説明

両性イオン交換体

【課題】両性イオン交換体を提供する。
【解決手段】本発明は、式(I)


のフタルアミド基だけでなく、−(CHNR基および/または、必要に応じて−(CHNR基(mは、1〜4の整数であり、R、R、Rは、それぞれ互いに独立して、水素、−CH、−CHCH、−CHCHCH、ベンジル、−OCHCHまたはCHCHOHであり、Xは、HまたはNaまたはKである)も有する、新規な両性イオン交換体、その製造方法およびその使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)
【0002】
【化1】

のフタルアミド基だけでなく、−(CHNR基および/または必要に応じて−(CHNR基(式中、mは、1〜4の整数であり、R、R、Rは、それぞれ互いに独立して、水素、−CH、−CHCH、−CHCHCH、ベンジル、−OCHCHまたはCHCHOHであり、Xは、HまたはNaまたはKである)も有する新規な両性イオン交換体、その製造方法、およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
原則的に、両性イオン交換体は、互いに隣接して酸性官能基および塩基性官能基を含むという点で区別される。その製造方法は、(非特許文献1)または(非特許文献2)に記載されている。
【0004】
(非特許文献3)には、互いに隣接して強塩基性基および強酸性基を含む両性イオン交換体が記載されている。これらの両性イオン交換体は、スチレン、塩化ビニル、および例えばジビニルベンゼンなどの架橋剤を共重合し、続いて4級化し、スルホン化することによって製造される。
【0005】
(特許文献1)には、互いに隣接して弱酸性基だけでなく弱塩基性基を含む両性イオン交換体が記載されている。弱塩基性基として、第1級アミノ基が挙げられ、弱酸性基として、例えば、メタクリル酸などのアクリル酸およびアルキル(C〜C)アクリル酸基が挙げられる。
【特許文献1】DE−A 10353534
【非特許文献1】Helfferich Ionenaustauscher[ion exchangers]、第1巻、52頁、Verlag Chemie、ヴァインハイム(Weinheim)
【非特許文献2】Bolto、Pawlowski、Wastewater Treatment、Spon、ロンドン(London)、1986年、5頁
【非特許文献3】Stach、Angewandte Chemie、63、263、1951年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記両性イオン交換体のすべてが、複雑な分離プロセスに、特にクロマトグラフ分離プロセスにはあまり適していないという点で共通している。一般に、その遅いカイネティクス、低い選択性および分離効率が、分離プロセスに不十分である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、水溶液からの、特に発酵(fermentation)ブロスからの有機モノ−、ジ−またはポリカルボン酸の分離において、優れた分離効率、十分に速いカイネティクスおよび高い選択性、さらに安定性も示す新規な両性イオン交換体を開発することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、式(I)
【0009】
【化2】

のフタルアミド基だけでなく、−(CHNR基および/または必要に応じて−(CHNR基(式中、mは、1〜4の整数であり、R、R、Rは、それぞれ互いに独立して、水素、−CH、−CHCH、−CHCHCH、ベンジル、−OCHCHまたはCHCHOHであり、Xは、HまたはNaまたはKである)も有する両性イオン交換体に関する。
【0010】
本発明は、式(I)のフタルアミド酸基だけでなく、−(CHNR基および/または、必要に応じて−(CHNR基(式中、m、R、R、RおよびXは、上記の意味を有する)も含む両性イオン交換体を製造する方法であって、
a)少なくとも1種類のモノビニル芳香族化合物、少なくとも1種類のポリビニル芳香族化合物、開始剤または開始剤の組み合わせ、必要に応じて適切なポロゲン(porogen)の混合物のモノマー液体粒子を反応させ、架橋ポリマービーズを得る工程と、
b)得られた架橋ポリマービーズをフタルイミド誘導体でアミドメチル化する工程と、
c)フタルイミドメチル化ポリマービーズを不足当量(substoichiometric)のけん化剤と反応させ、それらを単離する工程と、または必要に応じて、
d)式(I)のフタルアミド酸基だけでなく、−(CHNR基も含む、工程c)からの両性イオン交換体をアルキル化剤またはヒドロキシアルキル化剤と反応させ、それを単離する工程と
