヒドロシアン化)
トルエン中のNi(COD)を二座亜リン酸配位子と1:1.1のNi:配位子の比で混合することによって、触媒溶液を調製した。この溶液を反応容器にサンプリングした。オレイン酸を反応容器に加え、オレイン酸対触媒のモル比は50:1であった。ZnClをアセトニトリルに加えることによって、助触媒の溶液を調製した。この助触媒溶液を、Ni対Znのモル比を1:1に調節して反応混合物に加えた。シアン化水素は、蒸気供給によって反応容器に加えた。シアン化水素リザーバは室温であり、一方、反応容器は50℃に保持した。蒸気供給を24時間維持し、その時間後、生成物について標準のGC法を使用してサンプルを分析した。最初に、確立された手続きに従って商用の反応剤(BSTFA、ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、代表的な使用法は、例えばタカオ、ユウジらのジャーナル・オブ・ヘルス・サイエンス(Journal of Health Science)(2003)、49(1)、88〜90を参照されたい)を用いて、サンプルを分析できるように誘導体化した。GC−MSおよびNMR分光法によって全ての生成物を分析した。直線性は、線状酸ニトリル生成物対全ての酸ニトリル生成物の合計の濃度の比によって定義される。
【0090】
【表1】

【0091】
(実施例5.大豆油のヒドロシアン化)
100mLフラスコにおいて、大豆油(30g)を、Ni(COD)(0.31g)のトルエン(16g)溶液および以下の配位子(1.03g)と混合した。
【0092】
【化18】

【0093】
これにZnCl(0.045g)を加えた。トルエン(11.4g)中のシアン化水素(2.85g)の溶液を調製し、シリンジポンプを使用して上記混合物に加えた。約0.5mL/時間の供給速度を70℃で維持した。反応が終了した後、LC−MS分析を使用しゾルバックス(Zorbax)RX−C18カラム(150×2.1、5μm)で生成物組成を分析した。大豆油の生成混合物への転化率が70.1%、MW=911が55%(1当量のHCN添加)、MW=938が35%(2当量のHCN添加)、およびMW=965が10%(3当量のHCN添加)。
【0094】
(実施例6:大豆油ニトリルの水素化)
大豆油から誘導した約30gのニトリル(化合物Vを含んでなる)と170mLのトルエンの溶液を調製した。この溶液を、3gのラネー(登録商標)Co2724および4.5gの水を有する撹拌下の300cc圧力反応器に仕込んだ。この容器を水素でパージし、次いで水素を仕込み、75℃まで加熱し、そこで、圧力を約500psig(3447kPa)に水素で調節した。この反応を10時間続行し、その間絶えず水素を補充し、運転圧力を維持した。水素を排気し、生成物を回収した。生成物の赤外および核磁気スペクトルは、アミン生成物(化合物VIを含んでなる)の形成に一致していた(IR:N−H 3350cm−1,C=O 1742cm−1)。
【0095】
(実施例7:オレイン酸ニトリルの水素化)
撹拌下の100mL圧力容器に、4.5gのオレイン酸誘導ニトリル(化合物(III)および異性体を含んでなる)、20gのテトラヒドロフラン、0.3gのラネー(登録商標)Co2724、および0.3gの水を加えた。この容器を水素でパージし、21gの無水アンモニアを加えた。次いで容器に水素を仕込み、100℃まで加熱し、そこで、圧力を約900psig(6205kPa)に水素で調節した。反応を335分間続行し、その間絶えず水素を補充し、運転圧力を維持した。水素およびアンモニアを排気し、生成物を回収した。生成物は、テトラヒドロフランなどの普通の溶剤にはやや溶けにくかった。生成物の赤外および核磁気スペクトルは、アミン(IV)の形成と一致していた。プローブ質量スペクトルにより、所望の生成物(質量313.298)の同定をさらに確認した。
【0096】
(実施例8.リノール酸のヒドロシアン化)
500mLフラスコにおいて、リノール酸(25g、0.09mol)を、Ni(COD)(0.16g、0.6mmol)のトルエン(5g)溶液および以下の配位子(0.61g、0.8mmol)と混合した。
【0097】
【化19】

