説明

不飽和ジオールの製造方法およびニッケル錯体

【課題】産業上有用な不飽和ジオールを1工程で製造することができる製造方法の提供。
【解決手段】アリルアルコールのような水酸基含有オレフィンに対して、下記式1のニッケル錯体で例示されるような二量化触媒の存在下で二量化反応を行い、式(2)のような水酸基と不飽和結合の両方を有する不飽和ジオールを得る。式(2)HO−(CR2CR3)m−CHR1−(C=CH2)−CH2CH2−CHR1−(CR2R3)m−OH(式中、R1〜R3は水素、アルキル基等を、mは0〜4の整数を表す。)


(式中、i−Prはイソプロピル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル錯体を触媒として使用した水酸基含有オレフィン化合物の二量化反応による不飽和ジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和結合を持つジオール化合物は、塗料、接着剤、架橋エラストマー、感光性樹脂などに有用な、主鎖に炭素−炭素二重結合を有する反応性不飽和ポリウレタンおよび反応性不飽和ポリエステル等の合成樹脂の原料や改質剤、または医薬、農薬、化粧品、香料等の有機中間体として利用できる価値の高い化合物である。
【0003】
Chem. Ber. 125, 2517(1992)(非特許文献1)では、2−メチル−2−プロペン−1−オールを原料とした不飽和ジオールの合成法が記載されている。2−メチル−2−プロペン−1−オールの水酸基および2位のメチル基をリチオ化後、パラホルムアルデヒド、エチレンオキシド、またはオキセタンを反応させることで、2−メチリデン−1,4−ブタンジオール、2−メチリデン−1,5−ペンタンジオール、または2−メチリデン−1,6−ヘキサンジオールを合成しているが、反応収率が15〜33%と低かった。
【0004】
遷移金属錯体触媒を使用した極性基を有する不飽和化合物の二量化反応は、工業的に価値の高い二官能性化合物を製造できる極めて有用な反応であり、これまでに数多く報告されている。このような二量化反応の報告例として、アクリロニトリルの二量化による1,4−ジシアノブテン、メチレングルタロニトリル、またはアジポニトリルの合成(特開平9−286769号公報(特許文献1)、特開平6−9531号公報(特許文献2))、アクリル酸エステル類の二量化によるヘキセンジオエートジエステル類の合成(特開平6−100496号公報(特許文献3))等が挙げられ、これらの反応では、Pd、Ni、Ru等の金属錯体触媒が使用されている。
【0005】
アリルアルコール等の水酸基含有オレフィンの二量化反応は、工業的に価値のある、水酸基と不飽和結合の両方を有するジオール化合物を1工程で合成できることから、産業上有用な反応であると考えられるが、これまでこのような報告はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−286769号公報
【特許文献2】特開平6−9531号公報
【特許文献3】特開平6−100496号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chem. Ber. 125, 2517(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、産業上有用な不飽和ジオールを1工程で製造することができる製造方法の提供、およびそのための水酸基含有オレフィンを二量化する触媒の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、触媒(好ましくはニッケル錯体)の存在下、アリルアルコール等の水酸基含有オレフィンを二量化させることにより、不飽和ジオール化合物を一段の反応で製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[15]に関する。
[1]一般式(1)
C=CH−CHR−(CR−OH (1)
(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で示される水酸基含有オレフィンに対して、二量化触媒の存在下で二量化反応を行うことを特徴とする不飽和ジオールの製造方法。
[2]二量化反応により生成する不飽和ジオールが一般式(2)
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で示される化合物であることを特徴とする[1]に記載の不飽和ジオールの製造方法。
[3]二量化触媒が、一般式(3)
【化2】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Xは水素原子であるか、または酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数1〜63のアルキル基、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数6〜30のアリール基、または酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数7〜201のアラルキル基のいずれかを表し、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子を含有する置換基が存在する場合、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子はニッケル金属に配位、非配位のいずれでもよい。Yは中性配位子を表し、XおよびYは一緒になって2座配位子を形成してもよい。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で表されるニッケル錯体を成分とするものである[1]または[2]に記載の不飽和ジオールの製造方法。
[4]一般式(3)で表されるニッケル錯体が、一般式(4)
【化3】

(式中、Xは、水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表し、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Yは中性配位子を表す。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で表されるニッケル錯体である[3]に記載の不飽和ジオールの製造方法。
[5]一般式(3)または(4)中のR、RおよびRが全てイソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基またはエトキシ基のいずれかである[3]または[4]に記載の不飽和ジオールの製造方法。
[6]一般式(3)または(4)中のR、RおよびRのうち1つが水素原子で、残り2つがシクロヘキシル基である[3]または[4]に記載の不飽和ジオールの製造方法。
[7]一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンがアリルアルコール(一般式(1)中、Rが水素原子を表し、mが0を表す。)、3−ブテン−1−オール(一般式(1)中、R、R、およびRが全て水素原子を表し、mが1を表す。)または3−ブテン−2−オール(一般式(1)中、Rがメチル基を表し、mが0を表す。)である[1]〜[6]のいずれかに記載の不飽和ジオールの製造方法。
[8]一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンがアリルアルコールであり、一般式(2)で表される不飽和ジオールが2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールである[1]〜[7]のいずれかに記載の不飽和ジオールの製造方法。
[9]一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンが3−ブテン−1−オールであり、一般式(2)で表される不飽和ジオールが3−メチリデン−1,7−ヘプタンジオールである[1]〜[7]のいずれかに記載の不飽和ジオールの製造方法。
[10]一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンが3−ブテン−2−オールであり、一般式(2)で表される不飽和ジオールが3−メチリデン−2,6−ヘプタンジオールである[1]〜[7]のいずれかに記載の不飽和ジオールの製造方法。
[11]一般式(4)
【化4】

(式中、Xは、水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表し、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Yは中性配位子を表す。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で示されるニッケル錯体。
[12]一般式(4)中のRおよびXがいずれもが水素原子、R、R、およびRが全てイソプロピル基、Zがトリフルオロメタンスルホネート基、mおよびnが0であるニッケル錯体、すなわち、化学式(5)
【化5】

(式中、i−Prはイソプロピル基を表す。)
で示される[11]に記載のニッケル錯体。
[13](A−1)0価ニッケル化合物またはニッケル金属、(B−1)3価リン化合物、および(C−1)ブレンステッド酸またはルイス酸を、(D−1)一般式(1)
C=CH−CHR−(CR−OH (1)
(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で示される水酸基含有オレフィンの存在下で、(A−1):(B−1):(C−1):(D−1)=1:0.5〜1.5:0.5〜10:0.5〜1.5のモル比で反応させることによる、一般式(4)
【化6】

