説明

両親媒性分子の混合物および融合による細胞膜修飾方法

本発明は、両親媒性分子の混合物およびこれらの分子との膜融合によるin vivo細胞修飾方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性分子の混合物およびこれらの分子との融合による細胞膜修飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Simbergら(D. Simberg、Weisman S.、Talmon、Y、Barenholz (2004) DOTAP (and Other Cationic Lipids): Chemistry Biophysics, and Transfection。Crit. Reviews in Therap. Drug Carr. Systems、2004、21、257〜317(非特許文献1))の公表から、例えばDOPEのような他のリン脂質と混合した例えばDOTAPのような陽イオン性脂質(S. W. Hui, M. Langner、Y. Zhao、P. Ross、E. Hurley、およびK. Chan (1996) The Role of Helper Lipids in Cationic Liposome-Mediated Gene Transfer。Biophysical Journal、1996、71、590〜599(非特許文献2))を、細胞中へのDNA導入(トランスフェクション)のために使用することができることが知られている。これらの粒子が細胞によって取り込まれる方式は、Weijunら(Weijun LiおよびFrancis C. Szoka Jr. 2007。Lipid-based Nanoparticles for Nucleic Acid Delivery。Pharmaceutical Research、24、438〜449(非特許文献3))から公知のようなエンドサイトーシスである。この方式は、リポソーム中に封入されたDNAの1〜10%だけが細胞によって取り込まれることから、非常に非効率的であることが明らかとなっている。
【0003】
例えばトランスフェリンのようなさらなるタンパク質でこの混合物を修飾することは、Sakaguchiら(N. Sakaguchi、Ch. Kojima、A. Harada、K. KoiwaiおよびK. Kono、2008。The correlation between fusion capability and transfection activity in hybrid complexws of lipoplexes and pH-sensitive liposomes。Biomaterials 29、4029〜4036(非特許文献4))から公知である。
【0004】
融合混合物のさらなる修飾が、担体粒子表面上へのウイルス成分の結合によって行われる。この方法の欠点は、その複合体の製造に用いなければならない労力および費用である。
【0005】
さらなる融合系は、Gopalakrishnanら(G. Gopalakrishnan、C. Danelon、P. Izewska、M. Prummer、P.-Y. Bolinger、I. Geissbuehler、D. Demurtas、J. Dubochet、およびH. Vogel (2006) Multifunctional Lipid/Quantum Dot Hybrid Nanocontainers for Controlled Targeting of Live Cells。Angew. Chem. Int. Ed. 2006、45、5478〜5483(非特許文献5))から公知である。この著者らは、生きた細胞膜と、DMPE、DOTAP、DPPE−PEG2000および量子ナノドットから成る小胞構造との融合を記載している。この方法の欠点は、生物学的に分解不可能な粒子(量子ナノドット)が使用されることである。そのために、さらなる医学的または薬学的使用が除外される。
【0006】
したがって、技術の現状による方法は、不利に非効率的であるか、または細胞にとっての高いストレスと関係する。追加的にその方法は、各細胞型について最適化されなければならず、そのために労力およびコストが大きい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D. Simberg、Weisman S.、Talmon、Y、Barenholz (2004) DOTAP (and Other Cationic Lipids): Chemistry Biophysics, and Transfection。Crit. Reviews in Therap. Drug Carr. Systems、2004、21、257〜317
【非特許文献2】S. W. Hui, M. Langner、Y. Zhao、P. Ross、E. Hurley、およびK. Chan (1996) The Role of Helper Lipids in Cationic Liposome-Mediated Gene Transfer。Biophysical Journal、1996、71、590〜599
【非特許文献3】Weijun LiおよびFrancis C. Szoka Jr. 2007。Lipid-based Nanoparticles for Nucleic Acid Delivery。Pharmaceutical Research、24、438〜449
【非特許文献4】N. Sakaguchi、Ch. Kojima、A. Harada、K. KoiwaiおよびK. Kono、2008。The correlation between fusion capability and transfection activity in hybrid complexws of lipoplexes and pH-sensitive liposomes。Biomaterials 29、4029〜4036
【非特許文献5】G. Gopalakrishnan、C. Danelon、P. Izewska、M. Prummer、P.-Y. Bolinger、I. Geissbuehler、D. Demurtas、J. Dubochet、およびH. Vogel (2006) Multifunctional Lipid/Quantum Dot Hybrid Nanocontainers for Controlled Targeting of Live Cells。Angew. Chem. Int. Ed. 2006、45、5478〜5483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の課題は、細胞膜との効率的な融合をin vivoでも導く分子混合物を提供することである。さらになお、本発明の課題は、分子混合物との融合による効率的なin vivo細胞膜修飾方法を提供することである。本発明のさらなる課題は、細胞を修飾する際の分子混合物の利用可能性を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その課題は、請求項1に記載の混合物によって、およびin vivo細胞(膜)修飾方法によって、および従属請求項に従ってこのやり方で調製された細胞によって解決される。その方法は、任意の細胞膜と本発明の両親媒性分子の混合物との間の膜融合に基づく。これによって、生物学的または薬学的に関連する分子を融合によって細胞内部および/または細胞膜に組み入れることができ、かつ/またはその表面でそれらに連結することもできる。その混合物は、単一の細胞だけでなく、有利には組織または組織切片にも使用可能である。
【0010】
融合混合物
両親媒性分子の混合物は、親水性領域に正の総電荷を担持する両親媒性分子種Aと、親水性および/または疎水性領域に非局在化した電子系を形成する両親媒性分子種Bとを有する。
【0011】
したがって、非局在化した電子系を有する分子種Bは、共役二重結合および/または自由電子対(freie Elektronenpaare)および/または空のp軌道によって形成される、本発明の少なくとも1種(または複数種)の環状構造モチーフを含む。これらは、ヒュッケル則に従う。
【0012】
特に有利には、非局在化した電子系中の分子種Bの共有結合性隣接原子は、0.4以上の電気陰性度の差(Δχ)を有する。この法則を満たす分子種Bは、融合効率を上げる。
【0013】
さらになお、分子種Bにおいて、非局在化した電子系を形成する基Rが疎水性領域または親水性領域に結合していることが有利である。
【0014】
本発明の一形態において、その混合物は、分子種Aとして1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP)を含む。
【0015】
分子種Bは、本発明のさらなる一形態では、非局在化した電子系を有する蛍光色素が結合しているリン脂質によって形成される。しかしながら他の色素、例えばアゾ色素を、リン脂質に結合させることもできる。
【0016】
