説明

不飽和基含有共重合体及びその製造方法

【課題】エステル結合を介さない長鎖アルキル基を側鎖に有する不飽和基含有共重合体を提供する。
【解決手段】モノマーユニットとして、式(1)及び式(2)で示される共重合体。


−(CHCH((CH−CH))−(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和基含有共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造中に不飽和基を有する化合物はラジカルの存在下において重合反応を受け硬化するという性質を有し、工業的に広く利用されている。
【0003】
特に近年ではその用途は多岐に渡り、例えばコーティング材料、UV硬化塗料、熱硬化塗料、成形材料、接着剤、インキ、レジスト、光学材料、光造形材料、印刷版材料、歯科材料、ポリマー電池材料などに使用されている。
【0004】
また、基質に不飽和基を導入する方法としては種々の方法があり、工業的には例えば、ポリオールの直接エステル化、エステル交換法、脱離反応、グリシジル基に対して不飽和カルボン酸を反応させる方法、カルボキシル基に対して不飽和基含有エポキシ化合物を反応させる方法、イソシアネートに不飽和基含有アルコールを反応させる方法、アルコールに不飽和基含有イソシアネート化合物を反応させる方法などが知られている。
【0005】
この中でも、アルコールに不飽和基含有イソシアネートを反応させる方法は基質として使用できるアルコールが多種多様であることや反応が容易であるなど、汎用性・実用性が高いことに加え、得られるウレタン化合物は強度、靭性、表面硬度などの機械特性に優れる上、硬化収縮が低いなど、工業的に非常に有用な材料の製造に寄与している。
【0006】
例えば、特開2007−055993(特許文献1)には、種々のポリオールに対して不飽和基含有イソシアネート化合物を反応させることにより、耐熱性や透過率に優れた化合物が得られることが報告されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1の不飽和基含有イソシアネート化合物は、エステル結合を介して不飽和基を有する骨格を有することから、これを原料にして得られるウレタン化合物は汎用の(メタ)アクリレート化合物と同様に、加水分解による劣化が起こりやすく、耐水性の改良が求められている。
【0008】
加水分解を抑制するためには、(1)エステル結合と不飽和基との共存骨格の代わりに、例えばアリルエーテル骨格を導入する、(2)添加剤の使用による耐水性付与、(3)不飽和基とフッ化アルキル基の共存骨格の導入、(4)長鎖アルキル基の導入といった対処方法が一般的に考えられる。しかし、(1)の方法については、アリルエーテルの硬化性が乏しく硬化膜を形成する上では大きく制限を受けることになる。(2)の方法では、硬化物の耐水性以外の項目に対してその性能を著しく損なう恐れがある。(3)の方法では不飽和基含有フッ素化合物は強度や靭性などの性能に乏しく、やはりウレタンアクリレートの性能を著しく損なう恐れがある。(4)の方法の場合、長鎖アルキル基導入によって耐水性を発現することが可能であるが、それらを導入するためにアルキル(メタ)アクリレートによるエステル化などの化学結合手段を用いると、エステル結合の数が増加するため、十分な耐水性は得られない。
【0009】
【特許文献1】特開2007−055993公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、エステル結合を介せずに長鎖アルキル基が側鎖に導入された不飽和基含有共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、アリルアルコールと1−デセンを必須成分とする共重合体に不飽和基を含有するイソシアネート化合物を反応させることで、エステル結合を介せずに長鎖アルキル基が側鎖に導入された不飽和基含有共重合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[11]に関する。
[1] モノマーユニットとして、式(1)
【化1】

(式中、R2は水素原子またはメチル基を表わし、mは1または2であり、R1は、m=1のとき、(1) 炭素数1〜6の、直鎖あるいは分枝のアルキレン基、またはオキシアルキレン基、または(2) 炭素数6〜12のフェニレン基を表わし、m=2のとき、(3) 炭素数1〜6の3価の炭化水素残基を表わす。)
及び式(2)
【化2】

