説明

不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤とこれを用いた複合材料および成形品並びに不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤の製造方法

【課題】不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維材料に良好に含浸させることが可能であり、成形品の表面平滑性を向上させることができる不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤を提供する。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂とスチレンを含む架橋剤との反応により得られた不飽和ポリエステル樹脂硬化物を含む材料を、前記不飽和ポリエステル樹脂硬化物の熱分解温度未満の温度で亜臨界水分解して得られた、スチレンフマル酸共重合体を不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤とこれを用いた複合材料および成形品並びに不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より熱硬化性樹脂を材料とするプラスチック廃棄物を再資源化する技術が報告されている。例えば、特許文献1では、多価アルコールと不飽和多塩基酸の重縮合物を含む不飽和ポリエステル樹脂をスチレンなどの架橋剤で架橋した不飽和ポリエステル樹脂硬化物をその熱分解温度未満の温度で亜臨界水を用いて分解している。これにより、分解物として、不飽和ポリエステル樹脂硬化物の原料として再利用できるモノマーとともに、スチレンフマル酸共重合体などの架橋剤−酸共重合体を得られるが、その分解物の特性が十分に検討されておらず、再利用のための用途が限定的であった。
【0003】
ところで、浴槽、洗面化粧台、キッチンカウンターなどの成形品は、不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて製造されたシートモールディングコンパウンド(以下、SMCと称する)などの複合材料が成形材料としてプレス成形されて得られる。不飽和ポリエステル樹脂組成物は不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、硬化剤などを含有している。この不飽和ポリエステル樹脂組成物にさらに増粘剤を添加し、ガラス繊維などの繊維材料に含浸させ、増粘を進めることにより複合材料が得られる。
【0004】
この複合材料は、不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維材料に含浸させる段階において不具合が生じやすいことが指摘されている。例えば、原材料の種類やその他の添加剤の有無、温度・湿度などの外部環境によって不飽和ポリエステル樹脂組成物の増粘初期の粘度が高くなり、繊維材料となじみにくくなることがある。また、不飽和ポリエステル樹脂組成物の粘度上昇が激しく繊維材料への含浸が不十分になることがある。これらが原因で成形品が不良品となる問題があった。
【0005】
そのような場合には、粘度調整剤と呼ばれる添加剤を加えて、不飽和ポリエステル樹脂組成物の増粘初期の粘度を抑えたり低減したり、また粘度が急激に上昇しないように調節している。不飽和ポリエステル樹脂用の粘度調整剤としては従来からアルケニルコハク酸を用いることが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2006/057250号パンフレット
【特許文献2】特開2002−179746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アルケニルコハク酸は不飽和ポリエステル樹脂組成物の繊維材料へのなじみを良くすることができるものの、これを用いた複合材料の成形品は成形時の収縮によって表面が平滑にならない場合があった。また、アルケニルコハク酸は一般的に高価であり、製造コスト上昇の一因にもなっていた。
【0008】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維材料に良好に含浸させることが可能であり、成形品の表面平滑性を向上させることができる不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤を提供することを課題とする。また、不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維材料に良好に含浸させることが可能であり、成形品の表面平滑性を向上させることができる複合材料およびその成形品並びに不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤は、スチレンフマル酸共重合体を含有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の複合材料は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、硬化剤、および増粘剤を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物が繊維材料に含浸されている複合材料であって、不飽和ポリエステル樹脂組成物は、スチレンフマル酸共重合体を含有する粘度調整剤を含むことを特徴とする。
