説明

不飽和ポリエステル樹脂の硬化度の評価方法

【課題】不飽和ポリエステル樹脂(以下、UPという)成形体製造時の樹脂の硬化度を高感度に且つ正確に推定する方法を提供する。
【解決手段】UP成形体の溶媒抽出物を高速液体クロマトグラフ法で測定し、未硬化物のピーク面積から樹脂の硬化度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂(以下、UPという)成形体製造時の樹脂の硬化度を高感度に且つ正確に推定する評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
UPは反応性の二重結合を有する不飽和多塩基酸と多価アルコールの重縮合反応により合成される不飽和ポリエステルとビニル系モノマーとの混合物であり、適当な触媒や促進剤の存在下で、加熱または常温で三次元網目状硬化物となる熱硬化性樹脂である。
【0003】
主な用途はFRPと呼ばれるガラス繊維強化プラスチックであり、そのほか注形用、無溶剤型樹脂塗料、無機充填成形体としても利用される。UPは熱硬化性樹脂のため、成形体の機械的強度は樹脂の硬化度によって変化する。機械的強度に優れたUP成形体を製造するためには、種々の成形条件における樹脂の硬化度を把握し最適化しなければならない。特に、熱硬化性樹脂は熱可塑性樹脂のように成形不良となったものを再使用することができないため、硬化条件の最適化は成形体の製造において重要な要素である。また、UP成形体中に残存した未硬化物成分は環境への溶出や揮散という問題があるため、硬化反応は収束させる必要がある。
【0004】
熱硬化性樹脂の硬化度の評価には示差走査熱量測定法による反応熱解析、赤外分光法による反応基解析などがある(非特許文献1〜2)。
【非特許文献1】日本熱測定学会編,熱分析の基礎と応用第3版,p.73,リアライズ社(1994)
【非特許文献2】中野辰彦、嶋田茂、西塔利江子:日本バイオ・ラッドスペクトラニュース第10号(1992)p.10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの評価方法は樹脂単独での硬化度の評価には有効であるが、無機充填剤を大量に含む成形体では樹脂量が少ないことから微少な硬化度の変化を評価するのは困難である。また、何れの評価方法も成形体の局所的な情報になるため、成形体全体の硬化度とは異なる問題がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、UP成形体製造時の樹脂の硬化度を高感度に且つ正確に推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明が提供するUP成形体製造時の樹脂の硬化度を高感度に推定する方法は、成形体の溶媒抽出物を高速液体クロマトグラフ法(以下、HPLCという)で測定し、未硬化物のピーク面積から樹脂の硬化度合を推定することを特徴とする。
【0008】
本発明のUP成形体製造時の樹脂の硬化度の推定方法では、凍結粉砕したUP成形体をクロロホルム、テトラヒドロフランのどちらか1つ、またはこれらの混合物を用いて溶媒抽出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明法によれば、UP単体成形体から大量の無機充填剤を含むUP成形体の硬化度を、HPLC装置を用いて高感度に且つ正確に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の方法は、UP成形体の溶媒抽出物をHPLCで測定し、未硬化物のピーク面積から硬化度を推定するものである。下記の化1に代表的な不飽和ポリエステルとビニル系モノマーの化学構造を示す。UPはこの2つの成分の−C=C−結合が架橋し三次元網目状硬化物となる熱硬化性樹脂である。硬化反応が完結すれば不溶不融性の樹脂となるが、未硬化物であればクロロホルムやテトラヒドロフランに溶解可能である。
【0011】
【化1】

【0012】
このクロロホルムやテトラヒドロフランに可溶な成分量は硬化が不十分であるほど多くなる。したがって、UP成形体の溶媒抽出物をHPLC測定することにより、UPの硬化度を推定できる。HPLC測定で使用する分離カラムは、一般的に分子量測定で使用される多孔性ゲルのものが使用可能である。
【0013】
UP成形体から溶媒可溶成分を抽出するとき、試料を凍結粉砕することにより、短時間に精度の良い抽出操作が可能である。
【実施例】
【0014】
(実施例1)
硬化時間が異なる3種類のUP成形体を使用した。硬化反応の収束については、UP単体で十分硬化させたものを用いて確認した。
凍結粉砕した各成形体のクロロホルム抽出液をHPLC装置に導入し、抽出成分のピーク面積を紫外可視検出器で測定した。その際の測定条件を下記表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
クロロホルム抽出物のピーク面積を下記表2に示す。これらの結果から、UPの硬化時間が長くなるとクロロホルム可溶成分が減少し、硬化時間10分で反応が収束していることが分かった。
【0017】
【表2】

