説明

不飽和ポリエステル樹脂組成物

本発明は、1,3−プロパンジオール構成単位およびC5〜C10不飽和ジカルボン酸構成単位を含む不飽和ポリエステル樹脂を含み、さらに反応性希釈剤を含む樹脂組成物に関する。好ましくは、1,3−プロパンジオールの少なくとも一部は非化石資源に由来する。好ましくは、C5不飽和ジカルボン酸としてイタコン酸または無水物が使用される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、構造部品の製造に使用するのに好適な不飽和ポリエステル樹脂および反応性希釈剤を含む樹脂組成物に関する。
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂は多くの構造目的に適していることが周知であるが、樹脂組成物の取扱い性の観点からは、樹脂組成物の粘度は高過ぎないことが望ましい。例えば再ライニングには、繊維を樹脂組成物に含浸させることが含まれる。したがって、取扱いおよび含浸時間の観点から、樹脂組成物の粘度は高過ぎないであろう。粘度が非常に重要であるという事実は、他の多くの用途、例えば、ケミカルアンカー、注入、真空注入だけでなく、より低粘度の樹脂を用いることでより円滑に進行するオープンモールド用途等の単純な積層工程にも当てはまる。そのため、硬化後の樹脂の特性に影響を及ぼすことなく、特にHDTで示される耐熱性を悪化させることなく、樹脂組成物の粘度を低減する方法が強く望まれている。粘度を低下させる方法の1つは反応性の高い希釈剤をより多量に添加することであるが、樹脂組成物中の樹脂含有量がより低くなるため、通常は硬化後の樹脂組成物の特性を低下させる原因となり、それによって耐熱性(例えば、HDTで示されるもの)が低下する可能性があり、したがって、通常はこれを適用することができない。高HDTが求められる用途には例えば自動車産業がある。特にボンネットの内側で用いられる部品は高温に曝される。また、より一般的なタンク用途では、直射日光下でタンク内の部品温度は容易に高温に上昇し得るので、高温耐性は重要である。
【0003】
さらにエコロジカルフットプリントの観点から、構造部品の製造に使用することができる生物由来の構成単位を含む不飽和ポリエステルを作製することが強く求められている。
【0004】
原油価格の高騰が続いていることに加えて既知の石油備蓄が急速に枯渇していることから、消費者製品の製造に石油系モノマーが使用されることは今後数年間で減少していくと予想される。さらに、環境保護に向けて世界中の政府が汚染に対する厳しい規制を行っていることが重なり、石油系モノマーの代替となり得る再生可能資源の研究が急務となっている。限りある石油資源の減少により、再生可能資源を工業用化学物質として使用することに大きな関心が寄せられている。不飽和ポリエステル用の生物由来の構成単位の非常に好適な例は、例えばトウモロコシから得ることができる1,3−プロパンジオールである。
【0005】
しかしながら、1,3−プロパンジオールを無水マレイン酸と併用すると希釈された樹脂の粘度が増大してしまい、その結果として希釈された樹脂がもはや構造目的に使用できなくなる可能性があることが判っている。
【0006】
本発明の目的は、粘度が低減されているが、硬化物の耐熱性は同程度に維持されている樹脂組成物を得ることにある。
【0007】
驚くべきことに、本発明者らは、1,3−プロパンジオール構成単位およびC5〜C10不飽和ジカルボン酸構成単位を含む不飽和ポリエステル樹脂を用いることによりこの目的が達成できることを見出した。
【0008】
驚くべきことに、不飽和ポリエステル樹脂においてこの構成単位の組合せを用いることにより、希釈された樹脂の粘度を、1,3−プロパンジオール構成単位以外のジオール構成単位を含む類似の希釈樹脂の粘度の水準よりも低下させることさえ可能になることを見出した。さらに、不飽和ポリエステル樹脂中でこの構成単位の組合せを用いるとHDTで示される耐熱性が維持されるという事実は、英国特許第806730号明細書を考慮すると非常に驚くべきことである。この特許出願の実施例9にはイタコン酸を含む不飽和ポリエステルが記載されている。ところがこの出願に開示されている樹脂から得られる硬化部品は低い耐熱性しか有しておらず、70℃という低いHDTしか示さない。実験項に示されてるように、イタコン酸および1,2−プロピレングリコールから調製された樹脂を硬化させた物品も同様に、マレイン酸および1,2−プロピレングリコールから調製した樹脂を用いたものよりも耐熱性が低下していた。
【0009】
さらなる利点は、本発明による樹脂組成物から得られる硬化部品の破断伸度を改善できることにある。
【0010】
本発明の好ましい実施形態においては、イタコン酸または無水物がC5不飽和ジカルボン酸構成単位として使用される。これは、イタコン酸または無水物が化石資源ではない例えばトウモロコシから得ることができるという理由から特に好ましい。