【0011】
この複合材料においては、スチレンフマル酸共重合体は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して1〜10重量部の範囲で含有されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の成形品は、上記の複合材料の硬化物であることを特徴とする。
【0013】
さらにまた、本発明の不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤の製造方法は、スチレンフマル酸共重合体を含有する不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤の製造方法であって、前記スチレンフマル酸共重合体は、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンを含む架橋剤との反応により得られた不飽和ポリエステル樹脂硬化物を含む材料を不飽和ポリエステル樹脂硬化物の熱分解温度未満の温度で亜臨界水分解して得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤によれば、不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維材料に良好に含浸させることが可能であり、成形品の表面平滑性を向上させることができる。この不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤を含有する複合材料も同様の効果を有し、表面平滑性を向上させた成形品を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤は、スチレンフマル酸共重合体を含有する。このスチレンフマル酸共重合体は、下記式(1)に示す化学構造を有している。
【0017】
【化1】

【0018】
式(1)で表される化学構造は、スチレンと不飽和多塩基酸(フマル酸及び/又は無水マレイン酸)をラジカル重合させて得られる。式中のm、nの上限は特に限定されないが、例えば、mの上限を3、nの上限を300とし、mは1〜3の数値、nは3〜300の数値とすることができる。
【0019】
本発明において用いられるスチレンフマル酸共重合体の化学構造は、式(1)で表される化学構造を有していれば、その一部は異なる化学構造を有していても構わない。例えば、式(1)において架橋剤の一部としてスチレンの代わりにメタクリル酸メチル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレートなどが用いられていてもよい。
【0020】
このスチレンフマル酸共重合体は、次の方法によって得ることができる。不飽和ポリエステル樹脂とスチレンを含む架橋剤とを反応させて得られる不飽和ポリエステル樹脂硬化物を含む材料を不飽和ポリエステル樹脂硬化物の熱分解温度未満の温度で亜臨界水で処理する。この亜臨界水処理により、不飽和ポリエステル樹脂硬化物のエステル基部分が加水分解してスチレンフマル酸共重合体を得ることができる。
【0021】
不飽和ポリエステル樹脂硬化物の主たる化学構造は、ポリエステルを架橋して得られたものであってポリエステル部と架橋部を含むものである。
【0022】
ポリエステル部は、多価アルコールと不飽和多塩基酸を含む多塩基酸とを重縮合させることにより多価アルコールと多塩基酸とがエステル結合を介して互いに連結したポリエステルに由来する。ポリエステル部は、不飽和多塩基酸に由来する二重結合を含んでいてもよい。
【0023】
多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類などが挙げられるが、これに限定されるものではない。これらは1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0024】
不飽和多塩基酸の具体例としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族不飽和二塩基酸などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。また、無水フタル酸などの飽和多塩基酸を不飽和多塩基酸と併用してもよい。
【0025】
架橋部は、ポリエステル部を架橋する部分であり、スチレンを含む不飽和結合を有する材料(架橋剤)に由来する。架橋部とポリエステル部の結合位置および結合様式も特に限定されない。
【0026】
架橋剤は、スチレンが必須成分として含まれるが、その他、メタクリル酸メチル、ジアリルフタレート、トリアリルフタレートなどの重合性ビニルモノマーなど、他の架橋剤が含まれていてもよい。
【0027】
架橋部は、1個の架橋剤に由来する部分であってもよく、複数の架橋剤が重合したオリゴマーまたはポリマーに由来する部分であってもよい。また、架橋部とポリエステル部の結合位置も特に限定されない。
【0028】
不飽和ポリエステル樹脂硬化物は、主として加熱等により硬化(架橋)された樹脂であるが、本発明を適用した時に上記した効果を得ることができるものであれば、加熱などにより硬化(架橋)が進行する未硬化の樹脂または部分的に硬化された樹脂であってもよい。
