説明

不飽和ポリエステルの製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、分子量(数平均分子量、以下同様)が5000以上である、高分子量不飽和ポリエステルの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術および課題】ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステルをこれと共重合可能なモノマーに溶解したものをこう呼ぶことにする)は、汎用FRPのマトリックス樹脂として、浴槽、浄化槽、洗面化粧台等の住設機器、ならびに漁船、レジャー関係の器具、設備、例えばボート、ヨット等の舟艇、さらには耐食性の機器、自動車部品などに多量に用いられている他、樹脂自体の用途として塗料、化粧板、注形関係、などにも活用されている。例えば、ポリエステル樹脂にフィラー、ガラス繊維、硬化剤、増粘剤を混合、熟成して、シートモールディングコンパウンド Sheet Molding Compaund(SMC)とし、浴槽等の住設機器、または自動車の外板などに用いられている。しかしながら、用途の拡大につれて樹脂の物性がより高度のものが求められるようになっており、例えば耐煮沸性、あるいは強度、弾性度などをより一層レベルアップする必要に迫られてもいる。このような要求を充たすために、樹脂改良の方法は種々試みられてはいるが、その分子量を高めることもその一つである。すなわちポリエステル樹脂を構成する不飽和ポリエステルの分子量を高めることにより、傾向として熱変形温度、強度のレベルアップがみられるようになる。しかし、現在の不飽和ポリエステルの分子量は2000〜2500程度のいわばプレポリマー的なものであって、エステル化法に依存する限り、分子量をこれ以上高めることは、ゲル化の危険性の点から、甚だしく困難なものとなる。すなわち、エステル化に続く脱グリコール反応において、数平均分子量はほゞ一定値に達した段階から大きく変化することがないのに反して、重量平均分子量は反応時間と共に増加を続け、遂にはゲル化するに至る。この点が熱可塑性ポリエステル(飽和ポリエステル)とは根本的に異なる点である。
【0003】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、以前から試みられたことのない、少なくとも公表されたことのない方法として、不飽和ポリエステルの製造に、ポリエチレンテレフタレートの製造にみられる脱グリコール反応を適用し、ほゞ次の条件が満足されるならば、分子量5000以上の高分子量ポリエステルが合成可能なことを明らかにした(特願平1-292354)。すなわち、(i) エステル化後の酸価は15以下、望ましくは10以下とし、(ii) 5mmHg以下の減圧、望ましくは1mmHg以下の減圧状態で、(iii) 脱グリコール反応の触媒として、テトラアルキルチタン化合物を使用する。本発明は、前記のテトラアルキルチタンに代わる脱グリコール反応の触媒に関するものである。すなわち本発明は、α,β-不飽和多塩基酸(またはその酸無水物)を、任意の飽和または不飽和の多塩基酸(またはその酸無水物)で変性しまたはせずに、多価アルコールでエステル化し、次いで脱グリコール反応を行って、不飽和ポリエステルを製造する方法において、生成不飽和ポリエステル100重量部に対して0.01〜5重量部の、チタン、コバルト、ジルコニウム、亜鉛、マンガン、鉄、バナジウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属のアセチルアセトネート型キレート化合物を、該エステル化または脱グリコール反応の段階で添加することを特徴とする、不飽和ポリエステルの製造方法を提供するものである。
【0004】以下に、本発明をさらに詳細に説明する。本発明において前記金属のアセチルアセトネート型キレート化合物を用いる理由は、生成する不飽和ポリエステルの数平均分子量を増大させながら、重量平均分子量の増加を極力抑制し、合成反応をゲル化させることなく、安全に行うことにある。本発明は、上述の金属のアセチルアセトネート型キレート化合物が、数平均分子量の上昇には有効に作用しながら、一般の有機金属化合物を用いた場合よりも重量平均分子量を増大させる傾向は少ないことを見出した点に基づいている。これらキレート化合物の使用量は、生成不飽和ポリエステル100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜1重量部である。