(式中、Xは、水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表し、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Yは中性配位子を表す。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で示されるニッケル錯体の製造方法。
[14](A−1)0価ニッケル化合物またはニッケル金属、(B−1)3価リン化合物、(C−1)ルイス酸、および(C−2)有機ハロゲン化物を、(D−1)水酸基含有オレフィンの存在下で、(A−1):(B−1):(C−1):(C−2):(D−1)=1:0.5〜1.5:0.5〜10:0.5〜10:0.5〜1.5のモル比で反応させる、[13]に記載の方法。
[15](A−1)0価ニッケル化合物またはニッケル金属、(B−2)トリイソプロピルホスフィンおよび(C−3)トリフルオロメタンスルホン酸を(D−2)アリルアルコールの存在下で、(A−1):(B−2):(C−3):(D−2)=1:0.5〜1.5:0.5〜1.5:0.5〜1.5のモル比で反応させることによる、化学式(5)
【化7】

(式中、i−Prはイソプロピル基を表す。)
で示されるニッケル錯体の製造方法。
[16](A−2)2価ニッケル化合物、(B−1)3価リン化合物、および(C−4)水素化剤またはアルキル化剤を、(D−1)一般式(1)
C=CH−CHR−(CR−OH (1)
(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で示される水酸基含有オレフィンの存在下で、(A−2):(B−1):(C−4):(D−1)=1:0.5〜1.5:0.5〜1.5:0.5〜1.5のモル比で反応させることによる、一般式(4)
【化8】

(式中、Xは、水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表し、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Yは中性配位子を表す。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で示されるニッケル錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
工業的に有用な不飽和ジオールを1工程で得ることができる。これにより、不飽和ジオールを安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールのH−NMRスペクトル。
【図2】実施例1で得られた2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールの13C−NMRスペクトル。
【図3】実施例1で得られた2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールのIRスペクトル。
【図4】実施例27で得られたニッケル錯体触媒1のH−NMRスペクトル。
【図5】実施例27で得られたニッケル錯体触媒1の13C−NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の不飽和ジオールの製造方法は、触媒を用いて水酸基含有オレフィンを二量化反応することを特徴とする。
【0014】
[水酸基含有オレフィン]
本発明の水酸基含有オレフィンは、一般式(1)
C=CH−CHR−(CR−OH (1)
(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。)で示される。
【0015】
一般式(1)において、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。炭素原子数1〜4のアルキル基としてはメチル基、エチル基などが挙げられる。Rは水素原子が好ましい。RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、または炭素原子数6〜20のアリール基を表す。RおよびRは同一でも異なっていてもよい。RおよびRの炭素原子数1〜4のアルキル基としてはメチル基、エチル基などが挙げられる。炭素原子数6〜20のアリール基としてはフェニル基、ナフチル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基などが挙げられる。これらの中では原料入手の容易性、および経済性等の観点から共に水素原子が好ましい。mは0〜4の整数を表す。原料の入手容易性および経済性の面でmは0また1が好ましい。
【0016】
一般式(1)の水酸基含有オレフィンの具体例として、アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、6−ヘプテン−1−オール、1−ブテン−3−オール、1−ペンテン−3−オール、1−ヘキセン−3−オール、1−ヘプテン−3−オール、1−フェニル−3−ブテン−1−オール、2−メチル−4−ペンテン−2−オール等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。この中でも、反応性、原料入手の容易性、および経済性等の観点から、Rが水素原子を表し、mが0であるアリルアルコール、R、R、およびRが全て水素原子を表し、mが1である3−ブテン−1−オール、およびRがメチル基を表し、mが0である3−ブテン−2−オールが好ましく、特にアリルアルコールが好ましい。
【0017】
[不飽和ジオール]
本発明の方法により一般式(1)で示される水酸基含有オレフィンを二量化すると不飽和ジオールとして4種類の異性体が生成するが、中でも一般式(2)
【化9】

(式中、R、R、R、およびmは、上記と同様の意味を表す。)
で示される不飽和ジオールを主成分として得ることができる。
【0018】
一般式(2)で表される不飽和ジオールは、反応性不飽和ポリウレタンおよび反応性不飽和ポリエステル等の合成樹脂の原料として利用できる。一般式(2)で表される不飽和ジオールを原料として合成した不飽和ポリウレタンおよび不飽和ポリエステルは、1,2位が置換された炭素−炭素二重結合に比べて反応性が高いとされるメチリデン基を有しており、さらなる官能基変換による改質等が容易であると考えられる。
【0019】
[二量化触媒]
本発明における二量化触媒として、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム等を中心金属とする遷移金属錯体触媒またはブレンステッド酸、ルイス酸の酸触媒等を使用することができる。
【0020】
中でも、本発明で使用する二量化触媒は、一般式(3)
【化10】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Xは水素原子であるか、または酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数1〜63のアルキル基、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数6〜30のアリール基、または酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数7〜201のアラルキル基のいずれかを表し、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子を含有する置換基が存在する場合、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子はニッケル金属に配位、非配位のいずれでもよい。Yは中性配位子を表し、XおよびYは一緒になって2座配位子を形成してもよい。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で示されるニッケル錯体であることが好ましい。なお、本発明におけるアラルキル基とは、アリール基を有するアルキル基を表し、アルキル基とは区別される。
【0021】
以下、一般式(3)の構造について説明する。
、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表す。炭素原子数1〜30のアルキル基の炭素数は1〜7が好ましい。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、またはアダマンチル基等が挙げられる。炭素原子数6〜30のアリール基の炭素数は6〜14が好ましい。その具体例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2−メトキシフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、2−ビフェニル基、2’−メチル−2−ビフェニル基、2’,6’−ジメトキシ−2−ビフェニル基、またはナフチル基等が挙げられる。炭素原子数4〜30のヘテロアリール基の炭素数は4〜14が好ましい。その具体例としては、2−フリル基等が挙げられる。炭素原子数7〜30のアラルキル基の炭素数は7〜12が好ましい。その具体例としては、ベンジル基等が挙げられる。炭素原子数1〜30のアルコキシ基の炭素数は1〜14が好ましい。その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、またはネオペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素原子数6〜30のアリールオキシ基の炭素数は6〜14が好ましい。その具体例としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。これらのなかでも触媒活性の点から、炭素原子数1〜30のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基が好ましい。
【0022】
、R、およびRは全てイソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基またはエトキシ基のいずれかであることが、経済性やリン配位子の入手容易性の面で好ましい。
【0023】
以下、ニッケル金属上のリン配位子、すなわち
【化11】