分子種Bのリン脂質として、混合物中に特に1−ヘキサデカノイル−2−ドデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンまたは1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、または1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンが提供される。
【0017】
分子種Bにおいて非局在化した電子系は、有利には次に挙げるような基Rによって形成される:2−(4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)またはN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)またはリサミンローダミンBスルホニルまたは(5−(クロロスルホニル)−2−(1H,2H,3H,5H,6H,7H,11H,12H,13H,15H,16H,17H−ピリド[3,2,1−ij]キノリジノ[1’,9’:6,7,8]クロメノ[2,3−f]キノリン−4−イウム−9−イル)ベンゼンスルホネートまたは7−ニトロ−2−1,3−ベンゾオキサジアゾール−4−イルまたはカルボキシフルオレセインまたは1−ピレンスルホニル。
【0018】
明記された分子種Bの基本構成要素、すなわち例えばリン脂質と、前記基Rとは、自由に相互に組み合わせ可能であって、すなわち色素のそれぞれがリン脂質に結合することができる。
【0019】
融合混合物は、既知の融合混合物に比べて広範にわたる利点を有する。その混合物は、全ての(哺乳動物)細胞型で、したがって普遍的に使用可能である。そのうえその混合物は、高効率であって(>50%)、融合によって細胞に損傷も発生しない。したがって細胞は、融合後に無制限に分裂可能である。そのうえその混合物は、組織切片にも使用可能である。さらなる利点は、例えば方式3に挙げられたように、特異的分子で細胞膜を官能化することによって達成される。
【0020】
本発明の混合物にさらなる両親媒性分子種Cをヘルパー分子として提供することができる。
【0021】
これに加えて、特に1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)が分子種Cとして存在することができる。
【0022】
分子種A、BおよびCの好ましい比は、約1:0.05〜0.2:1wt/wtである。
【0023】
上記混合物は、最大99%wtの両親媒性分子種A、40%wtの両親媒性分子種B(基Rを有する)、および最大70%wtの両親媒性分子種Cを含む。
【0024】
本発明の方法のために、任意の混合物が有機溶媒に溶解され、十分に均一化される(例えばボルテックス、超音波)。その溶媒は、例えば真空中で除去され、分子種の乾燥混合物を水性緩衝液に溶解させる。この混合物は、冷却すると長期保存可能である。
【0025】
特に好ましくは分子種A、BおよびCは、脂質として存在する。次にこれらは、水性緩衝液中に入れられるとリポソームを形成する。リポソームが好ましいのは、すぐれた方式でさらなる分子種を細胞膜内および細胞膜に接して配置することができ、リポソームに封入された分子をリポソームと細胞膜との融合の間に細胞内に導入することもできるからである。
【0026】
したがって、とりわけ好ましくは、その混合物はリポソームとして存在する。特に有利には本発明のリポソームによって、細胞の好ましい修飾へと導くことができるさらなる分子をその中に配置することができるようになる。
【0027】
しかし、分子種Aおよび/またはBおよび/またはCとして脂質の代わりにポリマーを挙げることも考えられる。
【0028】
in vivo細胞修飾のための本発明の方法のために、細胞膜を有する選択された細胞を、好ましくは緩衝化された混合物、場合によってはリポソームと接触させる。接触過程は、有利には融合の間にわずか数分、例えば1〜120、好ましくは10〜30分間継続する。単一の細胞は、有利には混合物、場合によりリポソームと接触直後にこれと融合する。細胞組織は、状況によっては幾分長い時間、すなわち最大約120分間を必要とする。リポソームのエンドサイトーシスは、融合と厳密に区別すべきである。
【0029】
この方法は、技術の現状に比べてそして短い接触時間で高い割合の、混合物またはリポソームと融合した細胞を示す。そこからの効率は、有利には50%よりも大きい。
【0030】
その方法の間に、本発明の混合物に多様なさらなる分子を供給することができる。これに関して本発明の方法は、多面的であって頑健であることが実証される。それに関して、多数の異なる機能的な分子種を個別にまたは同時に混合することができ、それで膜だけではなく細胞の所望の修飾へと導くことができる。vivo系であることから、細胞は機能的なままである。
【0031】
例示的に、親水性領域に官能基を有する、特に官能基としてキレート基を有する両親媒性分子種Dを、分子種A、Bおよび場合によりCを有する本発明の混合物に供給することができる。その場合、その混合物は、例えば分子種A、B、Dおよび場合によりCを含む。官能基は、混合物、場合によりリポソームと、細胞の細胞膜との融合の間に細胞膜表面に配置される。
【0032】
このアプローチを用いて、細胞膜表面を特異的に修飾および官能化することができる。これに対して官能基は、細胞表面から外側に突出し、さらなる化学基によって狙いを定めた修飾が可能である。これは、本発明の特に有利な一形態において、癌治療の成功へと導くことができる。
【0033】
したがって本発明の一混合物は、この目的のために例えば、分子種Aとして1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパンおよび分子種BとしてN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Cとしてトリエチルアンモニウム塩/1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Dとして1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)を例えば1:0.1:1:0.002wt/wtの混合比率で含む。
【0034】
次に、記載されたさらなる細胞修飾は、6×ヒスチジンリピートに結合した腫瘍壊死因子(TNF)αの添加によって行われる。これは、方式3(下記参照)に挙げられたような癌療法の成功へと導く。
【0035】
両親媒性分子種E、特に分子種EとしてのバクテリオロドプシンまたはグリコホリンAまたはインテグリンをその混合物に供給することができ、融合の間に細胞の細胞膜中に配置することができる。
【0036】
さらになお、予め乾燥された混合物の緩衝化溶液に、非両親媒性の親水性分子種Fも供給し、融合の間に細胞内腔に送達することができる。分子種Fに関して、特にRNA、DNA、Ca2+、ペプチド、タンパク質または薬剤、例えばアセチルサリチル酸が含まれる。
【0037】
同様に非両親媒性の疎水性分子種Gを、同時にその混合物に供給し、融合の間に細胞膜中に配置することができる。これに関して、特にコレステリン、ビタミンA、D、EおよびK、またはコルチゾンのような薬剤が含まれる。
【0038】
全ての分子種A、B、C、D、場合によりGは、有機溶媒に溶解し、均一化することができる。それを続いて乾燥させ、水性緩衝液に溶解させ、保存することができる。水性緩衝溶液に溶解させる際に、前記分子種Eおよび/Fを混合することができる。その際に分子種の性質に応じて、有利には分子種A、B、C、D、E、F、Gからリポソームを形成させることができる。
【0039】
以下の分子は、膜との融合により細胞膜を修飾するための融合混合物の製造に使用することができる。後に続く列挙は網羅的でも限定的でもない。
【0040】
分子種Aの実施例:
分子Aの基準は、(a)その分子が少なくとも一つまたは複数の正電荷を有する親水性領域を有することによって、その分子の親水性部分の合計電荷が正であることである。この分子の課題は、負荷電した細胞膜近辺に静電力によって上記融合混合物をもたらすことである。(b)加えて疎水性領域は、好ましくは二重結合を有するかまたは有さないC10〜C30−部分を有する。有利には、二重結合によって、生成したリポソームの膜が弾性になり、それによってリポソームと細胞膜との融合が容易になる。(c)本発明の混合物中の分子種Aの割合は、最大99wt/wt%でありうる。
【0041】
例えば1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP)、N−(2,3−ジオレイルオキシプロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、または(1−[2−(オレオイルオキシ)エチル]−2−オレイル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DOTIM)のような分子が適切である。
【0042】
第一の例として、DOTAP(1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(塩化物塩))が挙げられる。
【0043】
【化1】

