不飽和炭化水素と飽和炭化水素との分離方法及び分離装置、並びに金属錯体
【課題】1kPa以上という圧力領域において、プロピレンとプロパンなどの炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の炭化水素であっても不飽和炭化水素と飽和炭化水素を高効率で分離することが可能な炭化水素分離方法の提供。
【解決手段】下記式(I):Q1−(R)n−Q2(I){式中、Q1及びQ2はそれぞれ窒素原子を含む複素環基、nは3〜20の整数、Rは下記式(II−1)〜(II−4):−C(R1)(R2)−(II−1)−C(=O)−(II−2)−O−(II−3)−N(R3)−(II−4)(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)で表される基からなる群から選択されるいずれかである。}で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体に、混合物を接触せしめる炭化水素の分離方法。
【解決手段】下記式(I):Q1−(R)n−Q2(I){式中、Q1及びQ2はそれぞれ窒素原子を含む複素環基、nは3〜20の整数、Rは下記式(II−1)〜(II−4):−C(R1)(R2)−(II−1)−C(=O)−(II−2)−O−(II−3)−N(R3)−(II−4)(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)で表される基からなる群から選択されるいずれかである。}で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体に、混合物を接触せしめる炭化水素の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素数3以上の不飽和炭化水素と飽和炭化水素との分離方法、それに用いる分離装置、並びにそれに有用な金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和炭化水素と飽和炭化水素の分離は一般に蒸留により行われているが、プロピレンとプロパンなどの炭素数が同じ不飽和炭化水素と飽和炭化水素は沸点が近いため、このような炭化水素を分離するためには非常に高段数の精留塔が不可欠であった。また、吸着剤に対する吸着特性の違いを利用した分離方法も知られているが、吸着剤として一般的に知られている活性炭やゼオライトでは、このような炭化水素の吸着特性にほとんど差がないため、それらを分離するには大型の設備や大量のエネルギーが必要になるという問題があった。
【0003】
このような状況下で、近年、新たな吸着剤として多孔性金属錯体が検討されており、以下の非特許文献1や非特許文献2においては、プロピレンとプロパンに対する吸着特性に関し、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸を配位子とする多孔性金属錯体の吸着特性が報告されている。しかしながら、このような多孔性金属錯体を吸着剤として用いた場合であっても、プロピレンとプロパンの吸着特性に大きな差が出るのは実用上過度の低圧化を要する1kPa未満の圧力領域であり、1kPa以上という圧力領域においてプロピレンとプロパンとを高効率で分離することはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】N.Lamia et al.,Chem.Eng.Sci.64(2009)p.3246−3259
【非特許文献2】J.W.Yoon et al.,Angew.Chem.Int.Ed.49(2010)p.5949−5952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、実用上過度の低圧化を要しないで用いることができる1kPa以上という圧力領域において、プロピレンとプロパンなどの炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の炭化水素であっても不飽和炭化水素と飽和炭化水素を高効率で分離することが可能な炭化水素の分離方法及び分離装置、並びにそれに有用な金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明の炭化水素の分離方法は、下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
{式中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、nは3〜20の整数であり、Rは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかであり、但し、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはなく、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合はそれらが結合して環を形成していてもよく、複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。}
で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体に、炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する工程を有する方法である。
【0008】
このような本発明の炭化水素の分離方法に用いる金属錯体は、2種類以上のカウンターイオンを含むことが好ましく、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン、及びアルコキシドイオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがさらに好ましい。
【0009】
このような本発明の炭化水素の分離方法においては、前記金属錯体に、第1の所定圧力の下で前記混合物を接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させる吸着工程を含むことが好ましい。さらに、その場合、前記吸着工程の後に、圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させる脱離工程を更に含むことがより好ましい。
【0010】
また、本発明の炭化水素の分離装置は、前記式(I)で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体を備える分離手段と、
前記分離手段に炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を導入する導入手段と、
を備えており、前記金属錯体に前記混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する装置である。
【0011】
このような本発明の炭化水素の分離装置においては、前記分離手段において前記金属錯体が配置された空間の圧力を制御する圧力制御手段を更に備えていることが好ましく、前記圧力制御手段により第1の所定圧力の下で前記混合物を前記金属錯体に接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させることが好ましい。さらに、その場合、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させた後に、前記圧力制御手段により圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させることがより好ましい。
【0012】
また、本発明の金属錯体は、前記式(I)で表される配位子と、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン、及びアルコキシドイオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体である。
【0013】
また、本発明の炭化水素の分離方法及び炭化水素の分離装置においては用いる金属錯体の配位子が、本発明の金属錯体においてはその配位子が、以下の(i)〜(iii):
(i)前記式(I)中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む芳香族複素単環基であること。
(ii)前記式(I)中、Rは前記式(II−1)で表される基であること。
(iii)前記式(I)中、nは3〜6の整数であること。
のうちの少なくとも一つの条件を満たすことが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の金属錯体においては、前記2種類以上のカウンターイオンの比を調節することによって吸着特性が制御されていることが好ましく、本発明の金属錯体は、不飽和炭化水素(特に好ましくはプロピレン)と飽和炭化水素(特に好ましくはプロパン)とを分離するために好適に用いられる。
【0015】
なお、本発明の炭化水素の分離方法及び分離装置において1kPa以上という圧力領域で炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の炭化水素であっても不飽和炭化水素と飽和炭化水素を高効率で分離することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。本発明においては窒素原子を含む複素環基が所定の基で結合されている配位子をカウンターイオン及び金属イオンと共に用いているため、係る窒素原子を含む複素環基が金属イオンに配位して形成される金属錯体において金属イオンと所定の長さを有する有機基との規則的な骨格が形成され、それらの金属錯体が規則的な構造を有している。また、本発明の金属錯体はゲスト分子の吸着等の外部刺激により構造が変化する柔軟構造を有する。この新規な柔軟構造金属錯体を吸着剤として利用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を超えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。以上、本発明の金属錯体は規則構造及び柔軟構造を有するため、炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の不飽和炭化水素と飽和炭化水素に対しても選択的な相互作用が働くようになり、そのような炭化水素に対して一方を選択的(優先的)に認識できる吸着剤や分子篩などとして作用するようになると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、実用上過度の低圧化を要しないで用いることができる1kPa以上という圧力領域において、プロピレンとプロパンなどの炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の炭化水素であっても不飽和炭化水素と飽和炭化水素を高効率で分離することが可能な炭化水素の分離方法及び分離装置、並びにそれに有用な金属錯体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の炭化水素の分離装置の好適な一実施形態を示す模式図である。
【図2】合成例1で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図3】合成例2で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図4】合成例3で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図5】合成例4で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図6】合成例5で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図7】合成例6で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図8】合成例7で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図9】合成例8で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図10】合成例9で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図11】合成例10で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図12】比較合成例1で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図13】比較合成例2で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図14】合成例1で得られた金属錯体を用いて実施例1で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線のうち、273Kで測定した吸脱着等温線を示すグラフである。
【図15】合成例1で得られた金属錯体を用いて実施例1で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図16】合成例2で得られた金属錯体を用いて実施例2で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線のうち、273Kで測定した吸脱着等温線を示すグラフである。
【図17】合成例2で得られた金属錯体を用いて実施例2で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図18】合成例3で得られた金属錯体を用いて実施例3で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図19】合成例4で得られた金属錯体を用いて実施例4で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図20】合成例5で得られた金属錯体を用いて実施例5で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図21】合成例6で得られた金属錯体を用いて実施例6で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図22】合成例7で得られた金属錯体を用いて実施例7で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図23】合成例8で得られた金属錯体を用いて実施例8で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図24】合成例9で得られた金属錯体を用いて実施例9で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図25】合成例10で得られた金属錯体を用いて実施例10で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図26】比較合成例1で得られた金属錯体を用いて比較例1で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図27】比較合成例2で得られた金属錯体を用いて比較例2で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。先ず、本発明の炭化水素の分離方法について説明する。
【0019】
本発明の炭化水素の分離方法は、以下に詳述する窒素原子を含む複素環基が所定の基で結合されてなる配位子とカウンターイオンと金属イオンとを含む金属錯体に、炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する工程を有する方法である。
【0020】
すなわち、本発明で用いる金属錯体とは、下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
で表される配位子を含むものである。
【0021】
上記式(I)中のQ1及びQ2は、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、同一であっても異なっていてもよい。このような複素環基としては、脂肪族複素環基でも芳香族複素環基でもよいが、金属まわりの構造をより強固にすることができるので芳香族複素環基が好ましい。また、このような複素環基としては、単環基でも縮環基でもよいが、配位子の合成がより容易であることから単環基が好ましい。
【0022】
したがって、Q1及びQ2としては芳香族複素単環基が好ましい。このような芳香族複素単環基としては、ピリジル基、ピリミジン基、ピラジン基、トリアジン基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基が好ましく、4−ピリジル基、1−イミダゾリル基がさらに好ましく、4−ピリジル基が特に好ましい。
【0023】
上記式(I)中のRは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかである。複数あるRは、同一であっても異なっていてもよい。したがって、すべてのRが同じでもよいが、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはない。また、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合は、それらが結合して環(例えば、シクロヘキサン環)を形成していてもよい。
【0024】
このようなRとしては、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、すべてのRが式(II−1)で表される基であるか、一つまたは二つのRが式(II−2)、式(II−3)、式(II−4)で表される基のいずれかで且つ残りのRが式(II−1)で表される基であることが好ましく、すべてのRが式(II−1)で表される基であるか、一つのRが式(II−2)、式(II−3)、式(II−4)で表される基のいずれかで且つ残りのRが式(II−1)で表される基であることがより好ましく、すべてのRが式(II−1)で表される基であることが特に好ましい。
【0025】