【0011】
本発明の好ましい実施形態においては、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルを得るために好ましく使用される1,3−プロパンジオールの少なくとも一部および/またはイタコン酸もしくは無水イタコン酸の少なくとも一部は非化石資源に由来する。本発明のより好ましい実施形態においては、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルを得るために使用される1,3−プロパンジオールの少なくとも一部およびイタコン酸または無水イタコン酸の少なくとも一部は非化石資源に由来する。
【0012】
本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルは、1,3−プロパンジオール構成単位およびC5〜C10不飽和ジカルボン酸構成単位を含む。
【0013】
本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルは、ポリオールとしての少なくとも1,3−プロパンジオールと、不飽和ジカルボン酸としての少なくともC5〜C10不飽和ジカルボン酸または無水物との重縮合により製造することができる。重縮合はまた、反応性不飽和を含む他のジカルボン酸(例えば、マレイン酸または無水物やフマル酸等)の存在下および/または飽和脂肪族ジカルボン酸もしくは無水物(例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等)の存在下および/または芳香族飽和ジカルボン酸もしくは無水物(例えば、フタル酸または無水物やイソフタル酸等)の存在下に実施してもよい。重合においてさらなる二または多官能性アルコールを使用してもよい。好ましいさらなるジオールは、例えば、1,2−プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノール−A、またはエトキシ化/プロポキシ化ビスフェノールAである。好ましい実施形態によれば、不飽和ポリエステル樹脂中のさらなるジオールの分子量は60〜250ダルトンの範囲にある。
【0014】
本発明による好ましい一実施形態においては、不飽和ポリエステルは、1,3−プロパンジオールと、C5〜C10不飽和ジカルボン酸および/または無水物と、場合により、他のジオールおよび/もしくはポリオール、他の不飽和ジカルボン酸および/もしくは無水物、飽和脂肪族ジカルボン酸および/もしくは無水物、ならびに/または芳香族飽和ジカルボン酸および/もしくは無水物から選択される他の構成単位との重縮合により製造される。好ましくは、C5不飽和ジカルボン酸構成単位としてイタコン酸または無水物が使用される。
【0015】
本発明による他の好ましい実施形態においては、不飽和ポリエステルは、1,3−プロパンジオールと、C5〜C10不飽和ジカルボン酸および/または無水物と、場合により、他のジオールおよび/または他の酸もしくは無水物から選択される他の構成単位との重縮合により製造される。好ましくは、C5不飽和ジカルボン酸構成単位としてイタコン酸または無水物が使用される。
【0016】
本発明による他の好ましい実施形態においては、不飽和ポリエステルは、1,3−プロパンジオールと、1,2−プロピレングリコールと、C5〜C10不飽和ジカルボン酸および/または無水物と、場合により、他のジオールおよび/または他の酸もしくは無水物から選択される他の構成単位との重縮合により製造される。好ましくは、C5不飽和ジカルボン酸構成単位としてイタコン酸または無水物が使用される。
【0017】
本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂における1,3−プロパンジオールのモル量は、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、よりさらに好ましくは少なくとも45%(ジオールの総量に対する)である。
【0018】
本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂におけるジカルボン酸構成単位の好ましくは少なくとも25重量%がイタコン酸構成単位である。より好ましくは、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルにおけるジカルボン酸構成単位の少なくとも55重量%がイタコン酸構成単位である。
【0019】
好ましくは、不飽和ジカルボン酸構成単位の少なくとも25重量%、より好ましくは少なくとも55重量%がイタコン酸構成単位である。
【0020】