を含む方法にも関する。
【0011】
このようにして得られた両性イオン交換体は、酸性基として式(I)のフタルアミド酸基と、塩基性基として第1級、第2級、第3級、第4級アミノ基またはアンモニウム基を含有する。本発明による両性イオン交換体は好ましくは、塩基性基として第1級アミノ基を含有する。
【0012】
代わりとして好ましい本発明の実施形態において、本方法の工程d)を行うことなく、式(I)のフタルアミド基だけでなく、−(CHNR基および/または、必要に応じて−(CHNR基(式中、mは、1〜4の整数であり、Xは、HまたはKまたはNaであり、R、R、およびRは、それぞれ水素のみである)も有する、非アルキル化両性イオン交換体が得られる。
【0013】
先行技術に照らして、これらの新規な両性イオン交換体を簡単な反応で合成することができ、弱塩基性基または強塩基性基を有する陰イオン交換体が使用されている先行技術(米国特許第7,241,918号明細書または米国特許第5,068,419号明細書)と比較して、水溶液からの、特に発酵ブロスからのクエン酸、乳酸または酒石酸などの有機カルボン酸の著しく向上した分離効率を示すことは意外であった。
【0014】
さらに、本発明による両性イオン交換体はイオン遅延(ion retardation)プロセスで使用することができる。Bolto、Pawlowski、Wastewater treatment by Ion Exchange pages 51 ff.、Spon、ニューヨーク(New York) 1987年を参照されたい。
【0015】
本発明による両性イオン交換体は、不均一分散(heterodisperse)粒径分布だけでなく、単分散粒径分布も有する。本発明に従って、好ましくは、単分散両性イオン交換体が使用される。その粒径は一般に、250〜1250μm、好ましくは280〜600μmである。
【0016】
本出願において、これらのイオン交換体またはその前駆体、ポリマービーズは、分布曲線の均等係数が1.2以下である単分散として指定される。数量d60およびd10の商(quotient)は、均等係数と呼ばれる。D60は、分布曲線における60質量%がその直径より小さく、40質量%がその直径以上である直径を表す。D10は、分布曲線における10質量%がその直径より小さく、90質量%がその直径以上である直径を表す。
【0017】
単分散イオン交換体の製造は、原則的に当業者には公知である。前駆体、単分散ポリマービーズの製造における、本質的に2つの直接製造方法、すなわちジェッティング(jetting)およびシード・フィード(seed-feed)法におけるふるい分けによって不均一分散イオン交換体を分画することの間で、区別化がなされる。シード・フィード法の場合には、例えばふるい分けまたはジェッティングによって、それ自体を製造することができる、単分散フィードが使用される。
【0018】
本発明に従って、ジェッティングにより得られる単分散両性イオン交換体は好ましくは、発酵ブロスから有機モノ−、ジ−またはポリカルボン酸を分離するために、特に発酵ブロスからクエン酸を分離するために使用される。
【0019】
単分散両性イオン交換体の基礎を成す単分散ポリマービーズは既に、例えば、分画、ジェッティングなどの公知の方法によって、またはシード・フィード技術によって、製造することができる。
【0020】
単分散ポリマービーズ、イオン交換体の前駆体は、例えば、懸濁水溶液中にモノビニル芳香族化合物、ポリビニル芳香族化合物、モノビニルアルキル化合物、さらに開始剤または開始剤混合物、必要に応じてポロゲンを含む、単分散の、必要に応じてカプセル化されたモノマー液体粒子を反応させることによって製造することができる。マクロ孔質イオン交換体を製造するためマクロ孔質ポリマービーズを得るために、ポロゲンの存在が必須である。これは、本発明に従って、クロマトグラフ分離プロセスに、特に、水溶液からの、特に発酵ブロスからの有機モノ−、ジ−またはポリカルボン酸の分離に、ゲル型だけでなくマクロ孔質単分散両性イオン交換体を使用することができるためである。本発明の好ましい実施形態において、単分散両性イオン交換体が使用され、それを製造するために、マイクロカプセル化モノマー液体粒子を用いた単分散ポリマービーズが使用される。単分散ポリマービーズの様々な製造方法が、ジェッティング原理およびシード・フィード原理の両方による先行技術から当業者には公知である。現時点で、米国特許第4,444,961号明細書、EP−A 0 046 535、米国特許第4,419,245号明細書および国際公開第93/12167号パンフレットが参照される。
【0021】