式(II−1)中のR1、R2におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子がより好ましく、フッ素原子が特に好ましい。また、式(II−1)、式(II−4)中のR1〜R3における炭化水素基としては、炭素数6以下の炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。さらに、このような炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、窒素原子を含む複素環基が挙げられ、それらの好ましい例は前記と同様である。
【0026】
式(II−1)中のR1、R2としては、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、水素原子、フッ素原子、メチル基、4−ピリジルメチル基が好ましく、水素原子、フッ素原子、メチル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。また、式(II−4)中のR3としては、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、水素原子、メチル基、4−ピリジルメチル基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0027】
上記式(I)中のnは、3〜20の整数である。係るnが2以下では、炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の不飽和炭化水素と飽和炭化水素に対して選択的な相互作用が働かなくなり、そのような炭化水素に対して一方を選択的(優先的)に認識することができなくなる。他方、係るnが20を超えると、該配位子と金属イオンから規則的な骨格ができなくなる。また、上記式(I)中のnは、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、3〜6の整数が好ましく、3又は4がより好ましく、3が特に好ましい。
【0028】
上記式(I)で表される配位子として、具体的には以下の1〜24が挙げられ、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、好ましくは1〜17であり、より好ましくは1〜8であり、特に好ましくは1〜4であり、最も好ましくは1である。
【0029】
【化1】
【0030】
本発明においては、前述の配位子と共に金属イオン及びカウンターイオンを含む金属錯体が用いられる。
【0031】
このような金属イオンとしては、例えば、周期表第2族から第13族の金属イオンが挙げられる。中でも、骨格形成がし易く、且つ分離性能がより良好となることから、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、スズ、鉛、ビスマスのイオンが好ましく、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウムのイオンがより好ましく、鉄、銅、銀のイオンが特に好ましい。係る金属イオンは、一種でも二種以上でもよい。また、このような金属イオンの価数としては、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、2〜3が特に好ましい。
【0032】
前記の金属イオンは通常陽イオンであることから、得られる金属錯体全体として電気的に中性にするためにカウンターイオンは通常陰イオンである。このようなカウンターイオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート;ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンなどのカルボン酸イオン;メトキシドイオン、エトキシドイオン、イソプロポキシドイオンなどのアルコキシドイオンが挙げられる。中でも、分離性能がより良好となることから、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンが好ましく、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンがより好ましい。係るカウンターイオンは、一種でも二種以上でもよい。
【0033】
本発明の炭化水素の分離方法に用いる金属錯体が2種類以上のカウンターイオンを含む場合には2種類以上のカウンターイオンの比率を変更することで吸着分離特性の段階的な制御が可能になり気体分離の系にあわせて最適化することが容易になることから、本発明の炭化水素の分離方法に用いる金属錯体は2種類以上のカウンターイオンを含むことが好ましく、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン(好ましくはギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンなど)、及びアルコキシドイオン(好ましくはメトキシドイオン、エトキシドイオン、イソプロポキシドイオンなど)からなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがより好ましい。
【0034】
本発明の炭化水素の分離方法に用いる金属錯体は、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン及びトリフルオロ酢酸イオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがさらに好ましく、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン及びトリフルオロ酢酸イオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがよりいっそう好ましい。
【0035】
本発明の金属錯体が2種類以上のカウンターイオンを含む場合、含まれるカウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ0.01mol%以上含まれていることが好ましい。カウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ0.1mol%以上含まれていることがより好ましく、カウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ1mol%以上含まれていることがさらに好ましい。
【0036】
本発明において用いる金属錯体を構成する前述の金属イオンとカウンターイオンと式(I)で表される配位子との組成比(モル比)は、金属錯体全体として電気的に中性となること以外に制約はないが、骨格形成がし易く、且つ分離性能がより良好となることから、金属イオン:カウンターイオン:式(I)で表される配位子=1:0.2〜6:1〜6であることが好ましく、1:0.3〜3:1〜3であることがより好ましい。
【0037】
本発明においては、前述の金属錯体を形成するために、上記式(I)で表される配位子以外に補助配位子を有していてもよい。このような補助配位子としては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ピペラジン、トリエチレンジアミン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、2,2’−ビピリジル、3,3’−ビピリジル、4,4’−ビピリジルなどの窒素原子を2つ有する化合物や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのカルボキシル基を2つ有する化合物が挙げられる。好ましくは、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ピペラジン、トリエチレンジアミン、ピラジン、4,4’−ビピリジル、シュウ酸、シュウ酸、マロン酸、テレフタル酸である。係る補助配位子は、一種でも二種以上でもよい。
【0038】
また、本発明において用いる金属錯体は、前述の補助配位子以外に、溶媒を配位子として有していてもよい。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサンなどが挙げられ、好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドである。係る溶媒は、一種でも二種以上でもよい。
【0039】
本発明において用いる金属錯体としては、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との分離効率をより高めることができるので、規則構造及び柔軟構造を有することが好ましい。ここでいう規則構造とは、粉末X線回折の測定により単位格子に由来するピークが15o(2θ)以下、好ましくは12o以下、より好ましくは10o以下に観測されることを特徴とする規則構造であり、前記ピークが3o(2θ)以上であることが好ましく、4o以上であることがより好ましい。また、ここでいう柔軟構造とは、外部刺激(例えばゲスト分子の吸着)により構造が変化することを特徴とする。本発明において柔軟構造を有する金属錯体は小分子の吸着に伴い粉末X線回折パターンが変化する。また、柔軟構造を有する金属錯体は、吸着した小分子が脱離することで再び構造が変化し、通常、小分子を吸着する前の構造を回復する。
【0040】
また、本発明において用いる金属錯体の製造方法としては、特に限定はないが、上記式(I)で表される配位子を、前記金属イオン及び前記カウンターイオンからなる金属塩と溶媒中で反応せしめることにより製造することが好ましい。ここで用いる溶媒としては、前述の溶媒を使用でき、また、前記溶媒中に前記補助配位子をさらに加えてもよい。
【0041】
上記式(I)で表される配位子と前記金属塩のモル比は、好ましくは0.1〜10.0:1であり、より好ましくは0.2〜5:1である。上記式(I)で表される配位子と前記の金属塩の濃度はそれぞれ、好ましくは1〜1000mmol/Lであり、より好ましくは10〜500mmol/Lである。
【0042】
前記配位子を前記金属塩と反応せしめる際の反応温度は、室温以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、上限は一般に200℃である。係る反応は常圧下で行うことができるが、0.01〜100MPaの圧力下で行うことが好ましく、0.01〜10MPaの圧力下で行うことがより好ましく、0.1〜10MPaの圧力下で行うことがさらに好ましい。反応時間は、通常1分〜1週間、好ましくは5分〜120時間である。
【0043】
このような反応に用いる反応容器としては、開放型容器でもよいが、オートクレーブなどの密閉型容器が好ましい。反応容器の加熱は、オイルバスやオーブンなどを用いたり、マイクロ波や超音波を照射したりすることによって行うことができる。
【0044】
また、前記反応において溶媒として適切なものを選択すると、生成した金属錯体は沈殿物として反応溶液中に析出する。析出した金属錯体を濾過などにより捕集した後、反応に用いた溶媒と同じ種類の溶媒、又は反応に用いた溶媒よりも揮発性が高い溶媒を用いて、析出した金属錯体を洗浄することが好ましい。さらに、得られた金属錯体が多孔性となっている場合は、細孔部に原料化合物や溶媒が吸着していることがあるため、これらを除去するために、金属錯体を乾燥することが好ましい。係る乾燥としては、室温又は加熱条件下での減圧乾燥が好ましい。
【0045】
本発明においては、前述の金属錯体に、炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離するものであり、その際に前記金属錯体を吸着剤又は分子篩として好適に用いることができる。係る金属錯体は、一種でも、二種以上を含んでいてもよい。
【0046】
ここでいう飽和炭化水素は、アルカン、シクロアルカンであり、アルカンが好ましい。また不飽和炭化水素は、アルケン、アルキン、アルカジエン、アルカトリエン、芳香族炭化水素が挙げられるが、アルケン、アルキン、アルカジエンが好ましく、アルケン、アルキンがより好ましい。本発明において分離される対象となる不飽和炭化水素と飽和炭化水素は、炭素数が3以上のものであるが、炭素数が3〜6の不飽和炭化水素と飽和炭化水素が好ましく、炭素数が3又は4の不飽和炭化水素と飽和炭化水素がより好ましく、プロピレンとプロパンが特に好ましい。前記金属錯体を吸着剤として用いる場合の作用機構は定かではないが、通常、不飽和炭化水素の吸着量が飽和炭化水素の吸着量に比べてはるかに大きくなり、不飽和炭化水素と飽和炭化水素とを分離することが可能である。
【0047】
本発明の分離方法において、前記金属錯体をそのまま、あるいは適当に粉砕することで粉末状にして用いることもできるが、適切な成型手段により成型して成型体として用いてもよい。なお、この成型において成型剤を用いる場合には、成型後に得られる吸着剤の炭化水素ガス吸着特性及び吸着後の炭化水素ガス脱離特性が著しく損なわれないようにして、成型剤の種類及びその使用量を定めることが好ましい。このような成型手段としてはプレス成型が例示される。吸着剤として用いる場合の成型体の形状は、吸着剤に要求される強度を維持できるような形状であることが望ましい。また、炭化水素ガス吸着速度を向上させるという観点から、成型品の表面積が大きいことが好ましい。
【0048】
本発明において前述の金属錯体を用いて前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する具体的プロセスとしては、例えば、圧力スイング吸着法(圧力変動吸着法:Pressure Swing Adsorption)や温度スイング吸着法(温度変動吸着法:Temperature Swing Adsorption)や透過分離法(膜分離)が挙げられ、圧力スイング吸着法が好ましい。
【0049】
圧力スイング吸着法においては、前記金属錯体に、第1の所定圧力(吸着圧力)の下で前記不飽和炭化水素と飽和炭化水素との混合物を接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させる吸着工程を含むことが好ましい。このような吸着工程においては、前記金属錯体が配置された空間(例えば、吸着槽内)の圧力を事前に所望の吸着圧力まで上昇又は低減させた後、前記混合物をその吸着圧力の下で前記空間に導入し、一方の炭化水素(例えば、不飽和炭化水素)が選択的(優先的)に前記金属錯体に吸着されて濃縮し、その炭化水素の減損分と他方の炭化水素(例えば、飽和炭化水素)が前記空間から排出される。
【0050】
また、このような圧力スイング吸着法においては、前記吸着工程の後に、圧力を第2の所定圧力(脱離圧力)に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させる脱離工程を更に含むことがより好ましい。このような脱離工程(再生工程)においては、一方の炭化水素を選択的に吸着している金属錯体が配置された空間の圧力を所望の脱離圧力まで低減し、金属錯体に吸着されている炭化水素(例えば、不飽和炭化水素)の濃縮分を金属錯体から脱離せしめることによって前記空間から排出される。
【0051】
なお、このような圧力スイング吸着法が一段で不十分な場合は、二段以上とすることができ、その場合は前記吸着工程と前記脱離工程とが二回以上繰り返して行われることになる。
【0052】
前記の圧力スイング吸着法における吸着条件は、分離対象によって決定されるが、温度は200〜523Kが好ましく、250〜427Kがより好ましく、圧力は1〜3000kPaが好ましく、5〜300kPaがより好ましい。また、前記吸着圧力としては、一方の炭化水素の吸着量と他方の炭化水素の吸着量との差が大きく(好ましくは最大)となる圧力が採用され、他方、前記脱離圧力としては、一方の炭化水素の吸着量と他方の炭化水素の吸着量との双方が小さくなる圧力が採用される。
【0053】
次に、本発明の炭化水素の分離装置について説明する。本発明の炭化水素の分離装置は、前述の金属錯体を備える分離手段と、
前記分離手段に炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を導入する導入手段と、
を備えており、前記金属錯体に前記混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する装置であり、前述の本発明の炭化水素の分離方法を実施することが可能である。
【0054】
また、本発明の炭化水素の分離装置においては、前記分離手段において前記金属錯体が配置された空間の圧力を制御する圧力制御手段を更に備えていることが好ましく、前記圧力制御手段により第1の所定圧力の下で前記混合物を前記金属錯体に接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させることにより、前述の吸着工程が実施できるようになっていることが好ましい。
【0055】
さらに、その場合、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させた後に、前記圧力制御手段により圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させることにより、前述の脱離工程が実施できるようになっていることが好ましい。
【0056】
図1に、本発明の炭化水素の分離装置の好適な一実施形態を示す。
【0057】
図1に示す分離装置(圧力スイング吸着装置の一例)においては、前述の金属錯体が充填された吸着槽(分離手段)1が配置されており、その一端にバルブV1を有する導入管P1を介して圧縮機2(導入手段)が接続され、さらに圧縮機2にはバルブV2を有する原料ガス(前記混合物)の導入管P2とバルブV3を有するパージガスの導入管P3とが接続されている。また、吸着槽1の他端には、バルブV4を有する排出管P4を介して減圧機3(圧力制御手段)が接続され、さらに減圧機3にはバルブV5を有する製品ガス(分離された炭化水素)の排出管P5とバルブV6を有するパージガスの排出管P6とが接続されている。さらに、圧縮機2、減圧機3、バルブV1〜V6には制御手段4(例えば、PLC)が電気的に接続されており、それらの動作を制御することができるように構成されている。
【0058】
図1に示す分離装置を用いて炭化水素を分離する場合、例えば以下のように制御される。すなわち、先ず、吸着槽1内に圧縮機2によりパージガスが導入された後、減圧機3により吸着槽1内の圧力が前記第1の所定圧力(吸着圧力)となるように減圧される。次いで、その圧力の下で吸着槽1内に圧縮機2により原料ガスが導入され、一方の炭化水素(例えば、不飽和炭化水素)が選択的に前記金属錯体に吸着されて濃縮し、その炭化水素の減損分と他方の炭化水素(例えば、飽和炭化水素)が第一の製品ガスとして排出される。