で示される構造を含む不飽和基含有共重合体。
[2] 式(1)
【化3】

(式中の記号は前記[1]の記載と同じ意味を表わす。)
及び式(2)
【化4】

で示される構造のみをモノマーユニットとする前記[1]に記載の不飽和基含有共重合体。
[3] 式(1)
【化5】

(式中の記号は前記[1]の記載と同じ意味を表わす。)
及び式(2)
【化6】

で示される構造と、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸エステルの炭素−炭素二重結合が単結合に置き換わって2価となった構造をモノマーユニットとする前記[1]に記載の不飽和基含有共重合体。
[4] 式(1)で示されるモノマーユニットを3〜50mol%含有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の共重合体。
[5] 式(1)で示されるモノマーユニットが、下記式(3)〜(6)
【化7】

(式中、R2は前記[1]の記載と同じ意味を表わす。)
【化8】

(式中、R2は前記[1]の記載と同じ意味を表わす。)
【化9】

(式中、R2は前記[1]の記載と同じ意味を表わす。)
または
【化10】

(式中、R2は前記[1]の記載と同じ意味を表わし、R3は水素原子またはメチル基を表わす。)
で示されるものである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の不飽和基含有共重合体。
[6] 二重結合当量が210〜4800である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の不飽和基含有共重合体。
[7] 数平均分子量(Mn)が600〜10000である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の共重合体。
[8] アリルアルコールと1−デセンを必須成分とする共重合体の水酸基と、不飽和基を含有するイソシアネート化合物のイソシアネート基とを反応させることを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載の不飽和基含有共重合体の製造方法。
[9] アリルアルコールと1−デセンを必須成分とする共重合体の水酸基と、不飽和基を含有するイソシアネート化合物のイソシアネート基とを反応させることを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれかに記載の不飽和基含有共重合体の製造方法。
[10] 不飽和基を含有するイソシアネート化合物が、一般式(7)
【化11】

(式中、R5は水素原子またはメチル基を表わし、nは1または2であり、R4は、n=1のとき、(1) 炭素数1〜6の、直鎖あるいは分枝のアルキレン基、またはオキシアルキレン基、または(2) 炭素数6〜12のフェニレン基を表わし、n=2のとき、(3) 炭素数1〜6の3価の炭化水素残基を表わす。)
で示される分子内に不飽和基を1つ以上含むイソシアネート化合物である前記[10]に記載の不飽和基含有共重合体の製造方法。
[11] R4が、下記式
【化12】

(式中、Aは式(7)に記載のイソシアネート基に結合することを示し、Bは式(7)に記載の(メタ)アクリル基と結合することを示し、pは1〜6の整数を表わし、q、rはそれぞれ1〜4の整数を表わす。)
で示される二価または三価の基から選択される基である前記[10]に記載の不飽和基含有共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によればエステル結合を介せずに長鎖アルキル基が側鎖に導入された不飽和基含有共重合体を効率よく製造することができる。本発明により得られる不飽和基含有共重合体はエステル結合を介せずに側鎖に長鎖アルキル基を有している点で、電気絶縁性、低吸水性、熱安定性、界面活性効果、耐加水分解性に優れているため、例えば樹脂改質剤、塗料成分、インキ成分、接着剤成分、プライマー成分、高性能ワックス、相溶化剤、界面活性剤、ウレタン原料、ポリエステル原料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0015】
本発明の不飽和基含有共重合体は、モノマーユニットとして式(1)
【化13】

(式中、R2は水素原子またはメチル基を表わし、mは1または2であり、R1は、m=1のとき、(1) 炭素数1〜6の、直鎖あるいは分枝のアルキレン基、またはオキシアルキレン基、または(2) 炭素数6〜12のフェニレン基を表わし、m=2のとき、(3) 炭素数1〜6の3価の炭化水素残基を表わす。)
及び式(2)
【化14】

で示される構造を含む不飽和基含有共重合体である。
【0016】
式(1)中のR1が表わす炭素数1〜6の直鎖または分枝のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基等が挙げられる。
式(1)中のR1が表わす炭素数1〜6のオキシアルキレン基としては、例えば3−オキサペンテン基等が挙げられる。
式(1)中のR1が表わす3価の炭化水素基としては、例えば、2−アミノ−1,3−ジヒドロキシ−2−メチルプロパンのヒドロキシル基とアミノ基の残基、2−アミノ−1,3−ジヒドロキシプロパンのヒドロキシル基とアミノ基の残基等が挙げられる。
【0017】
式(1)で示されるモノマーユニットの具体例としては、以下の式(3)〜(6)で示されるものが挙げられる。
【化15】

