説明

不飽和ポリエステル樹脂

【課題】
本発明の目的は、耐水性、低収縮性、機械的物性において優れた性能を有し、且つ環境へ及ぼす負荷の小さいポリエステル樹脂を様々な分野へ提供することにある。
【解決手段】
本発明の化合物は、下記化学式[化1]、
【化1】


で示される化合物であることを特徴とする(但し、式中Xは脂肪族または芳香族であり、Yは精製ロジン残基、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)。また、本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、前記本発明の化合物が、アルコール成分の必須成分であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール化合物、及び該化合物を利用した不飽和ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂は、ガラス繊維、炭素繊維、有機繊維等により強化された繊維強化成形品のバインダー樹脂として運輸、電気、建築、土木、住宅設備等、広範な用途に使用されている。しかしながら、未だに成形時の反りや耐水性といった課題が残っている。一方で熱硬化性樹脂であるが故にリサイクルが難しく、使用後の成形品あるいは成形時に発生する端材の処理が問題となってきた。最近、廃棄成形品をモノマーまで分解して再生利用する技術が開発されたが、いまだに埋め立て処理または焼却処理が一般的である。そのため、微生物による分解あるいは焼却時に発生する二酸化炭素が温室効果ガスとして地球温暖化を促進するという問題点がある。近年、再生可能なバイオマス資源より得られる原料を用いたプラスチックの開発が盛んになってきている。これらバイオマス資源より生産されるプラスチックの意義の一つは、これらのプラスチックを埋め立て処理時あるいは焼却処理時に発生する二酸化炭素をまた植物が吸収してバイオマスを再生産することにより、実質的に環境中の二酸化炭素量に影響を及ぼさない、いわゆるカーボンニュートラルの実現にある。
【0003】
不飽和ポリエステルとして、例えば、ロジン−無水マレイン酸付加物を飽和酸として用いた不飽和ポリエステルが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】滝山栄一郎著 プラスチック材料講座10 ポリエステル樹脂、25頁日刊工業新聞社(昭和45年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来では、不飽和ポリエステル樹脂において、バイオマス資源より誘導される原料として油脂より誘導される脂肪族ジカルボン酸類、脂肪族モノカルボン酸類が使用される例はあるが用途に応じた性能付与が主たる目的であり、積極的に環境負荷低減のためにバイオマス資源より誘導される原料を使用する提案は見当たらない。
【0006】
したがって、石油由来の原料を用いた不飽和ポリエステル樹脂に比べて同等以上の性能を有し、環境へ及ぼす負荷の小さいバイオマス由来原料を用いた不飽和ポリエステル樹脂の開発が望まれている。
【0007】
かかる状況下、ロジン系化合物を不飽和ポリエステル樹脂原料に使用することで耐水性や耐湿性が向上することは公知の事実として知られているが、ロジン系化合物が1官能原料であることから分子鎖の大きい物性に優れる樹脂が得られない点、分子鎖の大きいものを得ようとすると分子鎖末端にしか反応させることできず、そのコンテントが少なくなってしまい性能発揮に至らないといった課題がある。
【0008】
本発明の目的は、耐水性、低収縮性、機械的物性において優れた性能を有し、且つ環境へ及ぼす負荷の小さいポリエステル樹脂を様々な分野へ提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討の結果、新規な化合物及び不飽和ポリエステル樹脂を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の化合物は、下記化学式[化1]、
【化1】

で示される化合物(但し、式中Xは脂肪族または芳香族であり、Yは精製ロジン残基、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の化合物の好ましい実施態様において、前記化合物が、1分子中に2個のエポキシ基を有する下記化合物[化2]、
【化2】