【0059】
次に、減圧機3により吸着槽1内の圧力を前記第2の所定圧力(脱離圧力)まで減圧し、それにより前記金属錯体に吸着されていた炭化水素(例えば、不飽和炭化水素)の濃縮分が金属錯体から脱離して第二の製品ガスとして排出される。
【0060】
以上、本発明の炭化水素の分離装置の好適な一実施形態について説明したが、本発明の分離装置は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、圧縮機と減圧機の一方が導入手段と圧力制御手段とを兼ねる場合はいずれか一方のみでもよい。また、金属錯体が充填された吸着槽として、複数の吸着槽(吸着塔)が並列又は直列に接続されていてもよい。
【0061】
次に、本発明の金属錯体について説明する。本発明の金属錯体は、前記式(I)で表される配位子と、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン(好ましくはギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンなど)、及びアルコキシドイオン(好ましくはメトキシドイオン、エトキシドイオン、イソプロポキシドイオンなど)からなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体である。
【0062】
本発明の金属錯体における前記式(I)で表される配位子の好ましい形態は、前述の本発明の炭化水素の分離方法における式(I)で表される配位子の好ましい形態と同じである。
【0063】
本発明の金属錯体における前記金属イオンの好ましい形態は、前述の本発明の炭化水素の分離方法における金属イオンの好ましい形態と同じである。
【0064】
本発明の金属錯体は、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン及びトリフルオロ酢酸イオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことが好ましく、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン及びトリフルオロ酢酸イオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがより好ましい。
【0065】
本発明の金属錯体は前記2種類以上のカウンターイオンを含むが、含まれるカウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ0.01mol%以上含まれていることが好ましい。カウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ0.1mol%以上含まれていることがより好ましく、カウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ1mol%以上含まれていることがさらに好ましい。
【0066】
本発明の金属錯体を構成する、前述の金属イオンとカウンターイオンと式(I)で表される配位子との組成比(モル比)は、金属錯体全体として電気的に中性となること以外に制約はなく、好ましい形態は、前述の本発明の炭化水素の分離方法における、金属錯体を構成する前述の金属イオンとカウンターイオンと式(I)で表される配位子との組成比(モル比)の好ましい形態と同じである。
【0067】
本発明の金属錯体は、上記式(I)で表される配位子以外に補助配位子を有していてもよい。金属錯体が有する補助配位子の好ましい形態は、前述の本発明の炭化水素の分離方法における、補助配位子の好ましい形態と同じである。
【0068】
また、本発明の金属錯体は、前述の補助配位子以外に、溶媒を配位子として有していても或いは隙間に吸着されている物質として有していてもよく、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサンなどが挙げられ、好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドである。係る溶媒は、一種でも二種以上でもよい。
【0069】
本発明における金属錯体は、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との分離効率をより高めることができるので、規則構造及び柔軟構造を有することが好ましい。ここでいう規則構造とは、粉末X線回折の測定により単位格子に由来するピークが15o(2θ)以下、好ましくは12o以下、より好ましくは10o以下に観測されることを特徴とする規則構造であり、前記ピークが3o(2θ)以上であることが好ましく、4o以上であることがより好ましい。また、ここでいう柔軟構造とは、外部刺激(例えばゲスト分子の吸着)により構造が変化することを特徴とする。本発明において柔軟構造を有する金属錯体は小分子の吸着に伴い粉末X線回折パターンが変化する。また、柔軟構造を有する金属錯体は、吸着した小分子が脱離することで再び構造が変化し、通常、小分子を吸着する前の構造を回復する。
【0070】
さらに、本発明の金属錯体においては、前記2種類以上のカウンターイオンの比を調節することによって吸着特性が制御されていることが好ましく、本発明の金属錯体は、不飽和炭化水素(特に好ましくはプロピレン)と飽和炭化水素(特に好ましくはプロパン)とを分離するために好適に用いられる。
【0071】
本発明の金属錯体に含まれるカウンターイオンの比は、金属錯体の原料に含まれるイオンの比の制御によって調節することができる。この場合、金属錯体の原料に含まれるイオンの比の制御は、異なるカウンターイオンを含む金属塩を任意の割合で原料として用いたり、部分的なイオン交換を行うための有機塩又は無機塩を反応系中に加えたりすることで、任意の割合で2種類以上のカウンターイオンを含む金属錯体を得ることができる。
【0072】
また、本発明の金属錯体に含まれるカウンターイオンの比は、前記本発明の炭化水素の分離方法に記載の金属錯体に対し、部分的なイオン交換を行うことによって調節することもできる。この場合、金属錯体の原料に含まれるイオンの比の制御は、イオン交換を行う前の金属錯体に含まれるカウンターイオンの種類及び量と、部分的なイオン交換を行うために加える有機塩又は無機塩の種類及び量を制御することで、任意の割合で2種類以上のカウンターイオンを含む金属錯体を得ることができる。
【0073】
2種類以上のカウンターイオンを含む金属錯体の吸着特性は、1種類のカウンターイオンしかもたない金属錯体の混合物が示す吸着特性とは異なり、且つ、カウンターイオンの比率に応じて吸着特性を徐々に制御することが可能である。したがって、含まれる2種類以上のカウンターイオンの比を調節することで吸着特性を制御することにより、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との混合物の分離条件の制約に合わせて、より好ましい吸着特性を示す金属錯体を提供することが容易になる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価はそれぞれ次のようにして行った。
【0075】
(1)粉末X線回折パターンの測定
粉末X線装置を用いて、回折角(2θ)=3〜40°の範囲を走査速度2°/分で走査し、対称反射法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<測定条件>
装置:株式会社リガク製RINT−UltimaIII
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 40mA
ゴニオメーター:水平ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=1mm
発散縦制限スリット=10mm
受光スリット=開放
散乱スリット=開放。
【0076】
(2)元素分析
炭素、水素及び窒素については、炭素・水素・窒素同時測定装置を用いて定量した。また、ハロゲンについては、陰イオンクロマトグラフィー装置を用いて定量した。測定条件の詳細を以下に示す。
<測定条件>
≪炭素・水素・窒素≫
装置:株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製MICRO CORDER JM10
燃焼温度:950℃
燃焼時間:4分
≪ハロゲン≫
装置:日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフDX−500
カラム:AS12A
カラム温度:30℃
検出器温度:35℃
流速:1.5mL/分。
【0077】
(3)吸脱着等温線の測定
自動比表面積/細孔分布測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、5Paで16時間乾燥し、吸着水などを除去した。測定条件の詳細を以下に示す。
<測定条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−miniII
圧力プログラム:5kPa以下→120kPa→10kPa以下
平衡待ち時間:300秒。
【0078】
(合成例1)
大気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物0.345g(1.0mmol)を水20mLに溶解させ、298Kで5分間攪拌した。続いて、得られた溶液に1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.396g(2.0mmol)のアセトン溶液20mLを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで3時間乾燥し、目的の金属錯体0.422g(収率67%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。図2に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:テトラフルオロホウ酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:48.59,H:4.41,N:8.78,F:22(%)
理論値 C:49.28,H:4.45,N:8.84,F:23.98(%)。
【0079】
(合成例2)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.741g(2.0mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム1.47g(8.0mmol)をメタノール20mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液に水20mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.792g(4.0mmol)のアセトン溶液20mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで5時間乾燥し、目的の金属錯体1.11g(収率74%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。図3に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:41.74,H:3.90,N:7.51,F:28(%)
理論値 C:41.64,H:3.76,N:7.47,F:30.40(%)。
【0080】
(合成例3)
大気下、トリフルオロメタンスルホン酸銅0.182g(0.5mmol)を水10mLに溶解させ、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.198g(1.0mmol)の2−ブタノン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.268g(収率70%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。図4に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:44.15,H:3.63,N:7.20,F:14,S:8.40(%)
理論値 C:44.35,H:3.72,N:7.39,F:15.03,S:8.46(%)。
【0081】
(合成例4)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.282g(0.76mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.56g(3.04mmol)をメタノール3.8mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にトリフルオロメタンスルホン酸銅0.014g(0.04mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.317g(1.6mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.540g(収率90%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に示す。図5に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.95:0.05:2であった。
実測値 C:41.71,H:3.80,N:7.48,F:31,S:0.27(%)
理論値 C:41.71,H:3.76,N:7.47,F:30.01,S:0.21(%)。
【0082】
(合成例5)
大気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物0.069g(0.2mmol)及びトリフルオロメタンスルホン酸銅0.072g(0.2mmol)を水10mLに溶解させ、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.159g(0.8mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.126g(収率45%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図6に示す。図6に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:テトラフルオロホウ酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1:1:2であった。
実測値 C:46.37,H:4.02,N:8.04,F:19,S:4.17(%)
理論値 C:46.60,H:4.06,N:8.05,F:19.11,S:4.61(%)。
【0083】
(合成例6)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.148g(0.4mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.295g(1.6mmol)をメタノール4mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にトリフルオロメタンスルホン酸銅0.145g(0.4mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.317g(1.6mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.523g(収率87%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。図7に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.1:0.9:2であった。
実測値 C:42.79,H:3.75,N:7.17,F:23,S:3.96(%)
理論値 C:42.87,H:3.74,N:7.43,F:23.44,S:3.83(%)。
【0084】
(合成例7)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.333g(0.9mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.663g(3.6mmol)をメタノール4.5mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にトリフルオロメタンスルホン酸銅0.036g(0.1mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.397g(2.0mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体0.6131g(収率82%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。図8に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.8:0.2:2であった。
実測値 C:41.72,H:3.70,N:7.34,F:30,S:0.82(%)
理論値 C:41.91,H:3.76,N:7.46,F:28.85,S:0.85(%)。
【0085】
(合成例8)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.267g(0.72mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.530g(2.88mmol)をメタノール5mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にメタンスルホン酸銅0.02g(0.08mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.317g(1.6mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.520g(収率88%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図9に示す。図9に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:メタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.85:0.15:2であった。