本方法の工程a)におけるモノビニル芳香族不飽和化合物として、スチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレンまたはクロロメチルスチレンなどの化合物が使用される。
【0022】
ポリビニル芳香族化合物(架橋剤)として、ジビニル基を有する脂肪族または芳香族化合物が使用される。これらの例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、トリビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンおよびさらにジビニルエーテルが挙げられる。ポリビニル芳香族化合物は、使用される全モノマー量に対して、0.5重量%〜80重量%、好ましくは4〜20重量%、特に好ましくは5〜10重量%の量で使用される。
【0023】
適切なジビニルエーテルは、一般式(I)
【0024】
【化3】

(式中、Rは、以下のシリーズC2n、(C2m−O)−C2mまたはCH−C−CHの基であり、ここでn≧2、m=2〜8およびp≧2である)
の化合物である。
【0025】
n>2の場合には、適切なポリビニルエーテルは、グリセロール、トリメチロールプロパンのトリビニルエーテル、またはペンタエリトリトールのテトラビニルエーテルである。
【0026】
好ましくは、エチレングリコール、ジ−、テトラ−またはポリエチレングリコール、ブタンジオールまたはポリTHFのジビニルエーテル、または対応するトリ−またはテトラビニルエーテルが使用される。EP−A11 10 608に記載される、ブタンジオールおよびジエチレングリコールのジビニルエーテルが特に好ましい。
【0027】
ゲル型特性の代わりとして好ましい所望のマクロ孔質特性が、本方法の工程a)においてイオン交換体に付与される。ポロゲンと呼ばれる物質の添加は、これに必須である。イオン交換体とそのマクロ孔質構造の関連は、独国特許出願公告DE 1045102(1957年)および独国特許出願公告DE 1113570(1957年)に記載されている。マクロ孔質両性イオン交換体を得るために、本発明に従って使用されるマクロ孔質ポリマービーズを製造するためのポロゲンとして、適切な物質は特に、モノマーに溶解し、ポリマー中で不十分に溶解または膨潤する、有機物質である。挙げられる例は、オクタン、イソオクタン、デカン、イソデカンなどの脂肪族炭化水素である。さらに、非常に適している物質は、ブタノール、ヘキサノールまたはオクタノールなどの炭素原子4〜10個を有するアルコールである。
【0028】
単分散ゲル型両性イオン交換体の他に、本発明に従って、発酵ブロスから有機モノ−、ジ−またはポリカルボン酸を分離するために、特に発酵ブロスからクエン酸を分離するために、マクロ孔質構造を有する単分散両性イオン交換体が好ましくは使用される。
【0029】
「マクロ孔質」という表現は、当業者には公知である。例えばJ.R.Millarら、J.Chem.Soc.1963年、218に詳細が記載されている。マクロ孔質イオン交換体は、水銀多孔度測定法(mercury porosimetry)によって決定された細孔容積0.1〜2.2ml/g、好ましくは0.4〜1.8ml/gを有する。
【0030】
単分散、両性イオン交換体を得るための、本方法の工程a)の後に得られるポリマービーズの官能基化が、先行技術(例えば米国特許第7,053,129号明細書(その内容全体が参照により本出願に援用される)に記載されている)に由来する公知のフタルイミド法の修正形態として行われる。これは、米国特許第7,053,129号明細書の主題が、
a)少なくとも1種類のモノビニル芳香族化合物、少なくとも1種類のポリビニル芳香族化合物、必要に応じてさらにポロゲンおよび/または必要に応じて開始剤または開始剤の組み合わせのモノマー液体粒子を反応させ、単分散架橋ポリマービーズを得る工程、
b)この単分散架橋ポリマービーズをフタルイミド誘導体でアミドメチル化する工程、
c)アミドメチル化ポリマービーズを反応させて、アミノメチル化ポリマービーズを得る工程、および
d)最後に、そのアミノメチル化ポリマービーズをアルキル化する工程
によって単分散陰イオン交換体を製造する方法であるためである。
【0031】
米国特許第7,053,129号明細書の方法に記載のパラメーターによって、フタル酸の塩としてフタル酸残基が完全に除去され、それによって−(CHNH基が露出される。これは、フタルイミドメチル化架橋ポリマービーズを水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の超化学量論量(superstoichiometric amount)の水性またはアルコール溶液で処理することにより行われる。
【0032】