【0029】
不飽和ポリエステル樹脂硬化物には、炭酸カルシウムや水酸化カルシウムなどの無機充填材や、ロービングで切断したチョップドストランドなどのガラス繊維などの無機物や、その他の成分が含有されていてもよい。
【0030】
不飽和ポリエステル樹脂硬化物としては、例えば浴室ユニットやシステムキッチンなどのプラスチック成形品として用いられるものであり、プラスチック成形品の廃棄物であってもよい。
【0031】
次に、スチレンフマル酸共重合体の製造方法について詳細に説明する。
【0032】
不飽和ポリエステル樹脂硬化物を含む材料に水を加え、温度と圧力を上昇させて亜臨界状態にした水(以下、亜臨界水ともいう)で不飽和ポリエステル樹脂硬化物を分解する。水の添加量は、不飽和ポリエステル樹脂硬化物100重量部に対して好ましくは200〜500重量部の範囲である。
【0033】
分解反応時における亜臨界水の温度は、不飽和ポリエステル樹脂硬化物が加水分解されるが、熱分解する温度未満、且つ、架橋部およびポリエステル部が熱分解する温度未満の温度であることが望ましく、180〜270℃の温度範囲に設定することが望ましい。なお、分解反応時の温度が180℃未満であると、分解処理に多大な時間を要し、処理コストが高くなる恐れがある。逆に分解反応時の温度が270℃を超えると、熱分解の影響が大きくなり、ポリエステル部と架橋剤との結合部が分解されて、スチレンフマル酸共重合体を回収することが困難になる恐れがある。
【0034】
分解反応時間は、反応温度などの条件によって異なる。例えば、熱分解の影響が生じない温度以下では、1〜4時間程度とすることができる。分解反応時間は短い方が処理コストが少なくなるので好ましい。分解反応の圧力については、特に限定されるものではないが、2〜15MPa程度の範囲であることが望ましい。
【0035】
亜臨界水による不飽和ポリエステル樹脂硬化物の分解処理は、一般的に熱分解反応および加水分解反応によって起こるものであり、亜臨界水の温度や圧力を適切な条件とすることにより、優先的に加水分解反応が起こる。これにより、不飽和ポリエステル樹脂硬化物のポリエステル部がその由来の原料であるモノマー(多価アルコールと多塩基酸)に分解される。また、架橋部とポリエステル部を構成する有機酸の化合物に分解される。架橋部とポリエステル部を構成する有機酸の化合物とは、ポリエステル部の多塩基酸と架橋剤との化合物(反応物)であり、本発明においては、スチレンフマル酸共重合体が得られる。したがって、上記の不飽和ポリエステル樹脂硬化物を亜臨界水に接触させて分解処理することにより、多価アルコールと多塩基酸およびスチレンフマル酸共重合体に分解することができる。分解して得られた多価アルコールと多塩基酸は、回収してプラスチックの製造原料として再利用することができる。
【0036】
不飽和ポリエステル樹脂硬化物を含む材料の亜臨界水分解において、亜臨界水はアルカリ金属の水酸化物を含有することが望ましい。これにより、不飽和ポリエステル樹脂硬化物の加水分解反応がアルカリ金属の水酸化物で促進されて処理時間を短くすることができ、処理コストを少なくすることができる。また、亜臨界水分解処理によって生成した多塩基酸をアルカリ金属の水酸化物の塩基で中和することもできる。これによって、同分解処理によって生成した多価アルコールが超臨界状態に近い高温域において多塩基酸の酸触媒効果により二次分解することが抑制される。
【0037】
ここで、アルカリ金属の水酸化物の配合量は、特に限定されるものではないが、不飽和ポリエステル樹脂硬化物を分解して得られるスチレンフマル酸共重合体に含まれるフマル酸の理論モル数に対して、2モル当量以上であることが好ましい。また、アルカリ金属の水酸化物の配合量が2モル当量未満であると、アルカリ金属の水酸化物により上記効果が得られにくくなる恐れがある。なお、アルカリ金属の水酸化物濃度の上限値は、特に限定はされないが、10モル当量以下であることがコスト面などから好ましい。
【0038】
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化カリウム(KOH)や水酸化ナトリウム(NaOH)などを用いることができるが、これに限定されるものではない。また、アルカリ金属の水酸化物の代わりに、またはアルカリ金属の水酸化物と併用して、難水溶性の塩基を亜臨界水に添加することもできる。この難水溶性の塩基としては、炭酸カルシウムなどを例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0039】
不飽和ポリエステル樹脂硬化物を含む材料をアルカリ金属の水酸化物を含有する亜臨界水で分解すると、ポリエステル由来のモノマー(多価アルコールと多塩基酸)とスチレンフマル酸共重合体とが水可溶成分として水溶液中で回収される。未溶解、未分解の不飽和ポリエステル樹脂硬化物は固形分として水溶液と分離して回収される。不飽和ポリエステル樹脂硬化物に無機物などを含む場合には、無機物などは未溶解、未分解の不飽和ポリエステル樹脂硬化物とともに固形分として回収される。
【0040】