実測値 C42.24:,H3.81:,N7.36:,F:29,S:0.62(%)
理論値 C:42.30,H:3.86,N:7.55,F:28.40,S:0.65(%)。
【0086】
(合成例9)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.074g(0.2mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.147g(0.8mmol)をメタノール4mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にメタンスルホン酸銅0.51g(0.2mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.159g(0.8mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.203g(収率69%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図10に示す。図10に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:メタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.6:0.4:2であった。
実測値 C:43.16,H:4.05,N:7.43,F:25,S:1.68(%)
理論値 C:43.43,H:4.03,N:7.67,F:24.98,S:1.76(%)。
【0087】
(合成例10)
大気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物0.069g(0.2mmol)及びメタンスルホン酸銅0.051g(0.2mmol)を水10mLに溶解させ、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.159g(0.8mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.203g(収率69%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図11に示す。図11に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:テトラフルオロホウ酸イオン:メタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.85:0.15:2であった。
実測値 C:49.39,H:4.30,N:8.69,F:21,S:0.73(%)
理論値 C:49.47,H:4.52,N:8.82,F:22.14,S:0.76(%)。
【0088】
(比較合成例1)
大気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物0.345g(1.0mmol)を水20mLに溶解させ、298Kで5分間攪拌した。続いて、得られた溶液に1,3−ビス(4−ピリジル)エタン0.368g(2.0mmol)のアセトン溶液20mLを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで3時間乾燥し、目的の金属錯体0.399g(収率66%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図12に示す。
【0089】
(比較合成例2)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.741g(2.0mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム1.47g(8.0mmol)をメタノール20mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液に水20mLを加え、これを溶液Bとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)エタン0.736g(4.0mmol)のアセトン溶液20mLに溶液Bを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで5時間乾燥し、目的の金属錯体0.921g(収率64%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図13に示す。
【0090】
(実施例1)
合成例1で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図14に示すが、6〜10kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で150倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。また、図15にプロパン及びプロピレンの263K、273K、283Kにおける吸脱着等温線を示す。いずれの温度でも同様の傾向が確認された。
【0091】
(実施例2)
合成例2で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図16に示すが、50〜85kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は20〜30倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。また、図17にプロパン及びプロピレンの263K、273K、283Kにおける吸脱着等温線を示す。いずれの温度でも同様の傾向が確認された。
【0092】
(実施例3)
合成例3で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図18に示すが、5〜15kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で30倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0093】
(実施例4)
合成例4で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図19に示すが、45〜75kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で20倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0094】
(実施例5)
合成例5で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図20に示すが、4〜7kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で30倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0095】
(実施例6)
合成例6で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図21に示すが、40〜120kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で15倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0096】
(実施例7)
合成例7で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図22に示すが、40〜90kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で20倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0097】
(実施例8)
合成例8で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図23に示すが、50〜95kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で30倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0098】
(実施例9)
合成例9で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図24に示すが、60〜120kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で20倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0099】
(実施例10)
合成例10で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図25に示すが、8〜20kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で140倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0100】
(比較例1)
比較合成例1で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図26に示すが、プロピレンおよびプロパンともにほとんど吸着されず、吸着選択性も得られなかった。
【0101】
(比較例2)
比較合成例2で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図27に示すが、プロピレンおよびプロパンともにほとんど吸着されず、吸着選択性も得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明によれば、実用上過度の低圧化を要しないで用いることができる1kPa以上という圧力領域において、プロピレンとプロパンなどの炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の炭化水素であっても不飽和炭化水素と飽和炭化水素を高効率で分離することが可能な炭化水素の分離方法並びに分離装置を提供することが可能となる。
【0103】
また、本発明によれば、2種類以上のカウンターイオンの比を調節することで吸着特性を制御することができるので、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との混合物の分離条件の制約に合わせて、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との混合物の分離に好ましい吸着特性を示す金属錯体を提供することが容易になる。
【0104】
したがって、本発明は、このような炭化水素を分離するための装置の小型化や分離するためのエネルギーの省力化などのための技術として非常に有用である。
【符号の説明】
【0105】
1…吸着槽(分離手段)、2…圧縮機(導入手段)、3…減圧機(圧力制御手段)、4…制御手段、V1〜V6…バルブ、P1〜P6…配管。
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素数3以上の不飽和炭化水素と飽和炭化水素との分離方法、それに用いる分離装置、並びにそれに有用な金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和炭化水素と飽和炭化水素の分離は一般に蒸留により行われているが、プロピレンとプロパンなどの炭素数が同じ不飽和炭化水素と飽和炭化水素は沸点が近いため、このような炭化水素を分離するためには非常に高段数の精留塔が不可欠であった。また、吸着剤に対する吸着特性の違いを利用した分離方法も知られているが、吸着剤として一般的に知られている活性炭やゼオライトでは、このような炭化水素の吸着特性にほとんど差がないため、それらを分離するには大型の設備や大量のエネルギーが必要になるという問題があった。
【0003】
このような状況下で、近年、新たな吸着剤として多孔性金属錯体が検討されており、以下の非特許文献1や非特許文献2においては、プロピレンとプロパンに対する吸着特性に関し、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸を配位子とする多孔性金属錯体の吸着特性が報告されている。しかしながら、このような多孔性金属錯体を吸着剤として用いた場合であっても、プロピレンとプロパンの吸着特性に大きな差が出るのは実用上過度の低圧化を要する1kPa未満の圧力領域であり、1kPa以上という圧力領域においてプロピレンとプロパンとを高効率で分離することはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】N.Lamia et al.,Chem.Eng.Sci.64(2009)p.3246−3259
【非特許文献2】J.W.Yoon et al.,Angew.Chem.Int.Ed.49(2010)p.5949−5952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、実用上過度の低圧化を要しないで用いることができる1kPa以上という圧力領域において、プロピレンとプロパンなどの炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の炭化水素であっても不飽和炭化水素と飽和炭化水素を高効率で分離することが可能な炭化水素の分離方法及び分離装置、並びにそれに有用な金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明の炭化水素の分離方法は、下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
{式中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、nは3〜20の整数であり、Rは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかであり、但し、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはなく、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合はそれらが結合して環を形成していてもよく、複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。}
で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体に、炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する工程を有する方法である。
【0008】
このような本発明の炭化水素の分離方法に用いる金属錯体は、2種類以上のカウンターイオンを含むことが好ましく、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン、及びアルコキシドイオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがさらに好ましい。
【0009】
このような本発明の炭化水素の分離方法においては、前記金属錯体に、第1の所定圧力の下で前記混合物を接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させる吸着工程を含むことが好ましい。さらに、その場合、前記吸着工程の後に、圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させる脱離工程を更に含むことがより好ましい。
【0010】
また、本発明の炭化水素の分離装置は、前記式(I)で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体を備える分離手段と、
前記分離手段に炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を導入する導入手段と、
を備えており、前記金属錯体に前記混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する装置である。
【0011】
このような本発明の炭化水素の分離装置においては、前記分離手段において前記金属錯体が配置された空間の圧力を制御する圧力制御手段を更に備えていることが好ましく、前記圧力制御手段により第1の所定圧力の下で前記混合物を前記金属錯体に接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させることが好ましい。さらに、その場合、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させた後に、前記圧力制御手段により圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させることがより好ましい。
【0012】
また、本発明の金属錯体は、前記式(I)で表される配位子と、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン、及びアルコキシドイオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体である。
【0013】
また、本発明の炭化水素の分離方法及び炭化水素の分離装置においては用いる金属錯体の配位子が、本発明の金属錯体においてはその配位子が、以下の(i)〜(iii):
(i)前記式(I)中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む芳香族複素単環基であること。
(ii)前記式(I)中、Rは前記式(II−1)で表される基であること。
(iii)前記式(I)中、nは3〜6の整数であること。
のうちの少なくとも一つの条件を満たすことが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の金属錯体においては、前記2種類以上のカウンターイオンの比を調節することによって吸着特性が制御されていることが好ましく、本発明の金属錯体は、不飽和炭化水素(特に好ましくはプロピレン)と飽和炭化水素(特に好ましくはプロパン)とを分離するために好適に用いられる。