本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂の酸価は、好ましくは25〜125mgKOH/g樹脂の範囲、より好ましくは30〜100mgKOH/g樹脂の範囲、より好ましくは35〜75mgKOH/g樹脂の範囲にある。本明細書において用いられる樹脂の酸価は、ISO 2114−2000に準拠して滴定法により測定される。
【0021】
本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂中のヒドロキシル末端基およびカルボン酸末端基のモル比は、好ましくは0.33〜3の範囲にある。好ましい一実施形態においては、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂中のヒドロキシル末端基およびカルボン酸末端基のモル比は0.33〜0.9の範囲にある。他の好ましい実施形態においては、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂中のヒドロキシル末端基およびカルボン酸末端基のモル比は1.1〜3の範囲にある。
【0022】
本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂のヒドロキシル価は、好ましくは25mgKOH/g樹脂を超え、より好ましくは40mgKOH/g樹脂を超える。本明細書において用いられるポリエステルのヒドロキシル価は、ISO 4629−1996に準拠して測定される。
【0023】
好ましくは、不飽和ポリエステルの分子量は、少なくとも300ダルトン、好ましくは少なくとも500ダルトン、より好ましくは少なくとも750ダルトンである。好ましくは、不飽和ポリエステルの分子量Mは、最大で10000ダルトン、より好ましくは最大5000ダルトンである。分子量(Mn)は、ISO 13885−1に準拠し、ポリスチレン標準および分子量測定用に設計された適切なカラムを使用してGPCを用いてテトラヒドロフラン中で測定される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態においては、分子量Mは、750〜5000ダルトンの範囲にある。
【0025】
不飽和ポリエステルのガラス転移温度Tは、好ましくは少なくとも−70℃かつ最大100℃である。不飽和ポリエステルを構造目的で適用する場合は、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tは、好ましくは少なくとも−70℃、より好ましくは少なくとも−50℃、よりさらに好ましくは少なくとも−30℃である。本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂のTは、好ましくは最大で70℃、より好ましくは最大50℃、よりさらに好ましくは最大30℃である。本明細書において用いられるTはDSC(昇温速度5℃/分)を用いて測定される。
【0026】
本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂は、有利には、カルボン酸銅、ベンゾキノン、アルキル置換ベンゾキノン、ヒドロキノン、および/またはメチル化ヒドロキノンから選択される少なくとも1種のラジカル阻害剤の存在下に調製してもよい。好ましい実施形態においては、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルは、
(i)反応器にC5〜C10不飽和ジカルボン酸および/または無水物ならびに場合により他の二酸と、1,3−プロパンジオールおよび場合により他のジオールと、カルボン酸銅、ベンゾキノン、アルキル置換ベンゾキノン、ヒドロキノン、および/またはメチル置換ヒドロキノンから選択される少なくとも1種のラジカル阻害剤とを装入することと、
(ii)形成された不飽和ポリエステルの酸価が60を下回るまで、反応器の温度を180〜200℃まで加熱することと、
(iii)形成された樹脂を、好ましくは20〜120℃の温度まで冷却することと、
(iv)場合により樹脂を反応性希釈剤で希釈することと
により調製される。
【0027】
好ましくは、本発明による樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステル樹脂は、阻害剤としてのヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、ベンゾキノン、または2−メチルベンゾキノンの存在下、より好ましくは阻害剤としての2−メチルヒドロキノンの存在下、よりさらに好ましくは阻害剤としてのヒドロキノンおよび2−メチルヒドロキノンの存在下に調製される。
【0028】