水可溶成分として回収されるスチレンフマル酸共重合体は塩として水に溶けている。スチレンフマル酸共重合体の塩はカリウム塩やナトリウム塩などのアルカリ金属塩であり、スチレン骨格とフマル酸骨格とを有し、カルボキシル基にカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属が結合した状態(COO−K+やCOO−Na+)となっている。また、多塩基酸もカリウム塩やナトリウム塩などのアルカリ金属塩として水に溶けている。
【0041】
ろ過などの方法により固形分を回収した後の水溶液は、スチレンフマル酸共重合体の塩などを含有する。この水溶液に、酸と熱を供給することによって、スチレンフマル酸共重合体を固形分として液相(水相)から分離して回収することができる。
【0042】
水溶液に供給する酸としては、塩酸や硫酸などの無機の強酸を例示することができるが、これに限定されるものではない。また、後の工程で中和する必要がある場合は、中和による副生成物である塩が処理し易いものを選択すればよい。
【0043】
酸の水溶液への供給は、その水溶液のpHが5以下になるように供給することが好ましい。水溶液のpHが5を超える場合はスチレンフマル酸共重合体の固形分が完全に析出しない恐れがある。水溶液の水相のpHは小さいほどスチレンフマル酸共重合体の固形分が析出しやすいので、pHの下限は特に設定されず、0とすることができる。
【0044】
スチレンフマル酸共重合体の塩などを含有する水溶液に酸を供給するとともに、熱も供給するが、この熱の供給時期は、酸の添加前、または酸の添加途中、または酸の添加後のいずれであってもよい。
【0045】
また、スチレンフマル酸共重合体の固形分の回収が容易になるので、水溶液が40℃より高く昇温するように熱を供給することが好ましい。水溶液の上限温度は特に定めないが、水溶液であることから、急激な沸騰を防ぐため、沸騰しない温度とするのが好ましい。そして水溶液が所定の温度に達した後もその温度に所定時間保持することができる。この保持時間は特に限定されるものではないが、コスト面からあまり長くないほうがよい。
【0046】
水溶液に熱を供給して所定の温度に昇温することにより、また温度保持時間や熱の供給時期を適宜調整することにより、スチレンフマル酸共重合体の固形分を沈殿させたり、水溶液中に塊状で浮かせたりすることができ、スチレンフマル酸共重合体の固形分と水相との分離を容易にすることができる。
【0047】
なお、スチレンフマル酸共重合体の塩などを含有する水溶液に、熱を供給せず酸のみを供給することによってもスチレンフマル酸共重合体を析出させて回収することができる。この場合には、水で膨潤した状態のスチレンフマル酸共重合体が得られる。
【0048】
スチレンフマル酸共重合体の固形分と水相とに分離した後、濾過や遠心分離、かき取りなどで固形分を採取し、スチレンフマル酸共重合体を容易に回収することができる。
【0049】
水相は多価アルコールと多塩基酸とを含有しており、この水相を蒸留することにより、水と多価アルコールと多塩基酸とをそれぞれ別々に回収することができる。これらは、プラスチックの原料モノマーなどとして再利用できる。なお、蒸留で得られた水は、再度、亜臨界水のための水として利用することができる。
【0050】
以上のように、式(1)に示す化学構造を有するスチレンフマル酸共重合体は、不飽和ポリエステル樹脂硬化物を含む材料を亜臨界水分解することによっても得ることができる。
【0051】
スチレンフマル酸共重合体を有効成分とする不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤は、不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維材料に良好に含浸させることが可能であり、成形品の表面平滑性を向上させることができる。スチレンフマル酸共重合体は安価で得ることができるため、粘度調整剤や成形品の製造コストを低減することができる。また、不飽和ポリエステル樹脂硬化物を含む材料を亜臨界水分解することによっても得ることができるため、プラスチック廃棄物の再資源化に貢献することができる。
【0052】
スチレンフマル酸共重合体を含有する不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤は、成形材料であるSMCやバルクモールディングコンパウンド(以下、BMCと称する)などの複合材料に用いられる。
【0053】
複合材料は、不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維材料に含浸させて得られる。不飽和ポリエステル樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、硬化剤、および増粘剤とともに、スチレンフマル酸共重合体を含有する不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤を含有する。この不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤を含有することにより、この複合材料は不飽和ポリエステル樹脂組成物の繊維材料への含浸が良好となる。そしてこの複合材料を用いた成形品は、従来の粘度調整剤を含有する複合材料を用いた場合よりも表面の平滑性を向上させたものとすることができる。
【0054】
不飽和ポリエステル樹脂組成物における不飽和ポリエステル樹脂は、上述したように、多価アルコールと多塩基酸とを重縮合させることにより得られる熱硬化性樹脂である。