【0015】
なお、本発明の炭化水素の分離方法及び分離装置において1kPa以上という圧力領域で炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の炭化水素であっても不飽和炭化水素と飽和炭化水素を高効率で分離することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。本発明においては窒素原子を含む複素環基が所定の基で結合されている配位子をカウンターイオン及び金属イオンと共に用いているため、係る窒素原子を含む複素環基が金属イオンに配位して形成される金属錯体において金属イオンと所定の長さを有する有機基との規則的な骨格が形成され、それらの金属錯体が規則的な構造を有している。また、本発明の金属錯体はゲスト分子の吸着等の外部刺激により構造が変化する柔軟構造を有する。この新規な柔軟構造金属錯体を吸着剤として利用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を超えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。以上、本発明の金属錯体は規則構造及び柔軟構造を有するため、炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の不飽和炭化水素と飽和炭化水素に対しても選択的な相互作用が働くようになり、そのような炭化水素に対して一方を選択的(優先的)に認識できる吸着剤や分子篩などとして作用するようになると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、実用上過度の低圧化を要しないで用いることができる1kPa以上という圧力領域において、プロピレンとプロパンなどの炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の炭化水素であっても不飽和炭化水素と飽和炭化水素を高効率で分離することが可能な炭化水素の分離方法及び分離装置、並びにそれに有用な金属錯体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の炭化水素の分離装置の好適な一実施形態を示す模式図である。
【図2】合成例1で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図3】合成例2で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図4】合成例3で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図5】合成例4で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図6】合成例5で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図7】合成例6で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図8】合成例7で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図9】合成例8で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図10】合成例9で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図11】合成例10で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図12】比較合成例1で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図13】比較合成例2で得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図14】合成例1で得られた金属錯体を用いて実施例1で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線のうち、273Kで測定した吸脱着等温線を示すグラフである。
【図15】合成例1で得られた金属錯体を用いて実施例1で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図16】合成例2で得られた金属錯体を用いて実施例2で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線のうち、273Kで測定した吸脱着等温線を示すグラフである。
【図17】合成例2で得られた金属錯体を用いて実施例2で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図18】合成例3で得られた金属錯体を用いて実施例3で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図19】合成例4で得られた金属錯体を用いて実施例4で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図20】合成例5で得られた金属錯体を用いて実施例5で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図21】合成例6で得られた金属錯体を用いて実施例6で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図22】合成例7で得られた金属錯体を用いて実施例7で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図23】合成例8で得られた金属錯体を用いて実施例8で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図24】合成例9で得られた金属錯体を用いて実施例9で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図25】合成例10で得られた金属錯体を用いて実施例10で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図26】比較合成例1で得られた金属錯体を用いて比較例1で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【図27】比較合成例2で得られた金属錯体を用いて比較例2で測定したプロパン及びプロピレンの吸脱着等温線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。先ず、本発明の炭化水素の分離方法について説明する。
【0019】
本発明の炭化水素の分離方法は、以下に詳述する窒素原子を含む複素環基が所定の基で結合されてなる配位子とカウンターイオンと金属イオンとを含む金属錯体に、炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する工程を有する方法である。
【0020】
すなわち、本発明で用いる金属錯体とは、下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
で表される配位子を含むものである。
【0021】
上記式(I)中のQ1及びQ2は、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、同一であっても異なっていてもよい。このような複素環基としては、脂肪族複素環基でも芳香族複素環基でもよいが、金属まわりの構造をより強固にすることができるので芳香族複素環基が好ましい。また、このような複素環基としては、単環基でも縮環基でもよいが、配位子の合成がより容易であることから単環基が好ましい。
【0022】
したがって、Q1及びQ2としては芳香族複素単環基が好ましい。このような芳香族複素単環基としては、ピリジル基、ピリミジン基、ピラジン基、トリアジン基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基が好ましく、4−ピリジル基、1−イミダゾリル基がさらに好ましく、4−ピリジル基が特に好ましい。
【0023】
上記式(I)中のRは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかである。複数あるRは、同一であっても異なっていてもよい。したがって、すべてのRが同じでもよいが、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはない。また、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合は、それらが結合して環(例えば、シクロヘキサン環)を形成していてもよい。
【0024】
このようなRとしては、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、すべてのRが式(II−1)で表される基であるか、一つまたは二つのRが式(II−2)、式(II−3)、式(II−4)で表される基のいずれかで且つ残りのRが式(II−1)で表される基であることが好ましく、すべてのRが式(II−1)で表される基であるか、一つのRが式(II−2)、式(II−3)、式(II−4)で表される基のいずれかで且つ残りのRが式(II−1)で表される基であることがより好ましく、すべてのRが式(II−1)で表される基であることが特に好ましい。
【0025】
式(II−1)中のR1、R2におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子がより好ましく、フッ素原子が特に好ましい。また、式(II−1)、式(II−4)中のR1〜R3における炭化水素基としては、炭素数6以下の炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。さらに、このような炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、窒素原子を含む複素環基が挙げられ、それらの好ましい例は前記と同様である。
【0026】
式(II−1)中のR1、R2としては、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、水素原子、フッ素原子、メチル基、4−ピリジルメチル基が好ましく、水素原子、フッ素原子、メチル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。また、式(II−4)中のR3としては、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、水素原子、メチル基、4−ピリジルメチル基が好ましく、水素原子、メチル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0027】
上記式(I)中のnは、3〜20の整数である。係るnが2以下では、炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の不飽和炭化水素と飽和炭化水素に対して選択的な相互作用が働かなくなり、そのような炭化水素に対して一方を選択的(優先的)に認識することができなくなる。他方、係るnが20を超えると、該配位子と金属イオンから規則的な骨格ができなくなる。また、上記式(I)中のnは、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、3〜6の整数が好ましく、3又は4がより好ましく、3が特に好ましい。
【0028】
上記式(I)で表される配位子として、具体的には以下の1〜24が挙げられ、分離性能がより良好となり、且つ合成がより容易となることから、好ましくは1〜17であり、より好ましくは1〜8であり、特に好ましくは1〜4であり、最も好ましくは1である。
【0029】
【化1】
【0030】
本発明においては、前述の配位子と共に金属イオン及びカウンターイオンを含む金属錯体が用いられる。
【0031】
このような金属イオンとしては、例えば、周期表第2族から第13族の金属イオンが挙げられる。中でも、骨格形成がし易く、且つ分離性能がより良好となることから、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、スズ、鉛、ビスマスのイオンが好ましく、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウムのイオンがより好ましく、鉄、銅、銀のイオンが特に好ましい。係る金属イオンは、一種でも二種以上でもよい。また、このような金属イオンの価数としては、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、2〜3が特に好ましい。
【0032】
前記の金属イオンは通常陽イオンであることから、得られる金属錯体全体として電気的に中性にするためにカウンターイオンは通常陰イオンである。このようなカウンターイオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート;ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンなどのカルボン酸イオン;メトキシドイオン、エトキシドイオン、イソプロポキシドイオンなどのアルコキシドイオンが挙げられる。中でも、分離性能がより良好となることから、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンが好ましく、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンがより好ましい。係るカウンターイオンは、一種でも二種以上でもよい。
【0033】
本発明の炭化水素の分離方法に用いる金属錯体が2種類以上のカウンターイオンを含む場合には2種類以上のカウンターイオンの比率を変更することで吸着分離特性の段階的な制御が可能になり気体分離の系にあわせて最適化することが容易になることから、本発明の炭化水素の分離方法に用いる金属錯体は2種類以上のカウンターイオンを含むことが好ましく、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン(好ましくはギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンなど)、及びアルコキシドイオン(好ましくはメトキシドイオン、エトキシドイオン、イソプロポキシドイオンなど)からなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがより好ましい。
【0034】
本発明の炭化水素の分離方法に用いる金属錯体は、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン及びトリフルオロ酢酸イオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがさらに好ましく、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン及びトリフルオロ酢酸イオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがよりいっそう好ましい。
【0035】
本発明の金属錯体が2種類以上のカウンターイオンを含む場合、含まれるカウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ0.01mol%以上含まれていることが好ましい。カウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ0.1mol%以上含まれていることがより好ましく、カウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ1mol%以上含まれていることがさらに好ましい。
【0036】
本発明において用いる金属錯体を構成する前述の金属イオンとカウンターイオンと式(I)で表される配位子との組成比(モル比)は、金属錯体全体として電気的に中性となること以外に制約はないが、骨格形成がし易く、且つ分離性能がより良好となることから、金属イオン:カウンターイオン:式(I)で表される配位子=1:0.2〜6:1〜6であることが好ましく、1:0.3〜3:1〜3であることがより好ましい。
【0037】
本発明においては、前述の金属錯体を形成するために、上記式(I)で表される配位子以外に補助配位子を有していてもよい。このような補助配位子としては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ピペラジン、トリエチレンジアミン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、2,2’−ビピリジル、3,3’−ビピリジル、4,4’−ビピリジルなどの窒素原子を2つ有する化合物や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのカルボキシル基を2つ有する化合物が挙げられる。好ましくは、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ピペラジン、トリエチレンジアミン、ピラジン、4,4’−ビピリジル、シュウ酸、シュウ酸、マロン酸、テレフタル酸である。係る補助配位子は、一種でも二種以上でもよい。
【0038】
また、本発明において用いる金属錯体は、前述の補助配位子以外に、溶媒を配位子として有していてもよい。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサンなどが挙げられ、好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドである。係る溶媒は、一種でも二種以上でもよい。
【0039】
本発明において用いる金属錯体としては、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との分離効率をより高めることができるので、規則構造及び柔軟構造を有することが好ましい。ここでいう規則構造とは、粉末X線回折の測定により単位格子に由来するピークが15o(2θ)以下、好ましくは12o以下、より好ましくは10o以下に観測されることを特徴とする規則構造であり、前記ピークが3o(2θ)以上であることが好ましく、4o以上であることがより好ましい。また、ここでいう柔軟構造とは、外部刺激(例えばゲスト分子の吸着)により構造が変化することを特徴とする。本発明において柔軟構造を有する金属錯体は小分子の吸着に伴い粉末X線回折パターンが変化する。また、柔軟構造を有する金属錯体は、吸着した小分子が脱離することで再び構造が変化し、通常、小分子を吸着する前の構造を回復する。