【0098】
これに、アセトニトリル(5g)中のZnCl(0.09g、0.65mmol)の溶液を加えた。アセトニトリル(6.5g)中のシアン化水素(4.3g、0.16mol)の溶液を調製し、シリンジポンプを使用して上記混合物に加えた。50℃で26時間の反応時間の後、リノール酸のニトリル生成物への転化率87%が得られた。GC(BSTFA法)によって、90%のリノール酸ニトリルおよび10%のリノール酸ジニトリルの生成混合物が観察された。
【0099】
(実施例9.リノール酸ニトリルの水素化)
撹拌下の100mL圧力容器に、2.7gのリノール酸誘導ニトリル(化合物(VII)および異性体を含んでなる)、20gのテトラヒドロフラン、0.5gのラネー(登録商標)Co2724、および1gの水を加えた。この容器を水素でパージし、20gの無水アンモニアを加えた。次いで容器に水素を仕込み、85℃まで加熱し、そこで、圧力を約900psig(6205kPa)に水素で調節した。もっと短い時間でも十分であった可能性があるが、反応器条件を360分間維持した。水素およびアンモニアを排気し、生成物を回収した。この生成物の一部を、過剰のビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)で処理した。ガスクロマトグラフィでは生成物の主ピークが示され、86%の収率が明らかになった。生成物からの主ピークの質量スペクトルは、アミン(VII−A)(m/z=455、生成物プラス2種の誘導体化トリメチルシリル基)の形成と一致していた。
【0100】
(実施例10.3−ペンテン酸のヒドロシアン化)
500mLフラスコにおいて、3−ペンテン酸(10g、0.1mol)を、Ni(COD)(0.275g、1mmol)のトルエン(5g)溶液および以下の配位子(1.14g、1.35mmol)と混合した。
【0101】
【化20】

【0102】
これに、アセトニトリル(5ml)中のZnCl(0.15g、1.1mmol)の溶液を加えた。アセトニトリル(8.1g)中のシアン化水素(5.4g、0.2mol)の溶液を調製し、シリンジポンプを使用して上記混合物に加えた。反応混合物を50℃に維持し、18時間後添加を停止した。BSTFAを使用した誘導体化の後、生成物を分析し、シアノ−ペンタン酸への転化率50%が観察された。
【0103】
(実施例11〜13および比較例14.3−ペンテン酸のヒドロシアン化)
トルエン中のNi(COD)を、二座配位子が使用される場合Ni:配位子の比が1:1.1、一座配位子が使用される場合Ni:配位子の比が1:4.5の亜リン酸配位子と混合することによって、触媒溶液を調製した。この溶液を反応容器にサンプリングした。3−ペンテン酸を反応容器に加え、3−ペンテン酸対触媒の比は50:1であった。助触媒の溶液を、ZnClをアセトニトリルに加えることによって調製し、この助触媒溶液を、Ni対Znのモル比を1:1にして反応混合物に加えた。気化した液体シアン化水素が、供給管を介して反応容器に接続される蒸気供給によって、シアン化水素を反応容器に加えた。シアン化水素リザーバは室温であり、一方、反応容器は50℃に維持した。蒸気供給は24時間保持し、その時間後、標準のGC法を使用してサンプルを分析した。最初に、確立された手続きに従って商用の反応剤(BSTFA,ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、代表的な使用法は、例えばタカオ、ユウジらのジャーナル・オブ・ヘルス・サイエンス(2003)、49(1)、88〜90を参照されたい)を用いてサンプルを分析できるように誘導体化した。GC−MSおよびNMR分光法によって生成物を分析した。直線性は、5−シアノ−ペンタン酸異性体対全てのシアノ−ペンタン酸異性体の合計の濃度の比として定義される。
【0104】
【表2】

【0105】
本発明の方法および組成物の様々な修正、変更、追加、または置換は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明は、本明細書に示した例示的な実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式Vの組成物であって、
【化1】

式中、
各Aは、独立して、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
各Bは、独立してA’−Hであり、式中、A’は、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
wは、独立して0または正の整数、好ましくは0と20の間の整数である、
ことを特徴とする組成物。
【請求項2】
ヒドロシアン化方法であって、
前記方法が、出発物のカルボン酸を触媒の存在下で転化して、1種もしくは複数種の式(I)の化合物を含んでなるカルボン酸誘導体を製造するステップを含んでなり、
【化2】

式中、
Aは、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Bは、A’−Hであり、式中、A’は、1つもしくは複数の、−(CH−を含んでなる炭化水素基、−CH=CH−を含んでなるアルケン含有基、または、−(CHCHCN)−もしくは−[CH(CN)CH]−を含んでなるニトリル含有基、あるいは、これらの基の2つ以上の組合せを任意の順序で含んでなる基であり、
Rは、Hまたはグリセロール誘導体であり、
wは、0または正の整数、好ましくは0と20の間の整数であり、
前記方法において、出発物のカルボン酸が大豆油であることを特徴とする方法。

【公表番号】特表2007−505123(P2007−505123A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526239(P2006−526239)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/029147
【国際公開番号】WO2005/026106
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(505245302)インヴィスタ テクノロジー エスアエルエル (81)
【氏名又は名称原語表記】INVISTA Technologies S.a.r.l.
【住所又は居所原語表記】Talstrasse 80,8001 Zurich,Switzerland
【Fターム(参考)】