一実施形態においては、不飽和ポリエステル樹脂を粉体塗料樹脂として適用することができる。粉体塗料組成物の調製はMisevによる「粉体塗料の化学と技術(Powder Coatings,Chemistry and Technology)」(pp.224〜300;1991,John Wiley)に記載されており、これを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。したがって、本発明はまた、反応性希釈剤と、1,3−プロパンジオール構成単位およびC5〜C10不飽和ジカルボン酸構成単位を含む不飽和ポリエステルとを含む粉体塗料組成物にも関する。本発明による不飽和ポリエステルが粉体塗料組成物として適用される場合、不飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tは、好ましくは少なくとも20℃、より好ましくは少なくとも25℃、よりさらに好ましくは少なくとも30℃、最大で100℃、より好ましくは最大で80℃、よりさらに好ましくは最大60℃である。
【0029】
粉体塗料組成物を調製する一般的な方法は、別々に秤り取った成分をプレミキサーで混合し、得られた予混合物を、例えば混練機中、好ましくは押出機中で加熱することにより押出物を得、得られた押出物が固化するまで冷却し、これを顆粒またはフレークに破砕し、さらに粒度を低下させるために粉砕した後、適切な粒度の粉体塗料組成物を得るために適切な分級を行うものである。したがって、本発明はまた、本発明による粉体塗料組成物を調製するための方法であって、
a.粉体塗料組成物の成分を混合することにより予混合物を得るステップと、
b.得られた予混合物を好ましくは押出機で加熱することにより押出物を得るステップと、
c.得られた押出物を冷却することにより固化した押出物を得るステップと、
d.得られた固化押出物をより小さい粒子に破壊することにより粉体塗料組成物を得るステップと
を含み、好ましくは、こうして調製された粉体粒子を篩で分級し、粒度が90μm未満の篩別された画分を回収するさらなるステップを含む、方法に関する。
【0030】
本発明の粉体塗料組成物は、場合により、例えば、充填剤/顔料、脱泡剤、流動調整剤、(光)安定剤等の通常の添加剤を含んでいてもよい。流動調整剤の例としては、Byk361Nが挙げられる。好適な充填剤/顔料の例としては、金属酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩、または硫酸塩が挙げられる。好適な安定剤の例としては、例えば、ホスホナイト、チオエーテル、HALS(ヒンダードアミン光安定剤)等のUV安定剤が挙げられる。脱泡剤の例としては、ベンゾインおよびシクロヘキサンジメタノールビスベンゾアートが挙げられる。摩擦帯電性を改善する添加剤等の他の添加剤も添加してもよい。
【0031】
他の態様においては、本発明は、基材を塗装する方法であって、以下のステップ:
1)不飽和ポリエステルを含む粉体塗料組成物を、基材が塗料で一部または全部が塗装されるように基材に適用するステップと、
2)得られた一部または全部が塗装された基材を、塗料の少なくとも一部が硬化するような温度および時間で加熱するステップと
を含む方法に関する。
【0032】
本発明の粉体塗料組成物は、当業者に周知の技法、例えば、静電スプレーまたは静電流動床を用いてを用いて適用してもよい。
【0033】
本発明による樹脂組成物の不飽和ポリエステルは、1種またはそれ以上の反応性希釈剤を含む。
【0034】
本発明による樹脂組成物のこの種の反応性希釈剤の量は、通常は5〜75重量%の範囲、好ましくは20〜60重量%の範囲、最も好ましくは30〜50重量%の範囲(樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルおよび反応性希釈剤の総量に対する)にある。希釈剤は、例えば、取扱いをより容易にすることを目的として樹脂組成物の粘度を低減させるために適用されるであろう。明瞭化のため、反応性希釈剤は、不飽和ポリエステル樹脂と共重合可能な希釈剤とする。有利には、エチレン性不飽和化合物を反応性希釈剤として使用してもよい。好ましくは、スチレン、イタコン酸ジメチル、および/またはメタクリル酸エステル含有化合物が反応性希釈剤として使用される。本発明の一実施形態においては、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、(メタ)アクリル酸エステル含有化合物、N−ビニルピロリドン、および/またはN−ビニルカプロラクタムが反応性希釈剤として使用される。この実施形態においては、好ましくはスチレンおよび/または(メタ)アクリル酸エステル含有化合物が反応性希釈剤として使用され、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル含有化合物が反応性希釈剤として使用される。他の実施形態においては、イタコン酸またはイタコン酸のエステルが反応性希釈剤として使用される。より好ましい実施形態においては、反応性希釈剤は、イタコン酸のエステルおよび少なくとも他のエチレン性不飽和化合物、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、N−ビニルピロリドン、および/またはN−ビニルカプロラクタム等を含む。この実施形態においては、樹脂組成物は、好ましくは反応性希釈剤としてのイタコン酸のエステルおよび反応性希釈剤としてのスチレンまたは反応性希釈剤としてのメタクリル酸含有化合物を含む。好ましいイタコン酸のエステルはイタコン酸ジメチルである。