の具体例を挙げる。なお、PとNiとの結合は省略している。
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【0024】
[X:Ni配位子]
Xは、ニッケル中心金属にσ単結合形成が可能な配位子である。Xは水素原子であるか、または酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数1〜63のアルキル基、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数6〜30のアリール基、または酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数7〜201のアラルキル基のいずれかを表す。なお、Xに酸素原子、窒素原子、または硫黄原子を含有する置換基が存在する場合、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子はニッケル金属に配位、非配位いずれでもよい。酸素原子、窒素原子、または硫黄原子を含有する置換基の具体例としては、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アミド基、アミノ基、ニトロ基、メルカプト基、スルフィド基等が挙げられる。中でも二量化反応における反応収率の面から水酸基が好ましい。
【0025】
Xの具体例として、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、ベンジル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、1−メチル−2−フェニルエチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、1−(1−ナフチル)エチル基、1−(2−ナフチル)エチル基、2−(1−ナフチル)エチル基、2−(2−ナフチル)エチル基、1−(1−ナフチル)プロピル基、1−(2−ナフチル)プロピル基、2−(1−ナフチル)プロピル基、2−(2−ナフチル)プロピル基、3−(1−ナフチル)プロピル基、3−(2−ナフチル)プロピル基、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエタン−1−イル基、2−ヒドロキシエタン−1−イル基、1−ヒドロキシプロパン−1−イル基、2−ヒドロキシプロパン−1−イル基、3−ヒドロキシプロパン−1−イル基、1−ヒドロキシブタン−1−イル基、2−ヒドロキシブタン−1−イル基、3−ヒドロキシブタン−1−イル基、4−ヒドロキシブタン−1−イル基、3−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−イル基、4−ヒドロキシ−2−メチルブタン−1−イル基、3−ヒドロキシ−2−メチルブタン−1−イル基等が挙げられ、反応収率の観点から、水素原子、メチル基などの炭素数1〜6のアルキル基、3−ヒドロキシプロパン−1−イル基、3−ヒドロキシブタン−1−イル基、4−ヒドロキシブタン−1−イル基、または3−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−イル基などの水酸基を有する炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、または3−ヒドロキシプロパン−1−イル基がより好ましい。
【0026】
[Y:中性配位子]
nは0、1、または2である。なお、nが0の場合は、配位子(Y)が存在しないことを意味する。nは0でもよいが、ニッケル錯体の安定性向上を目的として、nが1または2、すなわち、配位子(Y)が存在していてもよい。
【0027】
Yは、中性の配位子であり、σ−ドナー配位子またはπ−アクセプター配位子が挙げられる。これら配位子(Y)は、反応時に容易に脱離または交換し、基質の配位のための配位座を供給する。
【0028】
σ−ドナー配位子は、非共有電子対を持つ配位性原子を有している。硫黄原子を有するものの例として、ジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。窒素原子を有するものの例として、ピリジン、2,6−ジメチルピリジン(別名:2,6−ルチジン)、2,6−ジ−tert−ブチルピリジン、アニリン、2,6−ジメチルアニリン、2,6−ジイソプロピルアニリン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられる。酸素原子を有するものの例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のアルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等の直鎖エーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステルが挙げられる。
【0029】
π−アクセプター配位子としては、オレフィン等が挙げられる。具体例として、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,5−シクロオクタジエン、ノルボルネン、ノルボルナジエン等が挙げられる。
【0030】
中性配位子Yは、前述の残基Xと結合した状態、即ちX−Yの2座配位子を形成していても良く、またはX−Yが一緒になってπ−アリル配位子を形成していても良い。具体例としては、π−アリル基、アルキル置換π−アリル基等のπ−アリル配位子、5−シクロオクテン−1−イル基等の、ニッケル−ヒドリド結合にジエン化合物の二重結合の片方が挿入し、もう一方の二重結合が中心金属に配位した構造を有するσ,π−炭素2座配位子、または3−ヒドロキシプロパン−1−イル基等の、ニッケル−ヒドリド結合やニッケル−炭素結合に水酸基含有オレフィンの炭素−炭素二重結合が挿入後、水酸基がニッケル金属に配位した炭素−酸素二座配位子が挙げられる。
【0031】
[Z:カウンターアニオン]
Zで表されるカウンターアニオンは、1価のアニオンであればどのようなものでも良い。さらにニッケル1原子あたりの電荷数が1価になるようであれば、Zは多価のアニオンであってもよい。また、Zはニッケル金属に配位していても、配位していなくても良い。具体的には、硫酸イオン(SO2−)、硝酸イオン(NO)、炭酸イオン(CO2−)、過塩素酸イオン(ClO)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)等のハロゲン化物イオン、テトラフルオロボレート(BF)、ブロモトリフルオロボレート(BBrF)、クロロトリフルオロボレート(BClF)、トリフルオロメトキシボレート(BF(OCH)、トリフルオロエトキシボレート(BF(OC)、トリフルオロアリロキシボレート(BF(OC)、テトラフェニルボレート(B(C)、ブロモトリフェニルボレート(BBr(C)、クロロトリフェニルボレート(BCl(C)、メトキシトリフェニルボレート(B(OCH)(C)、エトキシトリフェニルボレート(B(OC)(C)、アリロキシトリフェニルボレート(B(OC)(C)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(B(C)、ブロモトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(BBr(C)、クロロトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(BCl(C)、メトキシトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(B(OCH)(C)、エトキシトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(B(OC)(C)、アリロキシトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(B(OC)(C)等のボレートイオン、メタンスルホネート(CHSO)、トリフルオロメタンスルホネート(CFSO)、ノナフルオロブタンスルホネート(CSO)、ベンゼンスルホネート(CSO)、p−トルエンスルホネート(p−CH−CSO)等のスルホネートイオン、酢酸イオン(CHCO)、トリフルオロ酢酸イオン(CFCO)、トリクロロ酢酸イオン(CClCO)、プロピオン酸イオン(CCO)、安息香酸イオン(CCO)等のカルボキシレートイオン、ヘキサフルオロホスフェート(PF)等のホスフェートイオン、ヘキサフルオロアルセネートイオン(AsF)等のアルセネートイオン、ヘキサフルオロアンチモネート(AsF)等のアンチモネートイオン、ヘキサフルオロシリケート(SiF)等のシリケートアニオン等が挙げられる。これらの中でも、反応成績の観点から非配位型のアニオンが好ましく、特にトリフルオロメタンスルホネートイオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、またはヘキサフルオロアンチモネートイオンが好ましい。
【0032】
一般式(3)で示されるニッケル錯体は様々な方法で調製可能である。調製方法は、使用するニッケルソースによって、大きく2種類の方法に分類される。
【0033】
第1の調製方法は、0価のニッケル化合物またはニッケル金属を用い、酸化的付加によりニッケル(II)−ヒドリド錯体またはニッケル(II)−アルキル錯体を生成させる方法である。
【0034】
第2の調製方法は、2価のニッケル化合物に対して、水素化剤またはアルキル化剤によりニッケル(II)−ヒドリド錯体またはニッケル(II)−アルキル錯体を生成させる方法である。
【0035】
第1の調製方法では、0価のニッケル化合物またはニッケル金属をニッケルソースとして用いて、酸化的付加により、ニッケル(II)−ヒドリド錯体またはニッケル(II)−アルキル錯体を生成させる方法である。0価のニッケル化合物としては、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod))、ニッケル(0)テトラカルボニル(Ni(CO))等が挙げられ、取り扱いやすさの点から、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)が好ましい。
【0036】
第1の調製方法における酸化的付加の方法としては、0価のニッケル化合物またはニッケル金属に対して、(1)ブレンステッド酸を反応させる、(2)ルイス酸存在下、アルコールを反応させる、または(3)ルイス酸存在下、有機ハロゲン化物を反応させるという方法が挙げられる。
【0037】
(1)の方法では、Xが水素原子であるニッケル錯体が生成する。使用するブレンステッド酸の具体例としては、硫酸、硝酸、過塩素酸、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、安息香酸、テトラフルオロホウ酸等が挙げられ、反応成績の点から、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸が好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸がより好ましい。
【0038】
(2)の方法では、Xが水素原子であるニッケル錯体が生成する。使用するルイス酸の具体例としては、トリフルオロボラン(BF)、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(B(C)、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート((CB(C)、アニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(CNHB(C)、ペンタフルオロリン(PF)、ペンタフルオロヒ素(AsF)、ペンタフルオロアンチモン(SbF)、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(Sc(OSOCF)、トリフルオロメタンスルホン酸イットリビウム(Yb(OSOCF)、トリフルオロメタンスルホン酸イットリウム(Y(OSOCF)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(AgOSOCF)、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)、ヘキサフルオロヒ酸銀(AgAsF)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)等が挙げられる。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、フェノール等が挙げられ、一般式(1)で示される水酸基含有オレフィンを使用することもできる。
【0039】
(3)の方法では、Xが有機ハロゲン化物の有機残基であるニッケル錯体が生成する。使用するルイス酸の具体例は、(2)の方法で述べたルイス酸と同様であり、使用する有機ハロゲン化物の具体例としては、臭化プロピル、臭化アリル、ブロモベンゼン、1−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン等が挙げられ、反応収率の点から、臭化プロピル、ブロモベンゼン、1−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼンが好ましく、臭化プロピルが特に好ましい。
【0040】
第1の調製方法では、(1)ブレンステッド酸の共役塩基、(2)アルコールの共役塩基とルイス酸との錯イオン、(3)有機ハロゲン化物のハロゲン化物イオンとルイス酸との錯イオンがカウンターアニオンZとして、ニッケル錯体を形成する。
【0041】
第2の調製方法は、2価のニッケル化合物をニッケルソースとして用いて、水素化剤またはアルキル化剤を反応させる方法である。水素化剤を使用した場合ではXが水素原子、アルキル化剤を使用した場合ではXがアルキル基であるニッケル錯体が生成する。
【0042】
2価のニッケル化合物の具体例としては、酢酸ニッケル(II)(Ni(OCOCH)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)(Ni(OSOCF)、ステアリン酸ニッケル(II)(Ni(OCOC1735)、塩化ニッケル(II)(NiCl)、臭化ニッケル(II)(NiBr)、ヨウ化ニッケル(II)(NiI)、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)(Ni(acac))、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ニッケル、(1,2−ジメトキシエタン)塩化ニッケル(NiCl(DME))、(1,2−ジメトキシエタン)臭化ニッケル(NiBr(DME))が挙げられる。水素化剤の具体例としては、水素化ナトリウム(NaH)、水素化リチウム(LiH)、水素化カリウム(KH)、水素化カルシウム(CaH)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ホウ素リチウム(LiBH)、水素化ホウ素カリウム(KBH)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、ジイソブチル水素化アルミニウム(i−BuAlH)、水素化ホウ素(B)などが挙げられ、アルキル化剤の具体例としては、メチルリチウム(MeLi)、n−ブチルリチウム(n−BuLi)、tert−ブチルリチウム(t−BuLi)、sec−ブチルリチウム(s−BuLi)、フェニルリチウム(PhLi)等のリチウム試薬、メチルマグネシウムブロミド(MeMgBr)、メチルマグネシウムクロリド(MeMgCl)、メチルマグネシウムヨージド(MeMgI)、エチルマグネシウムブロミド(EtMgBr)、プロピルマグネシウムブロミド(PrMgBr)、イソプロピルマグネシウムブロミド(i−PrMgBr)、n−ブチルマグネシウムブロミド(n−BuMgBr)、tert−ブチルマグネシウムクロリド(t−BuMgCl)、フェニルマグネシウムブロミド(PhMgBr)、フェニルマグネシウムクロリド(PhMgCl)、ジメチルマグネシウム(MeMg)等のマグネシウム試薬、トリメチルアルミニウム(MeAl)、メチルアルミノキサン(MAO)、トリエチルアルミニウム(EtAl)、ジメチルアルミニウムクロリド(MeAlCl)ジエチルアルミニウムクロリド(EtAlCl)等のアルミニウム試薬が挙げられる。
【0043】
第2の調製方法では、2価のニッケルソースに存在する2つの配位子の片方がカウンターアニオンZとして、ニッケル錯体を形成する。
【0044】
加えて、上記の2種類の調製方法で得られた、ニッケル−X錯体の一種であるニッケル−ヒドリド錯体またはニッケル−アルキル錯体のニッケル−水素またはニッケル−炭素結合に、オレフィン化合物の炭素−炭素二重結合を挿入させて錯体触媒としてもよい。この場合におけるオレフィン化合物としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン、2−ブテンなどのα−オレフィン以外のオレフィン、アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、6−ヘプテン−1−オール、1−ブテン−3−オール、1−ペンテン−3−オール、1−ヘキセン−3−オール、1−ヘプテン−3−オール、1−フェニル−3−ブテン−1−オール、2−メチル−4−ペンテン−2−オール等の一般式(1)で表される水酸基含有オレフィン等が挙げられる。二量化反応における反応成績の面から一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンが好ましく、その中でもアリルアルコール、3−ブテン−1−オール、および3−ブテン−2−オールがより好ましい。
【0045】
上記の2種類の調製方法では、錯体の安定化および触媒活性発現のため、いずれの場合も3価のリン配位子の添加が必須である。リン配位子の具体例は、前記のリン配位子の具体例と同様である。
【0046】
ニッケル錯体触媒の安定化のため、別途、中性配位子を添加してもよい。中性配位子の具体例は、前記の中性配位子Yの具体例と同様である。
【0047】
[二量化触媒:一般式(4)]
一般式(3)で示される二量化触媒は、Xに水酸基を含む一般式(4)で表されるニッケル錯体がより好ましい。
【化16】