このように、フタルイミド法によって、1を超える芳香族核の置換を有するアミノアルキル含有架橋ポリマービーズを製造することが可能となる。
【0033】
フタルアミド酸基を有する両性イオン交換体を製造するための本発明による方法において、本方法の工程b)におけるフタルイミドメチル化ポリマービーズを得るための単分散ポリマービーズとフタルイミド誘導体との反応は、米国特許第7,053,129号明細書に記載の方法によって行われる。
【0034】
意外にも、米国特許第7,053,129明細書と異なり、フタルイミドメチル化ポリマービーズが不足当量のけん化剤、または不足したけん化剤で処理された場合には、本方法の工程c)において、−(CHNH基の一部のみの露出とともにフタルアミド酸基の同時形成が進行する。本発明において不足とは、フタル酸残基が完全に除去されない、けん化剤の量、本明細書において酸またはアルカリ液の量を意味する。
【0035】
これは、フタルイミドメチル化ポリマービーズにおける窒素含有量に基づいて一般に少なくとも2倍である、完全にけん化するのに必要なけん化剤の量に対して、少ない量のけん化剤を使用することによって達成される。フタルイミドメチル化ポリマービーズにおける窒素とけん化剤とのモル比は、1:2.0未満、好ましくは1:1.95〜1:0.1、特に好ましくは1:1.9〜1:1.1であるべきである。
【0036】
フタルイミドメチル化ポリマービーズ1ml当たり、本方法の工程c)において、上記のモル比に基づいて、好ましくはけん化剤0.5〜3ml/ml、特に好ましくは0.8〜1.5mlが使用される。
【0037】
けん化剤でのフタルイミドメチル化ポリマービーズの処理は、本方法の工程c)において好ましくは温度範囲90℃〜220℃、特に好ましくは範囲140℃〜190℃で行われる。
【0038】
けん化剤として、本方法の工程c)において、好ましくは鉱酸、特に好ましくは硫酸、塩酸、またはアルカリ金属水酸化物、特に好ましくは水酸化ナトリウム溶液または水酸化カリウム−または他の塩基性けん化剤が使用される。
【0039】
けん化剤は、液体状態で、好ましくは水溶液として使用される。
【0040】
好ましくは、本発明に従って、水酸化ナトリウム溶液が使用される。
【0041】
本方法の工程d)において、本発明による両性イオン交換体が、懸濁液中のアミノメチル基およびフタルアミド酸基を有するポリマービーズをアルキル化剤と反応させることによって製造される。
【0042】
本発明の目的に好ましいアルキル化剤は、アルキルハロゲン化物、ハロアルコール、アルキルスルフェート、ジアルキルスルフェート、アルキルオキシド、ロイカート・ヴァラッハ(Leuckart-Wallach)試薬またはこれらのアルキル化剤の互いの、または連続的な組み合わせである。
【0043】
特に好ましくは、クロロメタン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、クロロエタノール、さらにロイカート・ヴァラッハ試薬またはその組み合わせが使用される。一例として、ロイカート・ヴァラッハ試薬が、Organikum[organic chemistry]、VEB Deutscher Verlag der Wissenschaften、ベルリン(Berlin) 1968年、第8版、479頁に記載されている。
【0044】
本発明によるイオン交換体に存在する窒素のモル量に基づいて、好ましくはアルキル化剤0.1〜6mol、特に好ましくはアルキル化剤1〜4molが使用される。
【0045】
懸濁媒体として、水または有機溶媒が使用される。しかしながら、必要に応じて、所望の生成物に応じて、塩基も添加することができる。好ましくは、水が使用される。必要に応じて、塩基として、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液または塩基性であるが、求核性ではないアミンが、考慮される。
【0046】
本方法の工程d)は、温度20〜150℃、好ましくは40〜110℃で行われる。本方法の工程d)は、気圧6バールまで、好ましくは気圧4バールまでの圧力で行われる。
【0047】
本発明に従って、発酵ブロスから有機モノ−、ジ−またはポリカルボン酸を分離するため、特に発酵ブロスからクエン酸を分離するために、フタルイミド法によって製造された単分散、両性イオン交換体が好ましくは使用される。その置換度は、芳香族核1つ当たり好ましくは1.6以下であり、統計的平均で水素原子1.6個以下が、メチルフタルイミド基によって置換される。それに続く、不足当量のけん化を用いたフタルイミド法によって、フタルアミド酸基および塩基性基を有する高容量の後架橋のない(post-crosslinking-free)両性イオンの交換体を製造することができ、発酵ブロスから有機モノ−、ジ−またはポリカルボン酸を分離するために、特に発酵ブロスからクエン酸を分離するために使用される。