【0035】
さらに樹脂組成物は、好ましくは、樹脂組成物のラジカル硬化開始助剤を0.00001〜10重量%の量(樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルおよび反応性希釈剤の総量に対する)で含む。好ましい開始助剤は、アミンまたは遷移金属化合物である。
【0036】
組成物中に存在してもよいアミン開始助剤は、好ましくは芳香族アミンであり、よりさらに好ましくは第3級芳香族アミンである。好適な促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン;トルイジンおよびキシリジン(N,N−ジイソプロパノール−パラ−トルイジン;N,N−ジメチル−p−トルイジン;N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)キシリジンおよび−トルイジン等)が挙げられる。樹脂組成物中のアミンの量(樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルおよび反応性希釈剤の総量に対する)は、通常は少なくとも0.00001重量%、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%である。一般に、樹脂組成物中のアミンの量は、最大で10重量%、好ましくは最大で5重量%である。
【0037】
開始助剤として好適な遷移金属化合物の例は、原子番号が22〜29の範囲にあるかまたは原子番号が38〜49の範囲にあるかまたは原子番号が57〜79の範囲にある、バナジウム、鉄、マンガン、銅、ニッケル、モリブデン、タングステン、コバルト、クロム化合物等の遷移金属の化合物である。好ましい遷移金属は、V、Cu、Co、Mn、およびFeである。
【0038】
本発明による不飽和ポリエステルを反応性希釈剤で希釈した後にさらなるラジカル阻害剤を添加してもよい。これらのラジカル阻害剤は、好ましくは、フェノール性化合物、ヒドロキノン、カテコール、安定なラジカル、および/またはフェノチアジンの群から選択される。添加することができるラジカル阻害剤の量は多少広範囲で変化させてもよく、達成したいゲル化時間の最初の兆候に応じて選択してもよい。
【0039】
本発明による樹脂組成物中に使用することができるラジカル阻害剤の好適な例は、例えば、2−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリメチル−フェノール、2,4,6−トリス−ジメチルアミノメチルフェノール、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、6,6’−ジ−t−ブチル−2,2”−メチレンジ−p−クレゾール、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジメチルヒドロキノン、2,3,5−トリメチルヒドロキノン、カテコール、4−t−ブチルカテコール、4,6−ジ−t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン、メチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、ナフトキノン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール(TEMPOLとも称される化合物)、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オン(TEMPONとも称される化合物)、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチル−4−カルボキシル−ピペリジン(4−カルボキシ−TEMPOとも称される化合物)、1−オキシル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン、1−オキシル−2,2,5,5−テトラメチル−3−カルボキシルピロリジン(3−カルボキシ−PROXYLとも称される)、ガルビノキシル、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、ジエチルヒドロキシルアミン、フェノチアジン、および/またはこれらの任意の化合物の誘導体もしくは組合せである。