(式中、Xは、水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表し、R、R、R、R、R、R、Z、m、およびnは上記と同様の意味を表す。Yは中性配位子を表す。)
【0048】
、R、R、R、R、R、Y、Z、m、およびnについては前記と同様のものが例示、推奨できる。Xは水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表す。炭素原子数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。炭素原子数6〜30のアリール基としては炭素原子数6〜20のアリール基が好ましい。具体的にはフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基等が挙げられる。炭素原子数7〜30のアラルキル基としては炭素原子数7〜20のアラルキル基が好ましい。具体的にはベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、1−メチル−2−フェニルエチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、1−(1−ナフチル)エチル基、1−(2−ナフチル)エチル基、2−(1−ナフチル)エチル基、2−(2−ナフチル)エチル基、1−(1−ナフチル)プロピル基、1−(2−ナフチル)プロピル基、2−(1−ナフチル)プロピル基、2−(2−ナフチル)プロピル基、3−(1−ナフチル)プロピル基、3−(2−ナフチル)プロピル基等が挙げられる。Xは触媒調製の容易性および反応収率の面で水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0049】
一般式(4)で表されるニッケル錯体は、別途調製したニッケル(II)−X錯体のニッケル−X結合に、一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンの炭素−炭素二重結合が挿入され、水酸基が中心ニッケル金属に配位してメタラサイクルを形成している。この金属錯体は安定であるため単離可能であり、さらにその単離錯体を触媒として二量化反応に使用することができる。
【化17】