【0044】
分子種Bの実施例:
本発明の融合誘導性分子としての両親媒性分子種Bの基準は、以下の通りである。(a)それは、電荷を有するかまたは好ましくは電荷を有さない親水性領域を有さなければならない。(b)そしてそれは、二重結合を有するかまたは有さない疎水性領域、好ましくはC10〜C30−部分を有さなければならない。二重結合の機能については種Aを参照されたい。(c)その分子は、疎水性および/または親水性領域のいずれかに、非局在化した電子系を有する基(R)を有する。それによって、共役二重結合および/または自由電子対および/または空のp軌道からの環状構造モチーフが意図される。
【0045】
基Rにおいて、共有結合した隣接原子の間の電気陰性度の差が大きいことが特に好ましい。これは、特に有利には少なくとも0.4(Δχ≧0.4)でありうる。これは、高められた分極率に役立ち、融合にプラスの影響を及ぼす。(d)混合物中の融合誘導性分子種Bの割合は、最大40wt/wt%に調整することができる。
【0046】
後に続く表に、種Bの分子について関連する基Rをいくつか要約する。
【0047】
【表1】

【0048】
分子種Bの第1の例(β−BODIPY−C12−HPC):
2−(4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)はβ−BODIPYであり、基Rを意味する。この基Rが、1−ヘキサデカノイル−2−ドデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(C12−HPC)に結合している。両者は一緒になって次の構造式を与える:
【0049】
【化2】

【0050】
分子種Bの第2の例(BODIPY FL DHPE):
N−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)はBODIPY−FLである。この基Rが、DHPE(1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(トリエチルアンモニウム塩))に結合している。両者は一緒になって次の構造式を与える:
【0051】
【化3】

【0052】
分子種Bの第3の例(「DiO」):
DiOC18(3)3,3’−ジオクタデシルオキサカルボシアニン過塩素酸塩。この分子は、最初の2つの分子Bのように脂質と結合した色素ではなく、それ自体次の構造式で示される両親媒性の分子である:
【0053】
【化4】

【0054】
分子種Bの第4の例(LR−DOPE):
リサミンローダミンBスルホニルが基Rである。これは、両親媒性分子としての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)に結合している。両者は次の構造式を与える:
【0055】
【化5】

【0056】
分子種Bの第5の実施例(Texas Red(登録商標)−DHPE):
Texas Redは、(5−(クロロスルホニル)−2−(1H,2H,3H,5H,6H,7H,11H,12H,13H,15H,16H,17H−ピリド[3,2,1−ij]キノリジノ[1’,9’:6,7,8]クロメノ[2,3−f]キノリン−4−イウム−9−イル)ベンゼンスルホネート、つまり基Rである。これが、1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合しており、一緒になって次の構造式を与える:
【0057】
【化6】

【0058】
分子種Bの第6の例(NBD−DOPE):
NBDは、(7−ニトロ−2−1,3−ベンゾオキサジアゾール−4−イル)、つまり基Rである。これが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して次の構造式となる:
【0059】
【化7】

【0060】
分子種Bへの第7の例(フルオレセイン−DOPE):
カルボキシフルオレセインが基Rであって、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して次の構造式となる:
【0061】
【化8】

【0062】
分子種Bへの第8の例(ピレン−DOPE)
1−ピレンスルホニルが基Rであって、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して次の構造式となる:
【0063】
【化9】

【0064】
分子種Bの第9の例(β−py−C10−HPC):
ピレンデカノイルが基Rであって、1−ヘキサデカノイル−2−sn−グリセロ−3−ホスホコリンに結合して次の構造式となる:
【0065】
【化10】

【0066】
全ての基Rは、本発明の意味において非局在化電子構造を有する。分子種B中の基Rは、非局在化のためにしばしば色素として存在する。
【0067】
前記基Rは、それ自体、両親媒性分子の疎水性部分および非局在化二重結合によって形成されることが考えられる。
【0068】
表1から追加的にわかるように、直接隣接した原子の、その電気陰性度に関する差が大きいほど、融合の質は良好である。
【0069】
それに反して次の分子、例えばcapBio−DOPE(キャップビオチニルである基Rが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して、次の構造式となったもの)
【0070】
【化11】

などは機能しない。
【0071】
PI、すなわちL−α−ホスファチジルイノシトール(ナトリウム塩)
【0072】
【化12】

およびメトキシ(ポリエチレングリコール)−2000である基Rが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して次の構造式(PEG2000−DOPE)となったもの
【0073】
【化13】

も同様に機能しない。
【0074】
直前の3種の分子には電子構造の非局在化が欠けている。これは、本発明の混合物がこれを有さなければならないことを示している。
【0075】
記載されたように、正電荷に関する分子種Aの有利な性質および非局在化した電子系もしくは電気陰性度の差に関する分子種Bの有利な性質を、化学合成分子に統合することも考えられる。したがって、これまでは本発明者らに知られていなかった当該分子も、同じく本発明の対象であるはずである。
【0076】
前記混合物の場合によるさらに有利な形態は、融合混合物の製造または細胞膜修飾のために以下のさらなる分子が可能である。
【0077】
ヘルパー分子としての分子種Cの実施例
ヘルパー分子/担体分子Cの基準は:(a)その分子が、親水性領域および(b)二重結合を有するかまたは有さない疎水性領域(特にC10〜C30)を有さなければならないことである。二重結合の機能のために、種Aおよび/または種Bを参照されたい。(c)大きな荷電密度および分子種Aの正荷電分子の間の斥力を中和するために、両方の領域は、中性を有するべきである。この効果は、系の安定化へと導く。(d)担体分子の割合は、最大70%wt/wtに調整することができる。
【0078】
例えばホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジエライドイルsn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジフィタノールsn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジリノレオイルsn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンまたは1,2−ジオレオイルsn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン)のような分子が、適切である。
【0079】
第1の例として1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)が挙げられる。
【0080】
【化14】

【0081】
有利には、分子種A、BおよびCを脂質またはポリマーとして形成させることが可能である。両親媒性脂質の場合、すぐに使用可能な混合物を製造するときにリポソームを生成させる。
【0082】
分子種A、BおよびCの間の重量混合比(wt/wt)は、有利には1:0.05〜0.2:1である。
【0083】
分子種D(官能基を有する両親媒性)
両親媒性分子種Dの基準は、以下の通りである:(a)その分子は、親水性領域および(b)二重結合を有するかまたは有さない疎水性領域(特にC10〜C30を有する)を有さなければならない。二重結合の機能については種A、B、またはCを参照されたい。(c)その分子は、融合後に細胞表面へのさらなる化学結合を可能にする官能基を親水性領域に有さなければならない。
【0084】
例えば長鎖脂肪酸およびアルコール、キレート錯体修飾脂質、例えば1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)、ビオチン修飾脂質(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−キャップ−ビオチン)、もしくはPEG修飾脂質(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000](アンモニウム塩)のような分子または薬剤も適切である。
【0085】
これについての第一の実施例は、官能基としての(イミノ二酢酸)スクシニル(ニッケル塩)であり、ここではキレート基の形態で1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−5−アミノ−1−カルボキシペンチルに結合している。これは、次の構造式を与える:
【0086】
【化15】