(式中、R2は水素原子またはメチル基を表わす。)、
【化16】

(式中、R2は水素原子またはメチル基表わす。)、
【化17】

(式中、R2は水素原子またはメチル基を表わす。)、
または
【化18】

(式中、R2及びR3は水素原子またはメチル基を表わす。)。
【0018】
本発明の不飽和基含有共重合体は、アリルアルコールと1−デセン及び不飽和カルボン酸もしくは不飽和カルボン酸エステルをラジカル重合開始剤の存在下に共重合することによって得られるヒドロキシル基含有共重合体に対して、不飽和基含有イソシアネート化合物を反応させることにより得ることができる。
【0019】
また、本発明の共重合体は、モノマーユニットとして式(1)で示される構造と式(2)で示される構造を含む共重合体であれば他に制限はなく、それらのモノマーユニットのほかに不飽和カルボン酸もしくは不飽和カルボン酸エステルを第3のモノマーユニットとして用いることができる。
【0020】
不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
不飽和カルボン酸エステルの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、ア
クリル酸(n−プロピル)、アクリル酸(n−ブチル)、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸(n−プロピル)、メタクリル酸(n−ブチル)、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジ(n−プロピル)、マレイン酸ジ(n−ブチル)、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジ(n−プロピル)、フマル酸ジ(n−ブチル)、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジ(n−プロピル)、イタコン酸ジ(n−ブチル)などが挙げられる。
【0021】
これらの中でも不飽和カルボン酸としては、共重合体製造時の生産性向上の観点から、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
また、不飽和カルボン酸エステルとしては、共重合体製造時の生産性向上の観点から、マレイン酸エステル、イタコン酸エステルが好ましく、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジ(n−ブチル)、イタコン酸ジメチルが特に好ましい。
【0022】
本発明の共重合体において、式(1)で示されるモノマーユニットと式(2)で示されるモノマーユニットの共重合様式は重合条件により、ランダム、ブロック、交互のいずれをもとり得るが、各樹脂への相溶性向上の観点からは、ランダムであることが望ましい。
【0023】
本発明の共重合体において、式(1)で示されるモノマーユニットと式(2)で示されるモノマーユニット及び不飽和カルボン酸もしくは不飽和カルボン酸エステルの共重合様式は重合条件により、ランダム、ブロックのいずれをもとり得るが、各樹脂への相溶性向上の観点からは、ランダムであることが望ましい。
【0024】
本発明の共重合体における、式(1)及び(2)で示されるモノマーユニット及び不飽和カルボン酸ユニットもしくは不飽和カルボン酸エステルユニットの組成は共重合反応実施時の式(1)に相当する基質、すなわちアリルアルコールと1−デセン及び不飽和カルボン酸ユニットもしくは不飽和カルボン酸エステルの仕込み比により制御できる。各種樹脂への相溶性と接着性を両立させる観点から式(1)で示されるモノマーユニットは3〜50mol%であることが好ましい。式(1)で示されるモノマーユニットが3mol%未満のときは接着性が低下する場合があり、50mol%を超えると極性の低い樹脂との相溶性が悪化する場合がある。
また、各種樹脂への相溶性を両立させる観点から不飽和カルボン酸ユニットもしくは不飽和カルボン酸エステルユニットは0.1〜5mol%であることが好ましい。不飽和カルボン酸ユニットもしくは不飽和カルボン酸エステルユニットが0.1mol%未満のときは極性の高い樹脂との相溶性の改善効果が低い場合があり、5mol%を超えると極性の低い樹脂との相溶性が悪化する場合がある。
【0025】
本発明の共重合体の二重結合当量は樹脂の硬化性と靭性を両立させる観点から210〜4800であることが好ましい。共重合体の二重結合当量が210未満となると、構造上十分な柔軟性、耐水性が得られなくなる恐れがあり、4800を超えると樹脂の硬化性が不足する恐れがある。なお、本発明における二重結合当量は次のように規定される。
【0026】
・モノマーユニットが(1)、(2)のみからなる場合
【数1】

【0027】
・モノマーユニットが(1)、(2)、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸エステルからなる場合
【数2】

