説明

不飽和極性モノマーを照射グラフトした官能化PVDF

【課題】少なくとも50重量%のVDFを含み、少なくとも一種の不飽和極性モノマーが照射グラフトされた、VDFとVDFと共重合可能な少なくとも一種の他のモノマーとを含むVDFコポリマー、および、この変性コポリマーとPVDFとを含む混合物。
【解決手段】グラフト前のVDFコポリマーが下記(1)〜(3)の特徴を有する:(1)結晶化温度Tc(ISO11357−3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃、(2)降伏強度σYが10〜40MPa、好ましくは10〜30MPa、(3)溶融粘度η(細管レオメータを用いて230℃および100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。この変性コポリマーまたは混合物は熱可塑性ポリマー、エラストマーまたは無機材料と組み合わせて用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一種の不飽和極性モノマーをPVDFに照射グラフトして得られる官能化PVDFと、この官能化PVDFと未変性PVDFとの混合物とに関するものである。
上記官能化PVDFまたはその混合物は熱可塑性ポリマーや無機材料等の多くの材料に対する接着性を有し、それによって多層構造物を作ることができる。
本発明はさらに、この多層構造物と、官能化PVDFまたはその混合物の層を共押出しする共押出方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
PVDFは優れた機械的安定性、高い化学的不活性および優れた耐老化性を有するということは知られており、これらの特性を利用して種々の分野で利用されている。例えば、化学工学や電子工学の分野での押出し成形品や射出成形部品の製造、ガスや炭化水素の輸送用非透過性ダクトの形での使用、建築分野での保護フィルムや被膜の形成、電気工学分野での保護部品の製造等が挙げられる。しかし、PVDFは他の材料に接着させるのが難しいということも知られている。
【0003】
特許文献1(欧州特許出願第1,484,346号公報)、特許文献2(欧州特許出願第1,537,989号公報)、特許文献3(欧州特許出願第1,541,343号公報)、特許文献4(国際特許出願第WO 2006/045630号公報)または特許文献5(国際特許出願第WO 2006/042764号公報)にはフルオロポリマーを熱可塑性ポリマーまたは無機材料に接着できるようにするためにフルオロポリマー、特にPVDFを変性する方法が記載されている。この方法は不飽和極性モノマーを照射グラフトする方法である。
本発明者は上記方法で変性したフルオロポリマーがある特定の熱的および機械的特徴を有するPVDFコポリマーの場合に接着性を大幅に増加するということを見出した。本発明者はさらに、この官能化PVDFが存在すると共押出ライン速度がより速くなるということを見出した。
【0004】
特許文献6(欧州特許出願第1,101,994号公報)には官能化フルオロポリマーの層を有する燃料ホースが記載されている。この官能化フルオロポリマーは照射グラフトによって官能化されたフルオロポリマーにすることができる。
特許文献7(欧州特許出願第1,484,346号公報)、特許文献8(欧州特許出願第1,537,989号公報)、特許文献9(欧州特許出願第1,541,343号公報)、特許文献10(欧州特許出願第1,637,319号公報)には、不飽和極性モノマーを照射グラフトしてフルオロポリマー、特にPVDFを変性する方法が記載されている。PVDFはホモポリマーまたはコポリマーにすることができる。
【0005】
上記特許文献4(国際特許出願第WO 2006/045630号公報)には、粘度ηが100〜1500Pa.sで、結晶化温度Tcが50〜120℃である官能化PVDFと可撓性フルオロポリマーとの混合物が記載されている。官能化PVDFは照射グラフトによって得るのが好ましく、80mol%以上のVDFであるのが好ましく、ホモポリマーであるのがさらに好ましい。
【0006】
特許文献11(欧州特許出願第1,508,927号公報)には、単独または混合物として用いる官能化PVDFの例が記載されている。実施例ではカイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標)2801またはカイナー(KYNAR、登録商標)761が用いられている。変性されたカイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標)2801はVDF−HFPコポリマーで、下記特徴を有する:HFPが11%、σYが20〜34MPa、Tcが116.8℃、粘度ηが約2500Pa.s(230℃、100s-1)。カイナー(KYNAR、登録商標)761はPVDFのホモポリマーである。カイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標)2801は本発明に従って変性したPVDFよりも粘度が高い。照射によってPVDF鎖間に架橋点が形成されるため、照射後にPVDFの一部が架橋し、従って、溶融粘度がさらに高くなる。その結果、この官能化PVDFを加工および使用するのは溶融状態でも溶媒溶液中でも困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願第1,484,346号公報公報
【特許文献2】欧州特許出願第1,537,989号公報
【特許文献3】欧州特許出願第1,541,343号公報
【特許文献4】国際特許出願第WO 2006/045630号公報
【特許文献5】国際特許出願第WO 2006/042764号公報
【特許文献6】欧州特許出願第1,101,994号公報
【特許文献7】欧州特許出願第1,484,346号公報
【特許文献8】欧州特許出願第1,537,989号公報
【特許文献9】欧州特許出願第1,541,343号公報
【特許文献10】欧州特許出願第1,637,319号公報