【0087】
分子種E(両親媒性):
さらになお、分子種Eの基準は、以下の通りである:(a)それは両親媒性である。(b)これは、例えばバクテリオロドプシン、インテグリン、グリコホリンAおよび他多数のような膜タンパク質、ペプチド、表面レセプターでありうる。(c)分子種Eは、その他の成分A、B、C、Dのように人工的に合成することもできるし、また細胞から得ることもできる。(d)例えば蛍光または放射性標識のようなこれらの分子の修飾が利用可能である。(e)分子種Eは、混合物に最大20%wt/wtまで添加することができる。
【0088】
両親媒性分子種Eは、種A〜Dとして脂質を利用する際にリポソーム膜中に組み入れられる。非両親媒性分子種Eは、種A〜Dとして脂質を利用する際にリポソーム膜上に結合して組み入れられる。
【0089】
分子種F(水溶性または親水性):
分子種Fの基準は次の通りである:(a)その分子は、水溶性であるべきである。以下の例が与えられる:イオン、ペプチド、タンパク質、薬剤、DNAまたはRNA。
【0090】
分子種Fは、分子種として脂質を利用する際にリポソームの内腔中に組み入れられる。
【0091】
分子種G(非水溶性または疎水性):
分子種Gへの基準は次の通りである:(a)その分子は疎水性の性質を有し、有機溶媒に溶解性良好である。以下の例が与えられる:コレステロール、ビタミンB。分子種A、B、CおよびDと一緒にこれらを有機溶媒中で混合する。
【0092】
融合方法
分子種AおよびBを有する本発明の混合物の成分は、場合により、それに混合されたさらなる分子C、場合によりDおよび場合によりGと一緒に、所望の重量比で同時に、有機溶媒、好ましくはクロロホルム、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサン、ヘプタンまたはこれらの混合物中に入れられる。有機溶媒中に均一化した後で、有機溶媒は除去すべきである。
【0093】
乾燥された混合物は、好ましくはpH値7程度の水性緩衝液に入れられ、再び均一化される。次に、有利には添加された分子種を含むリポソームが形成される。そのうえ、分子種EおよびFの分子を同様に混合することができる。この形態でその混合物は、例えば4℃で少なくとも1ヶ月間保存可能である。このステップは本発明の方法の調製のために役立つ。
【0094】
本来の方法は、融合混合物を細胞培地で例えば1:100(混合物:細胞培地v/v)に希釈し、再度均一化して、細胞上に与えることを備える。
【0095】
生きた細胞への本発明の融合混合物の添加によって、好ましくはin vivoで融合が生じる。これに関して、細胞を約1〜60分間、組織試料の場合は例えば60〜120分間その混合物と接触させることで十分である。次に、細胞の洗浄ステップを挿入すべきであろう。
【0096】
その方法は、有利には少なくとも50%、好ましくは70%超、特に90%超という特に高い融合効率によって特徴づけられる。
【0097】
膜融合は、特に有利には単一の細胞型に限定されるのではなく、表2に表示するようにほぼ普遍的なメカニズムを意味する。その上、密な組織試料は、延長したインキュベーション時間によってうまく処理することができる。それゆえにその方法は、特に有利に非常に多方面に使用可能である。
【0098】
本発明の混合物と細胞膜との融合の際に、分子種Fの形態の小胞内容物(vesikulaeren Volumina)が細胞内に導入されることから、これは、有利には細胞の細胞質への可溶性分子、イオン、タンパク質またはDNAの導入に役立てることができる。したがって分子種Fは、本来の意味で両親媒性分子種の混合物の成分ではない。
【0099】
融合プロセスの間に、生物学的または薬学的に関連する分子種D、EまたはGを無傷(intakte)細胞膜に取り込むことができる。細胞膜に導入された分子種Dの反応基は、例えばカップリング反応のために使用することができる。ペプチドまたはタンパク質のような種Eの追加的な膜固有の分子を細胞膜中に組み入れることができる。
【0100】
本発明の混合物および本発明の方法は、基礎研究の多分野の分析を実施するための方式、例えば無傷細胞膜中に組み込まれた分子の拡散分析、文献中で脂質ラフトとしても公知の脂質のマイクロドメインおよびナノドメインの特徴づけ、または細胞における膜分子の調節および輸送経路の研究を可能にする。
【0101】
同時にその系は、例えば医学的に高度に関連する、特定の細胞型に狙いを定めた標識のために、例えば癌細胞の標識のために、細胞遊走の誘導を用いた創傷閉鎖の支援のために、細胞−細胞接触の形成、細胞突起または増殖誘導または細胞−細胞融合の形成のために利用することができる。
【0102】
したがって、分子種A、B、(C)、DとTNFαとの特定の本発明の両親媒性混合物は、医薬として、ならびにそれと同時に癌細胞の標識および治療の際に使用することができる。
【0103】
細胞膜修飾のためのいくつかの方法の概要を表2に示す。
【0104】
【表2】