【0040】
また、本発明において用いる金属錯体の製造方法としては、特に限定はないが、上記式(I)で表される配位子を、前記金属イオン及び前記カウンターイオンからなる金属塩と溶媒中で反応せしめることにより製造することが好ましい。ここで用いる溶媒としては、前述の溶媒を使用でき、また、前記溶媒中に前記補助配位子をさらに加えてもよい。
【0041】
上記式(I)で表される配位子と前記金属塩のモル比は、好ましくは0.1〜10.0:1であり、より好ましくは0.2〜5:1である。上記式(I)で表される配位子と前記の金属塩の濃度はそれぞれ、好ましくは1〜1000mmol/Lであり、より好ましくは10〜500mmol/Lである。
【0042】
前記配位子を前記金属塩と反応せしめる際の反応温度は、室温以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、上限は一般に200℃である。係る反応は常圧下で行うことができるが、0.01〜100MPaの圧力下で行うことが好ましく、0.01〜10MPaの圧力下で行うことがより好ましく、0.1〜10MPaの圧力下で行うことがさらに好ましい。反応時間は、通常1分〜1週間、好ましくは5分〜120時間である。
【0043】
このような反応に用いる反応容器としては、開放型容器でもよいが、オートクレーブなどの密閉型容器が好ましい。反応容器の加熱は、オイルバスやオーブンなどを用いたり、マイクロ波や超音波を照射したりすることによって行うことができる。
【0044】
また、前記反応において溶媒として適切なものを選択すると、生成した金属錯体は沈殿物として反応溶液中に析出する。析出した金属錯体を濾過などにより捕集した後、反応に用いた溶媒と同じ種類の溶媒、又は反応に用いた溶媒よりも揮発性が高い溶媒を用いて、析出した金属錯体を洗浄することが好ましい。さらに、得られた金属錯体が多孔性となっている場合は、細孔部に原料化合物や溶媒が吸着していることがあるため、これらを除去するために、金属錯体を乾燥することが好ましい。係る乾燥としては、室温又は加熱条件下での減圧乾燥が好ましい。
【0045】
本発明においては、前述の金属錯体に、炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離するものであり、その際に前記金属錯体を吸着剤又は分子篩として好適に用いることができる。係る金属錯体は、一種でも、二種以上を含んでいてもよい。
【0046】
ここでいう飽和炭化水素は、アルカン、シクロアルカンであり、アルカンが好ましい。また不飽和炭化水素は、アルケン、アルキン、アルカジエン、アルカトリエン、芳香族炭化水素が挙げられるが、アルケン、アルキン、アルカジエンが好ましく、アルケン、アルキンがより好ましい。本発明において分離される対象となる不飽和炭化水素と飽和炭化水素は、炭素数が3以上のものであるが、炭素数が3〜6の不飽和炭化水素と飽和炭化水素が好ましく、炭素数が3又は4の不飽和炭化水素と飽和炭化水素がより好ましく、プロピレンとプロパンが特に好ましい。前記金属錯体を吸着剤として用いる場合の作用機構は定かではないが、通常、不飽和炭化水素の吸着量が飽和炭化水素の吸着量に比べてはるかに大きくなり、不飽和炭化水素と飽和炭化水素とを分離することが可能である。
【0047】
本発明の分離方法において、前記金属錯体をそのまま、あるいは適当に粉砕することで粉末状にして用いることもできるが、適切な成型手段により成型して成型体として用いてもよい。なお、この成型において成型剤を用いる場合には、成型後に得られる吸着剤の炭化水素ガス吸着特性及び吸着後の炭化水素ガス脱離特性が著しく損なわれないようにして、成型剤の種類及びその使用量を定めることが好ましい。このような成型手段としてはプレス成型が例示される。吸着剤として用いる場合の成型体の形状は、吸着剤に要求される強度を維持できるような形状であることが望ましい。また、炭化水素ガス吸着速度を向上させるという観点から、成型品の表面積が大きいことが好ましい。
【0048】
本発明において前述の金属錯体を用いて前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する具体的プロセスとしては、例えば、圧力スイング吸着法(圧力変動吸着法:Pressure Swing Adsorption)や温度スイング吸着法(温度変動吸着法:Temperature Swing Adsorption)や透過分離法(膜分離)が挙げられ、圧力スイング吸着法が好ましい。
【0049】
圧力スイング吸着法においては、前記金属錯体に、第1の所定圧力(吸着圧力)の下で前記不飽和炭化水素と飽和炭化水素との混合物を接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させる吸着工程を含むことが好ましい。このような吸着工程においては、前記金属錯体が配置された空間(例えば、吸着槽内)の圧力を事前に所望の吸着圧力まで上昇又は低減させた後、前記混合物をその吸着圧力の下で前記空間に導入し、一方の炭化水素(例えば、不飽和炭化水素)が選択的(優先的)に前記金属錯体に吸着されて濃縮し、その炭化水素の減損分と他方の炭化水素(例えば、飽和炭化水素)が前記空間から排出される。
【0050】
また、このような圧力スイング吸着法においては、前記吸着工程の後に、圧力を第2の所定圧力(脱離圧力)に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させる脱離工程を更に含むことがより好ましい。このような脱離工程(再生工程)においては、一方の炭化水素を選択的に吸着している金属錯体が配置された空間の圧力を所望の脱離圧力まで低減し、金属錯体に吸着されている炭化水素(例えば、不飽和炭化水素)の濃縮分を金属錯体から脱離せしめることによって前記空間から排出される。
【0051】
なお、このような圧力スイング吸着法が一段で不十分な場合は、二段以上とすることができ、その場合は前記吸着工程と前記脱離工程とが二回以上繰り返して行われることになる。
【0052】
前記の圧力スイング吸着法における吸着条件は、分離対象によって決定されるが、温度は200〜523Kが好ましく、250〜427Kがより好ましく、圧力は1〜3000kPaが好ましく、5〜300kPaがより好ましい。また、前記吸着圧力としては、一方の炭化水素の吸着量と他方の炭化水素の吸着量との差が大きく(好ましくは最大)となる圧力が採用され、他方、前記脱離圧力としては、一方の炭化水素の吸着量と他方の炭化水素の吸着量との双方が小さくなる圧力が採用される。
【0053】
次に、本発明の炭化水素の分離装置について説明する。本発明の炭化水素の分離装置は、前述の金属錯体を備える分離手段と、
前記分離手段に炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を導入する導入手段と、
を備えており、前記金属錯体に前記混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する装置であり、前述の本発明の炭化水素の分離方法を実施することが可能である。
【0054】
また、本発明の炭化水素の分離装置においては、前記分離手段において前記金属錯体が配置された空間の圧力を制御する圧力制御手段を更に備えていることが好ましく、前記圧力制御手段により第1の所定圧力の下で前記混合物を前記金属錯体に接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させることにより、前述の吸着工程が実施できるようになっていることが好ましい。
【0055】
さらに、その場合、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させた後に、前記圧力制御手段により圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させることにより、前述の脱離工程が実施できるようになっていることが好ましい。
【0056】
図1に、本発明の炭化水素の分離装置の好適な一実施形態を示す。
【0057】
図1に示す分離装置(圧力スイング吸着装置の一例)においては、前述の金属錯体が充填された吸着槽(分離手段)1が配置されており、その一端にバルブV1を有する導入管P1を介して圧縮機2(導入手段)が接続され、さらに圧縮機2にはバルブV2を有する原料ガス(前記混合物)の導入管P2とバルブV3を有するパージガスの導入管P3とが接続されている。また、吸着槽1の他端には、バルブV4を有する排出管P4を介して減圧機3(圧力制御手段)が接続され、さらに減圧機3にはバルブV5を有する製品ガス(分離された炭化水素)の排出管P5とバルブV6を有するパージガスの排出管P6とが接続されている。さらに、圧縮機2、減圧機3、バルブV1〜V6には制御手段4(例えば、PLC)が電気的に接続されており、それらの動作を制御することができるように構成されている。
【0058】
図1に示す分離装置を用いて炭化水素を分離する場合、例えば以下のように制御される。すなわち、先ず、吸着槽1内に圧縮機2によりパージガスが導入された後、減圧機3により吸着槽1内の圧力が前記第1の所定圧力(吸着圧力)となるように減圧される。次いで、その圧力の下で吸着槽1内に圧縮機2により原料ガスが導入され、一方の炭化水素(例えば、不飽和炭化水素)が選択的に前記金属錯体に吸着されて濃縮し、その炭化水素の減損分と他方の炭化水素(例えば、飽和炭化水素)が第一の製品ガスとして排出される。
【0059】
次に、減圧機3により吸着槽1内の圧力を前記第2の所定圧力(脱離圧力)まで減圧し、それにより前記金属錯体に吸着されていた炭化水素(例えば、不飽和炭化水素)の濃縮分が金属錯体から脱離して第二の製品ガスとして排出される。
【0060】
以上、本発明の炭化水素の分離装置の好適な一実施形態について説明したが、本発明の分離装置は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、圧縮機と減圧機の一方が導入手段と圧力制御手段とを兼ねる場合はいずれか一方のみでもよい。また、金属錯体が充填された吸着槽として、複数の吸着槽(吸着塔)が並列又は直列に接続されていてもよい。
【0061】
次に、本発明の金属錯体について説明する。本発明の金属錯体は、前記式(I)で表される配位子と、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン(好ましくはギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンなど)、及びアルコキシドイオン(好ましくはメトキシドイオン、エトキシドイオン、イソプロポキシドイオンなど)からなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体である。
【0062】
本発明の金属錯体における前記式(I)で表される配位子の好ましい形態は、前述の本発明の炭化水素の分離方法における式(I)で表される配位子の好ましい形態と同じである。
【0063】
本発明の金属錯体における前記金属イオンの好ましい形態は、前述の本発明の炭化水素の分離方法における金属イオンの好ましい形態と同じである。
【0064】
本発明の金属錯体は、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン及びトリフルオロ酢酸イオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことが好ましく、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン及びトリフルオロ酢酸イオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンを含むことがより好ましい。
【0065】
本発明の金属錯体は前記2種類以上のカウンターイオンを含むが、含まれるカウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ0.01mol%以上含まれていることが好ましい。カウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ0.1mol%以上含まれていることがより好ましく、カウンターイオンのうち少なくとも2種類がカウンターイオンの全量に対してそれぞれ1mol%以上含まれていることがさらに好ましい。
【0066】
本発明の金属錯体を構成する、前述の金属イオンとカウンターイオンと式(I)で表される配位子との組成比(モル比)は、金属錯体全体として電気的に中性となること以外に制約はなく、好ましい形態は、前述の本発明の炭化水素の分離方法における、金属錯体を構成する前述の金属イオンとカウンターイオンと式(I)で表される配位子との組成比(モル比)の好ましい形態と同じである。
【0067】
本発明の金属錯体は、上記式(I)で表される配位子以外に補助配位子を有していてもよい。金属錯体が有する補助配位子の好ましい形態は、前述の本発明の炭化水素の分離方法における、補助配位子の好ましい形態と同じである。
【0068】
また、本発明の金属錯体は、前述の補助配位子以外に、溶媒を配位子として有していても或いは隙間に吸着されている物質として有していてもよく、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサンなどが挙げられ、好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドである。係る溶媒は、一種でも二種以上でもよい。
【0069】
本発明における金属錯体は、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との分離効率をより高めることができるので、規則構造及び柔軟構造を有することが好ましい。ここでいう規則構造とは、粉末X線回折の測定により単位格子に由来するピークが15o(2θ)以下、好ましくは12o以下、より好ましくは10o以下に観測されることを特徴とする規則構造であり、前記ピークが3o(2θ)以上であることが好ましく、4o以上であることがより好ましい。また、ここでいう柔軟構造とは、外部刺激(例えばゲスト分子の吸着)により構造が変化することを特徴とする。本発明において柔軟構造を有する金属錯体は小分子の吸着に伴い粉末X線回折パターンが変化する。また、柔軟構造を有する金属錯体は、吸着した小分子が脱離することで再び構造が変化し、通常、小分子を吸着する前の構造を回復する。
【0070】
さらに、本発明の金属錯体においては、前記2種類以上のカウンターイオンの比を調節することによって吸着特性が制御されていることが好ましく、本発明の金属錯体は、不飽和炭化水素(特に好ましくはプロピレン)と飽和炭化水素(特に好ましくはプロパン)とを分離するために好適に用いられる。
【0071】
本発明の金属錯体に含まれるカウンターイオンの比は、金属錯体の原料に含まれるイオンの比の制御によって調節することができる。この場合、金属錯体の原料に含まれるイオンの比の制御は、異なるカウンターイオンを含む金属塩を任意の割合で原料として用いたり、部分的なイオン交換を行うための有機塩又は無機塩を反応系中に加えたりすることで、任意の割合で2種類以上のカウンターイオンを含む金属錯体を得ることができる。
【0072】
また、本発明の金属錯体に含まれるカウンターイオンの比は、前記本発明の炭化水素の分離方法に記載の金属錯体に対し、部分的なイオン交換を行うことによって調節することもできる。この場合、金属錯体の原料に含まれるイオンの比の制御は、イオン交換を行う前の金属錯体に含まれるカウンターイオンの種類及び量と、部分的なイオン交換を行うために加える有機塩又は無機塩の種類及び量を制御することで、任意の割合で2種類以上のカウンターイオンを含む金属錯体を得ることができる。
【0073】
2種類以上のカウンターイオンを含む金属錯体の吸着特性は、1種類のカウンターイオンしかもたない金属錯体の混合物が示す吸着特性とは異なり、且つ、カウンターイオンの比率に応じて吸着特性を徐々に制御することが可能である。したがって、含まれる2種類以上のカウンターイオンの比を調節することで吸着特性を制御することにより、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との混合物の分離条件の制約に合わせて、より好ましい吸着特性を示す金属錯体を提供することが容易になる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価はそれぞれ次のようにして行った。
【0075】
(1)粉末X線回折パターンの測定
粉末X線装置を用いて、回折角(2θ)=3〜40°の範囲を走査速度2°/分で走査し、対称反射法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<測定条件>
装置:株式会社リガク製RINT−UltimaIII
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 40mA
ゴニオメーター:水平ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=1mm
発散縦制限スリット=10mm
受光スリット=開放
散乱スリット=開放。
【0076】
(2)元素分析
炭素、水素及び窒素については、炭素・水素・窒素同時測定装置を用いて定量した。また、ハロゲンについては、陰イオンクロマトグラフィー装置を用いて定量した。測定条件の詳細を以下に示す。
<測定条件>
≪炭素・水素・窒素≫
装置:株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製MICRO CORDER JM10
燃焼温度:950℃
燃焼時間:4分
≪ハロゲン≫
装置:日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフDX−500
カラム:AS12A
カラム温度:30℃
検出器温度:35℃
流速:1.5mL/分。
【0077】
(3)吸脱着等温線の測定
自動比表面積/細孔分布測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、5Paで16時間乾燥し、吸着水などを除去した。測定条件の詳細を以下に示す。