【0048】
本発明の目的での単離とは、製造方法の工程c)およびd)において、水性懸濁液からのイオン交換体の分離およびその精製を意味する。イオン交換体は、デカント、遠心分離、濾過などの当業者に公知の手段に従って分離される。精製は、例えば脱イオン水での洗浄によって行われ、微細な画分または粗い画分を分離するための分級を含み得る。必要に応じて、好ましくは減圧下にて、および/または特に好ましくは温度20℃〜180℃で、得られた両性イオン交換体を乾燥させる。
【0049】
本方法の工程c)によって得られる両性イオン交換体だけでなく、本方法の工程d)によって得られる両性イオン交換体も、有機モノ−、ジ−またはポリカルボン酸を発酵ブロスから分離するために、特にクエン酸を発酵ブロスから分離するために、本発明に従って使用するのに適している。本発明に従って、これに特に適しているイオン交換体は、本方法の工程c)によって得られる両性イオン交換体である。
【0050】
したがって、本発明は、モノ−、ジ−またはポリカルボン酸またはアミノ酸を水溶液から、特に発酵ブロスから分離するための、両性イオン交換体の使用にも関する。本発明に従って分離されるのに好ましい酸は、乳酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸、リンゴ酸、ジベレリン酸またはアミノ酸、本明細書において好ましくはリジン、トレオニンまたはアラニンである。
【0051】
本発明に従って使用される両性イオン交換体は、この目的のために、好ましくはその作業に適した装置において使用される。
【0052】
したがって、本発明は、処理される液体がそれを通って流れる装置、好ましくは濾過装置、特に好ましくは吸着容器、特にフィルター吸着容器にも関し、これらは、本発明による両性イオン交換体で充填される。
【0053】
(分析方法)
(アミノメチル化架橋ポリスチレンポリマービーズにおける塩基性アミノメチル基の量の決定)
アミノメチル化ポリマービーズ100mlをタップ体積計(tap volumeter)上で振動させ、続いて脱イオン水と共にガラスカラム内に流し入れる。1時間40分の間に、濃度2%の水酸化ナトリウム溶液1000mlが濾過される。続いて、フェノールフタレインと混合された溶出液100mlが、最大0.05mlの0.1N(0.1規定)塩酸を消費するまで脱イオン水が濾過される。
【0054】
ガラスビーカー中でこの樹脂50mlを脱イオン水50mlおよび1N塩酸100mlと混合する。その懸濁液を30分間攪拌し、続いてガラスカラムに充填する。その液体を排出させる。さらに1N塩酸100mlを20分の間に、樹脂を通して濾過する。続いて、メタノール200mlを濾過する。すべての溶出液を回収し、合わせ、メチルオレンジに対して1N水酸化ナトリウム溶液で滴定する。
【0055】
アミノメチル化樹脂1リットル中のアミノメチル基の量は、次式:(200−V)・20=樹脂1リットル当たりのアミノメチル基のモル(式中、Vは、滴定で消費された1N水酸化ナトリウム溶液の体積である)から計算される。
【0056】
(両性イオン交換体におけるフタルアミド酸基の量の決定)
CuSO・5HO 392.9gを含有する水溶液5000mlを調製する。
【0057】
両性イオン交換体60mlをガラスカラムに充填する。2時間の間に、濃度4%の水酸化ナトリウム溶液50mlが濾過される。次いで、脱イオン水250mlが1時間の間に濾過される。
【0058】
得られた樹脂量のうち、50mlをガラスカラムに充填する。4時間の間に、硫酸銅水溶液1000mlを樹脂を通して濾過する。その溶出液を回収する。続いて、脱イオン水100mlを樹脂を通して濾過する。その溶出液を回収する。両方の溶出液を合わせる。合わせた溶出液における銅の含有量を分析する。アプライした銅の量と、溶出液全体における分析された銅の量との差は、樹脂によって吸収された銅の量に等しい。
【0059】
両性イオン交換体50mlによって吸収された銅のモル量は、両性イオン交換体50molにおけるフタルアミド酸基のモル量に等しい。
【0060】
両性イオン交換体50mlは、フタルアミド酸基xモルを含有する。
【0061】
両性イオン交換体1000mlは、フタルアミド酸基40×xモル含有する。
【0062】
本発明の目的での脱イオン水は、導電率0.1〜10μSを有し、溶解または未溶解金属イオンの含有量は、個々の成分としてのFe、Co、Ni、Mo、Cr、Cuに関して、1ppm以下、好ましくは0.5ppm以下であり、前記金属の合計に関して、10ppm以下、好ましくは1ppm以下である。