【0105】
表2に関する略語:
手法1:細胞膜の染色;手法2:細胞表面の修飾;手法3:細胞内腔の修飾;手法4:細胞膜中のタンパク質の再構成
【0106】
分子種Cに関して:DOPE=1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン
【0107】
分子種Aに関して:DOTAP=1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−(トリメチルアンモニウム−プロパン(塩化物塩)
【0108】
分子種Bに関して:
β−BODIPY C12−HPC:2−(4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)−1−ヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン
β−ピレン C10−HPC:1−ヘキサデカノイル−2−(1−ピレンデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン
BODIPY FL DHPE:N−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、(トリエチルアンモニウム塩)
DiO:DiOC18(3)3,3’−ジオクタデシルオキサカルボシアニン過塩素酸塩
フルオレセイン−DHPE:1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−(カルボキシフルオレセイン)(アンモニウム塩)
LR−DHPE:リサミンローダミンB 1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、(トリエチルアンモニウム塩)
LR−DOPE:リサミンローダミンB 1,2−ジオレノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、(トリエチルアンモニウム塩)
NBD−DOPE:N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)−1,2−ジオレノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(トリエチルアンモニウム塩)
ピレン−DOPE:1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−(1−ピレンスルホニル)(アンモニウム塩)
Texas Red−DHPE:Texas Red1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(トリエチルアンモニウム塩)
【0109】
分子種D〜Gに関して:
BR−TRITC:分子種Eとしての、テトラメチルローダミンイソチオシアネートアイソマー混合物でラベルされたハロバクテリウム・サリナラム(Halobacterium salinarum)由来バクテリオロドプシン。
DOGS−NTA:分子種Dとしての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)。
capBioDOPE:分子種Dとしての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−キャップ−ビオチン。
B FL−SM:分子種DとしてのN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)スフィンゴシルホスホコリン
GPA−TRITC:分子種Eとしての、テトラメチルローダミンイソチオシアネートアイソマー混合物でラベルされたグリコホリンA(MNS血液型)。
PI:分子種EとしてのL−α−ホスファチジル−イノシトール(ナトリウム塩)。
分子種FとしてのCaClxHO。
【0110】
細胞型および細胞系:
BSMC:気管支平滑筋細胞
ESMC:胎児平滑筋細胞
HEK:ヒト胎児腎、HEK293
h.線維芽細胞:ヒト線維芽細胞
角化細胞:ヒト角化細胞
マクロファージ:ヒトマクロファージ
筋線維芽細胞:ラット心臓線維芽細胞
ニューロン:ラット胎仔皮質ニューロン
R37:乳癌細胞系
心膜:ラット胎仔心嚢(heart bag)
【0111】
表2に関するその他:
TNF:TNFα−His−タグ:腫瘍壊死因子が6×ヒスチジンリピートと連結したもの
【0112】
以下に実施例および添付の図面に基づいて本発明を詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】融合試薬の三つの使用可能性の概略を示す図である。
【図2】表2の第11行に対応する図である。Fluo−4 AM中で予備インキュベーションされたHEK293細胞に、1mM CaCl(分子種F)溶液を充填された融合混合物(DOPE(分子種C)/DOTAP(分子種A)/LR−DHPE(分子種B)=1/1/0.1wt/wt)を添加した後の顕微鏡写真である。緑色Ca2+指示薬(Fluo−4チャネル)が細胞内部において高いCa2+濃度(分子種F)を示す一方で、赤色で標識された脂質混合物(分子種A〜C)(LissRhodチャネル)は細胞膜中に組み入れられた。(スケールバー=20μm)。
【図3】表2の第25行に対応する図である。融合混合物(DOPE(分子種C)/DOTAP(分子種A)/β−Bodipy−C12HPC(分子種B)/BR−TRITC(分子種E)=1/1/0.1/0.0005wt/wt)を添加してから10分後の線維芽細胞の顕微鏡写真である。緑色で標識された脂質混合物(分子種A〜C)(β−Bodipyチャネル)および赤色で標識されたチャネルタンパク質(分子種E)(TRITCチャネル)が細胞膜中に組み入れられた。(スケールバー=20μm)
【図4】表2の第25行に対応する図である。融合混合物(DOPE(分子種C)/DOTAP(分子種A)/β−Bodipy−C12HPC(分子種B)/BR−TRITC(分子種E)=1/1/0.1/0.0005wt/wt)の洗浄から4時間後の線維芽細胞の顕微鏡写真である。緑色で標識された脂質混合物(分子種A〜C)(β−Bodipyチャネル)および赤色で標識されたチャネルタンパク質(分子種E)(TRITCチャネル)が細胞膜中に組み入れられた。時間に依存した2種類の色素の分離は、細胞膜から細胞内部への膜脂質およびタンパク質の異なる輸送経過を推論させる。(スケールバー=20μm)。
【図5】表2の第16行に対応する図である。融合混合物(DOPE(分子種C)/DOTAP(分子種A)/Bodipy FL−DHPE(分子種B)/DOGS−NTA(分子種D)=1/1/0.1/0.002wt/wt)の添加から10分後のHEK293細胞の顕微鏡写真である。(スケールバー=50μm)
【図6】表2の第16行に対応する図である。細胞膜に組み入れられたDOGS−NTA(分子種D)を有する、TNFα−His−タグ処理されたHEK293細胞およびマクロファージの顕微鏡写真、ならびにB:細胞膜にDOGS−NTA(分子種D)を有さない、TNFα−His−タグ処理されたHEK293細胞およびマクロファージの顕微鏡写真を示す図である。(スケールバー=50μm)
【図7】表2の第23行に対応する図である。融合混合物(DOPE(分子種C)/DOTAP(分子種A)/Texas RedDHPCC(分子種B)/capBioDOPE(分子種D)=1/1/0.1/0.01wt/wt)を洗浄後の線維芽細胞の顕微鏡写真である。赤色で標識された脂質混合物(分子種A〜C)(Texas Redチャネル)および緑色で標識された表面タンパク質(AlexaFluor488チャネル)は、リン脂質と、細胞表面に結合したタンパク質との明白な共局在を示す。(スケールバー=50μm)
【図8】表2の第24行に対応する図である。融合混合物(DOPE(分子種C)/DOTAP(分子種A)/Texas RedDHPCC(分子種B)/B FL−SM(分子種D)=1/1/0.1/0.01wt/wt)を洗浄後の線維芽細胞の顕微鏡写真である。この写真は、リン脂質(Texas Redチャネル)およびスフィンゴ脂質(BFLチャネル)の組み入れの成功を示す。(スケールバー=20μm)
【図9】表2の第47行に対応する図である。融合混合物(DOPE(分子種C)/DOTAP(分子種A)/BodipyFL−DHPE(分子種B)=1/1/0.1wt/wt)で1時間処理後のラット胚(19日)からの初代心膜組織(心嚢)の顕微鏡写真である。写真から、分子種A〜Cの融合混合物が組織中に深さ約3〜4細胞層まで入り込み、膜融合が誘導されたことが明らかに見てとれる。(スケールバー=70μm)
【実施例】
【0114】
図1は、細胞膜修飾の三つの本発明の方式を示す。各方式は、さらなる実施例で実施される。
【0115】
図1の方式1:種A〜Cの混合物および細胞内腔への種FとしてのCa2+イオンの導入による細胞膜修飾
ヒト胎児腎臓(HEK293)(DSMZ、ドイツ)細胞を、細胞培養シャーレ(φ3.5cm)1枚あたりDMEM培地(Sigma Aldrich、セントルイス、MO、USA)中に細胞30000個の細胞密度で1μg/mlのFluo−4 AM−Ca2+−指示薬(Invitrogen、ユージーン、OR、USA)と共に30分間インキュベーションした。インキュベーション後に細胞をDMEM培地で洗浄させ、本発明の融合混合物と共に30分間インキュベーションした。
【0116】
本発明の融合混合物は、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE:分子種C)、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP:分子種A)(両方ともAvanti Polar Lipids Inc.、アラバマ、AL、USA)、リサミンローダミンB 1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(LR−DHPE:基Rを有する分子種B)(Invitrogen)の重量比DOPE/DOTAP/LR−DHPE(1/1/0.1wt/wt)の脂質混合物から成る。
【0117】