【0005】本発明に用いられる不飽和ポリエステルの原料には、特に制限を加える必要はないが、分子量5000以上とするためには、使用する多価アルコールの50モル(%)以上は、沸点(760mmHg)300℃以下であることが好ましい。フマル酸,無水マレイン酸で代表されるα,β-不飽和多塩基酸またはその酸無水物の使用は必須であり、任意の飽和あるいは不飽和の多塩基酸またはその酸無水物を併用して、樹脂物性に多様性を持たせることは一般に行われている。本発明による不飽和ポリエステルの合成は、一般のエステル化に引き続いて、脱グリコール反応を実施するが、金属のアセチルアセトネート型キレート化合物の添加は、エステル化の最初から加えてもよく、また脱グリコール反応の開始時期でもよい。また、反応時のゲル化を防ぐために、重合防止剤を加えることは有利である。本発明による不飽和ポリエステルは、共重合可能なモノマー類に溶解してポリエステル樹脂として、各種用途に活用されるが、その時必要に応じて、補強材、フィラー、着色剤、離型剤、増粘剤、熱可塑性ポリマー、硬化剤等を併用することのできることは勿論である。
【0006】次に本発明の理解を助けるために、以下に実施例を示す。
(エステル化反応例)撹拌機、分溜コンデンサー、温度計、ガス導入管を付した30 lステンレス製反応容器に、プロピレングリコール8.8kg、イソフタル酸8.3kg を仕込み、窒素ガス気流中180〜190℃でエステル化して酸価21.9とした後、フマル酸5.8kg を加え、さらにエステル化温度を190〜205℃とし反応末期10〜12mmHgの減圧を約2時間実施して、最終酸価8.9とし、ハイドロキノン4gを加え、金属製バットに流出、固化させた。軟化点約70〜75℃、分子量2040の淡黄褐色の不飽和ポリエステル(A)が得られた。
【0007】実施例 1〜17撹拌機、濃縮コンデンサー(減圧可能タイプ)、温度計、ガス導入管を付した1lセパラブルフラスコに、反応例で製造した不飽和ポリエステル(A)を各500g、表1に要約されている各反応触媒を各1.5g(0.3phr)仕込み、いずれも温度195〜200℃で最終的に約2時間0.7〜0.8mmHgの減圧下で合計6時間(反応温度に達してから)脱グリコール反応を行った。脱グリコール反応触媒の種類による相違を、実施例1〜17として表1に要約する。この結果からも判るように、本発明の金属のアセチルチセトネート型キレート化合物を用いた例は、数平均分子量に比較、重量平均分子量は余り上昇していないが、一般の脱グリコール反応で使用される種類の有機金属塩を使用した場合は、重量平均分子量の増大が著しく、反応に安定性を欠いていることが明らかである。
【0008】
【表1】


【0009】
【発明の効果】本発明は上記のように構成したので、ゲル化を起こすことなく脱グリコール反応を進めることができ、従来得られなかった高分子量の不飽和ポリエステルを製造することができ、家電、自動車、住宅設備等の広範な分野に応用することのできる、高性能のポリエステル樹脂を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 α,β-不飽和多塩基酸(またはその酸無水物)を、任意の飽和または不飽和の多塩基酸(またはその酸無水物)で変性しまたはせずに、多価アルコールでエステル化し、次いで脱グリコール反応を行って、不飽和ポリエステルを製造する方法において、生成不飽和ポリエステル100重量部に対して0.01〜5重量部の、チタン、コバルト、ジルコニウム、亜鉛、マンガン、鉄、バナジウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の金属のアセチルアセトネート型キレート化合物を、該エステル化または脱グリコール反応の段階で添加することを特徴とする、不飽和ポリエステルの製造方法。

【特許番号】第2527504号
【登録日】平成8年(1996)6月14日
【発行日】平成8年(1996)8月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−106006
【出願日】平成3年(1991)5月10日
【公開番号】特開平4−335024
【公開日】平成4年(1992)11月24日
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【参考文献】
【文献】特開平3−220232(JP,A)