【実施例】
【0063】
(実施例1:フタルアミド酸基および第1級アミノ基を有する両性イオン交換体の製造)
[1a)スチレン、ジビニルベンゼンおよびエチルスチレンをベースとする単分散マクロ孔質ポリマービーズの製造]
10Lガラス反応器に脱イオン水3000gを挿入し、脱イオン水320g中のゼラチン10g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物16g、レゾルシノール0.73gの溶液を添加し、完全に混合する。その混合物を25℃に加熱する。続いて、ジビニルベンゼン3.6重量%、エチルスチレン(ジビニルベンゼン80%を有する、ジビニルベンゼンとエチルスチレンとの市販の異性体混合物として使用される)0.9重量%、過酸化ジベンゾイル0.5重量%、スチレン56.2重量%、イソドデカン(高い割合のペンタメチルヘプタンを有する工業用異性体混合物)38.8重量%の、狭い粒径分布を有するマイクロカプセル化モノマー液体粒子3200gの混合物を攪拌しながら添加し、このマイクロカプセルは、ゼラチンと、アクリルアミドとアクリル酸のコポリマーとのホルムアルデヒド硬化複合コアシデート(coacidate)を含み、pH12を有する水相3200gを添加する。モノマー液体粒子の平均粒径は260μmであった。
【0064】
25℃で開始し、95℃で終わる温度プログラムに従って温度を上昇させることによって攪拌しながら、バッチの重合を完了した。バッチを冷却し、32μmふるい上で洗浄し、続いて真空中で80℃で乾燥させた。これによって、平均粒径250μm、狭い粒径分布および滑らかな表面を有する球状ポリマー1893gが得られた。
【0065】
このポリマーの外観は、白亜色であり、かさ密度約350g/lを有した。
【0066】
[1b)アミドメチル化ポリマービーズの製造]
ジクロロエタン2825ml、フタルイミド529.7g、29.9重量%ホルマリン368.7gを室温で装入した。水酸化ナトリウム溶液を使用して、懸濁液のpHを5.5〜6に調節した。続いて、蒸留によって水を除去した。次いで、硫酸38.8gを添加した。生じた水を蒸留によって除去した。バッチを冷却した。30℃にて、濃度65%オレウム141.9g、続いて本方法の工程1a)で製造された単分散ポリマービーズ424.4gを添加した。懸濁液を70℃に加熱し、この温度でさらに6時間攪拌した。反応ブロスを取り除き、脱イオン水を添加し、残存量のジクロロエタンを蒸留によって除去した。
【0067】
アミドメチル化ポリマービーズの収量:1920ml
元素組成:
炭素:77.1重量%;
水素:5.3重量%;
窒素:4.8重量%;
残り:酸素
【0068】
[1c)フタルアミド酸基および第1級アミノ基を有する両性イオン交換体を得るためのアミドメチル化ポリマービーズの反応]
けん化水酸化ナトリウム溶液のNaOHと、アミドメチル化ポリマービーズにおける窒素とのモル比は、1.9:1であった。
【0069】
1b)から得たアミドメチル化ポリマービーズ1900mlに室温で濃度50重量%の水酸化ナトリウム溶液321.1mlおよび脱イオン水1389mlを添加した。2時間の間に懸濁液を180℃に加熱し、この温度で8時間攪拌した。得られたポリマービーズを脱イオン水で洗浄した。
【0070】
収量:1920ml
塩基性基の量の決定:1.42モル/樹脂リットル
フタルアミド酸基の量の決定:0.816モル/樹脂リットル
【0071】
(実施例2:フタルアミド酸基および第3級アミノ基を有する両性イオン交換体の製造)
[2b)アミドメチル化ポリマービーズの製造]
ジクロロエタン2354ml、フタルイミド441.4g、30.0重量%ホルマリン306.3gを室温で装入した。水酸化ナトリウム溶液を使用して、懸濁液のpHを5.5〜6に調節した。続いて、蒸留によって水を除去した。次いで、硫酸32.4gを添加した。生じた水を蒸留によって除去した。バッチを冷却した。30℃にて、濃度65%のオレウム118.2g、続いて本方法の工程1a)で製造された単分散ポリマービーズ318.3gを添加した。懸濁液を70℃に加熱し、この温度でさらに6時間攪拌した。反応ブロスを真空によって取り除き、脱イオン水を添加し、残存量のジクロロエタンを蒸留によって除去した。
【0072】
アミドメチル化ポリマービーズの収量:1540ml
元素分析による組成:
炭素:77.1重量%;
水素:4.9重量%;
窒素:5.0重量%;
【0073】
[2c)フタルアミド酸基および第1級アミノ基を有する両性イオン交換体を得るためのアミドメチル化ポリマービーズの反応]