【0040】
有利には、本発明による樹脂組成物中のラジカル阻害剤の量(樹脂組成物中に存在する不飽和ポリエステルおよび反応性希釈剤の総量に対する)は、0,0001〜10重量%の範囲にある。より好ましくは、樹脂組成物中の阻害剤の量は、0,001〜1重量%の範囲にある。当業者は、選択された阻害剤の種類に応じてどの量が本発明に従い良好な結果を得られるかを非常に容易に評価することができる。
【0041】
さらに本発明は、上述したように開始剤を樹脂組成物に添加することによって硬化を実施する、本発明による樹脂組成物をラジカル硬化させる方法に関する。好ましくは、硬化は、−20〜+200℃の範囲、好ましくは−20〜+100℃の範囲、最も好ましくは−10〜+60℃の範囲の温度で実施される(いわゆる低温硬化)。開始剤は、光開始剤、熱開始剤、および/またはレドックス開始剤である。
【0042】
本明細書における光開始剤は、照射により硬化を開始することができるものを意味する。光開始とは、好適な波長の光の照射(光照射)を用いて硬化させることと理解される。これは光硬化とも称される。
【0043】
光開始系は、光開始剤そのもので構成されていてもよいし、あるいは光開始剤および増感剤の組合せであってもよいし、あるいは光開始剤の混合物であってもよく、場合により1種またはそれ以上の増感剤との組合せであってもよい。
【0044】
本発明の文脈に使用することができる光開始系は、当業者に周知の広範囲な光開始系の群から選択することができる。非常に多くの好適な光開始系を、例えば、「UVおよびEB製剤の化学技術(Chemistry and Technology of UV and EB Formulations)」、第3巻、第2版、K.DietlikerおよびJ.V.Crivello(SITA Technology,ロンドン(London);1998)から探すことができる。
【0045】
熱開始剤は、アゾ化合物(例えばアゾイソブチロニトリル(AIBN)等)、C−Cが不安定な化合物(例えば、ベンゾピナコールや過酸化物等)、およびこれらの混合物から選択することができる。熱開始剤は、好ましくは、有機過酸化物または有機過酸化物の2種以上の組合せである。
【0046】
レドックス開始剤は、好ましくは、有機過酸化物と上述の開始助剤の少なくとも1種との組合せである。好適な過酸化物の例は、例えば、ハイドロパーオキサイド、パーオキシカーボネート(式−OC(O)OO−を有するもの)、パーオキシエステル(式−C(O)OO−を有するもの)、ジアシルパーオキサイド(式−C(O)OOC(O)−のもの)、ジアルキルパーオキサイド(式−OO−のもの)等である。
【0047】
さらに本発明は、上述した開始剤を用いて硬化させることによる、上述した不飽和ポリエステル樹脂組成物から調製された硬化物または構造部品にも関する。本明細書において用いられる構造用樹脂組成物とは、構造部品を提供することができるものである。一般に、この種の樹脂組成物は非水系である。これらは水を最大で5重量%含み、これは主として樹脂調製反応中に生じたものである。本明細書における構造部品とは、厚みが少なくとも0.5mmで適切な機械的性質を有するとみなされるものを意味する。本発明による樹脂組成物を適用することができる最終分野は、例えば、自動車部品、船、ケミカルアンカー、屋根材、建設、容器、再ライニング、配管、タンク、床材、風車の羽根である。
【0048】
特に本発明は、本発明による樹脂組成物を好ましくは過酸化物を含む開始剤を用いて硬化させることにより得られる硬化物または構造部品に関する。一実施形態によれば、硬化は好ましくは成形により実施され、より好ましくは、硬化は特にSMCまたはBMC部品を得るための圧縮成形により実施される。成形は、好ましくは少なくとも130℃、より好ましくは少なくとも140℃の温度かつ最大で170℃、より好ましくは最大160℃の温度で実施される。
【0049】
ここで一連の実施例および比較例を用いて本発明を具体的に示す。すべての実施例は特許請求の範囲を支持するものである。しかしながら、本発明は実施例に示す特定の実施形態に限定されない。
【0050】
[標準的な樹脂合成]
パックドカラム、温度測定装置、および不活性ガス導入口を備えた反応器に、ジオール、ジカルボン酸、および/または無水物、任意的な阻害剤、ならびに触媒を装入した。混合物を通常の方法で200℃までゆっくりと加熱した。反応器内の混合物を水分の留出が停止するまで200℃に維持した。パックドカラムを取り外して酸価が50mgKOH/g樹脂未満の値に到達するまで混合物を減圧下に維持した。次いで、不活性ガスを用いて減圧を緩和して、混合物を130℃未満に冷却した。このようにして固体UP樹脂を得た。次いで、固体樹脂を80℃未満の温度で反応性希釈剤に溶解した。
【0051】
[硬化の観測]