で示される化合物(但し、式中Xは、脂肪族または芳香族であり、n=0〜1である。)のエポキシ基に、精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上を付加反応させて得られることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、前記本発明の化合物が、アルコール成分の必須成分であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の不飽和ポリエステル樹脂の好ましい実施態様において、前記本発明の化合物が、不飽和ポリエステル原料として20重量%以上配合されたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明のコンパウンドは、前記不飽和ポリエステル樹脂を配合されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のコンパウンドの好ましい実施態様において、前記コンパウンドが、シートモールディングコンパウンド、又はバルクモールディングコンパウンドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、石油由来の原料を用いた不飽和ポリエステル樹脂と比較しても、耐水性、低収縮性、機械的物性において優れた性能を有するという有利な効果を奏する。
【0017】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、従来の不飽和ポリエステル樹脂に比べ、吸水率が低く、樹脂強度があり、硬化時の収縮が小さいため、この樹脂を使用した繊維強化成形品(以下FRP)は、耐水性に優れた寸法精度のあるものとなるという有利な効果を奏する。また、バイオマス由来原料を使用していることから環境負荷の小さい成形品を得ることができるという有利な効果を奏する。
【0018】
また、本発明の不飽和ポリエステル樹脂を配合したシートモールディングコンパウンド及びバルクモールディングコンパウンドは、上記と同様に耐水性、寸法精度に優れた成形品を得ることができるという有利な効果を奏する。すなわち、FRPの適用範囲を広げるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】合成例1で得られた不飽和ポリエステル樹脂のIR(赤外線吸収スペクトル)チャートを示す。
【図2】合成例1で得られた不飽和ポリエステル樹脂の1H−NMR(核磁気共鳴)スペクトルを示す。
【図3】合成例1で得られたアルコール化合物の赤外線吸収スペクトルを示す。
【図4】合成例1で得られたアルコール化合物の1H−NMR(核磁気共鳴)スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0021】
本発明の化合物は、下記化学式[化3]、
【化3】

で示される化合物(但し、式中Xは脂肪族または芳香族であり、Yは精製ロジン残基、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)である。
【0022】
また、本発明の化合物の好ましい実施態様において、前記[化3]に示す化合物が、1分子中に2個のエポキシ基を有する下記化合物[化4]、
【化4】

で示される化合物(但し、式中Xは、脂肪族または芳香族であり、n=0〜1である。)のエポキシ基に、精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上を付加反応させることによって得られる。
【0023】
ここで、本明細書中において、ロジンとは、松類から得られる天然樹脂であり、その主成分は、アビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸、ジヒドロアビエチン酸等の樹脂酸及びこれらの混合物のことを意味する。ロジンは、パルプを製造する工程で副産物として得られるトール油から得られるトールロジン、生松ヤニから得られるガムロジン、松の切株から得られるウッドロジン等に大別され、本発明に用いられるロジンは、精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上である。
【0024】
さらに、本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、前記本発明の化合物が、アルコール成分の必須成分である。
【0025】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、2段反応からなり、1段目の反応で下記化合物(a)を得てから、2段目に従来と同様の方法で不飽和ポリエステルを製造するものである。
【0026】
まず、本発明の不飽和ポリエステル樹脂の必須アルコール原料となる下記化学式(2)で示した化合物(a)([化6])について説明する。化合物(a)は、例えば、化学式(1)([化5])で示される1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物のエポキシ基に精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上を公知の触媒の存在下、窒素下、温度130〜185℃で酸価が5mgKOH/g未満まで付加反応させて得ることができる。
【0027】
化学式(1)([化5])
【化5】

