説明

不飽和環式炭化水素及びアクリル酸からのメタセシスによる不飽和ジカルボン酸、ポリアミド、ポリエステル及びポリウレタンのためのモノマーとしてのその使用並びにジオール及びジアミンへの引き続いての反応

α,β−不飽和カルボン酸及び相応する飽和カルボン酸を製造するための方法に関し、その際、相当するシクロアルケン及びアクリル酸をルテニウム触媒と一緒に、メタセシス反応を介して高い基質濃度で、反応が生じるまで塊状で変換させ、それにより生じるジカルボン酸が沈澱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
環式炭化水素、例えばシクロオクタジエン(COD)、シクロドデセン(CDEN)、シクロドデカトリエン(CDT)、シクロヘプタン、シクロヘキセン及びシクロペンテンから、メタセシス反応を介して、適した触媒を用いて、α,β−不飽和ジカルボン酸を製造する(反応式1)。
【0002】
【化1】

【0003】
得られたα,β−不飽和ジカルボン酸から、ジアミン又はジオールによる重縮合によって、相当するポリアミド又はポリエステルが得られる。このプラスチックの好ましい特徴は、二重結合を介しての交差架橋が可能なことである。水素化を介して、一つの工程において、相当する飽和ジカルボン酸が生じる。さらに、この化合物は、高いコストを生じることなく、相当するジオール及びジアミンに変換することができる。ポリエステルの他に、ジオールもまたポリウレタンの製造に使用することができる。
【0004】
技術水準:
本発明の方法は、従来の方法に対して顕著な改善を示す。
(Morgan, John, P., Morrill, Christie; Grubbs, Robert, H.; Choi, Tae-Lim WO 02/079127 Al.Choi, T-L.; Lee, C. W.; Chatterjee, A. K.; Grubbs, R. H. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 10417-10418.Randl, S.; Connon, S. J.; Blechert, S. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 2001, 1796-1797.)
【0005】
従来、前記変換の際には、競合反応として進行するオリゴマー化又はポリマー化を停止させる目的のために、大規模な希釈により実施されていた。さらに、溶剤として過剰なジクロロメタンを使用する場合には、その健康を害する可能性に基づいて、その工業的変換のための欠点となる。
【0006】
驚くべきことに、請求項に記載の方法によって、大規模な希釈で処理することなしに、平衡を完全に望ましい生成物の方向に偏らせることが可能であると見出された。さらに、本発明の方法によって、触媒の効果的な再利用が可能である。これは、従来の実施とは対照的に、高い基質濃度で、反応を塊状で実施することによって達成される。反応の過程において、生成物の溶解性が超過する際に、α,β−不飽和ジカルボン酸が沈澱し、それによって平衡(均一相における)が解かれる。
【0007】
本発明の決定的な利点は、さらに、反応の際に生成物が固体として生じるといった事実である。それというのも、開環交差メタセシスは平衡反応であることから、付加的にエチレンを放出して、平衡を好ましい生成物の側に偏る可能性がある。
【0008】
一の時点xへの変換が完全でないかあるいは生成物が部分的に溶液中に残る場合であっても、連続的実施によって最終的には出発材料の完全な変換を達成することができる。
【0009】
生成物に有利となるような反応平衡の効果的な作用に加えて、生成物の容易な分離及びそれに伴う触媒の再生は、プロセス実施における大きな軽減である。使用された触媒は溶剤中にとどまり、かつ再利用することができる。
【0010】
従来の方法において、反応混合物は全体として後処理しなければならない。これは、溶剤の留去によって精製され、かつ、この残留物は、クロマトグラフィーによる精製によって精製される。特に、粗生成物のクロマトグラフィーによる精製は、多量の溶剤及びエネルギー使用及びこれを除去のためのエネルギーを必要とし、これは工業的変換に関して現実的でないものとしている。
【0011】
本発明の反応は10〜100℃、好ましくは20〜80℃及び特に好ましくは20〜60℃の温度で実施する。
【0012】
本発明の反応は、塊状でも溶剤の使用下でも実施することができる。
【0013】
溶剤としては、非環式炭化水素と同様に環式炭化水素も適している。特に、芳香族ハロゲン化炭化水素及びとりわけ好ましくはアルキル基を有する芳香族が適している。
【0014】
溶液中で実施する場合には、>1M濃度のシクロアルケンが好ましい。特に好ましくは、溶剤に対して1〜2Mの濃度及びとりわけ好ましくは2〜4Mの濃度のシクロアルケンである。
【0015】
本発明の方法により、触媒をシクロアルケンの量に対して5〜0.0001モル%の量で使用する。好ましくは、使用された不飽和シクロアルケンの物質量に対して2〜0.001モル%及び特に好ましくは1〜0.5モル%の触媒の量である。
【0016】
ポリマーグレードの品質におけるα,β−不飽和ジカルボン酸を得るために、晶出、蒸留又は双方の組合せによる精製を実施する。
【0017】
触媒として、ルテニウム−カルベン錯体が適しており、これは、特徴の一つとしてN−複素環式カルベンリガンドを有するものである。例は、好ましくは第1図の触媒である。これに関して特に好ましくは、ベンジリデンリガンドにおいて電子求引基R’を有する、タイプ7の触媒である。
【0018】
【化2】