【0055】
重合性単量体は、本発明の効果を損なわない範囲で通常の不飽和ポリエステル樹脂組成物に使用されるものであれば特に種類を問わない。例えばスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなど、不飽和ポリエステル樹脂と架橋可能な不飽和単量体が例示される。これらは2種以上を併用してもよい。
【0056】
この重合性単量体は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば10〜120重量部の範囲で配合することができる。
【0057】
硬化剤は、複合材料を、例えば100℃以上の高温、圧力下で成形するための高温硬化系の触媒が用いられる。高温硬化系の触媒としては、メチルエチルケトンパーオキシド、t―ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、過酸化ベンゾイル、ジ−t―ブチルパーオキシ3,3,5トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシなどが例示される。
【0058】
この硬化剤は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば0.01〜5重量部の範囲で配合することができる。
【0059】
増粘剤は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カリウム、水酸化カリウムなどが例示される。
【0060】
この増粘剤は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば0.5〜5重量部の範囲で配合することができる。
【0061】
スチレンフマル酸共重合体を含有する不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤は、例えば不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば1〜10重量部の範囲で配合することが好ましい。かかる範囲で配合することにより、不飽和ポリエステル樹脂組成物の増粘初期の粘度を抑えたり低減したり、また急激な粘度の上昇を抑えたりすることができる。不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維材料になじみ易くし、不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維材料に良好に含浸させることができる。
【0062】
上記粘度調整剤の配合量はコスト面から少ないほど良く、より好ましくは1〜5重量部、さらに好ましくは1〜3重量部であることが望ましい。本発明の粘度調整剤は、不飽和ポリエステル樹脂に対する配合量が従来の粘度調整剤よりも少なくても、従来の粘度調整剤が奏する繊維材料とのなじみ度合いを同程度とすることができる。
【0063】
不飽和ポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて、低収縮剤、無機充填材、離型剤、トナーなどが配合されていてもよい。
【0064】
低収縮剤は、不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を低減させる目的で使用されるものであり、一般的には熱可塑性樹脂である。具体例として、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレンポリ酢酸ビニル共重合体、その他ポリスチレン変性共重合体などが例示される。
【0065】
低収縮剤は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば1〜50重量部の範囲で配合することができる。
【0066】
無機充填材は、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、アルミナなどが例示される。
【0067】
無機充填材は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば100〜400重量部の範囲で配合することができる。
【0068】
離型剤は、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどの脂肪族有機酸もしくはその金属塩、ワックス系、シリコーン系などが例示される。
【0069】
離型剤は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば0.5〜20重量部の範囲で配合することができる。
【0070】
トナーは、カーボンブラックなどの無機顔料や、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッドなどの有機顔料が例示される。
【0071】
トナーは、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば0.1〜20重量部の範囲で配合することができる。
【0072】
不飽和ポリエステル樹脂組成物には、さらに必要に応じて、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、p−ベンゾキノン、ナフトキノンなどの重合禁止剤が配合されていてもよい。