(式中Xは、脂肪族または芳香族であり、n=0〜1である。)
【0028】
化学式(2)化合物(a)([化6])
【化6】

(式中Xは、脂肪族または芳香族であり、Yは、精製ロジン残基、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)
【0029】
反応温度について特に限定されるものではないが、1段目の反応温度が185℃以上になるとエポキシ化合物分子内に存在する水酸基または、ロジンが反応して生成した水酸基と未反応のロジンが脱水反応を起こし、ポリエステル原料となるアルコールが得られない虞があるという観点から、好ましくは、1段目の反応温度は185℃未満である。
【0030】
また、反応時間を短くする観点から、好ましくは、130℃以上で反応させることができる。1段目の反応終点は、酸価で規定しているが、酸価が5mgKOH/g以上で2段目の反応に移行すると未反応のロジンが分子鎖形成を妨げる反応を起こし、目的とする分子量の不飽和ポリエステルが得られない虞がある。また化学式(1)で示される1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物の繰り返し数nが1より大きいと生成した化合物が多官能アルコールとなり、不飽和ポリエステルが分岐し粘度が高くなったり、ゲル化を起こし、目的とする不飽和ポリエステルが得られない虞がある。1段目で生成した化合物(a)の添加量については特に限定されない。耐水性や物性面においてその効果が低く、且つ環境負荷低減効果も低くなるという観点から、1段目で生成した化合物(a)は、目的とする不飽和ポリエステル原料中の重量で20%以上含まれるのが好ましい。
【0031】
化学式(1)([化5])で示される1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物は、特に限定はされないが、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有するフェノール類、1分子中に2個の水酸基を有するアルコール類を、単独又は2種以上を組み合わせて、公知の方法によりエピクロルヒドリンにてエポキシ化することにより製造することができる。また、市販のエポキシ化合物を使用することもできる。市販のエポキシ化合物としては、三菱化学社製の「JER828」、旭化成ケミカルズ社製の「AER260」、DIC社製「エピクロン840、850」、東都化成社製の「エポトート128」、ダウケミカル社製の「D.E.R.317」、「D.E.R.331」、住友化学工業社製の「スミエポキシESA−011」等のビスフェノールA型エポキシ化合物、DIC社製の「エピクロン830S」、三菱化学社製の「エピコート807」、東都化成社製の「エポトートYDF−170」、旭化成ケミカルズ社製の「アラルダイトXPY306」等のビスフェノールF型エポキシ化合物、日本化薬製の「EBPS−200」、旭電化工業社製の「EPX−30」、DIC社製の「エピクロンEXA1514」等のビスフェノールS型エポキシ化合物、大阪ガスケミカル社製の「BPFG」等のビスフェノールフルオレン型エポキシ化合物、三菱化学社製の「YL−6056」、「YX−4000」等のビキシレノール型、或いはビフェニル型エポキシ化合物、又はそれらの混合物、新日本理化社製の「HBE−100」、東都化成社製の「エポトートST−2004」等の水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、DIC社製の「エピクロン152」、阪本薬品工業社製の「SR−BSP」、東都化成社製の「エポトートYDB−400」、ダウケミカル社製の「D.E.R542」、旭化成ケミカルズ社製の「AER8018」、住友化学工業社製の「スミエポキシESB−400」等の臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、新日鉄化学社製の商品名「ESN−190」、DIC社製の商品名「HP−4032」等のナフタレン骨格を有するエポキシ化合物、共栄社化学社製の商品名「エポライト400E」、「エポライト400P」、「エポライト1600」、坂本薬品工業社製の「SR−NPG」、「SR−16HL」等の脂肪族エポキシ化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
次に2段目の反応で使用する不飽和ポリエステル原料であるカルボン酸とアルコール類は、従来の石油から熱化学的に製造されたもの、動植物原料から生化学的に製造された、または動植物原料から生化学的に製造された化合物を熱化学的処理して製造されたものを使用できるが、環境負荷、カーボンニュートラルの点から、動植物原料から生化学的に製造された、または動植物原料から生化学的に製造された化合物を熱化学的処理して製造されたものを使用するのが好ましい。順に不飽和酸、飽和酸、アルコールについて説明する。
【0033】
不飽和酸としては、従来の石油から熱化学的に製造された無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸が挙げられるが、環境負荷、カーボンニュートラルの点から、バイオマスのコハク酸由来の無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸が好ましい。
【0034】
飽和酸としては、従来の石油から熱化学的に製造された酸類として、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、5−tert−ブチル−1,3−ベンゼンジカルボン酸及びこれらの酸無水物、低級アルキルエステル等のような誘導体等が挙げられる。テレフタル酸及びイソフタル酸は、それらの低級アルキルエステルを用いても良く、テレフタル酸及びイソフタル酸の低級アルキルエステルの例としては、例えば、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル等があるが、コスト及び取り扱い(ハンドリング)の点で、テレフタル酸ジメチルやイソフタル酸ジメチルが好ましい。動植物原料から生化学的に製造された、または動植物原料から生化学的に製造された化合物を熱化学的処理して製造されたカルボン酸としては、ダイマー酸、コハク酸、イタコン酸、2,5−フランジカルボン酸などが挙げられる。これらの不飽和酸、飽和酸又はその低級アルキルエステルは、単独で用いられても、2種以上が併用されても良い。