脂質成分をまずクロロホルム(VWR、ダルムシュタット、ドイツ)中で均一に混合した。続いてその溶液を真空中で30〜60分間室温で乾燥させた。脂質分子を再度20mM (2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]−エタンスルホン酸)(HEPES緩衝液)(VWR)および1mM CaClの緩衝溶液中に分子種F(VWR)として2mg脂質/ml緩衝液の終濃度となるように入れ、超音波槽(80〜100W)中で20分間室温で均一化した。
【0118】
したがって、その混合物はリポソームとして存在する。この混合物は、冷蔵庫内で4℃で約1ヶ月間保存可能であり、均一化ステップを繰り返した後に再度使用可能である。
【0119】
5μlのこの融合混合物をDMEM培地で100倍に希釈し、超音波を用いて再度5〜10分間均一化してから、Ca2+−指示薬Fluo−4 AM(Invitrogen)と共にインキュベーションされたHEK293細胞を有する細胞培養シャーレに添加する。
【0120】
その細胞を、本発明の融合方法で本発明の混合物と共に37℃および5%COで10〜30分間インキュベーションする。その後細胞をDMEM培地で洗浄し、試薬と細胞膜との融合を蛍光顕微鏡(LSM710、Carl Zeiss Microimaging GmbH、イエーナ製)で検査した(図2)。
【0121】
分子種Bの赤色蛍光脂質分子は、膜融合の成功後にHEK293細胞の細胞膜中に組み入れられている。これによって、細胞膜を蛍光顕微鏡下でよく見分けることができる(図2 LissRhodチャネル参照)。
【0122】
膜融合後に細胞容積中で高められたCa2+濃度によって引き起こされた、Ca2+指示薬Fluo4 AMの強い緑色蛍光強度は、小胞内腔の細胞内部への送達およびそれによる分子種Fの送達の証拠も提供する(図2 Fluo−4チャネル)。
【0123】
写真およびそれに基づくカウントにより、80%を超える融合効率、すなわち全細胞の80%超が本発明の混合物/リポソームと融合したことが示される。
【0124】
対照としてHEK293細胞を同様に処理したが、ただし、小胞内腔に1mM CaCl緩衝液の代わりに20mM HEPESを充填した。この場合、Ca2+指示薬は明らかに、より低い細胞内Ca2+濃度を示した(表示せず)。
【0125】
図1の方式2:種A〜Cの混合物および細胞膜中へのバクテリオロドプシン(分子種E)の導入による細胞膜修飾:
心臓線維芽細胞をラット胎仔心臓(19日)から単離し、F10 Ham培地(Sigma Aldrich、セントルイス、MO、USA)中で細胞培養シャーレ(φ3.5cm)1枚あたり20000個の細胞密度で37℃および5% COでインキュベーションした。6日間かけて心臓線維芽細胞は筋線維芽細胞に分化し、以下の本発明の方法に使用した。
【0126】
筋線維芽細胞を、1/1/0.1の重量比で終濃度20μg脂質/ml培地の1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE:分子種C)、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP:分子種A)(両方ともAvanti Polar Lipids Inc.、アラバマ、AL、USA製)および2−(4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)−1−ヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(β−BODIPY C12−HPC:分子種B、Invitrogen(ユージーン、OR、USA)製)、ならびに蛍光標識されたチャネルタンパク質(Halobacterium Salinarum由来バクテリオロドプシン(Sigma Aldrich)−テトラメチルローダミンイソチオシアネート(Sigma Aldrich))(BR−TRITC:分子種E)0.4ng/ml)の融合混合物中でインキュベーションした。
【0127】
本発明の混合物を次の方法で調製した。脂質成分(分子種A〜C)をクロロホルム(VWR)中で均一に混合した。混合後にその溶液を真空中で30〜60分間乾燥させた。脂質分子を再び20mM HEPES(2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]−エタンスルホン酸(VWR))緩衝溶液中に終濃度2mg脂質/ml緩衝液となるように入れ、超音波槽(80〜100W)中で20分間均一化した。全てのステップを室温で実施した。したがって、この混合物はリポソームとして存在する。
【0128】
5μlのこの融合混合物を0.7μlのBR−TRITC溶液(分子種E)(0.06mg/ml HEPES)と共に60分間インキュベーションし、その際に慎重に撹拌した。チャネルタンパク質Eは、リポソームの脂質二重膜に入れられる。
【0129】
その溶液をF10 Ham培地(Sigma Aldrich)で100倍に希釈し、再度超音波(80〜100W)で1〜2分間処理してから筋線維芽細胞を有する細胞培養シャーレに加えた。
【0130】
本発明により細胞を融合混合物と共に10〜20分間インキュベーションし、次にF10 Ham培地で洗浄し、分析した。
【0131】
洗浄後に細胞の細胞原形質膜の約80〜100%を蛍光顕微鏡(脂質について緑色、タンパク質について赤色)(LSM710、Carl Zeiss Microimaging GmbH、イエーナ製)で検出することができたが、このことは脂質混合物(分子種A〜C)だけでなくタンパク質分子(分子種E)の膜組み入れの成功も示している(図3および図4)。
【0132】
図1の方式3:種A〜Dの混合物による細胞膜表面上へのタンパク質結合のための細胞膜修飾、新規な腫瘍治療およびそのための医薬の特徴
RPMI培地(Sigma Aldrich、セントルイス、MO、USA)中で細胞培養シャーレ(φ3.5cm)1枚あたり細胞40000個の細胞密度のヒト胎児腎臓(HEK293)(DSMZ、ドイツ)細胞を37℃および5%COでインキュベーションし、約90%の集密度で後続のステップに使用した。HEK293細胞を1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE:分子種C)、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP:分子種A)、(両方ともAvanti Polar Lipids Inc.、アラバマ、AL、USA製)、N−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、トリエチルアンモニウム塩(Bodipy FL−DHPE:分子種 B)(Invitrogen、ユージーン、OR、USA)および1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)(DOGS−NTA:分子種D Avanti Polar Lipids Inc.)を含むDOPE/DOTAP/Bodipy FL−DHPE/DOGS−NTA(1/1/0.1/0.002wt/wt)の重量比の融合混合物中で20μg脂質/ml RPMI培地(Sigma Aldrich)の終濃度で37℃および5% COで10〜20分間直接インキュベーションした。
【0133】
融合混合物を次の方法で調製した。脂質成分(分子種A〜D)をまずクロロホルム(VWR、ダルムシュタット、ドイツ)中に均一に混合した。続いて、その溶液を真空中で30〜60分間乾燥させた。脂質分子を再度20mM (2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]−エタンスルホン酸)(HEPES緩衝液)(VWR)の緩衝溶液中に終濃度2mg脂質/ml緩衝液となるように入れ、超音波槽(80〜100W)中で20分間均一化した。
【0134】
したがって、その混合物はリポソームとして存在する。この混合物は、4℃の冷蔵庫内で約1ヶ月間保存可能であり、均一化ステップを繰り返した後に再度使用可能である。
【0135】
5μlのこの融合混合物をRPMI培地(Sigma Aldrich)で100倍に希釈し、超音波(80〜100W)を用いて再度5〜10分間均一化してからHEK293細胞を有する細胞培養シャーレに加えた。全ての調製ステップを室温で実施した。
【0136】
続いて細胞をRPMI培地(Sigma Aldrich)で洗浄し、試薬と細胞膜との融合を蛍光顕微鏡(LSM710、Carl Zeiss Microimaging GmbH、イエーナ製)で検査した。
【0137】
図5にそのような検査を示すが、この図は、80%を超える融合効率を示す。この効率は、顕微鏡写真の助けを借りて計数によって確認した。
【0138】
分子種Dとして使用されたDOGS−NTAの反応性頭基と反応パートナーとの間の結合を可能にするために、濃度1〜5ng/mlの、6×ヒスチジン−リピートに結合した腫瘍壊死因子−α(TNFα−His−タグ)(ProSpec、レホボート、イスラエル)のRPMI培地溶液中で細胞を約20分間37℃および5% COでインキュベーションした。
【0139】
残留タンパク質は、RPMI培地で3回洗浄するプロセスによって懸濁液から除去した。TNFαは、体内でマクロファージ活性化因子として役立ち、免疫系に関する癌細胞の認識および排除における主因子である。系の機能性を検査するために、分化したマクロファージを使用した。ヒト単球は、血液からLeukoseptsystem(Greiner bio−one、クレムスミュンスター、AU)およびBiocoll分離媒質(Biochrom、ケンブリッジ、UK)を用いて得た。形成した間期から1000gで10分間遠心分離後に単球を回収し、後にリン酸緩衝液(PBS、Sigma Aldrich製)で洗浄した。単球をRPMI培地(Sigma Aldrich)に入れ、37℃および5% COでインキュベーションした。2日後に0.1ng/ml顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(G−MCF、Sigma Aldrich製)をその単球に与えた。さらなる3日後に単球から不活性なマクロファージに分化した。
【0140】