【0073】
SMCは例えば次の方法で製造される。まず、上述した不飽和ポリエステル樹脂組成物をポリプロピレンフィルムなどの離型フィルム上に塗布し、その上に切断したガラス繊維などの繊維材料を散布し、さらにその上に不飽和ポリエステル樹脂組成物を塗布した離型フィルムを重ね合わせる。次いで、ローラー間に通して繊維材料に不飽和ポリエステル樹脂組成物を含浸させ、熟成して増粘を進めることにより得られる。
【0074】
BMCは上述した不飽和ポリエステル樹脂組成物に繊維材料を加えて混練し、熟成して増粘を進めることにより得られる。
【0075】
成形材料であるSMCやBMCなどの複合材料に使用される繊維材料の具体例として、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。繊維材料の配合量は最終成形品の10〜40重量%の範囲とすることができる。
【0076】
製造された複合材料をプレス成形やトランスファー成形などの方法で成形することにより、浴槽、洗面化粧台、キッチンカウンターなど所望の成形品を作製することができる。
【0077】
得られた成形品は、従来の粘度調整剤を含有する複合材料を用いて製造した成形品よりも平滑な表面を有している。また不良品の発生も抑えられている。
【0078】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0079】
[スチレンフマル酸共重合体の製造]
ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びジプロピレングリコールからなるグリコール類と、無水マレイン酸とを等モル量で重縮合させて不飽和ポリエステル樹脂を合成した。この不飽和ポリエステル樹脂のワニス(溶剤未添加)に架橋剤のスチレンを等モル量配合した液状樹脂100重量部に、硬化剤1重量部、離型剤1重量部、炭酸カルシウム165重量部を加え、攪拌混合した。これに増粘剤として酸化マグネシウム1.25重量部を加えて攪拌混合した後、直ちにポリエチレンフィルム2面に塗工した。一方の塗工面に長さ1インチのガラス繊維90重量部を撒き、もう一方の塗工面で挟み込んで、ポリエチレンフィルムの上から、ローラーを使って荷重を加え、含浸作業を行った。更に、40℃の乾燥機内で12時間熟成して増粘を進め、SMCシートを得た。このSMCシートを切断し、ポリエチレンフィルムを外し、所定量をプレスにて成形することで、成形品を得た。
【0080】
この成形品を20mmアンダーまで粉砕したものと、0.8[mol/L]のNaOH水溶液を反応容器に仕込み、反応容器を230℃にして、反応容器内の水溶液を亜臨界状態で2時間放置して、成形品の分解処理を行なった。
【0081】
その後、反応容器を冷却して室温まで戻した。反応処理後の反応容器の内容物は、水可溶成分と未溶解樹脂残渣と炭酸カルシウムとガラス繊維であり、この内容物を固液分離することにより水可溶成分を水溶液として回収した。
【0082】
回収した水溶液に対して62.5%の硫酸をpH2.5になるまで攪拌しながら添加し、pH2.5に到達後、60℃になるまで攪拌しつつ加温した。60℃に達した後、30分間その温度を保持しつつ攪拌を行なった。この後、攪拌を停止し、加温も止めて放置したところ、スラリー状態の固形分が容器底に沈降した。この後、吸引濾過により固液の分離を行い、分離した固形分を真空乾燥させることによりスチレンフマル酸共重合体を得た。このスチレンフマル酸共重合体の重量平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析装置で測定したところ、32000であった。
<実施例1>
不飽和ポリエステル樹脂100重量部、無機充填材(炭酸カルシウム)330重量部、低収縮剤10重量部、重合性単量体(スチレンモノマー)100重量部、硬化剤2.5重量部、離型剤12重量部、トナー10重量部を混合し、増粘前のプラスチック材料とした。この増粘前プラスチック材料に粘度調整剤としてスチレンフマル酸共重合体3重量部を混合した。次いで、増粘剤として酸化マグネシウム2.5重量部を加え、増粘を開始した。この時のプラスチック材料の温度は、35℃で一定とした。30分後の粘度を測定したところ、48Pasであった。
【0083】
このプラスチック材料に長さ1インチの繊維材料(ガラス繊維)90重量部を配合し、プラスチック材料を充分なじませた後、シート状にして、40℃の恒温槽内で更に増粘させ、SMCを得た。
<実施例2>
実施例1において粘度調整剤としてスチレンフマル酸共重合体1重量部を混合した以外は、実施例1と同様にしてプラスチック材料を得た。このプラスチック材料の増粘開始30分後の粘度を測定したところ、65Pasであった。
【0084】
このプラスチック材料に長さ1インチの繊維材料(ガラス繊維)90重量部を配合し、プラスチック材料を充分なじませた後、シート状にして、40℃の恒温槽内で更に増粘させ、SMCを得た。
<実施例3>
実施例1において粘度調整剤としてスチレンフマル酸共重合体10重量部を混合した以外は、実施例1と同様にしてプラスチック材料を得た。このプラスチック材料の増粘開始30分後の粘度を測定したところ、35Pasであった。
【0085】