【0035】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、3価以上の芳香族ポリカルボン酸も更に用いることができる。3価以上の芳香族ポリカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸やその無水物等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。3価以上の芳香族ポリカルボン酸としては、反応性の観点から、無水トリメリット酸が好ましい。
【0036】
アルコール類は、従来の石油から熱化学的に製造されたものとして、脂肪族アルコール及びエーテル化ジフェノールが挙げられる。脂肪族アルコールの例としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル−3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロパノエート、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。脂肪族アルコールとしては、酸との反応性及び樹脂のガラス転移温度の観点から、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましい。動植物原料から生化学的に製造された、または動植物原料から生化学的に製造された化合物を熱化学的処理して製造されたアルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、グリセリン、2,5−ジヒドロキシメチルフランが挙げられる。これら脂肪族アルコールは単独で用いても、二種以上を併用しても良い。また、本発明において、脂肪族アルコールとともに、エーテル化ジフェノールを更に用いても良い。エーテル化ジフェノールとは、ビスフェノールAとアルキレンンオキサイドを付加反応させて得られるジオールであり、該アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドであり、該アルキレンオキサイドの平均付加モル数がビスフェノールAの1モルに対して2〜16モルであるものが好ましい。環境負荷、カーボンニュートラルの点から、動植物原料から生化学的に製造されたエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールの使用が好ましい。
【0037】
ポリエステル原料のその他の成分として、本発明の目的を損なわない範囲で、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等の脂環族ポリカルボン酸、ヘット酸、テトラブロム無水フタル酸等の含ハロゲンジカルボン酸、乳酸、3−ヒドロキシブタン酸、3−ヒドロキシ−4−エトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸等を用いることもできる。
【0038】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、前記化合物(a)([化1])と所定のカルボン酸成分、アルコール成分を原料として、公知慣用の製造方法によって調製される。その反応方法としては、エステル交換反応又は直接エステル化反応の何れも適用可能である。また、加圧して反応温度を高くする方法、減圧法又は常圧下で不活性ガスを流す方法によって重縮合を促進することもできる。2段目の反応は、無触媒でも良いし、アンチモン、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム及びマンガンより選ばれる少なくとも1種の金属化合物等、公知慣用の反応触媒を用いて、反応を促進しても良い。これら反応触媒の添加量は、カルボン酸成分とアルコール成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0039】
不飽和ポリエステル樹脂は、所定量の不飽和ポリエステルと重合性単量体とを混合して相互に溶解させ、または相互に混合することにより調製することができる。
【0040】
本発明において用いられる重合性単量体として、例えば、従来から使用されているスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、マレイン酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、フタル酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリオイルオキシエチル、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が例示できる。これらは、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0041】
本発明においては、例えば、不飽和ポリエステル100重量部を重合性単量体20〜120重量部に溶解することができる。好ましくは、不飽和ポリエステル100重量部を重合性単量体40〜100重量部に溶解する。不飽和ポリエステル100重量部に対する重合性単量体の量が40部未満の場合、極めて高い粘度になり成形性に劣る虞がある。不飽和ポリエステル100重量部に対する重合性単量体の量が100部を超えると、得られる硬化成形物の性能が劣る虞がある。不飽和ポリエステルを重合性単量体に溶解あるいは混合する際、ゲル化させることなく安定に調製するために、および調製された不飽和ポリエステル樹脂の成形時の可使時間確保のために、更には調製された不飽和ポリエステル樹脂の貯蔵安定性のために通常重合禁止剤を添加することができる。重合禁止剤は、例えば、ハイドロキノン、パラベンゾキノン、メチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン等の多価フェノール系重合禁止剤が挙げられる。これらの重合禁止剤は、本発明の不飽和ポリエステル樹脂中、通常0.001〜0.5重量%、好ましくは0.005〜0.15重量%が用いられる。