<測定条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−miniII
圧力プログラム:5kPa以下→120kPa→10kPa以下
平衡待ち時間:300秒。
【0078】
(合成例1)
大気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物0.345g(1.0mmol)を水20mLに溶解させ、298Kで5分間攪拌した。続いて、得られた溶液に1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.396g(2.0mmol)のアセトン溶液20mLを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで3時間乾燥し、目的の金属錯体0.422g(収率67%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。図2に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:テトラフルオロホウ酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:48.59,H:4.41,N:8.78,F:22(%)
理論値 C:49.28,H:4.45,N:8.84,F:23.98(%)。
【0079】
(合成例2)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.741g(2.0mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム1.47g(8.0mmol)をメタノール20mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液に水20mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.792g(4.0mmol)のアセトン溶液20mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで5時間乾燥し、目的の金属錯体1.11g(収率74%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。図3に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:41.74,H:3.90,N:7.51,F:28(%)
理論値 C:41.64,H:3.76,N:7.47,F:30.40(%)。
【0080】
(合成例3)
大気下、トリフルオロメタンスルホン酸銅0.182g(0.5mmol)を水10mLに溶解させ、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.198g(1.0mmol)の2−ブタノン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.268g(収率70%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。図4に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:44.15,H:3.63,N:7.20,F:14,S:8.40(%)
理論値 C:44.35,H:3.72,N:7.39,F:15.03,S:8.46(%)。
【0081】
(合成例4)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.282g(0.76mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.56g(3.04mmol)をメタノール3.8mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にトリフルオロメタンスルホン酸銅0.014g(0.04mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.317g(1.6mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.540g(収率90%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に示す。図5に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.95:0.05:2であった。
実測値 C:41.71,H:3.80,N:7.48,F:31,S:0.27(%)
理論値 C:41.71,H:3.76,N:7.47,F:30.01,S:0.21(%)。
【0082】
(合成例5)
大気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物0.069g(0.2mmol)及びトリフルオロメタンスルホン酸銅0.072g(0.2mmol)を水10mLに溶解させ、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.159g(0.8mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.126g(収率45%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図6に示す。図6に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:テトラフルオロホウ酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1:1:2であった。
実測値 C:46.37,H:4.02,N:8.04,F:19,S:4.17(%)
理論値 C:46.60,H:4.06,N:8.05,F:19.11,S:4.61(%)。
【0083】
(合成例6)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.148g(0.4mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.295g(1.6mmol)をメタノール4mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にトリフルオロメタンスルホン酸銅0.145g(0.4mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.317g(1.6mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.523g(収率87%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。図7に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.1:0.9:2であった。
実測値 C:42.79,H:3.75,N:7.17,F:23,S:3.96(%)
理論値 C:42.87,H:3.74,N:7.43,F:23.44,S:3.83(%)。
【0084】
(合成例7)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.333g(0.9mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.663g(3.6mmol)をメタノール4.5mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にトリフルオロメタンスルホン酸銅0.036g(0.1mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.397g(2.0mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体0.6131g(収率82%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。図8に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.8:0.2:2であった。
実測値 C:41.72,H:3.70,N:7.34,F:30,S:0.82(%)
理論値 C:41.91,H:3.76,N:7.46,F:28.85,S:0.85(%)。
【0085】
(合成例8)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.267g(0.72mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.530g(2.88mmol)をメタノール5mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にメタンスルホン酸銅0.02g(0.08mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.317g(1.6mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.520g(収率88%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図9に示す。図9に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:メタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.85:0.15:2であった。
実測値 C42.24:,H3.81:,N7.36:,F:29,S:0.62(%)
理論値 C:42.30,H:3.86,N:7.55,F:28.40,S:0.65(%)。
【0086】
(合成例9)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.074g(0.2mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム0.147g(0.8mmol)をメタノール4mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液にメタンスルホン酸銅0.51g(0.2mmol)と水5mLを加え、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.159g(0.8mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.203g(収率69%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図10に示す。図10に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:メタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.6:0.4:2であった。
実測値 C:43.16,H:4.05,N:7.43,F:25,S:1.68(%)
理論値 C:43.43,H:4.03,N:7.67,F:24.98,S:1.76(%)。
【0087】
(合成例10)
大気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物0.069g(0.2mmol)及びメタンスルホン酸銅0.051g(0.2mmol)を水10mLに溶解させ、これを溶液Aとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン0.159g(0.8mmol)のアセトン溶液10mLに溶液Aを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで4時間乾燥し、目的の金属錯体0.203g(収率69%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図11に示す。図11に示した結果から、得られた金属錯体は規則構造を有することが確認された。また、元素分析を行った結果、その組成比(モル比)は、銅イオン:テトラフルオロホウ酸イオン:メタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.85:0.15:2であった。
実測値 C:49.39,H:4.30,N:8.69,F:21,S:0.73(%)
理論値 C:49.47,H:4.52,N:8.82,F:22.14,S:0.76(%)。
【0088】
(比較合成例1)
大気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物0.345g(1.0mmol)を水20mLに溶解させ、298Kで5分間攪拌した。続いて、得られた溶液に1,3−ビス(4−ピリジル)エタン0.368g(2.0mmol)のアセトン溶液20mLを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで3時間乾燥し、目的の金属錯体0.399g(収率66%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図12に示す。
【0089】
(比較合成例2)
大気下、過塩素酸銅六水和物0.741g(2.0mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム1.47g(8.0mmol)をメタノール20mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。その後、得られた溶液に水20mLを加え、これを溶液Bとした。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)エタン0.736g(4.0mmol)のアセトン溶液20mLに溶液Bを滴下した。その後、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水、続いてアセトンで洗浄し、さらに373K、5Paで5時間乾燥し、目的の金属錯体0.921g(収率64%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図13に示す。
【0090】
(実施例1)
合成例1で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図14に示すが、6〜10kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で150倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。また、図15にプロパン及びプロピレンの263K、273K、283Kにおける吸脱着等温線を示す。いずれの温度でも同様の傾向が確認された。
【0091】
(実施例2)
合成例2で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図16に示すが、50〜85kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は20〜30倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。また、図17にプロパン及びプロピレンの263K、273K、283Kにおける吸脱着等温線を示す。いずれの温度でも同様の傾向が確認された。
【0092】
(実施例3)
合成例3で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図18に示すが、5〜15kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で30倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0093】
(実施例4)
合成例4で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図19に示すが、45〜75kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で20倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0094】
(実施例5)
合成例5で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図20に示すが、4〜7kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で30倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0095】
(実施例6)
合成例6で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図21に示すが、40〜120kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で15倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0096】
(実施例7)
合成例7で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図22に示すが、40〜90kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で20倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0097】
(実施例8)
合成例8で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図23に示すが、50〜95kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で30倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0098】
(実施例9)