続いて、そのように得られたマクロファージを、HEK293細胞層に蒔いたが、その細胞は、融合およびそれに続くTNFα−His−タグとのインキュベーションによりマクロファージのための認識シグナルを担持していることになった。認識されると、マクロファージにおける細胞性免疫応答が誘導され、HEK293細胞が溶解されることになった。対照としてHEK細胞を同様に処理したが、ただし、反応性頭基を有する分子種Dの両親媒性分子(DOGS−NTA)を融合アプローチから省略した。両方のアプローチで24時間インキュベーションし、続いて光学顕微鏡で分析した(LSM710、Carl Zeiss Microimaging GmbH、イエーナ製)。図6に、融合アプローチにおいてDOGS−NTA(分子種D)と共にインキュベーションされたHEK293細胞上でのみ、細胞が認識され、溶解されたこと(プラーク形成)を示す。この例は、膜融合を用いて目的の細胞型が標識され、一例として免疫系に関して可視化することができることを示す。
【0141】
ビオチン−アビジン/ストレプトアビジンの結合により細胞膜表面上にタンパク質を結合させるための種A〜Dの混合物による細胞膜修飾のさらなる実施例:
心臓線維芽細胞をラット胎仔心臓(19日)から単離し、F10 Ham培地(Sigma Aldrich、セントルイス、MO、USA)中で細胞培養シャーレ(φ3.5cm)1枚あたり20000個の細胞密度で、37℃および5% COでインキュベーションした。6日間かけて心臓線維芽細胞は筋線維芽細胞に分化し、以下の本発明の方法に使用した。
【0142】
筋線維芽細胞を、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE:分子種C)、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP:分子種A)(両方ともAvanti Polar Lipids Inc.、アラバマ、AL、USA製)、Texas Red1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(トリエチルアンモニウム塩)(Texas Red−DHPE:分子種B)(Invitrogen、ユージーン、OR、USA)および1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−キャップ−ビオチン(capBioDOPE:分子種D、Avanti Polar Lipids Inc.)を、DOPE/DOTAP/Texas Red−DHPE/capBioDOPE(1/1/0.1/0.1wt/wt)の重量比で含む、終濃度20μg脂質/ml F10 Ham培地(Sigma Aldrich)の融合混合物中で、37℃および5% COで10〜20分間直接インキュベーションした。
【0143】
融合混合物は次のように調製した。脂質成分(分子種A〜D)をまずクロロホルム(VWR、ダルムシュタット、ドイツ)中で均一に混合した。続いてその溶液を真空中で30〜60分間乾燥させた。脂質分子を再度20mM (2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]−エタンスルホン酸)(HEPES緩衝液)(VWR)の緩衝溶液中で終濃度2mg脂質/ml緩衝液となるように入れ、超音波槽(80〜100W)中で20分間均一化した。
【0144】
したがって、その混合物はリポソームとして存在する。この混合物は、冷蔵庫内で4℃で約1ヶ月間保存可能であり、均一化ステップを繰り返した後に再度使用可能である。
【0145】
5μlのこの融合混合物をF10 Ham培地(Sigma Aldrich)で100倍に希釈し、超音波(80〜100W)を用いて再度5〜10分間均一化してから筋線維芽細胞を有する細胞培養シャーレに添加した。全ての調製ステップは室温で実施した。
【0146】
続いて細胞をF10 Ham培地(Sigma Aldrich)で洗浄し、試薬と細胞膜との融合を蛍光顕微鏡(LSM710、Carl Zeiss Microimaging GmbH、イエーナ製)で検査した。
【0147】
図7にそのような検査を示すが、この図は、80%を超える融合効率を示す。この効率は、顕微鏡写真の助けを借りて計数によって確認した。
【0148】
分子種Dとして使用されたcapBioDOPEの反応性頭基と反応パートナーとの間の結合を可能にするために、100/1のmol/mol%のストレプトアビジン/ストレプトアビジン−AlexaFluoro488(両方ともInvitrogen、ユージーン、OR、USA製)を総タンパク質濃度1mg/ml Ham培地となるように溶かした溶液中で細胞を37℃および5% COで約20分間インキュベーションした。
【0149】
残留タンパク質は、F10 Ham培地で3回洗浄するプロセスによって懸濁液から除去した。
【0150】
図7にリン脂質(赤色)および細胞表面結合タンパク質(緑色)の明白な共局在を示す。
【0151】
細胞膜組成を修飾するための種A〜Dの混合物による細胞膜修飾のさらなる実施例:
心臓線維芽細胞をラット胎仔心臓(19日)から単離し、F10 Ham培地(Sigma Aldrich、セントルイス、MO、USA)中で細胞培養シャーレ(φ3.5cm)1枚あたり20000個の細胞密度で、37℃および5% COでインキュベーションした。6日間かけて心臓線維芽細胞は筋線維芽細胞に分化し、以下の本発明の方法に使用した。
【0152】
筋線維芽細胞を、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE:分子種C)、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP:分子種A)(両方ともAvanti Polar Lipids Inc.、アラバマ、AL、USA製)、Texas Red1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(トリエチルアンモニウム塩)(Texas Red−DHPE:分子種B)およびN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)スフィンゴシルホスホコリン(B FL−SM:分子種D)(両方ともInvitrogen、ユージーン、OR、USA製)をDOPE/DOTAP/Texas Red−DHPE/BFL−SM(1/1/0.1/0.01wt/wt)の重量比で含む、終濃度20μg脂質/ml F10 Ham培地(Sigma Aldrich)の融合混合物中で、37℃および5% COで10分間直接インキュベーションした。
【0153】
融合混合物は次のように調製した。脂質成分(分子種A〜D)をまずクロロホルム(VWR、ダルムシュタット、ドイツ)中で均一に混合した。続いてその溶液を真空中で30〜60分間乾燥させた。脂質分子を再度20mM (2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]−エタンスルホン酸)(HEPES緩衝液)(VWR)の緩衝溶液中で終濃度2mg脂質/ml緩衝液となるように入れ、超音波槽(80〜100W)中で20分間均一化した。
【0154】
したがって、その混合物はリポソームとして存在する。この混合物は、冷蔵庫内で4℃で約1ヶ月間保存可能であり、均一化ステップを繰り返した後に再度使用可能である。
【0155】
5μlのこの融合混合物をF10 Ham培地(Sigma Aldrich)で100倍に希釈し、超音波(80〜100W)を用いて再度5〜10分間均一化してから筋線維芽細胞を有する細胞培養シャーレに添加した。全ての調製ステップは室温で実施した。
【0156】
続いて細胞をF10 Ham培地(Sigma Aldrich)で洗浄し、試薬と細胞膜との融合を蛍光顕微鏡(LSM710、Carl Zeiss Microimaging GmbH、イエーナ製)で検査した。
【0157】
図8に実施例ならびに筋線維芽細胞の原形質膜へのリン脂質分子(Texas Red−DHPE)およびスフィンゴ脂質(BFL−SM)の組み入れの範囲内でそのような検査を示す。
【0158】
方式4:組織試料への種A〜Cの混合物による細胞膜修飾
融合混合物を用いて個別の哺乳類細胞だけでなく、組織および組織切片中の細胞もまた融合させることができる(図9参照)。ラット胎仔(19日)から初代心膜組織(心嚢)を単離し、3.5cm細胞培養シャーレ上のF10 Ham培地(Sigma Aldrich、セントルイス、MO、USA)中で1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE:分子種C)、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP:分子種A)、(両方ともAvanti Polar Lipids Inc.、アラバマ、AL、USA製)およびN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、トリエチルアンモニウム塩(Bodipy FL−DHPE:分子種B)(Invitrogen、ユージーン、OR、USA)の重量比1/1/0.1wt/wtの融合混合物と共に37℃および5% CO2で1時間インキュベーションした。(分子種CおよびBはAvanti Polar Lipids Inc.、アラバマ、AL、USA製;分子種Bは、Invitrogen、ユージーン、OR、USAから購入した)。融合混合物は、以下のように調製した。
【0159】
脂質成分(分子種A〜C)は、まずクロロホルム(VWR、ダルムシュタット、ドイツ)中で均一に混合した。続いてその溶液を真空中で30〜60分間乾燥させた。脂質分子を再度20mM (2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]−エタンスルホン酸)(HEPES緩衝液)(VWR、ダルムシュタット、ドイツ)の緩衝溶液中に終濃度2mg脂質/ml緩衝液となるように入れ、超音波槽(80〜100W)中で20分間均一化した。この混合物も、リポソームとして4℃で保存可能である。
【0160】
5μlのこの融合混合物をF10 Ham培地(Sigma Aldrich)で100倍に希釈し、再度超音波(80〜100W)を用いて5〜10分間均一化してから組織試料に添加した。全ての調製ステップを室温で実施した。
【0161】
続いて、融合された組織を蛍光顕微鏡(LSM710、Carl Zeiss Microimaging GmbH、イエーナ製)で分析した。図9に、外部組織層の細胞だけでなく、より深部の細胞レベルの細胞もうまく融合または染色したことを示す。結合組織の細胞由来の約3〜4細胞層をはっきりと認識することができる。場合により、これによる遺伝子療法、癌治療および創傷治癒での使用が考えられる。
【0162】