けん化水酸化ナトリウム溶液のNaOHと、アミドメチル化ポリマービーズにおける窒素とのモル比は、1.9:1であった。
【0074】
室温で2a)から得たアミドメチル化ポリマービーズ1510mlに濃度50重量%の水酸化ナトリウム溶液257.1mlおよび脱イオン水1555mlを添加した。2時間の間に懸濁液を180℃に加熱し、この温度で8時間攪拌した。得られたポリマービーズを脱イオン水で洗浄した。
【0075】
アミノメチル化ポリマービーズの収量:1750ml
元素分析による組成:
窒素:6.8重量%
炭素:76.6重量%;
水素:6.7重量%;
酸素:11.3重量%
ナトリウム:0.17重量%
塩基性基の量の決定:0.97モル/樹脂リットル
フタルアミド酸基の量の決定:0.436モル/樹脂リットル
【0076】
[2d)フタルアミド酸基および第3級ジメチルアミノ基を有する両性イオン交換体を得るためのアミドメチル化ポリマービーズの反応]
脱イオン水653mlを室温で反応器に装入する。これに、実施例2b)からのポリマービーズ435mlを添加し、その後、濃度30%のホルマリン水溶液93gを添加した。懸濁液を40℃に加熱した。濃度85重量%のギ酸を添加することによって、懸濁液のpHをpH3に調節した。次いで、混合物を55℃に加熱し、55℃でさらに30分間攪拌した。続いて、混合物を70℃に加熱し、70℃でさらに30分間攪拌した。それを80℃に加熱し、80℃でさらに30分間攪拌した。続いて、その混合物を97℃に加熱した。加熱工程全体の間、ギ酸を添加することによって、pHをpH3に維持した。97℃で30分間攪拌した後、濃度50重量%の硫酸を添加することによって、pHをpH2に調節した。混合物をpH2で30分間攪拌した。続いて、濃度50重量%の硫酸を添加することによって、pHをpH1に調節し、混合物をこのpHおよび97℃でさらに8.5時間攪拌した。
【0077】
合計50グラムのギ酸(濃度85%)を添加した。
【0078】
懸濁液を冷却した後、得られたポリマービーズをふるい上で濾過し、脱イオン水で洗浄した。
【0079】
収量:520ml
【0080】
ポリマービーズをカラムに充填した。上部から、最初に濃度4重量%の水酸化ナトリウム溶液2000ml、続いて脱イオン水2000mlを、それを通して濾過した。
【0081】
収量:420ml
元素分析による組成:
窒素:6.9重量%
炭素:80.2重量%;
水素:7.8重量%;
酸素:9.8重量%
ナトリウム:0.17重量%
塩基性基の量の決定:0.98モル/リットル 樹脂
【0082】
(実施例3:フタルアミド酸基および第4級アンモニウム基を有する両性イオン交換体の製造)
[フタルアミド酸基および第4級アンモニウム基を有する両性イオン交換体を得るための、フタルアミド酸基および第1級アミノ基を有する両性イオン交換体の反応]
反応器に脱イオン水640mlおよび実施例2b)からのポリマービーズ400mlを室温で装入した。これに、濃度50重量%の水酸化ナトリウム溶液74.5gを添加した。続いて、クロロメチル25.5gを添加した。懸濁液を40℃に加熱し、この温度でさらに16時間攪拌した。
【0083】
懸濁液を冷却した後、得られたポリマービーズをふるい上で濾過除去し、脱イオン水で洗浄した。
【0084】
収量:440ml
元素分析による組成:
窒素:6.3重量%
炭素:76.3重量%;
水素:7.2重量%;
酸素:11.9重量%
【0085】
(実施例4:フタルアミド酸基および第1級アミノ基を含有する両性イオン交換体を使用した、グルコースとクエン酸との水性混合物の分離)
[調製]
実施例1c)から得られる樹脂500mlをガラスカラムに流し入れた。濃度10重量%の硫酸水溶液600mlを樹脂に通して濾過し、続いて脱イオン水を使用して、樹脂を中性に洗浄した。その後、樹脂は硫酸塩の形をとった。
【0086】
予め70℃に加熱されたガラスカラムに樹脂を充填し、振動ベンチ(直径25mm、長さ1000mm)上に置いた。ガラスカラムは、加熱ジャケットによって加熱された。カラム81cmにおける樹脂のレベルは、樹脂400mlであった。
【0087】
この間に、生じた気泡は、振動によって補助され、上のほうへ追いやられた。カラムを高さ81cm(=樹脂400ml)まで充填した。
【0088】
樹脂が止まりコンパクトになるとすぐに、供給ピストン(feed piston)を挿入した。その表面より上の空気が、ピストンの供給ラインを通って確実に逃げることができるように注意を払った。次いで、4カラム体積の硫酸(w=0.2%)を、樹脂を通してポンピングした。
【0089】
[クロマトグラフィー]