【0028】
本発明の共重合体のゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定したポリスチレン換算数平均分子量(Mn)に特に制限はないが、各種樹脂への相溶性を考慮するとMn=500〜8000であることが好ましい。ポリスチレン換算数平均分子量(Mn)が500未満のとき固体状樹脂との相溶性が悪くなり、8000を超えると液体状樹脂との相溶性が悪くなる。
【0029】
次に、本発明の不飽和基含有共重合体の製造方法について説明する。本発明の不飽和基含有共重合体はアリルアルコールと1−デセン及び不飽和カルボン酸もしくは不飽和カルボン酸エステルをラジカル重合開始剤の存在下に共重合することによって得られるヒドロキシル基含有共重合体に対して、不飽和基含有イソシアネート化合物を反応させることにより得ることができる。ここで、得られるヒドロキシル基含有共重合体の水酸基価は
10〜300mgKOH/gの範囲が好ましい。
【0030】
アリルアルコールと1−デセンの共重合において、アリルアルコールと1−デセンの使用量は、通常は1−デセン1モルに対してアリルアルコールを0.05〜2.0モル用いるのが好ましく、0.10〜1.0モルが特に好ましい。アリルアルコールが0.05モル未満の場合は得られる共重合体の水酸基価が低くなりすぎて他の樹脂との相溶性が悪化し、また、2.0モルを超えると共重合体の分子量が低下する。
【0031】
この共重合反応は無溶媒で行っても良いし、基質と反応せず、かつ連鎖移動定数の小さい溶媒を使用しても良い。溶媒としては、トルエン、ベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの炭化水素系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独もしくは2種類以上を併用することもできる。
【0032】
この共重合反応はラジカル重合開始剤を用いて実施することができる。熱、紫外線、電子線、放射線などによってラジカルを生成するものであれば、いずれのラジカル重合開始剤も使用できるが、反応温度における半減期が1時間以上のものが好ましい。
【0033】
熱ラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)などのアゾ系化合物;メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシドなどのケトンパーオキシド類;ベンゾイルパーオキシド、デカノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド類;ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシドなどのジアルキルパーオキシド類;1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール類;t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシアゼレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシトリメチルアジペート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエートなどのアルキルパーオキシエステル類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロプルカーボネートなどのパーオキシカーボネート類;過酸化水素などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの熱ラジカル重合開始剤は2種以上併用しても良い。
【0034】
紫外線、電子線、及び放射線によるラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンなどのアセトフェノン誘導体;ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−トリメチルシリルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルフィドなどのベンゾフェノン誘導体;ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン誘導体;メチルフェニルグリオキシレート、ベンゾインジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。また、これらの紫外線、電子線、及び放射線ラジカル重合開始剤は2種以上併用してもよい。
【0035】
これらの重合開始剤の使用量は、反応温度やアリルアルコールと1−デセンの組成比によって異なるため一概に限定することはできないが、アリルアルコールと1−デセンとの総量100質量部に対して0.1〜15質量部が好ましく、1〜10質量部が特に好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が0.1質量部未満の場合は重合反応が進行しにくく、15質量部を超えて添加することは経済上好ましくない。
【0036】
反応温度(重合温度)は重合開始剤の種類に応じて適宜選択すればよく、段階的に温度を変えて反応(重合)させてもよい。紫外線などによる重合であれば、室温でも可能である。熱重合の場合は開始剤の分解温度に対応して適宜決めることが望ましく、一般的には50〜180℃の範囲が好ましく、70〜170℃の範囲が特に好ましい。50℃未満では極端に反応が遅くなり、180℃を超えると、ラジカル開始剤の分解が速くなりすぎ、かつ連鎖移動も速くなるので共重合体の分子量が低下する傾向にある。
【0037】
反応終了後、生成物であるアリルアルコール共重合体は、公知の操作、処理方法(例えば、中和、溶媒抽出、水洗、分液、溶媒留去、再沈殿など)により後処理されて単離される。
【0038】
また、この反応は、モノマーユニットに不飽和カルボン酸もしくは不飽和カルボン酸エステルを用いた場合でも同様に行うことができる。
【0039】
(2)不飽和基含有イソシアネート
本発明で使用される不飽和基含有イソシアネート化合物は下記一般式(7)
【化19】