標準的なゲル化時間測定装置(gel time equipment)を用いて硬化を観測した。これは、前述したように樹脂を過酸化物で硬化した場合にDIN 16945の方法に準拠して発熱測定を行った場合のゲル化時間(TgelまたはT25→35℃)およびピーク時間(peak time)(TpeakまたはT25→peak)の両方を意味することを意図している。
【0052】
[機械的性質の測定]
機械的性質を測定するために4mmの注型品を調製した。16時間後、注型品を金型から離型し、60℃で24時間、次いで80℃で24時間後硬化させた。
【0053】
硬化物の機械的性質をISO 527−2に準拠して測定した。荷重たわみ温度(HDT)をISO 75−Aに準拠して測定した。
【0054】
溶解した樹脂の粘度をPhysica instrumentを用いて23℃で測定した。
【0055】
バーコル(Barcoll)硬さをDIN EN59に準拠して測定した。
【0056】
[材料]
トウモロコシから得られる生物由来のイタコン酸は、Quingdao Langyataiの市販品を入手した。
【0057】
トウモロコシの発酵過程で得られる生物由来の1,3−プロパンジオールは、デュポン・テート・アンド・ライル(DuPont Tate&LyIe)の市販品を入手した。
【0058】
トウモロコシから得られる生物由来のイソソルビドは、ロケット(Roquette)の市販品を入手した。
【0059】
1,2−プロピレングリコールは、BASFの市販品を入手した。
【0060】
無水マレイン酸は、DSM・ファイン・ケミカルズ(DSM Fine Chemicals)の市販品を入手した。
【0061】
2−メチルヒドロキノンは、アルドリッチ(Aldrich)の市販品を入手した。
【0062】
[実施例1および比較実験A〜C]
表1に列挙した原料を使用して標準的な合成手順を用いて樹脂を調製した。コバルト溶液(NL−49P)を0.5%、次いで過酸化物としてのトリゴノックス(Trigonox)44Bを2%を用いて樹脂を硬化させた。ゲル化時間測定装置を用いて硬化を観測した。
【0063】
【表1】



【0064】
表1から、イタコン酸エステルおよび1,3−プロパンジオールの両方の混合物を用いることにより同等のHDTおよびより低粘度を有する樹脂を得ることが可能であることが明らかである。1,3プロパンジオールを無水マレイン酸と併用すると混合物が固化して適用できなくなる一方で、イタコン酸を1,2−プロピレングリコールと併用するとHDTが低下するという事実を考慮すると、これは非常に驚くべきことである。さらに、実施例1は伸びがより高かった。したがって、本発明による組合せのみが、非常に好適な破断伸度、低粘度、および耐熱性の組合せを有する。
【0065】
[実施例2および3]
表2に列挙した原料を使用して標準的な合成手順を用いて樹脂を調製した。コバルト溶液(NL−49P)を0.5%、次いで過酸化物としてのトリゴノックス44Bを2%を用いて樹脂を硬化させた。ゲル化時間測定装置を用いて硬化を観測した。
【0066】
【表2】



【0067】
これらの実験から、ジオールの混合物等の出発物質の混合物を本発明に従い使用できることが明らかである。
【0068】
[実施例4および5]
実施例1の合成手順に従い調製した樹脂をスチレンおよびイタコン酸ジメチルの混合物(比率25/10)ならびにブタンジオールジメタクリレートでそれぞれ固形分65%に希釈した。コバルト溶液(NL−49P)0.5%、次いで過酸化物としてのトリゴノックス44Bを2%を用いて硬化させることにより以下の結果を得た:
Sty/DMI混合物:ゲル化時間75分、ピーク時間94分、ピーク温度113℃
BDDMA:ゲル化時間132分、ピーク時間159分、ピーク温度60℃。
【0069】
これらの実施例は、様々な反応性希釈剤を使用できることを示している。さらに、メタクリル酸エステルで希釈してもスチレンを含まない本発明による樹脂組成物が得ることができることが示される。
【0070】
[実施例6]
イタコン酸429.3g、1,2−プロピレングリコール117.4g、1,3−プロパンジオール117.4g、およびイソソルビド79.6gを使用して標準的な合成手順を用いて樹脂を調製した。スチレンで固形分65%に希釈した後、コバルト溶液(NL−49P)を0.5%、次いで過酸化物としてのトリゴノックス44Bを2%を用いて樹脂を硬化させた。希釈された樹脂の23℃における粘度は1700mPa.sであった。硬化をゲル化時間測定装置で観測した結果、ゲル化時間は32分、ピーク時間は40分、発熱ピークは153℃であった。硬化物のHDTは105℃であった。
【0071】
この実施例から、1,3−プロパンジオールおよびイタコン酸と組み合わせて他のジオールも使用できることが明らかである。
【0072】
[実施例7]