【0042】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂において、不飽和ポリエステル樹脂に通常使用されているラジカル硬化剤と必要に応じて硬化促進剤を添加することにより、常温下あるいは加熱下に硬化させることができる。また、光ラジカル開始剤を添加し、可視光線、紫外線、電子線を照射することにより硬化させることができる。
【0043】
ラジカル硬化剤として、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド系、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド系、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどのパーオキシエステル系、クメンハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド系、ジクミルパーオキサイドなどジアルキルパーオキサイド系等、従来より知られているものが使用できる。硬化剤の添加量は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.05〜5重量部である。
【0044】
硬化促進剤としては、例えばナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸バナジウム、ナフテン酸銅、ナフテン酸バリウム等金属石鹸類、バナジウムアセチルアセテート、コバルトアセチルアセテート、鉄アセチルアセトネート等の金属キレート類、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2-ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、4−[N,N−ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ベンズアルデヒド、4−(N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノ)ベンズアルデヒド、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N−エチル−m−トルイジン、トリエタノールアミン、m−トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェニリモルホリン、ピペリジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、ジエタノールアニリン等のN,N−置換アニリン、N,N−置換−p−トルイジン,4−(N,N−置換アミノ)ベンズアルデヒド等のアミン類等、従来より知られているものが使用できる。硬化促進剤の添加量は、0.05〜5重量部である。
【0045】
光ラジカル開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、メチルオルソベンゾイルベンゾエートなどのベンゾフェノン系、ベンゾインアルキルエーテルのようなベンゾインエーテル系、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン系、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系等、従来より知られているものが使用できる。光ラジカル開始剤の添加量は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部である。
【0046】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂に、繊維補強材及び又は充填材を加えて不飽和ポリエステル樹脂組成物とすることができる。使用される繊維補強材として、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維等、従来より知られているものが使用できる。特に好ましいのはガラス繊維である。平織り、朱子織り、不織布、マット、ロービング、チョップ等、種々の形態のものが使用できる。不飽和ポリエステル樹脂組成物に占める繊維補強材の割合は、10〜50重量%が好ましい。充填材として、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、ガラス粉末、ガラスバブル、金属粉、珪砂、砂利、砕石等、従来より知られているものが使用できる。不飽和ポリエステル樹脂組成物に占める充填材の割合は、1〜90重量%が好ましい。
【0047】
また、本発明のコンパウンドは、前記不飽和ポリエステル樹脂(A)を配合されている。コンパウンドとしては、シートモールディングコンパウンド、又はバルクモールディングコンパウンドを挙げることができる。すなわち、本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、従来のシートモールディングコンパウンド(以下SMC)及びバルクモールディングコンパウンド(以下BMC)にも適用可能である。すなわち、不飽和ポリエステル樹脂に充填剤、繊維補強剤、内部離型剤、低収縮剤、減粘剤、増粘剤を配合してなるシート状またはバルク状の成形材料である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお、以下においては、部数は全て重量部を、原料にバイオマス由来と記載のないものについては石油燃料由来の原料を表す。
【0049】
(合成例1) 新規不飽和ポリエステル樹脂
化合物(a)のエポキシ樹脂としてビスフェノールA型樹脂1046gと不均化ロジン(酸価156mgKOH/g、バイオマス由来)1990g及び反応触媒としてトリフェニルホスフィン1.5gを撹拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら180℃で5時間反応させ、酸価が5mgKOH/g未満に達したことを確認し化合物(a)を得た。反応式については以下の通りである。すなわち、下記[化7]に示すように、まずビスフェノールA型エポキシ樹脂と不均化ロジンを反応させ、化合物(a)を合成した。
【0050】
【化7】