で示される分子内に不飽和基を1つ以上含むイソシアネート化合物より合成することができる。
【0040】
一般式(7)で示される化合物は、1つ以上のイソシアネート基と1つ以上の反応性不飽和二重結合を有する化合物であり、R5は水素原子またはメチル基を表わし、nは1または2であり、R4は、n=1のとき、(1) 炭素数1〜6の、直鎖あるいは分枝のアルキレン基、またはオキシアルキレン基、または(2) 炭素数6〜12のフェニレン基を表わし、n=2のとき、(3) 炭素数1〜6の3価の炭化水素残基を表わす。
4の具体例としては、
【化20】

などが挙げられる。
式中、Aは式(7)に記載のイソシアネート基に結合することを示し、Bは式(7)に記載の(メタ)アクリル基と結合することを示す。また、pは1〜6の整数を表わし、q、rはそれぞれ1〜4の整数を表わす。
【0041】
上記の不飽和基含有イソシアネートの中では、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルイソシアネート、5−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルイソシアネート、2,2−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)メチルイソシアネート、3−アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、4−アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、5-(メタ)アクリロイルオキシ-3-オキサペンチルイソシアネートを好適に用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイルは、メタクリロイル及び/またはアクリロイルを意味する。
【0042】
(3)不飽和基含有共重合体の製造方法
不飽和基含有イソシアネート化合物と、ヒドロキシル基含有共重合体とを反応させる際には、ウレタン化触媒を使用することが好ましい。ウレタン化触媒を使用することにより、著しく反応を速めることができる。ウレタン化触媒の具体例としては、ジブチル錫ジラウレート、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、2,6,7−トリメチル−1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどが挙げられる。
【0043】
これらのウレタン化触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ウレタン化触媒の添加量は、イソシアネート化合物を100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜1質量部である。添加量が0.01質量部未満では反応性が著しく低下する場合がある。一方、添加量が5質量部を超えると反応時に副反応が起きる可能性がある。
【0044】
一般式(7)で示されるエチレン性不飽和基含有イソシアネート化合物と、ヒドロキシル基を含有する共重合体とを反応させる際における反応温度は、好ましくは−10〜100℃、より好ましくは0〜80℃である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。
【0046】
実施例で合成した物質の諸物性は、以下の通りに測定した。
1.FT−IR
使用機種:Spectrum GX(パーキンエルマー社製)、
測定方法:KBr板を用いて、液膜法で測定した。
【0047】
2.1H−NMR,13C−NMR
使用機種:JEOL EX−400(400MHz,日本電子社製)、
測定方法:重水素化クロロホルムまたは重水素化メタノールに溶解し、内部標準物質にテトラメチルシランを使用して測定した。
【0048】
3.ゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)、
使用機種
カラム:Shodex GPC K−G+K−802+K−802.5+K−801(昭和電工社製)、
検出器:Shodex SE−61(昭和電工社製)、
測定条件
溶媒:クロロホルム、テトラヒドロフラン、
測定温度:40℃、
流速:1.0ml/分、
試料濃度:1.0mg/ml、
注入量:1.0μl、
検量線:Universal Calibration curve、
解析プログラム:SIC 480II (システム インスツルメンツ社製)。
【0049】
4.水酸基価
JIS K0070に記載の方法に準じて測定した。
【0050】
実施例1:アリルアルコールと1−デセンの共重合体(AAL−Decen)の合成
1Lのステンレス製オートクレーブ(耐圧硝子工業社製)にアリルアルコール(昭和電工社製,72.10g,1.241mol)と1−デセン(和光純薬工業社製,370.00g,2.638mol)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)(和光純薬工業社製,22.11g,0.087mol)を加え、フランジ部を取り付けた後、系内を窒素で3回置換した。次いで内容物を600rpmで撹拌しながら温度を上げ、140℃で5時間反応させた。内容物を室温まで冷却後、脱圧を行い、反応器を開けて内容物を取り出し、減圧下に105℃で未反応のアリルアルコール、1−デセン及び開始剤残渣を除去して高粘性油状物72.10gを得た。得られた油状物の1H−NMR、13C−NMR及びIRスペクトルを測定し、目的の共重合体であることを確認した。この重合反応を2回行い、合わせて143.80gの共重合体を得た。この共重合体の重量平均分子量はポリスチレン換算で1200であった。また、水酸基価は196mgKOH/gであった。また、取得したAAL−Decenの1H−NMRチャートを図1に示した。
【0051】
実施例2:2−アクロイルオキシエチル基を側鎖に有する不飽和基含有共重合体の合成
撹拌装置、温度計、コンデンサーを備えた反応容器に、実施製造例1で得られたヒドロキシル基含有共重合体を10.0g(OH換算:34.9mmol)及び2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製 商品名:AOI)5.18g(36.7mmol)を投入し、トルエンを30g加えた。その後、室温にて撹拌しながらジブチル錫ジラウレート0.17gを添加し、80℃に昇温し3時間の加熱撹拌を行った。その後赤外線吸収スペクトルでイソシアネート基の吸収スペクトル(2280cm-1)が消失したことを確認して反応を終了し、減圧蒸留を行い溶媒を留去することで不飽和基含有共重合体を得た。得られたウレタンアクリレートの二重結合当量は427であり、重量平均分子量はポリスチレン換算で1757であった。また、取得したAAL−Decenの1H−NMRチャートを図2に示した。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1で製造した共重合体の1H−NMRチャートである。
【図2】実施例2で製造した共重合体の1H−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマーユニットとして、式(1)
【化1】