【特許文献11】欧州特許出願第1,508,927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記全ての文献には本発明の熱的および機械的特徴を有するPVDFに関する記載はない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の対象は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFを含み、このVDFに少なくとも一種の不飽和極性モノマーが照射グラフトされているVDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種の他のモノマーとを含むコポリマーであって、グラフト前に上記VDFコポリマーが下記(1)〜(3)の特徴を有する点に特徴がある:
(1)結晶化温度Tc(ISO11357−3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃、
(2)降伏強度σYが10〜40MPa、好ましくは10〜30MPa、
(3)溶融粘度η(細管レオメータを用いて230℃、100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。
【0010】
グラフト前のVDFコポリマーの(引張)ヤング率は200〜1000MPa、好ましくは200〜600MPaであるのが好ましい。
本発明の別の対象は、上記変性コポリマーとPVDFとの混合物にある。この変性コポリマーまたはその混合物は熱可塑性ポリマー、エラストマーまたは無機材料と組み合わせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
グラフトされるPVDFは少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDF(フッ化ビニリデン、式CH2=CF2)と、VDFと共重合可能な少なくとも一種の他のモノマーとを含むコポリマーである。コモノマーは例えばフッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,2−ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、3,3,3−トリフルオロプロペンおよび2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンにすることができる。押出が容易であるという理由から熱可塑性PVDFであるのが好ましい。
HFP含有率が4〜22重量%、好ましくは10〜20重量%であるVDF/HFPコポリマーが好ましい(不飽和極性モノマーのグラフト前に計算した含有率)。
【0012】
PVDFはさらに下記の特徴を有する(グラフト前):
(1)結晶化温度Tc(ISO11357−3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃、
(2)降伏強度σY(20℃で測定)が10〜40MPa、好ましくは10〜30MPa、
(3)溶融粘度η(細管レオメータを用いて230℃、100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。
さらに、グラフト前のヤング(引張)率は200〜1000MPa、好ましくは200〜600MPaである。
【0013】
上記特許文献11(欧州特許出願第1,508,927号公報)に記載のカイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標)2801と比べて、本発明の変性PVDFは開始時の粘度ηが低い。これは本発明官能化PVDFの粘度は変性後も変性カイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標)2801よりも低いということを意味する。従って、溶融状態でも、溶媒溶液中でも本発明官能化PVDFは使用が容易である。
本発明の官能化PVDFまたはその混合物は、従来の官能化PVDFと比較して下記の利点を有する:
(1)ポリマーおよび無機材料への接着力が強く、
(2)溶融状態でも、溶媒溶液中でも使用が極めて容易で、
(3)共押出速度を速くすることができる。
【0014】
本発明に適したPVDFの例はアルケマ(ARKEMA)社から市販のカイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標)2500および2750である:
KYNARFLEX(登録商標)2500の特徴
19%のHFPを含むVDF−HFPコポリマー、
c:87.4℃、
σY:15MPa、
η:1000Pa.s、
ヤング(引張)率:220MPa。
KYNARFLEX(登録商標)2750の特徴
16%のHFPを含むVDF−HFPコポリマー、
c:103℃、
σY:18MPa、
η:900Pa.s、
ヤング(引張)率:360MPa。
【0015】
上記官能化PVDFは少なくとも一種の不飽和極性モノマーをPVDFに照射グラフトして得られる。以下、このPVDFを官能化PVDFとよぶことにする。
本発明方法は下記の段階を含む:
(a)最初に、PVDFを公知の任意の溶融混合技術で少なくとも一種の不飽和極性モノマーと混合する。この混合段階は熱可塑性樹脂工業で使用される押出機または混練機等の任意の混合装置で実施できる。押出機を使用して混合物を顆粒の形にするのが好ましい。従って、グラフトは例えば特許文献12(米国特許第5,576,106号明細書)に記載のような粉末の表面ではなく、混合物(全体)で行われる。0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の不飽和極性モノマーに対してPVDFは80〜99.9重量%、好ましくは90〜99重量%である。
【特許文献12】米国特許第5,576,106号明細書
【0016】