(式中、R〜R、X、Y、Z、m、およびnは前記と同じ意味を表す。)
【0050】
本発明の一般式(4)で示されるニッケル錯体は、様々な方法で調製可能である。調製方法は、用いるニッケルソースによって、大きく2種類の方法に分類できる。
【0051】
第1の調製方法は、0価のニッケル化合物またはニッケル金属を用い、酸化的付加によりニッケル(II)−ヒドリド錯体またはニッケル(II)−アルキル錯体を生成し、水酸基含有オレフィンを反応させる方法である。
【0052】
第2の調製方法は、2価のニッケル化合物に対して、水素化剤またはアルキル化剤によりニッケル(II)−ヒドリド錯体またはニッケル(II)−アルキル錯体を生成し、水酸基含有オレフィンを反応させる方法である。
【0053】
第1の調製方法では、0価のニッケル化合物またはニッケル金属をニッケルソースとして用いて、酸化的付加により、ニッケル(II)−X錯体の一種であるニッケル(II)−ヒドリド錯体またはニッケル(II)−X錯体を生成した後、一般式(1)の水酸基含有オレフィンをニッケル−ヒドリド結合間またはニッケル−炭素結合間に挿入させる方法である。0価のニッケル化合物としては、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod))、ニッケル(0)テトラカルボニル(Ni(CO))などが挙げられ、取り扱いやすさの点から、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)が好ましい。
【0054】
第1の調製方法における酸化的付加の方法としては、0価のニッケル化合物またはニッケル金属に対して、(1)ブレンステッド酸を反応させる、(2)ルイス酸存在下、アルコールを反応させる、または(3)ルイス酸存在下、有機ハロゲン化物を反応させるという方法が挙げられる。
【0055】
(1)の方法では、主にXが水素原子であるニッケル錯体が中間体として生成する。使用するブレンステッド酸の具体例としては、硫酸、硝酸、過塩素酸、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、安息香酸、テトラフルオロホウ酸等が挙げられ、反応成績の点から、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸が好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸がより好ましい。
【0056】
(2)の方法では、主にXが水素原子であるニッケル錯体が中間体として生成する。使用するルイス酸の具体例としては、トリフルオロボラン(BF)、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(B(C)、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート((CB(C)、アニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(CNHB(C)、ペンタフルオロリン(PF)、ペンタフルオロヒ素(AsF)、ペンタフルオロアンチモン(SbF)、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(Sc(OSOCF)、トリフルオロメタンスルホン酸イットリビウム(Yb(OSOCF)、トリフルオロメタンスルホン酸イットリウム(Y(OSOCF)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(AgOSOCF)、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)、ヘキサフルオロヒ酸銀(AgAsF)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)等が挙げられる。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、フェノール等が挙げられ、一般式(1)で示される水酸基含有オレフィンを使用することもできる。
【0057】
(3)の方法では、Xが有機ハロゲン化物の有機残基であるニッケル錯体が中間体として生成する。使用するルイス酸の具体例は、(2)の方法で述べたルイス酸と同様であり、使用する有機ハロゲン化物の具体例としては、臭化プロピル、臭化アリル、ブロモベンゼン、1−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン等が挙げられ、反応収率の点から、臭化プロピル、ブロモベンゼン、1−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼンが好ましく、臭化プロピルが特に好ましい。
【0058】
第1の調製方法では、(1)ブレンステッド酸の共役塩基、(2)アルコールの共役塩基とルイス酸との錯イオン、(3)有機ハロゲン化物のハロゲン化物イオンとルイス酸との錯イオンがカウンターアニオンZとして、ニッケル錯体を形成する。
【0059】
第2の調製方法は、2価のニッケル化合物をニッケルソースとして用いて、水素化剤またはアルキル化剤により、ニッケル(II)−X錯体の一種であるニッケル(II)−ヒドリド錯体またはニッケル(II)−X錯体を生成し、一般式(1)で示される水酸基含有オレフィンをニッケル−ヒドリド結合間またはニッケル−炭素結合間に挿入させる方法である。
【0060】
2価のニッケル化合物の具体例としては、酢酸ニッケル(II)(Ni(OCOCH)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)(Ni(OSOCF)、ステアリン酸ニッケル(II)(Ni(OCOC1735)、塩化ニッケル(II)(NiCl)、臭化ニッケル(II)(NiBr)、ヨウ化ニッケル(II)(NiI)、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)(Ni(acac))、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ニッケル、(1,2−ジメトキシエタン)塩化ニッケル(NiCl(DME))、(1,2−ジメトキシエタン)臭化ニッケル(NiBr(DME))が挙げられる。水素化剤の具体例としては、水素化ナトリウム(NaH)、水素化リチウム(LiH)、水素化カリウム(KH)、水素化カルシウム(CaH)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ホウ素リチウム(LiBH)、水素化ホウ素カリウム(KBH)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、ジイソブチル水素化アルミニウム(i−BuAlH)、水素化ホウ素(B)などが挙げられ、アルキル化剤の具体例としては、メチルリチウム(MeLi)、n−ブチルリチウム(n−BuLi)、tert−ブチルリチウム(t−BuLi)、sec−ブチルリチウム(s−BuLi)、フェニルリチウム(PhLi)等のリチウム試薬、メチルマグネシウムブロミド(MeMgBr)、メチルマグネシウムクロリド(MeMgCl)、メチルマグネシウムヨージド(MeMgI)、エチルマグネシウムブロミド(EtMgBr)、プロピルマグネシウムブロミド(PrMgBr)、イソプロピルマグネシウムブロミド(i−PrMgBr)、n−ブチルマグネシウムブロミド(n−BuMgBr)、tert−ブチルマグネシウムクロリド(t−BuMgCl)、フェニルマグネシウムブロミド(PhMgBr)、フェニルマグネシウムクロリド(PhMgCl)、ジメチルマグネシウム(MeMg)等のマグネシウム試薬、トリメチルアルミニウム(MeAl)、メチルアルミノキサン(MAO)、トリエチルアルミニウム(EtAl)、ジメチルアルミニウムクロリド(MeAlCl)ジエチルアルミニウムクロリド(EtAlCl)等のアルミニウム試薬が挙げられる。
【0061】
第2の調製方法では、2価のニッケルソースに存在する2つの配位子のうち、片方の配位子がカウンターアニオンZとして、一般式(4)で表されるニッケル錯体を形成する。
【0062】
上記の2種類の調製方法では、錯体の安定化および触媒活性発現のため、いずれの場合も3価のリン配位子の添加が必須である。リン配位子の具体例は、前記のリン配位子の具体例と同様である。
【0063】
ニッケル錯体触媒の安定化のため、別途、中性配位子を添加してもよい。中性配位子の具体例は、前記の中性配位子Yの具体例と同様である。
【0064】
[二量化反応方法]
二量化反応用の触媒は、ニッケル錯体化合物(成分(A))、ブレンステッド酸、ルイス酸、有機ハロゲン化物、アルコール、水素化剤、アルキル化剤(成分(C))、およびリン配位子(成分(B))を順次、溶媒中で反応させて調製する。その後、当該溶液に一般式(1)の水酸基含有オレフィン(成分(D))を添加して二量化反応を行う。この他に、あらかじめ成分(C)としてブレンステッド酸および成分(B)を反応させて、相当するホスホニウム塩を単離し、これとニッケル化合物(成分(A))とを反応させて触媒調製をすることも可能である。さらに、上記触媒調製の各ステップに加え、前記水酸基含有オレフィン(成分(D))を反応させることで、触媒活性種である一般式(4)で表されるニッケル錯体を単離することができる。
【0065】
触媒調製中の雰囲気は、触媒原料および生成した触媒活性種の分解を防ぐため、酸素、水分等が混入しないように窒素やアルゴン等の不活性ガスで満たすことが好ましい。
【0066】
触媒調製時には溶媒が使用されるが、調製温度で触媒原料および触媒活性種と反応しない不活性溶媒が好ましい。不活性溶媒の具体例としては、特に限定されないが、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル等の脂肪族エステル、安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族エステル等が挙げられる。アリルアルコール等水酸基含有オレフィン中での実質的な無溶媒系による反応も可能である。
【0067】
触媒調製における反応温度は、−100〜40℃の範囲であり、好ましくは−78〜−20℃の範囲で行われる。
【0068】
二量化反応における触媒の使用量は特に制限されないが、通常は、一般式(1)の水酸基含有オレフィン1molに対してニッケル化合物(成分(A))または一般式(4)で表されるニッケル錯体が0.1〜0.00001mol、好ましくは0.01〜0.001mol用いられる。ニッケル化合物(成分(A))に対する成分(C)およびリン配位子(成分(B))の割合は、成分(A)1molに対して成分(B)および成分(C)がそれぞれ0.5〜1.5molの範囲であり、反応成績の点から、成分(B)および成分(C)がともに1mol添加されるのが最も好ましい。成分(C)としてルイス酸と有機ハロゲン化物の組み合わせまたはルイス酸とアルコールの組み合わせを使用する場合、成分(C)のルイス酸は、成分(A)1molに対して0.5〜10mol添加してもよく、成分(C)の有機ハロゲン化物またはアルコールは、成分(A)1molに対して0.5〜10mol添加してもよい。成分(A)、成分(B)、および成分(C)に加え、一般式(1)の水酸基含有オレフィン(D)を添加して、触媒活性種である一般式(4)で表されるニッケル錯体を単離する場合、一般式(1)の水酸基含有オレフィン(D)は、成分(A)1molに対して、0.5〜1.5molの範囲で使用され、1mol添加されるのが好ましい。
【0069】
二量化反応中の雰囲気は、触媒調製時と同様、触媒活性種の分解を抑制するため、酸素、水分等が混入しないように窒素やアルゴン等の不活性ガスで満たすことが好ましい。
【0070】
水酸基含有オレフィンの二量化において、反応は0〜100℃の温度範囲で行われ、好ましくは、20〜60℃の範囲で行われる。生成した不飽和ジオールは、水等の添加により触媒を失活させた後、蒸留等により分離可能である。
【0071】
本発明の二量化反応では、調製した錯体触媒種のニッケル−ヒドリド結合に、水酸基含有オレフィンの炭素−炭素二重結合が2分子挿入後、β−水素脱離により、不飽和ジオールが生成し、触媒がニッケル−ヒドリド錯体としてリサイクルされる。このとき、オレフィンの挿入方向が1,2−付加、2,1−付加の2通りあるため、二量化生成物として4種類の異性体が生成するが、本発明の方法では、1,2−付加が2,1−付加に対して優先するため、1,2−付加が2回起こって生成した化合物が主生成物として得られる。すなわち、具体的に水酸基含有オレフィンがアリルアルコールの場合、2−メチリデン−1,5−ペンタンジオール(下式中C1)、2−ヘキセン−1,6−ジオール(下式中C2)、3−メチル−2−メチリデン−1,4−ブタンジオール(下式中C3)、および2−メチル−3−ペンテン−1,5−ジオール(下式中C4)が生成し、2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールが主生成物として得られる。
【化18】