このプラスチック材料に長さ1インチの繊維材料(ガラス繊維)90重量部を配合し、プラスチック材料を充分なじませた後、シート状にして、40℃の恒温槽内で更に増粘させ、SMCを得た。
<実施例4>
実施例2と同様にして得たプラスチック材料に長さ1インチのガラス繊維30重量部を配合し、材料を充分なじませた後、塊状にして、40℃の恒温槽内で更に増粘させ、BMCを得た。
<比較例1>
実施例1において粘度調整剤として市販の粘度調整剤(アルケニルコハク酸)3重量部を混合した以外は、実施例1と同様にしてプラスチック材料を得た。このプラスチック材料の増粘開始30分後の粘度を測定したところ、33Pasであった。
【0086】
このプラスチック材料に長さ1インチの繊維材料(ガラス繊維)90重量部を配合し、プラスチック材料を充分なじませた後、シート状にして、40℃の恒温槽内で更に増粘させ、SMCを得た。
<比較例2>
実施例1において粘度調整剤を混合しなかった以外は、実施例1と同様にしてプラスチック材料を得た。このプラスチック材料の温度は、35℃で一定とした。30分後の粘度を測定したところ、700Pasであった。
【0087】
このプラスチック材料に長さ1インチの繊維材料(ガラス繊維)90重量部を配合し、プラスチック材料を充分なじませた後、シート状にして、40℃の恒温槽内で更に増粘させ、SMCを得た。
<比較例3>
比較例2と同様にして得たプラスチック材料に長さ1インチのガラス繊維30重量部を配合し、材料を充分なじませた後、塊状にして、40℃の恒温槽内で更に増粘させ、BMCを得た。
【0088】
以上のようにして得られたSMCについて、平面方向に切断し、その切断面を目視にて観察することによりプラスチック材料と繊維材料とのなじみ度合いを評価した。またBMCについても、その切断面を目視にて観察することによりプラスチック材料と繊維材料とのなじみ度合いを評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0089】
○:プラスチック材料が繊維に含浸していない箇所が確認できない。
【0090】
×:プラスチック材料が繊維に含浸していない箇所が確認できる。
【0091】
また、実施例1−3および比較例1−2で得られたSMCを切断しプレス成形した複合材料成形品表面の光沢度を光沢度計にて測定することによって表面平滑性を評価した。実施例4および比較例3で得られたBMCについてもプレス成形した複合材料成形品表面の光沢度を光沢度計にて測定することによって表面平滑性を評価した。光沢度は鏡面光沢度とし、入射光は成形品表面の鉛直方向に対し60°の入射角で測定を行った。評価基準は以下のとおりである。
【0092】
◎:光沢度90以上
○:光沢度80以上90未満
×:光沢度80未満
以上の結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1の結果より、スチレンフマル酸共重合体を含有する粘度調整剤を用いた実施例1−4ではプラスチック材料と繊維材料とのなじみ度合いが良好であることが確認できた。また複合材料成形品の表面平滑性が、従来の粘度調整剤を用いた比較例1と比べて優れていることも確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンフマル酸共重合体を含有することを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤。
【請求項2】
不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、硬化剤、および増粘剤を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物が繊維材料に含浸されている複合材料であって、前記不飽和ポリエステル樹脂組成物は、スチレンフマル酸共重合体を含有する粘度調整剤を含むことを特徴とする複合材料。
【請求項3】
前記スチレンフマル酸共重合体は、前記不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して1〜10重量部の範囲で含有されていることを特徴とする請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
請求項2または3に記載の複合材料の硬化物であることを特徴とする成形品。
【請求項5】
スチレンフマル酸共重合体を含有する不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤の製造方法であって、前記スチレンフマル酸共重合体は、不飽和ポリエステル樹脂とスチレンを含む架橋剤との反応により得られた不飽和ポリエステル樹脂硬化物を含む材料を前記不飽和ポリエステル樹脂硬化物の熱分解温度未満の温度で亜臨界水分解して得ることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂用粘度調整剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−131870(P2012−131870A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283742(P2010−283742)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】