(b)次に、混合物に固体状態で電子線または光子線を線量10〜200kGray、好ましくは10〜150kGrayで照射する(βまたはγ照射)。照射は混合物を例えばポリエチレン袋に入れ、空気を抜き、袋を密封して行うことができる。線量は2〜6Mrad、好ましくは3〜5Mradであるのが有利である。コバルト60容器で照射するのが特に好ましい。こうして得られる不飽和極性モノマーのグラフト化度は0.1〜5重量%である。すなわち、99.9〜95重量部のPVDFに対してグラフトされる不飽和極性モノマーは0.1〜5重量部である。不飽和極性モノマーのグラフト化度は0.5〜5%、さらに好ましくは1〜5%であるのが好ましい。グラフトされた不飽和極性モノマーの含有率は被照射混合物中の不飽和極性モノマーの初期含有率に依存し、さらにグラフト化効率、従って照射時間および照射エネルギーにも依存する。
【0017】
(c)次に、必要に応じてグラフトされなかった不飽和極性モノマーと、グラフト化によって遊離した残留物、特にHFを除去することができる。この最後の段階は、グラフトされていない不飽和極性モノマーが接着を破壊する可能性がある場合、または、毒性上問題がある場合に行う必要がある。この操作は当業者に周知の技術で行うことができる。真空脱気で行うことができ、必要に応じて加熱することができる。官能化PVDFをN−メチルピロリドン等の適切な溶媒に溶かし、ポリマーを水またはアルコール等の非溶媒中で沈殿させることもできる。あるいは、官能化PVDFをフルオロポリマーおよび照射グラフト化官能基に対して不活性な溶媒で洗浄することもできる。例えば、無水マレイン酸を用いてグラフトした場合には洗浄にクロロベンゼンを用いることができる。
【0018】
照射グラフト法の利点の1つは、ラジカル重合開始剤を用いた従来のグラフト方法よりもグラフト化不飽和極性モノマー含有率を高くすることができる点にある。一般に、照射グラフト化法を用いるとその含有率は1%以上(99重量部のフルオロポリマーに対して1重量部の不飽和モノマー)、さらには1.5%以上になり、この比率は従来の押出機によるグラフト化法では不可能である。
【0019】
さらに、照射グラフト法は「低温」、一般に100℃以下、さらには50℃以下の温度で行う。すなわち、従来のグラフト化法とは違って、混合物を押出機で溶融状態にしない。従って、グラフトが非晶相中で起こり、結晶相中で起こらない。これに対して溶融押出機によるグラフト化の場合には均質なグラフト化が起こる。この違いが基本的な違いである。その結果、照射グラフト法の場合と押出機を用いたグラフトの場合とでPVDF鎖での不飽和極性モノマーの分布に違いが生じる。すなわち、本発明で変性したPVDFはPVDF鎖中での不飽和極性モノマーの分布が押出機によるグラフトで得られるポリマーと異なる。
【0020】
このグラフト段階は酸素が存在しないようにするのが好ましい。酸素を除去するために被照射混合物を窒素またはアルゴンでパージすることができる。官能化PVDFは変性前のPVDFの優れた耐薬品性および優れた耐酸化性ならびに良好な熱機械的挙動を維持している。
【0021】
不飽和極性モノマーはC=C二重結合と、少なくとも1つの極性官能基を有している。この極性官能基は下記にすることができる:
カルボン酸官能基、
カルボン酸塩、
無水カルボン酸、
エポキシド、
カルボン酸エステル、
シリル、
アルコキシシラン、
カルボン酸アミド、
ヒドロキシ、
イソシアネート。
複数の不飽和モノマーの混合物でもよい。
【0022】
特に好ましい不飽和モノマーは4〜10個の炭素原子を有する不飽和カルボン酸とその誘導体、特にその無水物である。これらの不飽和モノマーとしては例えばメタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸、アリル琥珀酸、4-シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、x−メチルビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、ウンデシレン酸亜鉛、カルシウムまたはナトリウム、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ジフルオロ無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸、グリシジルアクリレートまたはメタクリレート、グリシジルエーテルアリル、トリメトキシシランビニル、トリエトキシシランビニル、トリアセトキシシランビニル、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等のシランビニルが挙げられる。
【0023】
不飽和モノマーの他の例としては下記のものが挙げられる:不飽和カルボン酸のC1〜C8アルキルエステルまたはグリシジルエステル誘導体、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸モノメチルおよびイタコン酸ジエチル;不飽和カルボン酸のアミド誘導体、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸のモノアミド、マレイン酸のジアミド、マレイン酸のN−モノエチルアミド、マレイン酸のN,N−ジエチルアミド、マレイン酸のN−モノブチルアミド、マレイン酸のN,N−ジブチルアミド、フマル酸のモノアミド、フマル酸のジアミド、フマル酸のN−モノエチルアミド、フマル酸のN,N−ジエチルアミド、フマル酸のN−モノブチルアミド、フマル酸のN,N−ジブチルアミド;不飽和カルボン酸のイミド誘導体、例えば、マレイミド、N−ブチルマレイミドおよびN−フェニルマレイミド;および、不飽和カルボン酸の金属塩、例えばアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムおよびメタクリル酸カリウムおよびウンデシレン酸亜鉛、カルシウムまたはナトリウム。
【0024】
コポリマーの架橋を起こすC=C二重結合を1つしか有しない不飽和モノマーが好ましい。C=C二重結合が2つ以上存在する不飽和モノマーの例としてはジアクリレートまたはトリアクリレートが挙げられる。この観点から、単独重合も架橋もほとんど起こさずにグラフトが可能な無水マレイン酸、ウンデシレン酸、ウンデシレン酸亜鉛、カルシウムまたはナトリウムが好ましいグラフト化合物である。
無水マレイン酸は下記の利点を有するので、このモノマーを用いるのが有利である:
(1)固体であり、溶融混合前にフルオロポリマー顆粒と一緒に入れるのが容易、
(2)固体であり、取扱が容易(特に、揮発性が少ない)、