なお、上式は、アリルアルコールを用いた場合の二量化反応であり、ニッケル金属上の配位子は省略している。
【実施例】
【0072】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記に限定されるものではない。
【0073】
二量化反応における水酸基含有オレフィンの転化率と主生成物の選択率はガスクロマトグラフィーにより測定した。GC装置として、アジレント・テクノロジー(株)製DB−WAXカラム(30m×0.32mm×0.25μm)を備えたアジレント・テクノロジー(株)製6850を使用した。
【0074】
主生成物およびニッケル錯体の構造は、日本電子(株)製JNM−EX400を使用したH−NMRおよび13C−NMR測定、ならびにアジレント・テクノロジー(株)製DB−WAXカラム(60m×0.32mm×0.25μm)を備えたアジレント・テクノロジー(株)製GC−MS装置5975Cを使用した質量分析により決定した。
【0075】
(実施例1):二量化触媒液1の調製
窒素雰囲気下、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(和光純薬工業(株)製、1.8g,6.6mmol)のトルエン懸濁液(14mL)に、トリフルオロメタンスルホン酸(和光純薬工業(株)製、0.97g,6.5mmol)およびトリn−ブチルホスフィン(和光純薬工業(株)製、1.3g,6.5mmol)を−78℃で順次加えた後、30分撹拌し、これを二量化触媒液1とした。ここで、一般式(3)においてR=R=R=n−ブチル、X=H、Y=シクロオクタジエン(n=1)、Z=CFSOとなる。
【0076】
(実施例2〜21):二量化触媒液2〜21の調製
リン配位子、カウンターアニオン(Z)源となる酸、中性配位子(Y)、溶媒を表1に記載の種類と量に変えた以外は、実施例1と同様の手法で、二量化触媒液2〜21を調製した。なお、実施例16〜21の中性配位子はリン配位子の後に加えた。
【0077】
【表1】