【0051】
次いでエチレングリコール(バイオマス由来)307g、1,2−プロパンジオール549g、無水マレイン酸1356gを仕込み、反応温度210℃で14時間重縮合反応させ、所定の酸価に達したこところで反応を終了し、スチレンモノマー2692gを加え、不揮発分65%の不飽和ポリエステル樹脂(A−1)(合成配合については、表1を参照。)を得た。反応式については、以下の通りである。すなわち、下記[化8]に示すように、化合物(a)を不飽和ポリエステル原料のアルコール成分として、従来どおりの反応を行った。
【0052】
【化8】

【0053】
(合成例2及び3)
表1は、合成配合を示す。表の数値は、重量部を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示す配合割合とすることを除き、合成例1と同様にして、不飽和ポリエステル樹脂(A−2)、(A−3:参照例)を合成した。
【0056】
(合成例4)比較用ポリエステル樹脂合成例
不飽和ポリエステル樹脂のアルコール成分として、エチレングリコール683g、1,2−プロパンジオール1425g、酸成分としてテレフタル酸2286g及び反応触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート4.7gを撹拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら220℃で14時間重縮合反応させた。ついで無水マレイン酸1349gを加え、所定の酸価に達したところで反応を終了し、スチレンモノマー2692gを加え、不揮発分65%の不飽和ポリエステル樹脂ポリエステル樹脂(B−1)を得た。
【0057】
(合成例5)比較用ポリエステル樹脂合成例
表1に示す配合割合とすることを除き、合成例4と同様にして、不飽和ポリエステル樹脂(B−2)を合成した。
【0058】
表1には、合成配合に加え、化合物(a)の原料中の割合、終点酸価、バイオマス由来原料含有量を示した。バイオマス含有量は、以下の式よりを算出した。
【0059】
バイオマス由来原料含有量=
(バイオマス成分仕込量)×100/(総仕込量−理論脱水量)
【0060】
ただし、バイオマス成分仕込量は以下のように算出する。すなわち、バイオマス成分が酸の場合はその分子量よりOH相当分の分子量である17.01を、バイオマス成分がアルコールの場合はその分子量よりH相当分の分子量である1.01をそれぞれ引いた値にモル数を掛けて算出した。
【0061】
実施例1 注型板による物性評価
合成した各不飽和ポリエステル樹脂に硬化促進剤として市販の6%ナフテン酸コバルト0.5%を所定の樹脂に添加混合し、硬化剤として55%メチルエチルケトンパーオキサイドをその樹脂に1%添加混合し硬化させた。注型板の作製はJIS K 6919、5.2.3項に準拠した。硬化条件は、室温で24時間硬化後、80℃×2時間+120℃×2時間の後硬化を行って試験に供した。注型板の引張り強さ及びその弾性率は、JIS K 7113に、曲げ強さおよび曲げ弾性率はJIS K 7203に、バーコル硬度はJIS K 6919に、アイゾット衝撃はJIS K 7110に、熱変形温度及び吸水率はJIS K 6911に、体積収縮率はJIS K 6919にそれぞれ従い測定し、その結果を表2に示した。表2は、注型板物性結果を示す。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例2 積層板による物性評価
合成した各不飽和ポリエステル樹脂に硬化促進剤として市販の6%ナフテン酸コバルト0.5%を添加混合し、次いで硬化剤として市販の55%メチルエチルケトンパーオキサイドを1%添加混合する。次に予め用意しておいた450g/mのチョップドストランドマット3プライに上記樹脂を含浸、積層して3mm厚の積層板を作製した。硬化条件は、室温で24時間硬化後、80℃×2時間+120℃×2時間の後硬化を行って試験に供した。積層板の引張り強さおよびその弾性率はJIS K 7113に、曲げ強さおよびその弾性率はJIS K 7171に、アイゾット衝撃強さはJIS K 7110にそれぞれ従い測定し、その結果を表3に示した。表3は、積層板物性結果を示す。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例3 SMCによる物性評価
合成した各不飽和ポリエステル樹脂(A−2、比較用B-2)800部に低収縮剤として30%ポリスチレン溶液を200部、減粘剤としてビックケミー社製BYK972を2部、離型剤としてステアリン酸亜鉛50部、充填剤として炭酸カルシウムを1800部、ガラス繊維としてチョップドガラス780部、重合開始剤として日油製パーヘキシルHIを20部、増粘剤として酸化マグネシウムを20部配合したSMCを作製した。作製したSMCを金型にて、成形温度145℃、時間6分でプレス成形し、SMC成形品を得た。SMCの各物性は、実施例1、2と同様の方法で測定し、成形収縮率は型寸法と得られた成形品の寸法の差から算出した。また、煮沸試験として、SMC面を90℃の熱水に漬け800時間後の表面状態を目視により確認した。その結果を表4に示した。表4は、SMC物性結果を示す。
【0066】
【表4】