(3)良好な接着特性を得ることができ、
(4)多くの化学官能基に対して反応性があり、
(5)(メタ)アクリル酸またはアクリルエステル等の他の不飽和モノマーと違って単独重合しないので、安定化させる必要がない。
【0025】
上記官能化PVDFは単独で用いるか、別のPVDFとの混合物として用いることができる(PVDFのホモポリマーまたはコポリマーにすることができる)。この別のPVDFは両方のPVDFが相溶し且つ混合物のDSC溶融ピークが一つのみとなるように選択するのが好ましい。この別のPVDFはVDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種の他のモノマーとを含むコポリマーであり、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFを含み且つ上記と同じ熱的および機械的特徴を有するコポリマーであるのが好ましい。混合物は99〜1%、好ましくは1〜50%の別のPVDFに対して、1〜99%、好ましくは50〜99%の官能化PVDFを含む。混合物は熱可塑性樹脂に適した混合装置、例えば押出機を用いて溶融状態で調製できる。
【0026】
官能化PVDFまたはその混合物の使用
官能化PVDFまたはその混合物は熱可塑性ポリマー、エラストマーまたは無機材料と組み合わせることができる。本発明の別の対象は少なくとも一種の官能化PVDFまたはその混合物から成る少なくとも一つの層と、下記(1)および(2)の層とを含む多層構造物にある:
(1)少なくとも一種の熱可塑性ポリマーおよび/または少なくとも一種のエラストマーから成る少なくとも一つの層、
(2)少なくとも一種の無機材料の層。
本出願の各多層構造物では「ポリマーXから成る層」という表現によって各層ができる限り広範囲で定義される。多層構造物は「ポリマーXの層」によっても定義される。
【0027】
熱可塑性ポリマーの層を有する多層構造物
この構造物は例えば共押出し、回転成形または押出ブロー成形技術によって作ることができる。この構造物はフィルム、チューブ、コンテナまたは中空体の形をとることができる。
熱可塑性ポリマーの例としては下記が挙げられる:
(1)ポリアミド(例えばPA6、PA11、PA12およびPA6,6等)
(2)主成分(>50重量%)としてのエチレンまたはプロピレンを含むポリマー、例えばポリオレフィン(PE、PP)およびエチレンとαオレフィン、好ましくはブテンまたはオクテン、飽和カルボン酸のビニルエステル、好ましくは酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、好ましくはメチル、ブチルまたはエチルアクリレートの中から選択される少なくとも一種のコモノマーとのコポリマーが挙げられる
(3)PVCのような塩化ビニル(軟質または硬質)をベースにしたポリマー、塩素化PVC(CPVC)または塩化ビニリデン(例えばPVDC)をベースにしたポリマー
(4)ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー)またはSAN(スチレン−アクリロニトリルコポリマー)
(5)アクリルポリマー、特にPMMAホモポリマーまたはコポリマー
(6)飽和ポリエステル(PET、PBT、PBN)
(7)ポリカーボネート
(8)ポリフェニレンサルファイド(PPS)
(9)ポリフェニレンオキサイド(PPO)
(10)EVOH(エチレン−ビニルアルコールコポリマー)
(11)ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)
(12)ポリオキシメチレン(アセタール)
(13)ポリエーテルスルホン
(14)ポリウレタン
(15)スチレン、特に耐衝撃性または結晶ポリスチレンをベースにしたポリマーおよびコポリマーと、SBSタイプのスチレン−ジエンブロックコポリマー
(16)フルオロポリマー、例えばPVDF、PTFE、TFE/HFPコポリマー、エチレン/TFEコポリマー、エチレン/クロロトリフルオロエチレンコポリマーおよびポリ弗化ビニル。
【0028】
ポリオレフィンはMDPE(中密度)、HDPE(高密度)、LDPE(低密度)、LLDPE(直鎖低密度)型のポリエチレン、メタロセン型の触媒(より一般的には「モノサイト」を有する触媒)を用いて得られるポリエチレンまたは架橋ポリエチレン(PEX)にすることができる。ポリオレフィンはホモポリマーまたはコポリマーにすることができる。このコポリマーは特に、コモノマーの含有率が5重量%以上であるコポリマー、例えばENGAGE(登録商標)型のエチレン−オクテンコポリマーにすることもできる。Dow社によって最近開発された商標INFUSE(登録商標)のオレフィンブロックコポリマー(OBC)も挙げられる。このコポリマーは特許文献13(国際特許出願第WO 2005/090425号公報)、特許文献14(国際特許出願第WO 2005/090426号公報)、特許文献15(国際特許出願第WO 2005/090427号公報)に記載の方法で製造され、硬質ブロックと軟質ブロックとを含む。
【特許文献13】国際特許出願第WO 2005/090425号
【特許文献14】国際特許出願第WO 2005/090426号
【特許文献15】国際特許出願第WO 2005/090427号
【0029】
2002年のIUPACで提案された定義に従えば熱可塑性樹脂という用語には一定温度範囲でジャンクション点の役目をするガラス状または結晶状ドメインが分散されて強化された連続エラストマー相を有する溶融加工が可能なコポリマーである熱可塑性エラストマーが含まれる。この熱可塑性エラストマーの中では特にTPOを挙げることができる。エラストマーの例としては下記が挙げられる:
ポリクロロプレン
ニトリルゴム(例えば、アクリロニトリル−ブタジエンコポリマー)
アクリルエラストマー
フルオロエラストマー
EPMおよびEPDM
ポリウレタンエラストマー
コポリエーテルアミドおよびコポリエステルアミド(例えばアルケマ社から市販のPEBAXグレード)。
エラストマーに関する詳細な説明は非特許文献1を参照されたい。
【非特許文献1】ウルマン工業化学百科辞典、第A23巻、1993年版、ISBN 3−527−20123−8、第239〜334頁