(式中、R2は水素原子またはメチル基を表わし、mは1または2であり、R1は、m=1のとき、(1) 炭素数1〜6の、直鎖あるいは分枝のアルキレン基、またはオキシアルキレン基、または(2) 炭素数6〜12のフェニレン基を表わし、m=2のとき、(3) 炭素数1〜6の3価の炭化水素残基を表わす。)
及び式(2)
【化2】

で示される構造を含む不飽和基含有共重合体。
【請求項2】
式(1)
【化3】

(式中の記号は請求項1の記載と同じ意味を表わす。)
及び式(2)
【化4】

で示される構造のみをモノマーユニットとする請求項1に記載の不飽和基含有共重合体。
【請求項3】
式(1)
【化5】

(式中の記号は請求項1の記載と同じ意味を表わす。)
及び式(2)
【化6】

で示される構造と、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸エステルの炭素−炭素二重結合が単結合に置き換わって2価となった構造をモノマーユニットとする請求項1に記載の不飽和基含有共重合体。
【請求項4】
式(1)で示されるモノマーユニットを3〜50mol%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体。
【請求項5】
式(1)で示されるモノマーユニットが、下記式(3)〜(6)
【化7】

(式中、R2は請求項1の記載と同じ意味を表わす。)
【化8】

(式中、R2は請求項1の記載と同じ意味を表わす。)
【化9】

(式中、R2は請求項1の記載と同じ意味を表わす。)
または
【化10】

(式中、R2は請求項1の記載と同じ意味を表わし、R3は水素原子またはメチル基を表わす。)
で示されるものである請求項1〜4のいずれかに記載の不飽和基含有共重合体。
【請求項6】
二重結合当量が210〜4800である請求項1〜5のいずれかに記載の不飽和基含有共重合体。
【請求項7】
数平均分子量(Mn)が600〜10000である請求項1〜6のいずれかに記載の共重合体。
【請求項8】
アリルアルコールと1−デセンを必須成分とする共重合体の水酸基と、不飽和基を含有するイソシアネート化合物のイソシアネート基とを反応させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の不飽和基含有共重合体の製造方法。
【請求項9】
アリルアルコールと1−デセンを必須成分とする共重合体の水酸基と、不飽和基を含有するイソシアネート化合物のイソシアネート基とを反応させることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の不飽和基含有共重合体の製造方法。
【請求項10】
不飽和基を含有するイソシアネート化合物が、一般式(7)
【化11】

(式中、R5は水素原子またはメチル基を表わし、nは1または2であり、R4は、n=1のとき、(1) 炭素数1〜6の、直鎖あるいは分枝のアルキレン基、またはオキシアルキレン基、または(2) 炭素数6〜12のフェニレン基を表わし、n=2のとき、(3) 炭素数1〜6の3価の炭化水素残基を表わす。)
で示される分子内に不飽和基を1つ以上含むイソシアネート化合物である請求項10に記載の不飽和基含有共重合体の製造方法。
【請求項11】
4が、下記式
【化12】

(式中、Aは式(7)に記載のイソシアネート基に結合することを示し、Bは式(7)に記載の(メタ)アクリル基と結合することを示し、pは1〜6の整数を表わし、q、rはそれぞれ1〜4の整数を表わす。)
で示される二価または三価の基から選択される基である請求項10に記載の不飽和基含有共重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−132740(P2010−132740A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308229(P2008−308229)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】