【0019】

例1.1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン[2−(i−プロポキシ)−5−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド(シクロアルケンに対して1モル%)を、シュレンク容器中で、トルエン(2.25ml)中で、アルゴン下で導入した。シクロペンテン(0.3g、4.4mmol)及びアクリル酸(0.79g、11mmol)から成るトルエン(2.25mL)中の溶液を、触媒溶液に対して滴加した。反応混合物を60℃で1時間に亘って撹拌し、引き続いて室温に冷却した。分離した固体を濾別し、冷却したトルエンを用いて洗浄し、かつ真空下で乾燥させた。生成物は、白色の固体として得られた(0.128g、16%)、NMR分析によれば、98.9%の純度が測定された。
【0020】
例2.1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン[2−(i−プロポキシ)−5−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド(シクロアルケンに対して1モル%)を、シュレンク容器中で、トルエン(1.75mL)中で、アルゴン下で導入した。シクロヘキセン(0.3g、3.65mmol)及びアクリル酸(0.66g、9.13mmol)のトルエン(1.75mL)中の溶液を、触媒溶液に対して滴加した。反応混合物を1時間に亘って60℃で攪拌し、引き続いて室温で冷却した。分離した固体を濾別し、少量の冷却トルエンを用いて洗浄し、かつ真空下で乾燥させた。生成物は、白色の固体として得られた(0.272g、38%)。NMR−分析によれば、99.2%の純度が測定された。
【0021】
例3.1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン[2−(i−プロポキシ)−5−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド(シクロアルケンに対して1モル%)を、シュレンク容器中で、トルエン(1.50mL)中で、アルゴン下で導入した。シクロヘプテン(0.3g、3.12mmol)及びアクリル酸(0.56g、7.80mmol)のトルエン(1.50mL)中の溶液を、触媒溶液に滴加した。この反応混合物を1時間に亘って60℃で攪拌し、引き続いて冷却した。分離した固体材料を濾別し、少量の冷却したトルエンで洗浄し、かつ真空下で乾燥させた。生成物は、白色の固体として得られた(0.223g、14%)。NMR−分析によれば、91%の純度が測定された。
【0022】
例4.1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン[2−(i−プロポキシ)−5−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド(シクロアルケンに対して1モル%)を、シュレンク容器中で、トルエン(1.80mL)中で、アルゴン下で導入した。シクロオクタジエン(0.4g、3.70mmol)及びアクリル酸(1.33g、18.49mmol)のトルエン(1.80mL)中の溶液を、触媒溶液に対して滴加した。反応混合物を1時間に亘って60℃で攪拌し、かつ引き続いて室温で冷却した。分離した固体を濾別し、少量の冷却トルエンで洗浄し、かつ真空下で乾燥させた。生成物は、白色の固体として得られた(0.158g、25%)。HPLC分析によれば、98%の純度が測定された。
【0023】
例5.1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン[2−(i−プロポキシ)−5−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド(シクロアルケンに対して1モル%)を、シュレンク容器中で、トルエン(1.50mL)中で、アルゴン下に導入した。シクロヘプテン(0.3g、3.12mmol)及びアクリル酸(0.56g、7.80mmol)のトルエン(1.50mL)中の溶液を、触媒溶液に対して滴加した。反応混合物を1時間に亘って60℃で攪拌し、引き続いて室温で冷却した。分離した固体を濾別し、少量の冷却したトルエンで洗浄し、かつ真空下で乾燥させた。生成物は、白色の固体として得られた(0.223g、14%)。NMR−分析によれば、91%の純度が測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ジカルボン酸を製造するための方法において、不飽和環式炭化水素及びアクリル酸を、ルテニウム触媒を用いて、メタセシス反応を介して、高い基質濃度で、反応が生じるまで塊状で変換し、それにより生じたジカルボン酸が沈澱することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
不飽和環式炭化水素として、シクロオクタジエン、シクロドデセン、シクロドデカトリエン、シクロヘプテン、シクロヘキセン又はシクロペンテンを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応の実施の際に、溶液中で不飽和環式炭化水素が>1モル/Lの濃度で存在する、請求項1に記載の方法
【請求項4】
反応の実施の際に、溶液中で不飽和環式炭化水素が2〜4モル/Lの濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
触媒として、N−複素環式リガンドを有するルテニウム−カルベン錯体を使用する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ルテニウム触媒を、不飽和環式炭化水素の物質量に対して5〜0.0001モル%の量で使用する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ルテニウム触媒を、不飽和環式炭化水素の物質量に対して2〜0.001モル%の量で使用する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ルテニウム触媒を、不飽和環式炭化水素の物質量に対して1〜0.5モル%の量で使用する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
溶剤として、非環式及び/又は環式炭化水素を使用する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
溶剤として芳香族ハロゲン化炭化水素を使用する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
得られた不飽和ジカルボン酸を、第2工程で水素化する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
濾液中に溶解されたルテニウム触媒を再利用する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
得られた不飽和ジカルボン酸を、晶出、蒸留又は双方の組合せによって精製する、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−521921(P2011−521921A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510921(P2011−510921)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054599
【国際公開番号】WO2009/144094
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】