【0030】
官能化PVDFまたはその混合物の層と、熱可塑性ポリマーまたはエラストマーの層との間の接着が十分でない場合には、これら2層の間に少なくとも一つの接着結合層を配置することができる。この接着結合層は官能化PVDF上に存在する化学官能基と反応する化学官能基を有するのが有利である。例えば、PVDFに酸無水物官能基がグラフトされている場合、接着結合剤はエポキシドまたはヒドロキシル官能基を含むのが有利である。この接着結合層は必要に応じて二重層にすることができる。すなわち、熱可塑性ポリマー層と官能化PVDFまたはその混合物の層との間に一つの結合剤の第1層と、別の結合剤の第2層とを配置することができる(この2つの結合層は互いに接している)。
【0031】
多層構造物の例としては下記の層を下記の順番で互いに接して有する多層構造物が挙げられる:
(1)少なくとも一種の熱可塑性ポリマーおよび/または少なくとも一種のエラストマーから成る一つの層、
(2)任意の層としての少なくとも一つの接着結合層、
(3)官能化PVDFまたは混合物を含む層、
(4)任意の層としてのフルオロポリマー、好ましくはPVDFホモポリマーまたはコポリマーを含む一つの層。
チューブまたはパイプ、コンテナまたは中空体の場合、熱可塑性ポリマー層は外層または内層になる。この構造物の例は熱可塑性ポリマーがポリエチレンで、パイプまたはコンテナの形をし、ポリオレフィンを損傷させる可能性のある化学物質を輸送または貯蔵するのに用いられ、ポリエチレン層が外層である構造物である。上記化学物質は例えば炭化水素(ガソリン、燃料等)または腐食性製品(酸、塩基、過酸化水素等)が挙げられる。官能化PVDFまたはその混合物の層および/またはフルオロポリマー層によってポリオレフィン層を保護することができ、炭化水素の場合は、この層がポリオレフィンの膨潤を防ぐ。
【0032】
多層構造物の別の例は下記の層を下記の順番で互いに接して有する多層構造物である:
(1)任意の層としてのフルオロポリマー、好ましくはPVDFホモポリマーまたはコポリマーを含む一つの層、
(2)官能化PVDFまたはその混合物を含む層、
(3)任意の層としての少なくとも一つの接着結合層、
(4)少なくとも一種の熱可塑性ポリマーおよび/または少なくとも一種のエラストマーとから成る一つの層、
(5)任意の層としての少なくとも一つの接着結合層、
(6)官能化PVDFまたはその混合物を含む層、
(7)フルオロポリマー、好ましくはPVDFホモポリマーまたはコポリマーを含む任意の層としての一つの層。
この構造物の例は、熱可塑性ポリマーがポリエチレンで、パイプまたはコンテナの形をし、ポリオレフィンを損傷する可能性のある化学物質を輸送または貯蔵するのに用いられる構造物である。上記化学物質は例えば炭化水素(ガソリン、燃料等)または腐食性製品(酸、塩基、過酸化水素等)が挙げられる。官能化PVDFまたはその混合物の層および/または任意の層としてのフルオロポリマー層はポリエチレン内層を保護する役目をし、炭化水素の場合、この層はポリエチレンの膨潤も防ぐ。
【0033】
無機材料の層を有する多層構造物
「無機材料」とは下記を意味する:
(1)金属
(2)ガラス
(3)コンクリート
(4)珪素、
(5)石英。
【0034】
従って、官能化PVDFまたはその混合物を含む層は無機材料の保護被膜を形成する。換言すれば、無機材料は本発明の少なくとも一種の官能化PVDFまたは混合物を含む組成物によって被覆される。この組成物は例えばあらゆる形の腐食を防止する。この組成物は任意成分として少なくとも一種のアクリルポリマー、例えばPMMAを含むこともできる。この組成物は紫外線安定剤、無機充填材、顔料および/または染料、導電性充填剤、例えばカーボンブラックまたはカーボンナノチューブ等の中から選択される一種以上の添加剤を任意成分として含むことができる。
【0035】
金属は例えば鉄、銅、アルミニウム、チタン、鉛、錫、コバルト、銀、タングステン、ニッケル、亜鉛または合金(例えば鋼または炭素、ニッケル、クロム、ニッケル−クロム、クロム−モリブデンまたは珪素鋼、ステンレス鋼、鋳鉄、パーマロイ、アルミニウム−マグネシウム、アルミニウム−シリコン、アルミニウム−銅−ニッケル−マグネシウムまたはアルミニウム−珪素−銅−ニッケル−マグネシウム合金、真鍮、青銅、珪素青銅、珪素真鍮、またはニッケル青銅)である。
【0036】
金属には最初に物理的および/または化学的な前処理を行うことができる。この目的は金属表面を清浄にして、官能化PVDFまたはその混合物の層の接着を促進することである。前処理としては下記が挙げられる:アルカリ洗浄、トリクロロエチレンのような溶媒での洗浄、ブラシ研磨、ショットピーニング、リン酸塩処理、クロメート処理、陽極酸化処理(例えばアルミニウムおよびその合金の場合)、クロム陽極酸化処理、シラン化処理、研磨、酸洗い、特にスルホクロム酸洗。一つの考えられる前処理は接着プロモータモータを塗布することを含むことができる。接着プロモータは非特許文献2または非特許文献3に記載されている。
【非特許文献2】P.E.CassidyのInd.Eng.Chem.Prod.Res.Developmet, 1972,第11巻、N°2、170〜177頁
【非特許文献3】A.J.KinlockのJ.Mat.Sci.,1980,15,2141〜66頁
【0037】
化学的前処理の例としては、Alodine NR1453、Alodine NR2010、Accomet CまたはSafeguard 6000が挙げられる。前処理はこれらの種々の前処理の組合せ、特に物理的前処理と化学的前処理を組合せたものにすることもできる。
金属は例えば下記のような種々の形状および幾何形状にすることができる:
(1)広い表面、例えばシート、プレートまたは箔
(2)中空体、例えば容器、コンテナ、瓶、シリンダーまたは化学反応器
(3)チューブまたはパイプ、ベンド、弁、ニードル弁またはポンプ
(4)ワイヤ、ストランド、ケーブルまたはガイロープ、
(5)電極。
【0038】