注入シリンジを使用して、クエン酸40重量%;グルコース10重量%;硫酸1重量%および水49重量%の溶液5mlをカラムの供給ラインに注入した。そのラインは、蠕動ポンプに連結され、混合物を硫酸(W=0.2%)と共に25ml/分で樹脂層を通してポンピングした。溶出液を画分25ml(サイクル中1回)で回収した。続いて、グルコースおよびクエン酸の含有量について、HPLCによって個々の画分を分析した。
【0090】
意外にも、本発明によるイオン交換体を使用することによって、グルコース−クエン酸混合物から個々の成分が明確に分離され、最初のランニング(8〜16分)では、グルコースが回収され、クエン酸は後半(16〜30分)に到達するまではカラムから出てこない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例4の設備(A=蠕動ポンプ、B=供給ピストン、C=加熱ジャケット、D=樹脂充填、E=シンタープレート(sinter plate)、F=フラクションコレクター)を示す。
【図2】実施例1c)からの両性イオン交換体を使用した、グルコース−クエン酸混合物の分離(R=分離度(resolution)、t=時間(分))を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

のフタルアミド基だけでなく、−(CHNR基および/または、必要に応じて−(CHNR基(式中、mは、1〜4の整数であり、R、R、Rは、それぞれ互いに独立して、水素、−CH、−CHCH、−CHCHCH、ベンジル、−OCHCHまたはCHCHOHであり、Xは、HまたはNaまたはKである)も有する、両性イオン交換体。
【請求項2】
式(I)
【化2】

のフタルアミド基だけでなく、−(CHNR基および/または、必要に応じて−(CHNR基(式中、m、R、R、RおよびXは、請求項1に記載の意味を有する)も含有する両性イオン交換体を製造する方法であって、
a)少なくとも1種類のモノビニル芳香族化合物と、少なくとも1種類のポリビニル芳香族化合物と、開始剤または開始剤の組み合わせと、さらに必要に応じてポロゲンとの混合物のモノマー液体粒子を反応させ、架橋ポリマービーズを得る工程と、
b)得られた架橋ポリマービーズをフタルイミド誘導体でアミドメチル化する工程と、
c)フタルイミドメチル化ポリマービーズを不足当量のけん化剤と反応させ、それらを単離する工程と
を含む方法。
【請求項3】
d)式(I)のフタルアミド酸基だけでなく、−(CHNR基も含有する工程c)からの両性イオン交換体を単離する代わりに、アルキル化剤またはヒドロキシアルキル化剤とそれを反応させて、それを単離する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
単分散または不均一分散粒径分布を有する、請求項1に記載の両性イオン交換体。
【請求項5】
前記単分散粒径分布が、ジェッティングまたはシード・フィード技術によって達成される、請求項4に記載の両性イオン交換体。
【請求項6】
フタルイミドメチル化ポリマービーズにおける窒素含有量に基づく量の2倍よりも少ない量のけん化剤が使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記方法の工程c)が、温度範囲90℃〜220℃で行われる、請求項2、3または6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法の工程c)において、1mlのフタルイミドメチル化ポリマービーズ当りけん化剤0.5〜3mlが使用される、請求項2、3、6または7に記載の方法。
【請求項9】
けん化剤として、鉱酸またはアルカリ金属水酸化物が使用される、請求項2、3、6、7または8に記載の方法。
【請求項10】
モノ−、ジ−またはポリカルボン酸またはアミノ酸を水溶液から、特に発酵ブロスから分離するための、請求項1に記載の両性イオン交換体の使用。
【請求項11】
本発明による両性イオン交換体で充填される、処理する液体がそれを通って流れる装置において、好ましくは濾過装置、特に好ましくは吸着容器、特にフィルター吸着容器において、前記両性イオン交換体が使用される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
、RおよびRが、それぞれ水素のみである、請求項1に記載の両性イオン交換体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−101353(P2009−101353A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272197(P2008−272197)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】