合成例9で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図24に示すが、60〜120kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で20倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0099】
(実施例10)
合成例10で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図25に示すが、8〜20kPaの範囲において、プロピレン吸着量はプロパン吸着量を上回り、プロピレン吸着量/プロパン吸着量の値は最大で140倍程度を示したことから、吸着特性に選択性があることが確認された。
【0100】
(比較例1)
比較合成例1で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図26に示すが、プロピレンおよびプロパンともにほとんど吸着されず、吸着選択性も得られなかった。
【0101】
(比較例2)
比較合成例2で得られた金属錯体について、プロパン及びプロピレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法によりそれぞれ測定した。結果を図27に示すが、プロピレンおよびプロパンともにほとんど吸着されず、吸着選択性も得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明によれば、実用上過度の低圧化を要しないで用いることができる1kPa以上という圧力領域において、プロピレンとプロパンなどの炭素数が3以上で且つ同じ炭素数の炭化水素であっても不飽和炭化水素と飽和炭化水素を高効率で分離することが可能な炭化水素の分離方法並びに分離装置を提供することが可能となる。
【0103】
また、本発明によれば、2種類以上のカウンターイオンの比を調節することで吸着特性を制御することができるので、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との混合物の分離条件の制約に合わせて、不飽和炭化水素と飽和炭化水素との混合物の分離に好ましい吸着特性を示す金属錯体を提供することが容易になる。
【0104】
したがって、本発明は、このような炭化水素を分離するための装置の小型化や分離するためのエネルギーの省力化などのための技術として非常に有用である。
【符号の説明】
【0105】
1…吸着槽(分離手段)、2…圧縮機(導入手段)、3…減圧機(圧力制御手段)、4…制御手段、V1〜V6…バルブ、P1〜P6…配管。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
{式中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、nは3〜20の整数であり、Rは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかであり、但し、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはなく、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合はそれらが結合して環を形成していてもよく、複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。}
で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体に、炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する工程を有する、炭化水素の分離方法。
【請求項2】
前記式(I)中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む芳香族複素単環基である、請求項1に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項3】
前記式(I)中、Rは前記式(II−1)で表される基である、請求項1又は2に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項4】
前記式(I)中、nは3〜6の整数である、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項5】
前記金属錯体が、2種類以上のカウンターイオンを含む、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項6】
前記2種類以上のカウンターイオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン、及びアルコキシドイオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンである、請求項5に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項7】
前記金属錯体に、第1の所定圧力の下で前記混合物を接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させる吸着工程を含む、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項8】
前記吸着工程の後に、圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させる脱離工程を更に含む、請求項7に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項9】
下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
{式中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、nは3〜20の整数であり、Rは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかであり、但し、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはなく、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合はそれらが結合して環を形成していてもよく、複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。}
で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体を備える分離手段と、
前記分離手段に炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合
物を導入する導入手段と、
を備えており、前記金属錯体に前記混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する、炭化水素の分離装置。
【請求項10】
前記分離手段において前記金属錯体が配置された空間の圧力を制御する圧力制御手段を更に備えており、
前記金属錯体に、前記圧力制御手段により第1の所定圧力の下で前記混合物を接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させる、請求項9に記載の炭化水素の分離装置。
【請求項11】
一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させた後に、前記圧力制御手段により圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させる、請求項10に記載の炭化水素の分離装置。
【請求項12】
下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
{式中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、nは3〜20の整数であり、Rは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかであり、但し、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはなく、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合はそれらが結合して環を形成していてもよく、複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。}
で表される配位子と、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン、及びアルコキシドイオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体。
【請求項13】
前記式(I)中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む芳香族複素単環基である、請求項12に記載の金属錯体。
【請求項14】
前記式(I)中、Rは前記式(II−1)で表される基である、請求項12又は13に記載の金属錯体。
【請求項15】
前記式(I)中、nは3〜6の整数である、請求項12〜14のうちのいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項16】
前記2種類以上のカウンターイオンの比を調節することによって吸着特性が制御されており、不飽和炭化水素と飽和炭化水素とを分離するために用いられる、請求項12〜15のうちのいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項17】
前記不飽和炭化水素がプロピレンであり、前記飽和炭化水素がプロパンである、請求項16に記載の金属錯体。
【請求項1】
下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
{式中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、nは3〜20の整数であり、Rは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかであり、但し、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはなく、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合はそれらが結合して環を形成していてもよく、複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。}
で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体に、炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する工程を有する、炭化水素の分離方法。
【請求項2】
前記式(I)中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む芳香族複素単環基である、請求項1に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項3】
前記式(I)中、Rは前記式(II−1)で表される基である、請求項1又は2に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項4】
前記式(I)中、nは3〜6の整数である、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項5】
前記金属錯体が、2種類以上のカウンターイオンを含む、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項6】
前記2種類以上のカウンターイオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン、及びアルコキシドイオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンである、請求項5に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項7】
前記金属錯体に、第1の所定圧力の下で前記混合物を接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させる吸着工程を含む、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項8】
前記吸着工程の後に、圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させる脱離工程を更に含む、請求項7に記載の炭化水素の分離方法。
【請求項9】
下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
{式中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、nは3〜20の整数であり、Rは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかであり、但し、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはなく、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合はそれらが結合して環を形成していてもよく、複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。}
で表される配位子と、カウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体を備える分離手段と、
前記分離手段に炭素数3以上の不飽和炭化水素と炭素数3以上の飽和炭化水素との混合
物を導入する導入手段と、
を備えており、前記金属錯体に前記混合物を接触せしめることにより前記不飽和炭化水素と前記飽和炭化水素とを分離する、炭化水素の分離装置。
【請求項10】
前記分離手段において前記金属錯体が配置された空間の圧力を制御する圧力制御手段を更に備えており、
前記金属錯体に、前記圧力制御手段により第1の所定圧力の下で前記混合物を接触せしめ、一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させる、請求項9に記載の炭化水素の分離装置。
【請求項11】
一方の炭化水素を前記金属錯体に選択的に吸着させた後に、前記圧力制御手段により圧力を第2の所定圧力に変化させ、前記金属錯体に吸着している炭化水素を脱離させる、請求項10に記載の炭化水素の分離装置。
【請求項12】
下記式(I):
Q1−(R)n−Q2 (I)
{式中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む複素環基であり、nは3〜20の整数であり、Rは、下記式(II−1)〜(II−4):
−C(R1)(R2)− (II−1)
−C(=O)− (II−2)
−O− (II−3)
−N(R3)− (II−4)
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、R3は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
で表される基からなる群から選択されるいずれかであり、但し、式(II−3)又は式(II−4)で表される基が隣り合うことはなく、RがR1〜R3として置換基を有していてもよい炭化水素基を2つ以上有する場合はそれらが結合して環を形成していてもよく、複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。}
で表される配位子と、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、硫化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、チオシアン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、アセチルアセトナート、カルボン酸イオン、及びアルコキシドイオンからなる群より選ばれる2種類以上のカウンターイオンと、金属イオンとを含む金属錯体。
【請求項13】
前記式(I)中、Q1及びQ2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ窒素原子を含む芳香族複素単環基である、請求項12に記載の金属錯体。
【請求項14】
前記式(I)中、Rは前記式(II−1)で表される基である、請求項12又は13に記載の金属錯体。
【請求項15】
前記式(I)中、nは3〜6の整数である、請求項12〜14のうちのいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項16】
前記2種類以上のカウンターイオンの比を調節することによって吸着特性が制御されており、不飽和炭化水素と飽和炭化水素とを分離するために用いられる、請求項12〜15のうちのいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項17】
前記不飽和炭化水素がプロピレンであり、前記飽和炭化水素がプロパンである、請求項16に記載の金属錯体。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2013−63951(P2013−63951A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−169163(P2012−169163)
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」「化学品原料の転換・多様化を可能とする革新グリーン技術の開発」「気体原料の高効率利用技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」「化学品原料の転換・多様化を可能とする革新グリーン技術の開発」「気体原料の高効率利用技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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