【0018】
(実施例2)
実施例1と同じUP成形体を使用した。凍結粉砕した各成形体のテトラヒドロフラン抽出液をHPLC装置に導入し、抽出成分のピーク面積を紫外可視検出器で測定した。その際の測定条件を下記表3に示す。
【0019】
【表3】

【0020】
テトラヒドロフラン抽出物のピーク面積を下記表4に示す。これらの結果から、UPの硬化時間が長くなるとテトラヒドロフラン可溶成分が減少し、硬化時間10分で反応が収束していることが分かった。
【0021】
【表4】

【0022】
(実施例3)
実施例1と同じUP成形体を使用した。凍結粉砕した各成形体のクロロホルムとテトラヒドロフラン混合溶媒による抽出液をHPLC装置に導入し、抽出成分のピーク面積を紫外可視検出器で測定した。その際の測定条件は実施例2と同じである。
【0023】
クロロホルムとテトラヒドロフラン混合溶媒抽出物のピーク面積を下記表5に示す。これらの結果から、UPの硬化時間が長くなると溶媒可溶成分が減少し、硬化時間10分で反応が収束していることが分かった。
【0024】
【表5】


【0025】
(実施例4)
UP成形体を1種類使用した。凍結粉砕したものと未粉砕品(φ10mm×7mm)のクロロホルム抽出液をHPLC装置に導入し、抽出成分のピーク面積を紫外可視検出器で測定した。測定は抽出操作を含めて各々3回実施した。その際の測定条件は実施例1と同じである。
【0026】
各試料形状を用いたクロロホルム抽出物のピーク面積を下記表6に示す。これらの結果から、未粉砕品をクロロホルムで抽出すると、ピーク面積値がバラツキを示すが、凍結粉砕すると非常に安定したピーク面積値が得られることが分かった。
【0027】
【表6】

【0028】
(実施例5)
実施例4と同じUP成形体を使用した。凍結粉砕したものと未粉砕品(φ10mm×7mm)のテトラヒドロフラン抽出液をHPLC装置に導入し、抽出成分のピーク面積を紫外可視検出器で測定した。測定は抽出操作を含めて各々3回実施した。その際の測定条件は実施例2と同じである。
【0029】
各試料形状を用いたテトラヒドロフラン抽出物のピーク面積を下記表7に示す。これらの結果から、未粉砕品をテトラヒドロフランで抽出すると、ピーク面積値がバラツキを示すが、凍結粉砕すると非常に安定したピーク面積値が得られることが分かった。
【0030】
【表7】

【0031】
(実施例6)
実施例4と同じUP成形体を使用した。凍結粉砕したものと未粉砕品(φ10mm×7mm)のクロロホルムとテトラヒドロフラン混合溶媒による抽出液をHPLC装置に導入し、抽出成分のピーク面積を紫外可視検出器で測定した。測定は抽出操作を含めて各々3回実施した。その際の測定条件は実施例2と同じである。
【0032】
各試料形状を用いたクロロホルムとテトラヒドロフラン混合溶媒抽出物のピーク面積を下記表8に示す。これらの結果から、未粉砕品をクロロホルムとテトラヒドロフラン混合溶媒で抽出すると、ピーク面積値がバラツキを示すが、凍結粉砕すると非常に安定したピーク面積値が得られることが分かった。
【0033】
【表8】

【0034】
表2、表4および表5の結果から判るように、UPの硬化反応が進むと溶媒可溶成分が減少することから、HPLC測定で得られたピーク面積値から硬化度の推定が可能であった。また、表6、表7および表8の結果から試料を凍結粉砕することで安定したピーク面積値が得られることが分かった。従来の示差走査熱量測定法や赤外分光法では大量の無機充填剤を含むUP成形体の解析では、樹脂量が少ないことから微少な硬化度の変化を評価するのは困難であり、得られる情報も成形体の局所的なものであったのに対して、本発明法ではHPLC装置を用いて、クロロホルム、テトラヒドロフランのどちらか1つ、またはこれらの混合物可溶成分量から成形体全体での硬化度の推定が可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂(以下、UPという)成形体の溶媒抽出物を高速液体クロマトグラフ法で測定し、未硬化物のピーク面積から樹脂の硬化度を推定することを特徴とするUPの硬化度の評価方法。
【請求項2】
抽出溶媒にクロロホルム、テトラヒドロフランのどちらか1つ、またはこれらの混合物を使用することを特徴とする請求項1に記載のUPの硬化度の評価方法。
【請求項3】
凍結粉砕したUP成形体を溶媒抽出することを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載のUPの硬化度の評価方法。

【公開番号】特開2007−40808(P2007−40808A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224799(P2005−224799)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】