【0078】
(実施例22):二量化触媒液22の調製
窒素雰囲気下、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(0.27g,0.99mmol)のトルエン懸濁液(1.4mL)を−78℃に保ちながら、BF・OEt(和光純薬工業(株)製,0.14g,0.97mmol)および臭化プロピル(和光純薬工業(株)製,0.12g,0.94mmol)を添加し、30分攪拌した。その後、トリイソプロピルホスフィン(Strem製,10wt%ヘキサン溶液,2.4mL,0.99mmol)を加え、さらに−78℃で30分攪拌し、これを二量化触媒液22とした。ここで、一般式(3)においてR=R=R=イソプロピル、X=プロピル、Y=シクロオクタジエンまたはOEtのうち少なくとも1種、n=1または2、Z=BBrFとなる。
【0079】
(実施例23〜25):二量化触媒液23〜25の調製
リン配位子、X源となる有機ハロゲン化物、カウンターアニオン(Z)源となるルイス酸、溶媒を表2に記載の種類と量に変えた以外は、実施例22と同様の方法で、二量化触媒液23〜25を調製した。
【0080】
【表2】

【0081】
(実施例26):アリルアルコールの二量化反応
窒素雰囲気下、実施例1で得られた二量化触媒液1に、アリルアルコール(昭和電工(株)製39.6g,681.0mmol)を−78℃で加え、ゆっくりと室温まで昇温させた後、40℃に加熱しながら6時間反応させた。反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、アリルアルコールの転化率は67%、主生成物である2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールの選択率は45%であった。
【0082】
反応終了後、蒸留により未反応のアリルアルコール、溶媒、低沸点生成物を留去した後、0.50mmHgで沸点102〜104℃の無色透明液体を得た。H−NMR、13C−NMR、IR、およびGC−MSにより、2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールであると同定した。H−NMR、13C−NMR、およびIRスペクトルを、それぞれ図1、図2、および図3に示す。
H−NMR(400MHz,アセトン−d6/TMS):δ(ppm)1.67(quint,2H),2.10(t,2H),3.55(t,2H),4.00(s,2H),4.15(br.s,1H),4.37(br.s,1H),4.81(s,1H),5.01(s,1H);
13C−NMR(100MHz,DO/TMS):δ(ppm)29.4,30.5,62.1,65.2,110.2,148.8;
IR(cm−1):1654;
GC−MS:116(m/e).
【0083】
(実施例27〜50):アリルアルコールの二量化反応
実施例2〜25で調製した二量化触媒液2〜25を使用して、実施例26と同様の方法で、アリルアルコールの二量化反応を行った。反応条件および反応結果を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
(実施例51):2価のニッケル化合物/ホスフィン/水素化剤を使用したアリルアルコールの二量化反応
窒素雰囲気下、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II)(0.19g,0.44mmol)のトルエン懸濁液(0.7mL)に、トリイソプロピルホスフィン(0.072g,0.45mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。その後、水素化ホウ素ナトリウム(0.017g,0.44mmol)のアリルアルコール(2.7g,46.0mmol)溶液を加え、40℃に加熱しながら6時間攪拌した。反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、アリルアルコールの転化率は40%、主生成物である2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールの選択率は43%であった。
【0086】
(実施例52):ニッケル錯体触媒1の合成と単離
【化19】

(式中、i−Prはイソプロピル基を表す。)
窒素雰囲気下、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(1.8g,6.6mmol)のトルエン懸濁液(14mL)を−78℃に保ちながら、トリフルオロメタンスルホン酸(0.97g,6.5mmol)を添加し、30分攪拌した。その後、トリイソプロピルホスフィン(1.0g,6.5mmol)を加え、さらに−78℃で30分間攪拌した。得られた反応液にアリルアルコール(0.38g,6.6mmol)を加え、ゆっくりと室温まで昇温させた後、40℃で加熱しながら5分間攪拌した。室温になるまで放冷後、過剰のヘキサンを添加し、−78℃で冷却した。析出した橙色結晶は、窒素雰囲気下でろ別回収した後、減圧乾燥を行った。H−NMRおよび13C−NMRスペクトルにより、ニッケル錯体触媒1と決定した。H−NMRおよび13C−NMRスペクトルを、それぞれ図4および図5に示す。H−NMRスペクトルにおいて、水酸基由来プロトンのピークが5.73ppmに観測され、通常のアルコールのケミカルシフトよりも低磁場であるため、この水酸基がニッケル金属に配位していると考えられる。
H−NMR(400MHz,トルエン−d8/TMS):δ(ppm)0.39−0.45(m,4H),1.00−1.07(m,18H),1.42−1.57(m,3H),2.99(br.,2H),5.73(br.s,1H);
13C−NMR(100MHz,トルエン−d8/TMS):δ(ppm)7.1(d,Jpc=32Hz),19.8−20.5(m),20.2,22.5,31.3,65.4.
【0087】
(実施例53):ニッケル錯体触媒1を使用したアリルアルコールの二量化反応
実施例52の実験で得られたニッケル錯体触媒1を用いて、以下のとおりアリルアルコールの二量化反応を行った。窒素雰囲気下、ニッケル錯体触媒1(0.060g,0.14mmol)のアリルアルコール溶液(8.1g,140mmol)を、40℃で10時間攪拌した。反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、アリルアルコールの転化率は39%、主生成物である2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールの選択率は73%であった。
【0088】
実施例54:3−ブテン−1−オールの二量化反応
実施例26と同様の方法で、3−ブテン−1−オールの二量化反応を行った。具体的には、窒素雰囲気下、トルエン(2.4mL)中、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(0.33g,1.2mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸(0.18g,1.2mmol)およびトリイソプロピルホスフィン(0.19g,1.2mmol)を反応させて得られた触媒液に、3−ブテン−1−オール(50.0g,70.0mmol)を加え、40℃で6時間撹拌した。反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、3−ブテン−1−オールの転化率は92%、主生成物である3−メチリデン−1,7−ヘプタンジオールの選択率は17%であった。
【0089】
実施例55:3−ブテン−2−オールの二量化反応
実施例26と同様の方法で、3−ブテン−2−オールの二量化反応を行った。具体的には、窒素雰囲気下、トルエン(0.70mL)中、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(0.19g,0.70mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸(0.11g,0.70mmol)およびトリイソプロピルホスフィン(0.11g,0.70mmol)を反応させて得られた触媒液に、3−ブテン−2−オール(5.0g,70.0mmol)を加え、40℃で6時間撹拌した。反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、3−ブテン−2−オールの転化率は57%、主生成物である3−メチリデン−2,6−ヘプタンジオールの選択率は50%であった。
【0090】
(比較例1)
実施例1の二量化触媒液1の調製時にトリフルオロメタンスルホン酸を添加しなかったこと以外は実施例26と同様の条件で、アリルアルコールの二量化反応を行った。40℃で6時間反応を行ったが、アリルアルコールは全く反応せず、二量化生成物は得られなかった。
【0091】
(比較例2)
実施例1の二量化触媒液1の調製時にトリn−ブチルホスフィンを添加しなかったこと以外は実施例26と同様の条件で、アリルアルコールの二量化反応を行った。40℃で6時間反応を行ったが、アリルアルコールは全く反応せず、二量化生成物は得られなかった。
【0092】
(比較例3):2−メチル−2−プロペン−1−オールの二量化反応
実施例26と同様の条件で、2−メチル−2−プロペン−1−オールの二量化反応を行った。40℃で6時間反応を行ったが、2−メチル−2−プロペン−1−オールは全く反応せず、二量化生成物は得られなかった。
【0093】
(比較例4):2−メチル−3−ブテン−2−オールの二量化反応
実施例26と同様の条件で、2−メチル−3−ブテン−2−オールの二量化反応を行った。40℃で6時間反応を行ったが、2−メチル−3−ブテン−2−オールは全く反応せず、二量化生成物は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
C=CH−CHR−(CR−OH (1)
(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で示される水酸基含有オレフィンに対して、二量化触媒の存在下で二量化反応を行うことを特徴とする不飽和ジオールの製造方法。
【請求項2】
二量化反応により生成する不飽和ジオールが一般式(2)
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の不飽和ジオールの製造方法。
【請求項3】
二量化触媒が、一般式(3)
【化2】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Xは水素原子であるか、または酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数1〜63のアルキル基、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数6〜30のアリール基、または酸素原子、窒素原子、および硫黄原子の少なくとも一種を含有する置換基を有してもよい炭素原子数7〜201のアラルキル基のいずれかを表し、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子を含有する置換基が存在する場合、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子はニッケル金属に配位、非配位のいずれでもよい。Yは中性配位子を表し、XおよびYは一緒になって2座配位子を形成してもよい。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で表されるニッケル錯体を成分とするものである請求項1または2に記載の不飽和ジオールの製造方法。
【請求項4】
一般式(3)で表されるニッケル錯体が、一般式(4)
【化3】