被膜は溶融状態、溶液または粉末状態で塗布することができる。粉末の場合は、加熱した金属部品を粉末流動床中に浸漬する流動床技術を用いるか、静電粉体塗装技術を用いることができる。スプレーガンに導入した粉末を圧縮空気で輸送し、高電位、一般に約10〜約100kVに上げたノズルを通る。印加電圧は正または負の極性にすることができる。スプレーガンを通る粉末流量は一般に10〜200g/分、好ましくは50〜120g/分である。粉末はノズル通過中に一定量の電気を帯び、圧縮空気によって輸送された粉末粒子は、接地金属部品(すなわち静電電位がゼロ)上に塗布される。帯電した粉末粒子はこの表面上に保持される。静電気引力は粉末で被覆された物体をオーブンへ移動して加熱するのに充分な力である。
【0039】
電極の分野での使用
官能化PVDFまたはその混合物はリチウムイオン電池の正極または負極の製造で使用できる。一般に、混合酸化物充填材または炭素および/またはグラファイト充填材および電気特性を制御するその他の成分を含む電気活性層はフルオロポリマー結合剤の存在下で溶媒中に充填材を分散して製造される。次いで、得られた分散物をキャスティング法で金属コレクター上に塗布する。次いで、溶媒を蒸発させると、用いた充填材の型に応じて負極または正極が得られる。電池の性能は結合剤の特徴に大きく依存する。良好な結合剤を用いるたとで電気活性成分が十分に充填された層を製造でき、この層によって高い比容量を有することができる。さらに、結合剤は充電/放電サイクル中の酸化還元反応に対して安定でなければならず、しかも、電池中に存在する電解質の影響を受けてはならない。電解質は一般にカーボネート型溶媒(エチルまたはプロピレンカーボネート)およびリチウム塩(LiPF6、LiBF4)を含む。フルオロポリマーの結合剤に関する説明は特許文献11(欧州特許出願第1,508,927号公報)、特許文献16(米国特許第2003/0072999号明細書)、特許文献17(米国特許第2003/0232244号明細書)、特許文献18(米国特許第5460904号明細書)を参照されたい。
【特許文献16】米国特許第2003/0072999号明細書
【特許文献17】米国特許第2003/0232244号明細書
【特許文献18】米国特許第5460904号明細書
【0040】
特許文献11(欧州特許出願第1,508,927A2号公報)の実施例2および実施例3の官能化PVDFの代わりに本発明の官能化PVDFまたはその混合物を用いることができる。
本発明の別の対象は、電池、好ましくはリチウムイオン電池の正極または負極の製造での本発明の官能化PVDFまたはその混合物の使用にある。
本発明の別の対象は、(1)金属L1の一つの層と、(2)本発明の官能化PVDFまたはその混合物を含む一つのL2層とから成る構造物を含むリチウムイオン電池用の正極または負極にある。金属は正極がアルミニウムで、負極が銅であるのが好ましい。
【0041】
共押出法
本発明者人は、官能化PVDFまたはその混合物を含む少なくとも一つの層と、少なくとも一種の熱可塑性ポリマー層とを共押出する共押出技術を用いて、官能化PVDF(または混合物)の層とこの層と接触する一つまたは複数の層との間の接着の品質を損なわずに、共押出しのライン速度(すなわち、共押出多層構造物の速度(m/分))を上げることができる、ということを見出した。
本発明の別の対象は、少なくとも一つの官能化PVDFまたはその混合物の層と、少なくとも一つの熱可塑性ポリマーまたはエラストマーの層とを共押出する、官能化PVDFまたはその混合物を用いる共押出法にある。
【実施例】
【0042】
実施例で使用した化合物
カイナー(KYNAR、登録商標)720
アルケマ(ARKEMA)社から市販のPVDFのホモポリマー。メルトフローインデックスは20g/10分(230℃/5kg)、融点は170℃、下記の特徴を有する:
c:135℃、
σY:55MPa、
η:900Pa.s(230℃、100s-1)および
ヤング率:2200MPa。
オレバック(OREVAC、登録商標)18302
無水マレイン酸がグラフトされているLLDPE型ポリエチレン。メルトフローインデックスは1g/10分、融点は124℃。
ロタダー(LOTADER、登録商標)AX8840
アルケマ(ARKEMA)社のエチレン(92重量%)とグリシジルメタクリレート(8重量%)とのコポリマーで、ASTM D−1238に従うメルトフローインデックスが5。
PEX
95重量%のBORPEX(登録商標)ME−2510と、5%のMB−51との混合物。この2つの化合物はボレアリス(BOREALIS)社から市販されている。ポリエチレン上にシラン官能基が存在するため、加熱すると架橋が起こる。
PVDF−1
16重量%のHFPを含むVDF−HFPコポリマー、
c:103℃、
σY:18MPa、
η:900Pa.s、
(引張)ヤング率:360MPa。
【0043】
実施例1
官能化PVDFの調製
ウェルナー40型押出機で190℃でPVDF−1に2重量%の無水マレイン酸を混合した。この混合は押出機の全ての脱気口を閉じ、スクリュー速度200回転/分、押出量60kg/時で行った。造粒してロッドにした生成物を非透過性アルミニウム層を有する袋中に入れ、この袋に20kGrayの放射線を照射した。照射後、生成物を再度、押出機に245℃、最大減圧下、200回転/分で通した。押出量は25kg/時にした。この脱揮発成分後の生成物を赤外分析した結果、グラフト化度は0.31%、遊離無水マレイン酸量は300ppmであった。この生成物を官能化PVDF1とよぶことにした。
【0044】
実施例2
官能化PVDFの調製
実施例1の条件を繰り返すが、PVDF−1の代わりにカイナー(KYNAR、登録商標)720を用いた。脱揮発成分後の生成物を赤外分析した結果、グラフト化度は0.50%、遊離無水マレイン酸量は300ppmであった。この生成物を官能化PVDF2とよぶことにした。
【0045】
実施例3(比較例)
McNeil押出機で下記構造物の多層管(外径:14mm)を製造した:
カイナー(KYNAR、登録商標)720(130μm)/官能化PVDF2(50μm)/ロタダー(LOTADER、登録商標)AX8840(50μm)/PEX(780μm)。
PEX層は外層にした。全ての層を互いに接着させた。押出しは下記条件下で40m/分で行った:
PE層:230℃
ロタダー(LOTADER、登録商標)AX8840:250℃
官能化PVDF:250℃
カイナー(KYNAR、登録商標)720:250℃