さらなる実施例を挙げることができる。これを表2に示す。その混合物の製造方法は、本明細書に示された四つの例のプロトコールから引用される。細胞膜の融合は上に挙げられた方法に従う。本発明の意味で、実施例における全ての工程ステップを非限定的な性質と見なすことができる。特に融合混合物およびその使用は、広く解釈するべきである。これは、新しい混合物および実施に成功するように、実施例に示された方法および融合混合物を相互に組み合わせることができることを意味する。
【0163】
この詳細に述べられた四つの方式は、リポソームから始まる。それは、クロロホルムを添加することおよび緩衝液中に入れることの後に、両親媒性成分がリポソームに変型するからである。
【0164】
本特許出願において、本特許出願に添付されるカラー図1〜9が引用される。これらの図の白黒での描写は、開示の規定に基づいて本特許出願に図10〜18として添付される。その際に図10は内容的に図1に対応する。図11は図2に対応する。図12は図3に対応する。図13は図4に対応する。図14は図5に対応する。図15は図6に対応する。図16は図7に対応する。図17は図8に対応する。図18は図9に対応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性領域に正の総電荷を有する両親媒性分子種Aと、親水性および/または疎水性領域に非局在化した電子系を形成する両親媒性分子種Bとを有する、両親媒性分子の混合物。
【請求項2】
共役二重結合および/または自由電子対および/または空のp軌道によって形成される少なくとも一つの環状構造モチーフを含む、非局在化した電子系を有する分子種Bを特徴とする、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
非局在化した電子系中の分子種Bの共有結合性隣接原子が、0.4以上の電気陰性度の差(Δχ)を有することを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項4】
非局在化した電子系を形成する基Rを含む分子種Bを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項5】
分子種Aとしての1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP)を特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項6】
非局在化した電子系を有する蛍光色素が基Rとして結合した、分子種Bとしてのリン脂質を特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項7】
分子種Bのリン脂質としての1−ヘキサデカノイル−2−ドデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンまたは1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、または1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項8】
分子種Bにおいて非局在化した電子系を形成する、2−(4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)またはN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)またはリサミンローダミンBスルホニルまたは(5−(クロロスルホニル)−2−(1H,2H,3H,5H,6H,7H,11H,12H,13H,15H,16H,17H−ピリド[3,2,1−ij]キノリジノ[1’,9’:6,7,8]クロメノ[2,3−f]キノリン−4−イウム−9−イル)ベンゼンスルホネートまたは7−ニトロ−2−1,3−ベンゾオキサジアゾール−4−イルまたはカルボキシフルオレセインまたは1−ピレンスルホニルを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項9】
ヘルパー分子としてのさらなる両親媒性分子種Cを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項10】
分子種Cとしての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)を特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項11】
分子種A、BおよびCの間で1:0.05〜0.2:1wt/wtの比を特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項12】
最大99%wtの両親媒性分子種Aを有する、請求項1〜11のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項13】
最大40%wtの両親媒性分子種Bを有する、請求項1〜12のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項14】
最大70%wtの両親媒性分子種Cを有する、請求項1〜13のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項15】
水性緩衝液に溶解して存在することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項16】
分子種Aおよび/またはBおよび/またはCとしての脂質を特徴とする、請求項1〜15のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項17】
請求項15および16に記載の混合物を含むリポソーム。
【請求項18】
分子種Aおよび/またはBおよび/またはCとしてのポリマーを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項19】
細胞膜と、請求項1〜18のいずれか一つに記載の混合物またはリポソームとの接触および融合を特徴とする、in vivo細胞修飾方法。
【請求項20】
融合の間の細胞の細胞膜と前記混合物との最大1〜120分間、好ましくは10〜30分間の接触を特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
50%を超える、前記混合物または前記リポソームと融合した細胞の割合を特徴とする、請求項19〜20に記載の方法。
【請求項22】
両親媒性分子種Dの親水性領域における官能基、特に官能基としてのキレート基が前記混合物に供給され、前記融合の間に細胞表面に配置されることを特徴とする、請求項19〜21のいずれか一つに記載の方法。
【請求項23】
分子種Aとして1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパンおよび分子種BとしてN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Cとしてトリエチルアンモニウム塩/1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Dとして1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)を、例えば1:0.1:1:0.002wt/wtの混合比率で含む混合物が、融合のために使用されることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
6×ヒスチジンリピートに結合した腫瘍壊死因子(TNF)αの添加によるさらなる細胞修飾が行われることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
両親媒性分子種E、特に分子種EとしてのバクテリオロドプシンまたはグリコホリンAまたはインテグリンが前記混合物に供給され、前記融合の間に細胞膜に配置されることを特徴とする、請求項19〜24のいずれか一つに記載の方法。
【請求項26】
緩衝溶液中の非両親媒性の親水性分子種F、特に分子種FとしてのRNA、DNA、Ca2+、ペプチド、タンパク質または薬剤、例えばアセチルサリチル酸が、乾燥された混合物に供給され、前記融合の間に細胞内腔に送達されることを特徴とする、請求項19〜25のいずれか一つに記載の方法。
【請求項27】
非両親媒性の疎水性分子種G、特に分子種Gとしてのコレステリン、ビタミンA、D、EおよびKまたは薬剤、例えばコーチゾンが前記混合物に供給され、前記融合の間に細胞膜に配置されることを特徴とする、請求項19〜26のいずれか一つに記載の方法。
【請求項28】
特に1:0.1:1:0.002wt/wtの混合比の、分子種Aとしての1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパンおよび分子種BとしてのN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Cとしてのトリエチルアンモニウム塩/1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Dとしての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)を特徴とする、請求項1〜18のいずれか一つに記載の混合物。
【請求項29】
請求項1〜18、28のいずれか一つに記載の混合物またはリポソームとin vivo融合された細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2012−532151(P2012−532151A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518752(P2012−518752)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/DE2010/000811
【国際公開番号】WO2011/003406
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(390035448)フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (100)
【Fターム(参考)】