(式中、Xは、水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表し、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Yは中性配位子を表す。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で表されるニッケル錯体である請求項3に記載の不飽和ジオールの製造方法。
【請求項5】
一般式(3)または(4)中のR、RおよびRが全てイソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基またはエトキシ基のいずれかである請求項3または4に記載の不飽和ジオールの製造方法。
【請求項6】
一般式(3)または(4)中のR、RおよびRのうち1つが水素原子で、残り2つがシクロヘキシル基である請求項3または4に記載の不飽和ジオールの製造方法。
【請求項7】
一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンがアリルアルコール(一般式(1)中、Rが水素原子を表し、mが0を表す。)、3−ブテン−1−オール(一般式(1)中、R、R、およびRが全て水素原子を表し、mが1を表す。)または3−ブテン−2−オール(一般式(1)中、Rがメチル基を表し、mが0を表す。)である請求項1〜6のいずれか一項に記載の不飽和ジオールの製造方法。
【請求項8】
一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンがアリルアルコールであり、一般式(2)で表される不飽和ジオールが2−メチリデン−1,5−ペンタンジオールである請求項1〜7のいずれか一項に記載の不飽和ジオールの製造方法。
【請求項9】
一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンが3−ブテン−1−オールであり、一般式(2)で表される不飽和ジオールが3−メチリデン−1,7−ヘプタンジオールである請求項1〜7のいずれか一項に記載の不飽和ジオールの製造方法。
【請求項10】
一般式(1)で表される水酸基含有オレフィンが3−ブテン−2−オールであり、一般式(2)で表される不飽和ジオールが3−メチリデン−2,6−ヘプタンジオールである請求項1〜7のいずれか一項に記載の不飽和ジオールの製造方法。
【請求項11】
一般式(4)
【化4】

(式中、Xは、水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表し、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Yは中性配位子を表す。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で示されるニッケル錯体。
【請求項12】
一般式(4)中のRおよびXがいずれもが水素原子、R、R、およびRが全てイソプロピル基、Zがトリフルオロメタンスルホネート基、mおよびnが0であるニッケル錯体、すなわち、化学式(5)
【化5】

(式中、i−Prはイソプロピル基を表す。)
で示される請求項11に記載のニッケル錯体。
【請求項13】
(A−1)0価ニッケル化合物またはニッケル金属、(B−1)3価リン化合物、および(C−1)ブレンステッド酸またはルイス酸を、(D−1)一般式(1)
C=CH−CHR−(CR−OH (1)
(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で示される水酸基含有オレフィンの存在下で、(A−1):(B−1):(C−1):(D−1)=1:0.5〜1.5:0.5〜10:0.5〜1.5のモル比で反応させることによる、一般式(4)
【化6】

(式中、Xは、水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表し、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Yは中性配位子を表す。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で示されるニッケル錯体の製造方法。
【請求項14】
(A−1)0価ニッケル化合物またはニッケル金属、(B−1)3価リン化合物、(C−1)ルイス酸、および(C−2)有機ハロゲン化物を、(D−1)水酸基含有オレフィンの存在下で、(A−1):(B−1):(C−1):(C−2):(D−1)=1:0.5〜1.5:0.5〜10:0.5〜10:0.5〜1.5のモル比で反応させる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(A−1)0価ニッケル化合物またはニッケル金属、(B−2)トリイソプロピルホスフィンおよび(C−3)トリフルオロメタンスルホン酸を(D−2)アリルアルコールの存在下で、(A−1):(B−2):(C−3):(D−2)=1:0.5〜1.5:0.5〜1.5:0.5〜1.5のモル比で反応させることによる、化学式(5)
【化7】

(式中、i−Prはイソプロピル基を表す。)
で示されるニッケル錯体の製造方法。
【請求項16】
(A−2)2価ニッケル化合物、(B−1)3価リン化合物、および(C−4)水素化剤またはアルキル化剤を、(D−1)一般式(1)
C=CH−CHR−(CR−OH (1)
(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で示される水酸基含有オレフィンの存在下で、(A−2):(B−1):(C−4):(D−1)=1:0.5〜1.5:0.5〜1.5:0.5〜1.5のモル比で反応させることによる、一般式(4)
【化8】

(式中、Xは、水素原子または炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、または炭素原子数7〜30のアラルキル基を表し、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を表し、mは0〜4の整数を表す。R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数4〜30のヘテロアリール基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数1〜30のアルコキシ基または炭素原子数6〜30のアリールオキシ基を表し、RとRは結合して環構造を形成してもよい。Yは中性配位子を表す。nは0〜2の整数を表す。Zはカウンターアニオンを表し、Ni金属に配位していても、配位していなくてもよい。)
で示されるニッケル錯体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35759(P2013−35759A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171345(P2011−171345)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】