押出し後、5日後に官能化PVDF層とロタダー(LOTADER、登録商標)8840層との接着力を測定した結果、円周方向剥離力は10N/cmであった。この接着力は接着破壊(adhesive failure)型であった。
【0046】
実施例4(比較例)
実施例3と同じ条件下で下記の構造を有する多層管を製造した:カイナー(KYNAR、登録商標)720(130μm)/230℃、100s-1での粘度が900Pa.sである16%のHFPを含むVDF−HFPコポリマー中に50%に希釈した官能化PVDF2(50μm)/ロタダー(LOTADER、登録商標)AX8840(50μm)/PEX(780μm)。
押出速度は40m/分にした。PEX層は外層である。全ての層は互いに接着している。5日後に円周方向剥離力を測定した。PVDF混合物の層とロタダー(LOTADER、登録商標)8840層との間の接着力は20N/cmであった。この接着は接着破壊型であった。
【0047】
実施例5(本発明)
実施例3と同じ条件下で下記構造を有する多層管を製造した:カイナー(KYNAR、登録商標)720(130μm)/官能化PVDF1(50μm)/ロタダー(LOTADER、登録商標)AX8840(50μm)/PEX(780μm)。
押出速度は40m/分にした。5日後に測定した円周方向剥離力は60N/cmで、この接着力はロタダー(LOTADER、登録商標)8840層での凝集破壊 (cohesive failure) 型であった。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例3〜5の構造物では、ロタダー(LOTADER、登録商標)AX8840を官能化PVDFとPEXとの間の接着結合剤として用いる。
実施例6(本発明)
下記の構造物を有するフィルムをCollinバブル押出機で製造した:
カイナー(KYNAR、登録商標)2500〜20(50μm)/官能化PVDF1(25μm)/EVOH(25μm)/OREVAC(登録商標)18302(10μm)/PE(140μm)。
押出は全厚が250μmのフィルム上で230℃で行った。官能化PVDF1とEVOHとの間の接着を測定し、18N/cmであった。
【0050】
実施例7(比較例)
下記の構造物を有するフィルムをCollinバブル押出機で製造した:
カイナー(KYNAR、登録商標)2500〜20(50μm)/官能化PVDF2(25μm)/EVOH(25μm)/OREVAC(登録商標)18302(10μm)/PE(140μm)。
押出は全厚が250μmのフィルム上で230℃で行った。官能化PVDF1とEVOHとの間の接着を測定し、0.5N/cmであった。
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFを含み、少なくとも一種の不飽和極性モノマーが照射グラフトされた、VDFとVDFと共重合可能な少なくとも一種の他のモノマーとを含むコポリマーにおいて、
グラフト前にVDFコポリマーが下記(1)(2)(3)の特徴を有することを特徴とするコポリマー:
(1)結晶化温度Tc(ISO11357−3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃、
(2)降伏強度σYが10〜40MPa、好ましくは10〜30MPa、
(3)溶融粘度η(細管レオメータを用いて230℃および100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。
【請求項2】
グラフト前のVDFコポリマーが200〜1000MPa、好ましくは200〜600MPaの(引張り)ヤング率を有する請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
コモノマーがフッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,2−ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、3,3,3−トリフルオロプロペンおよび2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンの中から選択される請求項1または2に記載のコポリマー。
【請求項4】
VDFコポリマーが、グラフト前に4〜20重量%、好ましくは10〜20重量%のHFPを含むVDF/HFPコポリマーである請求項1〜3のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項5】
不飽和極性モノマーが下記(a)〜(c)の段階を含む方法で照射グラフトされたものである請求項1〜4のいずれか一項に記載のコポリマー:
(a)VDFコポリマーを少なくとも一種の不飽和極性モノマーと溶融混合し、
(b)得られた混合物に固体状態で電子線または光子線を線量10〜200kGray、好ましくは10〜150kGrayで照射し、
(c)必要な場合には、グラフトされなかった不飽和極性モノマーおよびグラフト化で遊離した残留物を除去する。
【請求項6】
不飽和極性モノマーがグラフトされた請求項1〜5のいずれか一項に記載の少なくとも一種のコポリマーと、少なくとも一種のPVDFのホモポリマーまたはコポリマーとの混合物。
【請求項7】
上記のPVDFのホモポリマーまたはコポリマーが99〜1重量%、好ましくは1〜50重量%で、不飽和極性モノマーがグラフトされたコポリマーが1〜99重量%、好ましくは50〜99重量%である請求項6に記載の混合物。
【請求項8】
上記PVDFが、不飽和極性モノマーがグラフトされたコポリマーと相溶性があり且つ単一のDSC溶融ピークを有する請求項6に記載の混合物。
【請求項9】
不飽和極性モノマーがグラフトされたコポリマーと混合された上記PVDFが、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFを含み、下記(1)(2)(3)の特徴を有するVDFとVDFと共重合可能な少なくとも一種のモノマーとのコポリマーである請求項6〜8のいずれか一項に記載の混合物:
(1)結晶化温度Tc(ISO11357−3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃、