イタコン酸429.3g、1,3−プロパンジオール234.8g、およびイソソルビド79.6gを使用して標準的な合成手順を用いて樹脂を調製した。スチレンで固形分65%に希釈した後、コバルト溶液(NL−49P)を0.5%、次いで過酸化物としてのトリゴノックス44Bを2%を用いて樹脂を硬化させた。希釈された樹脂の23℃における粘度は1250mPa.sであった。硬化をゲル化時間測定装置で観測した。得られた硬化特性は、ゲル化時間292分、ピーク時間305分、発熱ピーク135℃であった。硬化物のHDTは109℃であった。
【0073】
実施例6および7から、1,3−プロパンジオールおよびイタコン酸に他のジオールも併用できることが明らかである。さらにこれらの実施例は、他の非化石系ジオールであるイソソルビドをイタコン酸および1,3−プロパンジオールと組み合わせて適用できることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂および反応性希釈剤を含む樹脂組成物であって、前記不飽和ポリエステルが、1,3−プロパンジオール構成単位およびC5〜C10不飽和ジカルボン酸構成単位を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記C5不飽和ジカルボン酸構成単位にイタコン酸または無水物が使用される、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記イタコン酸もしくは無水物の少なくとも一部が非化石資源に由来し、かつ/または前記1,3−プロパンジオールの少なくとも一部が非化石資源に由来する、請求項1〜2のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
1,3−プロパンジオールのモル量が、ジオールの総量に対し少なくとも10%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記不飽和ポリエステルの前記不飽和ジカルボン酸構成単位の少なくとも25重量%がイタコン酸構成単位である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記不飽和ポリエステルが、1,3−プロパンジオールと、C5〜C10不飽和ジカルボン酸および/もしくは無水物と、場合により、他のジオールおよび/もしくはポリオール、他の不飽和ジカルボン酸および/もしくは無水物、飽和脂肪族ジカルボン酸および/もしくは無水物、ならびに/または芳香族飽和ジカルボン酸および/もしくは無水物から選択される他の構成単位との重縮合により製造される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記不飽和ポリエステルが、1,3−プロパンジオールと、C5〜C10不飽和ジカルボン酸および/または無水物と、場合により、他のジオールおよび/または他の酸もしくは無水物から選択される他の構成単位との重縮合により製造される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記不飽和ポリエステルが、1,3−プロパンジオールと、1,2−プロピレングリコールと、C5〜C10不飽和ジカルボン酸および/または無水物と、場合により、他のジオールおよび/または他の酸もしくは無水物から選択される他の構成単位との重縮合により製造される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記組成物が、反応性希釈剤としてのスチレン、イタコン酸ジメチル、および/またはメタクリル酸エステル含有化合物を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を開始剤を用いて硬化させることにより得られる硬化物または構造部品。
【請求項11】
前記開始剤が、過酸化物を含む、請求項10に記載の硬化物または構造部品。
【請求項12】
前記硬化が、圧縮成形により実施される、請求項10または11に記載の硬化物または構造部品。
【請求項13】
自動車部品、船、ケミカルアンカー、屋根材、建設、容器、再ライニング、配管、タンク、床材、風車の羽根における、請求項10〜12のいずれか一項に記載の硬化物または構造部品の使用。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む粉体塗料組成物。

【公表番号】特表2012−521466(P2012−521466A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501297(P2012−501297)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053847
【国際公開番号】WO2010/108962
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】