説明

両親媒性を有する生分解性ポリエステル及びその製造方法

【課題】 両親媒性の生分解性ポリエステルを提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される両親媒性を有する分解性ポリエステル。
【化1】


(式中、Zはリグニン骨格を示し、Mは塩形成性陽イオンを示し、Rはアルキレン基を示し、nはリグニンスルホン酸中の水酸基の総数を示し、pは1以上でnより小さい数を示し、qは1以上の数を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性を有する生分解性ポリエステル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生分解性高分子材料を得るために、セルロール等の多糖化合物に環状ラクトンを直接反応させて、セルロースの水酸基にその環状ラクトンを開環付加重合させることは知られている(特開平9−12588号公報)。この従来法の場合、その反応を円滑に進行させるには、有機溶媒の使用が必要とされるが、多糖類自体は溶解性の低いものであることから、通常の有機溶媒には溶解せず、特殊の溶解を必要とし、経済性の点で著しく不利であった。
【0003】
特許第3291523号公報(特許文献1)には、クラフトリグニンを環状ラクトンに溶解させ、重合反応させることによって、生分解性リグニン誘導体を得る方法が記載されている。
本発明者は、この反応において、クラフトリグニンに代えて、リグノスルホン酸塩を用いるときには、スルホン酸塩基の存在にかかわらず、リグノスルホン酸塩中の水酸基を開始点とする環状エステル化合物の開環重合が円滑に進行し、両親媒性の生分解性ポリエステルが得られることを見出した。
【0004】
【特許文献1】特許第3291523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、両親媒性の生分解性ポリエステル及びその製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下に示す両親媒性の生分解性ポリエステルとその製造方法が提供される。
(1)下記一般式(1)で表される両親媒性を有する分解性ポリエステル。
【化5】

(式中、Zはリグニン骨格を示し、Mは塩形成性陽イオンを示し、Rはアルキレン基を示し、nはリグニンスルホン酸中の水酸基の総数を示し、pは1以上でnより小さい数を示し、qは1以上の数を示す)
(2)下記一般式(1)
【化6】

(式中、Zはリグニン骨格を示し、Mは塩形成性陽イオンを示し、Rはアルキレン基を示し、nはリグニン中の水酸基の総数を示し、pは1以上でnより小さい数を示し、qは1以上の数を示す)
で表される両親媒性生分解性ポリエステルを製造する方法において、下記一般式(2)
【化7】

(式中、Z、M及びnは前記と同じ意味を有する)
で表されるリグニンを、下記一般式(3)
【化8】

(式中、Rは前記と同じ意味を有する)
で表される環状エステル中に溶解させ、重合反応させることを特徴とする前記の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリエステルは、その分子中にリグノスルホン酸塩を含有することから、両親媒性と生分解性を有し、水性媒体と油性媒体の両方に溶解し、生分解性材料や、ポリウレタン製造用ポリオール等として有利に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明による前記一般式(1)の両親媒性生分解性ポリエステルは、下記一般式(2)
【化9】

で表されるリグノスルホン酸塩を、下記一般式(3)
【化10】

(式中、R1は前記と同じ意味を有する)で表される環状エステル中に溶解させ、重合触媒の存在下で反応させることによって製造することができる。前記リグノスルホン酸塩と環状エステルとの使用割合は、そのリグノスルホン酸塩中に含まれる水酸基1モル当り、1〜100モル、好ましくは4〜70モルの割合である。環状エステルは、リグノスルホン酸塩に対する溶媒として作用し、これを溶解させる。重合触媒としては、環状エステルの開還重合に慣用のものが用いられ、その重合温度は室温〜180℃、好ましくは30〜150℃である。また、前記重合反応においては、必要に応じ、有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、N−メチルピロリドン、アセトン、ジオキサン等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、リグノスルホン酸塩100重量部当り、100〜1000重量部、好ましくは200〜500重量部である。
【0009】
前記重合反応により、前記一般式(1)で表される両親媒性を有する生分解性ポリエステルを得ることができる。前記一般式(1)において、qは1以上、好ましくは3以上の数である。その上限値は、100程度である。pは1以上の数で、nより小さい数である。リグノスルホン酸塩誘導体中に含まれる水酸基の置換率p/nは、1/100〜100/100、好ましくは5/100〜100/100である。また、pとqの積は、リグノスルホン酸塩の水酸基に付加反応した環状エステルの数を示す。
【0010】
前記環状エステルには、グリコリドや各種ラクトンが包含される。リグノスルホン酸塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩等が用いられる。
【実施例】
【0011】
次に本発明を実施例によりさらに詳述する。
【0012】
実施例1
105℃で乾燥したリグノスルホン酸ナトリウム(LSNa)10部を蒸留した40部のε・カプロラクトン(CL)に溶解したものを4口セパラブルの丸底フラスコに入れ、試料温度を180℃まで上げ、ε・カプロラクトン1ccにスズ系触媒を溶かしたものを、フラスコのキャップの上から注射器を用いて注入した。そこから108℃で2時間反応させて重合を行った。この時に付加させるCLの量は、リグノスルホン酸ナトリウム中の水酸基1molに対し、ε・カプロラクトンを1、2、10及び20mol重合させることもできる。得られたLSPCL(リグノスルホン酸Naポリカプロラクトン)の末反応物を取り除くために、48時間〜120時間ソックスレー抽出を行った。表1に得られたLSPCLについて、示差走査熱量測定(DSC)により求めたガラス転移温度(Tg)及び融解温度(Tm)並びに熱重量測定(TG)に求めた熱分解温度(T)、微分熱分解温度(DT)及び450℃での残渣重量分率(MR450)を示す。
【0013】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される両親媒性を有する性分解性ポリエステル。
【化1】

(式中、Zはリグニン骨格を示し、Mは塩形成性陽イオンを示し、Rはアルキレン基を示し、nはリグノスルホン酸塩中の水酸基の総数を示し、pは1以上でnより小さい数を示し、qは1以上の数を示す)
【請求項2】
下記一般式(1)
【化2】

(式中、Zはリグニン骨格を示し、Mは塩形成性陽イオンを示し、Rはアルキレン基を示し、nはリグニン中の水酸基の総数を示し、pは1以上でnより小さい数を示し、qは1以上の数を示す)
で表される両親媒性を有する生分解性ポリエステルを製造する方法において、下記一般式(2)
【化3】

(式中、Z、M及びnは前記と同じ意味を有する)
で表されるリグニンを、下記一般式(3)
【化4】

(式中、Rは前記と同じ意味を有する)
で表される環状エステル中に溶解させ、重合反応させることを特徴とする前記の方法。


【公開番号】特開2006−16522(P2006−16522A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196554(P2004−196554)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004(平成16)年6月4日 紙パルプ技術協会発行の「第71回 紙パルプ研究発表会 講演要旨集」に発表
【出願人】(390013815)学校法人金井学園 (20)
【Fターム(参考)】