(2)降伏強度σYが10〜40MPa、好ましくは10〜30MPa、
(3)溶融粘度η(細管レオメータを用いて230℃および100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。
【請求項10】
不飽和極性モノマーがグラフトされたコポリマーと混合された上記PVDFが200〜1000MPa、好ましくは200〜600MPaのヤング率を有する請求項9に記載の混合物。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のコポリマーまたは請求項6〜10のいずれか一項に記載の混合物から成る少なくとも一つの層と、下記の(1)と(2)の層とを有する多層構造物:
(1)少なくとも一種の熱可塑性ポリマーおよび/または少なくとも一種のエラストマーから成る少なくとも一つの層、
(2)少なくとも一つの無機材料の層。
【請求項12】
下記の層を下記の順番で互いに接着状態で有する多層構造物:
(1)少なくとも一種の熱可塑性ポリマーおよび/または少なくとも一種のエラストマーを含む一つの層、
(2)任意の層としての少なくとも一つの接着結合層、
(3)請求項1〜5のいずれか一項に記載のコポリマーまたは請求項6〜10のいずれか一項に記載の混合物を含む一つの層、
(4)任意の層としてのフルオロポリマー、好ましくはPVDFホモポリマーまたはコポリマーを含む一つの層。
【請求項13】
下記の層を下記の順番で互いに接着状態で有する多層構造物:
(1)任意の層としてのフルオロポリマー、好ましくはPVDFホモポリマーまたはコポリマーを含む一つの層、
(2)請求項1〜5のいずれか一項に記載のコポリマーまたは請求項6〜10のいずれか一項に記載の混合物を含む一つの層、
(3)任意の層としての少なくとも一つの接着結合層、
(4)少なくとも一種の熱可塑性ポリマーおよび/または少なくとも一種のエラストマーを含む一つの層、
(5)任意の層としての少なくとも一つの接着結合層、
(6)請求項1〜5のいずれか一項に記載のコポリマーまたは請求項6〜10のいずれか一項に記載の混合物を含む一つの層、
(7)任意の層としてのフルオロポリマー、好ましくはPVDFホモポリマーまたはコポリマーを含む一つの層。
【請求項14】
熱可塑性ポリマーが下記の中から選択される請求項11〜13のいずれか一項に記載の多層構造物:
(1)ポリアミド、好ましくはPA6、PA11、PA12およびPA6,6
(2)50重量%以上のエチレンおよび/またはプロピレンを含むポリマー
(3)50重量%以上の塩化ビニルを含むポリマー
(4)ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー)またはSAN(スチレン−アクリロニトリルコポリマー)
(5)アクリルポリマー
(6)飽和ポリエステル(PET、PBT、PBN)
(7)ポリカーボネート
(8)ポリフェニレンスルファイド(PPS)
(9)ポリフェニレンオキサイド(PPO)
(10)EVOH(エチレン−ビニルアルコールコポリマー)
(11)ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)
(12)ポリオキシメチレン(アセタール)
(13)ポリエーテルスルホン
(14)ポリウレタン
(15)50重量%以上のスチレンを含むポリマーおよびコポリマー、
(16)フルオロポリマー、例えばPVDF、PTFE、TFE/HFPコポリマー、エチレン/TFEコポリマー、エチレン/クロロトリフルオロエチレンコポリマーおよびポリ弗化ビニル。
【請求項15】
熱可塑性ポリマーがポリオレフィン、または、エチレンと、αオレフィン、好ましくはブテンまたはオクテン、飽和カルボン酸のビニルエステル、好ましくは酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、好ましくはメチル、ブチルまたはエチルアクリレートの中から選択される少なくとも一種のコモノマーとのエチレンコポリマーである請求項14に記載の多層構造物。
【請求項16】
ポリオレフィンがポリエチレンのホモポリマーまたはMDPE(中密度)タイプ、HDPE(高密度)、LDPE(低密度)、LLDPE(直鎖低密度)、メタロセン型触媒(より一般的には「単一サイト」を有する触媒)を用いて得られるポリエチレンまたは架橋ポリエチレン(PEX)のコポリマーである請求項15に記載の多層構造物。
【請求項17】
フィルム、チューブまたはパイプ、コンテナまたは中空体の形をした、請求項11〜16のいずれか一項に記載の多層構造物。
【請求項18】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のVDFコポリマーまたは請求項6〜10のいずれか一項に記載の混合物と、任意成分としての少なくとも一種のアクリルポリマーとを含む、無機材料用の保護被覆。
【請求項19】
上記無機材料が金属、ガラス、コンクリート、シリコンまたは石英である請求項18に記載の被覆。
【請求項20】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の変性コポリマーまたは請求項6〜10のいずれか一項に記載の混合物の、電池、好ましくはリチウムイオン電池の正極または負極の製造での使用。
【請求項21】
金属の一つの層L1と、請求項1〜5のいずれか一項に記載の変性コポリマーまたは請求項6〜10のいずれか一項に記載の混合物を含む一つの層L2とを有する構造物を含むリチウムイオン電池用の正極または負極。
【請求項22】
金属がアルミニウムまたは銅である請求項21に記載の電極。

【公表番号】特表2010−500440(P2010−500440A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523327(P2009−523327)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051791
【国際公開番号】WO2008/017789
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】