【0067】
実施例4 BMCによる物性評価
合成した各不飽和ポリエステル樹脂(A−2、比較用B-2)1000部に低収縮剤としてポリスチレンペレットを5部、離型剤としてステアリン酸亜鉛40部、充填剤として水酸化アルミニウムを2800部、ガラス繊維としてチョップドガラス100部、重合開始剤として日油製パーヘキサ3Mを10部、増粘剤として酸化マグネシウムを8部配合したBMCをニーダーにて作製した。作製したBMCを金型にて、成形温度135℃、時間8分でプレス成形し、厚さ5mmのBMC成形品を得た。BMCの各物性は、実施例1、2と同様の方法で測定し、成形収縮率は型寸法と得られた成形品の寸法の差から算出した。
【0068】
実施例5 二酸化炭素排出量比較
環境への負荷の指標として、不飽和ポリエステル樹脂1kgを燃焼廃棄した際の発生する二酸化炭素量を算出した。ただし、バイオマス原料由来の二酸化炭素は、カーボンニュートラルの概念により排出量から除いた。表5は、BMC物性結果を示す。また、表6は、算出結果、すなわち、不飽和ポリエステル樹脂1kg燃焼廃棄時の二酸化炭素排出量を示す。表6において、バイオマス原料由来の二酸化炭素は、カーポンニュートラルの概念により排出量から除いている。
【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂及びそれを用いたFRP成形品は、表2〜5より、従来の不飽和ポリエステル樹脂及びそれを用いたFRP成形品と比較して機械的物性面で劣ることなく、吸水率が低く、硬化収縮が小さいことが判る。また、本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、カーボンニュートラルの概念を適用すると、表6より燃焼時の二酸化炭素排出量が従来の石油系原料使用不飽和ポリエステル樹脂より少なく、環境負荷が小さい材料であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の化合物を用いた樹脂は、繊維強化品のバインダー樹脂として、石油由来の原料を用いた不飽和ポリエステル樹脂に比べて、耐水性、低収縮性、機械的物性において優れた性能を有し、且つ環境へ及ぼす負荷の小さい、バイオマス資源より誘導される原料を多く含有した不飽和ポリエステル樹脂を様々な分野へ提供することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式[化1] 、
【化1】

で示される化合物(但し、式中Xは脂肪族または芳香族であり、Yは精製ロジン残基、不均化ロジン残基、又は水添ロジン残基であり、n=0〜1である。)。
【請求項2】
1分子中に2個のエポキシ基を有する下記化合物[化2]、
【化2】

で示される化合物(但し、式中Xは、脂肪族または芳香族であり、n=0〜1である。)のエポキシ基に、精製ロジン、不均化ロジン、水添ロジンから選ばれる1種以上を付加反応させて得られることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は2項に記載の化合物がアルコール成分の必須成分である不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1又は2項に記載の化合物が、不飽和ポリエステル原料として20重量%以上配合された請求項3記載の不飽和ポリエステル樹脂。
【請求項5】
請求項3又は4項に記載の前記不飽和ポリエステル樹脂を配合したコンパウンド。
【請求項6】
前記コンパウンドが、シートモールディングコンパウンド、又はバルクモールディングコンパウンドである請求項5記載のコンパウンド。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−246647(P2011−246647A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123163(P2010−123163)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【特許番号】特許第4699558号(P4699558)
【特許公報発行日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000230364)日本ユピカ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】